コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第二十六話 波涛③

 嵐はまもなく去ろうとしていた。

 

 膠着していた戦場はそれを合図に動き始めるだろうとルルーシュは思っていた。ただ、こちらにはかつてのようなガウェインは無い。

 そのため、航空戦力の駆逐が鍵となるが、現状でそれを成せるとすれば、やはりジェレミアのサザーランドローヤルに搭載されたオルガン砲のみとなる。

 

 ホテルジャックで使用したときは電子妨害のみであったが、ラクシャータ達が武器としてのハドロン砲そのものを完成させたため、武器としての使用も可能となった。

 とは言え、まだまだ威力も範囲も小さなモノであり、砲そのものによる攻撃よりも、電子妨害に主眼が置かれるが、航空戦力にとっては最大の武器にもなる。

 

 

 

「ルル、コーネリア総督の軍が動き始めたよ」

 

 

 

 ルルーシュ達、黒の騎士団本隊は、先発隊の吉田等の伝手によって、コーネリア等に先んじて上陸し、福岡基地を中心に福岡平野外縁に展開する中華連邦軍を背後から睨むように身を潜めていた。

 

 

 

「かつて、モンゴル帝国の侵略を退けた際に総司令部がおかれた太宰府……。それが、二度に渡る占領の憂き目に遭うとはな」

 

 

 

 福岡平野を挟んで福岡基地と対峙するような位置にある太宰府天満宮跡地にレジスタンス達は集結し、黒の騎士団もそこに展開している。

 現状、中華連邦側に対する敵対意思は見せていないが、KMFの存在は彼等にとっても目障りなのか、遠巻きに配置されたKMFや火砲群がいつこちらに牙をむくかという状況でもあった。

 

 

 

「気取っている場合か? こちらはどうするんだ?」

 

「とりあえずは静観するさ。スザクに少しは手柄を立てさせてやるとしよう」

 

 

 

 玄界灘に待機していたコーネリアの本隊は順次上陸し、中華連邦側の守備隊と交戦を始めるはず。

 その間隙を縫って四国方面からアヴァロンが突入し、ランスロットによる一点突破で福岡基地を急襲し、澤崎等を捕縛すると言う作戦を取ってくるだろう。

 コーネリア自身、前回の騎士団との痛み分けを痛感したのか、その後のレジスタンス討伐に際してはそれまでの殲滅方式から、包囲方式へと変えている。

 最終的に自ら敵陣に乗り込んで降伏を突き付ける点は相変わらずであるが、今回はさすがにそこまでの危険を冒せないだろう。

 

 今回は討伐では無く、歴とした戦争であるのだから。

 

 

 

「しかし、フロートシステムが完成していたとは、驚きですね」

 

「研究を進めているのはこちらだけではないさ。アヴァロンのような大型艦を複数揃えてきたのはさすがに予想外だったが」

 

 

 

 ランスロットにフロートユニットが搭載されていることは事前に知っていたが、ドロテア達に理由を話すわけにも行かず、ハッキングした情報によって事を知らせている。

 その際、アヴァロンだけでなく、エリュティアという二番艦まで投入してきている。

 嵐が去れば、ランスロットの支援としては万全な形になるだろう。だが、彼等を簡単に英雄にしてやるつもりはこちらには無い。

 

 

 

「私としましては、一番槍の誉れをいただきたかった所ですが、今回は紅月に譲るしかありませんね」

 

「ああ。本人は気付いていないだろうが、象徴としての価値を自ら高めてもらうさ」

 

「後になって怒鳴り込まれそうですね」

 

「二、三発はもらってやるさ。ドロテア、貴公も上手くフォローしてやってくれ。戦場では何があるか分からないからな」

 

「はっ。すでに出撃準備は整っております」

 

 

 

 前線の指揮は前回同様ドロテアに任せてある。

 

 作戦開始とともにこちらを睨む包囲部隊をゲフィオンディスターバーで封じ、秘密裏に福岡基地へと接近して一気に片を付ける。

 レジスタンスからの情報により、敵警戒網を抜けるルートも考え尽くされており、奇襲自体は容易。

 

 問題は、中華連邦特有の膨大な戦力である。

 

 沿岸部の防衛線だけでも長大になるというのに、福岡基地全面には隙間無く部隊が配置されている。

 フロートユニットが燃料を食うとは言え、あのランスロットを活動停止寸前にまで追い込んだのは、単にその厚みが大きい。

 幸いなことに、今回は中華連邦としては傀儡政権の樹立が主眼である以上、澤崎と曹さえ抑えてしまえば、戦力の消耗を嫌って撤退するであろう。

 そのために、福岡湾にある輸送船団は出撃体制を整えたまま待機しているのだ。

 

 

 

『ゼロ、ゲフィオンディスターバーの設置、完了しました』

 

「うむ。シャーリー、マリィ。ブリタニア軍の動きは?」

 

「コーネリア軍本隊は中華連邦軍と交戦を開始。現在、猛烈な勢いで敵を蹴散らしています」

 

「航空戦力はまもなく豊後水道を抜け、国東半島へと差し掛かります。っ!? ゼロっ!! 中華連邦がアヴァロンに攻撃を開始しました」

 

 

 

 ミレイからの通信に肯いたルルーシュは、仮面を身につけるとシャーリーとナナリーから報告を受ける。

 二人の声を受け、正面のビデオパネルに映し出された映像では、敵の迎撃ミサイルをものともせず前進を続けるアヴァロンの姿があった。

 

 

 

「スゴい、アレだけの攻撃を受けてなんともないなんて」

 

「大艦故の強力な防御システムだな。さて、こちらも頃合いだな。双葉、ドロテアに出撃命令を」

 

「はっ!!」

 

 

 

 そんな光景に感嘆の声を上げるシャーリーだったが、ブレイズルミナスもKMFのような小型の兵器であるが故にその調整が難しいが、大型なものは当然容易になる。

 海上であれば、大型船ほど防御力に優れるというのは自明の理でもあった。

 

 

 

「スザク。悪いが、お前にはこちらの引き立て役になってもらうぞ?」

 

 

 

 仮面の下にて、静かにほくそ笑んだルルーシュは、出撃していくKMFの姿を見つめつつ、自身もC.C.が乗り込んでいる複座型サザーランドへと向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 アヴァロンより出撃したランスロットは、中華連邦の航空戦力を屠り、地上にて大量の鋼髏から包囲されながらも福岡基地を目指して進撃していた。

 

 途中、澤崎からの通信によって動揺し、窮地に追い込まれたものの、ユーフェミアからの通信からの告白によって息を吹き返したかのように包囲網を突破し、澤崎等の命運はその手の内にあろうかとしていた。

 しかし、フロートユニットによる消耗と膨大な戦力を持つ相手との戦闘により、ランスロットのエナジーフィラーはすでに限界を迎えていた。

 

 

 

『撃てぇっ!!』

 

 

 

 そして、最後を悟ったスザクの韜晦とユーフェミアの叫びが折り重なったその時、過去においては介入しなかった闖入者がその運命を変えようとしていた。

 

 

 

『弾けろっ!! ブリタニアっ!!』

 

『そいつらは中華連邦だぞ、カレン』

 

 

 

 鋭い声と共に闇夜を駆る赤き機体とそれに続き青い機体。

 騎士団のエース機としてすでにその象徴となっている紅蓮と試作機としてブリタニアより日本に運び込まれ、今ではリヴァルの搭乗機となっているヴィンセントである。

 完全に不意を突かれる形になった鋼髏数機が一瞬にして燃え上がると、奇襲に気を取られた残りの機体もドロテアやジェレミアによって叩き潰される。

 

 

 

『なっ!? 黒の騎士団っ!? おのれ、裏切ったかっ!!』

 

『裏切りとは笑止っ!! 見よ、これぞ忠義の一撃っ!!』

 

 

 

 その赤き機体の出現に、敵が誰なのかを悟った澤崎の声に、ジェレミアが応じると、すぐさま両の手に装備されたオルガン砲が放たれる。

 殺到してきた生き残りの航空戦力は、その広範囲の収束波動によって瞬く間に蒸発していく。

 

 

 

『相変わらず無茶な戦いだな』

 

『ああ、だが今回はバックが居るようだな』

 

 

 

 そして、その場に現れる黒を基調とした機体。今は単なる復座型のサザーランドだが、直に完成するその機体と同じカラーリングを施されたその姿は、テロリストの首魁とも言える禍々しさをまとっていた。

 

 

 

『枢木よ、ランスロットはまだ動くか?』

 

『ゼロ……』

 

『勘違いしない事よ。私達はあんたを助けに来たんじゃ無い。あのおっさん達を叩き潰しに来たんだからね』

 

『君たちの手を借りるつもりは無い』

 

 

 

 そして、ゼロのサザーランドに並ぶように立つ紅蓮より、カレンが鋭くスザクに言い放つも、ゼロはゆっくりとランスロットに対してエナジーフィラーを差し出す。

 しかし、この世界にあっては神根島での邂逅を経ていないスザクはまだまだ頑なである。

 澤崎の言に動揺したように、父親殺しなども表に出ていない彼はまだまだ闇を抱えたままであったのだ。

 

 

 

『あっそ。だったら、これはいらないわね。ヤツらは私達が叩くわ』

 

 

 

 そんなスザクの態度に立腹したカレンは、ゼロのサザーランドからエナジーフィラーを手に取ると、そのまま片隅へと放り投げる。

 ゼロが咎め立てをしないのは、はじめからスザクの態度を予測していたからである。ここで共闘を選んでいればカレンとしても見直すところはあったのだが、相変わらずの態度では話にならなかったのだ。

 

 

 

『君たちが澤崎さんを? 間違った手段を取る君たちにとっては同志なんじゃ無いのか?』

 

『違うな、間違っているぞ枢木。我々は不当な暴力を振るうものの敵だ』

 

『それは君たちと同じでは無いのか?』

 

『何言ってんの。シンジュクでもキュウシュウでも、レジスタンス討伐にかこつけて民間人を攻撃しているのはどこの誰よ?』

 

『……っ!?』

 

 

 

 実際の所、澤崎の行動は本人の野心や傀儡という現実があっても、日本のためという大義名分は存在する。とは言え、招き入れた中華連邦軍による民間人への被害という現実があることから、その大義もまた否定される。

 そして、今のスザクがブリタニアに組する現状はそれ以下と言わざるを得なかった。

 クロヴィスの死に直結したシンジュク事変の後、ジェレミア主導でブリタニア軍の綱紀粛正は進んだものの、それは精々首都圏の駐留軍。

 地方軍はまだまだブリタニア至上主義が残り、今回の騎士団の介入についても、ブリタニア側からの暴虐は案の定発生していた。

 

 

 

『なによ、黙り? だったら、一生そこでうずくまっていればいいわ。私達が澤崎を叩き潰すところを、そこで寂しく見ていなっ!!』

 

『叩き潰すだとっ!?』

 

 

 

 騎士団の動向が掴めない以上、オープンチャンネルのそれを利用してその意図を探ろうとしていた澤崎達からすれば、カレンの宣言は宣戦布告に等しい。

 実際、カレンはスザクに啖呵を切ると、駆け付けてきた鋼髏をまとめて叩き潰すと、ゼロの指示通りにフロートユニットを起動させ、赤きその姿を夜空へと舞い上がらせた。

 

 宵の闇より流れ出る血をイメージするその姿にそれを目にした者達は、その姿に畏怖し、また魅了されていく。

 そうして、それに続けとばかりにドロテア、ジェレミア、リヴァル等は地上から敵を屠り、福岡基地内部へと駆けていく。

 

 

 

『枢木よ、正しい手段でと言ったな。だが、人々の期待を集める彼女とブリタニアに染まっていく貴様の姿。どちらが日本人にとって正しいものかな?』

 

『…………僕は』

 

『まあいい。この戦いに参加しない以上、君はただの傍観者で居れば良い』

 

 

 

 そう告げると、ゼロはエナジーフィラーを取ってランスロットの傍らに放り、ドロテア等を追っていく。

 その最中、ゼロとC.C.の耳に届いたのは、澤崎とカレンの問答であった。

 

 

 

『黒の騎士団っ!! 貴様達は日本を憂う同志であったはずだっ!!』

 

『さっきもゼロが言ったでしょっ!! 私達は不当な暴力を振るうすべての者達の敵よっ!!』

 

『不当だとっ!? 私は日本のためにっ!!』

 

『日本のためだというなら、なんでさっさと中華連邦に逃げてるのよっ!! 私達はずっと戦ってきたっ!! その時あんたは何をしていたって言うのよっ!!』

 

『ぬうっ!?』

 

 

 

 過去においてはゼロとスザクによって詰問され、言葉を失っていた澤崎だったが、今回のカレンの言は実際に戦い続けてきた者の言葉である以上、余計に突き刺さる。

 スザクによる正論とも言うべき問答であれば、反発する日本人も多かったのだが、カレンの言は正に日本人の代弁であるのだ。

 そんな問答が続く中でも、リヴァルとドロテアはカレンに続けとばかりに機体を屠り、ジェレミアは続けざまに襲来する航空戦力を叩き潰していく。

 そうこうしているうちに、脱出を計った澤崎と曹の眼前には、紅蓮やヴィンセントの砲が無言のまま突き付けられることとなったのだ。

 

 

 

「小娘がっ!! なぜ貴様等には大望が見えんのだっ!!」

 

「大望ってなによっ!! 中華に尻尾を振った独立なんて、ブリタニアに支配されている現状と何ら変わりは無いし、現に中華軍のせいで日本人が苦しんでるじゃ無いっ!!」

 

「紅月、放っておけ。ゼロ、澤崎等を確保しました」

 

 

 

 脱出用のヘリが破壊された時点で戦意を喪失した澤崎等はカレンをはじめ、駆け付けてきたドロテア等によって捕縛される。

 だが、紅蓮のパイロットの正体がまだ年若い少女だったことに驚きの表情を浮かべると共に、枢木スザク同様に時勢の見えない若者と彼女を断じた澤崎は負け惜しみとも取れる怒声をカレンへと向ける。

 だが、カレン自身その負けん気の強さは折り紙付きである。掴み掛からんばかりの勢いで澤崎に迫り、声を荒げているが、今はそんな事をしている状況では無い。

 澤崎等の捕縛によって撤退もしくは奪回へと移る中華連邦軍と追撃を計るブリタニア軍の双方を相手取る余裕はさすがの騎士団にも無い。

 

 彼等の身柄と引き替えに停戦交渉を執り行う。当然、対等のそれによって騎士団の立場はより強化されることになる。

 何しろ、中華連邦としては独断専行の謀反人を、ブリタニアからすれば、外患誘致の反逆者を手に入れることが出来るのだ。相応の交渉材料には違いない。

 

 

 しかし……。

 

 

「え? なにこれっ!?」

 

 

 澤崎等を地上部隊に引き渡したカレン達が再びKMFに乗り込むと同時に鳴り響くアラーム。

 

 

 それは、緊急事態を告げる信号であった。

 

 

 

『ゼロっ!! 東シナ海海上に敵っ!! 中華連邦の爆撃機が数十機、福岡に向かっていますっ!!』

 

『なんだとっ!? …………まったくモニカめ、保険を掛けすぎだ』

 

「ちょっと、一人で理解していないで指示を出しなさいよっ!!」

 

 

 そして、シャーリーからの血相を変えた通信に、皆が皆驚きを隠さない。

 戦場の主役がKMFに変わったとは言え、まだまだ航空戦力の存在は大きく、ましてや高高度からの攻撃に関しては航空機の独壇場である。

 第一次太平洋戦争においてブリタニアが勝利した要因は巨大な国力を背景とした戦略爆撃による継戦能力の徹底的な破壊にある。

 そして、戦後はKMFに主役が移る最近まで、より強力なミサイルの開発と航空機の発展こそが国力の象徴と言った側面があった。

 もっとも、異なる時空の世界と異なり、人型兵器が発展したこの世界に関しては、五十年ほどの技術の遅れがあったりもする。

 

 

 

『証拠の隠滅だ。福岡基地諸共澤崎や曹を排除して証拠を消し去る。反逆者の曹はこちらの手で処断したという理由付けにもなるからな』

 

「それじゃあ、遼東軍管区の独断というのは」

 

『建前に決まっている。成功すれば体よく澤崎を傀儡として日本への橋頭堡とし、失敗したらこうやって証拠も含めて排除する。打てる手を打っておくのは当然のことさ』

 

 

 

 カレンの問いに答えるルルーシュだったが、実際の所はここまで念入りに手を回しているのはモニカが描いた謀略の顛末という部分もあるだろう。

 自分が討伐に向かえば必ず勝てる。さらに、澤崎や片瀬諸共解放戦線と独立志向の軍人政治家をまとめて排除した上で、中華にもダメージを与え、弱みを握る。

 おそらくはシュナイゼルやギネヴィアなども納得させた謀略だっただろう。そのためか、モニカを排除してしまったヴィクトルや後援貴族達にはさぞかし苛立っている事は容易に想像できた。

 

 

 

「それで、どうするのよっ!?」

 

『当然、撤退する。敵の意図は両軍もすぐ知るところとなる。歩兵部隊は急ぎ車両へと戻れ。背後はKMFで守る。全員の連携が重要だぞっ!! 全員が生き残ることに全力を尽くせっ!!』

 

「了解っ!!」

 

『イエス、ユアハイネスっ!!』

 

 

 

 そして、捕縛した澤崎等をトラックへと押し込み、歩兵部隊が脱出の準備をテキパキ整えていく中、シャーリーの声が再びKMFへともたらされる。

 

 

 

『敵爆撃機、まもなく射程に入りますっ!! 同時に、ブリタニア軍の一隊が中華連邦軍を突破し、福岡基地へと向かってきますっ!!』

 

『カレン、君はフロートユニットで先行し、退路を切り開け。太宰府との中間地点にエナジーフィラーの換えを用意しておいたから、補給をしておけ』

 

 

 

 そして、出撃段階に入ると同時にルルーシュからカレンに告げられた命令に肯いたカレンは、真っ先に基地の外へと向かって飛び出していく。

 撤退を待っていた鋼髏からの砲撃をなんなく躱し、敵を排除していくカレンと紅蓮。

 まるで、双方が一体化したかのように周囲に思わせるその鮮血をまとったかのような姿に、次第に中華連邦軍は道を空けていく。

 当然、戦意を失った敵を放っておく理由は無い以上、容赦なく叩き潰していくカレンの眼前に、同じように鋼髏と交戦する白き機体の姿が目に映る。

 

 

 

『何よ、結局使っているんじゃない』

 

 

 

 そう呟きながら、ランスロットを包囲する敵をなぎ倒したカレンは、宣言通りこちらに協力することは無く、エナジーフィラーだけを利用しているスザクに対し、嫌味を込めた口調で声を掛ける。

 

 

 

『君は……。ここを通すわけには行かない』

 

『ふーん? 良いの? もうすぐ中華の爆撃機が来て火の海だけど』

 

『僕は軍人だ。目の前の敵を倒せという命令を遂行するだけだ』

 

 

 

 しかし、嫌味が通じるようなタイプでは無く、いつも通りの堅苦しい返答が帰ってきただけにカレンは肩をすくめる。

 

 

 

『呆れた。そうやって倒した“敵”の中に、どれだけ日本のために戦っている人達がいたことでしょうね』

 

『彼等は間違っている。民間人も巻き込んだテロを行った者達が日本のためになったと思うか?』

 

『それで、ブリタニアに尻尾を振ってその支配強化のために働くのが正しい手段? そんなの奴隷じゃない』

 

『違う。ブリタニアで出世して、日本人の立場を強化していけば自治も許されるようになる。南米諸国はそうやって独立を勝ち取っているはずだ』

 

『そんなの、国家じゃ無くてブリタニアの一部になるだけだわ。ブリタニア領日本で、名誉ブリタニア人が治めるだけの島々ってだけじゃ無い』

 

『それでも、抵抗によって血が流れるよりマシだ』

 

『結局、そう言う事? あんた、自分のせいで流れた血から逃げたいだけなのね』

 

『なんだとっ!?』

 

『大方、大切な誰かを傷つけて、それを引き摺ってるだけでしょ。なんか、とんでもない大義のために戦っているかと思ったけど、結局は自分のためでしか無いわけね。相手をして損したわ』

 

 

 

 僅かな時間であったが、無駄な問答が過ぎたと思ったカレンは、それ以上スザクに対する糾弾に意味を感じなかった。

 眼前の機体に乗る男は、自身の考えに凝り固まって、それを否定する人間の意図を読もうという意思はない。相手にするだけ無駄だと認識を改める結果でしか無かった。

 

 

 

『HQより各員。爆撃機の予測進路に変更ありっ!! 目標は福岡市街地。民間人居住区へと向かっていますっ!!』

 

『なんだとっ!? ヤツら、どういうつもりだっ!?』

 

 

 

 そんな時、シャーリーに変わってナナリーからもたらされたのは、ルルーシュにとってもブリタニア・中華両軍にとっても思い掛けない報告であった。

 福岡基地への攻撃は友軍の撤退支援と、占領へと向かうブリタニア軍への攻撃という意味はある。

 だが、民間人居住区への攻撃は、撤退支援にならない事も無いが、いらぬ軋轢を生む結果にしかならない。

 福岡にも小さな租界があり、その外縁部はトウキョウほどの被害は無いが、ゲットーも存在している。そんなところを攻撃するようなメリットが中華にあるはずも無かった。

 

 そして、シャーリーではなく、ナナリーが通信してきたのは、オープンチャンネルによって全軍と民間人にその事実を告げることで、中華の非を鳴らし、こちらの大義をより明確にするためであったもあった。

 

 

 

『っ!? ゼロっ!! 命令をっ!!』

 

『命令っ!? 何をだ?』

 

『私に民間人を守れって命令してよっ!! 爆撃機は空から来るんでしょ? だったら、戦えるのは私だけよっ!!』

 

『待て、カレン。いくら何でも単騎では狙い撃ちされるだけだっ!!』

 

『覚悟の上よっ!! 命令しないんだったら勝手に行くわよっ!! ドロテア、リヴァル、ジェレミアっ!! 地上から可能な限り援護してっ!!』

 

『むっ!? ゼロ、私からもお願いする、許可をっ!!』

 

『俺もいくぜっ!! 民間人を放っておけるかっ!!』

 

『我が君の御心のままに』

 

 

 

 そんな最中、カレンが下した判断は単騎で敵爆撃機を迎え撃つというモノ。

 

 たしかに、地上に居ては一方的に蹂躙されるだけだが、上空ならば速度にはそこまで優れない爆撃機相手ならば戦うことは出来る。

 カレンが気を散らせば、ドロテアやリヴァル達の腕ならば地上からの攻撃も機能するだろう。

 

 

 

『…………補給を完了次第、攻撃に向かえっ!! 我々も続く。だが、カレン。死ぬなよ?』

 

『あったり前でしょっ!! 私は日本の独立を見届けて、あんたが野望を達成するまでは死なないわよっ!!』

 

 

 

 そして、ドロテアやリヴァルのみならず、近衛騎士達や騎士団達からの要請にさすがのルルーシュも折れざるを得ない。

 元々、身内に甘いルルーシュである。カレンに対する無茶振りも、彼女が死ぬことは無いと言う信頼から来るモノであり、今回ばかりは想定外の事態に弱い彼にとって、カレンの生存を確信できない状況であった。

 しかし、彼女は過去においても、現在においても、ルルーシュの傍らにあって多くの敵を屠ってきた最強の矛である。

 ルルーシュにとって、死なせたくない存在であろうとも、今は、それを信じる以外には無かったのだ。

 

 

 

『で、命令が出たけど、あんたはどうするの? 民間人の危機よ?』

 

『僕は……』

 

 

 

 そして、眼前の白き騎士に対してそう言い捨てると、カレンはスザクの返答を待たずに機体を飛翔させ、全力で補給ポイントへと向かう。

 

 フロートユニットの消耗を考えれば、万全の体制で向かうのが当然だった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 東シナ海の闇間を行く数隻の軍艦。

 

 モニカ・クルシェフスキーによって用意された最後の保険であったが、その主は今となっては中華連邦のそれでは無かった。

 乗員達は全員が目元を赤く縁取り、旗艦のブリッジに腰掛ける壮年の男の命令に従うだけの僕となっていたのだ。

 

 

 

「さあて、黒の騎士団もコーネリアも、予想外の敵にどう抗うかな?」

 

 

 

 プラチナブロンドに年齢が出始めている男は、外見とはそぐわぬ子どもめいた口調で投影画面を眺める。

 そこには、単騎で航空部隊へと向かっていく赤きKMFの姿が映し出されていた。

 

 そして、それを見つめる男の瞳の奥底には、憎悪の炎が静かに灯っている。その理由を知る者は、彼の背後に詰める黒装束の者達だけであった。




二日も開けてしまい申し訳ありませんでした。個人的な事で精神を病んでて書く気になりませんでした。言い訳にしかなりませんね。


今回はキュウシュウ戦役の主要部分は大分端折りましたが、どうしても功績横取りっぽくなってしまいますね。
学園を絡ませないとスザクとの和解やスザクに対するアッシュフォード組の書き方が中々難しくなります。

更新に関しては、もう少し安定させられるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
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