コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第二十一話 ナイトオブラウンズ⑤

 山梨と長野県境で発生したレジスタンスとブリタニア軍の交戦。

 

 河口湖にて民間人を襲った日本解放戦線の残党の追撃に際し、関東近郊の食糧供給を支える一大農耕地帯ノベヤマゲットー一帯での交戦が予想され、シンジュクの悲劇を多くの者が思い返していた。

 それを察してか、追撃の停止を命じたゴットバルト総督代行だったが、追撃部隊はそれを無視。

 ノベヤマゲットーはエリア民を中心にしているとは言え、市場に介入するほどの生産力を誇る地区であり、ブリタニア至上主義の軍人達には目障りな存在の1つでもあったのだ。

 だが、彼等が財貨を得ても、エリアに与えるダメージは計り知れない以上、総督代行は自らラウンズを率いて出撃。

 結果、レジスタンス勢力をもノベヤマゲットーに呼び込むことになり、両者の間に激しい戦闘が発生。

 最終的には日本解放戦線も追撃部隊も壊滅し、内通したノベヤマゲットーの管理官もレジスタンスに捕縛されてしまう。

 

 だが、それ以上に衝撃であったのは、先日シナガワゲットーの過激派テロリストを鎧袖一触に叩き潰したナイトオブフォー、ドロテア・エルンストが重傷を負い、戦線を離脱すると言う事態が起きたのである。

 クロヴィス総督の暗殺ほどの衝撃は生まなかったモノの、さらなる敗北の知らせに租界に暮らすブリタニア人への衝撃は大きく、同時に各地で抵抗を続けるレジスタンスや虐げられるナンバーズ達の歓喜は大きくなった。

 そして、民間人へのテロが露見した上に、無残にも部隊を壊滅させられた日本解放戦線の威名は低下し、クロヴィス暗殺、ドロテア撃破を成し遂げた“ゼロ”とその配下にある“黒の騎士団”の存在は名実とともに日本における反逆の象徴として世界に認識されるに至る。

 

 だが、その勝利の当事者たるゼロの仮面の下に隠さされた素顔は曇ったままであった。

 重傷と発表されたドロテアはたしかに前後不覚の状況になっている。

 だが、それは敗北を理由にした負傷などでは無く、ギアスキャンセラーによって呼び起こされた記憶に寄るモノであった。

 血の紋章事件に連座しての一族の処分とマリアンヌとの交戦。だが、その後は憎き家族の敵の為に尽力し、忠義を尽くす自分。

 恨みに生きるはずの人生が180度変わり、突き付けられた事実は自分の人生そのものを大きく変えてしまうもので、ドロテアほどの剛の者であっても耐えきれぬほどの衝撃であったのだ。

 

 そして、彼女にそれを告げた結果が結果である事。それがルルーシュの表情を曇らせたのだ。

 

 

 

「此度のことはこちらの過ち。不届き者どもを討ち、ドロテアの命を救ってくれたこと、逆に感謝いたしますわ。ゼロ」

 

 

 解放戦線の残党から秘匿兵器「雷光」を奪取し、その搭乗員たる軍人達も投降させたルルーシュ達。そこにモニカとその直属部隊が救援に駆け付け、一触即発の状況となった戦場。

 だが、彼女達の眼前に姿を見せたのは、捕縛された総督代行とラウンズ2名、そしてノベヤマゲットーの管理官達という現状だった。

 状況から、ジェレミアとアーニャは敗れたわけでは無い事は予測できたが、それでも何らかの司法取引は発生したと彼女は察した。

 実際の所は、二人はルルーシュの部下と言っても良いので当然だが、いかなブリタニア屈指の戦略家といえど、神ならざる身としてはそれを知るよしは無い。

 

 

「ふ。私とて全ての破壊を望むわけではない。此度の追撃部隊は悪名高く、日本人を虐げていた部隊。だが、エルンスト卿は武神と呼ぶに値する英傑であっても、武器を持たぬ者を害す獣ではない」

 

「……ですが、相当な目には遭わせて頂いたようですわね?」

 

 

 無傷のまま解放されたジェレミアやアーニャに対し、ドロテアは二人に支えられ無ければ歩けぬほどに疲弊していた。

 誇り高く、過去に重傷を負った際にも凜として自分の足で歩いていた彼女が他者に身を預けるという状況を受け入れている。

 それも、本人は完全に正気を失い、うつろな目をしたまま二人に連れられて行った。長い付き合いになるモニカとしても、はじめて見る姿だったのだ。

 

 

「先行して攻めてきた以上、こちらは持てる武力や手段の全てを持って相対させて頂いた。そして、私は決して正義の使徒では無い」

 

「……こちらの、いえ、私個人の怒りを買う状況になったとしても?」

 

 

 正々堂々と戦いを挑んで敗れたのならばモニカも納得はいく、だが、ドロテアの状態を考えると、戦闘中に薬物などの使用を行った可能性も考えられ、そうであればとモニカはそれまでの柔和な表情から鋭い視線をゼロに向ける。

 

 

「悪に対抗するには、正義ではまぶしすぎる。だからこそ、私もまた悪と成って巨悪を討つ。これが私の心情だ」

 

「自身を悪として、民が付いてくると?」

 

「逆に聞こう。エリア民を、ブリタニアの民を思い、高潔に生きれば、『無抵抗の軍人達を虐殺した事実』は消えて無くなるのか?」

 

 

 ルルーシュ自身、モニカは軍人としてその持てる智慧や武力を尽くして国家に尽くしているだけである事は理解している。

 だが、占領軍が行った消された事件。その背景に彼女の存在があった事を彼は知っていた。同時に、モニカ自身が抱える闇としての姿も。

 

 

「私の成した罪を考えれば、ドロテアに対する非道がまかり通るとも?」

 

「まさか。私が同様の罪を成したとなれば、あなたを責めるようなことはしない。エルンスト卿の状態は、私としても意図することでは無かった。それと、誓って薬物などでは無い事も」

 

「……ならば、ここに置いてはその問題は置いておきましょう。ですがゼロ、これ以上ブリタニアに牙をむくというのならば、私はこの全生命を賭けて貴方を倒しましょう。仮にエリア11の命運が消え去ろうとも」

 

 

 ルルーシュの指摘にモニカは表情を変えること無く問い返し、今度はゼロがその仮面で覆われた素顔を見せぬまま、やり返す。

 

 知将同士の問答であり、両者ともにここで舌戦を行うつもりは無い以上、これ以上の問答は無用であった。

 だが、モニカの言はその場にある多くの者に彼女の決意以上の意味を与えていた。

 

 即ち“ゼロを討つ”事が、エリア11における抵抗の灯火を消し去ると言うことをブリタニアのラウンズがはっきりと口にしたのである。

 それは、抵抗の中心となっていた日本解放戦線が過去のものとなり、新たな抵抗の象徴としてはっきりと認識された事を意味しているのだった。

 

 

 

 そして、モニカ等が去ったノベヤマゲットーでは、ブリタニア軍を撃破した事で住民達から野営地と食糧の提供を受け、扇グループのメンバー達を中心にして住民達の歓待を受けている。

 歓迎の礼を述べ、簡単に食事を取ったルルーシュ達ブリタニア人組は後を日本人達にくつろぐように告げると、G1ベースへと戻っていく。

 

 

「ふう……」

 

「ルル、お疲れ様。はい、ナナリーちゃんも」

 

「ありがとう、シャーリー」

 

「ありがとうございます。それにしても、シャーリーさんにあんなKMFの才能があったなんて驚きました」

 

 

 正直なところ、こう言う歓待の場は必要以上に気を使う。

 特に、ナナリーは車椅子姿で目立ちすぎるため、負傷している振りをするなどの用意が必要になる。

 そうでなくても、学生が混ざるというのは目立ってしまう。ブリタニア人であれば余計である。

 だが、それ以上にナナリーのシャーリーに対する言にルルーシュは一つ、思うところがあった。

 

 

「そのことなんだが、シャーリー」

 

「なに?」

 

「次の戦闘からKMFから降りてもらいたい」

 

「えっ!?」

 

 

 先ほどの戦闘にシャーリーはたしかに勝利した。

 

 正確には勝利したのはドロテアであったが、その力量差から彼女は素直にシャーリーを賞賛し、自身の矜持と合わせて彼女に勝利を譲っていた。

 だが、それはシャーリー個人の力では無く、おそらくではあるがギアスの力が作用しているように思えた。

 

『私は死ねない』と叫びながら、敵へと挑みそれを叩き潰そうとしているシャーリーだったが、ドロテアとギアスの力を持って同等に渡りあった結果、ドロテアから余裕を奪い去り、確実なる勝利を選択させた。

 今回に関しては、シャーリーの死に対する拒否性が上まわり、彼女のKMFを破壊することに成功したが。

 

 

「私は足手まといってこと?」

 

「逆だ。今回の事でシャーリーに対する周りの期待は大きくなる。戦場における名声の大きさとは危険のそれと比例する」

 

 

 実際、扇グループや住民達から、ドロテアを止めたシャーリーへの賞賛は大きかった。

 だが、それは薄氷の上を歩くようなものだ。

 

 

「それは、ルルに協力するって決めた時点で覚悟の上だよ? だから、私はルルと」

 

「ああ。それは俺が願ったことだから否定はしない。だから、今後はナナリーとともに俺の背中を守ってくれないか?」

 

「え?」

 

「G1ベースや後々手に入れるつもりの空中戦艦とか、そう言った移動司令部を俺は確保するつもりだ。そこで全体を見つつ、俺のサポートをしてもらいたい」

 

 

 実際、ナナリーを守る鎧としての意味をG1ベースには持たせている。ルルーシュ自身は前線に立つ事を好むが、キングが前に出るならクイーンが残れば良い。なにも戦争はチェスでは無いのだ。

 

 そして、クイーンが二つ、三つになったとしても、それぞれが役割を分担すれば良いだけのことだ。

 

 

「C.C.と入れ替えようかとも思ったが、アイツはアイツで頼りになるからな」

 

「別に私が後方に残っても構わないぞ? お前はどうせシャーリーと乳繰り合いたいだけだろ?」

 

 

 その話を聞いていたC.C.が少し拗ねたようにそう告げるが、彼女は彼女で長年頼りにしてきた彼女と同様の技量を持っている。

 戦場分析などの余裕を考えれば、慣れた相手の方が助かる。もちろん、単独での戦力を考えれば、シャーリーとC.C.を入れ替えた方がここの戦力としては大きくなるのだが。

 

 

「乳っ!?」

 

「そこに反応するのか……」

 

「良いじゃないの。シャーリーもお年頃なんだから」

 

「会長っ!!」

 

 

 しかし、シャーリーはC.C.の拗ねた物言いの一部分に反応して顔を真っ赤にしている。と言うより、ミレイの表情を見るとC.C.に入れ知恵したのは彼女のようだ。

 

 

「戦闘中にそんなことを考える余裕があるかっ!! いずれにしろ、シャーリーはナナリーやミレイと一緒にG1ベースで動いてもらいたい。もちろん、先ほどのドロテアの奇襲のような緊急事態はこの限りじゃ無いけどな」

 

「となると、訓練は続けるって事でいいの?」

 

「ああ。さらに、ミレイやナナリーと一緒に戦史戦略戦術分析も学んでもらうことになるな」

 

「えっ!?」

 

 

 タダでさえ、生徒会、学業、部活の掛け持ちな状況で訓練してきた所に、さらに戦術の勉強も加わったことでシャーリーが凍り付く。

 大変なのは分かるが、ミレイも同様にこなして居るので頑張ってもらうしかない。

 

 

「で、シャーリーの代わりにソフィにKMFに乗ってもらいたいんだが、良いか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。……ルルーシュ君はやっぱりシャーリーが心配なのね」

 

 

 そして、シャーリーの分空きが出来たところにはソフィを入れ替える。今回も不在のリヴァルの分まで戦場に出てもらったのだ。

 しかし、前線に立つ事より、ソフィが気になったのはシャーリーの事のようである。アッシュフォード家に個人的に恩があり、その部下としてシャーリー達を守る役割を担ってきたが、純粋に彼女とは友人関係である。

 

 だからこそ、彼女の恋心? みたいなモノも気にしているのだろう。

 

 

「当然だ」

 

 

 そして、ルルーシュの返答としても一言でしかない。

 シャーリーだけではない、この場に居る全ての仲間は部下であると同時に自分にとっては大切な者達なのだ。

 だからこそ、戦場においては非情にもなる。仮に、一人の犠牲を持って他の者が助かるならば自分はそれを選ぶだろう。

 もっとも、今回のような状況では自分のブレも感じていた。それを成すなら、シャーリー諸共ドロテアを討つのが正解だったのだと思う。

 もしくは、アーニャの進言に素直に乗る事も。だが、個人を優先してしまった事もまた事実。この辺りが自分の矛盾性だとも思っていた。

 だが、そんなことを考えていると、その場の皆が凍り付いている。ただ一人、シャーリーだけが目を見開いて茹で蛸のようになっているが。

 

 

「どうした??」

 

「いや、あの」

 

「お兄様、告白というのはお二人だけの時になさって頂けると……」

 

「んん??」

 

 

 ソフィやナナリーが苦笑いしながらルルーシュの言に答えるも、ルルーシュからするとどうしてそうなるという気持ちが強い。

 そもそも、自分の中ではシャーリーは大切な人だし、決して失うまいという気持ちが強いことは自覚している。だから、そのままその通りに答えたのであるが。

 

 

「いよおっ!! ズェロォ、よろしくやってるかあ??」

 

「うるさいわよ、酔っ払い。ルルーシュ、みんなあまり食べていなかったみたいだからお肉とか……どしたの??」

 

 

 そんな雰囲気の中でどかどかとG1ベースの中に入ってくるすっかり酔っ払った玉城と大きなお盆を軽々と持ったカレン。だが、ベース内のなんとも言えない雰囲気に首を傾げる。

 

 

「俺にも分からん。ただ、食事はありがたいな」

 

「気を使って食べられなかったからね……」

 

「じゃあ、もう少し持ってこようか?」

 

「いや、気づかいは無用だ。しっかり英気を養ってくれ」

 

「おいおい、遠慮はすんなよ~」

 

「お前の物じゃ無いだろ。で、カレン、なんで玉城まで?」

 

「酔っ払ってるし、いらんことしゃべると面倒だからよ」

 

 

そう言うと、カレンがフラフラしている玉城をソファに座らせる。すると、玉城は酒の匂いを漂わせながらズルズルと崩れ落ちた。

 ちょうどそこでくつろいでいたC.C.が迷惑そうな表情を浮かべるが、一人で一角を占領していたのだからそのぐらいは我慢しろと皆が言いたかった。

 実際、玉城はギアスを含めた情報をある程度知っているが、酒の力はそう言った秘匿事項をあっさりと表に出してしまいかねない。むしろ、普段からアッシュフォードに出入りさせているのは、扇達にいらないことを吹き込まない様にという意図もある。

 

 

「ところで、ルル。玉城さんは良いの?」

 

「何がだ?」

 

 

 そんな玉城の様子に、茹で蛸状態から脱してカレンに取り分けてもらった焼きそばを受け取ったシャーリーが口を開く。

 

 

「いつも危ないことをしているから」

 

「ああ、こいつは別にやられても問題無いからな」

 

「んだとおっ!?」

 

「ちょっとそれはひどくない??」

 

 

 シャーリーなりに玉城を心配してのことだったのだが、ルルーシュの素っ気ない物言いに皆困惑する。当の玉城も酔っ払いながら事を理解したようだが。ミレイもその様子やルルーシュの物言いに苦笑いしている。

 

 

「ギアスの暴走状態に無いシャーリーみたいな物だからな。玉城が死ぬ姿も想像できないし、今のままで問題無いだろ」

 

「ああ、そういう」

 

「と言うより、シャーリーのアレはギアスの影響なの?」

 

「多分な。それと、玉城にしても機体が壊れるのは問題だが、それでも生き残れる、と言うのは大きな力だ。だから、今のままで良い」

 

「ふん。それなりに考えているんだな」

 

「当たり前だ。考えるのは俺の仕事だ。だがC.C.、動くのはお前達の仕事なんだぞ?」

 

「なんだ? 戦場に出ているんだから色々言われる筋合いは無いぞ?」

 

「だったら、食べながら横になるな」

 

 

 少し良い事を言ったつもりになるとしっかりC.C.が茶々を入れてくる。本当は出来る女だと言うことを知っているルルーシュだったが、それを彼女に求めるのも難しいため、こういう言い方になってしまう。

 

 

「それより、私がギアスって??」

 

「俺は掛けた覚えは無いが、色々と考えることがある。しばらく待ってくれ」

 

 

 そして、先ほどの軽口を聞き逃さなかったシャーリーが不安そうな表情でルルーシュに問い掛けるが、ルルーシュとしても確証の無い事を言うことは出来なかった。

 同様に心配しているミレイとソフィに対してもそう言って肯き、納得してもらうしかなかった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 ノベヤマでの戦闘が伝えた衝撃は大きかった。

 

 ラウンズの敗北はそれだけブリタニアに衝撃を与え、ドロテアの責任を問う声も内外から飛び交う中、いまだに前後不覚になっている彼女に事情を問うことは出来ず、ジェレミアもアーニャも話をはぐらかすばかり。

 ビスマルクもまもなく帰国する以上、モニカに求められる事はより大きくなるばかりであった。

 

 そう思いつつ、差し出された茶を口にすると、ほのかな苦みと柔らかな味わいが口中に広がる。

 

 

「それで、この老骨に何のようだ?」

 

 

 茶を振る舞い、作法として出迎えたまでは良いが、目の前の老提督の視線は鋭い。

 公方院秀信。今は日本の近畿地方に位置する歴史建造物、法隆寺を中心とした文化遺産群の管理を担う人物であったが、かつては日本海軍の重鎮としてブリタニアと対峙した軍政家でもある。

 モニカは日本侵攻に勝利した際、戦後処理も含めてこの人物に接近し、日本や日本人のことを理解するべく彼の元を幾度となく訪れていた。

 彼の裏の顔を多少察するところもあったが、それでも日本の滅亡によってブリタニアは最後の大国中華連邦と対峙することになった背景もあり、彼とはその後の戦略を話し合う機会を持ったのだ。

 

 

「特になにも。日本に派遣されたのですから、自身を見直すべく、この庵を訪れさせて頂きました」

 

「ふん。良い年の娘が休養日にも軍務か」

 

「騎士となった以上、女としての幸せは捨てましたので」

 

「……まあ良い。大方、『森』の事でも思い出したのであろう?」

 

 

 眼光鋭くモニカにそう問い掛けた公方院にモニカは沈黙を持って答えた。

 

 ルルーシュに指摘されたとおり、彼女にはその『森』に対する責任があり、戦力を温存したエリア11に対する楔として存在するその事実こそが、激しい抵抗を続ける根底原因となっている。

 

 

「貴公は軍人として祖国のために献策したに過ぎぬ。いや、上層部がより残虐な手法を貴公等に求めたのだ。それが、日本の抵抗を生む事すら考えずにな」

 

「東京湾における『処刑』もその一環でしたからね」

 

 

 その言葉に公方院は眉間に皺を寄せ瞑目する。

 彼としては道を誤ったとはいえ、長年ともに海を駆った後輩達の最期を思い返すことはつらい。

 だが、それはすでに過去である。一介の民であるならば、あの悲劇を忘れることは出来ないであろうし、事実として多くの家族がブリタニアへの抵抗に身を投じてきた。

 

 それを利用した自分達にそれを責める資格も無い。それは、キョウトが共通して抱く認識だった。

 

 

 

「ブリタニアの粋を集めた兵器の攻勢にも耐え続け、夜中誰にも見られず海中に没した大戦艦。沈み行きながらも、最後の砲撃を虚空に放って沈んでいった護衛艦。いずれも、日本人達の誇りとして心に刻まれたことでしょう」

 

「そして、貴公は陸の者達にはそれすら許さなかった」

 

「抵抗を生むならば、その神輿は軽ければ軽いほどよい。そして、適任となる人物を見繕えば、他の者達は死んでもらうしかありませんでしたから」

 

「結果として、旧軍の亡霊達は死兵と化してしまったがな」

 

 

 公方院とてモニカら占領軍上層部が帰国した後に知ったことであったが、解放戦線を組織させる際に将官級の指導者候補は片瀬しか残っていなかったのだ。

 他の生き残り将官達は、文字通り、地上から消えてしまっていたのである。

 厳島の奇跡として勇名をはせた藤堂と彼の麾下の部隊が逃亡を続けていた事だけが救いであり、組織としての体裁が整えば核となる戦力は産み出せる。

 

 だが、そのための上級軍人の“全滅”は計算違いだったのだ。

 

 

「見事な物よ。儂や刑部が片瀬の代わりを成すわけにも行かず、かといって藤堂は若すぎる。加えて、片瀬は教育畑を歩み、若い士官にシンパが多い。見事に貴公の策となった」

 

 

 占領軍の撤退後、エリアにやって来たのはまだ若く政治経験に乏しいクロヴィスである。

 旧軍の残存勢力が残っている以上、そのような若輩者の相手など赤子の手を捻るよりも簡単であろうと考えたが、補佐役のバトレーは堅実なる将軍であり、現場に疎い片瀬にそれに抗う術は無かった。

 

 今となっては藤堂頼みの組織に成り下がっているが、藤堂自身が戦場においては勇者であっても全員をまとめ上げるカリスマとは言い難い存在だった。

 そして、ここまでブリタニアに対する抵抗を細々と続けて行くしかないのが現状であったのだ。

 

 

 だが、その風向きも変わりつつある。

 

 “ゼロ”と名乗った謎の男は、クロヴィス暗殺を成し、加えて先日はブリタニアの1部隊を壊滅させ、ナイトオブラウンズのドロテア・エルンストまで下してしまった。

 これによって、各地のレジスタンスは各地で抵抗を活発化させ、総督府はその対応に苦慮しているという。

 ジェレミア・ゴットバルトはナイトオブラウンズに匹敵する勇士であるとの噂であったが、総督代行としては弱腰が目立つという批判も日に日に大きくなっていた。

 すべては彼が自覚してやっていることだったが、他者からしてみたら彼が無能にしか見えない。そうなるように取り繕っているから当然と言えば当然だった。

 

 

「いずれにしろ、儂はもはや隠居の身だ。貴公に協力する意思はない」

 

「分かっておりますよ。むしろ、成すべき事を思い返せたように思います」

 

 

 ゼロのことを探りに来たとしても、公方院をはじめとするキョウトの老獪達が真実を話すはずも無い。無理矢理口を割らせるならNACの証拠を積み上げるであろうし、モニカの言には嘘は無いのであろう。

 

 

「『森』のことで私が裁きを受けるときはいずれ来るでしょう。ですが、私は成すべき事を成します。そして、ゼロなるテロリストのクビを貴方方の眼前に突き付けるといたしましょう」

 

「好きにせよ。儂はもはや表舞台には関知せぬ」

 

 

 敵に塩を送るとはこう言う事かもしれなかったが、旧交を温めに来た相手が勝手に自分を取り戻したことを止め様は無い。

 去って行くモニカの背に視線を向けながら、公方院はそう思うしかなかった。

 

 

「ゼロ……、いや、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。あやつは、ブリタニアの魔女よりも手強き女だぞ」

 

 

 そして、人気の無くなった庭に対し、静かにそう思うしか無かった。

 

 一つの戦いの終わりは、異なる戦いの開幕でしか無かったのである。

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