ブリタニアの魔女―コーネリア・リ・ブリタニア。
衰退著しいブリタニアを再び世界に冠たる超大国に押し上げたシャルル・ジ・ブリタニアの血を最も色濃く受け継ぐのは誰か?と問われたとき、ほぼすべての人間が彼女の名を上げる。
上の兄姉達が政治家や謀略家としての面を色濃く出す事に対し、彼女は仕官以来一貫して前線を渡り歩き、父親の偉業を率先して助けてきたのである。
いつしか、世界は彼女に対して憎悪と畏怖を込めて“魔女”と呼ぶようになったのである。
魔女の咆哮が風雪に飲まれ、大地に静寂が戻る中、白き世界に溶け込むように揺れるマントを振るったコーネリア機は、ゆっくりと金色のランスを掲げると、それを惑うこと無く振り下ろす。
ほどなく、100に届こうかというコーネリア軍KMFがゆっくりと動き出し、車輌軍も歩兵達も豪雪をものともせずにそれに同調し始める。
その先頭にあるコーネリア。
近代戦において、いや、古代の戦においても、総大将が文字通り先陣を切って突撃するというのは有り得ぬ行為。
しかし、KMFと言う革命的兵器の登場が、一大英雄が駆けるべき部隊を見事に作り出してしまったのである。
そして、コーネリアを先頭に、一頭の龍の如くうごめく軍団を前に、黒の騎士団は一歩も動く事が出来ずに居た。
「な、なんだあれ? あれが、総督の本気と言うヤツか?? 吉田さん、このままじゃ」
『あ、ああ……。しかし、俺達は中央だ。周りが動かなきゃ動くに動けんぞ?』
そんなコーネリア軍の姿を、リヴァルはやや高台に位置する第二新河岸橋の上から見つめていた。
はじめてKMFに乗って戦ったときやフナバシでコーネリア軍と戦った時とははっきりと異なるコーネリア軍の動き。
「これまでは本気じゃ無かったと言う事か?」
実際のところ、リヴァルがコーネリアと戦った戦場は市街戦という制約に加え、ルルーシュの指揮が完全に行き届き、咲世子等の工作も完全に施されていた状況での戦いが大半であった。
そして、コーネリアと言えども極東にて破滅した国家の残党達相手にどこか見下した思いもあったのである。
しかし、今回はそれまで知らず知らずのうちに制約となっていたユーフェミアはおらず、加えて神楽耶とゼロからの宣戦というはっきりとした形で戦いを挑まれたことで、コーネリアは“本気になっている”のである。
だからこそ、それまで恐れ知らずのままに戦場を駆け抜けてきたリヴァルは、ここに至ってはじめて敵に対して恐怖を感じていたのである。
そして、その恐怖と同時に、彼等が置かれた状況も動くに動けない状況を生み出している。
コーネリアと同様にカレンが先陣を切ってクラウディオ隊を追ったため、先頭は第二新河岸橋を渡って展開しつつあるが、吉田率いるリヴァル達中央部隊は橋のただ中で動けぬ状況にあった。
しかも、荒川上に掛かる橋と異なり、バイパス用に小さな橋であるから、戦闘車両などはさらに後方。旧ふじみ野市側で渋滞する形になっている。
水運用に日本侵攻前よりこの辺りの河川は拡張されて幅広く、水量も多いため、KMF以外の戦力は川を挟んで分断された形になってしまう。
そして、前方からはこちらを上回る大軍。この場での防衛を選べば前衛のみが干戈を交え、中央から後衛に駆けては火力支援のみ。
撤退を選べば、KMF以外の速度に劣る戦力は瞬く間に殲滅されてしまう。となれば、選べる選択肢はただ一つ。
『ここで背を見せれば全滅よっ!! 全員、死にたくなかったら私に続けっ!! 前に出ろっ!!』
そして、全軍の動揺を悟ったのか、それともコーネリアと同じく戦場で駆けることを至上とする戦士の血が騒いだのか、先頭に居るカレンはこの場における正解を導き出した。
「よっしゃ、さすがカレン。こんなところでなぶり殺しなんて冗談じゃ無いぜっ!!」
『さすが、ゼロの親衛隊。カレンが戻って動きが違う。吉田隊も後れを取るなっ!!』
「おうっ!!」
強大な敵との戦いにおいて、如何なる精鋭であってもまずは恐怖との戦いが先に来る。
今回は目に見える形で恐怖の象徴が先陣を切って襲い掛かってくるから余計にである。
そして、多くはそのまま恐怖に飲み込まれて一方的に叩き潰されて終わってしまうのが戦争というモノである。
だからこそ、この場で兵達を奮い立たせるか否か。それは将としての資質が問われる場面でもある。
そして、それは敵将のコーネリアも同じ事。
必然的に、赤き血を纏うが如き紅蓮と風雪に紛れて赤紫の塗装が禍々しさを増すグロースターは先頭を切って激突することとなる。
「やっちまえカレンっ!!」
今まさにぶつかり合おうとする両者に対し、リヴァルもまた身体を覆う恐怖を打ち払うかのように声を上げた。
◇◆◇◆◇
大軍を前にして前に出ることが出来る将。彼等の多くは負け戦を勝ち戦へと変えてきた。
大軍を統率する地位にある将もまた、そう言った修羅場をくぐり抜けてきた者。だからこそ、自らが統率する立場になった時には、そのような敵の動きに驚愕してしまうものである。
そして、コーネリアもまた、戦場にて自らを前にして堂々と戦を挑んできた人間をはじめて目にしていた。
「我らを前にして恐れもせず前に出るか。シュタットフェルト……、貴様の目はあの時のままか?」
先陣を切って自身に向かってくる紅蓮の姿を、コーネリアは埋伏の毒として自身の前に進み出てきたカレン・シュタットフェルト。今は紅月とも名乗っているが、その姿を思い起こす。
深窓の令嬢を装っておきながら、自身に向けてくる目は仇を見つめる目。深い憎悪を湛えた者の目であったことが印象深い。
そして、戦場において幾度か目にしてきた黒の騎士団のエース機。
その赤き巨人の姿は敵ながらも見惚れるものであったが、こうして眼前の脅威として自身の前に立ちふさがっている姿に、コーネリアはほくそ笑む。
皇女として、総指揮官として、総督として、最前線に立つ様は決して誇ることでも褒められることでも無いだろう。
事実として、国家の危機局にあって尚、自らを危険に晒す事など上に立つ者の成すことではない。
ギネヴィアなどが居ればどれだけ小言を垂れられるか分かったモノでは無いが、コーネリアはその危機局にあって、あえて戦場に身をさらす。
膠着しては意味が無い。
この事はおそらくはゼロも皇神楽耶も分かっていたからこそ、自分達に対して堂々と宣戦布告してきたのであろうとも。
短期決戦を望まざるを得ないコーネリアに対し、サイタマゲットーに籠もって持久戦を仕掛ければ自分は動かざるを得ない。
藤堂鏡志郎が戦場に姿を現さず、少なくない戦力を持って奇襲の時を待っていたことを見てもこちらの焦りを誘う算段だったのであろう。
「だがなゼロ、謀略を用いるのは貴様だけでは無い」
惰弱なイレブン。
コーネリアを初めとする生粋のブリタニア人達がイレブン―日本人達に向ける侮蔑。
だが、侮蔑し、搾取するだけでは愚かな貴族どもの変わらぬこと。コーネリアはその点、政治家でもある。
利用できるモノは利用する。それが侮蔑対象であったとしてもである。
ゼロや黒の騎士団が切り崩せないのであれば、その外にあるイレブンどもと、独自に動く主義者を利用する。
戦場の雄と思われがちなコーネリアであったが、ダールトンのような政戦両道に通じる人材を抱えている彼女もまた、謀将としての一面をもつ。
しかし、謀略をもって黒の騎士団を誘き寄せた今となっては、戦場において自ら決着を付けようとする点に関してはやはり彼女も武人であった。
「久しいなシュタットフェルト。我らを目にして前に出たのは貴様が初めてだ。私自ら名誉ある死をくれてやるっ!!」
『そう? だったら、その初めての敵にあんたは殺されるのよっ!!』
紅蓮の特徴的な腕とグロースターのランスがぶつかり合い火花が散る。
周囲の吹雪を溶かすかのような激しさが開戦を名実共に告げ、ぶつかりある両者の脇をブリタニア機が駆け抜けていき、追走して来た零番隊やドロテア隊と激突し始める。
当初はコーネリア軍の威容に恐れ戦いていた者達もカレンの鼓舞とコーネリアとの戦いを見て奮い立ったように見える。
「誤算だな。窮地を勝機に変えてしまう。貴様は将来、名将の器だ」
ランスを弾き、グロースターを掴み掛からんとする紅蓮をスラッシュハーケンで威嚇し、距離を取ったコーネリアは、カレンを相手取りつつながらも黒の騎士団の動きを見据えている。
互いに実力者で有り、本来であれば油断は死に直結する相手。しかし、幸か不幸か、今の両者は総指揮官という立場も有する。
必然と、自軍及び敵軍に目が向き、目の前の殺し合いだけを見据えるわけには行かぬモノ。
それは、流れのままに指揮官を任されたカレンであっても同じ事であった。
そして、カレンの器を感じ取ったコーネリアは、再びランスを構えて紅蓮へと躍りかかる。
目の前の強敵との戦いをそれが迎える未来を感じ取り、口元に笑みを浮かべながら。
◇◆◇◆◇
互角の戦いを繰り広げるカレンとコーネリアの激突に感化されるように、両軍のKMFが激しくぶつかり合い、渡河を終えた戦車や歩兵達もブリタニア軍との戦闘に加わりはじめる。
原野での激突の主役であった双方だが、KMFの登場によりその役割は失われ、いまでは補助戦力となっているものの、人型の宿命か戦車のような重装甲は無く、紅蓮の輻射波動のような高出力兵器での防御を実現するべく研究が進められている状況。
その点を鑑みれば、RPG等の携行武器によって歩兵がKMFに勝利することもまったく不可能では無い。
当然だが、一機のKMFを倒すためには歩兵の死体の山が築かれることにもなるが。
いずれにしろ、感化されて意気上がる歩兵達がブリタニア側の歩兵戦力との戦闘も開始されている。
開けた田園地帯でKMFがぶつかり合う中、畦や廃墟に身を隠したり、降り積もった雪を掘って身を隠しながらの射撃が方々で行われていた。
そんな光景を横目に、ドロテアも突撃してきたコーネリア親衛隊機を叩き伏せ、さらに向かってくる残機へと視線を向ける。
「親衛隊は三機連携で来る。決して背中を見せるなっ!! 常に数の優位を取れっ!!」
自らの麾下である近衛騎士達こそ一騎討ちを挑めるが、練度に劣る騎士団機で彼等に挑むのは無謀である。
一機がグランストンナイツに次ぐ実力者であるが故にコーネリアに親衛隊に名を連ねる猛者達。
ドロテア達ナイトオブラウンズから見ても、近衛騎士にと一度は誘ったものばかりである。
だが、戦場はドロテアの全軍への通達とは異なる様相を見せ始めていた。
カレンと激突しているコーネリアを初めとして、コーネリア親衛隊は元より、コーネリアに後背に位置した第二陣中央のクラウディオ、左翼のバート、右翼のデヴィッド、それぞれのグラストンナイツ率いる部隊も黒の騎士団によってゆっくりではあるが押されはじめているのだ。
『閣下、これは……っ』
「分かっている。だが」
その様子を見て取ったドロテアだったが、すぐさま反応したポラードをはじめとする近衛騎士達はすでに状況を理解している。
おそらく、後方にてナナリー皇女等のいるG1ベースを守るモニカも気付いてはいるだろうが、もはや止めようのない状況であった。
実際のところ、前に出る以外に勝機は無い状況。
そして、カレンは総指揮官として味方を鼓舞し、コーネリアとの激突によって自ら突破口を指し示した。
その結果として、コーネリア軍を打ち破るとまで言わずとも、その分厚い壁を食い破る形で突破する以外に勝機は無い。突破さえ出来れば、いや突破せずともコーネリア軍と互角のまま押し続ければ、さすがの藤堂も勝機を見誤ることは無いはずであるのだ。
だが、こちらの勝機が一点しか無い事をコーネリアが見逃すはずも無い。だからこそ、カレンの突撃を自ら受け止めたモノだとドロテアははじめに考えていた。
この辺りは将軍としての側面もあるコーネリアとあくまでも騎士であるドロテアの指揮官としての差であったであろうか。
「コーネリア様。この状況下にあって、我々の息の根を完全に止めるおつもりか」
本国の状況を考えれば黒の騎士団討伐は必要なこと。
だが、それは首脳陣を含めて全員の殺害もしくは捕縛と言うほどのモノでも無い。建国を宣言した手前、騎士団としての勝利以外は未来が掴めず、首脳陣が生き残ったとしても敗北の先にあるのは再び地下からの出直しである。
一度失われた信望を取り戻すのは敗戦国にあっては困難を極める。そして、大人しくなったテロリストなどを意に返すこと無く、コーネリアは本国へ帰還し、反逆者達の討伐に向かう。
一般論的にはそうであるが、コーネリアはゼロとともにカレンに対しても未来を感じ取ったと言う事であろう。
将来、確実にブリタニアに仇成す大器をここでもって討ち果たす。そう言ったコーネリアの決意がうかがえるのが敵軍の動きである。
互いに先陣を同士が激突しあう状況下の中、敵軍の中央が後退し、第二陣も圧迫されて横に広がっていく状況。
端から見れば騎士団側の猛攻にコーネリアが軍が押し込まれている状況でもあった。
◇◆◇◆◇
先鋒を務めるコーネリア隊が後退し、クラウディオ、バート、デヴィッドの三隊もそれに押されながら踏みとどまる状況。
予期せぬ状況に参謀達が息を呑み、周囲に詰める将校達がニワカに色めき立ちはじめる。
『ダールトン将軍っ!! コーネリア総督と親衛隊が押されておりますっ!!』
「静かにせよ」
『このままでは殿下の御身が。やはり、自ら前線に立たれるというのは』
「静かにせよと言っている」
そんな状況の中、主君に変わって全軍の指揮を統括するダールトンは、自機の中で刻一刻と動き続ける状況に腕を組みながら目を向けるのみであり、通信してくる参謀や将校達に対し、短く返答するのみである。
主君が自ら先鋒を務める状況を本来であれば止めるのが臣下に勤めであったが、ダールトン自身、自らに主君が誰であるのか、自分自身に問い掛ける状況でもあった。
『ですが、このままでは……』
「貴様等の主は誰だ?」
『コーネリア・リ・ブリタニア様であります』
「なれば、あの方の成す戦いを見据えていろ」
ダールトン自身は生粋の軍人で有り、それ特有の現実主義的な視点を持つ。
だからこそ、戦場においては酔狂染みた要素を持ち込む事などは当然無い。彼等に取っては戦いそのものがある種の業であり、一種の嗜好めいたモノ。
そして、武骨な軍人であるダールトンにとって、敬愛する主君が生み出す戦場こそが、芸術であるように感じるのであった。
そして、息を呑んで戦場を見据えていた参謀達の目に、猛然と前進し、コーネリアとその親衛隊を打ち破らんとする黒の騎士団を、第二陣が飲み込むように彼等の周囲へと展開していく様が見てとれたのである。
大軍を目にして前に出てそれを食い破らんとする将は少なく、それを食い破らんとするのは稀。
その稀の中に勝機があるとなれば誰もがそれに縋るが、その勝機を信用できない者も当然出てくる。
カレン・シュタットフェルトを先頭に、一気呵成に攻め込んできた黒の騎士団であったが、その猛然とした勢いの中で、後方の戦闘車両及び歩兵部隊とKMF部隊は切り離されつつある。
そして、その状況下を見ることが出来る目を持つ人間は、未来よりも現実を選択してしまうものであった。
「バート、惰弱なる隊がまもなく動く。戦機を誤るな」
『了解っ!!』
そして、KMFと戦闘車両の間を嫌い、後方への突破口確保のために進軍を緩めた一隊に対し、バート率いる左翼が一斉に襲い掛かる。
ドロテアに追い散らされたかに見えた彼等は、横に広がるように見せて騎士団との距離は保ち続けていたのである。
叩き潰された一隊は弱将に率いられ、撤退路を求めていたが故にあぶり出されて叩き潰される。
カレンやドロテアであれば、本能的に察知できる生存への道筋を誤ってしまった故の結果であり、コーネリアは騎士団の足並みを正確に読み取っていた。
そして、弱将を攻めた後に攻めるのは困憊。
おあつらえ向きの如く、右翼デヴィッド隊が接近する先にあるのは、先の戦いで帰還した名誉ブリタニア人部隊。
「永田と言ったか。シュタットフェルトを制御できる冷静さと統率力。貴様はなかなかの人物だとみていたぞ」
そう呟いたダールトンはその隊へを急速に接近するデヴィッド隊に対して最後の司令を出す。
埋伏の毒というのは戦況を一変させる威力を持つが、敵に漏洩すれば当然命は無い。
状況を見て、彼等は看破を前提に潜入していた部隊で有り、その身に降り掛かるストレスは当人達も思い至らぬほどのもの。
加えて、彼等騎士団は正規の軍人では無く、多くがレジスタンス上がり。つまりは一般人である。
そのような特殊な状況において、万全の体制で戦いに臨んでいる者達と同道すれば、当然綻びは生まれはじめる。
デヴィッドの猛攻に、先ほどの隊のように完全に潰走することは無かったが、それでも隊としての統率を保つことは困難な状況に追い込まれた名誉部隊。
指揮官と数機はそのまま中央に合流した様子だったが、親衛隊と同じく複数機の連携をもって大半が撃破されている。
『一隊の壊滅はその部隊の失態。実際、惰弱な愚か者に率いられた者達は無残な最期を遂げた。そして、二隊目の壊滅は先の功労者達。即ち、彼等の失態では無く、総指揮官の指揮の失態を疑い、全軍に迷いが生まれる。少数が故に勢いをもって我らに挑んできたが、結果は変わらなかったな』
そして、コーネリアの言が全軍へと轟くと、ダールトンもまたゆっくりと頷き、最後尾の本隊を前進させる。事はしなかった。
「見事だギルフォード。藤堂を見事にこの地まで釣り上げるとはな」
カワゴエゲットーにてギルフォード率いる別働隊を打ち破り、黒の騎士団に合流すべく西進してきた藤堂鏡志郎率いる別働隊。
だが、ギルフォード隊の敗北はあくまでも偽装で有り、彼は敗北を繰り返しつつ、騎士団に綻びが生まれるそのタイミングで藤堂隊をこの地へと引き寄せてきたのだ。
『ダールトン、仕上げに掛かれ』
「承知っ!! ギルフォード、行くぞっ!!」
『応っ!!』
そして、騎士団の目に映ったであろう、藤堂鏡志郎率いる別働隊。言わば、救世主の登場を目の当たりにした彼等に対し、コーネリアが下した命令は絶望への下り坂を転がり落ちる彼の如き命令であった。
◇◆◇◆◇
『木下隊全滅、木下隊長戦死っ!!』
『永田隊は無事だっ!! 全軍慌てるなっ!!』
『こちら第一歩兵大隊っ!! 支援要請っ!! 敵軍の圧力強しっ』
『信じろっ!! 藤堂隊は目の前まで来ている。私達がコーネリアを押し切れば、挟撃出来るのよっ!!』
届いてくる情報は先ほどまでの攻勢とは打って変わり、一気に状況が劣勢に傾いたことを証明していた。
リヴァル自身は中央にいてカレン達の突撃を後押しすべく支援に徹していたのだが、今は左右から来る味方を助け、敵の猛攻を退けつつカレン達に続いて前進を続けなければならない状況。
後方にて分断された歩兵・車輌部隊の事も気になるが、彼等は最悪車輌を放棄してサイタマゲットーに逃げるしか無い。
後方に待機しているモニカならば何とかしてくれる。リヴァルだけで無く、KMF部隊の全指揮官がそう信じるしか無い状況に置かれたいた。
『ゼロっ!! こちらは崩され掛かっているっ!! 空からの援護は無理なのか?』
『駄目だ。エリュティアを野放しにしては制空権を失って一気にやられるぞっ!!』
『ジェレミア卿かシャーリーさんだけでも無理なのか? 一機居るだけでブリタニア側の動きも掣肘できるはずだぞ? お前さんらしくないぞっ!!』
『っ!? 分かった。しばし待て』
左右からの圧力を分担して引き受けている吉田と永田の声がルルーシュと同時にリヴァルにも届く。
永田の言うとおり、らしくないと言えばその通りでもある。
ルルーシュがこのような状況を想定していないとは思えず、エリュティアの相手に蜃気楼は外せないとしても、ジェレミアかフロートユニットを装備したシャーリー機が居るだけでも状況が変わることはリヴァルにも分かる。
「あの野郎。俺にも黙っているなんてヒドいじゃ無いか……」
リヴァルとしては、ルルーシュが意図を持って自分達を窮地に追い込んでいる事は理解していた。この辺りは互いに親友として過ごした日々でなんとなく分かるものである。
各部隊が壊乱しつつある状況は最悪であったが、本格的に壊滅したのは隊長が戦死した木下隊ぐらいのモノで、永田隊はリヴァル達吉田隊の援護ですぐ様立て直しに成功していたのだ。
「ブリタニア側まで巻き込んでこんな状況を作り出したんだろ? ルルーシュ……」
そう呟いたリヴァルと同様の認識を持っているのは、この戦場においてはカレンとドロテア、そして彼女の麾下の近衛騎士達ぐらいのものであろうか?
堂々と名乗りを上げて援軍に駆け付けてきた藤堂率いる別働隊がダールトンとギルフォードの挟撃で進軍を止められた事が状況に輪を掛けたとも言える。
カレンが頑なに前進を命じているのは藤堂との合流を果たせれば勝てると思っているから。そう言う認識が全軍にあったため、後陣のダールトンによってその進撃が止められてしまった事への衝撃は大きかった。
それを踏まえても、必死にブリタニアの攻勢に耐えている吉田と永田ですら気付いていない事を考えれば、各団員達は当然自分達が死地に置かれていると認識しているはずである。
「ドロテアさんっ!!」
『っ!? なんだ、こんな時にっ!?』
「いや、気付いているんでしょ?」
『っ…………なんの話だ?』
「俺達は、ゼロの、いやルルーシュに“ワザと”包囲させられるって事に」
そして、リヴァルはこの場において、おそらくは自身のキャパシティを越えていないであろう人物へと秘匿回線を繋ぐ。
吉田と永田は元より、カレンはコーネリアと対峙しているのである。全軍を見ることが出来るのは当然だがドロテアしかいないだろう。
実際にはもう一人居るのだが、リヴァルなりの判断で彼を除外していた。
『貴様、いつ気付いた??』
「伊達に悪友やっていないですよ。それに、みんな追い込まれているように見えて耐えてるじゃ無いですか。むしろ、ブリタニア側が押し切れずに困惑しているんじゃ無いですか?」
やはりと言うべきか、リヴァルの問いに眼光を鋭くするドロテア。
現状では、コーネリアの“芸術”にブリタニア軍全体が酔いしれている状況であり、激しい攻撃は継続できている状況である。
だが、打ち破れそうなところで打ち破れない。それでいて、当初は乱戦になろうかという状況が、今では包囲されている騎士団KMFと川に追い込まれつつある歩兵と車輌。そして、挟撃されている藤堂隊。と言う形で見事に色分けが成されている。
いつの間にか弱まりはじめている吹雪がリヴァルを冷静にさせたようにも思えるのだった。
『ふふ、若者というのはほんの数刻でも成長するな。ではリヴァル、殿下の策を最後の仕上げと行こうか』
「え?」
『策は成りつつある。だが、この状況に置ける最大の不確定要素はコーネリア殿下。万が一、紅月が討たれてしまえばすべては潰える』
そして、リヴァルの問いかけを肯定するかのように不敵な笑みを浮かべたドロテアの提案に、リヴァルは自分が見落としていた点に気付く。
コーネリアもまた、一人で戦場を変えられる存在であるのだ。
『聞けっ!! この状況下では部隊も何も無いっ!! 動ける者は皆、このドロテア・エルンストの下へ集えっっ!!』
そして、ドロテアはオープン回線を開くと、包囲下にある全部隊へと咆哮する。
『敵の要はコーネリア殿下ただ一人っ!! 即ち、殿下を討つことで戦況は打開できるっ!! 恐れるなっ!! 私に続けっ!!』
「吉田さん、永田さん、俺もいきますよっ!! カレンを死なせるわけには行かないですから」
『頼むっ!! 後ろは俺達が引き受ける。ドロテアと一緒になんとしてもコーネリアを倒してくれっ!!』
『カレンのことを頼むぞっ』
ドロテアとリヴァルのやり取りを知るよしも無い吉田と永田もまた、ドロテアの鼓舞で気持ちが昂ぶっているのか、リヴァルの軍紀違反染みた行動にも許可を出している。
壊乱している状況であるなら仕方ないとは言え、戦場の空気が作り出した雰囲気だけであるのだが、それが通じてしまうのもまた戦場の空気というものであろうか。
「ま、どんな手を使うのは分からないけどな。お前がミスることは無いって俺は信じるよ。ルルーシュ」
そして、カレンの下へと機体を走らせるリヴァルは、はるか上空にて漸く姿を見せ始めた蜃気楼へと視線を向ける。
それを待っていたかのように、吉田と永田の要請を受けての航空支援を担うべく、シャーリーの搭乗する紅蓮壱型がその白き機体を滑空させてブリタニア軍を上空から攻撃しはじめる。
なぜか、リヴァルの目には、機体のみならず、乗っているであろうシャーリーの背にも天使の如き翼が生えているかのような錯覚を覚えた。
しかし、姿も見えない相手に対して何を考えているんだ? と思いつつ、リヴァルはなおも激しくぶつかり合うカレンとコーネリアの姿を視界にとらえていた。
そんなリヴァルの陽炎の下に、白き翼がふわりと舞い降りて消えた事に気付くことは無かった。
めまぐるしく動く戦場を描写してみたのですが、書き手の独り善がりになってしまっていないかという懸念はあります。
苦言や問題点の指摘等は非情にありがたいため、御指摘頂けるとありがたいです。