思えば自分はどうしてこの光景を選ぶことが出来なかったのだろうか?
ガウェインの座席から眼前を飛行する二機のKMFの姿と後方より続く一隻の飛行艦の存在を感じつつ、ルルーシュはそう思った。
スザクにしろ、カレンにしろ、主義主張の違いで決して並び立つことは無かったとは言え、自分が上手く立ち回っていればスザクと戦うことも無かったとも思える。
あの時、特区を受け入れた自分。
ユフィの覚悟を知ってのことだったが、カレン達を説得するためにはどちらにしろユフィとスザクを不幸にする結果になったとも思う。
自分が居たとしても、ブリタニア国内にはシュナイゼルはおろか、モニカやドロテアも健在な状況。
仮にユフィかわいさにコーネリアとその配下が味方に付いたとして、特区が、そしてその内外に日本人が救われる未来を自分は描けない。
あるとすれば、ユフィ、いや、ユーフェミアが一つの決断をすることだけなのだが、仮に彼女がそれを決断したとしても待っている結末は一緒だったようにも思える。
ただ、そうなったとすれば、今眼前にあるカレンとスザクが並び立つという現実は実現されたようにも思えるのだ。
「今更、詮無き事か」
「何を格好付けている? 進路はこれでいいのか?」
この先、親友と大切な妹が考え出すであろう政策について思案していたルルーシュだったが、過去は過去として考えたところでも無駄であろう。
とは言え、口に出してしまっては目の前に座るC.C.には声が届いてしまう。
彼女の毒を含んだ声が返ってくるが、実際、今のルルーシュの姿を見れば誰もが呆れると言うべきか、眉をひそめると言うべきか。
とりあえず、復座型の人型兵器に乗っていて、女性に操縦をさせてふんぞり返る男など、世界広しといえどルルーシュただ一人であろう事は想像に難くない。
「ガウェインのレーダーでは限界がある。セシル、進路は問題無いか?」
『索敵中です。……あら、ゼロ? 私、あなたに名乗りましたっけ?』
「うん? ランスロットを操る特派の人間関係など当に調べが付いて居るぞ? なにせ、枢木スザクの保護者のようなモノだからな」
『保護者ねえ……。まあ、良いけどね』
『ロイドさん、感心している場合じゃ無いですよ。うちのセキリュティはどうなっているんですか?』
ついつい、昔のクセでセシルを呼んでしまったルルーシュだが、呆れるセシルの指摘とは裏腹にロイドの声には普段の余裕は無い。
実際、彼が作ったセキリュティを破れるのは自分ぐらいのモノであろう。もしかすれば、モニカやシュナイゼルの手の者に天才的なハッカーがいるかも知れないが。
「夫婦漫才は良いんだが……、捕捉できそうか?」
『そうですね……。こちらの接近を察したのか、南下の動きを見せています。ただ、敵攻撃機部隊の進路からは外れています』
「ふむ。コーネリア達に期待するしか無いか……」
さすがのアヴァロンであるが、案の定敵艦隊は南下を開始しているようだった。
攻撃自体は強力であったが、機動部隊すらも捨石にするという中華の判断に呆れつつも、大宦官の為すことなどそんなモノという思いもルルーシュにはある。
だが、その無茶も相対する者達にとっては迷惑な存在にもなる。すでに第二次攻撃隊は福岡上空へと到達しつつあるだろうし、航空戦力はコーネリアが用意した姉妹艦のエリュティアのみ。
さらに、防衛線をコーネリア等が突破したため、やけっぱちになったであろう中華連邦軍とも戦う必要が出てくる。
対空砲火は玉城達が占領し、ミサイル基地も奪回した為、最初よりはマシであろうが、機動部隊が生きている限り、攻撃は続くはずだ。
『……っ!? 待ってください?? これって??』
「どうした? むっ!?」
敵攻撃隊とはすでにすれ違っており、彼等は福岡へと向かって東進している。マーカーを見るに一個編隊分十五機。
しかし、それを示すマーカーが一瞬のうちに半数にまで減っていく。
『後方より、所属不明の飛行艦っ!? いえ、護衛のKMFが三機っ!!』
「馬鹿な。中華連邦に航空艦やフロートシステムがあるなど聞いたことが無いぞ?」
「落ち着け。中華連邦軍であれば、自分達攻撃隊を潰すわけが無いだろ」
たしかに、C.C.の言の通り、セシルから送られてきたデータでは、明らかに敵軍と交戦している。とは言え、こちらを目指しているためか、すれ違い様に一方的に。と言う形であるため、敵攻撃隊も所属不明な者達の存在に困惑したのだろう。
『どうするんだい? 機動部隊と戦うって時に後ろから襲われるかい?』
「…………。カレン、スザク止まれ。迎え撃つぞっ!!」
ロイドの軽い調子の進言に、ルルーシュは即座に答える。
実際、機動部隊と挟撃されては如何にカレンとスザクであっても敗北という未来以外に絵は見えない。
フロートユニットによるエナジーフィラーの消耗はのちのちのエナジーウィングより激しい。そして、海で戦うとなれば、燃料切れすら死に直結しかねない。
『ゼロ、敵の姿が……』
「二人とも、エナジーフィラーを補給しろ。その間はガウェインのハドロン砲で凌ぐ」
『いえ、待ってください。これって、ブリタニアの……? え?』
「今度は、どうした?」
「ルルーシュ、こちらにも通信が届いて居るぞ?? 秘匿だな……」
「ん? ならば味方か? まあいい、繋げ」
罠の可能性は当たり前にある。
とは言え、自分に秘匿通信などを送ってきたとなれば、堂々と叩き潰してやるという思いはルルーシュにもある。
アヴァロンとガウェインの支援を受けたスザク、カレンの二人を倒せるような敵では無いだろう。
『ルルっ!!』
「ほあっ!?」
しかし、敵と思っていた相手は思い掛けない声の主である。
「シャーリー?? 何でお前が?」
『説明は、進撃しながらするよ。カレンさんやブリタニア側にも伝えて』
困惑するルルーシュだったが、届いた声は間違いなくシャーリーのモノである。だが、KMFや飛行艦が接近してくるとなれば、単純なスザクやカレンは有無を言わさず攻撃する可能性もある。
「スザク、カレン。それからロイド、セシル。後方の連中は味方だ。攻撃するな」
『はあっ!? どういうことっ??』
「とにかく、味方だ。絶対に手を出すなよ?」
二転三転する命令に、さすがに苛立ったのであろうか、カレンの口調も荒い。
加えて、隣に居るのは日本人の裏切り者。後方にあるのはブリタニアの飛行艦。彼女からしてみれば、苛立ちを敵にぶつける以外に無いだろう。
いずれにしろ、味方が増えるならばそれで良いとルルーシュは割り切るしか無い。そして、ほどなく彼の目に映りはじめた艦影。
それは、記憶の中にあるそれとよく似た飛行艦の姿であった。
◇◆◇◆◇
「第三次攻撃隊、被害多数。撤退を許可しますか?」
「必要無い。何があってもブリタニアと黒の騎士団を潰せと命じたはずだけど?」
「はっ……」
第二次攻撃隊はコーネリアと騎士団……おそらく、ジェレミアとドロテアの指揮であろうが、によって壊滅してしまった。
そして、第三次攻撃隊もまた正体不明の敵とぶつかって壊滅。残った手段はミサイルの飽和攻撃ぐらいのモノだったが。
「まったく。つくづく運が無いなぁ。こちらに向かっている敵との接触は?」
「時間にして、あと半刻」
「やれやれ、お早いことで。鄭倫提督に伝えて、護衛艦で迎え撃つように。こっちの空母は離脱するよ」
今となっては福岡を焼き払っても無駄だろう。
最初の攻撃で市街地に被害が出ていればパニックになって、情報の収集も困難になるはずだったが、当てが外れてしまった。
『……なんだ? もう満足したかね?』
「満足ねえ。するわけが無いね。でも、これ以上はこっちが痛い目に遭うから、後の事は提督に任せるよ。みんな、今まで通り、鄭倫提督の命令に従うこと。――これで、みんな君の命令を聞いてくれるよ。……もっとも、僕に逆らう事なんて考えないようにね」
『……迎撃の準備に入る』
護衛艦の司令室に軟禁していた鄭倫だったが、後始末は任せておけば良い。中華連邦海軍一の提督との評判だったが、宦官でありながら大宦官一派には組にしていない人物。
それだけに、大宦官からすれば一国も早く排除したい人間だった。となれば、こちらの提案に乗せるのは容易い。幸い、ギアスを試す良い機会でもあったのだ。
「それにしても、便利なギアスだったのにな……。艦隊全体に掛けたらすぐ死んじゃうんじゃ意味無いよね」
今回の事に併せて、先頃発現した珍しいギアスを試してみたところ、他人に対して強制的に命令を聞かせられると言う効力を発揮した。
加えて、コードが無くとも、脳に直接干渉することでギアスを発現する実験もいくつか成功しつつはある。今回のギアスはその一つであったのだが、やはり精神にも肉体にも負担が大きすぎた。
「僕の意思でギアスを与えることは出来ないけど、嚮団の技術でギアスを生み出すことは出来る。シャルルも、他の連中も必ず後悔させてあげるよ。ギアスを憎む人間が、ギアスを用いて復讐を為すという矛盾をそのままにぶつけてね」
ギアスユーザー達を従えながら、一人そう口を開き続ける男、V.V.。
その姿は、過去の少年の者でも、先頃の青年の者でも無く、日に日に実年齢へと近づきつつある。
双子の弟のような長身のシャルルとは異なり、覇気をみなぎらせた身体では無いと言う違いはあれど、その姿は当代の皇帝その人に近づきつつあったのだ。
コードを失い、確実に死へと近づく存在でありながら、V.V.はその身に宿った黒き炎を静かに滾られていたのだった。
◇◆◇◆◇
「まったく、勝手な事を……」
「そう言うな。むしろ、思い人と親友のために駆け付けてきてくれたことを喜ぶべきだろう?」
ルルーシュが憮然としたまま口を開くと、C.C.が背中越しに答える。
ルルーシュの席から表情はうかがえないが、間違いなく面白い者を見つけたような表情を浮かべているに決まっていた。
現状、ガウェインを中心に攻撃部隊が編成されているが、ガウェインのすぐ前を飛ぶのがカレンの紅蓮。
その両隣をスザクのランスロットとリヴァルのヴィンセント。そして、ガウェインの両脇をシャーリーの紅蓮壱型とソフィーのサザーランドが固める形。
そして、その後方にあるのはロイド達の乗るアヴァロンとミレイとナナリー。そして、アッシュフォード家の関係者達が乗り込む『斑鳩』であった。
たしかに、そのデータをルーベンに渡しては居たが、高度な技術が必要な飛行艦まで完成させているとは思いもしなかった。
もっとも、武装に関しては皆無であり、現状ではKMFの補給艦という立ち位置でしか無く戦闘に突入したらアヴァロンの背後まで下がるという算段になっている。
問題はシャーリーだったが、緊急事態に対応するために用意した紅蓮壱型にいつの間にかフロートユニットが装備されていたことに気付かなかったのだ。
「シャーリー、以前にも言ったが、戦闘中に我を忘れてしまうのは大変危険だ。決して、無茶だけはするなよ?」
『うん、分かっているよっ!! でも、今回ばかりは目をつぶって。カレン達だけを危険な目に遭わせるわけには行かないよ』
いずれにしろ、出撃してしまった以上は斑鳩に戻れと言っても聞かないだろう。表情を見ても、かつてのような逡巡は見られないでいる。
それに、いくつかの戦闘でシャーリーは自分の意思を素早くくみ取って指示を出している。当人がそう言うのならば、今回に関しては戦力としての自分が必要と判断したのだろう。
「……それが、CP将校として出した結論か?」
『うん。……まだまだ半人前だけど、戦場を見る目は付いたと思うよ。少なくとも、機動部隊と戦うなら、味方は一機でも多い方が良いって』
「ならいい。リヴァルやソフィーとの連携を心がけろ。カレンやスザクに付いていこうとするのは無茶だからな」
指揮管制の職務に当たる傍ら、KMFの訓練も行っている。通常の戦闘ならば自分よりも無難にこなして居るが、やはり懸念はギアスと思われる暴走だろう。
今のリヴァルならば対処できるであろうが、それでも混乱は回避したかった。
『おいおい、俺はいつもカレンにくっついて戦っているんだぜ?』
「だからこそだ。シャーリーを上手く守りながら戦ってくれ」
『そこは、俺が何とかするって言う所じゃ無いのか~?』
『ちょっと、下らないことを言い合ってんじゃ無いわよっ!!』
『いつものことだって。なんだかんだでルルーシュ君もシャーリーの事になると饒舌だねえ』
「ソフィー、今はクラスメイトじゃ無いぞ?」
『このメンバーの時ぐらいは学生させてくれても良いじゃ無い~』
「スザクもいるんだがな。まあいい、今から繋ぐから、全員騎士団員の顔に戻れ」
そんなシャーリーとのやり取りに他の三人のアッシュフォード組を混ぜるが、どうにも戦場という雰囲気は追いやられる。
カレンも苛立っているように見えて、饒舌になっているのだからそんな雰囲気を否定する気は無いだろう。
そう言う面での連携は安心できるが、そうなってくると心配の種が一つ存在していた。
ルルーシュはゼロとしての仮面を被り、他のメンバーも騎士団用のバイザーを下げる。すると、投影画面にスザクの姿が映り込む。
「枢木スザク、間もなく敵艦隊の防衛権に入る。急な援軍を得たが、君とは元々敵対関係にある者達だ。やりづらいとは思うが、今回は納得してもらいたい」
『ゼロ……、僕は君たちのことは決して認めない』
そして、口を開いたルルーシュに対し、スザクは以前のような毅然とした態度にどこか陰りを含ませたような表情で答える。
カレンとなにやら揉めた様子だったが、図星を突かれて色々と考えさせられたのだろう。
「それで良い。いずれにしろ、君は兵器としては最高傑作だ。その戦いぶりをしっかり見せてもらうとしよう」
『ル……、ゼロ、そんな兵器なんて言い方は』
「枢木自身が望むことだ。ブリタニアの尖兵として働き、皇女の騎士となった。それは、兵器としてブリタニアに尽くすと言う事だ」
ルルーシュの言にシャーリーが困ったような声を上げるも、実際、スザクは一種の戦略兵器のような者だとルルーシュは思っている。
戦略を戦術どころか一人の武勇でひっくり返してしまう。良くも悪くも石器時代の勇者がそのまま現代に通用してしまっているような存在だった。
『分からないな。俺だって曲がりなりにも愛国心はあったと思うけど、そこまではな』
『私もそうかな。主君と臣下という関係は有るけど、兵器になった覚えないし。まあ、私は主に恵まれているけど』
そんな実情があったが、帝国最強の騎士を父の持つリヴァルやアッシュフォード家の臣下でもあるソフィーには理解できないモノだという。
実際のところ、彼等は目的のために戦ってはいるが軍人ではない。良くも悪くも一般人として、祖国のために戦っているというスタンスである。
そのため、敵国の軍人となり、敵国のために命を捧げると言うスザクの心情を理解するのは難しいのだろう。
スザク自身が抱えたモノに比べ、二人が背負うモノは軽いと言えば軽いのだが、その辺りは当人の性格にもよると思う。
実際、父親絡みで考えればリヴァルの方がよっぽど状況は深刻なのだが、当人はそれまで折り合いが悪かった父と腹を割って話せる機会が増えたことを喜んで居るぐらいだった。
問題は最終的な親子の話し合いが、戦場での拳語りになりかねないことだったが。
『口喧嘩はそこまでよ。……見えてきたわ』
「カレンに止められるとはな。ふむ……、まさに万全の迎撃態勢と言ったところか」
そんなやり取りに割って入るカレンの声に、眼下の暗黒の海へと視線を送る。
すると、その先には探照灯などを灯した十数隻の艦船の姿が目に映る。そして、それらからもたらされる赤外線反応。
『敵、護衛――』
『敵、ミサイル発射。正面より』
そして、アヴァロンにて管制を務めるセシルより早く、シャーリーが口を開くと、手にした大型キャノンを撃ち放つ。
暗闇の中を突き進んだ砲撃は、ほどなく闇夜の中を飛来してきたミサイルを撃ち抜き、闇夜が赤く照らされていく。
「全機、目標を敵艦隊に向け。長距離砲撃にて敵戦力を削り、空母を見つけ出す。行くぞっ!!」
そして、それを合図にルルーシュもまた、ガウェインを暗き海原へと走らせると、他の
5人もそれにならう。
黒幕が静かに舞台から去ろうとする中、誰もが望みもしない戦いが始まろうとしていた。
投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
取り急ぎ、投稿させて頂きましたが、いつものように見やすいような調整や御指摘いただいた誤字脱字修正、感想返信は明日の夜に行う予定です。
ご了承ください。