戦争は続いている。
黒の騎士団の挙兵によって各地で戦乱に包まれる日本列島のみならず、コーネリアによって制圧されたエリア18をはじめとする中東~アフリカに掛けてはいまだにブリタニアとの抗争は続き、大国ユーロピアは、旧ロシア地域に進出してきたユーロブリタニアとの長きに渡る戦いが続き、ブリタニア本国とも言える南北ブリタニア大陸内部でも、主義者と呼ばれる共和主義者達の反乱や有色人種をはじめとするナンバーズのレジスタンス活動は絶え間ない。
そんな戦乱の時代であっても、毎日激戦が続いているわけでは無い。
戦争というモノは本質的には大量消費を伴い、武器、弾薬、燃料、そして食糧。何より、“人”という名の資源を大量に消費する。
物資と呼ばれる武器弾薬などを補給するべく生産活動が進められるのと同時に、戦いによって消耗した“人”もまた、束の間の平穏によって次なる戦いへと備えることとなる。
そして、その平穏を有意義に過ごすべく、力を発揮する人間もまた存在していた。
「馬鹿野郎、そのテントはそこじゃねえっ!! 向こうへ運べ」
アッシュフォード学園は基本的に自由を愛する校風である。
元々、人種差別やナンバーズ政策などには疑問を持つルーベンが設立した学園であり、異なる世界でも名誉ブリタニア人を受け入れたほど。
普段はさすがに国是に反するような行動は取れないが、年唯一とも言える学園祭においては一種の無礼講として“名誉”と言う名目さえあれば日本人でも参加できる事が暗黙のルールとなっていた。
そして、ジェレミアの介入によって、ゲットーに住む日本人に対するボランティア活動なども水面下で行われており、今年はゲットーと学園との“リモート祭り”なるものを開催する予定となっていた。
さすがに敷地内にゲットー住民を入れるわけにも行かないため、アッシュフォードの名で大型のテレビジョンと食糧などの物資を提供し、ゲットー内と学園内部を映像で繋いでいるのである。
さすがに、学園の側には日本人に対する差別感情を持つ人間もいるため、ゲットーの様子を知りたい者は当日限定で携帯端末が配られ、ゲットーの様子を見ることも出来る。
そして、学園側の総責任者は当然生徒会長のミレイと全権を押し付けられたルルーシュであり、ゲットーの側はかつての宴会太政大臣玉城真一郎その人の役割となっていた。
「なんだ玉城、随分張り切っているじゃ無いか?」
「ああっ!? って、C.C.か。お前こそ何でゲットーなんかに?」
「何でもヤツらは学園祭の準備だと言う、巻き込まれては面倒だから逃げてきた」
「おいおい、こっちだって学園祭の準備だぞ? お前、料理上手いらしいし、手伝っていけよ」
「むう、私の惰眠をみんなそろって邪魔しおって……」
意外と言っても失礼が無い玉城のテキパキとした指示にルルーシュから次々にもたらされる仕事に嫌気がさしたC.C.は人目に着かぬようゲットーへとトンズラを決めていたのだが、勝手知ったるこの場でも彼女の逃げ場は無いらしい。
元々、伝統行事?たる超巨大ピサの御相伴に預かるつもりだったのだが、それを手放してでも逃げを打ちたいほどの仕事量であったのだ。
「ここの所、色々あって準備なんざ一つも出来なかったしな。しかも、吉田と井上もいないから大変だぞ?」
ホテルジャックからはじまり、ジェレミア、モニカ、ドロテアの救出作戦、片瀬の救出作戦、キュウシュウ戦役と戦いの連続であり、その間は戦いと物資の調達に明け暮れていた。
とは言え、アッシュフォード学園という箱庭を何より大切に思うルルーシュはその辺りも妥協無く、戦闘の合間であっても学園祭の準備を怠ることを許さなかった。
そして、状況が落ち着いたとあっては、ある意味戦闘以上に過酷な準備へと皆が皆駆り出されていた。
「だからって、なんで私が……」
「愛人扱いされてりゃサボっていても目立たなかったんじゃねえのか?」
「ふざけるな、誰があんな小僧の。小娘どももいちいちうるさいんだぞ?」
ぶつぶつ言いながらも、テントの設営をテキパキとこなしていくC.C.に、玉城は困惑しつつも、かつての自分や周りが抱いた印象を遠慮無く口にする。
シャーリー達がバイザーを付けて行動している中で、C.C.だけが素顔のままルルーシュ――ゼロの傍らにある事が多く、さらにはKMFまで複座型で戦闘に参加していたかと思えば、ゼロの執務室からラフな格好で出歩く様を見て相棒兼愛人みたいな印象を皆が抱いていたのだ。
その後、素顔を知っている者達の前ではルルーシュに対してはシャーリーが分かりやすい好意を向けていたし、端から見たらバレバレなミレイの気持ちなども見えている反面、ルルーシュはC.C.に対してはどこか遠慮が無く、C.C.自身も能力面では非常に優秀だったことから、愛人という印象は消え失せていった。
とは言え、その不遜とも言える態度から秘書とも副官と言う印象も抱けないため、相棒という印象に落ち着いている。
「おい、玉城。ケーブルの敷設は終わったからミレイに連絡してみてくれ。これが映らなきゃ話にならないし」
「あいよ。C.C.、そこのスイッチを入れておいてくれ」
そして、大型テレビジョンの設置を終えた永田の声に肯いた玉城はリモコンをC.C.に投げ渡すと携帯を手に取る。
ほどなく、テレビ画面はやや画像が乱れつつあるも、眉目秀麗な黒髪の少年の姿が映し出される。
『C.C.~っ!!』
しかし、その秀麗な表情が怒りに歪んだかと思うと、今リモコンを手に画面を映しだした少女へと少年の怒りは向けられる。
『頼んでおいた用事を放り出してどこへ言ったかと思えばっ!! すぐに戻ってこいっ!!』
「うるさいっ!! こんな天下の往来で説教をするなっ!!」
まさかの逃亡犯の姿を目に留めたルルーシュは、カリスマレジスタンスの姿から、鬼の生徒会副会長へと姿を変えて、自由主義少女を恫喝する。
さすがの自由人C.C.も、大画面越しに説教を噛まされるとなると気恥ずかしくもなり、精一杯の反論をするが、それは自分が説教を食らった人間だという自己紹介にしかならない。
「しまった。玉城、後の事は頼んだっ!!」
「ああっ!? って、いねえっ!?!?」
形勢不利を悟ったC.C.は長年の逃亡生活で身につけたスキル、逃げ足を駆使して脱兎の如くその場を後にする。
それを咎め立てようとする玉城の視界からは一瞬にして消え、さらに方々に仕掛けた監視カメラにて捕捉しようとするルルーシュの追跡をも躱し、C.C.は学園祭準備という労働からの逃亡を成功させることとなった。
『まったく、あいつは……っ。まあいい、玉城、そちらの準備はどうだ?』
「見ての通りだぜ。後は当日、余計な邪魔が入らなければいいんだがよ」
C.C.の逃走を許したルルーシュと玉城であったが、気を取り直して進捗状況を確認し合う。
メインである学園に比べれば、こじんまりとした会場であるが、シンジュク事変の犠牲者を弔う意味でも生き残りの住民達はイベントを積極的に楽しむつもりであり、そのための準備はぬかりない。
だが、外的要因の介入に関してはその限りでは無い。
ブリタニアという国家の病理を考えれば、ナンバーズが祭りなるモノを楽しむことを認められない人間もいれば、ブリタニア人が祭りを楽しむことを良しとしない日本人も当然いる。
騎士団という表だった存在が生まれたことで、それに組し得ない者達の暴発の火種は方々に転がっている。
『それはアッシュフォードに依頼済みだ、頼れる援軍が来るからそのつもりでいてくれ。ゲットーの皆さんもご協力感謝します。当日まで時間はありませんが、絶対に成功させましょう』
そんな玉城の懸念もルルーシュはしたり顔で解決済みだと告げると、作業中騎士団員やゲットー住民に対して一学生としての顔で力強く声を掛ける。
先ほどまでの威丈高な態度とは一変した学生らしい態度に、彼の正体を知らないゲットー住民達は困惑するも、ブリタニア人かつ年端もいかない少年の言い分であるという面も含めて納得せざるを得なくなる。
この辺りは本人が生まれながらに持つ何かであろうが、とにもかくにも、万人を納得させるだけの説得力を生まれながらに持ち得ている人間は存在すると言うことであろうか。
いずれにしろ、アッシュフォード学園祭への準備は順調に進んでいた。
◇◆◇◆◇
学園祭への準備に勤しむ傍ら、ルルーシュには騎士団のリーダーとしての役割も当然求められる。
そして、すでに騎士団そのものの医療部門とも言えるアッシュフォード系列病院へと足を運んだルルーシュは、頭部に包帯を巻いた銀色の髪と褐色の肌が特徴的な一人の女性を見舞っていた。
「調子はどうだ? ヴィレッタ」
「ルルーシュか……。いや、今は殿下と呼ぶべきかな? それに、ジェレミア卿とシャーリーも」
片瀬救出作戦にブリタニア側として従軍していたヴィレッタだったが、当然騎士団側に通じる彼女は騎士団と戦闘を行う意思はなく、彼女の指揮下にあった穏健派の騎士達もまた模擬弾での戦闘を行っていた。
騎士団側にも穏健派のことは伝わっており、肩にオレンジ色の塗装を施した穏健派を騎士団は攻撃せぬように配慮していたのだ。
しかし、戦場においては当然のように想定外の事態も起こりうる。
ヴィレッタはフナバシ埠頭での戦闘の際、解放戦線の卜部巧雪に敗れ去ったグラストンナイツの機体の爆散に巻き込まれ、重傷を負っていたのだ。
運良く、戦場に足を運んでいた扇や井上達に救出されていたのだが、頭を強く打っていたためか、先日まで意識不明のままだったのだ。
幸い、慎重な治療によって記憶を失うことも無く復帰したモノの、その表情はどこか晴れない。
「ヴィレッタ先生、こちらは差し入れです。良かったら食べますか?」
「すまないシャーリー……。ルルーシュ……殿下、ジェレミア卿。いつかはこうなると思っておりましたが」
「俺の方こそ済まなかった。難しい舵取りを任せてしまったな」
「家族の心配は無用だ。我がゴットバルト家が責任を持って保護いたす。リリーシャも家の者達も、私が居らぬぐらいでつけ込まれるような柔な人間達では無い」
記憶が戻ったとは言え、これまで騎士団に馳せ参じるわけでも無く、かといってブリタニアに組するわけも無い立場だったヴィレッタである。
彼女の懸念はブリタニア本国に残してきた家族の存在であったが、彼女の了解を待ってから動くべき所、その負傷をしってすぐに篠崎流の手の者とゴットバルト領の人間を派遣して対処をしている。
彼女が出世や地位に拘ってきたのは、単に家族の存在が大きく、時には他者を平気で陥れる側面があったのもこのためである。
さらに、ヴィレッタがジェレミアの後に続くと言う決断をしなかったのも、彼女自身はジェレミアのような忠誠の対象があるわけでもなく、かといってルルーシュのような大望があるわけでも無いからである。
軍人が騎士という地位を得て権限を振るうブリタニアの国家体制にあっては、軍人として栄達することが一番である事からその立場を得たに過ぎないのだ。
とは言え、こうして騎士団の側に接近してしまった以上、これ以上の逡巡は彼女には許されないだろう事も察していたのだ。
「殿下、ジェレミア卿。家族のことは感謝いたします。また、負傷した際に保護して頂いたことも」
「ふ、家族や負傷のことは……か」
差し入れのリンゴに苦戦するシャーリーからあっさりとそれを強奪し、きれいなウサギを作ってヴィレッタに差し出したルルーシュはヴィレッタの言から彼女の心情を読み取る。
家族のために戦ってきた以上、それを保護してもらったとなれば自分はその恩に報いるべきだ。
さらには、重傷を負った際の手厚い治療に対しても同様の思いがあった。
それが彼女にとっては重荷であったのだが、ルルーシュ達からすればヴィレッタが味方であるからこそ当然の措置でもあったのだが。
「ヴィレッタ、君を巻き込んだ責任は私にある。もう軍に戻れぬと言うのならば、我々の伝手で本国の家族の下へと帰れるよう、手配するぞ?」
ある程度はルルーシュとジェレミアにとっては予測できた反応であり、最悪の場合も想定して選択肢を用意してきた。
ヴィレッタは口は悪いが面倒見も良く、指導力もあるため、ゴットバルト領にて教師なども出来るだろう。一流の軍人であるからこそ、その存在は惜しくもあったが。
「いえ、それには及びませんよ」
しかし、ジェレミアの提案にゆっくりを首を振るったヴィレッタは、身を起こしてルルーシュ達へと視線を向ける。
「私にもまだ思うところはあります。だが、すでに私は貴方達に組し、ブリタニアを裏切ってきたこともまた事実。そして、家族や身体の恩もある。微力ながら、協力させて頂きたい」
まだまだ、割り切れない面はあると言外に告げているヴィレッタであったが、それでも最初に比べればはっきりとして意思を示している。
目覚めてから、悩む面は十分に悩んだのだろう。
同時に、ルルーシュとジェレミアが強引に協力を求めなかったことも加味してようやく二人を信じる気になったのかも知れないと彼等は顔を見合わせる。
とは言え、僅かな逡巡である程度の踏ん切りを付ける辺りはさすがに彼女も軍人だった。
「えっと、失礼します。こちらに、ヴィレッタ・ヌウさんが入院していると聞いたんですが、誰かいますか?」
「うん? 今来客中だが、誰だ?」
「扇です。ツマゴイ視察の際にはお世話になりました」
「あ、扇さん?? ヴィレッタ先生、入ってもらっちゃって良いですか?」
「私はもう先生じゃ……、まあいい、入ってもらってくれ」
突然の来訪者、それも良く見知った人物であったことで、ルルーシュとジェレミアは過去も合わさってさらに顔を見合わせるも、そんな事情は知らないシャーリーは、顔見知りの登場にさっさと扉の下へと向かう。
ヴィレッタ自身、以前のように先生付で呼ばれたあげく、勝手に話を進めてしまうシャーリーに対して眉をひそめるも、見舞客が一人増えたところで問題は無いと入室を許可する。
「ルルーシュ?……殿下と、それに、ジェレミア卿にシャーリーさんも??」
「お前こそどうした? 玉城達の準備を手伝うと聞いていたが」
「その辺りは一段落付いたんだ。それで、ヴィレッタさんが目を覚ましたと聞いたんで見舞いでもと思って」
最初は意外な人物達の存在に困惑する扇だったが、それはルルーシュも同様である。実際のところ、ルルーシュとジェレミアは二人の縁の深さに対しての困惑でもあったが。
一応、今回は彼女に日本名を付けるわけも無く、本名で呼び、手にはどこで手に入れたのかスイーツの袋が握られている。
「わあ、このチョコレート、どのお店にも売っていないんですよ。扇さん、良く見つけましたね」
「い、いや、カレンを通じてミレイさんに見つけてもらってな。前に好きだと聞いていたんで」
「ああ、そう言えば視察の時に話していたな。ありがたくいただこう」
「ふむ、さすがの気づかいだな扇」
そんな扇の土産にシャーリーが驚きつつ声を上げ、ヴィレッタもまた口元に笑みを浮かべながら遠慮無くそれを受け取る。
ルルーシュやジェレミアにはよく分からなかったが、女性達にとっては相応に貴重な食べ物のようである。
それを察して、ジェレミアもまた、かつての部下への気づかいに対し、純粋に感謝していた。
過去は過去であり、今は今である。
扇とヴィレッタが過去のように結ばれる結果になるのもまた、今という現実にて起こりうると同時に、二人の縁の深さと言うべきだろうと思った。
「……せっかくだ、扇、学園祭当日はヴィレッタをエスコートしてやってくれ」
「え? 俺がか??」
「ああ。ヴィレッタも少しは動いた方が良いだろう? ナナリーの目が見えるようになって最初の学園祭だ。十分に楽しんでもらいたい」
「そこで、ナナちゃんが出てくるんだ……」
そして、そんな事を考えるうちに思い立ったことをルルーシュはすぐに口にする。
ヴィレッタと扇にもドロテア達と同様に任せるべき任務は考えてある。そして、それは多分に困難が伴うことである以上、今は英気を養うべきだと考えた。
もちろん、口に出したように、ナナリーが喜ぶのは何よりも周りの人間が楽しんでいることだと知っているルルーシュからすれば、出来るだけ多くの人間に祭りを楽しんでもらいたかったのだ。
「そういうわけだから、よろしく頼むぞ扇。ヴィレッタ、俺達は行くが、今度ともよろしく頼むぞ」
そして、すでに決まったものとばかりに扇を残して病室を後にするルルーシュ達。
多少のイレギュラーは存在していたが、それでも必要な事は成せるだけ為して行くに限る。そんな事を考えながら、ルルーシュは間近に迫った学園祭への準備と同時に発生するであろう問題への対処に思考を巡らせていくのだった。
投稿間隔が空いてしまい、大変申し訳ありません。
さすがに睡魔が限界なため、誤字修正や感想返信は後日行う予定です、ご了承ください。
復活のママみたっぷりなC.C.も良いが、自由奔放で傍若無人なC.C.もまた魅力的だと思う。
あと、今回のカップル?は色々と思うところがある人は多いと思いますが、個人的には応援できる面が多かったカップルでした。