『総督の決は下った。サイタマゲットーに巣くうイレブンどもを殲滅するっ!!』
グランストンナイツのリーダー格であるクラウディオ・S・ダールトンの言に、他のグランストンナイツとその麾下の兵達が歓声を上げるように応じると、先鋒―魚鱗の先端部に位置するデヴィッド・T・ダールトンを先頭に、鱗が命を得たように動き始める。
「はじまったか……」
『今は、流れに身を任せるしかないわ』
「ああ……。どのみち、ブリタニア兵になりきるしか無い」
ブラック・ウィドウの動きに合わせるように無頼改を操る永田の嘆きとも取れる呟きに、同様の声色でカレンが応じる。
現状で作戦に変更は無い。
あくまでも、自分達は名誉ブリタニア人部隊として、ブリタニアの尖兵となって騎士団と戦う。
そして、戦線が膠着したところで先陣を受け持ってサイタマゲットーへと突撃し、自分達と共に飛び込んだコーネリア軍を待っているのは……。
しかし、現状はすでに策略は見抜かれており、位置関係を見ても自分達は文字通り袋のネズミだった。
そして、瓦礫が積み重なる浦和の町を走らせる中、永田の耳に轟音が届く。先鋒が黒の騎士団とぶつかったのだろう。
「ちっ!!」
ほどなく、危険を知らせるアラームが鳴り響くと、周囲に砲弾の雨が降り注いだ。
騎士団側もかつての寄せ集めではなく、一つの軍隊として機能している。キョウト―解放戦線のラインは騎士団へと切り代わり、シュタットフェルトを通じてブリタニアの技術も流出している。
そもそも、レーダー砲撃の類いは日本陸軍のお家芸であり、自分達は必死に回避したように見えるが、彼等が弾着を外してくれたに過ぎない。カレンと自分だけは回避が可能と判断されているため、集中砲撃に晒されては居るが。
「冗談じゃねえぜ、まったく……」
そう毒づきつつ、スラッシュハーケンを放ってビルの屋上へと機体をせり上げたカレンに従い、部隊は周囲の廃ビルへと上りあがる。
騎士団の火砲部隊はグラストンナイツに気を取られてこちらに気付いていない。と言う構図になっていた。
『永田さん、そっちの右から3輌目。お願い』
「了解」
まずは手はず通り、旧日の出通りに陣取り、後方より支援砲撃に当たっている自走砲部隊。先ほどから続く砲撃のお返しとばかりの反撃を試みる。
ブラック・ウィドウと永田機が構える大型ライフル。
元々ブリタニア軍機に通常装備されている大型キャノンを狙撃用に改良し、装弾数は1発ずつになるが、命中精度は格段に向上している。
元々はルルーシュがシャーリーが戦場に出てきた際に後方支援に徹してくれるようラクシャータに依頼した武器だったが、今となってはありがたい代物だった。
と、ランドスピナーが奏でる走行音が周囲に轟いたかと思うと、次の瞬間に永田達の陣取るビルの屋上へと白地にスカイブルーの塗装が施されたグロースターが躍りかかる。
「近衛騎士っ!? 全機、単独で戦うなっ!! 三機連携で当たれっ」
機体カラーからドロテア直属機であろうが、こちらの偽装をフォローするためか、前線を突破してこちらへと襲いかかってくる。
即座に無頼改を連携してぶつけるが、狭い屋上での戦闘は当然だが制約が大きくなる。
永田はスラッシュハーケンを地上へと向けて放つと、そのまま虚空へと機体を投げ出し、そのまま引き金を引く。
スラッシュハーケンによる激しい重力偏差を感じつつも、荒々しく機体を着地させると、続いてきた僚機達と近衛騎士にはじき飛ばされた機体が同時に落下してくる。
先に着地した機体ではじき飛ばされた機体を支えると、そのまま無頼改を前進させ、グロースターの懐へと飛び込む。
『ははは、少し腕が上がったかな? 永田さん』
「その声? エツベス卿か」
こちらの廻転刃刀を特別仕様の盾とレイピアで受け止め、オープン回線で語りかけてきたのは、ドロテア直属の女性騎士―エリンである。
気性が荒く、四聖剣達と揉めたことがあったと聞いていたが、上司と同様に好戦的な人物であると言う印象である。
今もどこか楽しんでいるような声色であり、通信を入れてきた表情にも不敵な笑みが浮かんでいる。
「こら、いきなり話しかけてくるな」
『ははは。すまんすまん、とりあえず、ひよっこ達が来るまで遊んでもらうぞ?』
慌てて秘匿回線に切り替えた咎め立てる永田だったが、このやんちゃな女性騎士はどこ吹く風と言った様子であり、騎士としてのキャリアはさほど変わりが無いはずのグラストンナイツに対してもひよっこ呼ばわりである。
実際のところ、ドロテアによって先鋒は突き崩されたのか、ドロテア隊が各所でグランストンナイツ直属と交戦中であった。
「ナイトオブラウンズばかりに目が行っていたが」
そう呟きつつ、受け止められた刃を振るう永田に対し、それを交わして素早い剣技で反撃してくるエリンの攻撃を冷や汗混じりで交わす。
実際には圧倒的な数を誇るはずのコーネリア軍前衛が13機のドロテア隊に翻弄されている状況。
これは、ドロテアと交戦しているデヴィッドをバート等三名が援護し、全体の指揮がクラウディオ一人に委ねられている状況が生み出しても居る。
コーネリアが出てくれば話は別であるが、グランストンナイツとしてはドロテアをまず抑えることで数の利を打ち出したかったというのが本音だろう。
しかし、ナイトオブラウンズと言う名の大きさは直属の騎士達の実力すらも覆い隠してしまうもの。特に、敵としてはでなく頼れる味方であったはずの存在の実力は意外と計りきれないものでもある。
特に、ドロテア隊は良くも悪くも重量級が多く、正面からの強力な攻勢を得意とし、今もドロテアの後方で的確な援護を行うポラードが方々を駆け巡りながら支援砲撃をして戦線をじりじりと押し戻している。
言葉では簡単であったが、本来ならば数個大隊で担うべき戦線を一個部隊のみで支えてしまっている事実がそこにはあった。
『そうは言うが、こちらとしてもこれがいっぱいだ。騎士団を消耗させるわけにもいかんからな』
とは言え、これは守勢であるからとも言える。現状、魚鱗の形態は崩され、緩やかな横陣となって近衛騎士達の攻勢を防ぐ状況へと変わっていく。
グランストンナイツ四名でナイトオブラウンズを必死で抑えた結果が功を奏した形になっているのだ。
『っ!? おっと』
そんな状況を互いに見つめながら交戦している振りをしていた両者の間に、介入者が現れる。
『無事か? イレブン、いや、ナガタ』
「ダールトン将軍? ……助かりました」
『ふん、シュタットフェルトは?』
「今は後方にて援護に徹しています。前線は……」
『一個部隊に押し止められているか……。勝利の後にはまた鍛え直してくれる』
割って入ったのは本体の総指揮を担う立場にあるダールトンである。コーネリアが近衛を率いて出撃したとのことで彼もまた前線に出ばってきたのであろうが、互いに腹芸を仕合う会話に仲間を思いやる暖かみはない。
カレンが後方で大人しく援護に徹している姿を見ても、表情を変えること無く、膠着した前線を担う息子達の未来を案じさせる言葉を口にしている。
『ははは、それはご愁傷様ですね。ダールトン将軍』
『エツベスか……。壮健のようで何よりだ』
『ありがたき御言葉。我が主ともども、感謝いたしますよ』
『……ナガタ、こやつは私が相手をする。小娘を連れて“役目を果たせ”』
「りょ、了解」
エリンの言に静かに米神に血筋を走らせるダールトンは、皮肉と言える命令を永田へと告げると、自身は愛用のランスを手にエリンへと躍りかかる。
エリンの側も先ほどまでの余裕は消し去り、表情を強ばらせながらランスを受け止めると、先ほどよりもさらに鋭い剣技でダールトンへと躍りかかる。
しかし、ダールトンはそれをなんなくいなすと、ランスを鈍器の如く振るってエリンの機体をはじき飛ばす。
「あれがブリタニア騎士同士の戦いか……、まったく。ルルーシュと出会ってからとんでもない世界に足を踏み入れちまったな」
そう呟いた永田はビルから降りてきたカレン達と合流し、グランストンナイツが交戦する前線へと機体を走らせる。
元々、ブリタニア兵によって蹂躙された妻子の為に始めた戦いだった。陶芸家という過去がシュタットフェルトの興味を誘い、そこから紅月ナオトを補佐する役目を与えられる事になる。
だが、シンジュク事変の際に彼は姿を消してしまった。シュタットフェルトが本国の政争に巻き込まれて日本に目を向けられない状況下でのこと。
クロヴィス治世下において隙を突くような活動が精々だったが、徐々に影響力を増しつつあったナオトの不明はキョウトからの期待を霧散させ、旧紅月グループの崩壊は決定的かと思われたが……。
目の前で、謎の力―ギアスを行使してクロヴィス近衛部隊を殺戮して見せたルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
カレン達ははじめはその名が意味する事実を信用できなかったようだが、ナオトの不明で落胆していた永田としては救われたという思いもあった。
シュタットフェルトに対し、ルルーシュの行動を報告したのも、彼がカレンの存在を巧妙に利用したいという意図を持っていた事も徐々に分かってきたからだ。
「矛と盾か……。大切なモノを前線では無く側に置きたがるってところが皇族様らしいぜ」
カレンを抵抗の象徴として騎士団の指導者へと祭り上げる。
カレンは怒ったままだが、身に流れるブリタニア人と日本人の血を生かす意味ではナオト以上にその存在に意味はある。
同時に、騎士団のエースとして常に最前線に身を置かなければならない立場もまた失われる。
当初のままであれば無理な注文だったが、今はドロテア、ジェレミアと言った有力な騎士もいるし、日本側としての武の象徴して存在する藤堂鏡志郎、こちらは危うい存在でもあるが、そう言った存在がある。
だからこそ、エースから切り札という立ち位置に持っていきたいと言うのがルルーシュの本音だと永田から見ても分かる。
カレンは強さと同時に脆さを持っている。それも、暴走という形に現れがちな脆さだ。そして、その脆さが戦場では死に直結することもルルーシュは分かっている。
とはいえ、そのためにずいぶん回りくどい事も、その大切な矛と盾に重い咎を背負わせるのだから、ある意味では矛盾でもあるだろう。
『かつて、俺は“大切なモノは遠ざけておくべき”だと思っていた。だが、結局それでは失う結果しか無かった。そして、ジェレミアをはじめとする頼れる味方達は、手元にあって俺から離れることは無かった。だから……』
作戦を告げられた際に、ルルーシュからそう告げられた永田は自分がそうであった過去を思い返す。
妻子を自分の元から離して避難させておいた結果が二人の死という結末だったから。
「まったく、親も上司も、兄も妹も、俺にばっかり苦労を押し付けてくれるよ……」
『何か言った?』
「なんでも。で、どうするカレン? 覚悟は決まったか?」
『…………冗談じゃ無いわよ。今だって、こうやって後ろで縮こまって居なきゃならないのに』
そんなルルーシュとのやり取りを思い返し、思わず口に出していた永田に対し、カレンが訝しげな視線を向けてくる。
そんな問いかけを受け流し、逆にカレンに問い返した永田だったが、その返答はいまだに納得いっているものでは無さそうである。
作戦の決行に関してのトリガーはこちらに一任されている。とは言え、まだまだ戦いの火ぶたは切られたばかり。今は生き残り時を待つことだろう。
「だったら、前線に出て行くとしよう。今は、それをやるしか無いんだぞ?」
『……分かっているわよ。とっくにバレているのに、それでもなお、ブリタニア人になりきれって言うのもね』
「カレン・シュタットフェルトの名が血に塗れてこそ意味がある。ゼロもシュタットフェルト氏もそう言っているんだから仕方が無いさ」
『簡単に言ってくれるわね。何で私が、日本人の恨みを買う役なんて』
「お前さんが抱える呪縛をルルーシュは解こうとしているわけさ。アイツらだって、“味方殺し”をやっているんだしな」
『…………きれい事では世界は変えられない。まったく、嫌なヤツ』
カレンばかりがクローズアップされているが、ルルーシュは元より、アッシュフォード学園の関係者などは元々民間人にもかかわらず同胞の血に身を染めている。
覚悟があれば良いと言うわけでは無いが、互いに殺し殺されの世界に身を置いた以上、時として味方に銃を向ける時があるのは代えがたい事実。
むしろ、その事実を生かす機会があるだけでもカレンは幸せだとはさすがにルルーシュも本人を前にしては言えなかったようだが。
いずれにしろ、無駄話はこれまで。と言うようにブラック・ウィドウは速度を上げて前線へと向かっていく。
膠着を打開するべく吉田率いる第二陣が前線へと出てきており、その相手を命ぜられたのだ。
「結局は、何があってもしこりが残るのが戦場なんだよな」
そう呟いた永田は、ブラック・ウィドウの後に続くように期待を走らせるしか無かった。
「…………なに、今の?? ちょっと、今の話ってどういうことなの??」
「知らないわよ。黙って座ってなさい」
そして、カレンと永田の会話が耳に届いていた者達もまた、血で血を洗う戦場へと身を躍らせるのであった。
◇◆◇◆◇
『ルルーシュ様、第42大隊が前線にて交戦を開始したとのこと』
「そうか。永田からの合図は?」
『まだ、時期尚早かと』
「……そうだな」
「悪巧みを考えついたお前が浮ついてどうする。しばらく様子を見ることだ」
地上にて激しい戦闘が開始された様を、上空にて迫り来るミサイル群を退けつつ見つめていたルルーシュの元にジェレミアからの通信が入る。
埋伏は看破されることを前提に立てた作戦であり、危険を犯す価値があるのかと問われれば否と言えるかも知れない作戦。
だが、シュタットフェルトより提案された事であり、あの利に賢い死の商人との“商談”の機会などは一度切り。
これを逃せばシュタットフェルトがカレンに寄り添うことは二度と無いであろう事は簡単に想像は付く。
そして、あの男はカレンを質とすればルルーシュが手を出してくることも無い事まで計算済みだった。
「それにしても、面倒な状況だぞ? いつまでここでミサイルの的になって居れば良いんだ?」
「計画が成就するまでだ。俺達が的になればサイタマゲットーが航空戦力の脅威にさらされることも無い」
うんざりしたことがよく分かる口調でC.C.は機体を稼働し、ルルーシュはそれに併せて飛来するミサイルを叩き落としていく。
ハドロン砲で一掃してしまえば楽だが、攻勢と異なり、守勢にあっては戦機は相手の動き次第でいくらでも変わる。エネルギーの保持は必要条件でもあった。
そして、ブラックリベリオン時とは異なり、コーネリアは怒りに震えているわけでは無いためガウェインとハドロン砲の脅威を理解している。
航空隊が格闘戦を挑まずアウトレンジによる波状攻撃を仕掛けてきているのはその証左。
格闘戦を挑んできたならば、蜃気楼とサザーランドローヤルで一掃してやるところだったが、ナイトメアに対しては一方的な優位を取れる航空戦力を無駄に消耗させる愚は犯さないと言う事だろう。
「互いに消耗戦だ。C.C.、しばらくは耐えてもらうぞ?」
「分かっている。特製ピザを」
「10枚でも20枚でも焼いてやるから頼むぞっ!!」
ギアスを駆使したとしても、特区の悲劇に端を発した一斉蜂起の流れとは異なり、実際の戦場における削り合いは続く。
とは言え、長き時を生きてきたC.C.に取っては面倒くささはあったとしてもこのような膠着戦は見知ったモノであり、肩の力を抜けとばかりに自身の要求をルルーシュに突き付けんと口を開き駆ける。
ルルーシュとしては、言わせる前に彼女の言を封じるしか無かったのだった。
『我が君……』
そんな両者の様子―ある意味で、ゼロレクイエムによって引き裂かれた関係を取り戻しつつある事にジェレミアは通信越しに感慨深く思う一方、ルルーシュに対するC.C.のマイペースさもまた思い返して複雑な心境であった。
当初の激突から、互いに凌ぎを削る膠着へと移りつつある戦場。ルルーシュもコーネリアも前線に立って味方を守り、味方を鼓舞するが決定打にはなり得ぬ状況下。
そして、こう言った状況下にあって、戦場は変化を求める。“英雄”の登場という変化を。
決断の時は迫りつつあった。
カレン絡みの謀略戦擬きを散々引っ張ってしまって申し訳ありません。
次話でそこにケリを付け、コーネリアとの決戦を主題に上げていきたいと考えています。
KMFの戦いもランドスピナーとかをもっと上手く描写できると良いんですが、現状だと三国志とかの一騎討ちみたいな感じになってしまっているのでもっと精進していきます。