コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第4話 それぞれの動静④

カレンからの報告を受けたルルーシュはジェレミア、モニカ、咲世子と言った側近達とC.C.、シャーリーを呼び出して状況を伝えると共に、永田への尋問とキョウトへの詰問を並行して行うべく、通信回線を開く。

 桐原に対してはかいつまんだ情報を与えていたため、彼から情報を託された他のメンバー達も罰が悪そうな表情を浮かべていた。

「同時に聞かせてもらおう。私に黙っていたのはなぜだ?」

『すでに戦場を退いた人間の後援者だ。君には関係ないことだろう?』

「俺としては聞かれなかったからとしか言いようが無いな。実際、陶芸のパトロンとして世話になったし」

「だが、カレンの父親であることに変わりは無い。リフレインへの対処としても、手は打てたはずだ」

 かな子が手を出したリフレインに関して、摂取をしたのはかな子の意思だったが、ナオトが消息不明となり、カレンからの反発も相まって心を痛めていた彼女に対し、シュタットフェルトに対する牽制の意味も込めてリフレインを提供した者が居る。

 カレンの話からすると、正妻のタリシアを通じたブリタニア側の工作である可能性は高い。

『シュタットフェルトもいよいよ後がなくなってきて貴公に擦り寄ってきたと言う事か』

「おそらくな。ユフィの暴走を牽制しつつ、ヤツを通じて裏社会にも牽制を加え、最終的にはキョウトに対しての交渉材料とする。ダールトンもまた、中々の策士だな」

 ルルーシュ自身、NACの実態を追うダールトンが最終的にキョウトにまで辿り着いたことは過去においても警戒していた。

 そのため、ブラックリベリオンに於いては彼の名誉を大いに傷つける形で葬ったのである。

 だが、排除された官僚達の背後にシュタットフェルト家があったことはルルーシュとしても見落としていたのだ。

 カレンとかな子を捨てて家の安泰を計った。と言うのはカレンの言い分だったが、よくよく考えれば、常に勢力争いを繰り広げるブリタニア貴族が“実子がテロに荷担していた”と言う事実が存在する時点で無事で済むはずも無い。

 おそらくは、カレンとかな子を“捨てる”事で2人を守った。と言うのがシュタットフェルトの真実だろうとルルーシュは思う。

 実際のところ、ルルーシュが登極するころにはシュタットフェルト家自体は存在していても、末端の箸にも棒にもかからない存在にまで成り下がっていたのだ。

 第一から、ブラックリベリオンの混乱とカレンが逃避行を演じている間に誰がかな子を守っていたのだ?と言う話にもなってくる。

 そう言った背景があった以上は、シュタットフェルトと六家の老獪達は地下において繋がっていたと見るのが妥当であるだろう。

 騎士団の活動が極めて小さくなったのも、ナオトとともに永田も失ってしまったことから資金の窓口が無くなったことにも結びつく。

 それらに関する事を指摘しつつも、尚もしらばっくれるキョウトの老獪達。とは言え、あからさまなごまかしに、事実上の君主も我慢の限界が来る。

『腹芸もいい加減になさい。ルルーシュ様が、“ゼロ様”として通信してくるその意味を考えなさいっ!!』

 ルルーシュからの問いを巧みにあしらう老人達だったが、神楽耶からすれば、ルルーシュが仮面で素顔を隠し、声色も淡々とこちらを問い詰めてくる様子に、ともすれば自分達との決別も視野に入れている。

 そう見えていたし、それがルルーシュなりの分かりやすい策であることも分かっては居たが、神楽耶からしてみればルルーシュとの決別は日本の終わりに繋がるとも分かっている以上、それ以上のごまかしは無用であった。

「神楽耶様、落ちついてください。まずは宗像公、ユーロブリタニアとユーロピア双方への外交窓口。これは、シュタットフェルト卿と判断して間違いないですね?」

『……うむ。ヤツの出身母体を利用させてもらった。少なくとも、日本に対する扱いは、ユーロピアよりもユーロブリタニアの方がまともだったのは事実だ』

 そして、神楽耶がそう言ってしまった以上、老人達が誤魔化すことは出来なくなる。

 加えて、ルルーシュも老獪な他の三名よりは現実的な視点を持つ宗像から攻める形を取る。彼としては海外で活動するシュタットフェルトに対しては自分に問い詰めてくる事は明白だと考えていたため素直に問いかけに応じるしかない。

「シン・ヒュウガなる男が騎士としての地位を得ていることを代表するように。ですか?」

『……元々、ブリタニア本国に対する潜在的な敵対心を持つ。逆に、日本に対する差別感情の強いユーロピアよりは与しやすい』

「敵の敵は味方と言う事ですか?」

『というよりは、取るに足らない相手と言ったところか。ユーロブリタニアとしては、眼前のユーロピアと背後にあるブリタニア本国が標的であって、エリアの反乱などは眼中にはないのだ』

「だから、そのシンさん、でしたっけ? ルルから日本人だって聞いていましたけど、その人が出世できたと言う事なんですか」

『日向家自体は六家に連なる名族でもある。当然、ユーロブリタニアにも伝手はあるのだ。もっとも、当主の乱心によって族滅したと聞いていたが……』

『幼子二人は生き残っていた。加えて、ユーロピアに嫁いだ子女が居て、そこが引き取ったとも聞いていたが』

 シャーリーの問いにそれまでの張り詰めた空気がどこか緩んだ感じとなり、宗像も教師のように丁寧な態度でシャーリーに対して状況を語る。

 シンの実家である日向家に関しては桐原の言の通り、表向きには当主の乱心で滅亡していたが、宗像の言を見ればその手引きをしたのは彼であろう。

 おそらくは、ユーロブリタニアに居たシュタットフェルトも何らかの形で関与をしたのかも知れない。

「シン・ヒュウガ・シャイングの事はそこまでといたしましょう。神楽耶様、まずは私が彼の者に会い、最終的にはキョウトにも面通しする予定です。それでよろしいですか?」

『もちろんですわ。紅月さんの御父上ですからね、私もどのような人物か気になります。……ですがゼロ様、私の判断において、後ろ暗いところが見受けられたときには……』

「カレンに恨まれることは覚悟の上で、私が排除しましょう」

『委細、承知いたしましたわ』

 話がわき道に逸れたが、いずれ何らかの手立てを講じる必要がある人物であるシンに対し、目先の対処を必要とするシュタットフェルトの件が先である。

 元々、キョウトと繋がりのあった人物である以上、ルルーシュとしてもやりやすさは有る。

 もっとも、彼がシュナイゼル並に己を見せぬ策士であった場合はこの限りではなかったが……。

 

「それで、永田。どういった経緯で君とシュタットフェルト氏が?」

「先ほども言ったとおり、陶芸のパトロンとして面倒を見てもらって居たんだ。カレンとかな子さんを案じて戦後すぐに日本にやって来たときに、俺も助けてもらったんだ」

 キョウトとの通信を終え、仮面を取り外したルルーシュは残った一人、永田に対して向き直る。

 扇グループとしては最初からルルーシュの素性を知り、積極的に協力してきてくれたメンバーであり、ルルーシュ自身も彼のことは信用している。

 信用はしていても、利害関係から腹の探り合いになってしまうキョウトとは異なるし、扇達のようなどこか軽率なところも少ない事から、玉城達のブレーキ役や南達との間に立ってもらうことも多かった。

 ブリタニアのハーフであると言う背景を考えても、シュタットフェルトがパトロンとして面倒を見ていたことは嘘ではないだろう。

「紅月ナオトとの関係は?」

「大学は一緒だったが、ナオトと扇ほどの関係も無いし、単純にサークル仲間の一人のような感じだったな。戦後は俺自身、妻子の敵討ちで暴走しそうだったから、あの人が宥めてくれなかったらとっくに死んでいたとも思う」

「そうか……」

「我々に出し抜かれた太平洋方面軍の侵攻は苛烈であったと聞いております。ただ、芸術作品等々には興味を示す人物がいたことはたしかですね」

「……今更、モニカさんやジェレミアにどうこう言うつもりは無いよ。で、その貴族連中に紹介されて、上手いこと租界に出入りできていたんだ」

「シュタットフェルト氏が帰国してからは?」

「口座等が変わる度にかな子さんと接触していた。ルルーシュが言っていたように、かな子さんがリフレインに手を出したのは、口座関係から探りが入ったからだろう。内縁とは言え実娘の母親だ」

 かな子自身はナオトのレジスタンス活動自体を率先して応援していたわけではないだろう。とは言え、資金がなければジリ貧であり、危険度も増していく。

 そんなジレンマがあった矢先にナオトが姿を消し、彼女はそうとう自分を責めたとも思われる。

 カレンとの関係も良くなく、シュタットフェルト氏は遠き欧州に居る以上、誰にも助けを求められなかったとも言える。

「ナオトが居なくなった以上、俺がもっと気に掛けるべきだったんだが……、カレンには本当にすまないことをしてしまった」

「お前だけじゃない。俺自身も迂闊だった……。カレンを煽る以上は、母親のことも気に掛けるべきだったんだからな」

 永田はナオトとともにカレンともかな子とも親しかった関係から、ルルーシュは過去を知っているという事情から、ともに出来ることはあったと言う気持ちが強い。

 過去ほどの重症ではないとは言え、薬物との戦いは生涯続くと言われるほどに恐ろしいモノだ。

「自嘲するのはそこまでです。永田さん、貴方から見て、シュタットフェルト氏は信頼できるのですか?」

 そんな調子のルルーシュと永田に割って入るように、モニカが静かに永田に対して問い掛ける。

 彼女自身は、自身の手の者から情報を上げさせているが、やはり近くで見ていた者の証言も必要にはなる。

 永田はシュタットフェルトを信用していると言うが、肉親であるナオトとカレンがまったく慕っていない点が引っ掛かるというのはルルーシュも同様だった。

「あんた達に隠し事は無理って事は心得ている。はっきり言えば、信用はしているが、信頼はしていない。ってところだな」

「信用には値する人物であると?」

「先ほども言ったが、パトロンとして世話になったからな。まだ駆け出しで妻を養うのも難しかった俺を助けてくれた恩はある。でも、あの人は商売人だ。人から信頼されようなんて気はさらさら無いだろう」

 そう言った永田の言に、ルルーシュもモニカも顔を見合わせながら肯く。

 商人という者は商材を実績や宣伝によって信用を担保として販売し、利益を上げる。そこに人格的な信頼などが介在する余地はない。

「つまり、俺も永田と同様に投資する価値があると判断して接近してきたと言う事か」

「それもあるとは思いますが、ルルーシュ様、ヤツなりの野心も存在すると思えます」

「と言うと?」

 永田には陶芸という芸術品を生み出す技能があったように、ルルーシュには国家を動かす才がある。加えて、キョウトを抑え、当主の神楽耶も事実上手の内にあり、モニカやジェレミアと言った本来ならば敵陣営にある英才を臣下としても居る。

 商人からしてみれば、投資の価値はあるとみて間違いは無い素材でもある。ルルーシュ当人からしても、自信家である彼は当然の評価だと思ってもいた。

 しかし、まだまだ事情はあるようで、それまで無言で永田達の話に耳を傾けていたジェレミアが口を開く。

「はっ、シュタットフェルトの接近を受けて、咲世子の手の者達を使い、政庁の官僚達を内偵してみたのですが、私に協力してきた者の大半はシュタットフェルトからの援助を受けていたのです」

「キョウトからの賄賂を受け、一部の日本人に対する優遇措置など、コーネリア政権になってからあぶり出されている不祥事。これらを辿っていった先にあるのは、シュタットフェルトのようなのです」

「ほう?」

 二人からの報告を受けて、ルルーシュは過去において、特区成立前のダールトンとバトレーのやり取りを思い返す。

 これはあくまでも公式記録だったが、バトレーははっきりと「クロヴィス殿下を苦しめ続けてきた者達が排除された」と口にしていたと言う。

 これは、キョウトからの諜略に嵌まっていた事務次官以下の腐敗官僚達が特区にかこつけて排除された経緯に対しての言葉だったが、考えて見ればブリタニア人である官僚達がなにもキョウトの操り人形で居続ける理由も無い。

 ジェレミアの総督代行時に、不祥事黙認を条件に不承不承従ったように、相応の地位にある人物が背後にいたという証明にもなる。

 いずれにしろ、ルルーシュとしては会ってみたい人物である事に変わりは無いようにも思える。

 腐敗したブリタニアの象徴とも言える反面、その腐敗を利用し、最終的には破壊しようという魂胆があるのでは無いか?そう考えさせられるのだった。

「ルル、何か悪い顔をしていますね……」

「悪巧みはアイツの得意分野だ。似たような人間が出てきた事を喜んでいるんだろ」

 そんなルルーシュの心情を知ってか知らずか、“悪逆皇帝としての顔”が表に出てきているルルーシュを、その場の者達はなんとも言えない表情で見つめていた。

 いずれにしろ、“会ってみる”と言う結論が出たと言う事を、その表情から察するにあまりあるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 ルルーシュ達の方策が決まったその頃、ユーフェミアとスザクを招き入れたシュタットフェルト家の者達は、歓談と言う名のユーフェミアに対する軍需産業とそれらの暗闘という現実の講義は終わろうとしていた。

 理想を追い求めると言う点で、ルルーシュとユーフェミア、さらにスザクは共通している。しかし、ルルーシュは結果を何よりも優先し、取るべき手段を選ぶことはない反面、スザクは自身が抱えた過去から、過程に囚われ、ともすればその最中で果てることを望む。

 ユーフェミアはそんなスザクの楔となり、あくまでも自身の理想と道を違える事になった兄妹への思いが強く心の内には残っていた。

 カレン自身は、ユーフェミアやスザクが語る理想にどうしても苛立ちが募る。

 日本を奪っておいて、今更仲良くする場を“与える”と言うのが当初のユーフェミアの構想。さすがにそれは諦めたようだったが、そんな事を考えただけでもカレンからすれば腹立たしい。

 そもそも、ユーフェミアにそんな場を与えられなくても、自分達黒の騎士団では、日本人とブリタニア人が仲良くやっているのだ。

 当初はいがみ合いもあったし、日本解放戦線出身者はあからさまに嫌悪を示す者も居たが、それらはルルーシュが話し合いによって袂を分かっている。

 藤堂鏡志郎という日本の英雄を味方に引き入れなかったルルーシュの意図がここにあったようだし、ルルーシュ自身はいつでも迎え入れるつもりというスタンスを崩していない。

 要するに、やっていることは根っこの部分でユーフェミアと一緒であったが、あくまでも利害の一致が条件でもあった。

 そして、それ以上に気に入らない事もまた、カレンの目の前には転がっていた。

「私のように、あくまでも利を判断の基準にする人間からすれば、ゼロ達の戦いも一理はある。国を取り戻したい、理想を実現したい。その追求の果てにあるのは、武力という名の実力行使ですからな」

「……それでも、彼等の行動は間違っていると思います」

「ブリタニアの法を持って語るのならばそうでしょうな。だが、彼等はその法の下には居ない。そもそも、ブリタニアの法を持って語るのならば、ブリタニア人とナンバーズの融和もまたあっては成らぬ事です」

 言外に、ユーフェミアの理想は間違った手段だと告げるシュタットフェルトに、スザクは表情をしかめる。

 自分で手段に縛られる様子は相変わらずだとカレンは思うし、キュウシュウ戦役の時に散々やり込めたつもりだったが、かえって意固地になっているようにもカレンには思えた。

 何より、ここまで頑固だと、ルルーシュがユーフェミアと対面した際にも、スザクを介入させなかったことも納得できる。

「私自身は甘いと言われようとも、実現したいことなのです……」

「殿下、今は乱世とも言える世。乱世に甘さは不要であるともいえます。姉君もまた、貴方様以外の者達に対しては甘さを捨てておられる」

 コーネリアのユーフェミアに対する溺愛は端から見ても過剰と言うべきか、偏執的とも言える気がするが、ルルーシュとナナリーの関係を見ても、甘さが許されない時代や立場にあって、抑圧された甘さが身内に対して一方的に解放されている状況なのかも知れない。

「シュタットフェルト卿、利害関係等を語って頂けたことは感謝いたしております。貴方がブリタニア本国やユーロブリタニアの勝利のために活動されていることも。しかし、それは流血を生み続けるだけなのではありませんか?」

「その通りですな。私の本質は死の商人。流れる血によって財を成している人間にございます」

「最低ね」

「そうだな。だが、そうやって稼いだ金でお前は暮らしている事もまた事実だ」

「はいはい、そうですね」

 ユーフェミアとの会話は幾度となく繰り返された話でもある。

 彼女からしてみれば、日本人のように虐げられる人間が居るのは、シュタットフェルトのように武器を売りさばき、戦乱を煽る人間が居るために起きているのかも知れないと言う気持ちがあり、それが眼前にて平然としている様に納得がいかないのかも知れない。

 シュタットフェルトもそれを否定しないため、カレンもまた正直に自身の感想を口にする。

「ええと、カレンさん、お父さんに対してそんな口の利き方は?」

「あんっ!? 何か文句あるのっ!?」

「カレン、止めなさい」

 そして、そんなカレンに対し、余計なことを口走ったスザクは、それまでの儚げな印象は一瞬で吹き飛び、どこかヤカラのめいた威圧を向けてきたカレンに思わず目を丸くする。

 シュタットフェルトの取りなしでその場の空気は整えられたが、カレン自身、二人の理想主義的な物言いも、シュタットフェルトの俗物的な物言いも不快である事には変わりは無い。

「娘が失礼をいたしました。ですが、ユーフェミア様、一つ、私といたしましても反論させて頂きますれば、私は流血を産みながらも、やがてはそれを消し去るために動いております」

「……最終的に戦いを終わらせるためと言う事ですか?」

「流血や差別、迫害を無くすとなれば、まずは乱世を終わらせることにございます」

「乱世を終わらせる……」

「例え、魔王と罵られ、悪魔に魂を売ることになろうとも、乱世を終わらせることが第一と私は考えております。殿下の理想もまた、ブリタニアの侵略に端を発した戦乱が終結した後、実現するモノでは無いかと思われます」

「ですが、私の思いはブリタニアにあっては……と仰られましたね?」

「はっ……。不敬を覚悟で言わせていただけば、魔王と罵られ、悪魔に魂を売ろうとも頂点に立つことです。それ以外に、貴方の理想を実現することは難しいでしょう」

 一瞬張り詰めた空気に、先ほどからスザクを睨んでいたカレンもまた背筋に冷たいモノが走る。

 カレンとスザクが凍り付いている中で、シュタットフェルトとユーフェミアだけは平然としたまま。

 おそらくではあるが、ユーフェミアもまた、彼の言い分を理解しているのだろう。ルルーシュから告げられた事とも共通しているのではないかと言う事もカレンには感じられた。

「ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり、ユフィに父親である皇帝陛下を倒せって」

「いや、あんたは騎士なんだから、実際にやるのはあんたじゃないの?」

「僕がっ!?」

「ユーフェミア殿下はコーネリア殿下のような武勇をお持ちで無い以上、騎士である枢木卿の力は必要になるでしょうな」

 そんな空気の中で、困惑するように声を上げたスザクに、カレンもシュタットフェルトも冷淡に告げる。

 “特区”を成功させたいのならば、弱肉強食を掲げ、侵略と支配を国是とする皇帝シャルルを倒す以外に手は無い。

 一時的に作り出すことが出来ても、そんなモノは皇帝の一存で消し飛んでしまう。専制国家にあっては、皇帝権限はあまりに強大な権力であるのだ。

 そして、それは“正しい手段”を公言するスザクにとってはまさに拷問のような事実であろう。

 実際のところ、弱肉強食を国是とする以上は、武力を持って皇帝を討つ事は、間違いなく“正しい手段”であるのだが、自己矛盾の塊のような彼にはそのような事実に気付くことは不可能だった。

「大丈夫ですよスザク、私は貴方を信じていますから。そして、シュタットフェルト卿」

「は」

 カレンとシュタットフェルトからの事実の突き付けに顔を青ざめながら凍り付くスザクに対し、ユーフェミアはとどめとも言える一言を告げると、表情を引き締めてシュタットフェルトへと向き直る。

「仮に、私が私のやり方で頂点を目指す。そうなったとき、貴方もまた私と運命をともにする事になる覚悟はあるのですか?」

 ニコリと微笑みながらそう告げたユーフェミア。

 事実、皇帝簒奪以外に理想の実現は無いと言いきったシュタットフェルトは、ユーフェミアに対して簒奪を煽ったとも言える。

 タリシアが仕掛けた家中の盗聴器にはその言動もしっかりと録音されているだろう。ユーフェミアの手前、タリシア達も脅迫材料にはしないと思われるが、それでも自身の身を守るためにはそれを用いるだろう。

「私はあくまでもブリタニアに仕える貴族。貴族とは皇帝に対し忠誠尽くすモノです」

 しかし、ユーフェミアの脅迫とも取れる物言いに、表情を変えることなくそう答えたシュタットフェルトに、ユーフェミアは思わず目を見開く。

 煽った以上は連座の可能性もあるというのに、平然と皇帝への忠誠を口にしたシュタットフェルトにはしごをさ外れた思いだったのであろう。

「しかし、皇帝とはその個人だけを指し示すモノではございません」

 そして、不敵な笑みと共にそう言いきったシュタットフェルトに、ユーフェミアは再び目を見開く。

 スザクは眉をひそめているが、ユーフェミア自身もシュタットフェルトの言わんとする言葉の意味を悟っていたのだった。

 あくまでも、自分の忠誠は皇帝にある。しかし、その皇帝が“シャルル・ジ・ブリタニア”であり続けるとは限らないと言う事に。

 そして、ユーフェミアは気付かなかったことであるが、その“皇帝”とは、何もユーフェミアだけでは無かったと言う事にも。

 

 貴族でありながら商人でもあったシュタットフェルト。

 彼にとっては、人であっても投資の価値の有り無しに関わる商材であり、そこにはルルーシュもユーフェミアもまた例外ではなかったのであった。

 

 そして、彼の真意もまた、カレンや他の者達にはいまだに与り知らぬ事でもあったのだった。




投稿期間が大分空いてしまった上に、どんどん脇道に逸れて行ってしまって申し訳ありません。

シュタットフェルトに関しては、原作通りの薄情な男か実は家族思いの男か等々の色々な解釈があったのですが、カレン絡みで色々と水面下の抗争があったんじゃ無いかと色々と妄想しているうちにこんな形でユーフェミアにも絡めてみました。

色々と足りない部分があるとは思いますが、御指摘等々はいつでもおまちしておりますので、よろしくお願いします。

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