コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第二十三話 交わらぬ道

 片瀬少将の自決を知らされた藤堂達は負傷した千葉の見舞いを終えると、憮然としたまま待機所へ戻る。

 

 待機していた他の旧解放戦線兵やレジスタンス出身者等の出迎えを受け、少々気恥ずかしい様子で奥へと歩みを進める藤堂等。

 組織が壊滅したとは言え、藤堂の名声は衰えること無く、また、ランスロットと枢木スザクに煮え湯を飲まされてきたレジスタンスからしてみれば、打ち倒せなかったとはいえ、ランスロットを追い詰めて見せた藤堂を賞賛している。

 とは言え、藤堂からしてみれば重荷が増えただけという思いもある。加えて、かつての教え子である枢木スザクがパイロットになったという事実や片瀬の死という衝撃が重くのし掛かっている。

 

 

 

「ふう……もう一杯良いか?」

 

「藤堂さん、あまり飲み過ぎるのは」

 

「酔えると思うか? 片瀬少将に対して私は何も出来なかったのだ」

 

 

 

 待機所内で藤堂と四聖剣専用に間仕切りされたスペースに座した藤堂は運ばれてきた日本酒を躊躇うこと無く飲み干し、次に取りかかる。

 上官の疲弊を察している朝比奈が心配そうに声を掛けるも、藤堂の疲弊も理解できるためそれ以上は何も言わずに酒を注ぐ。

 

 

 

「卜部、お主も何も出来なかったのか?」

 

「俺は前線でドロテアの補佐役にされちまったのでね。グラストンナイツを抑えるだけで手一杯でしたよ」

 

 

 

 そんな藤堂の姿に、自決の真相を知る卜部の心情を探ろうと、ある程度の真実に辿り着いている仙波が口を開く。

 黒の騎士団がタンカーに届いたのを待ち、甲板での白兵戦を指揮していた片瀬は一部の側近達と共に内部へと戻っていったと言うが。

 参謀を務めていた大場大尉が片瀬の姿が無い事をいぶかしんで司令室へ戻ったときには、片瀬と側近達は割腹していたという。

 

 

 

「解放戦線の壊滅に対する責任を取ったのだろう。昔から、あの方はそうであった」

 

 

 

 仙波等の言に、藤堂は瞑目しながらそう口にする。

 士官時代に彼に師事し、軍人としての基礎を学んだ身であり、その後の軍生活でも何かと片瀬に面倒を見てもらった恩があると言う。

 朝比奈のように若い軍人からすれば、片瀬は上級軍人であるためその人となりは分からず、藤堂が言うならそうなのだろうと思い、死したる上官を偲ぶ。

 ただ、仙波のように純粋に日本軍時代が長い人間や卜部のように参謀畑の経験がある人間は片瀬をそこまで崇拝する藤堂の姿勢に関しては疑問が残ってもいる。

 彼の軍人として、武人としての実力は認めているが、あまりにも入れ込みすぎだと言う事に。

 

 士は己を知る者の為に死す。とは言うが、この辺りは軍人としての意識が強い仙波や卜部と武人的な意識が強い藤堂の違いであろうか。

 

 

 

「大場大尉達はその後は騎士団に保護された者と海外に脱出した者に別れたと聞くが」

 

「ええ。負傷者は騎士団側の手当てを受け、希望者は入団し、希望しない奴は俺が連れてきて、重傷者は偽造書類で入院させています」

 

「堀内少佐達のように騎士団入りを選んだ者が何人も居るのか……」

 

 

 

 少佐――堀内今朝雄少佐は当初は草壁中佐と道を同じにすべく行動していたが、ノベヤマでの戦いで騎士団に捕縛され、そのまま彼等に投降している。

 草壁ほどでは無いが、国粋主義者の一人であるが、彼のように藤堂達に敵意を見せるタイプでは無く、日本第一主義者と言うべきか、ホテルジャックにしても純粋にブリタニアの要人を捕縛出来れば良いと言う思いもあったと卜部は聞いていた。

 とは言え、藤堂を過剰に信頼する片瀬に対する不信もあったのではないかと言う予測もあった。

 

 

 

「ブリタニア人が何人も居るって言うのになんでまた」

 

 

 

 藤堂の嘆きを含んだ声に朝比奈も眉をひそめながら口を開く。

 

 解放戦線という独立した組織だったが、草壁の暴走を期に組織は崩壊してしまった。そして、それに相反するように黒の騎士団は拡大する一方である。

 この中で唯一ゼロの正体を知らない朝比奈でも、騎士団中枢に多くのブリタニア人が集まる現状を考えれば、その正体には察しが付く。

 あくまでも、その正体が“ブリタニア人であろう”と言う事だけだが。

 彼のようにブリタニア人自体に嫌悪感を持つ人間は、仮に救出された恩があろうとも、轡を並べることは出来ない。

 

 

 

「キョウトにだってブリタニア人は居るだろ? それも、“モニカ・クルシェフスキー”って言う超大物が」

 

「草壁中佐の暴言はともかく、軍高官の排除とかを考えたのは事実なんだろ? なんでまたあの女を助ける必要があるんだ?」

 

 

 

 卜部の言に、朝比奈は不愉快だという態度を隠さずに口を開く。たしかに、モニカは日本側に投降した際に、“弔鐘の森”に繋がる計略を図ったと言う。

 ただ、彼女は軍人として、騎士としてブリタニアの為の計略を考え出した。それがあのような組織的な虐殺に至ったのは単にブリタニアという国家の病気のようなものだ。

 

 自分達に従わない。考えを受け入れない。そんな人間を下等民族と蔑み、抵抗する者を殺戮する。その先にあるのは、ブリタニアの力による繁栄と安寧。それを妨害する人間など排除して当然。

 

 こう言った考えを持つ人間はブリタニアには少なくない。

 

 

 

「手負いのモニカを討つのは容易い。あの者も自分の罪を知っている以上抵抗はすまい。……だが、十一名の近衛騎士を敵に回せるか?」

 

「俺達や藤堂さんが居れば負けやしないでしょ」

 

「祖国に裏切られてこちらを頼ってきた人間を殺すってのか? ブリタニアと同類にはなりたくねえな」

 

 

 

 投降したモニカ・クルシェフスキーは重傷を負っており、今も入院中だが、その身は彼女と共に投降した近衛騎士達によって守られている。

 出向という形とは言え、騎士団と行動をともにしているドロテアと比べ、朝比奈のようにブリタニア騎士を良く思わない人間が多い以上、近衛騎士達もぴりぴりするのは致し方ないようにも思える。

 そんな空気を感じ、少なくとも剣を交えたドロテアや正体を知っているルルーシュ率いる騎士団のことを好意的に感じていた卜部にとっては、朝比奈の考えには賛同しづらかった。

 

 

 

「そもそも、誠意の証とかいってキョウトに投降したクセに、騎士団と行動しているドロテア一派は協定違反じゃない。それなのに、こっちはご丁寧にモニカを大事にしろって?」

 

「合同するのはお前さんだって嫌がっていただろ。少なくとも、ドロテアはコーネリアと真正面からぶつかっていたんだし、相応の誠意はあるぞ?」

 

「なんだよ……。ヤケに肩を持つな」

 

「お前が突っかかりすぎなんだよ」

 

 

 

 この辺りは、実際に干戈を交え、戦場をともにした卜部だからこそであり、干戈を交える機会もなく、ドロテアの人となりなど知らぬ朝比奈からしたら彼女等は敵対者のままである。

 

 本人の資質の違いもあるが、朝比奈は基本的に藤堂の指揮下に居られればそれで良く、騎士団等と言うモノも藤堂を三顧の礼で迎えるべきだという考えが強い。

 対して、卜部は藤堂を尊敬してはいるが、あくまでも現場の人という認識であり、指導者というタイプでは無いと思っている。

 厳島の奇跡にしろ、藤堂の武勇とカリスマ性があったとは言え、作戦立案や情報収集は卜部や仙波も力を尽くしたのだ。

 

 朝比奈達が心酔することも分かるが、それはそれで危ういという印象も卜部は抱いているし、朝比奈は朝比奈で中立を気取る卜部の態度が理解できない。

 

 

 

「二人ともそのぐらいにしておけ。いずれにしろ、片瀬少将が亡くなられた以上、我々はそのご遺志を継ぎ、キョウトに仕えるのみだ」

 

「キョウトにしても、日本のためと言うよりは、自分達の権益のためという印象ですけどね。神楽耶様の枢木スザクに対する罵倒とかも為政者としては」

 

「それが日本のためになるのならば良い。それに、神楽耶様からすれば枢木スザクは身内同然。それが裏切りにも等しい行為を働いたのだ。お怒りになられるのも致し方ない」

 

「最終的に日本のためにならなかったらどうするんです? みんな、ゼロにご執心ですけど?」

 

「……そのぐらいにしておけ」

 

 

 

 押し問答とも言うべき二人の口喧嘩に藤堂が口を開いて宥めるも、酒が入っているせいか、いつも以上に軽口を叩く朝比奈は止まらない。

 とは言え、彼の言動にはキョウトに対する含みもあり、それを咎めるわけでも無く口を封じるだけであった藤堂の態度にも卜部と仙波は顔を見合わせる。

 ゼロやモニカ達を不信に思うのは仕方が無いだろうが、キョウトにまで牙を向きかねない言動というのはさすがに行き過ぎだった。

 

 

 

(……真相を話したら崩壊するな俺達)

 

 

 

 そして、片瀬の死が自決では無く謀殺である事を知っている卜部は、そんな藤堂や朝比奈の態度に一人頭を抱えるしか無かった。

 藤堂とその元に集う四聖剣。

 日本人の抵抗の象徴とも言うべき彼等であったが、様々なイレギュラーによってその結束は確実に揺らぎはじめていた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 一つの組織に瓦解の兆しが見え始める中、その原因ともなっている者達は再びキョウトへと集結していた。

 

 ブリタニア軍時代から謀略を進めてきたモニカの元に、いよいよ中華が動き始めた事を知らせる情報が舞い込んできたのである。

 本来、彼女はその暴発時期を操り、片瀬と澤崎を連携させて日本に呼び込むことで一網打尽を狙っていた。

 あわよくば藤堂鏡志郎をも討ち果たしてしまう心づもりであった彼女だったが、本人がブリタニアに裏切られるという結果を受けてその謀略も破綻してしまっていた。

 

 

 

「はた迷惑な謀略の種を残しておいてくれたモノだ」

 

 

 

 そんな事情を加味し、公方院が首を振るう。

 

 実際、澤崎は傀儡以上の価値も無く、行き着く先は片瀬ともども敗北の象徴として処刑されるだけだという結末。

 だが、今はそれを裏で操っていたモニカは介入できず、かつモニカが描いた絵であるが故に完成度がひどく高くなってしまっている。

 

 

 

「だが、これを抑えれば中華に対する楔になる。澤崎の背後にあるのは大宦官達だ。反動勢力からすれば、天子を蔑ろにする行為が面白いはずは無い」

 

「黎星刻率いる若手軍人の一派が最も強硬派だという。彼等の背後に居る天子派の軍人も面白くはあるまいな」

 

「問題は、大宦官達の勢力が強すぎることだ。現状では、反動勢力を煽ってこれを妨害することは不可能に等しい」

 

 

 

 ルルーシュ自身、澤崎に対する糾弾とスザク救出という目的があった過去に対し、今回は万一の時の脱出先の確保も求められる。

 となれば、可能な限り日本側で排除したいところであったが、圧倒的な兵力を誇る中華と戦うのは数に劣る黒の騎士団としては最も厄介な相手。

 となれば謀略に打って出るべきだが、大宦官達も日本とブリタニアに対する防波堤を推し進める機会を逃すほど愚かでは無い。

 

 せっかく芽生えている反動勢力を潰してしまう危険は今の時点では犯せなかった。

 

 星刻も非常に有能な人物だったが、時勢を読み違えることが多くあり、今回の事で彼を煽ろうモノならば全力で大宦官と事を構えてしまう可能性がある。

 そうなった場合、反乱はあっさりと鎮圧されるであろうし、天子を盾にされた際には、彼が先陣を切って九州に攻め込んで来るという最悪のケースすら生まれる可能性がある。

 

 藤堂もそうだが、星刻もまた有能なバックに支えられた際の破壊力は格別である。そして、今回に関してはモニカの謀略というバックが存在するのだ。

 

 

 

「いくつかのプランは撒いておりますが、福岡を制圧した後、沿岸沿いに熊本、鹿児島を制圧するというシンプルな案を実行してくるでしょう。数が多い中華とすれば、確たる用兵を必要とはしないはずです」

 

「ゲットー住民への謀略も進み、短期間でブリタニア軍は排除されるであろうな。澤崎を討つ場合、日本人に剣を向けることになる」

 

「ならば、キングを狙うしかあるまい。攻撃が予測される頃には九州地方には台風が接近してくる。お互いそれに乗じた戦いになる。そこで、一気に澤崎と中華側指揮官の捕縛を狙う」

 

 

 

 今回は過去に比べ、すでにゲットーの日本人達への煽動工作も念入りに行われ、侵攻と同時に時間差での蜂起も行われる。

 九州は東京をはじめとする関東ほどの弾圧は無いモノの、元々中央に対する反骨心が強い地方であり、潜在的な抵抗勢力はいくつも存在している。

 中華の傀儡であり、澤崎の個人的な野心の為だけの戦いであっても、それに縋ってしまう者達は多かったのだ。

 

 とは言え、キョウトとしてはそれを迎え入れるわけにも行かなかった。

 

 彼が見せる独立の意思はキョウトをはじめから除外し、既成事実を作ってから迎え入れるつもりである。

 だが、そうなってからキョウトが協力をしたとしても、それはそのまま日本が中華の傀儡となる事に等しい。

 

 それでは屈辱の隷属と抵抗による犠牲がまるで意味がなくなってしまうのだ。

 

 

 

「ルルーシュ様、コーネリア総督へのリークはすでに用意できております」

 

「む? どういうつもりだ?」

 

「わざわざ我々が日本人と戦う必要はありません。我々の敵はあくまでも中華とブリタニア。ならば、日本人を虐げる悪役を用意すれば良い」

 

 

 

 過去では台風による奇襲を受けたコーネリア軍だったが、今回は事前リークで万全の準備を整えさせる。

 それでも、福岡の失陥は回避できないであろうから、それを狙うのと同時に、蜂起した日本人への弾圧を防ぐべく騎士団も介入する。

 当然、中華の支配などこちらが受け入れる筋合いは無いから上陸した中華連邦軍も排除する。

 

 二面作戦の危険はあるが、最初の殺し合いはコーネリア軍に任せてしまえば互いの消耗を狙えるのだ。

 

 

 

「犠牲になる日本人も多くなりそうですね……」

 

「そこは謝る以外にありません。私としても、これが精一杯です。申し訳無い」

 

 

 

 蜂起した日本人がいるとなれば、コーネリアは情け容赦ないだろう。

 結果として、民間人が謀略の駒となる事実に神楽耶が項垂れがちになるも、ルルーシュからすれば、思い悩んだ末の結論である。

 澤崎等を叩き潰すとなれば、エナジーウィングを装備したランスロットで事足りる。だが、今回は民の蜂起もセットである。

 中核にあるレジスタンスも多いため、相応の戦闘が発生するであろう。

 だが、ルルーシュとしても人である。守れるモノには限りがあるのだ。

 

 

 

「ルルーシュ様が頭を下げることはございませんわ。……住民の守護には旧解放戦線の者達も派遣して頂ければと思いますが?」

 

 

 

 そんなルルーシュの心情など疾うに悟っている神楽耶は、自身の弱さが口をついたことを恥じつつも、ルルーシュが特に言及しなかった直属達のことを言及する。

 だが、ルルーシュとしては使いどころが難しくもあった。

 

 片瀬の死は予定調和であったが、ドロテアとモニカの存在が意外なほど旧解放戦線兵達には足枷になっている。

 モニカはともかく、ドロテアは戦場の主軸である以上、前線に出なければならないが、今のところは卜部以外と組ませるのは危険きわまりないし、やはり全体的に黒の騎士団には思うところがある様子だった。

 チョウフに関しては致し方ない面もあったが、詳細を聞くと思いがけない落とし穴がありそうな人員が多かったのだ。

 

 

 

「ルルーシュ様、もう一つ、問題がございます」

 

 

 そして、旧解放戦線兵達の起用法を脳内に描きはじめたルルーシュに、ジェレミアが小声で語りかける。

 

 

 

「…………なんだとっ!?」

 

 

 

 それは、中華連邦以上に厄介な存在が間近に迫っていることを告げていた。




更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

また、誤字指摘やたくさんの感想をいただきありがとうございます。引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。

ただ、大変申し訳ありませんが、さすがに睡魔がキツすぎるため、誤字訂正と感想返信は明日夜におこないますので、ご了承ください。

せっかくの御指摘やご感想を無碍にしてしまい、大変申し訳ありません。

それでは。
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