コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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7/31 カレンの継母の設定に勘違いがあったため、名前を修正しました。 レーマイア→タリシア


第二話 それぞれの動静②

 東京湾岸に位置する空の玄関口、トウキョウ国際空港。

 

 租界外縁にあり、陸海空それぞれの堅牢な防御システムに守られたこの地は、軍事と併せて民間人の行き来も盛んである。

 レジスタンスの抵抗激しいこの地にあっては、入国者より出国者の方が多くなりそうなものであったが、混乱を新たなマーケットと見込む野心的な人間も多数入国してくるため、出入双方で活気は健在であった。

 そんな中に、一際周囲の目を引く一組の家族の姿があった。

「ではな、リヴァル。……学生としての本分を忘れぬようにな……それと、お前が自分で選んだ道を歩く以上、相応の覚悟を持って行け」

「ああ、分かっているよ」

 帰国する両親を見送る学生。

 世界中に領土を持つブリタニアにあっては良くある光景の一つであったが、その家族の内訳はナイトオブワンの父、元ナイトオブラウンズで反逆罪で処刑されたはずの母、反ブリタニアレジスタンスに身を置く息子。と言う、矛盾の塊のような家族であった。

 本来、ナイトオブワンと言う地位にあるビスマルクにとっては、息子であっても容赦なく処刑する事が地位に伴う責任であるだろう。

 だが、現在のシャルル体制下のブリタニアにあっては、当の皇帝シャルルその人が矛盾の人であり、その下にある皇族貴族も本来の在り方とは外れた生き方が横行している。

 ビスマルク自身に限っては、そのような堕落とは無縁であり、規範意識をモットーとする人間である。

 そんな彼としても、愛した妻と息子に対しては一人の人間になってしまうと言うことであろうか。その事に関しては当の本人以外には誰も分からなかった。

「息子のこと、よろしく頼む」

「ええ。……次に会う時は戦場でしょうな」

「そうだな。私もお前も、仕える主のため、剣を取ることになろう」

 そして、ビスマルクはリヴァルの傍らに立つ女性に対しても口を開く。

 リヴァルよりも長身で女性としては極めて大柄であり、パンツスタイルのボディラインを強調した服装の下には鍛え抜かれた身体がある事は誰が見てもよく分かる。

 彼女は見送りに同行したドロテアであり、リヴァルと異なり、租界でもトップクラスの有名人である彼女はさすがに変装抜きでこのような場に出てくるわけにいかなかった。

 それでも、見送りに来たのはリヴァルとともに自分達を見逃したビスマルクに対する義理立てでもある。

 ビスマルク自身もV.V.の暴走によって何もかもを奪われた彼女等を討伐する事は出来ず、こうして戦場にて雌雄を決する未来を選ぶしかなかったと言うのが現実だった。

「急に日本に行くって言いだしたからどうなるかと思ったけど、まさかこんな事になるなんてね」

「母さん……ごめん」

「謝ることじゃないわよ。色々と因縁深いこの地だし、アッシュフォード家に預けた以上は、相応の事が起こることも覚悟しておくべきだったのよ」

 リンダ自身、ビスマルクと歩んできた人生は動乱続きであり、多少の騒ぎには慣れたモノであったが、まさか息子がレジスタンスに加わっている事までは予想できていなかった。

 実際、これも運命と受け止めたビスマルク以上に、リヴァルに翻意させようと一晩中話し込んでもいた。

 それでも、リヴァルの固い決心の前には彼女自身も折れざるを得ず、ビスマルクがリヴァルを追求しない以上は彼女としてもどうすることも出来なかった。

 元はと言えば、マリアンヌの死から始まった一連の混乱にあって、ヴィ兄妹が死したる日本の地は色々と血塗られた歴史がある。

 本人が望んだとは言え、その地に設立されたアッシュフォード学園に入学させたのは自分達である。

 さらに言えば、リヴァルが覚悟を決めてレジスタンスに身を投じた結果、それまで冷え切っていたビスマルクとリヴァルが和解したと言う皮肉めいた結果も生まれている。

 結局の所、二人に流れる武人としての血が両者を戦場に呼び寄せたと言う事であろうとリンダ自身も受け止めていた。

 もちろん、彼女の本心は平和になって二人が自分の元に返ってきてくれることだったが。

「ところで、リヴァル。覚悟を決めた以上、何があるかは分からないし、ちゃんと恋人は見つけておくのよ」

「は?」

「私もお父さんとデキてたから助かったようなモノだしねえ~。そう言う事もいざというときは身を助けるかも知れないわ~。生徒会とかきれいな子ばっかりだったし。誰か良い子は居ないの~?」

 そんなしんみりした別れの空気を嫌ったのか、不敵な笑みを浮かべてリヴァルに対して口を開いたリンダ。

 不意を突かれたリヴァルはただただ目を丸くするだけだったが、生徒会に対する言及を得て、よよよとばかりに泣き崩れる。

「思い出させるなよ~。なんでアイツばっかり……」

「あら? もしかして、振られたばっかりだった??」

 日頃から、ミレイのルルーシュに対する気持ちを見せられて続けてきたリヴァルである。加えて、リヴァルに対して恋愛ネタを振るリンダの様子が、戯けるときのミレイに似ていたことが彼のダメージを増幅させる結果となった。

 さすがにデリカシーに欠けたと慌てるリンダだったが、思わぬ話を聞いたドロテアも、今後の最大の敵手に対しては同僚時代に戻って耳打ちする。

「リンダ卿がどうやって生き長らえたかとは思っておりましたが、ヴァルトシュタイン卿、もしかして確信犯だったのですか?」

「馬鹿を言うな。私達は健全な付き合いだったぞ? ただ、な……」

 ドロテア自身、恋愛とは無縁の人生であるが話として聞かないわけでも無い。近衛騎士達にも女性は居るし、ポラード達のような若くして家庭持ちの部下も居るため、その辺りの事情にも無知というわけではない。

 もっとも、今回に関してはビスマルクのバツの悪そうな表情を見れただけで彼女自身は満足であったが。

「む? そろそろ時間だな」

 そんなどことなく気の抜けた空気になりかけた四人の周囲に、搭乗時刻を告げるアナウンスが届く。

「そうね。ほらほらリヴァル、いつまでも凹んでんじゃないわよ」

「誰のせいだよ、まったく…………。ふう、それじゃあ、父さん、母さん、元気でね」

 いじけていたリヴァルの腕を引っ張り、向き合うように立たせたリンダに対し、リヴァルはぶつくさと呟きつつも、しっかりと二人の顔を見据えて口を開く。

 どこか、今生の別れのような言葉でもあったが、この場を離れればリヴァルもビスマルクも戦場に立つことになる。

 そして、遠くない未来にあっては二人が戦場でぶつかり合うような事もあるかも知れない。

 そうなったとき、果たして二人が顔を合わせることが出来るかどうかは誰にも分からなかったのだ。

 そして、無言のままリヴァルを抱きしめたビスマルクとリンダは、そのまま両者に背を向けると、二度と振り返ることなく機上の人となる。

 リヴァル自身も、悲しくは思ったが、それでも二人の思いは伝わってきていた。

「行ってしまったな。一時はどうなるかと思ったが」

「いつまでも隠せることじゃないですからね。…………ドロテアさん、俺をもっと強くしてくれますか?」

「……ヴァルトシュタイン卿の相手なら、私が務めるぞ?」

「俺としても、譲るわけには行きませんよ。それに、そこに辿り着ける前に死ぬわけにも行かないですから」

「……良いだろう。カレンやジェレミアも居る。腕を磨くには十分な人材は揃っているからな。共に、高みを目指すとしようか」

 二人を見送った後、乗ってきたバイクに跨がりつつ口を開いたリヴァルに対し、ドロテアは鋭い視線を向けるもリヴァルはそこから目を離さずに口を開き続ける。

 それに対し、ドロテアは一瞬瞑目するも、その気持ちを受け止める。現実問題として、今の自分達ではビスマルクに勝つことは難しいだろうという思いもある。

 『ナイトオブワン』

 その称号の重みは、ナイトオブラウンズという地位にあった人間とって、単なる皇帝の片腕という意味合いでは無いことを痛いほど知らしめられている。

 シックスであったマリアンヌが当代のワンを討ち果たした事の衝撃がいまだに語り継がれるほど、ワンがワンたる理由はそれだけ別格なる存在にあったのだ。ドロテアほどの実力者であってもなお、『高み』と表現するほどの。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 一つの別れが終わった頃、一つの再会もまた別の地にて起きようとしていた。

 トウキョウ租界内部に屋敷を構えられたシュタットフェルト家。

 ユーロブリタニアにも遠縁を持つ名族であり、現当主マティス・シュタットフェルトは所謂背広組軍人としてKMFなどの増産に力を発揮し、退役してもなお、軍需産業界の実力者として本国は元より、ユーロブリタニアや各エリアを駆け回っている人物だった。

 そんな実力者が居を構えるエリア11トウキョウ租界のシュタットフェルト家邸宅に、年頃の少女の怒声が響き渡っていた。

「で、なんでまたこれを持っているの?」

「あらあら? 捨てるのを忘れていたわね……」

「ふざけないでよっ!! これがどれだけ危険なモノか、散々見せつけられたのを忘れたのっ!?」

 怒声の主はカレン・シュタットフェルト。またの名を、紅月カレンである。

 マティスの一人娘であり、マティスが居を構えた日本の地にて、名門アッシュフォード学園に通う学生であったが、今の声を荒げる彼女の姿は『病弱』と言われる姿とはほど遠いモノであった。

「ごめんなさいカレン……どうしても、お父さんやナオトのことを思い出しちゃうのよ」

 娘の剣幕に押され、頭を垂れつつ口を開く女性は、紅月かな子。カレンの母親であり、マティスの妾であった。

 カレンが怒りを向けた理由は単純明快、かな子が所持していた麻薬『リフレイン』に対してである。

 元々、イレブン――日本人を中心に蔓延していることが社会問題化していたものの、ブリタニア側としては、“負け犬であるイレブンどもが縋るだけのモノ”として、取り締まりを強化するどころか、日本人に対して横流しを行うモノも出るほどの薬物であった。

 ルルーシュと邂逅する以前から、ジェレミアはこのリフレインのルートを追っていく中で、カレンの母親である紅月かな子の行動をマークしており、彼女が手を出してしまった事実を突き止めた後には、入手先である製造工場へのガサ入れをヴィレッタ等の穏健派を用いて行うなどをして妨害していた。

 そして、黒の騎士団がクロヴィス暗殺の後、早期に密売組織を壊滅させ、かな子に対しても禁断症状から回復させるべくアッシュフォード系列病院にて適切な治療を行っていた。

 もっとも、薬物との戦いは死ぬまで続くと言われるように、今の彼女のように、心に弱さや辛き過去を抱える者達を蝕む麻薬の存在に対しては、過去のような和解を得ぬ現状でも親子で立ち向かっていたのだった。

「……あの人に縋りたいのは分かるけど……。それに、私の事を心配しているんだったらこの家から出たって行くところはあるんだよ?」

「分かっているわよ。私自身もあの人達には感謝しているわ。でもね、カレン。お父さんを、“あの人”なんて呼ばないであげて?」

 カレンとしては、リフレインによる禁断症状と戦いながら継母にいびられる母を見るのは忍びなく、かつては自分も一緒になっていびっていた過去を抉られるような気がして不快でもある。

 しかし、かな子の口から、父であるマティスは自分達を思った上で引き取ってくれたという事実を告げられており、複雑な気持ちも抱いている。

 かな子が詳しいことは本人の口から聞くべきだと言っていることもあるが、カレンからしてみれば、母を日本に残したまま家を空け、さらには日本との戦争が始まる直前に一方的に離縁してきたと言う事実と、自分達を引き取ってからも特段優しくされた記憶が無いのだから反発するのは当然と言えた。

 かな子の弁に寄れば、連れ子であったナオトが大学に通えていたのはマティスの援助のおかげであるし、継母がカレンに対しては嫌味ぐらいしか言えないのはマティスが守っているからと言う事実があると言われては居たが。

「どうしたのですか? 騒々しい……。カレンさん、支度はどうしたの?? 貴女もよ。娘の身支度ぐらいテキパキと整えられないの?」

「申し訳ありません。今すぐにでも」

「おあいにく様ね。私にはこの制服で十分です。誰がドレスなんか着てやるかっての」

 そんな親子喧嘩?の場に、訪いを入れるわけもなく介入してくるカレンの継母であるタリシア・シュタットフェルト。

 マティスの後妻であり、かな子はおろか、兄であるナオトとほとんど代わらぬ年齢の美女であるが、長年カレン母子とは険悪そのものと言った関係である。

 マティスの不在を良い事に男を連れ込んでいるともっぱらの噂であり、カレンも当然のように好いては居なかった。

「まったく……。仮にも父親を出迎えるというのに、娘がそんな態度で良いとお思いですか?」

「親子だったら気取らないのが自然なことでしょ。それに仮にもって言いますけど、私は歴としたマティス・シュタットフェルトの娘です。腹立たしいことだけど」

「っ……、今まで大人しくしていたから良いものの、何ですかその口の利き方はっ!!」

「そうですよ、お嬢様。お母様の前ではしたないですよ?」

「貴女は黙っていなさいっ!!」

「おっと、暴力はんたーい」

 当然、関係の悪い女性同士が場を同じくすれば、待っているのは口論でしかない。

 貴族社会で生きてきたタリシアは当然嫌味の応酬になる社交の場での経験も豊富で有るが、逆にカレンのような直球を投げてくる相手には慣れていない。

 そこにかな子のおっとりした横槍が入ったことが苛立ちと普段のイビりに対しても反抗も怯えも見せないかな子の態度が気に入らなかったため、思わず手が出掛ける。

 しかし、病弱を装っていた当の義娘は今は歴とした反逆勢力のエースである。貴族社会でしか生きたことのない女性の動きなど、手に取るように理解できるため、かな子に向かった平打ちをあっさりと受け止めてしまう。

「痛っ!? は、離しなさいっ!!」

「先に手を出したのは貴女でしょ」

「まあまあ、お二人とも」

 予想外のカレンの動きと力の強さに狼狽するタリシアだったが、にらみ付けたところでやはり百戦錬磨になりつつあるカレンの眼光には目を逸らすしかない。

 そうしているうちにかな子のおっとりした仲介で手を離す事になった両者だったが、その後は無言で睨み合うしかなかった。

「失礼いたします。奥方様、お嬢様、まもなく旦那様がお帰りになられます。ご用意のほどは」

 そんな空気の中、メイド長の声が部屋の外から三人に届く。

 無言のまま睨み合っていたカレンとタリシアは互いに吐き捨てるように息を吐き出すと、不承不承と言った様子で部屋から出て行く。

「随分時間が掛かったみたいじゃない? 総督から何か命じられたのかしら?」

「それが……」

 衣装部屋から出てきたカレンが制服のままだったことに、タリシアと同じくかな子に対して苛立ちの目を向けたメイド長に対し、タリシアが問い掛ける。

 すると、苛立ちを一瞬で消し去り、タリシアに対して耳打ちするメイド長。そのやり取りに、カレンはまた面倒くさいことが起こったことを察するが、どのみち自分には関係ないことだと思い、不機嫌そうに視線を逸らしていた。

「…………カレンさん、それからかな子。改めて、身なりを整えなさい」

「だから、私はこれで良いって」

「あの、私もですか??」

 そして、それまでの不機嫌そうな表情を隠さなかったタリシアは、さらに表情を凍り付かせて二人に対して向き直る。

 顔色が変わったことをいぶかしんだカレンだったが、それでも先ほどの繰り返しになる事への苛立ちは隠せず、かな子の方はなぜか自分まで着替えを言及されたことに首を傾げる。

 カレンもまた、かな子の声で母まで身なりを整えるよう言われたことに気付き、改めてタリシアとメイド長に視線を向ける。

「お父様と共に、来客があるようです。決して、御無礼があってはなりません」

「急に何? どっかのお偉いさんが来るって言うの?」

 それに対し、表情を凍らせたまま答えたタリシアはメイド長と共にカレンとかな子を再び衣装室へと押し込もうと背中を押す。

 いきなりのことに苛立つカレンだったが、タリシア達の必死さに何か面倒な事が起こるのでは無いかと思いつつ、タリシアに対して問い掛ける。

 そして、タリシアの口から発せられた人物の名は、あまりに思い掛けない人物の名前であったのだ。

「ユーフェミア・リ・ブリタニア副総督がいらっしゃるのです」

「…………はあっ!?」

 タリシアの口から発せられた人物の名に、カレンもかな子も思わず目を見開く。

 親子の再会は、何やらとんでもない波乱の幕開けが予想されるのであった。




完全にオリジナルな家族関係を捏造してみました。
カレンの両親&継母の名前とか、父親の地位などに関する言及はほとんど無かったと思うので、オリジナル設定をしてみました。

リフレインの禁断症状がどのぐらいのモノかはよく分かりませんでしたが、常用者であっても、少なくとも1年で普通に意思の疎通が可能なレベルに回復するモノと考え、現状は使用歴はあっても健常に近いモノとして考えています。
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