コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

73 / 103
第6話 動き始めた世界②

 冬の様相を見せ始めたナリタ連山。

 かつて、この地が“日本”であった頃には国内最大級の避暑地として季節を問わず賑わいを見せていたこの地。

 ブリタニアの日本支配以降も貴族の避暑地として富士河口湖周辺と同等の観光地として栄えていたが、ほどなく日本解放戦線が本拠を構え、人の往来は消えて行っていた。

「まさか、ナリタがシュタットフェルト家の勢力圏だったとはな」

 往来するブリタニア人の姿に目を向けつつ、ルルーシュはボストンバックを肩に担ぐ。

 解放戦線が去った後に戦乱を避けて避難してきたブリタニア人達によってそこそこの賑わいは見せつつある。

 当然、勝機を逃さぬべくシュタットフェルト家が金も人も投入し、別の意味での避暑地としての機能を整えてしまったのだ。

「ルルーシュが知らなかった事を私が知っていると思う?」

「その発言はどうなんだ??」

「何よ? 私はブリタニア貴族なんかじゃ無いんだから領地なんて興味ありません」

 ルルーシュの呟きに、同じように周囲の往来に目をやっていたカレンがそっぽを向くように口を開く。

 ルルーシュの発言が、なぜ教えなかった?と言う嫌味に聞こえたらしく、カレンなりの強がりである。

「それより、名前で呼ぶのは止せ」

「なんでよ? ここに居るのはただのモヤシ学生じゃ無い」

「どこに耳があるか分からないんだ。俺の名前は相応の価値があるんだぞ?」

 人混みの賑わいとは言え、ルルーシュをはじめとするアッシュフォード学園の学生は、ブリタニアの一部にとっては最重要人物になりつつあるだろう。

 ユーフェミアの変化に何かと絡むアッシュフォードは、元々はマリアンヌ皇妃の後ろ盾として巨大な権勢を誇ったのだ。

 そして、スパイが人混みに紛れて聞き耳を立てるなど分けない事でもある。事実、今の会話を聞いていたブリタニアの諜報部員は、咲世子とモニカの手の者達によって秘密裏に連れ去られ、記憶をしっかりと消されてしまっていた。

「でも、この賑わいはなんだか懐かしいな」

「お父さんの赴任先だっけ?」

 そんなルルーシュとカレンのやり取りに眉をひそめていた自分に気付いたシャーリーは、それを取り繕うように周囲を見回す。

 隣を歩くソフィーはそんな様子に苦笑いしつつも茶化すことはせずそれに応じる。

 今回の彼女はカレンとセットでルルーシュとシャーリーの護衛である。

 緊急事態を考えて、C.C.やミレイ、リヴァルは租界に残り、ジェレミアや咲世子は別行動で周囲の警戒に当たっているため、護衛役が出来るのは彼女しかいなかった。

 余談であるが、肉弾戦になった場合、四人の中で一番弱いのはルルーシュである。

「うん。この商店街も休みの時には良く連れてきてもらってたんだ」

 シャーリーの父、ジョセフはサクラダイト関連の地質学者であり、ナリタ連山の属する中央造山帯は富士山と同じ活火山が多く存在し、サクラダイト鉱脈はいくらでも見込める地である。

「せっかく来たことだし、顔ぐらい出していくか?」

「え? ……うーん、表向きは留学していることになっているから止めておく。それに」

「それに?」

「なんでもない」

 ルルーシュとしては、過去の記憶がどうしても脳裏によぎるため、シャーリーには父親との時間を大切にして欲しかったのだが、頬を染めているシャーリーの様子を見るに、彼氏を父親に紹介する光景が脳裏によぎったのであろう。

 そんな朴念仁と恋する乙女の様子に、眉間に皺が寄った事を自覚したカレンとニヤニヤと見つめるソフィーの姿は、観光中の学生と言った様子でしか無かった。

『ルルーシュ様、永田がまもなく合流いたします』

「……うむ。咲世子、周囲は?」

『数名、気配の異なる者達が人混みに紛れております』

 そんな時、ルルーシュの耳にジェレミアからの通信が届く。

 ジェレミアは万一に備え、ナリタ郊外の森に潜む騎士団トレーラーにて周囲を探っており、折衝役の永田の動向にも目を光らせていた。

 当然だが、ルルーシュ達の周囲には、咲世子をはじめとする篠崎流の手の者達が潜み、危急の事態に備えている。

『人の波の中に潜む純粋な諜報員でしょう。ルルーシュ様達に感づいているかは不明ですが、排除いたしますか?』

「判断は咲世子に任せる」

 ルルーシュ自ら指示を出しても良かったが、事、諜報に関しては咲世子の方が上であろう。ブリタニアの諜報員を排除するにしても、その時刻や状況などはブリタニア側からすれば手に取るように分かる。

 その時、その場に居た人間はすべて取り調べの対象となる以上、ルルーシュ達がその場にある時は動くべきでは無い。

 その辺りの判断はルルーシュよりも専門家である咲世子に託すべきだろう。

「こんなところで湿気くさい事やってんじゃねえぞイレブン風情がっ!!」

 そんな時、ルルーシュ達の耳に届くブリタニア人達の怒声。

 数人の若者達に囲まれる形で露店を広げていた日本人――永田が囲まれて殴る蹴るの暴行を受けているところだった。

 以前のカレンであれば駆け付けようとしてルルーシュに止められるところであろうが、今回は仕込み済の演技である。

 ほどなく、震える手でみかじめ料を差し出した永田の手から、若者達は満足そうな様子で金を奪い取ると、そこで彼は解放された。

 傷をさすりながら、壊された陶器をまとめはじめる永田に声を掛ける様子のブリタニア人は居らず、日本人も同様である。

 シュタットフェルト家の影響下にあるとは言え、このような光景はトウキョウ租界と変わらず繰り広げられているのが現実であった。

 それでも、黒の騎士団による各所への攻撃によって形を潜めはじめている面もあり、こう言った行為が目に映るのは、その地が平和である証拠とも言えるのは皮肉と言うべきであろうか。

「大丈夫か?」

「え? ああ、申し訳ありません。すぐに片付けますから。それとも、何かお買い求めですか?」

「いや、みんな壊されちゃっただろ?」

「ああっ!! 申し訳ありません。もしよろしければ、工房の方へおいでください。作りたての物がいくつかございますから」

 永田に近づき、下手な芝居をはじめる両者。

 とは言え、このような芝居染みた行動は、租界で生きる“イレブン”達の現実でもあるため、周りの人間も一瞥するか、失笑するだけでしかない。

「お、おい、まだ買うって言ってないぞ??」

「あーあ、行っちゃった……。どうするの? 期待させちゃったよ?」

「そうよ。なんかかわいそうだし、あんた金があるんだから買ってあげなさいよっ!!」

「……言っておくが、俺の財布はスッカラカンだぞ?」

「急に現実に戻るんじゃ無いわよ」

 そして、三文芝居を続けたルルーシュ達は永田の後を追い掛ける。

 その最中、カレンに対して小声で告げたルルーシュだったが、初期の騎士団との行動に投じた資金はルルーシュが貯め込んでいた資金であり、ナナリーの治療資金も“ルルーシュとナナリーの騎士団員としての給料”と言う形で出している。

 戦傷とも言える傷である以上、アッシュフォード家をはじめとするスポンサーの資金を利用しても良かったが、その辺りは汚職を嫌うルルーシュとナナリーの潔癖さがあり、衣食住以外の資金はカツカツであった。

 そして、永田を追って商店街を抜け、森に入るとルルーシュ達はバイザーを被り、顔を隠す。

 その先には、森に隠れる形で小型のバンが待機しており、先ほどの若者達がルルーシュ達の姿を見とがめると頭を下げる。

 彼等はシュタットフェルトの部下達であり、先ほどの三文芝居に参加したが、ルルーシュ達とすればまだ素顔を見せるわけにはいかなかった。

「悪いな、面倒くさいことをさせて」

「いや、多少の警戒は必要だ。……この先はナリタ連山か」

「ああ。登山道にケーブルカーが有ってな。その終点でシュタットフェルト卿はお待ちしている」

「ケーブルカーか……。それにしても、租界に比べて落ち着いた町だな」

「……ルル?」

「急に感傷的になってどうしたの??」

 永田の運転でナリタ連山。かつて、日本解放戦線の本拠地があり、ルルーシュが背負った取り返しの付かない罪の舞台となった地へと向かう最中、ルルーシュにとっては忘れたくても忘れられぬ過去が思い起こされる。

 とは言え、その過去の犠牲となった男は生き、少女は今もなお変わらぬ、いや別方向に変わってしまったが、笑顔を自分に向けてくれている。

「シャーリーは前に来たことがあると言っていたが、ケーブルカーには乗ったことがあるのか?」

「え? うん、お父さん達とハイキングに行くときに乗ったよ?」

「そうか……。俺はそう言う事に縁が無かったからなあ」

 過去の出来事を思い出し、感傷的になっていたルルーシュは、それを取り繕うようにシャーリーに問い掛けるが、やはりと言うべきか、シャーリーにもまたあのケーブルカーの駅舎は思い出深いものであったのだろう。

 ルルーシュにとっては、そう言った世間一般の家族行事には縁が無かったのは事実だった。

「なに、のんきなことを言ってんのよ。まあ、私も日本が平和な頃に乗ったことがあるけど」

「俺も妻と結婚する前に乗ったな」

「…………なんか、ごめん」

「同じく」

「別にあんた達に謝られたって仕方ないわよ」

 しんみりとした様子から、別の話題を口にしたルルーシュに呆れ口調のカレンだったが、彼女もまた幼い頃の日本を思い出し、永田も幸せだった日々を口にする。

 二人にとっては、シャーリーの優しい思い出の舞台は戦争によって奪われてしまった過去であり、ブリタニア人であるシャーリーとソフィーとしては思わず頭を下げざるを得ない。

 カレンや永田としては、味方として戦っている2人を責めるような真似は出来るはずも無いのだが。

「さて、着いたぞ。下のロッジで咲世子さんが待っているから、騎士団服に着替えてケーブルカーに乗ってくれ」

 駐車場に車を止め、外に降りると観光客の姿もまばらに見えるが、乗り場自体は外からはちょうど死角になっているため、ゼロがうろついても、よほど間が悪くなければ見つかることは無い。

 そもそも、ゼロがのんきにケーブルカーに乗って登山をするなど、誰も考えないであろうが。

「その格好でケーブルカーに乗るって何かシュールね」

「仕方ないだろ。シュタットフェルトも俺の正体にまでは辿り着いていないんだろ?」

「そうみたいだけど……。あの男が何を考えてるかなんて分からないし……」

「カレン、お父さんをそんな呼び方」

「……長年積もり積もった事があるのよ」

 ゼロの姿でケーブルカーに乗り込み、車両前方に立つルルーシュ。

 ゼロの姿で変なところに立つのは彼にとってはいつものことだったが、今回は一段とシュールであったが、ルルーシュとしてはそんな事以上に、シュタットフェルトとの会談の行方を考えている。

 カレンはカレンでわだかまりを抱えているようだったが、それをそのままにしておく以上、表面上は敵対する意思はないとも取れる。

 KMFに乗れば歴史的な大エースであっても、機体から降りればただの少女に過ぎないカレンを籠絡するぐらいは死の商人として地下に生きるシュタットフェルトからしたら赤子の手を捻るのと同義であるのだ。

「ルルーシュ様、まもなく終点です」

「うむ。ジェレミア、周囲は?」

『特別な動きはございませぬ。登山客もガイドを装って遠ざけている様子です』

 そんなカレン達のやり取りを無言で聞いていたルルーシュに、傍らに控えている咲世子が口を開く。

 すでに周囲の危険要素は排除した上でメイドの役割を果たさんとするのは彼女らしいが、それは安全が証明されたとも言える。

 ジェレミアからの報告も加味すればなおさらだった。

「中にはシュタットフェルトさんしか居ない事になっている。俺は咲世子さんと一緒に外に居るけど、くれぐれも短気を起こすなよ? カレン」

「分かっているわよっ!!」

 立場上は中立とならざるを得ない永田は外で見張りと騎士団に対する質として咲世子の監視下に置かれることを申し出る。

 当人からは騎士団とシュタットフェルトとの関係を考えると中立とならざるを得ないとの申し出は受けている。

 とは言え、永田としては親子関係が微妙なカレンがシュタットフェルトの言動で激発しないかが気掛かりである様子だった。

 扇ならば上手く宥めてくれるとは思うが、今この場に居ない人間の事を考えても詮無き事。

 ルルーシュとしては、カレンを宥める扇と扇の背中を押してくれる永田という存在はグループに欠かせない要素だったのだなと、過去において永田の死が大きな影響を産んだことを今更ながらに実感せざるを得なかった。

 元々は、自分を巻き込んだだけの男と言う認識であったにも関わらずに。

「入るわよっ!!」

 そして、そんなルルーシュの心情を無視して、カレンは乱暴に扉を開き中へと足を踏み入れる。

 永田に窘められたことで苛立ったのかも知れなかったが、案の定、永田は額を抑えて項垂れていた。

「…………来たか」

 そして、乱暴な来訪者を迎え入れた男は、一言そう言うと、無言かつ瞑目したままルルーシュ達を手入れの行き届いた室内へと招き入れた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 頭脳を駆使して戦う者達が居れば、自身の肉体を元にした武勇や技能を元に戦う者達も存在する。

 ルルーシュとシュタットフェルトの会談がまさに執り行われようとしていた頃、サクラダイド採掘プラントに覆われた富士山麓では、黒の騎士団の新戦力とキョウト直属部隊との間で激しい演習が執り行われていた。

 ユーフェミアの辞任に伴い、それまで以上に政務に勤しんでいるコーネリアだったが、その視線はまもなく日本を去る妹への餞別と言う名の教育に向けられ、ユーフェミアもそれまで経験しなかった姉の政務に携わる機会を得てお互い満足そうな表情を浮かべているという。

 だが、ルルーシュがそうであるように、コーネリアもまた肉親こそが最大の弱点である。

 政務に勤しむ結果、騎士団とキョウトが作り出した偽造書類を見抜くことが出来なかったのである。

 場所は富士山麓に広がる国内最大の富士演習場。かつて、日本陸軍の“総火演”―総合火力演習の舞台であったこの地では、ブリタニア所属の機体と日本解放戦線所属の機体が激しくぶつかり合っていた。

 コーネリアの目がユーフェミアに向いている状況かつブリタニア軍人達が“名誉ブリタニア人”達の乗る機体を蹂躙する。

 そんな様を現地守備隊や各地のブリタニア兵達は、これまで黒の騎士団に煮え湯を飲まされてきた事からも喝采を送っていた。

 実態は、モニカ、ドロテア、そして、ジェレミアとヴィレッタに率いられた穏健派のブリタニア軍人達と藤堂等日本解放戦線残存部隊と各地から騎士団に合流してきたレジスタンスの混成部隊である。

 当然だが、如何に藤堂が指揮を取ろうと、ドロテアの指揮の下、ナイトオブラウンズ直属の近衛騎士達が相手ではまったく歯が立たないというのが実情。

 しかし、格上との戦いは新兵を瞬く間に熟練へと仕立て上げていくモノである。

 生死を気にする必要が無い状況は、兵士にとっては最良の経験の場であり、最高の相手であるとも言えるのだ。

「どうだポラード? 見込み有るヤツは居るか?」

「全体的にホネはありますね。特に守勢においての粘りでは」

「長年、守りに回ってばかりだったからな。とは言え、お前でも抜けぬと言うのはなかなかだな」

「“奇跡の藤堂”と呼ばれだけのことはありますな」

 今回、ブリタニア側の指揮を執ったドロテアだったが、彼女は前線には立たず、後方での指揮に専念した。

 自分が出てしまえばそれだけで訓練が終わってしまうと言う判断であったが、彼女を無くしても副官のポラードの指揮の下でブリタニア側の勝利に終わっていた。

 藤堂を落とすことは出来なかったが、彼と四聖剣以外の機体が撃破され、司令部フラッグも奪われたとあっては完敗とも言えるが、序盤の正攻法でのぶつかり合いでは近衛騎士達でも押し返される場面があった。

 ドロテアは基本最前線に出ることを好み、エリンをはじめとする近接戦闘を得意とする者達を率いて敵を粉砕するが、それが困難な際には後方にてポラード等の火器支援にて突き崩す。

 ドロテアの不在で前線部隊の破壊力が落ちたとみるや、支援部隊が四聖剣を切り崩したことで勝敗は決している。

「ところで、エリンが揉めていたのはなんだったんだ?」

「ああ、アイツは気が短いので、どうも四聖剣の若い奴と言い合いになったみたいで……」

「相変わらずだな。藤堂中佐には私から謝罪しておこう」

 演習後、現場で行われたデブリーフィングだったが、お互い熱くなっている場であり、さらに言えば解放戦線の残存部隊は正式な仲間という立場では無い。

 そう言った背景から、お互いわだかまりが残っていた中での衝突だったという。

 エリンは近衛騎士の中でも若く、日本侵略の当事者では無いため、悪意を向けられて苛立ってしまったと言うのは分からないでもない。

「それには及びませんぜ」

「うん? 貴公は」

「卜部です。以前は色々と世話になりました」

 扉が開かれていたためか、話が耳に届いた様子でノックと共に声を掛けてきたのは、四聖剣の中でも一際長身でどちらかと言えば黒の騎士団にも好意的な卜部巧雪だった。

「ふふ、トウキョウ租界での戦いでもな」

「あんときは相手にもならなかったですから。それと、朝比奈の事はこっちがどう考えても悪いですから。藤堂中佐も後で来られるかと思います」

「私は詳しく聞いていないのだが……」

「閣下、エリンが怒り出したのは、弔鐘の森の事を持ち出されたからです。それで、エリンが収容所守備兵や民間人の被害を咎めて……」

「前者は冤罪ですし、後者に関しては言い訳できないことですからね。どう考えたってこっちが悪いですよ」

 朝比奈とは、眼鏡を掛けた若い四聖剣のことだったが、2人から話を聞いたドロテアは得心して肯く。

 侵略のことを言われるのはこちらとしても仕方が無いと割り切れるが、冤罪で殺され掛けたエリンからすれば、それを揶揄されるのは頭にくるだろう。

 守備兵への報復を咎められた向こうとしても同様かも知れなかったが。

「そうだったか。それで、両者はどうしている?」

「互いに形の上での謝罪はしましたが……」

「どうにも難しいようです」

 二人の難しい顔にドロテアもまた逡巡する。ルルーシュからの方針では、コーネリアとの決戦に際しては旧解放戦線の戦力までも用いた総力戦を想定しているようであり、今回の演習も互いの練度を可能な限り近づける為のもの。

 しかし、指揮官級がいがみ合っていては勝てる戦も勝てなくなる。

「……どうしたものか。ユーフェミア殿下が帰国される事でルルーシュ殿下の懸念材料が減ったが、コーネリア総督との決戦に敗れては話にもならん」

「練度自体は今回でだいぶ練兵出来ましたから上手く行くと思うんですけどね。で、あくまでも内密の提案ではありますが、解放戦線からは俺と仙波大尉が協力する形を取ろうかと言う話になっています」

「藤堂は来れないと言う事か?」

「ええ。どうにも、若いヤツらは中佐に心酔しているので、中佐じゃなかったら抑えられないと思うんですよ」

 ユーフェミアの暴走はルルーシュにとっては最大の懸念材料であったが、彼女は帰国し本国において本格的に政治の舞台に立つという。

 それに加えて、騎士である枢木スザク。あの、白き騎士を駆るエースパイロットも一緒に日本を去ると言う事でその脅威が取り除かれた。

 結果として、ルルーシュとコーネリアの決戦への足枷は消え、戦力が整い次第、両者は激突するだろう。

 そのための戦力はいくらあっても足りないぐらいであったが、日本における最大の戦力であり、その求心力も群を抜く藤堂の協力が得られないというのはルルーシュにとっても、藤堂自身にとっても大きなマイナスとなる。

 紅月カレンに目を付けたのは、藤堂のこう言った動きを予想してのことだったかも知れないが、それでも日本の“武”の象徴とするにはまだまだ実績不足であった。

「藤堂の勇名もこれで尽きることになるが……」

「藤堂さんはそう言う事は気にしないので」

「個人の問題では無いぞ?」

「そればかりは当人が気付いてくれないとどうにもなりませんから……」

「貴官は藤堂中佐に見切りを付けているのか?」

「さすがにそこまでは。あの人自身、英雄の名は重いと嘆くことが多かったですし、名声が薄れて一兵卒に戻れるならそれで良いという気持ちなんですよ」

「それはさすがに情けないのではないか?」

「返す言葉も無いです。と言っても、あの人の本領は戦場ですし、英雄よりは武人という人ですからね」

 そう言うと、卜部は苦笑しつつも肩をすくめる。

 日本の状況を鑑みれば、藤堂はブリタニアに対して戦果を上げた生存する唯一の日本軍人である。

 壊滅した海軍や粛清された陸軍、そして最近では紅月ナオトのように、まったく無抵抗に蹂躙されたわけでは無いが、それでも現状を変えてくれる生きた英雄の存在をどん底に居る人間は求める。

 ゼロが現れたことで藤堂はその呪縛から逃れられると思ったのかも知れなかったが、どうにも信者というものは逆に意固地になっているとも言えようか。

「卜部中尉、私としては先ほどの件もあって良い印象が無いが、そのような者達を処断する事は出来ないのか?」

「はっきり言うな……。まあ、その辺りは日本独特の事なかれ主義ってヤツでな。身内にはどうしても甘くなってしまうのが俺等の悪癖なんだよ」

 そこまで黙っていたポラードが眉間に皺を寄せながら口を開くと、卜部は力なくそう答える。

 信賞必罰は組織には必要なモノだが、ブリタニア軍同様に日本軍にもそう言った腐敗は及んでいると言う事か。

「機会があるとすれば、民間人に危害を加えた時だったな」

「ええ。まあ、その事で俺もアイツらと揉めたんで、居心地が悪くて使者を買って出たんです」

「嘆かわしいな」

 正論が異論になってしまうと言うのは組織としては末期である。

 もちろん、思い込みを元にした正論は論ずるに値しないが、少なくとも民間人への暴虐は軍紀違反の見本のようなモノだろう。

 ドロテアとしても、ポラードとしても、今後の協力者として期待していた人物とその勢力の思わぬ腐敗を耳にし、卜部が去った後も頭を抱えるしかなかった。




どんどん更新期間が空いてしまって申し訳ありません。
最終話までの大まかなプロットや展開は用意してあるのですが、細部がどうにもまとまらず中々執筆が進みませんでした。

今後も更新は安定しないと思いますが、完結までお付き合い頂けましたら幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。