生徒会室にて未来を左右するとも言うべき会談が成されている頃、学園貴賓室においても別の戦いが行われようとしていた。
「んで、今日はどんなご用だったんですか? ヴァルトシュタイン卿?」
「うん? 単純にお前のKMFの腕を見たかっただけだぞ?」
「KMFにあんな使い方があるなんてねえ? 私は縁が無かったけど、便利なモノね」
「人が出来る動きはすべて出来るように。と考えておりますからな。そうで無ければ、重機で十分ですが故」
普段着ではあるが、以前のプライベートのような雰囲気ではなく、ナイトオブワンとしてのオーラを放つビスマルクに対し、リヴァルは息子として軽口を叩く。
下手なごまかし方なビスマルクに対し、妻のリンダは自分の現役時代とはすっかり変わってしまった戦いを思いつつ、派手なピザ作りに貢献したガニメデの姿を思い返していた。
同席しているルーベンからすると、KMFに触れること無く表舞台から去った要人にKMFの利点を話す良い機会ともあって言葉にも力がこもる。
とは言え、そんなやり取りもまた、ビスマルクの目的を探りきれない三者にはもどかしさも感じる。
「んで、今日は何しに来たん?」
「私も聞かされていないわよ? 学園祭ってのは面白そうだったけど」
「リヴァル君がヴァルトシュタイン卿の息子だという話は聞き知っておりましたが……、急なご来訪でしたからなあ」
「それだ。アッシュフォード卿」
「は?」
リヴァルとルーベンは元より、妻であるリンダにも今回の来日は伝えていない。さらに言えば、総督であるコーネリアにも伝えていない完全な私的来日でもある。
だが、ルーベンの言に鋭く反応したビスマルクに、三人は驚きで目を丸くする。
「リヴァルの口から聞かされていたとは思うが、それでも、貴公の口調には疑念がなかった。私とリヴァルの関係を目にしたのは今回が初めてのはずだろう? それでいて、疑念が晴れたという様子が貴公にはなかった」
「…………これは。軽率でしたな」
「かつて、マリアンヌ様に心酔した同志。貴公の抜け目の無さは知っているつもりだったが、どこかで私に気を許したかな?」
「さて? 私自身、血の紋章事件で判断を誤った身ですからなあ」
「あら? アッシュフォード卿は陛下を支持して居られたのでは?」
「私は風見鶏ですよ。両陣営に誼を通じ、生き残りを図ったのです」
「あら、そう……。まあ、貴族なんてそんなもんよね」
「リンダ。話を逸らすな」
マリアンヌの後ろ盾として、ヴィ家を支えてきたルーベンであったが、血の紋章事件においては、生き残ることを優先したという過去はある。
そんな負い目が、新兵器の開発に私財を擲って尽力させたとも言える。そして、マリアンヌという一人の女傑に心酔した間柄であるビスマルクに対して、そんな背景とリヴァルとの父親という事実が合わさってどこか油断があったのかも知れない。
「ちょっと待ってくれよ。それが何の目的になるっての??」
「私が貴方とリヴァル君の関係に確信を持った背景。それを探るおつもりですかな?」
「そんなところだ。我ら、ナイトオブラウンズの恥部を取り返すという意図もある」
「恥部? ああ、例の騒ぎこと??」
そんなビスマルクの言に、リヴァルは納得がいく。
先頃、ナイトオブサーティーンであるヴィクトルの暴走とも言える行為で、二人のラウンズを失った。
公式には死亡している両者だが、当然のようにビスマルクは事の真相を知っており、彼女等の名誉回復のために動きたいところである。
だが、生存している事は分かっていても、ブリタニアに帰参して来ない現状。加えて、両者の親族が人知れずEU等へ亡命してしまった事で事態の重さを把握していた。
もう一人の被害者であるジェレミア総督代行については、妹が爵位を継ぐと共にアールストレイム家が後ろ盾になった事で彼等に任せるしかなかったが。
「モニカとドロテア。私とリヴァルの関係を知る数少ない人物達……。そして、彼女等が日本の地において戦場に現れる……。騎士団に加わるとも思えぬ以上、相応の人物が背後にいるではないかとな」
「それが私であると?」
「うむ。それに、学園とは思えぬほどの警戒ぶりだ」
実際のところ、モニカもドロテアも騎士団に参加していると言っても良い状況である。
ルルーシュとしては、キョウトへの顔立てという面もあり、名目上はキョウトに投降し、客将としてキョウトから騎士団へ派遣されている形である。
当人達の誇りも汚さぬよう、ラウンズ服もそのままであるが、当人達はパーソナルカラーであるマントは着けていない。
この辺りは当人達にしか分からない心情であったが、ビスマルクが個人的に名誉回復に動こうとしている点から見ても、ラウンズにはラウンズなりの繋がりがあるのだろう。
ただし、ビスマルクの指摘は少しずつズレてもいる。
ルーベン自身は二人の後ろ盾となっているつもりは無く、単純にルルーシュに仕える同志という気持ちが強いし、学園に敷いた警戒網も単にルルーシュとナナリーを守るためのモノである。
ビスマルクが実力行使で二人を連れ戻そうとするならば、全員が命を掛けて守り抜く。そう言ったつもりでもあった。
現状、ビスマルクもルルーシュ達へは辿り着いていない様子だったが。
「たしかに、マスコミとかも戦場にエルンスト卿が現れた。とかいって騒いでいるみたいだったなあ」
「何であんたがそんな事を知ってんの?」
「エリア11には無茶なテレビ屋がけっこう居るんだよ」
実際には、ディートハルトとそれに感化された者達だけであったが、それなりの立場にあり、番組構成力もある人間達であるため、検閲なども平気で乗り越えてしまう。
ディートハルトに至っては騎士団がバックアップしているのだから、コーネリアがいくらメディアを統制しても制御は不可能だった。
「ヴァルトシュタイン卿、私自身はリヴァル君本人から話されたが故にでございますよ。そもそも、私自身はこの地で失われた宝に対して哀悼を示すのみ。ラウンズを匿うなどとても……」
「それでは、この物々しい雰囲気は何だ?」
「いや、貴方が居るからですよ」
「なに?」
「学園祭は生徒会長である孫娘の意向で名誉は元より、一部イレブン達にも解放しております。当然ですが、有事の際には学生達にはどうにも出来ませぬ」
「だから、手の者達を潜ませていると?」
「ええ。そこに、総督に加えて、ナイトオブワンまで現れた。イレブン達からしたら、恨みの矛先としては理想的な人物が現れたことになりますな」
ビスマルクやコーネリアだけならば、当人の武勇や自前の護衛でどうにかなるだろうが、今回はユーフェミアも居る。
となれば、学園周辺で何かあればルーベンの首は物理的に飛ぶことになる。それ故に、手の者達を潜ませてある。
また、室内に詰めている使用人達もルーベンが用意した一流とも言える護衛者達であり、仮にテロリストが学園を襲撃しても、ビスマルクの手を煩わせることなく撃退可能な準備はしている。
名目としては十分であるし、そのぐらいの事が出来なければマリアンヌの死とともに敵対勢力に潰されてしまっていた。
そう告げたルーベンの言は筋が通っても居る。ユーフェミアの暴走に巻き込まれた形であったが、ビスマルクの突然の来訪に対しては意味があったとも言える。
ルーベンからすれば、ナイトオブラウンズ以上に守らねばならぬ人間が居るのだから、水面下での警備は当然でもあった。
「…………ふむ。筋は通っているな」
「まだ、お疑いで?」
「なんだよ。理事長は理事長で心配してくれてんじゃん。疑いすぎだよ」
そう説明したところでも、ビスマルクの反応は変わらぬままである。
リヴァルとしては、自分が下手にしゃべればボロが出ることは分かっているため、ルーベンに任せてしまっているが、いい加減場の張り詰めた空気も辛くなってきていた。
「そうだな。何よりドロテア、君にメイド服は似合わんぞ?」
「は?」
突然、ドロテアの名を告げながら右手を上げたビスマルクに対し、呆気にとられたリヴァル。しかし、気付いたときにはルーベンの背後に立っていたメイドがまさに当人の眼前にて放たれたナイフを片手で受け止めていた。
「な、何やってんだよっ!! 危ないだろっ!!」
「リヴァル、少し黙っていなさい……。私も気付かなかったわ」
そんな状況に困惑しつつ、父の暴挙を咎め立てるリヴァルだったが、リンダの声にそれ以上の糾弾を止められる。
リンダもまた、驚いていはいたが、彼女としてみればビスマルクの行動よりも、メイドの方に意識が言っているらしかった。
ルーベンもまた、マズいことになったとばかりに額に手を当てている。
「……ふう。貴公に隠し事は無駄だったか。ヴァルトシュタイン卿」
「へ? その声」
「リヴァルも知っていたか」
「あっ!?」
そして、受け止めていたナイフを手際よく回し、手に取ったメイドがそれまでも無表情から不敵な笑みを浮かべて口を開くと、聞き覚えのあったその声に思わず反応してしまったリヴァル。
だが、それを両親が聞き逃すはずもなく、ビスマルクは瞑目しつつ、リンダは驚きで目を見開く。
当然、リヴァルも余計なことをしてしまった事に気付いた。
ナイトオブラウンズともなればその名は全世界に轟き、外見などは皆が知るところ。
しかし、“声”ともなると、人は中々覚えていないものである。ましてや、表舞台に出て来ず、面識もないはずのドロテアの声を知っているはずも無いのだ。
「すまん、リヴァル。私が余計な事をしなければ良かったのだ。ヴァルトシュタイン卿をごまかせるはずもないのにな」
そんなリヴァルに対し、苦笑しつつ口を開いたメイドは、メイドキャップと共にカツラを外し、さらに顔に手を掛ける。
「マジかよ??」
「なんだ、お前は知らなかったのか?」
そして、仮面を外すように、変装を解いたメイドは、ドロテアとなって彼等の前に姿を現す。
リヴァル自身、咲世子が変装などを得意とすることは知っていたが、実際に目にするのは初めてであったため呆然とするしかない。
「リヴァルも随分親しそうじゃないか? ……まあ、その事は良い。久しぶりだな、ドロテア」
「ええ。半年ぶりでしょうか、ヴァルトシュタイン卿」
そんなリヴァルの様子に、どこか悲しげに視線を向けたビスマルクは、そのままに眼前に現れたかつての同僚に対して口を開く。
ドロテアもまた、同僚として、そして、この世でただ一人とも言える自分を超える強者に対して口を開くと、空いていたルーベンの傍らへと腰を下ろす。
かつては、ブリタニア最強の騎士として皇帝の傍らにあった両者。だが、様々な巡り合わせの結果として、お互い主を違える結果となっていたのだった。
(どうすりゃ良いんだこれ?? ルルーシュ達の事がバレるのはマズいんだろうけど、ドロテアさん達のことだって同じだろうに……)
そんな状況に、思わず頭を抱えてしまったリヴァルに対し、同じように何でこんなことに?と言う思いを抱いたリンダは、夫の傍らから息子の傍らへと座す場を代え、彼の頭を撫でるしかなかった。
彼女としても夫の真意は知れず、また、ビスマルクの前に姿を現したドロテアの真意も読むことは出来なかったのだ。
◇◆◇◆◇
ルルーシュ達から突き付けられた現実に、ユーフェミアは額を抑えて瞑目すると、崩れ落ちるように腰を下ろした。
「ユーフェミア様っ!?」
そんなユーフェミアの様子に、ニーナが慌てて駆け寄ると、シャーリーも手を貸して彼女を椅子に座り直させる。
彼女からすれば、数年越しの兄妹との再会であり、喜びも一入であったはずが、特区に対する懸念や自身の認識の甘さを突き付けられる結果となったのだ。
挙げ句の果てに、『理想を実現したいのならば、父と姉を殺して皇帝になれ』とまで言われてしまえば当然のように精神は消耗する。
「すまん、言い過ぎた」
「私も。申し訳ありません、お姉様」
「いいえ。ルルーシュから言われることはある程度覚悟しておりましたが、ナナリーからも言われてしまうとは思っていませんでした。ふふ、お姉様に守られ続けてきた私と比べれば、ナナリーはルルーシュとともに生きるか死ぬかの現実を生きていたですものね」
さすがに言いすぎたかと思ったルルーシュ達だったが、ユーフェミアからすれば下手に気を遣われるよりはっきりとモノを言われる事の方がありがたかった。
コーネリアの庇護にあるためか、自分に対して本音でぶつかってきてくれる者など居らず、最近になってようやくスザクやコーネリアが一人の人間として接してくれるようになってきたぐらいもの。
「そんな事はありません。私だって、目が見えず、歩くことも出来ぬと言う現実に甘え、お兄様達に守られて生きてきたんです。それを当然のモノと思いながら」
「ナナリー。そう言えば、言うのが遅くなってしまったわね。目が見えるようになったみたいだし、良かった……」
「足に関しても、皆様のお力をもらってリハビリに取り組んでいます。まだまだ、一人である事は難しいですが」
「そうなの? でも、貴方が昔のように元気になってくれるなら、私もうれしいわ」
「ありがとう、ユフィ。だがな、ナナリーもこうして前を向いている。勝手な推測だが、特区を考えたときに、俺達が生きていた場合の逃げ込み先としても考えたんじゃ無いか?」
お互いを自嘲し合っていたナナリーとユーフェミアだったが、ルルーシュはあえてそれを宥めることはなく、ただ、ナナリーの回復を喜んでくれたユーフェミアに対しては礼を言う。
そして、特区に関しては過去と時系列に異なるとしても、自分達が生存しているという噂を鑑みれば考えてもおかしくは無いと思い、それに対しても問い掛ける。
「……そうね。噂を聞いたとき、ルルーシュもナナリーも事情があって出てこれないんじゃ無いかと思って……。それも当たり前ね。先ほどのシャーリーさんが言っていたように、お父様は二人を捨てたのですから」
「ああ。あの男は愛情を履き違えている。ヴィクトルもそうだが、アイツらは歪んだまま老人になった。そうなってしまえば、考えは変わらないだろう」
「ヴィクトル?? あの方がなぜ??」
「それはまだ言えない。だが、ヤツがシャルルの後ろ盾を用いて好き勝手していたのはユフィも分かるだろう?」
思わぬ人物の名を告げられたユーフェミアだったが、自分の命令すらも無視してラウンズ達を攻撃した事実は忘れられるわけもない。
そして、シャルルとヴィクトルを並べてこき下ろす形になったルルーシュの言に、深く詮索するべきでは無い事情があることもなんとなく察し、肯くしかない。
「ヤツの行動こそがシャルルの考えに通じる。まあ、結局は仲違いしたようだが、堪え性の無い子どものような連中だ。だからこそ、ユフィが他者のためを思って特区を提言したとしても、ヤツらには迫害と搾取の場と言う認識しか抱かない」
「そして、ブリタニアに勝利と繁栄をもたらしているお父様が大衆に支持されている以上、私の特区が支持されることは無い」
「残念ながら、そうなると俺は思う。仮に賛同するとしても、抵抗と迫害に疲れた日本人だけだろう」
「先ほどミレイさんと話したのですが、主義者達はどうなのでしょうか?」
「ミレイにはあえて危険な事を言わせただけだが、ユフィが考えた範囲では彼等も下手は打てないだろうから、協力は無理だろう。だから、彼等と水面下で繋がり、計画を練るべきなんだ」
「事を慎重に進めれば、将来的には特区構想も成立するんでしょうか?」
「そうだな……。いや、シャルルが生きていたら、オデュッセウスなり、シュナイゼルなり、ギネヴィアなり、コーネリアが継いで居たら、どちらにせよ成すのは難しいだろう」
「ギネヴィアお姉様はともかく、お姉様やシュナイゼル兄様は反対しないと思ったのですが」
「姉上が賛同するとしたら、俺が姉上に勝ってからだろう。あの人は弱さは罪とも考える人だ。逆に、正面から殴り合ってこそ、初めて話し合いに応じる。他の三人は端から無理だな」
ユーフェミア自身は特区構想を諦めていないのだろうが、シャルルは元より、継承順位の上位者達はその国是を変える必要性をまず求めないだろう。
シュナイゼルはともかく、オデュッセウスは基本的にブリタニア人の生活を第一に考えるだろうし、ギネヴィアも同様だろう。彼女の場合は侵略による搾取を楽しむ側面もある。
コーネリアは弱肉強食はともかく、戦場での勝利を第一に考えるタイプである以上、話し合いのテーブルに着くには徹底的に叩きのめされて初めてだろう。
それも、敗北を恥じて自決してしまう可能性を排除した上でと言う条件付きでだ。
「ユフィ。君の気持ちは受け止める。何より、日本人を大切に思ってくれていると言う評価はスザクを騎士にしたり、ジェレミアの融和策を否定しなかったことだけでも通じてはいる。だが、姉上の庇護下でその政策に従順でいるうちは今以上の評価は得られないぞ」
「……ゼロとしては、総督と副総督の対立を煽りたいと言う事ですか?」
「ふ、よく分かっているじゃないか。だがな、国是を否定しないコーネリアの下で特区を成したいならば、いずれは対立する事になるぞ?」
例え血を分けた兄弟姉妹であっても、自身の信念を貫きたければ戦うしかなくなる。歴史上、身内同士の血で血を洗う相剋は数えるだけで馬鹿馬鹿しいほどに起こっているのだ。
「お姉様は、エリア11を平定後は私に任せて次なる戦場を求めると仰っていますが」
「仮にユフィが総督になったとして、特区に基づいた融和策を提唱したとすれば、リ家と対立する貴族からの突き上げは必至だろうな。そして、シャルルはそれからお前を守ってくれるような男じゃないし、オデュッセウスもシュナイゼルもそこまでお人好しじゃない」
「…………私の思いを実現するためには、どうしても血が流れるんですね」
「それが、ブリタニアという国家だ。だからこそユフィ、シャルルを討ち、ヤツの国是に賛同する者達を討ち果たして皇帝になり、ブリタニアの国是を変える。だが、そこで終わりじゃないぞ? エリアの開放による経済的混乱をどう沈めるか、一方的な侵略に対する責任をどう取るか、今まで特権に浸っていた者達をどう納得させるか等々の問題は山積みだ」
実際のところ、融和策が通用したのは日本が戦力を残して降伏したため、受け入れる余裕があったからこそとも言える。
クロヴィスの統治が過酷であったとは言え、それに対する抵抗も激しかったからこそ、武器を手にできなかった者達は搾取に疲れて穏健な政策を求めた。
分かりやすい飴と鞭だが、これが徹底した破壊や搾取を行われた地域に対してであれば、融和策を受け入れる余裕の前に、復興支援や相応の賠償が優先される。
『理想は良いから金や食い物を寄越せ』と言われてしまえばどうにもならないのだ。
要するに、ユーフェミアの理想が受け入れられるほどの余裕が世界の多くにはない。たまたま、余力があった日本だからこそ、それに縋る者達がいたと言うだけなのだ。
「ルルーシュ、そのぐらいにしてあげて……。私だって日本人は苦手だったから、ユーフェミア様から特区構想を聞かされた時は困ったけど、頭ごなしに否定されちゃうのは」
「いいのですよニーナ。私自身、考えが甘かったと言う事を自覚させられたと思いますから」
「すまないな。ただなユフィ、君の理想自体は“間違ってはいない”んだ。ただ、“正しいこと、間違っていない事だけがすべてじゃない”と言うのが現実なんだ」
ニーナのようにユーフェミアシンパであっても受け入れがたい理想だったが、ルルーシュ達からすると、彼女自身はあくまでも善意から特区を考え出したことが分かるが故に否定することも難しい。
だが、それを止めなかった場合に起こる悲劇の大きさを考えると悪者にならざるを得ない。
そして、理想としても思いとしても決して間違っているわけではないからこそ、現実を突き付けるしかなかったのだ。
「ルルーシュ、ナナリー。貴方達は、その現実を求めて戦い続けるのですね?」
「無論だ。俺は俺のやり方でブリタニアを変えてみせる」
「そうですか。ならば、私たちはいずれ戦わねばならないのですね」
「ユーフェミア様……っ!?」
「ああ。だがな、ユフィ。俺としては、君とは戦いたくないし、君の理想もまた必要なときが必ず来ると思う」
「私もそう思っております」
ルルーシュ自身、ユーフェミアに対する負い目は大きく、ナナリーもまた、彼女の身に起こった悲劇と兄の罪を知っている。
それ故に、ユーフェミアと戦う事になった場合には、相応の報いを受ける事にもなるだろう。戦いは逡巡した者が負ける。とは言え、真に平和や未来を求める者を否定した以上、ルルーシュ自身はそれを甘んじて受け止めるつもりでもあった。
「はいはい、それじゃあ難しい話はお終い。今からここにいるのはユーフェミア・リ・ブリタニア殿下じゃなくて、ただのユフィちゃんよ」
「え?」
「ミ、ミレイ??」
そして、しんみりとして空気を打ち破るかのように、声を張り上げるミレイにユーフェミアもルルーシュも目を丸くする。
当然、シャーリー達もだったが、そんな周囲の様子はお構いなしとばかりに生徒会長モードになったミレイの手に、目にもとまらぬ動きで咲世子が何かを手渡すと、ミレイはそれを高々と掲げる。
「それで、これがシャーリーの予備制服~」
「ふえっ!? 会長、なんでそれを持っているんですか??」
「ふふふ、私の眼力を甘く見ない事よ? 私の見立てでは、ユフィちゃんのスリーサ
イズはシャーリーに一番近いからね」
「いや、そうじゃなくて、なんだって言うんですか??」
「難しい話で色々と疲れたでしょ? もう後夜祭の準備は終わっているんだから、ユフィちゃんにも楽しんでいってもらいましょう」
「それで何で制服を??」
「木を隠すなら森に。よ。さあさあ、男の子は出てって出てって」
「なんでまた?」
「おやおや~? まさか、腹違いの妹の着替えを見たいとでも言うのかな~? シスコンのルルちゃんは」
「誰がシスコンですかっ!! まったく。そう言う事なら、分かりましたよ」
「100人居たら100人がシスコンだって言うと思うけどね」
ミレイの暴走とも言う行動に困惑するルルーシュだったが、そこまで聞くと、最後のソフィーのツッコミ以外からその意図を理解できた。
要するに、時間も遅くなった以上はユーフェミアには最後まで楽しんでもらおうというミレイなりの気づかいである。
昼間のメインディッシュが巨大ピザならば、後夜祭には日本の花火職人達による力作花火が盛大に打ち上げられることになっている。
最大の十号玉は、租界のみならずゲットーからも見えるほどの大きさであり、学園と同時に打ち上げを開始されるゲットー全域と租界が初めて融合する形になるのだ。
ある意味で、ミレイと玉城達騎士団日本人幹部からのユーフェミアに対するプレゼントという形にもなっているのだ。
いずれにしろ、僅かな時間でも兄妹として過ごす最後の機会になるかも知れなかったルルーシュ達にとって、ミレイなりの忠義の一環でもあったのだった。
特区絡みの話は一端終了です。特区の悲劇を回避するべき動くとなると、何を持ってもユーフェミアに現実を突き付ける以外はなく、それでいて彼女が物わかりが良くないとならないと言う、流血を伴わない場合は御都合主義的にならざるを得ませんでした。
中々この辺りのは上手く書けないなあと言う思いもありましたので、読者の皆様のご意見などを頂けたら有りがたかったりもします。