命令を遂行した人間の表情とはこう言うモノだろうか?
ルルーシュの絶対遵守のギアス。それによって死を与えられたクロヴィス親衛隊を見つめながらルルーシュはそんなことを考えていた。
思えば、自分のギアスが原因で死んでいった人間の事など、シャーリーやユフィのようなごくごく親しい人間以外は覚えても居なかった。
それがどれだけ罪深いことか、それがシャーリーやユフィを死へと追いやったのだと言うことに、自分が気付いたのはいつだったのか。
考えても詮無き事かも知れない。実際、自分は今、平然とギアスを用いて人の命を奪い去ったのだ。
「な、何が起きたんだ??」
「あ、アンタがやったの?」
そして、記憶の中には無い同行者達が唖然としたまま声を上げる。実際、事の顛末を見ていた二人には、まるで魔法のように見えたのかも知れない。
「さあな? 俺がはったりをかましたら突然自殺するんだからな。軍人の考えは分からん」
「とぼけないでよっ!! どう見たって、あんたが何かやって死んでいったじゃないっ!!」
「夢でも見たんじゃないか? それより、お前等は何者だ?」
軽率だったとは思うが、実際にギアスを使えるのかどうか、カレン達を守るのに最善である事を考えての結果だった。
それに、彼女等を味方にするとすれば、いずれギアスに関しては正直に話す必要はあるだろう。信じるか信じないかまでの責任を持つ気は無いとはいえ。
ただ、今はその時じゃ無い。記憶とはすでに大きく齟齬が出ている以上、ヴィレッタとどのタイミングで会えるかは分からないのだ。
それよりも、なぜここにカレン達が居るのか? その事の方がルルーシュにとっては重要だった。
「またそうやって……」
「カレン、止めておけ。そこの女と一緒に居たんだ。また、あんな目に遭わされるのはごめんだ」
「コイツが何かやったのか?」
はぐらかしきれるとは思っていなかったが、先ほどのカレン達の言動からC.C.に何かされたことは予想できる。
おそらく、ショックイメージでも叩きつけられたのだろう。となると、扇グループの他のメンバーと合流できていた可能性もある。
「それより、ちょっと休ませてくれ。君のおかげで、しばらくは安全だろうからな」
「永田さん……」
「休んでどうにかなるモノじゃ無さそうだがな。それで、俺は君たちに会った後はどうなったんだ?」
出血のせいか、顔色が大分悪くなっている永田は壁にもたれるように座り込む。座り込んでどうにかなる傷でも無いが、治療道具も無い事にはどうしようも無い。
「カレン、俺が話しておくから、治療用キットを探してきてくれないか? 30分探しても見つからなかったら、君はそのまま脱出してくれ」
永田もそう思ったのか、カレンに対し暗に脱出を勧めている。実際、どこかでそれを見つけ出す事は現実的では無いし、もっとも強力な戦力になり、かつテロリストとしての生きる以外の手段もある。
「そんなっ!? 他のみんなも捕まっているのに私だけが」
「捕まった以上は誰かが助けなきゃならない。俺も治療できなければ死ぬ。動けるのはカレンだけなんだ。頼む」
「お兄ちゃんも居なくなって、扇さん達も捕まったのに、私だけ逃げてどうすれば良いのよ……」
「俺達のことは忘れて、シュタットフェルトとして生きることだって選択の一つさ。だから」
そして、カレンや永田も予想通りの言葉を口にする。さらに、カレンの素性までルルーシュにバラしてしまうのは軽率だと思うが。
「シュタットフェルト?」
「……なら、コイツは始末しておくべきじゃないの?」
そして、カレンは自身の嫌う、この時点で母親が媚びへつらうブリタニア貴族としての実家の事を思い返し、さらにルルーシュが口にしたことでそれが苛立ちとして表に出てくる。
当然と言えば当然かも知れないが、ルルーシュとしても殺されるわけにはいかない。
「止めろって。コイツがヤバいヤツだというのはさっきの事で分かっただろ?」
「…………30分で見つけられたら戻ってくるからね? あんたも、ここを動くんじゃ無いよっ!?」
「善処しよう。早く行け」
「私に命令するなっ!!」
しかし、破綻の危機は永田の冷静な声で回避される。実際、ルルーシュの力を目の当たりにしたのだ。
加えて、扇達が捕まっている。と言う事がカレンの行動をどうしても慎重にさせる。ルルーシュの言動に苛立ちを覚えつつも、その事が引っ掛かって破綻を防いでくれているのだろう。
最後までルルーシュをにらみ付けると、カレンは先ほど来た道で無く、地下道へと入っていく。脱出路は把握しているのだろうか。
「それで、君と俺達のことだったな」
「ああ。話してくれ」
「……君は記憶障害とかじゃ無いな? 先ほどとはまるで別人だ」
脱出を選んだカレンを見送ると、永田は静かに口を開く。シンジュクで戦死した幹部の一人だと言うが、トラックの荒い運転と比べるとずいぶん冷静なようだ。
たしかに、本来この世界に居るルルーシュは、親衛隊に殺害されてしまったのだろう。血に塗れ、穴だらけの制服を見れば予想は付く。
永田の言によれば、事故の後地下道に逃げ込んだ永田とカレンは、ブリタニアの追撃を躱し、なんとか扇達との合流地点へとたどり着いた。
だが、リーダーである紅月ナオトとその部隊が予定時刻になっても現れず、さらに本来居るはずもないブリタニアの学生とブリタニアの兵士がそこに居た事で、苛立ちを爆発させたメンバーの玉城が『毒ガス』を解放してしまった。
出てきたのは、毒ガスでは無く、一人の少女。困惑する一同であったが、やはり玉城が怒り、少女C.C.に対して暴行を振るおうとしたところ、突然、玉城をはじめとするメンバーが恐怖に満ちた表情を浮かべて何事か叫き散らしながらのたうち回りだしたのだ。
永田とカレンはC.C.に攻撃を加えようとしなかったからか、比較的弱いショックイメージを叩きつけられただけだったため、逃げ出したルルーシュとC.C.を追い掛けているウチに、この場にやって来たのだという。
「参ったよ。その子の逃走を止めようとしたら、ブリタニア兵に殺された妻と娘の姿を何度も見せられるんだぜ? 他のヤツらはどんな目に遭ったのか……」
「それじゃあ、他のヤツらが捕まったかどうかまでは分からないんだな?」
「いや、玉城……よけいなことをしたヤツの事だが、玉城達は動けないし、他のヤツらは君と一緒に居たブリタニア兵に叩きのめされちゃったんだよ。本当に君たちはなんなんだろうな?」
永田は苦笑しつつもC.C.に見せられたショックイメージについて語る。自身がテロリストに身を置く理由となった過去の惨劇。忘れたくても忘れられないそれを見せつけられて、さすがに気分が良いものでも無かったが、それに耐えて逃走するルルーシュ達を追い掛けた事が幸いしたともいえる。
「すべては、その兵士の上官次第と言う事か。それで、俺はどうなったんだ?」
「俺とカレンは、ちょうどこの出口のところで君たちを捕まえた。だが、タイミング悪く、さっきの親衛隊と鉢合わせてな。必死でカレンを抑えながら息を潜めていたんだが、ヤツら赤ん坊まで殺そうとしてな」
それはルルーシュの記憶にもあった。あの時自分は、むざむざ殺されていく赤ん坊に対して何も出来なかったが、今回もまた何も出来ないままだったようだ。
「そしたら、何を思ったのか君が飛び出していってな。赤ん坊のことで盛大に罵倒して、それで撃たれた。その子も止めに入ろうとして同じ結果だ」
「そうだったのか」
まるで他人事のようでもあったが、少なくともこの世界の自分は無謀さだけは勝っていた様子である。殺されてしまった赤ん坊を守ろうとしたところでどうしようも無いのだ。
ただ、それでも自分が出来なかった事を成したのである。それはそれとして、ルルーシュは誇りに思えた。
「俺が知っているのはここまでだ。俺達はその後脱出を試みたが、俺が負傷してしまってね」
二人だけで戦うのはさすがに困難であったのだろう。そこで考えたのが、目的を果たした親衛隊が去ったであろうこの区画。ゲットーの深部へと逃げるには、ここからが最適だという。
となれば、カレンならばきっちり脱出できるだろうとルルーシュは思い、少々安堵を覚えていた。
「それで、君はどうやって親衛隊を倒した?」
事の顛末を話した以上、永田はルルーシュに真相を促す。カレンが居ないとなれば、死ぬ可能性の高いこの男に話しても良いかも知れない。と言う思いと、危険は可能な限り避けるべきだという思いが交錯する。
「命令口調だったけど、君の命令に逆らえない催眠術でも使ったのか?」
「そんなところだ。信じる信じないはお前の勝手だが、この目を見て、俺に命令された人間は、その命令に抗うことは出来なくなる」
そう言うと、ルルーシュは両の目に赤く羽ばたく翼を灯してみせる。そのただならぬ様子に永田は目をむいてルルーシュを見つめる。
「はは、まるで魔法みたいだな。でも、そんな力があれば、ブリタニアにも……うっ」
「っ!? しっかりしろ」
「さすがに、厳しいな……。格好付けてみたとはいえ、いざ死ぬとなったら怖くなったよ」
そう言って力なく笑う永田は、懐から一枚の写真を取り出す。そこには、一人の女性と生まれたばかりに赤ん坊が写っていた。
「君が赤ん坊を殺した連中に激怒したのを見たとき、ブリタニアにもまともな人間は居るんだと思えたよ。だから、自分がブリタニア人すべてを憎んでいたのも違うんじゃないかって」
「何を言っているんだ? 俺は人を殺して笑っているような人間だぞ?」
「あんなヤツらを殺せたら俺だって笑うさ……。さて、君もいい加減逃げた方が良い。俺なんかに付き合う必要は無い」
「……いや、しばらくは付き合ってもらう。目の前で死なれては、寝覚めが悪いからな」
死の気配を感じ取ったのか、穏やかな表情で話す永田に対し、ルルーシュはどこか自分に近い何かを感じていた。
家族を失い、すべてを憎んでいたという過去があったからなのか、ブリタニア人の行いを見て、ブリタニアそのものに悪意を抱く事は間違いではないかと思い直した事なのか。
ルルーシュ自身、シャーリーやリヴァルとの出会いが、ブリタニアそのものに対する増悪を取り除くきっかけになったという自覚はある。
何より、カレンと親しい人間を死なせたくは無かった。
そう思っていたルルーシュが視線を向けると、轟音とともに一機、いや、二機のナイトメアが建物内に侵入してくる様子が見てとれる。
それを見て、覚悟を決めたかのように目を閉じる永田。しかし、ルルーシュの目には、それが味方を示すカラーリングが成されている様が映っていた。