キョウトとの会見を終えたルルーシュはそこから精力的に各地のレジスタンスを糾合するべく動いた。
安易なテロ活動に走らぬ事を条件に武器弾薬と食糧の供給。元々キョウトが行ってきたことだが、それに加えてブリタニアの物資を横流しすることでブリタニア軍を水面下で混乱させる。
その辺りのことは微々たる事だったが、来月には着任するコーネリアによる掃討が始まることを考えれば、早急に戦力を整える必要がある。
特に、サイタマやナラシノと言った首都圏ゲットーにいるレジスタンス達は即標的になる可能性が高いのだ。
「ねえ、ルル。前に言っていた中華連邦は大丈夫なの?」
G1ベースにて書類に目を向けていると、一緒にそれを見ていたシャーリーが首を傾げながら口を開く。
KMFでの出撃を控えさせる以上、後方にてルルーシュの補佐を担うべく、彼の戦略を実際見聞きしながら勉強中でもある。
元々、公平公正な視点を持っていたためか、シャーリーは視野が広く、ルルーシュが見落としていた面を指摘してくれることも多い。
それはルルーシュとしてはうれしい誤算でもある。
「もちろん、介入してくるモノとして考えている。だが、さすがにこちらがタイミングを操るのは困難だからな。今は澤崎の企みを潰すことを優先しようと思っている」
「だから、首都圏と合わせて九州のレジスタンスを先に支援したんだね?」
「ああ。地方軍とは言え、中華と睨み合っている九州方面軍は戦力的にも豊富で、しかも残虐だからな。放っておけば中華連邦に縋ってしまう可能性が高い」
「困っているときに手を差し伸べてくれたら、誰でもその手を掴んじゃうしね」
シャーリーの言に、ルルーシュは肯きながら過去を思い返す。
澤崎を傀儡として侵攻してきた中華連邦だったが、鹿児島や福岡に橋頭堡を作られるレベルでの諜略は浸透しており、さらに台風が重なってブリタニアの反撃が遅延したことで支配は順調に進んでいた。
シャーリーの言うように、圧政の元に別の圧制者が来たとしても、人は現状を変えるべく後者に縋ってしまうモノだ。
幼少の天子を傀儡として中華を牛耳る大宦官達を見れば、澤崎も自分の運命が分かりそうなものだったが、権力という甘味は人の視野すら狭めるのだろう。
「もっとも、九州方面軍の戦力を考えれば、本格的に戦端を開くつもりが無ければ動かないだろうな」
「今はユーロブリタニアと揉めているんだっけ?」
「元々はユーロピアとの諍いだな。そこをユーロブリタニアにつけ込まれて、ユーロピアはシベリアを分断された。ユーロブリタニアとしても、あの氷の大地をすべて統治する余裕は無いからお互いに牽制し合う状況だ」
「サクラダイト鉱山が見つかって喧嘩しちゃったんだっけ? 敵が目の前にいる状況だったのにね」
「それだけ重要資源と言うことだな。日本にしても、サクラダイトが無ければ外交で縛り付けるとか、穏健なやり方をしたと思うぞ?」
サクラダイトの埋蔵量を考えれば当然他国は必死になって支配を望むが、それが無ければ大陸への橋頭堡か防波堤という立ち位置になる。
仮に中華・EUが太平洋方面でブリタニアとぶつかるとすれば、当然双方の決戦の地は日本と言うことになる。
そうなれば日本を味方に付けた側が当然有利になるが、占領するにしてもブリタニアがほぼ全戦力を投入して短期で決着を付けたように、海に囲まれた日本の制圧は簡単では無い。
そんなことをしたのは単にサクラダイトの存在であり、それが無ければ経済的に支配することは難しくは無かった。
長い内戦を経験していたため、軍自体は精強だったが、近代戦を戦うための資源がサクラダイト以外無い国であるのだ。資源を理由に味方にした方が利は大きい。
「実際、中華連邦はそれをしているってこと?」
「そう言う事だ。九州のレジスタンスが靡き、日本人も靡けば犠牲は少なくて済むからな」
さらに、澤崎と水面下で提携していた片瀬率いる日本解放戦線が介入すれば戦力的には大きなモノになる。
それすら、モニカ・クルシェフスキーの謀略であったと言うからルルーシュとしては空恐ろしくも思う。
片瀬はともかく、草壁一派や朝比奈のようなタイプが中華の傀儡に納得するわけも無く、内輪揉めを始めて中華が撤退した所で鎮圧すれば労せずに事は済んだのだ。
片瀬の弱腰が草壁等の暴走を産み、それが結果として日本にプラスに作用したとも言えるのは皮肉な話だった。
「おい、ルルーシュいるかっ!!」
そんな時、乱暴に扉が開かれてC.C.が司令室へと乗り込んでくる。彼女にしては珍しく慌てた様子であり、ルルーシュも目を見開くが、すぐにいつもの調子を取り戻す。
「そんなに慌ててどうした? お前らしくも無い」
「うるさい。お前達がいちゃついている間にまずい事になったぞ」
「だからどうしたと聞いているんだ」
「いちゃつきの否定はしないんだ……」
冷静に返したルルーシュだったが、C.C.も慌てているのかすぐに返答は無く、いつもの調子でルルーシュとシャーリーを茶化すことが先に立つ。
だが、続いて部屋に入ってきた人物達にルルーシュは思わず立ち上がる。
「アーニャっ!? その傷はどうしたっ!?」
「変なヤツらにやられた……ジェレミア達も」
「ジェレミアがっ!?」
ソフィーに肩を抱かれて連れられてきたのは、全身に傷を負ったアーニャである。
彼女によれば、部屋で休んでいたときにやはり負傷したジェレミアが部屋に入ってきて逃げるよう言われたのだと言う。
ジェレミアがギアスを何度も使用していた事から見ても、ギアス嚮団である事はすぐに察しが付いたアーニャはすぐにそれに応じて飛び出したのだが、所々記憶が飛んだり、気付いたときには傷が増えてジェレミアに抱きかかえられたりしていたと言う。
「私だってラウンズ。こんな簡単にやられるのはおかしい」
「……そうか。アイツか」
その状況にルルーシュは察するモノがあったが、その脳裏に思い浮かんだ少年の姿をすぐに頭から追いやる。
彼との関係は、偽りからはじまり、相応の年月を経て築かれたモノ。今の彼に情を向けては自分の足下をすくわれることになる。
「ジェレミア達はどうなった?」
「私を逃がした後で、3人は残って戦ってた。でも、あの3人でも純血派が全員相手だと」
「ドロテアとモニカも一緒だと言うことか?」
「そう。3人で打ち合わせをしているときに襲われたって……。ドロテアなんかはそうとう怒っていたから止めようが無かった」
その言に、ルルーシュはある程度状況を整理する。
ジェレミアはドロテア、モニカとの打ち合わせ中に襲われたという事と、モニカがともにとなれば、手引きしたのは彼女では無いだろう。
いざとなれば自分を犠牲に謀略を仕掛けることも厭わないだろうが、彼女の本質は騎士。主君の名の下以外に死ぬことは選ばないとも言える。
そして、ジェレミアを相手取ると言うことはそれだけの覚悟を持つ必要がある。だが、純血派の決起だとしてもギアス嚮団が絡む以上は、背後にあの男が居ると考えるべきだろう。
「アーニャ、ヴィクトルは来ているのか?」
「いなかった。私もそれを考えたけど。ただ、今は分からない」
「となると、指揮をとれるヤツが居るのか……」
「それはどうかな? 安易にアーニャを追ってきたヤツもいたから始末しておいたぞ?」
ルルーシュは頭に思い浮かんだ男の事を考えるが、V.V.が居ないとなれば、別のモノが指揮を取っていると考えるべきだった。
だが、C.C.が言うように、彼女の存在を考えずにアーニャを追ってきたとすれば軽率とも言える。
コードユーザーのC.C.相手にギアスは無駄でしかないのだ。どのようなギアスでも彼女がいれば無効化されて排除されてしまうだろう。
「アーニャ、C.C.。アッシュフォード学園は悟られていないだろうな?」
たまたま騎士団の元へ来ていたが、アッシュフォード学園は事実上の黒の騎士団司令部であり、何よりルルーシュにとっては絶対に犯されたくない聖域でもある。
とはいえ、緊急事態を考えると何らかの工作が必要だったが、追っ手の足がアッシュフォードで途絶えたとなると敵に気取られることになる。
「大丈夫だと思う。そこに逃げ込んだらマズいことぐらいは分かってる」
「ナナリーは咲世子とミレイががっちり守っているから安心しろシスコン」
「うるさいぞ。V.V.の非道さはお前だってよく知っているだろ」
実際、モニカであれば学園の生徒を人質に取ることは無いだろうが、V.V.やシュナイゼルであれば話は変わってくる。
特にV.V.はルルーシュへの見せしめのために生徒を皆殺しにだってしかねない。弔鐘の森を事実上主導したのはあの男なのだ。
「なるほど……。色々と繋がったな」
「なにがだ?」
「桐原や宗像の長年の工作が実ったかと思ったが、ヤツめ。シャルルに余計なことがバレたくなかったと言うことか」
「工作ってドロテアさんとモニカさんに対してのことでしょ? それが繋がるって??」
V.V.は占領時にオデュッセウス等を裏から操り、ギアス適合者を探っていたと聞いている。
モニカの立案した公職追放案に、差別主義的貴族の意見を組み合わせて大虐殺を実行させたのも、尋問や拷問が適合者を選別する良い機会だったからだ。
さすがに一般兵までは手が回らなかったが、将校クラスならば素性までセットで探りを入れることが出来る。
そして、用済みになった人間達の行き着いた先があれだったのだ。いざとなればスケープゴートに出来る人間も多く、今回はたまたまモニカ達が日本に居たからと言うだけだった。
「アーニャ、追ってきたギアスユーザーがどんなヤツだったか教えてくれ。シャーリーとソフィー租界内部と周辺ゲットーの詳細図を見て指示通りのモノを用意してくれ」
「ギアスユーザーが来たら私が何とかしてやる。分かっていると思うが」
「貸しだろ? ピザでもチーズ君でも何でも言え。ジェレミア達を助けたらな」
「なら良い。覚悟しておけよ?」
方針が決まれば行動も早いのがルルーシュである。様々な下準備は必要となるが、それでもヤツらが日本に居る間はこちらにも手を打つことが可能になるのだ。
「今回ばかりはキョウトを頼るとしようか」
そして、今もなお日本の中心にある者達の元へと助力を請う。過去を経て、安いプライドなどいつでも捨てられるようになったことが彼の進化でもあった。
◇◆◇◆◇
画面に映る男の表情はコーネリアにとっては何度見ても不快にしか思えなかった。
『もう一度言うよ? ジェレミア総督代行達は黒の騎士団に内通していた。当然、待っているのは処刑しかないよね?』
「それを決めるのは私だ。貴様、皇帝陛下の寵愛を良い事に総督すらも蔑ろにするか?」
『僕は皇帝陛下の密命を受けているんだけどね~。それを蔑ろにするつもりなの?』
「だから、先ほどからその命令書を見せろと言っている。それとも、インペリアルセプターでも出すつもりか?」
画面の男、ヴィクトル・キングスレイの威丈高な物言いは良く知れたものだったが、そんなことに屈するほどコーネリアは甘くはない。
父帝シャルルに対しても、自分を廃嫡できるならばして見ろという気持ちすら彼女は持つ。
第一、口頭での命令など、皇帝以外の人間から受ける理由は彼女には無い。
そもそも、混乱の続くエリア11の統治を臣下に丸投げするなど、自分が就任するまでの間放置したと言っても過言では無いとコーネリアは思っている。
そして、役目も果たせず本国に逃げ帰ったヴィクトルなどと言う男をラウンズといえどコーネリアは軽蔑していた。
『まったく強情な娘だ。分かったよ。君が来るまで、彼等には最後の生を満喫してもらうとしよう』
そして、案の定コーネリアに押し切られる形になったヴィクトルはせめてもの負け惜しみとばかりに強がりを見せて通信をきる。
多くの人間はヴィクトルの行動をシャルルが黙認するため、彼の行動を掣肘しないが、コーネリアとしてはそれには納得いかなかった。
皇室の係累だという噂はあるが、所詮は出自の知れぬ男でしか無い。仮にそれが事実であるとすればそれを自分達に説明する義務が皇帝にはあるし、何を問いただしても捨て置け、意のままにせよ等と言うだけでは納得できるはずも無い。
この件に関しては、仲の悪いギネヴィアや普段は事なかれ主義なオデュッセウスすらもシャルルに反発するため、ヴィクトルの横暴も皇族のいないところに限られてはいる。
だが、今のエリア11にはユーフェミアがいるのである。ジェレミア等を捕縛すべく戦闘を開始した純血派を止め、ジェレミア等には穏便に獄に繋がらせている。
それを反故にして処刑するなど、ユーフェミアの立場すら否定することになるのだ。コーネリアが受けいれられるはずもない。
「まったく、あの男も困ったモノだ」
そして、画面からヴィクトルが消えた事で溜飲を下げたコーネリアは、手にしていたワインを一気に口にすると、不機嫌そうに空になったグラスを壁に叩きつける。
苛立ちを考えれば、このぐらいでは酔えそうにも無かった。
「それは、どちらのことですかな? 姫様」
「両方だ。ジェレミアも、そしてドロテアもモニカもだ。生やさしい統治で満足するからイレブンどもにつけ込まれるのだっ!!」
「冤罪とも言えないことが悪い方に出ましたな」
「ふん。殺すならば降伏など許さなければ良かったのだ」
苛立つコーネリアから怒りを取り除こうと口を開いたダールトンだったが、結局はコーネリアの激発を生むだけである。
彼女としてみればジェレミアは元より、ドロテアやモニカもノネットを通じて知り合い、ともにKMFを推進して戦場を掛けた臣下、そして盟友でもあったのだ。
彼女等が過去の甘さで窮地に陥るなどと言うことが腹立たしくもあり、それを利用しようという輩達に対する怒りも強くなる。
「しかし、ジェレミア卿が内通というのは」
「ジェレミア卿の統治の甘さを理由に難癖を付けているだけだろう。あの男が領民に甘いのは今に始まったことでは無い」
「ブリタニア人ならばともかく、イレブンにまで肩入れするからああなるのだ」
ジェレミアの人となりを知るギルフォードにしてみれば、内通などあり得ないという思いもあるが、ダールトンとしてはコーネリア同様に甘さの中に危うさを感じていたため、有り得るという思いはある。
コーネリアほど苛立ちを覚えているわけでは無いが、ジェレミアの場合はマリアンヌをはじめ、ヴィ家に対する思い入れが尋常では無いほど強い。
そのため、日本の地で没した皇子達のことを思いやってブリタニアに絶望した可能性もあるのでは無いか?
ここの所のエリア11の変事の影にジェレミアの動きがあったとしても不思議では無いと言う思いはあった。
とはいえ、あくまでも想像の範疇に過ぎないため擁護はしていたが、ヴィクトルはそのような冤罪でも平気で相手を貶める人間だった。
だからこそ、ジェレミアを信じたいという気持ちもたしかにあるのだ。
「エルンスト卿とクルシェフスキー卿は……。ラウンズ同士で諍いなど聞いたこともありませんが」
「ヴィクトルなどと言う男のやることだ。そもそも、理詰めで物事を考えるモニカならともかく、直情径行のドロテアがイレブンなどに肩入れするモノか」
コーネリア自身、シャルルに対してまっすぐに忠誠を向けるドロテアはビスマルクと同様にブリタニア騎士の鏡として認めている。
モニカは元々が参謀であると言う事からどこかこざかしいところがあるためドロテアほど好いてはいなかったが、それでも公正無私の見本のような人物。内通に同調するようなことがあろうハズも無かった。
「いずれにしろ、明日の話だ。仮に、ヴィクトルが暴走していたら、ヤツの首を取ってドロテア等の手向けにしてやる。ダールトン、ギルフォード。到着の際には戦闘態勢で政庁に向かうぞっ!!」
「はっ」
空中輸送中のKMFはいつでも行動可能であり、いっそ、到着前に軌道降下でエリア11に降り立ってやろうかという気持ちもコーネリアにはある。
それだけの威志行動を見せねば、混乱するエリア11の鎮定にはおぼつかないだろうという思いが彼女にはあったのだ。