コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第三十五話 後夜祭①

 後夜祭準備の喧噪を尻目にクラブハウスへと向かうルルーシュとユーフェミア一向。

 

 

 ユーフェミアの護衛達には、『言うとおりにしろ』と言うギアスを掛け、「黙って付いてきてください」と告げたため、護衛達は無言のまま、三人の後に続く。

 モニターで状況を見つめるモニカと咲世子は護衛達が万一に備えてスザクや学園各所に潜む護衛達。さらには、リヴァルと学園内をうろつくビスマルク夫妻へと繋がる急報装置を持っていたことに気付いていたため先手を打ったのだ。

 人の良いユーフェミアはルルーシュの言に特に疑問は抱かなかったが、事情を知りつつもギアスのことは知らないニーナは護衛達への態度に焦りつつも、彼等が素直に従うことに首を傾げるばかりであった。

 

 

 

「……あの、理事長室に向かうのでは無いのですか?」

 

「個人的な話になります。ユーフェミア殿下には、我々のことをよく知って頂くべきだと思いますので」

 

 

 

 そして、校舎では無くクラブハウスへとむかうルルーシュとニーナに、ユーフェミアは首を傾げつつもルルーシュの返答に特に疑問を抱くこと無く肯く。

 実際、クラブハウスの周囲にはアッシュフォード家の家臣達が立ち、ユーフェミアを守る為の舞台を用意しているように見せている。

 真実は、万一の際に備えてルルーシュ達の脱出のための時間を稼ぐためだったが。

 

 そして、クラブハウス内、それもルルーシュ達にとっては正に庭とも言うべき生徒会室へとユーフェミアを伴う。

 入室に際して護衛達は外で待たせ、その周囲は篠崎流の手の者達と近衛騎士達が並ぶ。

 室内に居たシャーリー、ミレイ、ソフィーは丁寧に臣下の礼を取りつつユーフェミアを迎えるが、彼女達もまた今後に影響する会談になる事は分かっており、いささか緊張している。

 

 

 

「あまり緊張なさらないでください。貴方たちがリリーシャさんの?」

 

 

 

 ユーフェミアにはそれが自分の地位との絡みであると勘違いしたため、気を遣わぬよう促すも、三人は苦笑したままユーフェミアに席を勧める。

 

 

「あら? リリーシャさんは?」

 

「ちょっと身支度を調えに。ユーフェミア様、少々お待ち頂けますか?」

 

 

 

 そして、いつの間にか姿を消していたルルーシュに困惑するユーフェミアだったが、ニーナもまた、予定通りの台詞を唇を震わせながら口にする。

 彼女としてみれば、ルルーシュのユーフェミアに対する気持ちを知っているため複雑でもあるし、彼女を騙す形にもなっている事に対する罪悪感が強くなっている。

 

 

 

「そうですか。ええと、こちらは? 色々な書類がありますね」

 

「学園の生徒会室になります、殿下。改めまして、生徒会長を務めさせて頂いております、ミレイ・アッシュフォードです」

 

「先頃は、お世話になりました。おかげさまで、私もお姉様、関係者も皆楽しむことが出来ました。お姉様に成り代わり、御礼申し上げます」

 

「皆が身分や立場を問わず楽しめるイベントをモットーにしています。総督や殿下にお楽しみ頂けたのならば、開催した甲斐がありました」

 

 

 

 当初の目的であるリリーシャとの会話だったが、その当人が居ない以上場を持たせる必要が出てくる。

 ユーフェミアも気を遣って口を開くが、その相手は自分の役目とばかりに臣下モードになっているミレイに任せ、他の三人は咲世子があらかじめ用意しておいた茶器セットへと向かう。

 

 

 

「身分や立場を問わず……ですか」

 

「はい。少々、行き過ぎて国是に反しかねないので、親交のある方々に咎められることもありますが、それでも皆楽しんでもらえているかと」

 

「いいえ。私も賛同いたしますわ。……会場内にいらっしゃったイレブ、いえ、日本人の方々は?」

 

「名誉が多いですが、所謂イレブンの方も居ますよ。ゲットーにおける主催者は書類上は名誉ですが、実際には日本人のままですしね」

 

 

 

 何かを考えるような表情を浮かべているユーフェミアに対し、ミレイはルルーシュとの打ち合わせ通り、明かして良いところの線引きを慎重に見極めつつその問いに答えていく。

 玉城達は書類上は名誉として登録されているが、それに伴う必要事項などはすべて無視している。

 それだけ、行政機構にあると言うのも事実なのだが、この辺りの真相を含めて、察せ無いとなればまだまだユーフェミアの考えも甘いというのがルルーシュから話を聞かされていた室内の者達の感想だった。

 要するに、ブリタニア側にもナンバーズに対する不当な扱いに憤る人間は居り、サボタージュという形でそれに反抗している官僚やその後ろ盾になっている貴族もいるのである。

 そもそも、ジェレミアやルーベンに象徴されるように、ブリタニア本国から見れば大海の彼方。極東の島国にわざわざやってくる貴族など、一攫千金を求める成り上がりか、ナンバーズからの搾取を狙う悪徳が大半であるが、一部はブリタニア本国における差別主義的な思想を嫌悪しているからなのだ。

 ジェレミアやルーベンはルルーシュへの忠義があってのことだが、政治抗争に嫌気がさしている人間も少なからず居たりもする。

 ユーフェミアが自身の構想を実現したいとなれば、後ろ盾になろうという貴族も決していないわけではないのだ。

 

 

「それでは、ミレイさん達は私の……」

 

「特区構想でしょうか? それなら、ニーナを通じて見させて頂いておりますよ? こちらです」

 

「あら? こちらは??」

 

「ニーナが殿下の構想を文字に起こしたモノですよ。分かりやすくまとめてくれています」

 

「まあ……。ニーナ、ありがとうございますね」

 

「そ、そんな。私は……」

 

 

 

 ユーフェミアからすると、ニーナに構想として話した内容だったが、優れた頭脳を持つ彼女は一言一句欠くこと無く文字に起こしている。

 ミレイから差し出されたそれに対して驚いたユーフェミアは、自身がお付きの文官達と作成したモノよりも丁寧にまとまっているそれに感謝し、ニーナは恐縮しきりである。

 

 

 しかし、喜びもそれまでである。

 

 

 文字に起こされたそれは、ほぼ全箇所に赤線が引かれ、まるで英作文の添削のように、改善点、問題点が書き加えられている。

 ニーナを通じて伝えられたそれ以上の、そして、コーネリアとその側近達。加えて、ロイド、セシルなど少なくともユーフェミアに対し、忖度などをしない人物達によって指摘された事項等は当たり前のように書き連ねられていた。

 無言でそれらに視線を向けていくと、ユーフェミアの中では、次々に自身の構想の甘さや未熟さを思い知らされる。

 

 唯一、評価をしてくれたシュナイゼルの言葉なども、これらを見ていくと、妹に対する気づかいでしか無かったと言う事も。

 

 当然だが、シュナイゼルにユーフェミアに対する気づかいなどは無く、単純に騎士団の無力化を狙っての賛成である事は過去と変わりは無い。

 ただ、シュナイゼルは日本に足を向ける時間は無く、ユーフェミアからの案もあくまでもデータ上のこと。加えて、騎士団の勢力拡大は内に居るよりも外から見る方が遙かに大きく見えてしまうため、あくまでも、上手く行きすぎた。と言うケースを期待してと言う彼らしくない賛成でもあったのだが。

 

 

 そして、何よりも彼女の心に突き刺さったのは、『捨て子を無理矢理囲い込んでも幸せにはならない』と言う一文である。

 

 

 リリーシャの姿に、ルルーシュの姿を重ねていたユーフェミアとしては、スザクの思いと同時に、平和な箱庭を作れば生きているかも知れないルルーシュとナナリーが姿を見せるのではないかと言う淡い思いもあったのだ。

 

 だが、この一文は、リリーシャを通じてルルーシュが自分に対して突き付けてきた拒絶のようにも感じられていた。

 

 

 

「うちの副会長は中々手厳しいでしょう? 私も色々なイベントを企画するんですが、そんな感じで徹底的に反論されちゃいます」

 

 

 

 黙り込んでしまったユーフェミアに対し、ミレイが戯けた口調でそう告げ、苦笑いを浮かべる。

 しかし、それまでミレイの冗談に笑顔を浮かべていたユーフェミアは、それに答えることも無く、書類に視線を落とし、やがてゆっくりと瞑目する。

 思わぬ雰囲気に、ユーフェミアとミレイの様子を見つつ、談笑していたシャーリーやソフィーも口を閉ざして彼女を見つめている。

 

 

 

「私には何人も兄弟が居りますが、特に仲の良い二人の兄妹が居ました」

 

 

 

 ほどなく、目を見開いたユーフェミアは窓から空へと視線を向ける。それを聞いた室内の者達は、ルルーシュとナナリーの事だと言う事に気付いたが、口にすることは無い。

 

 

 

「お二人のお母様とお姉様……コーネリア総督も仲が良く、武人としても女性としても、多くの尊敬を受けておりました。私も、二人と遊ぶ時に向けられる笑顔や時折見せるやんちゃな行動に感銘を受けておりました」

 

 

 

 さらにはマリアンヌの事だとも気付くが、本性を知っているルルーシュやC.C.の言を聞かされていた彼女達は、フィルターが掛かるとこう言う評価になるのだと、思いつつユーフェミアの言に耳を傾ける。

 

 

 

「ですが、それらは一瞬にして失われてしまいました。私はまだ幼く、何も出来ぬまま、何も知ろうとせぬまま。そうしているうちに、ブリタニアと日本の戦争が始まり、それが終わってからもブリタニアは世界中で戦争を続けています。私は、そのような現実を知りながらも、ブリタニア本国で平穏に過ごして参りました」

 

 

 

 マリアンヌの死とルルーシュ、ナナリーの日本行き。そして、極東事変。

 

 ユーフェミアと同じく、幼かった彼女達にとっては単純にテレビニュースの向こう側の出来事でしか無い。

 そして、ユーフェミアが平穏に日々を過ごしてきたことと同じように、彼女達もまた、日本をはじめとする世界の惨状から目を背けたまま生きてきていた。

 だからこそ、ユーフェミアの言に悔恨が含まれていることも分かった。

 

 

 

「この地に来て、戦争や政治抗争に触れて、ようやく私は、私の生まれた国は恐ろしい罪に手を染めているのだと言う事に気付きました。そして、この地で失われた兄妹のように、多くの方々が命を落としている……。だからこそ、私はすべての人が笑って過ごせる場所を作れたら。そう思っておりました」

 

 

 

 だからこその特区だろうと言う事は皆も分かっている。

 

 実際、ルルーシュから構想内容を聞かされた時には、中々良いアイディアでは無いかとシャーリーなどは答えたモノである。

 この場に居る者達のような人間ばかりであれば、特区は成功に導くことは容易だろう。だが、残念ながらブリタニアにとっては彼女達の方が異端であり、そして、その異端者を見つけ出す苦労を考えれば、戦いを選んで決着を付ける方が容易な道とも言えるのだった。

 

 

 

「あの子も気持ちは一緒なんだと思いますよ? でも、黒の騎士団をはじめとするレジスタンスが跋扈し、ブリタニア軍も容赦なくそれを討伐する。そういう現実を見ていると、そういう夢を肯定できなかったんだと思います」

 

「夢……ですか」

 

「ええ。それと、ユーフェミア殿下、貴方はその夢を実現する機会もあったそうですよ?」

 

「えっ!?」

 

 

 

 しんみりと語っていたユーフェミアに、無言のまま話を聞いていたミレイが、やんわりと笑みを浮かべてそう告げる。

 さらには、ルルーシュとも共通していた思いだったが、彼女が惜しいことをしたと言う思いがあったことを静かに告げる。

 

 実際のところ、ユーフェミアは着任当初は日本人や所謂主義者達からの期待は大きかったのである。

 “慈愛の皇女”と呼ばれ、“ブリタニアの魔女”コーネリアと異なる温厚な性格は内外に知れており、エリア民に対する慈悲の心や行動などは、本国の貴族などには失笑されつつも、一般のブリタニア人に対する心象は良い。

 さらに、ジェレミア総督代行時代に起きた、ナイトオブサーティーンの暴走に対し、皇帝権限に屈さず彼の行動を掣肘した芯の強さなども含め、正式就任となった暁には生活向上などにも期待が出来ると多くが思っていた。

 しかし、ジェレミアが去り、コーネリアが正式就任すると同時に彼女も副総督となった。

 

 過去に比べ、コーネリアはユーフェミアを籠の鳥の如く後方に置くばかりではなく、自身が引き連れてきた官僚達を付けて行政に参加もさせている。

 ただ、これが悪かった。

 コーネリアが連れてきた官僚達は良くも悪くも軍政家が多く、基本的にブリタニア至上主義者である。

 ジェレミアが残したクロヴィス時代の官僚達のような柔軟性には乏しく、ゲットーの再興などは否定せずとも、それまで日本人主体となっていた復興事業にブリタニア人が介入する機会が増えていく。

 さらには、テロリストの捜索と称してゲットーに対する締め付けも強くなっている。

 

 その事に対し、否定も反論もせずに、丁寧に理由を説明されれば素直に受け入れてしまった。

 これは経験不足が影響していたのだが、被害を受ける者達からすればそんな理屈は通用しない。

 加えて、コーネリア自身、サイタマなどのゲットー虐殺は起こしていないが、テロリストの討伐は容赦が無かったし、その過程で民間人の犠牲もいくつか出ている。

 テロリストに対して恨みの矛先が向く場合もあったが、当然のように討伐側のコーネリアやその尖兵として働く枢木スザクに対して矛先が向く場合がほとんどである。

 スザクが民間人を可能な限り巻き込まぬよう戦っていたとしても、あの白き騎士の姿は印象的であり、藤堂に敗れかけて正体を知られた際にも、反発と期待の大きさは同じぐらいであった。

 名誉として功績を挙げれば、皇女の騎士にまでなれる。こう言った現実があったとしても、それにすべてを賭けるほど、虐げられ続けていた人々は夢想家では無かったのである。

 

 加えて、前述した水面下の支持者達は、ブリタニア至上主義者達の意見を優先する彼女に協力するはずも無く、それまでと変わらぬまま、水面下での抵抗を続けることになる。

 結局、期待の大きさに比例して、失望もまた大きくなって行ってしまったのだ。

 

 

 

「特区のように全面的な開放で無理でも、地方のゲットーがそうであるように、比較的自由に生きることは可能だったりするのですよ。貴方の場合は副総督ですから、特区のような急進的な策を出す前に、所謂主義者と呼ばれる人達の意見を吸い上げて総督に進言することは難しくなかったのではないでしょうか?」

 

 

 

 官僚達の進言であれば一蹴されることであっても、ユーフェミアからの提言であればコーネリアも一考ぐらいはするだろう。

 そこで否定されても、彼女が賛同しやすい方向へと修正していけば良い。政治とは妥協の連続である。落としどころを探っていき、出来る限りに理想に近づける事がベストでは無くてもベターであるのだ。

 

 

 

「……私は何も知らなかったのですね。にもかかわらず、すべてを知った気になって、良いと思う事ばかりを」

 

「私たちもそうですよ。私なんてモラトリアムなんて言いながら、自分の自由にならないことから逃げていただけですし」

 

 

 

 自身の理想と現実の行動の乖離を指摘され、さらに視線を落とすユーフェミアに、ミレイもまた主君を見守り、いつか終わりが来るであろう平穏を可能な限り楽しめるように過ごしてきたつもりであったが、真に主君を思いやれたわけでは無いという自覚もあった。

 ともすれば、箱庭の中に主君を閉じ込めようとしていただけだと言う事も。

 シャーリーにしても、ごく普通のブリタニアの一家庭に生まれて、平穏に暮らしてきた立場。

 そこで、恋をした相手が生きてきた恐ろしい世界を知り、彼にとっての本当になりたいという気持ちで、そして彼から傍らにある事を望まれたが故に、ユーフェミアが知ることの無かった世界を知ることが出来たとも言える。

 誰もが、自身が置かれた立場や環境が世界のすべてであるかのように思えてしまうものなのである。

 彼女達にそんな視野を授けたのは、その立ち位置とは異なる立場において世界を見渡している人間だけであるのだ。

 

 

 

「それでも、貴方たちは自身の信じた者のために戦っておられますよね?」

 

「えっ!?」

 

 

 

 そんなミレイやシャーリーの様子に、ユーフェミアは静かな笑みを浮かべてそう告げる。

 思いがけぬ攻撃に、初めて動揺を見せたミレイやシャーリー達。

 

 「戦い」と言う言葉がユーフェミアの口から発せられたことの意味に気付かぬ事は、日常から非日常へと生活の舞台を移した彼女等にとっては有り得なかったのだ。

 そして、その言葉が発せられた意味に彼女達が気付いたとき、一組の男女がゆっくりと生徒会室へと足を踏み入れていた。

 

 

 

「……っ!? ルルーシュ? ナナリー?? ――良かった」

 

 

 

 その姿に、ユーフェミアは一瞬目を見開くも、すぐに柔らかな笑顔を浮かべて二人を出迎えたのであった。




お待たせした上に、ちょっと短くなってしまい申し訳ありませんでした。

特区を肯定せず、ユーフェミアの理想を実現させるにはどうするべきか?
特区を絡めずに進めるのも手でしたが、それでは彼女の存在意義があまりない。
この辺の舵取りが正直難しかったです。
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