駆け付けてきたKMF――現在ブリタニア軍の主力を担うサザーランド。
青を基調とした塗装の成されたブリタニアの主力機であるが、現在ルルーシュとC.C.が乗り込んでいるその機体は、復座が配備された(C.C.はルルーシュが抱きかかえている)特殊型で、ファクトスフィアと肩が“オレンジ”に塗装されている。
この機体に搭乗していたのは、ヴィレッタ・ヌゥ。どうやら、ルルーシュとはこの世界ではすでに顔見知りらしく、ヴィレッタの方から「スペイサー卿」と皮肉めいた呼び方をされてしまった。
また、永田は二人の後に続いてきて救出部隊に囚われ。たわけではなく、応急手当を施されて運ばれていった。
ヴィレッタ曰く、悪いようにはしない。とのことであるため、彼女を信用するしか無いだろう。過去の彼女とは、信用や信頼と言える関係は終に結べることは無かったのだが、少なくともこの世界において、ルルーシュはヴィレッタには何もしていないのだ。
そして、シンジュクゲットーに血の雨を降らせたシンジュク事変。
それは、ルルーシュ達の脱出と時を同じくして終息していた。
C.C.とともにサザーランドに乗り込むと、オープン回線にてもたらされた一方的な停戦命令。
ただし、総督であるクロヴィスの名においてのものではなく、騎士であるバトレーが代行する形であり、総督の身に何かがあったことは予想が付く。
ヴィレッタにそれとなく訪ねて見たが、彼女は素っ気なく知らないと言うだけであった。
その様子から察するに、真相を彼女は知っている様子だったが、総督の身を心配するどころか、どこか呆れたような表情をしていた事が印象深い。
もともと、彼女は現実主義的な側面があり、ジェレミアのような皇族の信奉者という側面ははっきり言って無い。
加えて、慎重な面もあるため、当然、軍事に関する情報を学生であるルルーシュに話すはずも無い。
そう思いつつ、租界を目指すサザーランドが夕陽に映える白色の機体とすれ違う。
どうやら、この世界でもルルーシュの親友たる人物は初陣を終えたのだろう。
同時に、犠牲になった扇グループをはじめとする反抗勢力の人間も存在したと言える。
「まもなく租界の外苑部に入る。ジェレミア卿が迎えに来ているはずだから、もう安心して良いぞ」
すれ違った機体を一瞥し、一瞬不機嫌そうに眉をひそめたヴィレッタは、すぐに元の表情、いや、やや柔らかい表情を浮かべてルルーシュに対して口を開く。
「ジェレミア……先生が? 色々とありがとうございました」
「先生? お前、そんな呼び方をしたことがあったか?」
「いや、シャーリーがそう言っていたので」
「?? よく分からんが、まあいい。とんだことに巻き込まれたが、無事で良かった」
「俺以外に巻き込まれた人とかは居るんですか?」
「さあな。そこまでは私も把握はしていない。一部の調子に乗った連中は片付けてやったがな」
しゃべれば色々とボロが出てしまうような気もするが、黙って待っているのも決まりが悪い。ヴィレッタ自身も警戒すべき場を抜けたからこそ、軽口を叩くようになったのであろう。
その調子に乗った連中。と言うのがクロヴィスと関わりがあるのはなんとなく理解できるし、停戦命令にも関係があるのだろう。
さすがに、ヴィレッタ達が総督に手を出すのは考えがたいし、スザクが出撃している以上はテロリストとの戦闘はあったと思われる。
加えて、総督の死という大きすぎる混乱が起こった様子は無く、クロヴィスは健在であるだろう。仮にバトレーが命令を代行する状況ではあったとしても、ヴィレッタ達が秘密裏に救出部隊を入り込ませるだけの余裕は生まれていたようだ。
もっとも、永田がハーフのブリタニア人だったからこそ、手当てを受けることが出来ただけであって、日本人に関してはこの限りでは無かったようだが。
「あれは、命令だったんですか?」
「何がだ? ……まあ、お前にごまかしは通用しないか。その通りだな。テロリストの殲滅にかこつけて。と言うのが真相だ」
「そうですか……」
「お前、私やジェレミア卿の前ならともかく、下手に軍人の前でそのようなことを言い出すなよ? 親衛隊みたいな過激なヤツはそこら中にいるからな」
「分かっていますよ」
やはりと言うべきか、クロヴィスは証拠の隠滅のために虐殺を命じたのである。
ルルーシュ自身がギアスを用いずに手に掛けた相手。クロヴィス自身はルルーシュやナナリーの身を按じて日本総督を志願し、その死を知ったからこそ日本人に対する苛政を行ったという。
だが、そのような事実を肯定する理由は無い。仮に自分達の仇討ちであったとしても、無抵抗の民間人に対しての虐殺を命じた事もまた事実として残っている。
実際、自分が目覚めた場所に倒れた人々。それは、かつての反逆のはじまりの地となんら変わりが無かった。
「ところで、その女はなんだ?」
「さあ? とりあえず、息があったので連れてきたんですが……」
「ふうん? まあ、シャーリーには黙っておいてやる」
「……お願いします」
そんなことを考えつつ、不穏な雰囲気を醸し出したルルーシュに、ヴィレッタは困惑しつつ、とりあえず傍らに座らせているC.C.へと視線を向ける。
場を和らげる意図があるとは言え、その表情はどこか試しているような視線である。
どうやら、この世界でもルルーシュとシャーリーとは、それなりに親しい間柄であるらしい。
シャルルに記憶を改変された後の関係から「シャーリーがヴィレッタを撃った」という事実を抜いたらこんなやり取りも有り得たのであろうか?
とはいえ、そんなところにC.C.が入り込んだらなんとも面倒くさい事になりそうではあるが……。
そんなことを考えていたルルーシュだったが、周囲がそれまでのがれきにまみれた街路から整備の行き届いた町並へと雰囲気が変わっていく事に気付く。
ゲットーから租界外苑部に入ったようである。さすがに事が事であるため、人通りも電車などが動いている様子は無いが、それでも街の雰囲気は天と地とも呼べる違いがある。
(これが、この世界の現実なんだな。だからこそ、俺は再びこの場に……)
かつて、反逆のはじまりの地として選び、反逆の終焉の地となった日本。最後まで、復興したこの国を見ることは叶わなかったが、新たな生を得た以上、後悔したところで始まることは無い。
自分がすべてを奪い、それでも自分の傍らに居た男の名誉も、自分と敵対し最後まで和解の機会を得ることが無かった女も、そして、自分によって犠牲になった少女もまた、この世界にあっては健在であるのだ。
「無事だったか」
そして、待ち合わせの場所に着き、KMFから降りると視線の先に立つ長身の男が、それまでの張り詰めた様子から安堵したように表情を崩す。
普段の彼であれば、派手な物言いと動作で自分を迎えたかも知れないが、あいにくと今は事情をどこまで知っているのか分からないヴィレッタが居るのである。
彼女は味方であるようだし、かつてのようにブリタニア軍に染まりきっているわけでも無さそうだったが、それでもすべてを話す事は難しかったのだろう。
「心配をおかけしました。それで」
「ああ、ヴィレッタから聞いている。とりあえず、その方も保護しよう」
積もる話はいくらでもある。とは言え、この場で話すことも難しい。
ルルーシュとジェレミアがこうして邂逅している以上、C.C.もまた同じ立場である可能性は十分にある。
それだけに、人目に付く場所で安易な行動や会話をするべきでは無かった。
「ヴィレッタも無理を言ってすまなかったな」
「いえ。それより、ジェレミア卿、総督は……?」
「今は休まれている」
「そうですか。…………では、私は戻ります」
「ああ。また、教練の時はよろしく頼む」
「はっ」
かつては、ジェレミアのその謹厳な態度を嫌悪する素振りを見せたこともあるヴィレッタだったが、今は信頼する上官に接するように敬礼をすると、KMFに乗り込んでその場を後にする。
嫌悪の話はロイド達から聞いた話であったが、本来の二人の関係はこんなモノだったのかも知れない。
「……我が君!!」
そして、ヴィレッタのKMFが見えなくなると、ジェレミアはふっと息を吐き、自分に向き直り、一言そう口を開きながら膝をつく。
頭を垂れるその姿。
自分にとって、ゼロレクイエムの間際に別れたのはつい先程のこと。だが、ジェレミアの態度から見るに、数年、いや、自分がこうして再びの生を受ける事など分かるはずが無い以上、ジェレミアにとっては生きる限り続く苦しみであったのかも知れない。
「ジェレミア……、すまなかったな」
「もったいなき御言葉……。まるで夢を見ているかの如き事。今でも自身が信じられません」
「それは、俺も同じだ。…………ふ、ふはははは。お前を始め、スザクやC.C.を苦しめたにも関わらず、俺は再び生を得るか。地獄の神にとことん嫌われたようだな」
思わず口をついた自嘲。
実際、自分自身が親友を巻き込む形で決めた事。だが、冷静になってみれば、世界を巻き込んだ壮大な自殺でしか無い。
「陛下。恐れながら、陛下が再びこの世に参られたのは、陛下が成すべき大事が残っておられるが故に、と私は考えます。……いずれにしろ、今日のところは戻りましょう。ナナリー様。そして、シャーリー、ミレイ達がお待ちです」
自分の様子に、目を細めながら顔を上げたジェレミアの言に、鼓動の高鳴りを感じる。
「そうか。ナナリーも、シャーリーも……」
自分自身の思いを押し付け、結果、恐るべき虐殺に手を染めさせてしまった最愛の妹。
自分自身の罪を背負うどころか、その贖罪を背負うかのように、ギアスに翻弄され続けた少女。もう二度と会うことはないと思っていたが。
「はい……。こちらに」
そう言って、立ち上がったジェレミアに車に誘われると、後ろの席にもたれるように座り、眠っているシャーリーの姿。
鼓動の高鳴りとともに、熱くなる目頭。涙が流れ落ちる事だけは何とか耐える。
そして、穏やかな表情で眠る彼女の存在こそが、ここが自身の過去とは異なる世界である事を実感させるのだった。
「どうしても付いてくると言って聞かず、ミレイ達の手前、断ることが出来ず。申し訳ありません」
「そうか。……あの時も、必死で俺を探そうとしていたのかも知れないな」
そう呟くと、ルルーシュは静かに寝息を立てるシャーリーの隣に乗り込む。彼女の穏やかな表情は、あの今際の際の笑顔と何ら変わりは無かった。
そして、安堵からか、シャーリーの姿を見たからなのか、不意に睡魔が襲ってくる。
「すまん、ジェレミア。なんだか眠くなってきた。少し、眠らせてくれ」
「御意。クラブハウスに着いたら起こします」
運転席に座るジェレミアのそう告げると、ルルーシュもまた眠りの世界の住人となる。車のエンジン音が遠くなりつつある事を感じると、ルルーシュはふと、これは夢なのでは?と思い立つ。
とは言え、夢ならばそれでも良いと思える。どのみち、自分は死にゆく身であったのだ。と思いつつ、睡魔に身を委ねるしか無かった。
◇◆数時間前◆◇
神聖ブリタニア帝国エリア11総督たるクロヴィス・ラ・ブリタニア。
この地において、皇帝の代行者として絶大な権力を誇る彼は、G1ベースにもたらされる報告の大半を興味なさげに聞いていたが、それでも捜索中のカプセルの中身―コードR発見の報告には思わず身を躍らせていた。
そして、その回収を怠った親衛隊に対する激怒もしばしば、その後は元のようにもたらされる虐殺の報告を特に表情を動かさずに見つめていたのだ。
そう、彼が来るまでは。
「それで、クロヴィス総督。僕に何か言うことは無いのかなあ?」
「そ、それは、閣下。研究結果を皇帝陛下に献上しようと……」
本来ならば上位者がいないはずのこの地にあって、土下座をするかのような姿勢で許しを乞うているクロヴィス。
彼の前に立つのは、彼と同年代かやや年上と言った所の青年だった。
「ふうん? 誰がそんなことを求めたんだい? あの緑髪の女――C.C.を見つけ出したらすぐに報告しろと言っていたはずだけど?」
「も、申し訳ありませんっ!!」
「はあ……、もう良いよ。これからは自力で探す。だから、さっさとお遊びは終わりにしてくれるかな?」
「ははっ、直ちに」
「ああ、クロヴィス。君が言ったら困惑するだけだよ。バトレー。代わりにやりな」
「は? しかし、それでは」
「君が命令を出したら、クロヴィスに何かあったとみんな悟るだろ? そうなればお遊びどころじゃ無くなるよ。それに、これ以上暴れられたら見つけ出すのが面倒じゃないか」
そんなクロヴィス達の様子に呆れたような表情を浮かべた青年により、クロヴィスの片腕たるバトレー・アスプリウスの名において、停戦命令が発せられる。
皮肉なことに、過去の歴史よりも被害の抑えられたシンジュク事変。その真相は、一人の正体不明な青年の気まぐれとも言える行動であった。
「さてと、C.C.を探しに行かなきゃだね。アーニャ、行くよ。クロヴィス、兵士を借りるからね?」
「は、はい。ご自由にお使いください」
「もちろん。ああ、それとクロヴィス」
「は、はいっ!?」
「今回の事、しっかりとシャルル……いや、皇帝陛下に報告しておくからそのつもりでね? いつまで経ってもこんな極東の猿どもを黙らせられない君に次があるとは思わないでね」
そして、青年は無言で背後に控えていた少女騎士へと声を掛け、その場を立ち去ろうとする。しかし、立ち去る間際に掛けた一言は、クロヴィスに対するとどめの一撃となったのだった。
「は、ははは…………」
「で、殿下!?」
「終わったよ……バトレー」
表情を凍り付かせながら笑い声を上げたクロヴィスに、異常を察したバトレー達が駆け寄る。しかし、自身の失脚を悟ったクロヴィスは、そのまま白目をむくと意識を絶ったのだった。
この地に生まれた一つの遺失物。それを呼び起こしたのは、それ以前に生まれていた複数の遺失物による歴史の変更によるモノであったのかも知れなかった。
青年の正体は誰でしょう? と言うには簡単すぎますかね?
序盤は1日に複数投稿予定ですので、是非ともお付き合いください。