コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第五話 弔鐘の時③

 騎士団G1ベースにてパイロットスーツに着替えたモニカは、司令室に待機している女性、それも少女と呼んで良い年齢に見える二人を一瞥する。

 

 二人もモニカの視線を感じてゆっくりと頭を下げる。ゼロがモニカに提案した事はすでに幾度か失敗している攻略作戦を再度試みること。

 そして、彼としては彼女が成功しても失敗しても特に痛手は受けないと言う事実があり、すべてはモニカの信義に基づく事でしか無い。

 先ほどの虐殺映像は見る者全てに衝撃を与え、怒りを覚えさせ、実行犯達への制裁を肯定する空気を作り出す。

 だが、その実行犯と名指しされた者達の姿を見れば、多くの者達はそれが冤罪である事、もしくはその罪を受け止めていることに気付くであろう。

 裁きの際にその人物の人となりや実績などが加味されることは許されることでは無いかも知れないが、演技としてのそれは一部の愚か者は騙せても、真っ当な人間は騙せない。

 逆に、真に無実であり、罪を受け止めた人間の姿は万人を納得させるのである。

 

 同じように、彼女の花道を形作る騎士団のKMFもブリタニアのKMFも同様であり、背後に立つゼロの元から、自身のグロースターへと歩くモニカの姿はそれだけで彼女の無実を証明しているように、それを目にしている人物達へと訴えかけていた。

 この辺り、ゼロ――ルルーシュと彼女に共通しているのは、武勇以前にその知略を持って敵を討ち、味方を鼓舞する点であろう。

 謀多きは勝ち、少なきは負ける。だが、人を率いる者は謀をもって敵を討つ悪逆さと、誠実を持って人に接する善性を両立し、そしてそれを演じることが出来るのだ。

 この場合のゼロとモニカはそれであり、草壁の告発から続いた一連の演目は、モニカがKMFに乗り込んだことでようやく終わりを見たのだ。

 

 

 そして、彼女はあっさりと、それも過去よりも困難な状況をくぐり抜けて見せた。

 

 過去においては雷光に随伴するKMFは一機も無かったのだが、今回はホテル内部の制圧を受けて一階部分に待機していた無頼数機が雷光の護衛に回っていたのである。

 それだけ雷光に期待していたと言うことかも知れないが、今回はばかりは相手が悪かったと言えよう。

 相手はナイトオブラウンズ。それも、トゥエルブと言う名目上とは言え、№2の存在である。加えて、彼女には随伴機があった。

 

 

「単独との提案であったと思いますが?」

 

『そんなこと知らないわよ。第一、あんた一人で行かせて後ろから撃たれたから敵わないわ』

 

「騎士の誓いを軽く見られては困りますね」

 

 

 地下トンネルへと降り立ったモニカのグロースター。その背後に続けとばかりにカレンの乗る試作機が続く。

 

 勝ち気な様子でそう言い放ったカレンに、モニカは苦笑する。

 だが、彼女の実力は先日のノベヤマですでに把握している。まだまだ荒削りな面はあるが、ゆくゆくはラウンズに並び立つような、それだけの才能を感じていたのだ。

 だからこそ、このような無意味な作戦で死なせるのは惜しいとも思っていた。

 

 

『言っておくけど、私の心配は無用よ。それより、潔く死のうなんて止めておく事ね』

 

「あら? 私が死を持って汚名を濯ぐと?」

 

『違うの? あんな悲壮な演出で出撃したヤツなんてたいてい死にに行くじゃない』

 

「ナイトオブラウンズに敗北はありません。そもそも、下賤なテロリストの刃に掛かって死ぬなど、末代までの恥でしかないのです」

 

 

 実際の所、敵に討たれること自体が許されないのがラウンズという存在である。

 

 ブリタニアにおいて、彼女等の存在は、その場にあるだけで不敗神話を兵士に抱かせる。そして敵対者達はその存在だけで恐れおののく。すべては建国以来続くラウンズという存在の重さに他ならなかった。

 

 とはいえ、現状では、彼女は冤罪とは言え、その名を汚す立場にあるが、20年も前には皇帝を裏切り、時には粛清という名の虐殺も実行する立場。モニカ自身の矜持と反する以外は大きなものでも無い。

 

 

「ですが、私と轡を並べる以上、後れを取ることは許しませんよ? シュタットフェルト卿?」

 

『っ!? 誰がっ!!』

 

 

 そして、モニカは眼前に映るカレンの姿に、笑みを浮かべながら彼女の怒りを誘う秘密を口にする。

 カレンは気付いていなかったが、モニカはシュタットフェルト家、カレンの父親とは懇意であり、幼い頃の彼女の事を知っているし、会ったこともあるのだ。

 当時はやんちゃなところはあったが、素直な良い子だったという印象は、今のまっすぐな熱血漢になったことに繋がると思ってもいる。

 とはいえ、家庭の事情も含めてレジスタンスに身を置いていることはいただけなかったが。

 

 そんなことを考えていた、モニカは口元に笑みを浮かべ、ランドスピナーを最大の出力で前進させる。

 一瞬、激昂させられたことで反応が遅れたカレンだったが、すぐにモニカの後を追う。

 そんな状況に解放戦線の兵士達は、先頃のサザーランドの二の舞とばかりに出力を充填しはじめ、周囲の護衛機達は砲撃を開始する。

 

 

 

 だが、彼等の役目はほぼほぼ果たすこと無く終わってしまった。

 

 

 僅かにモニカ、カレンの姿が彼等の目に入り、最大射程を目前に引き金に手を掛けた解放戦線兵。

 だが、そこに到達する以前にモニカのグロースターが砲撃をすると、明らかな射程外にもかかわらず、その砲撃は正確に雷光の砲身を捉え、一瞬にしてその能力を奪ってしまったのである。

 砲身を破壊しただけのため、誘爆は起こらなかったが、その様に呆気にとられた護衛機も、突撃してきたカレンに叩きのめされ、ジェレミアが攻めあぐねていた地下トンネルは、モニカの技量とカレンの暴力的な才によって瞬く間に制圧されてしまったのだった。

 

 この時、モニカは特派より、ランスロット専用装備、“ヴァリス”を借り受けており、過去においてホテルの基部すらも破壊した『インパクトレール』は使用できなかったが、砲撃形態での狙撃を行うのは彼女の技量ならば十分であり、一瞬で決着を付けてしまったのである。

 雷光側も、本来の搭乗者達であれば異変に気付いて即座に対応したかも知れないが、正規の砲手と車長の両者はノベヤマゲットーでの交戦の際に置き去りにされたことで潔く黒の騎士団に投降してしまっていたのだ。

 

 この作戦に精力を注いで腕を磨いてきた両名の投降は、結果として雷光部隊の致命傷にもなっていた。

 

 

「カレンさん、ここで私たちは地下より屋上を目指して砲撃。その砲口を用いて屋上へと脱出しますっ!!」

 

『了解っ!!』

 

 

 そして、防衛線を突破した両機は地下ブロックへと突入すると、ホテル東部ブロック部分を砲撃し、スラッシュハーケンを持って屋上を目指す。

 途中、生き残りの解放戦線兵が攻撃してきたが、それも最後の悪あがきであり、鉄の暴風となった両機を前にしては血飛沫か肉塊となる以外の結末を持たなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 地下トンネルから雷光と護衛部隊の反応が消えたことを知らされた草壁は、自身の目的が潰えたことを自覚した。

 当初目論んでいたブリタニア指導部を告発することでの混乱の誘発と政治犯の釈放要求。前者は多少の効果はあったが、モニカの行動とゼロの演説によって精々疑心暗鬼が関の山という状況。

 

 後者に至ってはジェレミアは検討にすら値しないと突っぱね続けていた。

 

 そして、それを理由に人質を数名処刑したことも、今となってはマイナスとなっている。無実の民間人を処刑したことで、自らが告発した悪逆と同じ行為を行ったという事が明白になってしまったのだ。

 

 

「こんなことが……」

 

「草壁中佐。投降してください」

 

「枢木……っ!!」

 

 

 そして、もたらされる情報に項垂れる草壁と幹部達。

 そんな彼等の様子に、それまで無言でユーフェミアの傍らに立っていたスザクが歩み出て草壁に降伏を促す。

 だが、草壁は恨みの籠もった視線をスザクに向けるだけであった。

 

 

「日本を解放したいのであれば、正しい手段を用いて行うべきです。テロなんかじゃ何も変わらない」

 

「テロだとっ!? 我々をテロリスト扱いするかっ!?」

 

「どう見てもテロ行為だろこんなことは」

 

 

 スザクの言に草壁は激昂しかけるも、永田の冷めた口調での糾弾に口をつぐむ。実際、彼等の行ったことはテロリズムでしか無く、しかも成果は何も無く、無辜の民を殺害した上に同志の大半を失うという結末でしか無かった。

 

 

「国を捨て、名誉なんぞに成り下がった貴様等に何が分かるか。虐げられた民の声に耳を閉ざし、虐殺された同志の思いを知らず、ただ奴隷の如く貶められているだけの貴様等に」

 

「間違ったやり方の正当化に亡くなった方を利用しないでください。間違ったやり方に意味は無いんですよっ!!」

 

「ふん。それでは、父親殺しは間違ったやり方では無いと言うか?」

 

 

 

 すでに草壁としては自身の運命は消えてしまった事が理解できているが、なおも正論を突き付けてくるスザクに対し、彼は自身が知る一つの真実を告げる。

 それは、単純に負け惜しみ以外の何ものでも無いのだが、言われた側、そして、周囲の者達は色めき立つ。

 

 

「中佐殿っ!? それは??」

 

「スザク……いったいどういう?」

 

「枢木首相は自決して戦争を止めたんじゃ??」

 

 

 

 解放戦線の兵士達、ユフィ、永田がそれぞれに口を開く。

 皆が皆、真相を知らなかったのだから当然だったが、草壁は解放戦線での指導者層であり、事の実態を知る藤堂や桐原とは縁がある。

 そして、桐原はともかく、藤堂は戦場ではともかく、後方においては隙が多いため、探ることは可能であったのだ。

 

 

「事実は異なる。口では開戦回避を訴えながら、上層部を煽り、徹底抗戦を進めていたのが枢木ゲンブだ。だが、ヤツは突如として割腹して果て、日本は闘わずして……。真相など知らしめられるものか。日本の指導者が、自身の息子の身勝手な主張の果てに殺されたなどと誰が言える?」

 

「止めろ……」

 

「ふん。小僧が、言いたいことはそれだけか? まあ、もう良い。貴様はそうやって、私と同じように罪無き者の屍を踏み越えて生きていけば良い。間違ったやり方に意味が無いと口で言いながら、間違った道を歩むだけの愚かな道をな。ほれ。私の首を持って手柄とすれば良い。是も貴様にとって」

 

 

 一度言い出せば堰を切ったように口をつく事実と糾弾。だが、尚も続いた草壁の弾劾は、スザクによって強引に断ち切られる。

 草壁が話し終える前に、スザクは彼を暴力を持って口を塞いだのである。

 

 

 ホテルを劈く轟音が周囲を包んだのはそれからまもなくのことであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 エリア11、日本全土を震撼させたホテルジャックは、多くの者達の心にわだかまりを残したまま終結した。

 形はどうであれ、レジスタンスの首魁とブリタニアの総督が一時的とはいえ手を結び、民間人を狙ったテロを短期間のうちに鎮圧したのである。

 

 そして、今はゼロの演説が続く。

 

 最後の仕上げはモニカの力であったが、彼女もまた草壁によって仕掛けられた冤罪から潔白を証明しただけのこと。

 河口湖周辺の解放戦線KMF部隊を制圧し、ホテル内の解放戦線兵の大半も制圧したのは黒の騎士団だった。

 本来、同胞と思われていた彼等は、民間人を狙ったテロリストは許さず、あくまでも暴虐を為すブリタニア、いや、暴虐そのものを討つと内外に知らしめたのである。

 だが、一つの事件が終結を迎えたと思われた同時刻、日本を襲った事件はまだ終わっていなかったのである。

 

 

 

 

『解放戦線来たる』

 

 

 

 その報がトウキョウ租界、そして河口湖にもたらされたその時、トウキョウ租界外苑部では戦闘が始まろうとしていたのだ。

 

 

「藤堂、これで良かったのだな?」

 

「草壁中佐の暴走を最低限でも利するためです」

 

「俺等も討伐に参加した方が良かった気がしますがね」

 

 

 トウキョウ租界外苑、旧シンジュクゲットー付近に布陣した解放戦線の本陣にて、片瀬は額に浮かぶ汗を拭いつつ、眼前の藤堂に問い掛ける。

 ホテルジャックにジェレミア総督をはじめとする主力部隊が出撃し、トウキョウ租界に残っているのは半数ほどの戦力。

 モニカの直属部隊やキューエル等、純血派などの精鋭も出撃していたため、今のトウキョウ租界には防衛を主体とした戦力が主である。

 仮に周囲のレジスタンスが襲いかかってきたとしても撃退可能か、本隊が帰還する時間を稼ぐぐらいは十分可能な戦力は残っている。

 だが、それは烏合の衆であるレジスタンスや最近、精細を欠く解放戦線のみだった場合の話。

 

 今この場には、「厳島の奇跡」藤堂鏡四郎が出撃してきていたのである。

 

 藤堂自身はその渾名や周囲の期待を重荷に感じても居たが、事ここに至ってはそれを利用する以外には無いという気持ちもあった。

 

 加えて、草壁の暴走には一つの利点もあった。

 

 

「ナイトオブフォー、ドロテア・エルンストは先日の戦闘にて負傷し、トウキョウ租界に残っているとのこと。だが、誇り高い彼女がトウキョウ租界の危機を放っておけるはずは無い」

 

 

 藤堂自身、草壁が口にした首脳達は『弔鐘の森』の一件には無関係である事は分かっていた。

 だが、彼女等にはその冤罪を晴らす機会すら与えない。それによって、ブリタニア国内には不信が走り、日本人達にはさらなる抵抗を生む。

 即ち、彼等の非を鳴らし、ドロテア・エルンストただ一人を全軍でもって討つ。それによって、テロの大義を明確にする。

 草壁の暴走はすでにゼロによって徹底的に糾弾されており、彼の行為を正当化する気は藤堂達にも無かったが、それでもブリタニアの非道を討つという大義名分は出来るのだ。

 

 とは言え、卜部が口にしたように、例え間に合わなかったとしてもせめて藤堂等四聖剣だけでも河口湖に派遣しておけば状況はもっと変わっていたのである。

 この辺りの視野に関しては藤堂は戦略家では無く戦場の雄であり、武勇を持って解決を図ることを優先する欠点が表に出たと言える。

 

 だが、それを正すのは本来は司令官である片瀬の責任であり、彼が藤堂に依存するような態度である以上は、状況が変わるはずもなかった。

 

 

「しかし、ドロテアは出てくるでしょうか? トウキョウ租界には、アーニャ・アールストレイムも居る」

 

「ドロテアが出てくることに確証は無い。だが、アーニャが出てくるのは、ドロテアが討ち取られた後だろう」

 

 

 そんな片瀬の本質にやや失望感を覚えていた仙波と卜部であったが、今は目の前の懸念を払拭するべきでもあろう。

 実際、仙波の言にそう答えた藤堂であったが、アーニャの出撃に関しては確証があったが。

 

 租界内部に突入すれば話は違うが、誇り高いドロテアが、まだまだ幼いアーニャを矢面に立たせるとは思えなかったのだ。

 

 そんな時、前線の兵士の歓声が上がる。

 

 

 何事かと指揮車両のビデオパネルに視線を向けると、そこには夕陽を背に租界外苑に立つ一機のKMFの姿が映し出されていた。

 まさかとは思うが、外苑に立つドロテアに続くように、数機のKMFが次々に外苑部に姿を現す。

 

 だが、トウキョウ租界を守るにしては数が少ない。

 

 そこに立ったのは、あくまでもドロテア直属の部隊であり、彼等はかつてシナガワゲットーのテロリスト集団を壊滅させた部隊だった。

 

 

「賭けに勝ったと言うべきですかね?」

 

「まだまだ分からん。相手はナイトオブラウンズだ」

 

「だが、我々もまた四聖剣。そして、奇跡の藤堂ですぞ。中佐」

 

「ふ……、そうだったな」

 

 

 そんな光景に、皮肉めいた口調で口元に笑みを浮かべた卜部が藤堂へと視線を向け、仙波も戦意をたぎらせながら藤堂に向き直る。

 

 

 

 愚か者の暴走によって地に落ちた名誉。

 

 この行動の結果として拭いきれる事は無きそれであったが、それでも彼等は動かざるを得ない。

 

 そして、それを迎え撃つのは真実を知り、自身の在り方を今もなお問い続けている一人の女傑。

 

 

 お互い、多くの者を失った者達の激突。それは、お互いの意地と誇りをぶつけ合う。

 

 

 

 ただそれだけの戦いが今始まろうとしていた。




 藤堂達はホテルジャックの際にもう少し出来ることがあったんじゃ無いかと思うんですよね。
傍観した結果、ナリタ攻撃を正当化さえちゃいましたね。元々、反乱軍なんですから鎮圧するのは当然ですけど、救出に向かったゼロと傍観した解放戦線で明確な差が出ちゃいましたから。


 ドロテア、モニカと言ったあまりスポットの当たらなかったラウンズに焦点を当ててきましたが、彼女達との決着ももう少しなのでもう少し見てもらえたらと思います。
 ほとんど闘っていないですけどね。
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