コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第18話 紅の英雄

『総員っ、第42大隊には手を出すなっ!! 合流を支援しろっ!!』

 

『全員、サイタマゲットーへと突入っ!! 生き残りたかったら全力で逃げろっ!!』

 

 

 紅蓮がブラック・ウィドウを攻撃すると、ブラック・ウィドウは即座に左腕をパージして輻射波動から逃れるも、バランスを崩して転倒する。

 突如現れた紅蓮に両軍が一瞬停止するも、沈黙から脱した(正確にはギアスから解き放たれた)吉田と永田の命令に騎士団と第42大隊が動き始める。

 不意打ちという形を取られたブリタニア側も、グランストンナイツ達が永田の命令と動き始めた第42大隊に反応して砲撃を開始するも、ブラック・ウィドウを無視して第42大隊の後方へと躍り出た紅蓮の輻射波動とサザーランドローヤルのブレイズ・ルミナスに阻まれている。

 

 

『これが……、ギアスか』

 

 

 その光景を目にして、砲撃してきたブリタニア機への反撃を行っていたリヴァルの耳になおも困惑する吉田の声が届く。

 ポラードや永田の表情も映し出されているため、ギアスのことを知り得ている指揮官3人は同様に混乱している様子であった。

 軍人であるポラードはともかく、吉田と永田も混乱から冷静に指揮を取った事で被害も出さずに埋伏の毒として潜入した部隊に犠牲は無い。

 そして、上空にてエリュティアに一撃を浴びせて滑空してきた蜃気楼が倒れ込んで沈黙しているブラック・ウィドウに対してスラッシュハーケンを向け、機体がそぎ落とされるように破壊されていく。

 リヴァルがそうであったように、その光景に注目するかのように再び戦場に沈黙が走る。

 

 カレンと紅蓮の登場によって生まれた変化の答え合わせ。

 

 

 『カレン・シュタットフェルト』の正体が何者なのかと言う事に、皆が皆戦闘を忘れて注目してしまっているのだ。

 

 その隙に、リヴァルは機体を後方へと下がらせる。

 

 

「そういえば、カレンって自分が本物の『カレン・シュタットフェルト』だって言ったようなもんだよな?」

 

 

 自分自身でシュタットフェルトの令嬢である事を否定し、紅月カレンを名乗っていることはリヴァルも知っていたが、オープン回線で盛大に自己紹介をしたことは記録としても残る。

 実際、出自を利用してブリタニアを混乱させたことは事実である以上、カレンが否定してもそれが事実として残り続けることになる。

 納得させたのか、諦めさせたのかは分からなかったが、作戦を決行した以上、カレンは表舞台に立たざるを得なくなる事は間違いなかった。

 

 

「ルルーシュ、とりあえず、良い病院紹介してやるからな……って、あの子は」

 

 

 そして、親友にもたらされるであろうお礼参りを予測したリヴァルは眼前で静かに十字を切ると、それまで砂埃や粉じんに包まれていたブラック・ウィドウの操縦席部分がさらけ出されはじめる。

 そこに居たのは、特徴的な赤い髪の持ち主では無く、ふんわりとした黒髪の少女。

 蜃気楼の攻撃に晒された為か、怯えるよう身体を震わせ、露わになった蜃気楼のコックピットから姿を見せたゼロへと視線を向けている。

 

 

「リヴァル」

 

「おお、お疲れさん」

 

 

 そんな光景が映し出されるなか、コツンと操縦席に当たる小石。

 蜃気楼のような復座ではないが、それまでの機体よりやや広めになっている陽炎の操縦席に栗色の髪が乗り込んでくる。

 

 

「いやあ、大役ご苦労様」

 

「うん。でも、ギアスの影響なのか、そこまで覚えていないんだよね」

 

 

 リヴァルの膝に乗る形になったシャーリーだったが、笑みを浮かべる表情には見るからに疲れがある。

 覚えていないと言っても、完全に忘れているわけじゃ無いと言うのはリヴァルにも分かる。

 すべてをシャーリーが肩代わりしたわけでは無いものの、ギアスを用いて他人に成りすましながらの行動だった。身体が疲弊しないはずは無い。

 

 

「それじゃあ、あの子の反応の素の反応か。たしか、クラスメイトだよな?」

 

「そう。スクラ・マークスさん」

 

「何であの子を?」

 

「おばあちゃんが日本人なんだって。だから、カレンの立場と無関係というわけでもないみたい」

 

 

 シャーリーをサイタマゲットーへと送り届けるべく機体を走らせるリヴァルの目には、スクラの手を取るゼロの姿が見てとれる。

 

 今回、残存艦隊襲撃にはカレンが、レジスタンス討伐はシャーリーが担い、コーネリアとの謁見は彼女が担当している。

 ボロが出てもシュタットフェルトが側に居り、彼が素性をバラしてある永田が側に居てカレンに接するように接していたのだ。

 そして、ガントリーなど遠目に監視される場では背格好が似ているシャーリーがスクラに化けていたのだ。

 名誉ブリタニア人部隊と言う事で上層部やブリタニア軍人がそこまで近づかなかったことと咲世子のメイクが完璧に近い仕事をし、玉城が目聡いギルフォードやダールトンに絡んで疑いに確証を持つまで目眩まし出来たことも大きかった。

 疑いを持ってしまえば、コーネリア達は細かい内偵をしなくなることまで想定していたのである。

 とはいえ、ここまでやっても埋伏としての意図は挫かれてしまったため、シャーリー達は徒労という結果になってしまっている。

 

 しかし。

 

 

「親友ながら、あそこまで人をペテンに掛けられるのは尊敬するな……」

 

「そうだね……」

 

 

 いつもの大仰な仕草を怪しい動作と巧な弁舌を操り、スクラの出自を大々的に告げ、コーネリアは大貴族であるシュタットフェルト家の取り潰しや名誉ブリタニア人の地位向上をお題目になおも危険な役割を負わせようとしたと糾弾している。

 たしかに、カレンはハーフで、スクラはクォーターであり、ブリタニアでは事実が知られれば差別に晒される立場である。

 とは言え、大半のブリタニア人にとっては知れた話である以上、彼等に動揺を誘う事は不可能に近い。

 

 だが、エリア11に居るのは当然ブリタニア人だけではない。トウキョウ租界だかでも数千万が暮らすが、その大多数すら“名誉ブリタニア人”と言う名の日本人やハーフ、クォーター達である。

 

 

『私も彼女と同様に日本人とブリタニア人の血を引いている。でも、それがなに? 私は紅月カレンでもありカレン・シュタットフェルトでもある。それを理由に差別されたり、否定されるようなことを合衆国日本は認めないわっ!! でも、私はあんた達に戦えとか武器取れとは言わない』

 

 

 そして、ゼロの言葉を引き継ぐように、カレンが再びオープン回線で声を上げる。

 

 同時にディートハルト等、工作部隊が各租界やゲットーへとハッキングを行い、カレンの姿がエリア11全土に映し出される。

 これまでゼロと共にブリタニアに立ち向かってきた騎士団のエースパイロット。その姿が衆目にさらされた瞬間とも言える。

 そして、カレンは自らを紅月でもあり、シュタットフェルトでもある事を肯定する。

 そして、自らが紅月としての血を否定しなければならなかった事それ自体を否定する。それはつまりはブリタニアの否定で有り、今も名誉として生きている者達が晒される差別とそこから抜け出せる未来などは無いと言う事を彼等に対して突き付けたのである。

 実際、カレンがレジスタンスに身を投じること無くブリタニア人として生きる事を選んだとして、紅月としての彼女は永遠に否定されることになる。

 大貴族の一つであるシュタットフェルト家の令嬢ですら、自らの身に流れる血だけを理由に本来の人生を否定されねば生きられない。

 だとすれば、家族の為に裏切り者と蔑まれながらも生きている彼等が救われる未来が来ると言えるであろうか?

 

 答えは否。

 

 コーネリア達はシュタットフェルトの提言を受け入れた以上、ブリタニアの益となるのならば彼等の地位の保全はやぶさかでも無かったが、それは当人達の心づもりでしか無く、事実として突き付けられたのは、大貴族であるカレンや歴としたブリタニア人であるスクラですら出自を利用されたという事実であるのだ。

 

 しかし、ブラックリベリオンのような無秩序を生む蜂起を煽るつもりはカレンは当然としてルルーシュにも無い。

 あの事件は日本人だけでなく、名誉ブリタニア人や国是に反対するブリタニア人をも決起される切っ掛けになったのだが、内情は“事故”を原因とする暴発で有り、無秩序を生んだことで犠牲になった無実のブリタニア人も少なくは無い。

 

 

『あんた達の未来は私が、私達が守るっ!! それだけよっ!!』

 

 

 そして、カレンはそこまで言うと紅蓮を駆って沈黙していたブリタニア軍へと突撃していく、それに続くようにジェレミアのサザーランドローヤルやドロテアの陽炎と近衛騎士達のグロースター。そして、吉田達精鋭の操る無頼改が続いていく。

 その光景は、先ほどまでブリタニアを否定して見せたゼロやカレンの演説とは異なり、日本機とブリタニア機の混成部隊である。

 つまりは、ゼロとカレンは、言葉と行動を持って『シャルルブリタニア』を否定して見せたのである。そして、ブリタニアとは異なり、ブリタニア人であろうとも合衆国日本で否定されることは無い。

 その事実は、映像を通じて瞬く間に伝播していくことになる。暴動や蜂起では無く、『反逆』と言う形を持って。

 

 

「っ!? はじまったか?」

 

「みたいだね。ルル、煽った以上は、みんなを助けてあげて……」

 

 

 リヴァルとシャーリーの元に届けられた情報。それは、前線に歩兵として配属されていた名誉ブリタニア人達が、自分達の指揮官を殺害し、その武器をブリタニア軍へと向けはじめたという情報であった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 にわかに吹雪き始めたサイタマの地。

 

 その白き世界は、両軍が流した血によって赤く染め上げられ、機体の爆発に伴う大量の熱によって溶かされた雪が大地を濡らしている。

 膠着を見せ始めた戦闘は名誉ブリタニア人達の裏切りという結末を持って騎士団側へと優勢が動き始めていた。

 カレン・シュタットフェルトに絡んだ一連の謀略戦の結果はブリタニア軍を支えて居た占領軍の屋台骨をしっかりと揺るがせて見せたのである。

 

 

「みすみすゼロを逃がした上、此度の失態……。如何なる罰もお受けいたしまする……」

 

「良い。今回は、主力にばかり目を向け、歩兵達を軽く見ていた私の落ち度だ」

 

 

 エリュティアの指揮を任され、ゼロを引きつけていたバトレーであったが、低出力ハドロン砲に翻弄されてゼロを取り逃がしてしまい、結果として種明かしの時間を与えてしまった。

 

 とは言え、コーネリアやギルフォード達ですらも事の成り行きを見つめるべく沈黙してしまった事がすべてであり、思いがけぬほどに統率の取れた反逆を行った名誉ブリタニア人達を軽視していたことが結果をより深刻にしていた。

 

 KMFとは言え、歩兵の持つRPG等の直撃を受ければ撃破されてしまう。機動性や汎用性を過信し、本来の戦場の主役である歩兵達を甘く見ていたとも言える。

 そして、一部が反逆をしたからと言ってそのすべてを放逐することもまた不可能。戦争は何も主力兵器のみが戦うのではない。

 食糧や武器弾薬の補給。そして、それを支える警備など、組織力がモノを言うのが近代戦である。そして、それらを取り扱う責任者こそブリタニア人であったが、末端にて労働力を担うのは主にイレブン達である。

 ブリタニアの人口はイレブンのそれよりも多いとは言え、全世界で行われる戦争をブリタニア人のみで遂行することなど不可能。

 だからこその“名誉”であるのだ。権力者、資産家、技術者などはブリタニアの枠に食い込まれてもそこから地位を見出すことは出来るが、ナンバーズという底から抜け出すことを勇戦した大半の者達にそのような力は無い。

 故に、労働力という歯車になるしか無いのが名誉達の実情である。

 しかし、名誉達と同様の立場の者達が剣を取ってブリタニアに立ち向かい、それとナンバーズとブリタニア人が手を取り合って戦いを挑んできたことが白日の下にさらされた。

 それまで、抵抗は無駄であり、命を繋ぐことのみを求めてきた歯車達がいつ牙を向くか分からないと言う状況が生まれてしまったのだ。

 

 

「名誉どもがサイタマゲットーに逃げ込んだならば、日干しにしてやることも不可能でありませんでしたが」

 

「時を稼がれるわけにはいかなくなったな」

 

「はっ。目に見えた反抗は無くとも、いつくかサボタージュが出始めているとも。これまで以上に反抗的な目つきをしている者が目立っていると」

 

「うむ……………………ふふふふふ、ふははははははははっ!!」

 

「ひ、姫様っ!?」

 

 

 そして、状況に眉をひそめるコーネリアや幕僚達であったが、あごに手をやり、瞑目していたコーネリアが、静かに、そしてはっきりと笑い声を上げたことにギルフォードをはじめとする幕僚達は目をむく。

 

 

「我が騎士ギルフォードよ。ここまで我々を追い詰めた敵が他に居たか?」

 

「はっ!? い、いえ、記憶にございません」

 

「ダールトンよ、貴様の長き軍歴のなかでここまで手強き者達の記憶はあるか?」

 

「…………血の紋章事件をおいて他に知りませんな」

 

「うむ。つまりは、ヤツ等はナイトオブラウンズと並び立つ雄敵となって我らの前に立ちふさがっているのだ。軍人として、戦士として、ここまでの雄敵を“討ち果たす”刻を得たことを喜ばずに居られようかっ!!」

 

 

 そして、ひとしきり笑い終えたコーネリアはなおも獰猛な笑みを浮かべながらギルフォードとダールトンにそう問い掛け、鋭くそう告げる。

 

 ブリタニアの魔女と称され、敵を蹂躙し、味方を畏怖させた来た彼女。

 

 しかし、生まれた時代のイタズラか、かつての血の紋章事件のようなブリタニアすらも脅かす難敵と遭遇する機会に恵まれたことは無い。

 しかし、彼女の本領は戦であり、難敵と相まみえることを喜びとする武人である。

 

 

「彼の小娘がほざきおった以上、ヤツ等もまた逃げを打つことは無い。なれば、作戦は予定通り決行する。ゼロも小娘も、まとめてそのそっ首をイレブンどもの眼前に並べてくれるっ!!」

 

 

 憎悪と戦意の入り混じったまさに表情に幕僚達は震え上がりつつも、奥底から戦意が沸き立つ事を自覚する。

 生まれ持っての戦人である事をギルフォード等は感じざるを得ないと同時に、カレン・シュタットフェルトが名誉ブリタニア人達を煽り、ブリタニア人と日本人が手を取り合って自分達を向かってくる様を見せつけた。

 つまりは、彼等は如何なる状況においても、“味方を切り捨てる”事が困難になったこともまた事実である。

 コーネリアもまた、戦いの最中で彼等に対して楔を打っていたのである。

 

 

 日本人とって、ゼロやカレン・シュタットフェルトはおろか、皇神楽耶以上に名声を持つ男の存在をもって…………。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 膠着を脱した戦場には一瞬であろうとも休息の空気に包まれつつあった。

 

 カレン達の姿を見た名誉ブリタニア人達の反逆。切っ掛けは潜入させてあった篠崎流とアッシュフォードの手の者による反逆であったが、それを切っ掛けに四方に展開したブリタニア軍内部でも反乱が誘発し、犠牲者は出たもののブリタニア軍を混乱させるきっけとなった。

 

 そして、グランストンナイツに率いられた第一陣は壊滅し、グランストンナイツもアルフレッド・G・ダールトンをカレンが討ち取っている。

 折しも寒波の影響が顕著になったため、コーネリアは本陣の置かれた川口JCT跡に全軍を終結させるべく後退していた。

 

 

「アリーナに避難している民間人にも安堵が広がっております。これも、カレンさん達のおかげですわ」

 

「私は何も。苦労したのはシャーリーとスクラさんですよ」

 

「それでも、カレンが成した事実は残る。……結果として俺の言ったとおりになっただろ?」

 

「今度は加減しないわよ?」

 

 

 サイタマアリーナ等に避難していた日本人達も膠着状態の間は緊張を強いられたいた。しかし、ブリタニア軍が後退したことによる安堵によって不満の解消にも繋がる。

 カレンを煽ったことは事実でも、暴発にまで持っていかぬよう苦慮したルルーシュとしては、民間人の不満を解消することにも心を砕かずには居られない。

 短い時間ではあっても、命の危険に晒されない状況が必要でもあるのだ。

 

 それを作り出した功労者達。

 

 カレンはそれまで隠れる羽目になったことや望まぬまま日本人とブリタニア人団結の象徴にされてしまったことへのお礼を拳でもってルルーシュに伝え、シャーリーは安堵からルルーシュに抱きついてフラフラな彼にトドメを刺した上に、ミレイやナナリーの笑みを凍り付かせている。

 

 そして、事実上最大の功労者になったスクラに関しては、彼女の親族も含めてルルーシュや神楽耶が頭を下げる形になっている。

 

 シャーリーと同様に、“ギアスの犠牲者であった”彼女を再びギアスで翻弄した事をひた隠しにしつつ、ブリタニアの犠牲者に祭り上げたのは相応の覚悟を持っていたカレンとは異なり、はっきりとしたルルーシュの咎でもある。

 

 その事実によって苦しめられた居たことも事実であったが、学生の身であったスクラはそれを知らず、母親が彼女の元から去った事の真相を聞かされたことで混乱とともに消沈していたのだ。

 カレンの暴行をルルーシュが当然のように受け入れ、周りも止める事はしなかった(身代わりになろうとしたジェレミアはドロテアとモニカが止めた)事をもってしても、勝利のための大義を掲げたとしても取り返すことは出来ない。

 

 

「それでゼロよ、前哨戦とも言える戦いに我々は勝利し、ブリタニアにも楔を打つことに成功したわけじゃな」

 

「うむ。本国と連絡は取れず、租界ですら暴発の危険があると言う状況。だが、それで諦めるならばコーネリアに対してここまで謀略を張り巡らせる必要は無い」

 

 

 場を引き締めるべく話題を切り替えた桐原の言にルルーシュは頷く。

 数の面ではいまだにコーネリア側が圧倒的に有利であるとは言え、本国の情勢が分からぬまま、加えて時が過ぎれば名誉ブリタニア人や日本人の蜂起すらも考えられる状況にまで追い込まれているとも言える。

 となれば、さらなる強硬姿勢に討って出てくると言うのが大方の考えである。膠着の中で外壁が破られたように、犠牲を顧みぬ大軍を前にした籠城には限界がある。

 

 

「つまり、コーネリア総督が陣頭指揮を取る形で総攻撃を駆けてくると?」

 

「包囲を解いた事を見てもそう考えるべきでしょう。大軍に確たる用兵は必要無し。そして、勇将の下に弱卒無し。です」

 

「耐えきれるか?」

 

「当然だ。と言いたいところではあるが、相手はコーネリア殿下だ。私としても、断言はできん」

 

 

 神楽耶や刑部の問い掛けに答えるルルーシュとドロテアであったが、相対するコーネリアの実力は両者共に身に染みている。

 加えて、数を減らし、内部に火種を抱えるとは言え数に勝る最精鋭が相手。両者と言えども、予測不能な事態が起こりうることは十分に考えていたのだ。

 ルルーシュ自身、かつて煮え湯を飲まされた相手である以上、慎重を期して戦いに望んでいる。

 

 

「そこで、必要になるのが“奇跡”です」

 

 

 沈黙に包まれた司令部に楔を打ったモニカは、地図上に置かれた駒の元へナイフを投げ込む。

 突き立った先に置かれた駒は、藤堂鏡志郎が率いる旧解放戦線部隊とレジスタンスの混成部隊で有り、その数はサイタマゲットーの主力部隊に匹敵する戦力である。

 コーネリアの宣戦によって先走る形で蜂起してしまったレジスタンス達を藤堂の名をもって集結させ、決戦の切り札としてこれまで隠して置いたのである。

 ドロテア達主力部隊との連携が怪しまれると言う実情もあったが、それでも藤堂に率いられた際の破壊力に関しては“四聖剣”と呼ばれるほどにまで強力な存在でもある。

 

 

「つまり、今まで以上に負ける必要があるわけか」

 

「ああ。と言っても、戦い方に変化は無い。グランストンナイツよりもさらに強力な攻撃に晒されるだけだからな」

 

「簡単に言ってくれるぜ……」

 

 

 藤堂達の奇襲を成功させる以上、コーネリアの目を正面に向けさせておく必要が出てくる。

 レジスタンスの一部がブリタニア軍に発見され、這々の体で合流した部隊もあるらしく、コーネリアとしても警戒はしているだろう。

 そのための名誉ブリタニア人という楔でもあるというルルーシュとモニカの言に、最前線を担うドロテアは苦笑し、吉田と永田も額に手を当てて笑うしかないという様子である。

 それでも、どこかに余裕を感じさせるのは曲がりなりにも勝利という形を得たからであろう。これまでの局地戦とは異なり、歴とした決戦の前哨戦を取ったのである。

 長き雌伏の時を経験した彼等に取っては望外の喜びで有ろう事は予想できた。

 しかし、古来より、変化によって勝利を得る者を人は名将と呼ぶ。そして、名将と呼ばれる人間は、その変化を自ら作り出す存在でもある。

 

 

「お兄様、いえ、ゼロっ!! 近距離レーダーがっ」

 

 

 管制席に座してミレイやソフィーとともに軍議に耳を傾けていたナナリーが声を上げると、ルルーシュ達は彼女達の元へと駆け寄る。

 広域レーダーに関しては双方の電波ジャックよってブラックアウトしていたが、今度は戦域管制用のレーダーに対しても妨害電波が流されているようである。

 

 

「おそらく、敵航空戦艦のECMかと思われます。ですが、この吹雪の中で……」

 

「いや、コーネリアは自身の土俵に俺達を上げるつもりだろう」

 

 

 前日夜からの寒波でサイタマゲットー周辺は例年にない大荒れとなっており、ホワイトアウトに近い状況となっている。

 となると、目視に限界が有り、近距離レーダーを頼みにする戦闘になる事が予想できたのだが、それも封じてきた以上、コーネリアは捨て身の戦いを挑んでくる。

 ルルーシュのみならず、モニカ、ドロテア、刑部、桐原、吉田、永田等、相応の戦いを経験している者達も同様の結論に至ったのは当然とも言えるだろう。

 

 

「ここが正念場だ。幸い、皆休息を取ることが出来た。激しくなるであろう戦いにも臨める」

 

「そうですね。……せっかくですし、カレンさん。夜を前に、皆さんを元気づけて上げてください」

 

「は? 私がですかっ!?」

 

 

 そして、望まぬままに象徴として祭り上げられたカレンはルルーシュのみならず、神楽耶からも外堀を埋めに掛かられる。

 日本とブリタニア、双方の血を引き、双方の事実上の元首によって統合の象徴として世に送り出された存在。

 その価値は、記号として存在するゼロのそれよりも何倍も重みが有り、同時に名誉やブリタニア人そのものに対する盾にも成り得る。

 

 

「ええいっ、分かったわよっ!! やりゃ良いんでしょやりゃあっ!!」

 

 

 そして、神楽耶のみならず、桐原やドロテア、ラクシャータ、さらにはリヴァルやシャーリーにも押されたカレンは肩を怒らせながら管制席のマイクを手に取ると、ナナリーが準備万端ですと良い笑顔をカレンに向け、毒気を抜かれたカレンは咳払いをして口を開く。

 

 

 

『ええと、サイタマゲットーの皆さん。お休みのところ、申し訳ありません。紅月……、いや、カレン・シュタットフェルト・紅月です』

 

 

 そして、カレンは自身の出自を表す本当の名を、本当に初めて口にする。その事実によって自身の立ち位置が余計に身に染みていくことを彼女は自覚せざるを得ない。

 そして、聞いている日本人やブリタニア人達もまた、騎士団のエースパイロットとしてテレビやラジオを通じて戦いを知らされてきた存在の声を改めて聞くことになり、その存在を身近に感じていく。

 

 

『私達は、ゼロやクルシェフスキー卿、エルンスト卿達の力を借りて今日の戦いに勝利することが出来ました。その事に自信を持って、そして、それをいったん忘れましょう』

 

 

 そんな空気を感じつつも、カレンはなぜかこれまで以上に言葉が出てくることを不思議に思う自分が居ることも感じていた。

 

 

『明日以降の戦いはこれまで以上に激しくなります。コーネリア総督は、その誇りに賭けて戦いを挑んでくるでしょう。日本の、そしてブリタニア、いえ、世界の未来が掛かる戦いと言っても大袈裟では無い、それだけ激しい戦いになると思います。ですが、私は、いえ、私達は必ず勝ちます。今しばらくの間、私達を信じて共に戦ってください』

 

 

 ゆっくりと、それまでの激しい戦いや激しい口調とは打って変わって、人々に語りかけるような声に、かつての合衆国日本建国宣言の時のような高鳴りは無い。

 しかし、聞いていた者達が皆、一応に心を落ち着けたまま、来たるべき戦いに向けて戦意が高まっていくことを自覚していた。

 

 

 

 一つの戦いが終わり、新たな戦い火ぶたは切られようとするなか、すべてが再び眠りにつこうとしていた。

 

 その眠りから覚めたとき、彼等を待ち受ける戦いの結末はいかようなものとなるか、それは吹き荒れる吹雪と仮面の下で瞑目する一人の男だけが知っている……。




投稿が遅れしまい申し訳ありません。
感想にて種明かし予想をしてくれた皆様、ありがとうございました。結果としては今回の内容になっております。

御都合主義が強くなってしまっておりますが、カレンの出自を生かせる手立てを考えるとこうやって矢面に立つことも有りかなと思いました。
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