過去において“黒の騎士団”の名を内外に知らしめたコンベンションセンターホテルジャック事件。
だが、この世界においては、ノベヤマゲットーにおける戦闘により、すでにその名は日本から世界へと発せられている。
とは言え、国内の反響に対して、世界から見たらあくまでもエリア内部の一反抗勢力に過ぎない。
一朝一夕に名が売れるわけではない以上、ようやく土俵に上がれたと言えるのだが、それでもトウキョウ租界周辺に潜伏するには限界があった。
ルルーシュ達アッシュフォード組はレジスタンスの仮面を抜いて学生に戻れば良いのだが、団員はほぼほぼ日本人で構成されるのだ。玉城達のように名誉に成りすまして行動するにも限界がある。
だが、それもノベヤマゲットーでの戦闘が思いがけない方向で功を奏す。
なにせ、働き手はいくらでも必要な一大農業地帯である。ジェレミアの手で追跡の目を逃れたレジスタンス達はノベヤマゲットーをはじめとする周辺の農村へと送り込み、そこから勢力を広げていく。
都心部のゲットーと異なり、ブリタニア人の管理官が務めているケースがほとんどだが、そこはギアスで配下に取り込んでしまえばごまかしは効く。任期が終わるまでにジェレミアのキャンセラーで解除してしまえば足も付かなくなるのだ。
『ゼロ、各地のゲットーなんだが、不足物資をまとめておいた。キョウトに話を付けて欲しい』
G1ベースにて扇からの通信を受けるルルーシュだったが、彼の背後では生産された青果物が忙しく動き回っている。
ジェレミアが市場を開放した事で過去の活気を取り戻しているのだ。
「分かった。ツマゴイはどうだ? 扇」
『冬の訪れが間近なせいか、収穫がピークを迎えているよ。下手な訓練より身体が鍛えられるんじゃないかな?』
「ブリタニアでは、スポーツ選手が農村で働く事もあるからな」
『ただ、招集に即応するのは難しいと思うが、それは良いのか?』
「KMFの数は限られる。なにより、レジスタンス達は長年戦ってきたんだ。少しは別の汗を流して身体を休ませる方が良いだろう」
『むしろ、レジスタンス時代より身体を使っている気がするが。分かったよ』
ノベヤマの北方に位置するツマゴイ高原にも農業地帯があり、ここも巨大な生産力を誇っている。また、ノベヤマとはナリタ連山を挟む形になっているため、解放戦線からあぶれたレジスタンスの受け入れ先にもなる。
本音としては租界周辺の戦力を強化したかったルルーシュだったが、モニカの目をかいくぐるのは簡単では無かった。
「ずいぶん、生き生きしていたな。あの男」
「俺の指揮下に入るのはどうしても納得いかないんだろ」
今はツマゴイゲットーにレジスタンスのとりまとめ役として派遣している扇からの通信に、C.C.がつまらなそうな表情で口を開く。
結局、ノベヤマゲットーでの共闘後も扇、南、杉山などは共闘を決断できず、玉城等と物別れになるか、グループ丸ごと脱退になるかという事態になっていたのだが、カレンを手放したくないルルーシュはそこでなんとか妥協案を探り出した。
指揮下に入るのでは無く共闘関係。それを強調した上で、シンジュクから上信州方面へと彼らを脱出させた。
実際、ルルーシュは彼らを味方にした後も、扇グループや藤堂四聖剣をそのまま幹部としてまとめるのでは無く、地位はそのままに分散させる意向を持っていた。
実際、玉城や井上が扇達と離れて自分の考えを示すようになったように、馴れ合いは団結を高める反面、組織を腐敗させる。
超合集国がそうであったとは言いたくなかったが、内情を見れば日本と中華が地位を独占する形になっていたのが現実だった。
そして、自分の死後にジェレミア等を襲った悲劇として形になったのだ。
そもそも、斑鳩の艦長だった南はともかく、扇や杉山などは文官的な地位であるのだから、神楽耶等が出撃した後は蓬莱島で後方を支えさせるべきだったのだ。
だからというわけでは無いが、扇と南はツマゴイ、杉山は井上とともにノベヤマへと派遣している。
玉城はすでに学園の職員としてなじんでいるし、吉田と永田はKMF部隊に配属してるため、彼らがなれ合う機会はほとんど無い。
まだまだ、扇をリーダーとする意識はあるが、立場的には扇、玉城、井上は同格という扱いにしている。
それで不満に思うならばそれまでで、他のレジスタンス達に勝手に取って代わられるだけだった。
「それより、良いのか?」
「何だが?」
「お前がご執心だったお姫様は、ナイト君とよろしくやっているらしいじゃないか?」
過去と同様に、この世界においてもスザクとユーフェミアは出会い、復興の進むゲットーを見て回ったという。
極秘裏の入国だったらしく、知っていたのはジェレミアとモニカだけだったようだが、キューエル率いる純血派とヴィレッタの属する穏健派の揉め事を見事に仲裁したのだという。
過去においてはオレンジ事件をやらかしたジェレミアの粛清と言う意図があったようだが、今回はゲットーにて復興を妨害しかけた純血派を穏健派が止めに入ったことで発生したと言える。
ジェレミアがやっていることはユーフェミアが将来やろうとしていることの一部分だったが、それでも時期が経つごとに綻びが出始めていることに彼女が気付いてくれればと言うのがルルーシュとジェレミアの考えであり、このような揉め事が起こることはある程度想定していた。
「そうでは無くては困る。スザクにはユフィを守り切ってもらわないとだからな」
「随分、信頼しているんだな?」
「信頼? 違うな」
信頼かどうかは分からないが、この時期のスザクは自身の過去を背負い込んでおかしな方向へと捻れていたのである。
ならば、彼にはユーフェミアという生きる意味を与えるべきだとルルーシュは思っていた。自分が過ちを犯さなければ、彼の罪ももっと軽くなったはずだという思いもある。
だからこそ、自分は彼らに介入するべきでは無い。
スザクにとって、ゼロはルールに反するテロリスト。ルルーシュにとってのスザクはブリタニアの軍人。それだけなのだ。
「そこまで気を使う時点で特別扱いしているようなモノだがな」
「そこは友人だったのだから当然だ。だが、俺にはもはや大切なモノがナナリーだけで無くなったのと同様に、スザクだけが唯一無二の友というわけではないんだ」
それでも、スザクの動向を何かと気にしていることをC.C.は指摘しなかった。彼女からしてみたら、スザクは知らなかったとは言え、シャーリーを殺しかけた相手だと言うことをルルーシュが失念している事が馬鹿馬鹿しくなったのだ。
身内と他人を厳しく線引きするところがあるのに、身内の扱いがぞんざいになりがちなのがルルーシュの欠点とも言えるようにC.C.には思えたのだ。彼女自身、それを指摘する義理は持っていなかったが。
「いずれにしろ、式典は一週間後か。さて、ヤツらはどう動いてくるかな?」
C.C.が興味を失ったように口を閉ざしたため、ルルーシュも再び自身の思考の渦へと入っていく。
彼らが事を起こさないなら起こさないで自分達は休暇を楽しめば良い。
だが、レジスタンスが合流し、以前よりも膨張した解放戦線。特に強硬派が事を起こさずに我慢できるほどの理性を持っていれば解放戦線はここまで劣勢になっていない。
十中八九事を起こす。そういう確信を持ったまま、ルルーシュはジェレミアや玉城等を通じて準備を進めていくのだった。
◇◆◇◆◇
紅葉の色づく河口湖畔の姿は敗戦後も変わらぬモノであった。
惜しむらくは、その中心にある河口湖がブリタニアの侵略によって姿を変えてしまったことであったが、草壁等にはその姿を見るたびに忸怩たる思いに晒された。
そして、今は一週間後の式典に関する準備に追われ、周辺には普段よりも多くの人の行き来がある。
さらに紅葉時期であり、呑気なブリタニア人達が観光に足を運んでいた。
その姿を見るたびに苛立ちが募る彼らであったが、ここで激発しては先遣隊の二の舞である。幸いにして、切り札足る雷光の搬入は済んだが、結果として本隊の戦力は著しく減退していた。
元々、戻らぬ覚悟を持って参加する者ばかり。それはそれで構わなかったのだが。
「中佐、同志達は様々な方法で地下に潜っております。後は決行の日を待つばかりであります」
「間抜けな総督で助かったな。しかし、日本人を僅かでも救おうという政策を利用するか」
「何を申されます? ブリタニアの恩恵にあずかるなど、日本人として恥ずべき行為。桐原公のように、売国奴はどこまでも売国奴なのです」
側近達が集まり、現状を告げていく。
同志達が容易に入り込めるようになったのは、現総督代行が日本人に仕事を与えるようになったからであり、名誉にならなくても正規の労働に預かれる機会は増えている。
あくまでも、機会が増えただけであり、差別は依然続いているが、結果として取り込まれようとする人間が増えたというのが彼らの認識だった。
国粋主義者である彼らとしては忌々しく思うが、それでもこちらの身を隠す隠れ蓑になっている事を利用しない手は無かった。
「そうよの。……無残に死んでいった者達のためにも、日本人は死んでいないと証明するためにも、必ずやヤツらの罪は暴き立てる」
「ヤツらの正義が所詮偽りであった。おめでたいブリタニア人達はさぞ動揺するでしょうな」
「祖国の侵略を、世界のための正当な行為と思い込む愚か者どもよ。ヤツらが信奉する侵略者どもが、裏で何をやっているか。それを知ってさぞ後悔することであろう」
側近達の言葉に、草壁は手に握られたデータチップを握りしめる。
この場において、草壁以外は自分達は未来への礎となる事を信じて疑っていない。草壁もその思いは当然あるが、自身が手にしたデータの送り主。
その正体に思い当たる節はあれど、それが生み出す効果を予測できなければ、端から見れば近視眼的な無能といえど中佐になどなれはしない。
愚か者には愚か者なりの意地があり、歴史は少数者によって動かされる。
かつて、世界を相手に戦った男はそれを知らなかった事で仲間を失い、自身の罪を背負って世界に報いるしか手段を選べなかったのだ。
◇◆◇◆◇
特派のトレーラーを訪れるのは総督代行に就任してから初めてのことであった。
同期のロイドとは彼らが派遣されてきてから交流があり、スザクがデヴァイザーに選ばれる前はジェレミアもランスロットに乗せられたことがあったのだ。
もっとも、ジェレミアでもロイドの眼鏡にかなうことは無かったのだが。
そして、そこは今、若者達の邂逅の場へと変わっている。
先日のユーフェミアの無断外出をあくまでも臣下として咎め立てたジェレミアは、彼女から事の顛末を聞き、枢木スザクと親交を深めたこと、純血派と穏健派の揉め事などを改めて耳にしたのだ。
上がってくる報告書にはいくつも嘘が存在している。だが、自身がほどこす日本人への恩恵は、ブリタニア至上主義集団にとっては目障りなモノになりつつあるのだろう。
実際、過去の自分がキューエル達の立場であれば、率先して反発していたようにもジェレミアは思う。
もっとも、皇室の信奉者であるジェレミアが表立って反抗することは無いだろうというのはルルーシュの言であったが。
キューエル等の行動も、コーネリアの着任が影響しているとも言える。
ジェレミアは就任以来日本のインフラや政策改善に並行し、黒の騎士団と争うように租界各地の汚職の排除にも動いている。
正当な行為とは言え、正論を好まぬ者達にとっては不満が募る。本来であれば、こう言うときにはガス抜きが必要になるのだが、今回はあえてそれらは排除しているのだ。
「そう言えば、代行閣下」
「ここではジェレミアで良い。それで、何ようですかなクルーミー女史」
「そうですか? ええと、以前に頂いたフロートユニットなんですが、ランスロットの出力なら実現できそうなんですよ」
「そうだね~。他だと、すぐにガス欠しちゃうからね~」
元々の開発者であるセシルからしてみたら実現は可能であるだろうが、ジェレミアはルルーシュから得たデータを彼女等に提供し、その実現に動かせていた。
ランスロットの驚異が増すと言う懸念はあったが、元々の開発者の名誉を横取りすることは性分では無かった。
もっとも、日本側はルーベンを通じて、より強力な飛行ユニットの開発を進めているのだから、セシルが先に実現しても、上回れると言う公算はあった。
そもそも、特殊トレーラーの設備でそれを実現してしまうロイドとセシルの頭脳が規格外であるのだが。
「はじめはそんなモノだろう。せっかくだし、こちらから予算を回して研究を進めるか?」
「いえ、そんな特別扱いは」
「良いんじゃないの~? 堅物のジェレミア卿が言っているんだし」
「公費では無く私の私費からだしな。気にすることは無い」
「余計に気にしますよ」
言葉の通り、さっさと開発を進めてもらう方が良いと考えるジェレミアの提案だったが、常識人のセシルはさすがに恐縮する。
ロイドのように割り切れることは割り切る人間の方が珍しいのだ。とは言え、ジェレミア自身も善意からのみ申し出ているわけでは無い。
「出所は賄賂だ。むしろ、使ってもらった方が良い」
「ええ? 良いんですかそれ??」
「文官達の悪さを見逃すリベートだからな。褒められたことでは無いが、ケツを叩くには効果的だ」
「ふーん、君も悪さを覚えたんだねぇ」
「そうだな。だが、使い道を誤るわけには行かぬ。と言うわけだから、使ってもらいたい」
「そう言うなら使いますけど」
ジェレミア自身、褒められたことでは無いと言う自覚はある。
だが、汚職が進んだエリア11行政を切り崩すには多少の汚れは必要になって来る。軽度の腐敗であれば見逃すところだったが、それでは調子に乗るだけだという。
だからこそ、同じような小悪党ぶりを見せて安心させておく必要もあった。だが、得た金は役立つことに使うべきだとも思っていた。
「ジェレミア卿、今日は時間を作ってくださってありがとうございましたっ!!」
そんな男達の悪巧みとは無縁な若者達が話を終えて戻ってくる。
ユーフェミアの裏の無い笑顔は、過去の彼女を知るジェレミアにはまぶしすぎたが、それでも自らの主君をある意味で最も苦しめた存在である彼女には複雑な思いもあった。
「いえ。殿下には、これから一週間、会議資料をしっかり頭にたたき込んで頂きますので、このぐらいの時間は必要です」
「そうですね。私も初の公務ですから、失敗は出来ません」
「いえ、間違っておりますぞ殿下」
「え?」
ジェレミアの不敵な笑みに、意気込みをはっきりと顔に出すユーフェミアだったが、ジェレミアはそれに静かに釘を刺す。
「誰しも、初めての場というモノは失敗するモノです。私は当日、同行できませんが、殿下は初のご公務。どうしても細かい失敗は発生するモノです。そういうときは、部下を頼るのです」
「では、失敗しても構わないと言う事ですか?」
「いえ、もちろん、しないに越したことはありません。ですが、今回はあくまでも代理です。逆に、失敗を糧にする良い機会と言えます」
「なるほど……。経験を積むと言うことですね?」
「ですが、ジェレミア卿。それでは、ユーフェミア様のお顔に傷が付きませんか?」
失敗しない人間など存在しない。
過去において、ユーフェミアは失敗を失敗と気付かず、周りが先にフォローしてしまった場面が見られたのだが、本来はそれを糧に成長に繋げるべきなのだ。
だが、完璧主義と過程主義が混在している枢木スザクはそれに疑問を呈してくる。彼もまた、“正しさ”を追求するあまり、自身の失態を見直すのでは無く受け入れてしまい、殻に閉じこもる傾向にある。
「枢木少尉、傷というモノは、致命傷で無ければいつかは無くなる。もちろん、消えぬ傷というものも有るが、それを防ぐのは周りの経験者達だ」
「治るぐらいの傷であれば、それを負うことも必要だと?」
「君はそうやってこれまで過ごしてきただろう? 何度心が折れそうになり、何度身体が傷つこうとも」
「そうですね……」
「もっとも、君には助けてくれる人間が居なかったようだが」
「ジェレミア卿、言い過ぎですよ」
「いえ、大丈夫です。セシルさん」
暗に、ジェレミアはスザクの過去を突くも、スザク自身、父親のこと以前に名誉として差別される側に居たのである。だが、我慢強く、変に頑固な彼は自身の中でそれを受け止め、消化してしまっている。
「だからというわけでは無いが、枢木少尉。君もユーフェミア様とともに生産会議に出席し、大人の戦いに揉まれてくると良い」
「え?」
「ロイド。少しぐらいは勉強時間を作っても構わんだろ?」
「ん~? まあ、良いと思うけど? たしかに、スザク君はちょっとおつむがね」
「ロイドさん、それは言わないでくださいよ」
ジェレミアの提案とロイドの直球な言にスザクは困惑と苦笑が入り混じる。だが、今回の会議は権威主義に染まったブリタニア貴族では無く、利権と売上が絡み合う場であり、現実主義的な商人達や高官が中心となる。
その場に名誉が居たところで特に関心も持たないし、発言はともかく、ユーフェミアと話し合ったり、失言をカバーし合うぐらいのことを気にするような人間は居ない。
むしろ、世間知らずな二人の言葉から、他者への攻撃や牽制を見出そうというしたたかな人間ばかりである。
だからこそ、ユーフェミアとスザクが学ぶ機会としては十分過ぎる場であるのだ。
「それと、枢木少尉。時期が時期だけに、テロの標的になる可能性も十分ある。当然だが、ユーフェミア様の護衛は君が主軸となる。それだけの覚悟を持って臨みたまえ」
「は、はいっ!!」
「まあ、スザクが守ってくださるんですね。それなら、私も安心です」
「もちろん、ユーフェミア様の気が置けない相手としても意味はございますよ」
ジェレミアの提案にスザクは整った敬礼を返し、ユーフェミアも笑みとともにそれに答える。
こうなれば、スザクはユーフェミアをなんとしても守ろうとするだろう。
それが、自身の罪に向き合う方法だと自分の中で結論を出し、自己犠牲を肯定する場が来たことに安堵しているのだ。
だが、ユーフェミアが側に居ればスザクに安易な死など絶対に選ばせない。だからこそ、ルルーシュはユーフェミアにスザクを付ければ問題無いとまで言い放ったのだ。
様々な思惑が入り混じる河口湖。
風光明媚なこの地に流れた血はすでに地下へと消え失せ、平穏がこの地を包んでいた。だが、この地が再び戦乱に包まれる日まで、時間は余り残されていなかった。
メインキャラが出揃ってきましたが、スザク&ユフィはちょっと上手く書けるか分かりません。
とはいえ、ようやく本格参戦となりますので、本編とは本気で異なる道を辿る事になる予定の彼らの今後にご注目して頂けたらと思います。