騎士団の攻勢が始まっていたが、解放戦線側に対する攻勢もまた開始されていた。
コーネリアとゼロの挑発合戦の結果として、日本側は藤堂を動かし、ブリタニア側はチョウフへとランスロットやダールトンなどの一部精鋭を割く結果となった。
コーネリアとしては、スザクへの踏み絵はもとより、ドロテア、モニカ等の進退についても計るつもりがあったのである。
結果として、最前線に出張ってきたドロテアにコーネリアは気づき、今もなお両者の間には、他者が割って入ることが不可能なレベルでの激しいぶつかり合いが続いている。
ブリタニアの魔女とナイトオブフォー。
本来であれば、実現することなど有り得ない激突。だが、結果的に騎士団主力は片瀬一派の籠もるタンカーへ近づけなくなっていた。
コーネリアは騎士のギルフォードとグラストンナイツのバート、アルフレッドの両名を率いて黒の騎士団を引き止め、攻撃部隊への接近を許さなかった。
さらに、海兵部隊を投入して片瀬を捕縛するべく海上に網を張っている所でもある。
藤堂の合流も無く、騎士団の救援もコーネリアに阻まれ、過去よりも多く集まってきた残党達は着実に包囲を狭められていく状況。
タンカー司令室にその身を置く片瀬は自身の破滅が現実のものとなりつつある状況を実感することになる。
「少将閣下っ!! 埠頭左岸の防衛戦が突破されますっ」
「右岸に伏せた自走砲部隊に援護させろ。陸上からの接近を許すな」
「しかし、それでは海上からの攻撃に対する備えが」
「致し方あるまい。騎士団が届くまで耐えるのだっ!!」
ナリタでの壊滅を経てない現状の解放戦線残存戦力は、KMFはほぼ数えるほどであったが、戦闘車両を中心とした火器戦力は各地のゲットーに隠蔽していた車両が多く存在し、脱出に成功した人員によって稼働されている。
現状、流体サクラダイトを抱えるタンカーを守護できれば戦闘車両は砲弾がある限り戦える。
コーネリアは騎士団の攻撃をいなしつつ包囲の輪を縮めてきているが、逆に考えればコーネリアもまた包囲された状況にあるのだ。
もたらされている情報が真実であるならば、自身等の捨て身の攻撃を破綻させたナイトオブフォーも自分を苦しめ続けてきたナイトオブトゥエルブも自陣営に加わっているという。
時間さえ稼げばいかなコーネリアといえども攻撃を防ぎきれはしないはずである。そんな考えが現状、片瀬が縋る最後の糸でもある。
『こちら上甲板っ!! 敵工作部隊がっ!? ぐわっ!!』
「何事かっ!!」
『敵襲。敵歩兵部隊が乗り込んできますっ!!』
『さらに上空より敵っ!! 空挺部隊が降下してきますっ!!』
「少将閣下っ!! 海上に海兵部隊が出現っ!! こちらへと向かってきます」
そんな最後の望みに希望を託していた片瀬の下に届く報告は、すべてがその望みを絶っていくかの如き報告。
KMFが戦場の主役となった今の時代にあっても、歩兵戦力は当然のように存在している。そもそも、KMFとてRPGのような携行兵器をもろに食らえば一撃で沈んでしまうし、精鋭が乗る戦車等にKMFが沈められたケースはいくつも存在する。
そして、『要人捕縛』の主役は今もなお精鋭歩兵の役割でもあった。
KMFや戦闘車両の壁に守られている片瀬の心情をコーネリアは当然のように見切っており、火砲の支援が難しいタイミングを待って歩兵部隊を突入させてきたのである。
「タンカーが仇となりましたな。乗り込まれてしまっては、重機関銃などの備えもありません」
「ぬうっ!! 騎士団は何をやっているっ!!」
「騎士団はさらなる難敵と交戦中です。閣下っ!! ここは我々で対処するしかありませんぞっ!!」
「こんな状況でか……。もはや、これ以上は」
「あなたは指導者ですっ!! 負け戦にも作法がございます。ここで降伏したところで、コーネリアが一兵たりとも許すとは思えません」
「っ!?」
状況の変化に終わりを悟った片瀬であったが、参謀の言葉に込められた意図を悟る。
この状況下で降伏を申し出たところで、コーネリアがそんなことを認めるわけもなく、待っているのは一方的な殺戮である。
騎士団も騎士団で、我が身かわいさに命乞いをする片瀬を救出する義理など無くなり、無益な犠牲を出したことを悔やみながら撤退するだけだろう。
負け戦にも作法とは、片瀬の身は終わろうとも兵達の死を減らす努力をすべきと言う事である。
少なくとも、コーネリアが助命を許さざるを得ないぐらいの犠牲がブリタニア側にも必要なのである。
それを悟ると、片瀬はゆっくりとうなずき、司令席から立ち上がる。
こうなっては前線にて陣頭指揮を取り、敵をはねのける以外に助かる道は無い。少なくとも、タンカーの周囲にはまだまだ味方がいるのである。
そして、そんな状況である以上、敵は精鋭であっても数は少数であるはずだった。
◇◆◇◆◇
送り込まれたコーネリア側の奇襲は片瀬の陣頭指揮で何とか撃退したとの報告がルルーシュの元に届いていた。
「ほう? 思っていたよりやるではないか」
過去にあってはブリタニアへの降服や逃走のみに活路を見出そうともがくだけの無能という印象だったが、どうやら補佐する人間に多少はマシな人間が居る様子である。
「ナリタは失敗であったか」
一人、そう悔恨するルルーシュであったが、当面はコーネリア軍との対峙する以外には無い。
片瀬の救出と銘打っているが、実際の所は地位に相応しい責任を取らせることが主目的である。
こちらが提案した事であるが、キョウトとしてもモニカより明かされた事実上の内通や重ね続けた敗北を看過する事は出来なかったようだ。
過去に対する最終結果は同じでも、兵士やサクラダイトをはじめとする物資を無駄に消耗させるわけにもいかないし、“その死に意味を持たせる”事がこれまでの業績に対する対価。
これが、キョウトの老獪達が下した決定であり、甘さがあるとしてもルルーシュの意図に適う。
藤堂とのいらぬ軋轢をキョウトが背負ってくれるのならばそれに甘えるのも悪くは無いと考えるのだ。
そのためには、困難であろうともコーネリア軍を突破し、解放戦線の残党と合流する必要がある。
片瀬の責任と引き替えなのが、解放戦線兵の命であるのだ。
『ルルーシュ、準備は出来ているけど、こっちはまだ動かないのっ!?』
そんな時、激しい交戦の様子がもたらされ続けるのに焦れたカレンが口を開く。秘匿回線であるから名前を呼ぶことを許可しているが、それでも戦場においてはひやひやモノである。
「ミレイや咲世子を信じろ。今は待つときだ」
『でも、ドロテアやジェレミアだけに良い格好させるのも』
「嫉妬か? カレン」
『そういうわけじゃ』
「二人とそれに従う近衛騎士や一部の穏健派は、それ相応の覚悟を持って祖国へと牙をむいている。そこにお前達の日本解放への覚悟との違いはない」
『…………分かっているわよ』
「ならいい。ミレイ、そちらの状況は?」
そんなカレンを窘めつつ、ジェレミアやドロテアの置かれた状況を端的に告げる。
シャルル体制下のブリタニアを崩壊させ、正しき道へと導く。これが、ルルーシュ自身が彼等を率いる上で約束した目的である。
過去のように、ブリタニアへの憎しみだけで戦っていたならば、ジェレミアはともかく、ドロテアもモニカも自分を阻む盾として最後まで抵抗してきただろう。
ギアスによる植え付けられた忠誠であったとしても、祖国を守ることへの阻害にはならない。
カレンとしては、ハーフとして自身に流れるブリタニアの血を否定したいという思いはいつまでも引きずる問題でもある。だからこそ、彼等と戦場を共にする事への抵抗は当然あるだろうし、生徒会相手のように割り切れるモノでは無いだろう。
とはいえ、ジェレミアもドロテアも批判や憎しみは受け止めているし、罵声を浴びる覚悟を持ってこちらに組している。
特区では無いが、先に譲歩した彼等を切り捨てることは信義に反する以上、彼女の気持ちを優先する事はルルーシュには出来ない。
それを告げたルルーシュは、改めて工作のために動くミレイへと通信を送る。
『準備は完了しています。今は工作兵の撤収中ですっ』
「分かった。撤収が完了次第、作動させろ」
『了解っ!!』
ミレイの普段とは異なる凜とした声にルルーシュは違和感を感じつつも順調な進行に一人肯く。
ゲフィオンディスターバー。
ラクシャータが開発を進めているサクラダイトへの干渉技術であり、いまだ試作段階であったが、今回は埠頭に張り巡らされた地下水路を用いての実戦テストを兼ねる。
直接照射によって効果を生んできたが、それには相応の準備がいるため、奇襲に使うための準備は必要になって来る。
ラクシャータ曰く、直接照射でなければ膨大なエネルギーを必要とする。そのため、タンカーへと繋がる一部線上にて作動すれば良いと割り切り、設定した突入路地下にある水路に工作部隊を派遣していた。
コーネリアに対する挑発で開戦時期を操ったのは、作業の目処が起つまでの時間稼ぎという意味合いもある。
コーネリアにとって、片瀬を捕らえられればそれはそれで良く、標的は騎士団やドロテアであったため、こちらの意図にわざわざ乗ってくるであろう事は予測済みであった。
当初はコーネリアに対して使用する意図もあったが、それはドロテアの意思を尊重した。
彼女は信義を証明するべく、自力でコーネリアを打ち破ってみせるとキョウトに対して告げ、今もなおコーネリアに対して互角からやや優勢と言う状況を維持している。
コーネリアが片瀬に対して仕掛けてきたのは、卜部がグラストンナイツを突破して、挟撃の意図を見せたからであろう。
客将と言う立場は一緒であったが、監視役という意味合いもあった卜部だったが、一度戦ってからドロテアの事を認めており、片瀬に対する処分も彼だけには告げてある。
少なくとも、今回の自分は切り捨てるだけで片瀬達を片付けるつもりは無いと言う事だけは真実であるのだ。
『おっ!? ルルーシュ、敵の動きがおかしいぞっ!?』
「ミレイっ」
『ゲフィオンディスターバー作動っ!! ですが、時間は限られますっ!! 急いでくださいっ!!』
「よしっ、行くぞカレンっ!! リヴァルっ!!」
そんな時、無言で前方を注視していたリヴァルが声を上げる。
それと同時に声を上げたルルーシュとミレイであったが、どうやら策は成ったと言う事であろう。
何事かと困惑するブリタニア軍の様子に、ルルーシュは機体を駆ると、それを追い越すようにカレンの紅蓮とリヴァルのサザーランドが突撃していく。
『弾けろっ!! ブリタニアっ!!』
『悪いな。これも戦争だっ』
先ほどの苛立ちをぶつけるように機体をなぎ倒していくカレンと冷静に敵を潰していくリヴァル。
カレンはともかく、リヴァルがこんな才能を持っていたと言うことにルルーシュは驚きつつも、彼の父親のことを考えれば当然かとも納得する。
すでにルルーシュの元に届いている情報によって、噂は真実として納得している。
「ふ、親子揃ってナイトオブワンという未来というのも中々良いんじゃ無いか? リヴァル」
『ん? 何か言ったかっ!?』
「なんでもないっ!! リヴァル、ミレイに良いところを見せるチャンスだぞっ!!」
『この野郎っ!! 会長の気持ちを知っているクセにんなこと言いやがってっ!!』
『あんた達っ!! ふざけてないで戦いなっ!!』
独り言のつもりが回線を通じてリヴァルに届いてしまったようであり、それに苦笑したルルーシュはリヴァルを煽るつもりでミレイのことを口にする。
とは言え、それはリヴァルにとってはいらない古傷を抉られるだけであり、端から見たら友人イジメの構図となる。そんなやり取りに今度はカレンが怒声を上げる番であった。
とはいえ、そんなやり取りが可能なほどに、ブリタニア側の抵抗は困難になっているのだった。
試作機であるため稼働時間は残り僅かであろうが、カレンとリヴァルが順調に突進しているため、ルルーシュ達は後方からの支援に努めるだけで一気にタンカーまでの距離を詰めていける。
そして、ゲフィオンディスターバーの効果が切れる頃には、日本解放戦線のKMFと交戦中のブリタニア軍の後背を付く形を整えていた。
◇◆◇◆◇
騎士団のKMFがついにブリタニア軍を突破し、包囲網に穴が空いたことを見届けた片瀬は、なんとか戦況を好転させた甲板よりタンカー内部へと戻っていた。
「一時はどうなるかと思ったが、さすがはゼロと言うべきか」
膠着していた戦場にあって、動きの悪い一点を見極めて一気呵成に責め立て、包囲網に穴を穿ち包囲部隊はおろか海兵隊すらもあっという間に全滅させてしまったゼロ直属部隊。
特に、先頭を駆ける二機の動きは凄まじく、藤堂や四聖剣以外にもあれだけの猛者が隠れて居たことにも片瀬は驚きともに頼もしさも感じていた。
いずれにしろ、これで脱出も為ると思い、機関部へ出向を命じた片瀬だったが、通信機構が破損したのか音信不通となってしまっていた。
そのため、司令室へと戻って改めて指示を出そうと考えた片瀬であったが、司令室へと戻ると、誰もいない室内に巨漢の後ろ姿があったことに驚き目を見開く。
「来たか、片瀬」
「お、刑部閣下っ!?」
室内にいたのはキョウト六家の一人、刑部である。
元々、片瀬の上官であり、出自を背景にした事実上の陸軍の支配者であった人物。弔鐘の森事件で全滅した陸軍首脳部の中で唯一の生存者と言っても良い存在である。
「中々息災のようで安心したぞ。ナリタを捨て、トウキョウ租界へと奇襲を掛けた事には驚かされたものだ」
「はっ。もったいなき御言葉……むぐっ!?」
そんな刑部の言に、片瀬は額に汗を浮かべながら敬礼するも、即座に背後にいた参謀が片瀬の口元を手で覆い、それ以上の言葉を紡がせない。
そして、次の瞬間に脇腹に感じる焼けるような痛み。驚きと共に参謀へと目を向けた片瀬だったが、参謀の表情に苦悩の色は感じられず、淡々と任務をこなすべく行動している男の表情だけがそこにあった。
「貴様は良く戦った。教育畑で実戦には向かぬが、それでも多くの将兵を惹きつけるだけの何かが貴様にはあったのだろう」
口元を塞がれ、痛みと死への恐怖に目をむく片瀬に対し、刑部は淡々と口を開く。
「壊滅した解放戦線を最後まで率い、残党の集結とレジスタンスを糾合させ、未来のために道を残す。……貴様の功績は、日本の歴史が続く限り語られるだろう」
やがて、痛みが遠のくと同時に意識も遠のき始める片瀬に対し、刑部はさらに言葉を続ける。
実際、残党をまとめあげ、ブリタニア軍を迎え撃つ体制を整えた手腕は認めるところでもある。
ゼロやキョウトを信用できない者達にとって、片瀬は受け皿として機能し続けていたのだ。
「モニカ・クルシェフスキーとの内通。これは、彼女が墓場まで持っていくであろう。だが、中華連邦との内通は看過できん。何より、貴様を信じて付き従ってきた兵達の希望を奪うことになる」
目元を鋭く片瀬に向け、静かに糾弾する刑部の言に、片瀬は遠のく意識の中ですべてが終わったことを悟る。
内通が露見した以上、軍人に待っている結末は“死”以外の何ものでも無い。だが、それが表に出る形となれば、片瀬を信じてきた兵達の戦いの意味が消えてしまう。
ブリタニアとの戦いはまだまだ続く以上、“仇討ち”への思いは残す意味があるのだ。
「貴公の犠牲が、勝利のための礎とならんことを」
静かに崩れ落ちた片瀬に対し、静かにそう告げると、刑部はその場を後にする。後始末は参謀達がぬかりなく行う。
刑部がこの場に現れたのは、陸軍の支配者として、敗戦国の残滓の葬送が最後の役割である事を自覚していたからである。
藤堂は抵抗の象徴となるべくキョウトによって作られた英雄だったが、片瀬は旧陸軍の象徴として存在し続けていた。
その死を以て、敗戦した旧軍は消滅し、新たな抵抗勢力として生まれ変わる。そのための生け贄に、長年後ろ盾として彼を支えてきた刑部は自らの部下を捧げたのである。
「ゼロよ。……これが我々の責任だ。後は、よろしく頼むぞ」
一人、そう告げると、刑部はさっさとタンカー最深部へと向かう。そこには、秘密裏に備え付けられた格納庫。
そこには、小型の潜水艇が着艦できるようになっており、激しい交戦の最中に撃沈の犠牲を覚悟して刑部はタンカーへと乗り込んできたのである。彼も彼なりの責任を果たすべく。
アンケートに回答頂いた皆様、ありがとうございました。
やはり、相棒はC.C.という方が多いようですね。結果を基に今後の創作に繋げようと思います。ご協力、ありがとうございました。