第一話 それぞれの動静①
機械の奏でる金属音が室内に響き渡っていた。
アッシュフォード系列病院の一室に用意されたリハビリテーション施設である。医療の発達と共に理学療法などが広く浸透し、老若男女が利用するこの場所に置いて、一際目立つ少女と女性の一団に、他の職員や患者達はどうしても意識が向いてしまう。
とは言え、少しでも興味を示せば、その穏やかそうな外見からは想像も出来ないほどの鋭い眼光に心胆を寒からしめて目を逸らすばかりだったが。
「はいはい、そんな肩肘を張らない張らない。それと、無茶はしすぎるモノじゃないわよ~」
そんな少女――ナナリーの態度に、肩をすくめつつ普段のどこか妖艶さを含ませた声で窘めるラクシャータ。
現状は、騎士団及びキョウトにおけるKMF研究チームの最高責任者だが、元々医療サイバネティックの権威として名が知られており、医療関係者から重きを置かれる人物である。
それだけに、彼女が直々にリハビリを施す相手の存在にも注目は集まる。
アッシュフォード系列病院自体が患者の情報等は厳重な管理下に置いてあるため外に漏れることはないが、他の患者や職員達が外に漏らそうモノならば、待っている運命はそれ相応のモノでもある。
ナナリー自身はその事を承知しているが故に他者を遠ざけようとしているのだが、やはり他者に迷惑を掛けている事に対する後ろめたさもあり、どうしても気が昂ぶってしまう。
元々、母マリアンヌの気性を受け継いでいると言われていただけのことはあり、根っ子の部分は武闘派であるようだった。
「すいません……。どうしても気が急いてしまって」
「まあ、色々あったみたいだしねえ。ただ、あんた自身の回復スピードも十分速いんだから、焦りは禁物よ~?」
ラクシャータ自身、ユーフェミア絡みのちょっとした問題はルルーシュ達から聞き知っていたし、さらにはユーフェミアを煽ることでブリタニアにさらなる混乱をもたらすと言う企みも耳にしている。
そして、それに伴う騎士団と日本人の決起とその後のエリア解放のための戦いが始まると言う事も。
普段の態度から、KMF研究以外の面にはさほど興味を示さないと言う印象を抱かれている彼女だったが、元々は医療技術者である。
生存性や個人適性に重きを置いたKMF関係備品の開発などを見れば、単なるマッドサイエンティストの類いとは一線を画すタイプである。
当然だが、母国インドとの絡みからも、ラクシャータにとっては歓迎する動きでもある。
そして、眼前に居るナナリーがそう言った動きの中で、あくまでも守られたままの立場である自分へのもどかしさを感じていることも見切っていた。
「気持ちが急くのも分からないじゃあないけど、人間の身体ってのには限界ってモノがあるからねぇ……。何より、あんたの役目は前線で戦うことじゃなくて、戦場を見渡して兄を助けることと、身体を治すことよ。前者に関しては十分出来てると思うわよ~?」
さすがに騎士団に関する話を他の患者がいるところでするわけにはいかないため、ラクシャータはナナリーにリハビリも兼ねて足こぎ型の車椅子を自走させつつ自らの研究室へと連れて行き、口を開く。
こちらは脳電動によって足とペダルを動かすのだが、最初のみ自力で足を動かさねばペダルが動かないようにもなっている。
そのため、足がまったく動かなかったナナリーにとっては、スタートが最大の難関ともなる。
今では僅かながらに動き始めているため、そこから先はペダルが動いて今度は足のトレーニングになる構造だった。
とは言え、10年近く動く事の無かった足を半ば無理矢理動かす格好である。当然、無理をすれば筋や関節を痛めるし、動かすだけでも筋肉などへの負担は大きくなる。
そのため、僅かな距離でもナナリーは息を切らせるぐらいの負担が掛かっていた。
ラクシャータの言う『限界』と言うモノを分からせる意図もあったが、あいにくと、両親及び兄譲りの強情さを持つ彼女は無茶というものを繰り返し続けていた。
「ユフィ姉様が覚悟を決めた以上、ブリタニアは必ず混乱します。ユフィ姉様もコゥ姉様も頑固ですから、絶対に喧嘩しますしね。その時に私が何も出来ないと言うのはお兄様に申し訳が無いですから」
「無茶をされる方がゼロだって困るわよ~。さっきも言ったけど、後方で全体を俯瞰する能力に関しては、あたし等なんかよりよっぽど上なんだから、役に立たないなんて事は無いわよ~?」
「ありがとうございます……」
ナナリー自身、褒められて悪い気はしないのだが、どうにも後ろめたさがつきまとう。
ルルーシュより教えられた過去の自分のようにはなりたくないという思いも強かったが故に、自分を追い込む面も強かったのだ。
もちろん、ナナリーは過去のナナリーとは違うだろうが、過去を知らなければ果たしてルルーシュの反逆を肯定できたのかと言われると疑問符が付くし、さらにジェレミアより聞かされたルルーシュ死後の世界に関しても、自分の甘さが産んだ崩壊という見方も出来る。
そして、今の自分もそう言った二人の過去を知っているからこそだと言う自覚もあり、結局は自分は自分の意思ではなく、他者の思考によって動かされていると言う現実がそこにはあった。
「まーだ何か不満があるようね~?」
「自分のふがいなさに対するモノです。気にしないでください」
「あらそ? まあ、無理はしないこと。ちゃんと、ケアもしてもらっときなさいね」
とはいえ、ラクシャータから見れば、ナナリーは自分の意思をちゃんと持って行動しているし、騎士団員からはルルーシュ以上に厳しい面があることを恐れられて居ることも知っているため、彼女なりに考えている行動に物足りなさは感じていない。
リハビリも順調であるし、弱音を吐いたりする面も無いため、兄妹揃って我慢強いと言うべきか、プライドが高いと言うべきか、いずれにしろ、無茶をしすぎな所はそっくりでもある。
「そう言えば、お兄様がキュウシュウで搭乗された新型機……。ブリタニアに返してしまうにはもったいなかったですね」
と、自己嫌悪に陥りがちだった事に気付いたナナリーは、汗を拭いつつ、話題を変える。KMFが戦いの主力である一方、ナナリーはその性能を熟知しているとは言い難く、専門家の話は聞いておくべきだと思ったのだ。
「データは十分取れたから問題無いわよ~。なにより、プリン伯爵のおもちゃなんて欲しくもないわ~」
「プリン伯爵って……。ランスロットとかのデータも取れたみたいですが」
「そうね。そういう意味では、共闘してくれたゼロやシャーリー達に感謝だわ。と言っても、あんな機体在りきでパイロットの事なんて考えない機体は私の好みじゃないわね~」
ガウェイン自体はロイドが作成したモノでは無いが、それに搭載されたハドロン砲の改良を手掛ける予定だったと聞いている。
ラクシャータ自身はジェレミアが搭乗しているサザーランド・ローヤルのオルガン砲の改良兵器として注目していたため、ゼロとC.C.から詳細なデータを得られたことはプラスでもある。
「オルガン砲もよく考えられましたね」
「あれはアッシュフォードの手柄よ。理論とかそう言うのは、開発から離れても研究を続けていたみたいだしね~」
「電子妨害等は、近代兵器対策には欠かせませんしね。ゲフィオンディスターバと合わせれば広域を妨害することも容易でしょう」
「すでにそのための準備は行って居るみたいよ? 総督達が血なまこになって防衛体制を整えても、そういう部分が見えなければ意味が無いわね~」
「困難な事ではあるでしょうけどね」
実際、トウキョウ租界を巡る攻防を見据えて、過去と同じように破壊工作に取りかかっているルルーシュだったが、今回は咲世子率いる篠崎流の手の者達とアッシュフォード家の工作部隊が協力している。
大人数が動くとなれば警戒されるのは常だが、彼女等のように闇の中で生きる者達は、水面下で動く事こそが本領である。
軍人以前に武人肌のコーネリアにとっては、もっととも組みしがたい相手でもあった。
とは言え、トウキョウ租界自体は巨大な城塞であり、正面決戦に敗れてもそこに立てこもってしまえば攻略が容易ではないことは明白。
フロートユニットもまだまだ数は少なく、空からの攻撃に対してもフクオカ基地とは比べものにならない防空網が敷き詰められている事から、単純な航空戦力での攻撃も困難であるのだ。
実際、コーネリア等が不在の所に奇襲を掛けた日本解放戦線は打って出てきたドロテア達に敗れた事が目立つが、トウキョウ租界自体には傷一つ付けられなかったのだ。
「コゥ姉様の気性からして、租界に籠もる事は選ばないでしょうが、平地での戦いに敗れたとなっては背に腹はかえられなくなりますからね。そうなった後は時間との勝負。本国の増援が到着するまで耐えられればこちらが蹂躙されるだけです」
「でも、防衛網を破壊し尽くしちゃっても結果は同じ。ゼロとしてはその辺が頭の痛いところよね~」
コーネリアに勝つことは出来ても、問題はその後である。
現状、自身の領国へと戻っているオデュッセウスとギネヴィアが攻め込んでくる可能性は低くとも、混乱しつつあっても本国にはシュナイゼルが居り、いざとなればビスマルク等、ナイトオブラウンズも出張ってくるだろう。
過去のように破壊し尽くされたトウキョウ租界であってはその攻勢には耐えられないだろう。
特区における悲劇を発端にした暴発だったのだから、後のことまでは考える余裕はなかったのであろうが。
「いずれにしろ、来たるべき決戦には間に合うようにしておくわ~。ナナリーのリハビリを見るのはその合間になっちゃうけど、あんたも自分の役割がある以上は無理をせずやることよ~? 良いわね?」
お互い、戦いの場所は異なるモノの、ユーフェミアとの決別によって決戦自体は避けられぬモノという空気が騎士団内部を包みつつある。
そうなれば、戦略を担当するナナリーも、機体開発及び整備を担当するラクシャータも自身のことを優先するわけには行かなくなっていく。
当然と言えば当然であり、すべては組織の役割が優先される。そして、個人のことは決戦に勝利した先にある事だとナナリーもまた理解していた。
◇◆◇◆◇
ナナリーがラクシャータの下でリハビリに勤しんでいる頃、ルルーシュはモニカやジェレミアを伴い、キョウトへと足を運んでいた。
ユーフェミア対策で藤堂等を動かした事もあるが、キュウシュウ戦役の結果、外圧を排除できたコーネリアがキョウトが操るNACと騎士団の排除に動きはじめていた。
通信の傍受なども懸念されるため、新たな通信網の整備がなるまではこうして足を運ぶ必要にも迫られることにもなる。
抵抗勢力の象徴であるゼロと藤堂をあぶり出すべく、キョウトに対する圧力が強まることは当然のモノとして受け止める必要があるのだ。
その対処をするためか、六家当主のうち、刑部は席を外していた。
「しかし、ビスマルク・ヴァルトシュタインまで現れるとは思わなかったのではないか?」
「懸念はありました。何しろ、私の同志はビスマルクの息子ですからね。モニカとドロテア達が騎士団に出向していた事が功を奏しました」
席を勧め、出された茶にて一服したルルーシュ一向に対し、口を開いた桐原の言にルルーシュは苦笑と共に応じる。
アッシュフォード学園祭にビスマルクが現れたのは、息子であるリヴァルの様子を見に来た事もあるが、どこからかモニカやドロテアの生存を嗅ぎつけたからでもある。
モニカもドロテアも彼に対して隠し立ては不可能と判断して眼前に姿を現したのだが、皮肉なことに息子でありかつ騎士団の一員であるリヴァルが双方にとっての人質となったことで、流血の事態は避けられている。
「しかし、あのナイトオブワンですら隠し立てされていることが有ろうとはな」
とは言え、ビスマルクに生存を知られた以上、裏に生きているモニカとドロテアや近衛騎士達はともかく、ルーベン等、アッシュフォード家自体は危機に瀕するところ。
だが、忠臣の代表格でもあるビスマルクにその秘密を共有させる結果になったのは、リヴァルの存在と共に、皇帝との不協和音にもある。
さすがに、神楽耶や桐原に詳細を話すわけにはいかないルルーシュだったが、マリアンヌの存在やルルーシュ等の生存も含めてビスマルクに対する隠し事はいくつもあり、逆にビスマルク自身もリンダの保護やリヴァルの行動などで皇帝に対する秘事はいくつもある。
皇帝と騎士という、信頼と忠誠という表向きの関係に対し、嘘や謀と言った後ろ暗い側面とは切っても切れない立場にある者達が、互いの嘘によって縛られるのは一種の皮肉でもあったが、それでもルルーシュとしては巨大な後ろ盾が潰される自体は回避できたとも言える。
もちろん、薄氷の上に立つ立場ではあるが。
「ヴァルトシュタイン卿も息子が関わっているとなれば、隠せるところまでは隠すでしょう。ですが、それは我々が動かずにいる間だけのこと。我々が事を起こせば、ヴァルトシュタイン卿とて見過ごすわけには行かなくなります」
「幸い、アッシュフォード家の資産や勢力は日本の地に集中している。本国に居る縁者達はモニカの伝手で亡命させるなり、ゴットバルト領へと逃がす等の手は打てると思う」
キョウトとしては、日本に大きな勢力を持つアッシュフォードが力を失うことは避けたい。協力関係にある以上、その勢力を否定するつもりも無いし、アッシュフォードとしても日本を奪還した後でも、外資系と言った形で保障されれば協力を惜しむつもりはない。
「ジェレミア卿の生存は知られなかったのですか?」
「感づいては居ると思われますが、ヴァルトシュタイン卿とて憶測で辺境伯領を脅かすことは出来ませぬ。皇帝が出張ってくれば話は別ですが」
神楽耶の問いに応じるジェレミアだったが、正直なところ懸念は残っている。
本国に残っている妹に爵位は継承させたが、その地位も安全とは言えず、最悪の事態を想定して日本国内の領地へ逃れることも提案していたが、当人は頑として首を縦に振らなかった。
「中々の女傑ですわね。一度お会いしてみたいですわ」
「神楽耶様、恐れ多き事です……。とは言え、あの者もルルーシュ様の恩為に生きると覚悟をしているようです」
ルルーシュ自身はジェレミアの妹と会ったことは無い。
ただ、彼が言うには外見からしてルルーシュに良く似ていると言う事であり、今回ルルーシュが偽った名前、『リリーシャ』も彼女から借り受けている。
外見が似ている以上、最悪、ゴットバルト辺境伯がお忍びで遊びに来ていた。と言う形で押し切ると言う手立ても考えていたのだ。
「アッシュフォードの事はそれぐらいでよかろう。ルルーシュ皇子、ユーロピアの件だが……」
「中々歯切れが悪いですか?」
「うむ。クルシェフスキー、エルンスト等の一族を受け入れはしたが、それでも遠き日本と手を結ぶ事には腰が重いらしい」
「現地に亡命している日本人に対する不遇もございますわ。連中としては、後ろめたさもあるのでしょうね」
外交を担当する宗像の苦渋に満ちた表情に加え、神楽耶も憮然とした様子で口を開く。事、日本人に対する扱いに関してはブリタニアもユーロピアも大差は無いし、名誉という立場のみに視点を置けばスザクやシン・ヒュウガと言う存在があるブリタニア側の方がまともとも言える。
「現状ではユーロブリタニアの攻撃に晒されているだけだが、これで本国が落ち着いた際にはどうなるか……、危機に感じている者も居るには居るようだが」
ヨーロッパ奪回を宿願とするユーロブリタニアからすれば、皇帝の不在という形の本国の不和など意に介さない。
四大騎士団をはじめとする戦力は健在であり、肥沃な黒土地帯を奪回したことで国力の面でも自立が可能な状況である。
「ユーロピアには相応の飴を見せねば意味が無い。となると、やはり切り崩すべきは中華か」
ルルーシュ自身、ユーロピアにはそこまでの価値を見出していない。シュナイゼルに切り崩される以前から腐敗が進み、ユーロブリタニアとの戦いも苦境に晒されていたのだ。
スマイラスのクーデターが成功していたら?と言う思いもあるが、奇襲であっさり戦死するような人間が指導者では先がなかったという思いもある。
となれば、成功体験のある中華に目を向けるべきかと思える。大宦官による腐敗は進んでいるが、ブリタニアに接近した頃にはほとんど粛清されてしまっていた天子派はまだまだ多く残っている。
星刻も頼れる男であったが、やはり武人気質と言うべきか、直情径行な面があることは否定できない以上、後ろ盾となる経験豊富な人間達は必要だった。
「騎士団内部では日本奪還の気運も高まっていると聞くが?」
「ああ。とは言え、アッシュフォード学園祭を見て、ブリタニアそのものを否定する空気も薄れてはいる。ジェレミアの残した官僚達がコーネリア派の強硬な統治を上手くいなしている分、民衆の反発もそこまで大きくない」
「つまり、失策を待つと言う事ですか?」
キュウシュウ戦役の結果、ブリタニアの勢力は九州からは大きく後退し、各地の基地周辺以外は自治が進みつつある。
レジスタンス達も扇が上手く宥めることで抵抗活動を控えているため、現状のままであれば平和は訪れる。
だが、支配になれたブリタニア至上主義者達がいつまでも自治などを見過ごしておけるはずも無いし、コーネリアもユーフェミアから融和を説かれ続ければ、苛立ちが募って行くであろう。
コーネリア自身は悪人では無いが、長年の主義主張を代える事は簡単では無い。
過去においては、ユーフェミアの死とブリタニアそのものの事実上の崩壊という衝撃があったからこそ、彼女自身も自身の信条やナンバーズ達そのものを見直す機会が得られたのだ。
「民が虐げられることを待つというのは許しがたいことと思われますが、大義名分は必要になります。何より、今のまま日本を解放する事はその後の日本のためにならないでしょう」
「なに?」
「どういうことでしょうか?」
ルルーシュの言に目を丸くした神楽耶と宗像と重々しく肯く桐原と公方院の差は、政治家と軍人、謀略家の違いと言うべきだろうか?
ルルーシュとしては、現状でもコーネリアを打ち破ってトウキョウを奪回し、日本全土を制圧する自信はある。
ブリタニア本国も皇帝に対する不信から本国を離れているオデュッセウスとギネヴィアを呼び戻す時間が掛かるし、それに対する不和を決定付ける策も考えてはある。
だが、ルルーシュとしては、日本に対する恩義だけで日本を解放するわけでは無い。
日本に勢力を張るアッシュフォードや租界に暮らすブリタニア人達――横暴な振る舞いをする人間が多い以上、相応の報いは受けてもらうが、現状のままでは彼等が無事に済む保障はない。
実際、ブラックリベリオンの際にはブリタニア人に対する暴行なども多発しており、結果としてブリタニアの締め付けは尋常ではなくなったという背景もある。
加えて、解放戦線やレジスタンスの残党達には、どうしても日本を第一に考える向きがある。
ルルーシュ達が協力した事に対しても、ブリタニアの侵略に対する詫びとしか受け取らず、ブリタニア人に対する横暴を咎めた際には、反発してくることも容易に想像でき、騎士団内部で抗争が発生しかねなかった。
過去において、ルルーシュが正体を明かせなかった理由の一つでもある。結果として、それはナナリーをはじめとするアッシュフォード学園の生徒達を危機にさらしたのだが。
それに対し、中華を味方に付けることで、インドなどの勢力下にある国家をも巻き込み、日本を解放するとなれば、それは他国に対する義理立てが発生し、別エリアの開放を求められる事にも繋がる。
そうなれば、日本を第一に考えつつも、他国のために戦う必要性も求められる事になり、騎士団内部での抗争に繋がる可能性は軽減できる。
何より、多国籍軍という形になれば、協力しているブリタニア人の安全も確保できるのだ。
当初は、ブリタニア側の象徴としてカレンを旗印にしようと考えていたルルーシュだったが、今はまた別の案も脳裏にはある。
もちろん、まだまだ可能性としての段階であるため、現状ではカレンを説得しつつ、リーダー教育を続けるつもりもあったが。
「なるほど……。お恥ずかしいことですが、ルルーシュ様を受け入れるとは思えぬ者達も居りますからね」
「それでも、藤堂をはじめとする日本軍人を指導者に仰ぎたいと考え続ける者は居りましょう。藤堂自身は良い迷惑のようですが……」
神楽耶とジェレミアにはちょうど思い立った顔が一致していたのだが、ジェレミアとしては過去においても激しい反発を受けた立場であるが故に、余計に心証は悪い。
彼自身の過ちとも取れる行動があったから、反発されるのも当然ではあったが、あれを放置していた事はルルーシュの落ち度であったともジェレミアは認識している。
藤堂自身は、指導者としての立場を求められる事は重荷であると感じていたようだったし、戦後の失策も彼の適性を理解しなかった者達の責任も大きい。
代わりを担ったルルーシュと星刻が退場してしまったとは言え、例えばでは有るが、ユーロピアにて軍籍を離れていたレイラ・マルカル等を抜擢する事だって出来たのではないかとジェレミアは思っていた。
「中華に対してはキュウシュウ戦役の負い目もあろう。加えて、大宦官の跳梁を排除するともなれば協力を取り付けられようと言う事か」
「ええ。モニカ」
「はっ……。皆様、こちらをご覧ください」
桐原の言に肯いたルルーシュとモニカは、手にしていた巻物を広げると、中央に伸ばす。
「……ふむ。クルシェフスキー卿の手はどこまで伸びておられるのかな?」
「周香凛なる者はブリタニア留学時代の同期であり、天子派若手将校のリーダーでもある黎星刻の副官でもあります。彼女を通じ、天子派に切り込むことは難しくはございませぬ」
実際のところ、澤崎を暴発させ、それに片瀬を同調させることで日本の抵抗勢力を殲滅する腹づもりだったモニカである。
今となっては、日本攻略ではなく、中華の内紛鎮圧のために協力を取り付ける間柄となっている。
「勝手な事ではあるが、我々としては、この関係を利用していきたい。中華という従来の敵を抱き込むことで、禍根を取り除きたいというのは日本の益にもなると思われます。いかがでしょうか?」
「そうですわね……。ルルーシュ様、中華の天子様というのは、まだまだ幼いと聞いております」
「そうですね。大宦官達によって囲い込まれることで、傀儡となってしまっていると聞いております」
「ふむ。その立場のつらさは私としてもよく分かりますわ」
ルルーシュの言に対し、不敵に笑う神楽耶ととぼけた表情で顔を背ける三人の老人達。彼等自身は、神楽耶を蔑ろにしているつもりは無いが、小娘と侮る事が無いとも言いきれなかった。
「私どもも協力いたしましょう。それが、日本の未来に繋がるともなれば、反対する理由はございませんわ」
不敵に笑いつつ、力強くそう宣言した神楽耶に対し、ルルーシュも満足げに肯いたのだった。
若干、数名のキャラを遠回りに否定している描写があって申し訳ありません。