画面では仮面の男の演説が続いていた。
日本国内のみならず、再び世界中へ向けられた大規模なハッキングよって先日のタチカワ事変(ブリタニア命名)の真相が明るみに出たのである。
映像では、ドロテア、エリンの両名と逮捕されていたレジスタンスに対する遊びめいた殺し合いを煽る場面。
報告に来た兵士達を無意味に殺戮し、モニカを銃撃する場面等。
これらを行ったヴィクトル・キングスレイと彼の指揮下にあったギアス響団なる組織の存在。
そして、“弔鐘の森事件”をはじめとする世界中で謎に包まれた虐殺事件や暗殺事件の全容が白日の下に晒されたのである。
これはルルーシュに取っては切り札であったのだが、今回のようにジェレミア、モニカ、ドロテアと近衛騎士達のようなブリタニア中枢にあり、関係者も多数存在する者達の“寝返り”を正当化するためには用いざるを得ない情報であったのだ。
現時点で、タチカワ基地に軟禁されていた三名の生死は不明なのだが、ゴットバルト家、クルシェフスキー家、エルンスト家の関係者及び近衛騎士達の親族達が一斉に姿を消した事も含めて、彼女等が謀略によって処断された可能性に真実味が帯びているのである。
「ペテン師だねえ。ともすれば、自分達が殺した事を真っ先に疑われるのに、キングスレイ卿の暴走を利用して正義の味方気取りだ」
「ロイドさん、そんな感心するような言い方」
「いやあ、この場合は感心するしか無いよ。こんな言い方をされたら悪いのは完全にブリタニアで、クルシェフスキー卿もエルンスト卿もただの被害者。これで、黒の騎士団に寝返ったって、騎士の誓い以外で責められる謂われは無いモノ」
そんなブリタニアの、日本国内においてはトウキョウ政庁の騒ぎをどこ吹く風で映像に対して語るロイド。
セシルの咎め立てもどこ吹く風で、現状を語るが、彼の分析は正鵠を得ている。
実際問題、“ラウンズ”というモニカとドロテアの立場を除けば、ジェレミアも加えた三人は事実上ブリタニアから追放されたと言っても良い顛末なのだ。
草壁によって汚名を着せられた後も、ジェレミアとモニカはテロの鎮圧に当たり、モニカに至っては危険な特攻とも言える任務を騎士団のエースパイロットと共に成功させ、ドロテアは負傷を押して出撃し、不信を抱いた軍人達の力を借りずに独力で日本解放戦線の奇襲を退けている。
コンベンションセンターホテルジャックの際に、ゼロがモニカとジェレミアに告げたように、三人は『行動によって潔白を証明して見せた』のである。
だが、ブリタニア上層部、なにより皇帝シャルルが出した結論はお察しの通り。
キングスレイは普段からシャルルの直属のような立場で動き、事実上の副総督であったユーフェミアの配慮すら無視して三人の処断に動いたのだ。
しかも、明るみになった事実を考えれば、自分の悪事を三人に押し付けて口封じをしようとした事は明白である。
「でも、三人は法を持って裁かれるべきなんですから、生きているならば騎士団なんかに組せず戻ってくるべきでは?」
「三人の罪ってなあに?」
「え? 騎士団への寝返りとなったら、立派な反逆では?」
「そうだねえ。でも、騎士団に寝返ったなら帰ってくるわけが無いでしょ? そもそも、三人が騎士団に投降せざるを得なくなったのは、冤罪を着せられて殺されそうになったからだ」
「でも、騎士や総督の立場にあった人がテロリストになんて……」
「正しくないやり方で組織を追い出された彼等に、正しさを強要するなんて無理だよ。やりたければ、スザク君もまた不当な暴力で従わせるしか無いよ?」
ロイドの言には、三名が黒の騎士団に組したであろう予測があり、それを聞いていたセシルやスザクもそれを察するのは容易であった。
だが、スザクとしては、例え彼等のようになってもテロリストに身を投じるなど言語道断だという思いがあり、反発を覚えて口を開いてしまっていた。
しかし、スザクのように冤罪に服して処刑されることも構わないと思う人間は稀であり、心の底で死を望む実情が無ければ、それを受け入れる人間はまずいない。
ジェレミアもモニカもドロテアも、地位も名誉も最高のモノを若くして得た人間達にとっては、地位も名誉も奪われた上に、命まで奪われる事に対する理不尽さを受け入れる理由は無い。
だからこそ、ロイドが“不当”とまで言い切った暴力によって従わせる以外になく、そしてその力を使役できるからこそスザクにも答えを求めていた。
「僕は……。命令であれば、例えラウンズであっても」
「ふうん。命令ねえ……。まあ、今は良いでしょ」
そして、スザクの迷いと逃げとも取れる答えにロイドは僅かに不満を感じつつも、実際に自分は命令を出す立場では無く、命令をスザクに伝える立場である事から納得し、それ以上の問いは無い。
難しい人間である事は、自分がスカウトしたときから分かっていたことであり、デヴァイザーとしては最高の素材である彼を不本意な理由で潰すわけにもいかなかったのだ。
「もう……。それより、ロイドさん。こんな時ですけど、以前のお見合いの話はどうなったんですか?」
そんな両者のやり取りに眉を顰めながら聞いていたセシルは、話題を変えようと以前ロイドから聞いていた見合い話を思い出す。
エリア11に地盤を置くアッシュフォード家。水面下でユーフェミア副総督がスザクを通わせようとしているアッシュフォード学園の経営者であり、過去においてはマリアンヌ皇妃の後ろ盾としてKMF開発の最善にあった家である。
ロイドの関心は当時の最新鋭機体であるガニメデにあったのだが、そんな本音を知りつつも没落途上にあったアッシュフォード家としてはアスプルント伯爵家との繋がりを求めていたとも聞いていた。
「うん? ああ、それだったらとっくに破談になったよ」
「ええっ!? 向こうから熱心に働きかけてきたんじゃ無いんですか??」
「最初は相手の孫娘も面白い子だし、ガニメデの事もあったから良いと思ったんだけどねえ。ゼロの騒ぎになってから、『やっぱり孫はやれん。ガニメデに資料だったらいくらでもくれてやるから、とっとと軍を辞めてうちに来い』とか言いだしてねえ」
思いがけない返答にセシルは目を丸くするが、ロイド自身、ガニメデの資料を労せずに手に入りそうな状況だったため、破談に関してはまったく気にしていなかったので口にしなかったのである。
実際、ルルーシュの決起を告げられた以上、ルルーシュの相手としてミレイは自分達の元に残しておかねばならなくなったアッシュフォードとしては、伯爵相手であろうと破談という無礼を切るしか無かったのである。
ルルーシュ自身はロイドを味方にするためにもと言う気持ちから受けてはどうかとミレイに言ってしまい、彼女だけで無くシャーリーとソフィー。さらにはナナリーからも盛大なビンタを食らって目を回したあげく、土下座するはめになったのだが、ロイドとしてはガニメデのみならず、アッシュフォードの技術まで手が届きそうな状況は歓迎するしか無かった。
とは言え、彼もそう単純な人間ではないため、ゼロの登場とアッシュフォードの動きに関係性になんとなく察する事があったため、今のところは当初以上の接近は無い。
だが、どこかそれまで以上の警戒心を感じてはいたのだが。
「シュナイゼル殿下も残念がっていたけど、相手が断ってきたんじゃしょうが無いしね~」
「それじゃあ、スザク君の入学は……」
「そっちも断られちゃったよ。副総督も残念がっていたけど、一族総出で土下座しに来られたら何にも言えないよ。ジェレミア卿にも先に言えって怒られちゃったし」
こちらはルルーシュの決断だったが、シャーリーやミレイを巻き込んでいる以上、スザクを学園に近づける事はユーフェミアを呼び込む事になるため、ジェレミア達も納得していた。
「僕は大丈夫ですけど、アッシュフォード家の皆様にそんなことをさせちゃうなんて」
「日本人だからとかじゃ無いと思うけどね。ゼロ騒ぎのせいで退学だ、休学だの騒ぎが増えて処理が大変らしいから」
「たしかに、ただのテロどころか、ラウンズまで負けてしまう状況では子どもを預けてなんかおけないですよね」
「そう言うこと。まあ、コーネリア殿下が来た以上は、ランスロットの出番も増えるだろうからね。スザク君にはもっと頑張ってもらうからね? ラウンズ達のことは一旦忘れること!! いいね?」
「イエス、マイロード」
実際の所、コーネリアは姿を消したヴィクトルの捜索や解放戦線の残党討伐、きな臭い動きを見せている中華連邦など、戦の火種を感じ取って意気軒昂であり、かつモニカ達に対する本国の仕打ちに憤りを感じており、戦場が産まれる機会は増えるだろう。
ロイドとしては、ランスロットの出番が増えることを喜ぶ反面、現在の状況を作り出したであろう勢力、いや、人間の事がどうにも引っ掛かって仕方が無かった。
(すべての事もゼロの手のひらだとすると、彼がそのままコーネリア殿下に挑んでくるとは思えないけどねえ……)
そんなことを考えつつも、彼は自身の興味を優先する。自分はあくまでも技術者であり、KMFの開発や発展に尽くすためのパーツでしか無い。
自身に対してそう言い聞かせたロイドは、なおも繰り返される画面の人物の映像を一瞥し、自身が生み出した白き巨人へと視線を移した。
◇◆◇◆◇
『ブリタニアに、いや、不当な力に虐げられしすべて者達よ。かつて、私は力ある者を裁くと告げた。だが、今この場において、それは過ちであったと言おう』
画面に映る仮面の男は静かに語る。
その背後には、彼とよく似た仮面をまとった人間達が居並ぶ。かつて、彼は一人であった。だが、行動によってその力を証明した彼の下には画面に映るように多くの人間達が集い、力に対する抵抗を選んでいる。
そして、彼が今過ちと言った言葉の意味を告げる映像が流れ続ける。
ナイトオブラウンズですら、冤罪を塗りつけられておもちゃのように殺される。実際、モニカとドロテアは生存しているが、それはあくまでも彼女達が人間離れした存在だからであり、ドロテアと共に濁流に呑まれたレジスタンスは大半が死亡している。
そんな映像が流されたのち、場面は再び仮面の男とその幕下に集った者達へと変わる。
『彼女等のように、力ある者であっても、不当な暴力と権力によって蹂躙され、その地位を奪われ、尊厳や生命までもまるでおもちゃのように破壊される。そして、それを行ったのは、撃たれる覚悟も無い、不当な力を行使した者達であるっ!! 私は再び誓おうっ!! 不当な力を持って、他者を蹂躙するすべての者達を私は裁くとっ!!』
それは、同じようにブリタニアの暴力によって蹂躙される諸国はもとより、彼によって糾弾されたブリタニア側にも伝わっていく。
中華の地にて、同じように不当な力によって民を、そして本来の為政者を抑圧する者達に抵抗する者達が。
遠き欧州の地にてブリタニア本国からの圧迫と歴戦の仇敵との戦いに明け暮れる者達が。
現状に甘んじ、国内の体制を維持することで平和を実現しようという者が。
変化を嫌い、世界を今日で固定すべきとの考えが頭をよぎった者が。
支配を肯定しつつも下賎なやり口を苛立ちを覚える者が。
そして、謀略を持って他者を害した事実に怒りを覚えた姉と世界を覆う理不尽な現実に心を痛める妹という相反する思想を持つ姉妹が。
かつて、仮面の男の言葉を冷めた目で見つめ、はたまた現状の維持を望み、もしくはその存在に怒りを覚えた彼等の多くが、表に出た現実に無言のまま映像に視線を向けていたのだった。
そんな世界の状況を知ってか知らずが、ブリタニア皇宮の奥深くにあって三人の男が邂逅していた。
「兄上……。起きてくだされぃ……」
ベッドに寝かされたヴィクトルに対するシャルルの言は、正に凍り付いていると言うほどに冷たい。
シャルルの背後に控えるビスマルクの視線もまた同様に冷ややかなモノである。
説明するまでも無く、彼等は怒っていた。それまでの勝手を許して来たのも、政敵の排除や政争における暗闘をヴィクトルが担ってきたという事実が彼等の下にはあったのだ。
だが、行き過ぎた結果が今の結果である。水面下で排除してきた政敵のみならず、味方であった者達にすら疑念を抱かせる。
決して火が点いたわけでは無いが、きっかけ次第で巨大な炎となりかねない火種があちこちに灯されてしまったのである。
「僕を殺すのかい? 今まで、君のために生きてきた僕を」
「兄さんは何度嘘を吐いたとお思いですか? いや、嘘を吐くだけならばまだ良い。何故、マリアンヌを私から奪ったのですかっ!?」
そして、目を見開いたヴィクトルに、シャルルは何年ぶりかとも言えるような感情を表に出して問い詰める。
これまで、マリアンヌの死について、ヴィクトルを問いただしたことなど無かった。
だが、ギアスの事を知るヴィクトルとしては迂闊であったように、マリアンヌは他者を介してこの世にあり、シャルル達にその死に対する事実を告げた。
「男を惑わすのは、いつだって女だよ。シャルル……。君も変わってしまったんだ」
「私の何が変わったと言われるのですか?」
「分からないのかな? マリアンヌだって、C.C.だってそう思ったんだよ。家族を持って、君もビスマルクも優しくなった。 それまで、計画のためにはすべてを犠牲にしてきたというのにね」
実際の所、マリアンヌはルルーシュとナナリーすら計画のための駒と思っていたのに対し、シャルルは歪んでいたとは言え、子ども達に対する愛情は持っている。
当然だが、二人だけでなく、他の子女に対しても。子ども達から畏怖され、憎まれる事も計画のためと耐え続けてきた。
だが、今となっては思考エレベーターの異変は解明されず、コードに対する変異が起こったヴィクトル――V.V.はその理由すら解明できない状況であった。
そして、それらの発端となった事件が彼等には思い当たったのである。
「だから、マリアンヌを殺し、嚮団を奪うべくC.C.すら手に掛けようとした……」
「そうだね。僕が手を下さなくても、ドロテアやモニカを生かして置けば使えると思ったんだけど。シャルルがまさか自分の手駒にしちゃうとはね」
「…………それすらも、貴方は私から奪った」
「なに? 二人にも情が移ったの? まあ、二人はとびきりの美人だからねえ」
「そうではない。ナイトオブラウンズは私に対しては嘘を吐かぬ。その忠義を否定する理由などは無かったのだ」
「偽りの記憶と偽りの忠誠が寝返りの原因なのによく言うよ。うぐっ!?」
兄弟の問答は続く。元々、壊れかけていた関係であり、互いの一方的な思いをぶつけ合っていた結果とも言える。
だが、それもまもなく終わりを告げようとしていた。
怒りの表情と共に、ヴィクトルの首を掴み、その身に残っていたコードの残滓を奪い取るシャルル。
「兄上、いや、ヴィクトル・キングスレイっ!! 貴様からナイトオブサーティーンの地位を剥奪し、ブリタニアから追放する。二度と、この皇宮に足を踏み入れることは許さぬっ!!」
そして、すべてを震えさせるような怒声と共に、押し入るように謁見の間に入ってきたのは、ノネット、ルキアーノ、ジノと言ったラウンズとその麾下の近衛騎士達。
だが、そんな彼等の姿を、ベッドから起き上がったヴィクトルは鼻で笑うように見つめると、無言まま黒装束の者達が沸き出すように地下から現れる。
シャルルとビスマルクの“時を止め”、“心を読んだ”ヴィクトルの手駒達である。
「良いのかい? 今更、コードを奪ったところで計画の実行なんて不可能。何より、コードを奪ったぐらいで彼等が僕を見捨てるとでも?」
ゴミのようにシャルルに投げ捨てられたヴィクトルは表情を歪ませて、シャルル達をにらみ付ける。
たしかに、今目の前でシャルルがヴィクトルいや、V.V.からコードを奪って見せたにも関わらず、嚮団員達に動揺は無い。
絶対遵守のギアスというわけでは無いが、長年に渡る人体実験や調教と呼ぶべき忠誠の植え付けによって、ギアスユーザー達がV.V.に刃向かう意思などを持つ事は無い。
さらに、彼に逆らうことが出来ない理由も彼等にはあった。
そして、それを思い返して、慌ててギアスを発動させようとするシャルルであったが、ほどなくしてV.V.の両の眼もシャルルと同様に紫の翼をはためかせる。
「忘れたの? コードなんてなくても、僕にギアスは通じない。ギアスと嘘によって苦しめられた僕たちが望んだことを、君は忘れてしまったんだね」
シャルルの記憶改変ギアスを打ち消したV.V.のギアス。それは、ジェレミアの持つギアスキャンセラーと同等。いや、それ以上の効果を持ち、ギアスの発動そのものを停止される、ギアス・サイレント。
ある意味で、他のギアスとは一線を画す変種とも呼べるギアスであった。
かつて、V.V.とシャルルの母はブリタニア皇室のお家争いの果てに殺された。そして、母のみならず、多くの味方も同じ運命を辿り、他には彼等を裏切り、欺こうとする人間達も多くいた。
幼い兄弟が生き残るために“神の力”を欲する事に躊躇があるはずも無かった。そして、その呪いによって、二人もまた引き裂かれようとしていた。
「……兄弟の思いも約束も忘れた男が何を言うか」
互いに約束にこだわり、計画の実行のみに動いてきた男達。だが、その双方が果たされなくなった今、彼等にとっての過去はすでに帰る事なき日々でしか無かった。
「V.V.。ギアスユーザーを集めたところで無駄だ。我らラウンズ、ギアス如きに後れは取らん」
そんなビスマルクの言に、何事かと顔を見合わせるノネットやジノだったが、V.V.――ヴィクトルを守るように動いた黒装束の者達のシャルル達に対する殺気に、当然のように戦意を滾らせる。
ビスマルクが言うように、ラウンズとしての矜持に掛けて皇帝を害させるわけにはいかなかったのだ。
しかし、思いがけない事態が起こった。
それまで、シャルルに対して怒りと恨みの籠もった表情を浮かべていたV.V.や黒装束の者達が、気付いたときには目の前から消えていたのである。
「な、何事だっ!?」
「陛下っ!!」
「大事ない。……ヤツらのことは捨て置けぃ」
そんな状況に目を丸くしたノネットやジノだったが、いずれにしろ、守護対象たるシャルルを守らぬわけにはいかず、彼の下へと駆け寄る。
シャルルにとって、コードを奪った以上、ギアスユーザーのみを従えた兄など取るに足らぬ存在でしか無かったのだ。
◇◆◇◆◇
世界中を巻き込んだ騒動へと発展した一連の事件。
だが、この内幕に関わった人間達には別の問題が生まれようとしていた。当然、覚悟を持ってそこに関わった者達では無く、巻き込まれた形で関わらざるを得なかった者を中心として巻き起こる問題でもあった。
「私は、ルルーシュ君がゼロだろうと、皇子だろうと何も変わるつもりは無いし、ミレイちゃんやシャーリーが自分の意思でそれに加わるなら止めたりもしない。でも、私を巻き込むのは止めて」
騎士団内部でのドロテア、モニカの処遇に対する会議を終え、アッシュフォード学園に戻った際にニーナが最初に言い放った言葉である。
カレンや玉城だけでも衝撃であったのに、シャーリーやミレイが黒の騎士団に加わり、さらにテロリストの親玉であるゼロの正体がルルーシュであった。
そんな事実だけでも困惑するというのに、ゼロによって公開された真実によって、今までの自分すらも否定されたような気持ちになってしまい、元々内向的だった彼女はさらに周りを拒絶するようになってしまったのだ。
それでも、たまに生徒会室に顔を出す玉城とは会話を交わしているため、ルルーシュとしては最悪の事態は回避できるかも知れないと言う希望的観測を抱けてはいる。
とは言え、彼女が背負うことになった取り返しの付かない罪の存在を考えれば、希望的観測だけで片付けるわけにもいかないのが過去を知るルルーシュでもある。
彼女のフレイヤ開発という罪を回避することは、フレイヤ・エリミネーターを生み出した功績も失うことになってしまい、科学者としての才能を埋もれさせることにも成りかねない。
さらに、ルルーシュを悩ませるのは、すでに彼女はたまたまアッシュフォード家を訪れてロイドと邂逅してそのウラン研究の才能を認められ、さらにはユーフェミアとも顔を合わせていると言う事実である。
過去以上に事が動き、さらにシャーリーやミレイ、リヴァルもともに行動する機会が多かったため、ニーナの行動を把握するタイミングが無かったのである。
ルルーシュとすれば、ミレイとロイドの婚約が無くなり、スザクの入学を阻止すればユーフェミアの介入は無くなるモノと考えていたため、ニーナを通じて情報が流出するとは思ってもいなかったのだ。
ニーナにとってはルルーシュ達の情報は身の破滅に繋がる情報でもあり、彼女自身は口が硬いため逆に漏れる可能性も減るようにも思え、ルルーシュもミレイから押し付けられた生徒会の仕事を捌きつつもニーナに対する思考は止まることを知らなかった。
「ルル……、そんなに考えてもしょうが無いと思うよ?」
「私は黙っているって言ったでしょ? いつまでもうなっていないでよ……」
「そうそう。友達を信じなさい友達を」
そんなルルーシュを、気遣うような、呆れるような、窘めるような三者三様の声を上げるシャーリー達だったが、ルルーシュとしても過去を元にした話であることから悩みが尽きることは無い。
「分かっている……。ところで、ニーナ。そのロイド博士やユフィの他にはあった人間はいるのか?」
「ロイド博士の助手みたいな人には会ったけど……」
「セシルか。うーん、まあ大丈夫か」
「だから何がよ?」
「こっちの話だ。まあ、俺は君の研究を邪魔したりするつもりは無いし、邪魔するヤツは騎士団の名にかけて叩き潰すからいつでも言ってくれ」
「だから、それが迷惑だって言うのに……」
ルルーシュとしては、スザクと自分が繋がることが一番まずい。
今はアッシュフォードだけではなく、自分もナナリーも居場所はあるが、スザクは自分と関わったばかりにすべてを得、すべてを失ったと言っても良い。
だからこそ、彼だけは必死に遠ざけているのである。大切なモノを遠ざけず、守ろうと言うのが今回のルルーシュだったが、スザクだけは例外なのである。
彼は守られるような存在でも無く、自分の力で未来を切り開いていくであろう。死にたがったとしても、ロイドやセシルが彼を守る。
二人は自分なんかよりも遙かに頼りになる人間だと言う事は、ルルーシュは最後まで自分に従ってくれた事からもよく分かっていたのだ。
「まあ、考え込んでも仕方ないぜ? ニーナだけ仲間はずれにしていたのは気が咎めていたし、知っているヤツが外部にいるってのも悪くないんじゃ無いか?」
「私は知りたくなかったんだけどね」
「文句は玉城達に言ってくれ」
「何よ、私が悪いって言うの?」
「はいはい、喧嘩しない。ニーナは巻き込まない。これは全員の約束。良いわねっ!!」
そして、再び喧々囂々言い合いが始まりそうであった生徒会室の雰囲気をミレイが押し止めるように場を締める。
思わぬ状況にはなったモノの、タチカワ事変以降、ブリタニア全体が混乱状態にあり、騎士団とキョウトが目を光らせる日本は逆に久方ぶりの平穏に包まれつつあった。
◇◆◇◆◇
ブリタニア皇宮で起こった一つの決別。だが、それは次なる戦乱の火種となり、それはやがて世界を覆い尽くす炎となろうとしている。
そして、平穏に見える日本とアッシュフォードにあるルルーシュ達の下に灯った小さな火種。
それらもまた、再び一つの炎として燃え上がろうとしていることを、今のルルーシュ達には知るよしも無かったのである。