名誉ブリタニア人によって編成されたブリタニア初のKMF部隊、『第42大隊』。
マティス・シュタットフェルトの提言で、彼の娘、カレン・シュタットフェルトに率いられたこの部隊は、初陣となった日本海軍残存艦隊との戦闘に置いて先鋒を務め、KMF搭乗員36名中20名、さらに後方部隊数十名という大損害を出しながらも、敵主力潜水艦を含む主戦力を壊滅せしめる。
特に、カレン・シュタットフェルトの搭乗する漆黒のKMF。
NACが中華連邦反動勢力(インド)とともに密かに開発していた最新鋭KMFであったが、ダールトンの内偵とシュタットフェルトの謀議によって徴用され、この部隊の象徴として先陣を切る。
その戦果は巨大であり、この戦闘に置いても、まだまだ戦闘に慣れない者達が倒れる中で、抜群の戦果を上げていく。
“黒”という、今のブリタニア、特にエリア11総督府にとっては最も憎むべき敵手を連想させる色も相まって、彼女の活躍はいっそう目立つモノとなっている。
だが、当の本人はいまだ学生の身分を理由に表舞台に立つことを忌避し、コーネリア等、首脳陣も了承したことでその正体に関してはベールに包まれている。
「センダイにて暴れていたテロリストも殲滅したか……。たしかに、役に立っているな」
「お褒めにあずかり、光栄の至りに存じます」
報告書に目を落としながら、それまでのカレンの戦果を思い返すコーネリアは、恐縮するシュタットフェルトに対し、鋭い視線を向ける。
「これだけの才を有しながら、これまでブリタニアに馳せ参じなかったのはどういうわけだ? お前の商売の助けにもなっただろう?」
「あれの母親はイレブンにございますからな。どうにも、私には反抗しがちでして」
「慕っていたジェレミアも去り、エリア11の混沌も増す以上は、隠れて居るわけにはいかなかった。と言う事か? ふん。良く出来たシナリオだ」
一連の行動と記録――その戦いぶりにはどこか引っ掛かる事がある。
「“ブラック・ウィドウ”黒き機体色をそのままに、そう名づけていたが、良い皮肉であるな」
ルルーシュはシャーリーの搭乗する紅蓮壱型を黒塗装してカレンと共に送り込ませたが、騎士団ではシャーリーが特に機体名に拘らなかったため、壱型等と呼ばれていた。
とはいえ、それでは弐型の行方などを問い詰められると考えたための命名だったが、直訳すれば“黒い未亡人”である。
知る者からすれば、紅蓮という配偶者の元から離れた黒き貴婦人とも言える。
搭乗者を考えれば縁起でも無い命名であったが、当の本人達は特段気にしていないため、そのままとなっている。
それを含めて、眼光そのままに口元に笑みを浮かべるコーネリア。
執務中のギルフォードに代わり、傍らに詰めている侍従武官達が思わず身を震わせるほどの冷たい笑み。
だが、それを向けられたシュタットフェルトは表情を変えぬまま、同様に口元に笑みを浮かべる。
「黒とは即ち影。影というモノは、光と主が無ければ存在できませぬ。病弱な貴族令嬢としての主が、殿下という光を得て存在を得る。素晴らしきことにございますな」
「たしかに、各地のレジスタンスの連携。これは、エリア11各地に張り巡らされた長大な交通網によって成り立っていたと考えられていた。だが、海軍の再びの壊滅によって、それにも綻びが出ている。私が貴様に期待した戦果は得られているな」
「はっ……。私も、このエリア11の地が気に入っておりますが故、この地の平穏は望むべく事に」
実際、シュタットフェルトの持つ人脈と地下にて生み出されている秘匿兵器群。
これによって、NACの古狸達はようやく面従腹背から平身低頭へと態度を改め、名誉ブリタニア人達は、それまで望むべくもなかった出世の道が開かれ、ゼロによって活発化されていたテロリスト達には混乱が見られはじめている。
自ら前線に立ち、また枢木スザクという“服属の象徴”を前線に投入してまでエリアの鎮圧に努めてきたコーネリアとしては自らの落ち度を突き付けられた形になっている。
しかし、あまりに上手く行きすぎているとも思う。
加えて、勢力は大きくとも、ゼロ以下、ブリタニアの裏切り者どもも含めた黒の騎士団の本体にはどうしても刃が届かないのである。
コーネリアが“シナリオ”や“影”と言うかまかけを行っても、眼前の死の商人はおろか、当の名誉達も尻尾を出さない状況が続く。
いや、カレンに関しては軍務が終わればさっさと帰宅してしまい、部下という形になっている名誉達と交流する素振りも見せず、特に粗暴が目立つ玉城などは彼女を平然と罵倒している。
「それで、なぜあのような粗忽者を私に紹介した?」
「駄馬はしぶといのですよ」
「駄馬か……。たしかに、何度機体を破壊されても生き残り、最後まで戦い続ける。他の者達も大半がそうであるな」
シュタットフェルトがパトロンとなって長年使っていたと言う永田という男はカレン同様に隙を見せないが、玉城に関しては隙あらばギルフォードにすら噛みつき、かと思えば酒の席に誘い込んで親交を深めている。
そして、いざ戦闘となれば真っ先に突撃し、機体を幾度破壊されても最後まで生き残る。
練度に関しては呆れるモノだったが、その生存能力と敢闘精神に関してはコーネリアですら一目置いていた。
惰弱なイレブン。
そう言った印象を抱いていた彼女も、エリア11――日本での戦いにおいて無意識のうちに変わりつつあった。
「枢木スザクが正論を持ってイレブン……日本人を導こうとしたのに対し、彼等は行動を持ってイレブンの居場所を作ろうとしております。それ故の行動かと」
「我々に、ユーロピアの俗物達と同じ真似をさせようとはな」
「ですが、黒の騎士団はお株を奪われることになる」
実際、ゼロは戦う道を説くことでイレブン達を奮い立たせ、無謀とも言える戦いを挑み、ブリタニアに勝利を続けてきている。
コーネリア自身、幾度となく彼を打ち破っていたが、決定打を与えられぬまま、気がつけば肥大化していく。
端から見れば勝利しているのはこちらであっても、最終的な勝利はゼロが持っていく。それ故に、人々はゼロがブリタニアに勝利し続けると言う幻想を抱いていく。
家族の安寧という飴を用いてイレブンを砲弾代わりにするユーロピアとも、見せかけの地位と安寧を与えて奴隷とするブリタニアとも異なる道を示して見せた。
となれば、ブリタニア……がそれを行うには国是が邪魔をする。だからこそ、コーネリアの下でのみ地位と出世は保障される。
当然だが、コーネリアが日本を去れば元の木阿弥であったが、シュタットフェルトはそんな事までは彼等に告げてはいない。
コーネリアも約束はしていないし、得た地位を保ちたければ自分と共に戦場を駆ければ良く、後任の総督からしてみればそんな約束知ったことでは無い。
「ふん。だから言ったのだ。良く出来たシナリオだと……。誰がこの絵を描いた?」
「総督はすでに察しておられるのでは?」
「では、率直に聞こう…………この絵を描いたのは、ゼロだな?」
そこまで考察し、立ち上がったコーネリアはシュタットフェルトの元へと歩み寄り、寸分の狂い無く剣を横へと払う。
舞い上がるシュタットフェルトの首。とはならず、彼の首元にはほんの僅かな赤い線が横に走る。
寸分の狂いが生まれれば、執務室は鮮血に彩られていたであろう事は簡単に予想が付く。
だが、そう問われたシュタットフェルトは、不敵な笑みを浮かべたままである。
「ゼロにございますか」
「そして、カレン・シュタットフェルト。貴様の娘は、あの騎士団のエースパイロットであり、禍々しき血を纏ったKMFの搭乗者。違うか?」
「ふむ……。殿下ほどの御方であれば、お気付きになられますかな?」
「貴様。やはり、私を謀っていたかっ!!」
「謀りなどと。たしかに、私は殿下の元に、黒の騎士団のお株を奪うべく奮戦する部隊を献上いたしました。そして、イレブンどもの兵站を担う隠密艦隊の無力化……。殿下の御心に沿いはすれど、謀ることなど滅相も無きこと」
「っ!?」
剣を突き付け、眼光鋭く問い詰め続けるコーネリアに対し、尚も表情を変えず、彼女自身が望んだことに加えて、その強力な敵手すらも無力化せしめた事を臆すること無く告げる。
コーネリアの合図を待って、シュタットフェルト捕縛に動こうとしていたギルフォードとダールトンも、執務室の外にて動きを止めている。
コーネリアの性分であれば、カレンを戦場にて仕留めることを願う。
だが、総督という立場を考えれば、ともすれば自身が屠られる可能性のある敵手。
当然だが、後れを取るつもりなど彼女には無かったが、それでもゼロのような首魁ではないカレンをコーネリアが討つと言う状況は、ギルフォードとダールトン、その麾下のグラストンナイツ以下、コーネリア軍そのものが打ち破られた時の話になる。
そして、ゼロが描いた絵を否定しなかった以上、シュタットフェルトはゼロをも謀ったことになる。
『おいおい、何の騒ぎだ? 掃除の時間なんだけどよ?』
『わ、こら玉城っ!! 今は入室禁止だとっ』
『んだよ。懲罰で総督室の掃除しろって言ったのはおめえじゃねえか。時間になったから来たってのによ』
『馬鹿者。今、シュタットフェルト卿と会談中だ。さっさと失せいっ!!』
『あんっ!? カレンの親父さんがどうしたってんだ??』
『お前が気にすることではないっ』
そして、コーネリア達が思考の渦に嵌まりかけていたその時、予期せぬ闖入者が総督室へとやって来た様子だった。
「待て、ダールトンっ、ギルフォード!! ……玉城真一郎」
「なんだよっ!! って!? なにすっ!? ごわっ!? ちょっ!? わ、悪かったって!!」
玉城を追い払おうとしたギルフォードとダールトンを制したコーネリアは、無礼な口をきこうとして二人から折檻を受けて顔を腫らした彼を入室させる。
「痛てて、なにもここまでボコボコにしなくたって」
「貴様には軍紀というモノを一から叩き込まねばならぬな。まあよい、貴様、ゼロからなんと命令された?」
「はあ? 何で俺がゼロなんかに?」
「聞かれたことに答えろっ!!」
「んなこと言われたって、俺はシュタットフェルトと親父さんに」
「シュタットフェルトに?」
「仕事を紹介してもらっていた縁で呼び出されただけだっての」
腫れ上がった頬を撫でつつ、ふて腐れたように答える玉城に再びギルフォードがゲンコツを落とし、尚も尋問を続けたコーネリアだったが、結果として玉城から言質を取れぬままであった。
とは言え、どこか引っ掛かりを覚えることも事実。なおも問い詰めようとしたコーネリアを制すようにシュタットフェルトが口を開く。
「ふむ、玉城君。もう良いよ、ここまでで上出来だ」
「はあ? …………って、もう誤魔化さなくてってっあっ!?」
「はははは、やはり君らしい。そうしてくれないとだな。殿下、我々の負けですよ」
「ほう?」
「お、親父さんっ!?」
「これ以上はいくら玉城君でも身がもたんだろう。殿下、ゼロが私に託した策。すべてお話しいたしましょう」
突然の変化と言うべきか、それまでふて腐れるように答えていた玉城が、一転狼狽し出すのを横目に、シュタットフェルトは相変わらず口元に笑みをたたえたままである。
とは言え、コーネリア達からしてみれば、最も手強いと思っていた男が口を割り出したことに逆に警戒する。
そのため、ほんの一瞬、玉城の目元が赤い光を放ったことに気付くことは無い。
「殿下の尖兵として、日本人を討ち果たし、信を得ることで騎士団との決戦に際し先鋒の栄誉を受ける。もっとも、殿下がこれを承諾するという保障はございませんが」
そして、決戦に際し最前線で奮戦するも戦闘は膠着。
やがて、総督府にもたらされたのは日本全土での日本人の決起とそれに呼応するかのように侵攻を開始する中華連邦軍の報。
いかなコーネリアといえど、万全の体制を組むゼロに率いられ、ドロテア、モニカ、ジェレミア。そして、藤堂鏡志郎等に率いられた黒の騎士団を相手取ることで手一杯となり、おそらくトウキョウ租界に残留するであろう、ダールトンは決起した日本人の抑えに回ることになる。
そして、再びキュウシュウへとなだれ込む中華連邦軍。当然だが、目の前の騎士団を打ち破ることで敵の出足を挫くしか無くなる。
コーネリアが下す決断ともなれば、自身がギルフォード等の精鋭を伴い、ゼロを討ち果たす事のみ。
しかし…………。
「殿下やギルフォード卿、グラストンナイツと同道出来る唯一の存在であるカレン・シュタットフェルト。だが、同道していたはずの彼女は」
ゼロの眼前に現れた赤き機体に討ち取られ、それまで築いた名声は一瞬にして地に伏し、同時に全軍にその報は伝播していく。
「どういうことだ?」
「そのままですよ。アレは騎士団のエースパイロット等ではございませぬ。ジェレミア卿の薫陶を受けたとは言え、才だけで戦う小娘に過ぎませぬ。とても、黒の騎士団のエースには……」
事前の謀略である。カレンがコーネリア等とともに前線を切り開いたところで討ち取られ、その一瞬の動揺を騎士団のエースパイロットやドロテア、モニカが見逃すはずも無い。
「お、おいっ!! 親父さん、なんで全部っ!?!?」
「玉城君、いい加減気付きなさい。私が、いつ黒の騎士団の味方をすると言ったのだね?」
「は?」
「ゼロとは交渉の機会を持った。なにせ、ナオト君と彼は旧知だ。当然だが、カレンとも面識はある。だからこそ、ゼロに親近感を持つカレンをあの男にくれてやるわけにはいかん」
そう言うと、それまでの不敵な死の商人の顔から、表情の消える父親の顔となるシュタットフェルト。
旧知であると言う玉城は元より、コーネリア達ですらその変化に思わず目を見開く。
「カレンが病弱を装って、レジスタンスと行動していたことはタリシアから報告されていた。私は商人である前に貴族だ。そのような汚点があればどうなるか。何より、一人娘がレジスタンスに組みするだとっ!? 冗談では無いっ!!」
「だから、私の元に娘を差し出し、危険を覚悟でゼロを謀り、私達に内偵したというのか?」
「我が娘で有りながら強情でしてな。一度、見始めた夢から覚めるには、ゼロに消えてもらうしか無い」
「て、てめえっ!! 俺達をそんなっ!!」
そんなシュタットフェルトの変わりように、自分達が売られたという事をようやく悟った玉城が掴み掛かろうと飛び掛かる。
しかし、あっさりとギルフォードに組み敷かれ、意識を断たれる。
「ふ、大した役者だなシュタットフェルト。今を持ってもまた、私は貴様の真意が見えぬ」
「左様にございますか。ですが、ゼロはこの事実を知らぬ。当然ですが、奴の手のモノは総督府に入り込んでいる。私や玉城が死ねば、ゼロは決起を取りやめるでしょうな」
「罠に嵌まりつつ獣をそのままに討てというのか?」
「御意。そして、ゼロにとって、獣を追い込むための猟犬はもうおりませぬ」
「私達をゼロの元へと導くカレン・シュタットフェルトも玉城真一郎等も戦場には無い。だが、その事実はゼロには届かない」
そこまで言うと、シュタットフェルトは再び口元に笑みを浮かべる。その真意は再び読み取れなくなる。
実際のところ、コーネリアとしてはどちらも信じるに値する要素が足りないままであり、思案要素は増すばかりである。
シュタットフェルト等を処断し、ゼロの決起を思い止ませることは容易い。
実際、謀略の見込みを失ったゼロは再び地下に潜る可能性はあるが、そうなれば再び立つ事は出来なくなる。
反逆というモノは、一度旗を降ろした者が再び光を得ることは無い。一度の失敗が絶望となり、希望を抱いてきた者には失望と疑念を抱かせるからだ。
そうなれば、ゼロは計画した決起を修正して再び挑んでくるだろう。建前上、恐るるに足りぬと言う態度で望んでいたコーネリアであったが、あの知慧を相手取る際には己の武勇を頼みする事は困難を極める。
そう考えると、どうしても欲が出てくる。信じるには都合が良すぎるが、シュタットフェルトは、現状ゼロを手玉に取っていると言って良いだろう。
名誉達が搭乗するKMFをNACから引き出させ、海軍の犠牲を了承したのもゼロであろう。
地下に潜るキョウトなる者達は利に賢く、自身の手駒を犠牲にするなどと言う手段を取ることは無い。
何より、コーネリアにはエリアの平定を急ぐだけの理由もある。
ヴィランス大公の不明を切っ掛けに混乱するユーロブリタニアに対し、ユーロピアに反抗の動きがあり、兄弟間での和解は進みつつあっても、シャルルの行動に疑念を抱くオデュッセウスやギネヴィアはいまだに所領を動いていない。
内憂外患。
極東の地にあるコーネリアとしてみれば、早期にこの地を安定させる必要に迫られつつあるのだ。
「…………ふん、誰が貴様などの口車に乗るか。ギルフォード、こやつ等は執務室で軟禁しろ」
「はっ!! ですが、軟禁でございますか?」
「手の者達を手放すのは惜しい。私を愚弄した以上、私のために働いてもらうぞ」
「はは。元より、私はそのおつもりに」
「っ!? 聞いての通りだ。ダールトン、お前はシュタットフェルトの手の者達を集め、監視体制を確立しろ。どんな手段を用いても構わぬ」
「イエス、ユア・ハイネス」
シュタットフェルトの隠し事はまだいくらでもあるだろう。だが、拷問の類いを用いたところでこの男が口を割るはずも無い事はコーネリアも分かっている。
なれば、最後まで利用し尽くすのみである。
少なくとも、謀略の類いに関してはダールトンが担っているとは言え、彼の領分でも無い。シュタットフェルトの部下ともなれば、主人の利をあっさりと悟るであろう事は想像に難くないのだ。
「姫様、ヤツの言い分……どこまで?」
シュタットフェルトと玉城を連行していったギルフォードを見送ると、ダールトンは重々しく口を開く。
目下、懸念事項は多い。
シュタットフェルトがここまであからさまな裏切り行為を働く以上、まだまだ裏があると見て良いだろうと言うのは双方に共通している。
「小娘には伝えるな。あの永田と言ったか? 副官の方は鼻が効くであろうから、上手く使えば良い」
「事態を察し、ゼロが戦を挑んできたときには?」
「ふん、何を言うかと思えば……。ヤツ等があの娘が戦場にある事を望むのならば、望み通りにしてやるまでだ」
そして、カレンに関しての懸念を持っていたダールトンの問い掛けに、コーネリアは獰猛な笑みを浮かべて答える。
先ほどまでのシュタットフェルトの言い分を聞いていた際の困惑とも取れる表情が彼女の本心で無い事をダールトンもまた読み取っていた。
カレンが騎士団のエースパイロットであれ、才ある貴族の令嬢であれ、戦場でゼロ共々撃てば良い。
そうあってこそのコーネリアであり、ゼロ――ルルーシュが警戒する女傑であるのだ。
「となれば、早急にヤツを」
「ああ。ユーロブリタニアがどう動いてくるか分からぬ以上、こちらが早期に主導権を握るべきだ。現状、ヤツはシュタットフェルトの行動に気付いていない。一気に決着を付けてやるとしよう」
そう言うと、コーネリアは不敵に笑う。
多くある懸念材料。だが、それらも戦場にあっては些末なこと。戦場にあっては、眼前の敵を討ち果たす事こそが、武人であるコーネリア以下の将兵達の心情であるのだ。
◇◆◇◆◇
極東の地において、事態が風雲急を告げようとしていたまさにその日、遠きユーロピアの地でもまた、一つの変化が起ころうとしていた。
中央ヨーロッパに広がる黒き森林地帯。
その一画に屹立する純白の城……かつて、名門ブライガル家が領していたこの難攻不落の城塞は、今は主を変え、ユーロピアの一拠点となっていた。
その地を睥睨する一人の男。
細身の長身と腰まで届く長髪を一つに結い上げた優美な風貌を持つ男の名は、シン・ヒュウガ・シャイング。
ユーロブリタニア、四大騎士団が一つ、聖ミカエル騎士団№2の地位にあり、元ナンバーズとしては枢木スザクと並ぶ異例の出世を果たした男である。
その冷血な瞳の見つめる先に対し、下された号令。かつて、この地を死守した英雄達の姿無き純白の城塞は、一夜にしてその姿を紅蓮の炎へと姿を変え、その地に預けられた秘匿兵器は彼の手に握られることとなった。
「ふーん、シンは予定通り動いたか」
その報をユーロブリタニア軍都、カエサル大宮殿の地下深くで受け取った初老の男。
大柄な外見に似合わぬ子どもめいた口調にも、周囲を固める“信者”達は眉をひそめることは無い。
「そうじゃなかったら、貴重なギアスユーザーを無駄遣いした甲斐が無いし、当然だね」
そして、再び一人口を開くと、ノソリと立ち上がり、広大なブリタニア大陸の地図を撫でるように見つめ、そして、一点を指し示す。
「今に見ていなよシャルル。君が僕からすべてを奪おうとしたように、今度こそ僕がすべてを奪ってやる……。そして、最後はルルーシュとナナリー共々、その首を刎ねてやるっ!!」
憎悪に満ちた声。
それが地下に反芻する中、無表情のままにそれを見届ける信者達と鎖に繋がれつつも、いまだ覇気を失わず侮蔑の光を向ける二人の男達。
世界は、さらなる混沌に包まれつつあったのだった。
今回はオールブリタニア側の描写で行ってみました。
この辺の謀略戦は元ネタがあるんですが、何回か映像を見返しても、元ネタの迫力には敵いませんでした。
故緒形拳さんは名優ですね。
色々と足りない描写もあるとは思いますが、その辺りの御指摘は遠慮無く受け付けておりますのでよろしくお願いします。