C.C.がルルーシュの私室に入ると、ルルーシュとジェレミアの話は再び過去の話題へと戻っていた。
「V.V.の異変やヤツらの計画に狂いが生じていることは分かった。その後のお前は?」
「コーネリア殿下の伝手により、アラスカ方面より侵攻を行うKMF部隊に配属なりました。結果はご存じの通りかと思われますが」
「主攻勢を担うはずだったオデュッセウス率いる太平洋方面軍。助攻を担うシュナイゼル率いるフィリピン方面軍を横目に、ギネヴィア率いる北方方面軍が日本陸軍を壊滅させ、トウキョウを陥落させたのだったな」
その過程でルルーシュとナナリーはスザクと別れ、スザクもまた父殺しと言う罪を重ねていた。
血の紋章事件から10年を数えても成人皇族が少なく、ちょうど三方面に別れての侵攻。
当然、軍の主流派は長子オデュッセウス率いる太平洋方面軍に集結し、海軍の主力戦力と陸上戦力の混成部隊がブリタニア本国からハワイを経て堂々と太平洋を横断していた。
日本側は海軍主戦力がブリタニア領マリアナ沖にて決戦を挑み、戦端が開かれる。
日本側としては、シュナイゼル率いるフィリピン方面軍に対しては台湾、沖縄を捨て石にしてでも海軍の主力を投入し、一か八かの賭に出る状況であった。
しかし、両軍にとっても予想もしなかった事態が北方で起きた。
あくまでも補助戦力と言う認識に過ぎなかったKMF部隊が、上陸からほどなく北海道、東北を蹂躙し、あっさりと関東地方へと突入してしまったのである。
この快進撃に世界中が驚愕し、その後、一気にKMFが戦場の主役になっていくことになる。
さらにこの北方方面軍には、ジェレミア以下、ノネット、モニカ、ドロテアの未来のラウンズ女傑トリオに、マンフレディ、ファルネーゼ、ヴィヨンと言ったユーロ・ブリタニアにて名を上げる若き軍人達も参戦していた。
KMFと言う新種のランドパワーと優秀な軍人達というマンパワーの結晶が、経済大国日本を短期間で壊滅せしめた要因でもあったのだ。
そして、若い人材達の躍進と枢木ゲンブ首相の死。機に聡いキョウトの妖怪達としても負けを認めざるを得なかったのだ。
「その後のお前は?」
「戦功により、モニカ等と同様にラウンズにも誘われましたが、私はそれを固辞し、エリア11に領地を頂きました」
モニカとはもちろん、ナイト・オブ・トゥエルブ。モニカ・クルシェフスキーの事である。
「アッシュフォードと道を同じくしたと言うわけか」
「はっ……。その後は軍とは一線を引き、KMFの教導武官という立場で今日まで過ごして参りました」
軍人として日本行きを志願したところで、すべては軍部の作戦計画などが優先される。過去において純血派を結成するなど軍内部での発言力を得る形で日本へとやって来たが、それでも異動を命じられれば断ることは難しくなる。
あくまでも辺境伯として新領土の運営に赴く事でその枠から抜け出したのだ。
「貴族としての在り方からは外れるモノではありましたし、戦場をともにした者達からも呆れられました」
たしかに、コーネリアやモニカのような、戦場にあって『命をかけて戦うからこそ統治する資格がある』という持論を元にして戦う者達にとっては、戦場から退く事は理解しがたいだろう。
実際、マリアンヌの死去に伴い、殉死しようとした事はブリタニア軍内外に知れ渡っていたからこそ、事実上の引退は周囲を驚かせた。
◇◆◇◆◇
そこに都市は無かった。ただ、廃墟と虚ろな目をした民衆の姿があるだけであった。
エリア11と名を変えたこの地。それが本来の名を無くす結果にジェレミアは多大な寄与をすることになる。
後々、この地に住まう者達の恨みを買うことはあっても、武勲を上げることで行動の自由を得る。弱肉強食を掲げる専制国家にあっては、分かりやすい結論だったのだ。
そして、その戦功を祝うはずの戦勝式典。
ジェレミアはその主役に一人となるべき立場であったのだが、軍主力がエリアの中枢都市、トウキョウ租界となるこの地に集結している中で、主目的足る行動を開始していた。
乱暴狼藉の禁止は通達されていたが、それでも一般兵の暴虐をすべて御せるわけでも無く、敗戦後による混乱は一般の民衆の心も荒ませる。
だが、戦勝式典ともなればほとんどの兵士がトウキョウ租界に集結し、各地に駐屯する軍隊も外出は厳禁となる。
ルルーシュ達に危害を加える恐れのある者達の目がトウキョウに向けられる今が行動を起こすときだったのだ。
「極秘任務の命令書は偽造しておきました。ですが、ジェレミア卿。これは、あくまでも貴方の戦功やこれまでの貢献があったからこそ、見逃される独断なんですからね? 決して、無茶はしないようにお願いしますよ?」
式典の準備を進める中、北方方面軍の参謀を務めたモニカからの伝手を受けたジェレミアは、秘密裏に入国していたアッシュフォード家とアールストレイム家の手の者を枢木神社がある伊豆半島方面へと差し向けていた。
東京が戦火に包まれた時、幸いにして太平洋方面軍は遠きマリアナ沖にあり、伊豆半島では枢木ゲンブの死という混乱以外は、戦場の気配は訪れていない。
とは言え、ほどなくマリアナを拠点にした航空戦力の無差別爆撃があり、ルルーシュとナナリー。そしてスザクが生存していたのは、彼等が持つ強運の賜物であったとしか言いようが無い。
房総半島のように、手柄を逃した太平洋方面艦隊の艦砲射撃の的にされる可能性もあったのだ。
そんな背景があった中、祈るような気持ちで捜索を命じたジェレミアの元に、ようやく3名を発見したとの報告が上がってきた。
逸る気持ちを抑えつつも、モニカの諌言の通り、彼は表だって動く事は無く、ルルーシュ達の保護はそれぞれの手の者に任せ、自身は難民が暴徒と化した際の鎮圧にのみ注力していた。
「ジェレミア卿、良かったのか? 主君と定めた方の御子であろう?」
そんなジェレミアに対し、同じく式典を抜け出してきた女性軍人が口を開く。
ブリタニアには珍しい褐色の肌と黒髪。そして、他者を威圧する鋭い眼光の持ち主である彼女は、ドロテア・エルンスト。
この後、皇帝シャルルによりナイト・オブ・ラウンズに登用され、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインと並び称される豪傑とまで謳われるようになる。
「私が成すべき事は、主君に媚びへつらう事では無い。あくまでも、御身の守護がすべてだ」
「それで、退役するというのか? 皇帝陛下への忠節はどうなる?」
「私にとっては、あの御方こそが主君。あの御方あっての忠義だ」
「周りに人が居ないときにだけにしておけ。私とて、そのようなことを言われたら不快になる」
そんなことを言いつつも、このような事に付き合って居る理由はなんなのか、ジェレミアも正直計りかねていた。
過去においては、ドロテアはビスマルク、ジノ、モニカとともにルルーシュに反逆し、枢木スザクに討ち取られている。
その中でも、ドロテアは皇帝個人に対する忠誠篤き人物と言われていたのだから、今のような言にも納得はいく。
とは言え、ジェレミアには一つ、引っかかりを覚える要素があった。
彼女が皇帝への忠義を口にする際、目元に浮かび上がる赤き縁取り。それは、ギアスを掛けられた者の証でもあったのだ。
(モニカもそうだが、ドロテアにもギアスが?? だが、いったい何のために?)
予想されるのはやはりシャルルの記憶改変ギアスであろうが、なんの目的なのか? この時のジェレミアには知るよしも無かった。
◇◆◇◆◇
「おいおい、今度は俺達が保護された時にお前も居たというのか?」
「御意。もちろん、ルルーシュ様のお教えがあったからこそであります」
「俺はその時の実情は知らないが、感謝する。ナナリーも、スザクも守ってくれたんだな」
そんなジェレミアの言に、ルルーシュはまたも目を丸くする。アッシュフォードの関係者に保護された事には今でも感謝しているが、今回はさらに味方も多かったのだ。
「しかし、ナイトオブラウンズにも知己を伸ばしていたのか。それで、二人に掛かっているギアスは……」
モニカとドロテアに関しては、ルルーシュにとっては敵としての印象しか無いというのが本音である。
「正直、予想だにしていないモノでありました。軍から退いたことで、それらを探る時間も出来たのです」
目を閉ざし、苦悩めいた表情を浮かべながらそう告げたジェレミアに対し、ルルーシュはさらに先を促した。
◇◆◇◆◇
ジェレミアが再び日本の地に降り立ったのは、ルルーシュ達の保護からおよそ一年後の事である。
いまだ、戦傷の色濃く残る日本の地。
「何も、地位を投げ出して隠棲することもあるまいに……」
「隠棲ではありませんよ。新たな領土経営に身を捧げるだけです」
「奪ったばかりのエリアにてわざわざ果樹園経営をはじめるなど、隠棲以外のなんだと言うのだ? お父上の体調も余計に悪くなったであろうに?」
そう言って呆れるルーベンの言うとおり、ジェレミアの父は元々床に伏せりがちであったのだが、日本侵攻の戦功も辺境の地の領土に換えてしまい、ナイトオブラウンズへの登用も固辞したとあっては衝撃も大きい。
ジェレミアは親不孝を自覚しつつも、必要なことと割り切るしか無かった。
実際、父は過去と同じく年内には死去し、自分は辺境伯の爵位を引き継ぐことになる。
「すべては、ルルーシュ様とナナリー様のためのモノ。アッシュフォード卿、私は来たるべき時まで牙を研ぐ。それまで、お二人のことよろしく頼みます。私も、総督府に顔が利くようになったら馳せ参じますので」
「自由に動くためか。本国ではアールストレイムが動いてくれているが、くれぐれも軽挙には走るなよ?」
「はっ」
この後、ルーベンはトウキョウ租界に学園を建設。数年後、中等部にルルーシュを迎え入れ、本人の意向によりルルーシュとナナリーはクラブハウスにて生活を始めることになる。
この時は、まだほんの子どもだったルルーシュだったが、高等部に上がる頃にはすでにルーベンの手で押さえきれないまでに行動範囲を広げ、来たるべき時に自力で備えるまでになってしまっていた。
ルーベン自身、ルルーシュからの信頼を得るまでには至っていない事は自覚していたが、それだけルルーシュに植え付けたブリタニアの憎しみは大きかったのである。
対するジェレミアの方は、ゼロレクイエムの後隠棲することになる地に経営経験のある日本人を雇い入れ、名目上は名誉ブリタニア人としてそのノウハウを学ぶ。その傍ら、ルルーシュの助けとなるべく人脈作りや、政庁への根回しを行っていた。
シャルルやV.V.の目がどこから伸びてくるか分からない以上、それは植木が土に根を張るかのごとく、水面下での動きであったのだ。
そして、ある程度の時間を経て、モニカとドロテアに掛かったギアスにもある程度の予測を立てた。
モニカは実家のクルシェフスキー家そのものが所謂主義者の元締めであったのだ。
彼女がブリタニア人もエリア民も区別無く、正義を執行する姿勢を持った人物であったのは、元来共和主義的な教育を受けてきた結果とも言える。
だが、ユーロブリタニアに深い縁を持つ権門クルシェフスキー家の取りつぶしは、血の紋章事件で痛手を負ったブリタニア皇室に取ってはさらなるダメージに繋がる。
シャルルやマリアンヌからしたら、記憶改変ぐらいで済ませてやるだけ感謝して欲しいぐらいだったのではないか?
ドロテアはその外見からも分かるように、エルンスト家は元々騎士公がやっとの下級貴族であり、そこからラウンズへと上り詰めた弱肉強食の体現者である。
それ故に、皇帝への忠義篤き人物である事には周囲も納得するわけであるが、実際の彼女はエルンスト家の養女である。
そして、その事は彼女本人もエルンスト家の人間も知らない。
本来は血の紋章事件で処刑されたラウンズの遠縁であり、一族も連座ですべて処刑されている。
まだ、幼少であった彼女だけは助命されたのだが、その武勇には天賦の才があり、彼女はそれを実戦にて証明して見せた。
単身でシャルル、マリアンヌに襲いかかったのである。
当時10歳前後であった彼女であるが、少数であったとは言え警護の近衛兵を皆殺しせしめた。だが、さすがにマリアンヌには敵わずに捕らえられ、ギアスによって軍門に降ることになる。
その後の顛末はすでに述べたとおりである。
彼女達以外にも、シャルルと敵対していた陣営の人間が突然寝返り、失敗に終わった反乱や権力闘争はブリタニアの暗部にはいくつも存在していたのだ。
モニカやドロテアがそれだけの価値がある人材だったからこそのギアスであるが、それは燻り続ける火種になるとも、ジェレミアは思っていた。
ルルーシュ達の捜索に協力してくれたのは、心の奥底にて抑え付けられている記憶が成させた行動なのでは無いかと。
そして、それら暗部を水面下で探る一方、クロヴィスの着任に際して、KMFの教導武官としてヴィレッタ等、軍人達の信頼を勝ち取る一方、かつて自分が結成した純血派がキューエルの手によって結成され、軍内部での新たな対立も産んでしまっていた。
そして、小さな一歩を積み重ねつつ、ジェレミアは運命の日を迎えることになった。
◇◆◇◆◇
そこまで話すと、宵の闇に朝の白みが混じり始める時間になっていた。
過去においては、ジェレミアの活動は無く、あったのはルーベンによるルルーシュの保護のみ。だが、今回は勝手が違う。
火種程度ではあるが、各所に反乱の種は蒔かれている。そして、それは今もなお続く各エリアでのテロ活動や主義者達の扇動の中にあっては表に出ないものばかりであるのだ。
「モニカ達のことは分かった。とは言え、ラウンズの彼女達に接触することは簡単ではないだろう。ギアスを解いたところで、こちらの味方になってくれるとも限らん」
「そうですね。ただ、家族を皆殺しにされた者が抱く憎しみはルルーシュ様にはご理解できるのでは?」
実際、モニカの一族はブリタニアを変えるための行動であり、日本での反逆に関しては主義を捨てて迎え撃ってくる可能性がある。
ドロテアにしても、助命した上にラウンズにまで引き上げてくれた事に対する恩義は当然感じているだろう。ルルーシュからしたら、自分を好き放題こき使ったことで恨みしか抱かないであろうが、人の思いはそれぞれである。
「……そうだな。母さん――マリアンヌが。そして、ナナリーが死んだと思った時ほど、シャルルやスザクを憎んだことは無い。だが、今はあくまでも日本のことだ」
「御意。まずは、ルーベン殿ですかな?」
「ああ。それとな、ジェレミア」
「はっ!?」
「俺は今も悩んでいることがある、シャーリー達のことだ」
ジェレミアの過去は分かった。そして、自分のためにこれまで尽力してきてくれたことも。
となれば、その忠義に報いるべきであろう。
シャルル達の計画に変化が起きているとは言え、近い未来にそれを完成させてしまえばそれで終わりなのである。
だからこそ、反逆の歩を止める理由は無い。しかし、その中でも、自分と日常を過ごした仲間達のことが脳裏に浮かぶ。
「かつて、C.C.は『大切な物は引き離しておくべき』だと俺に語った。だが、ナナリーはV.V.に連れ去られ、ミレイはロイドとの婚約でモラトリアムは無くなり、シャーリーは父親を失い、命を奪われた」
「引き離そうとしても、彼等は彼等の選択でルルーシュ様の道に歩み寄ってこられたのですな」
「ああ。だからこそなのか、俺としても安易な道を選びたくなってしまう」
「つまりは、彼等を巻き込むと?」
リヴァルにしても記憶を書き換えられ、ニーナは尊敬する女性を失い、自ら背負いきれぬほどの罪を背負ってしまった。
ルルーシュの行動の結果だけで無く、ルルーシュと出会ってしまったからこそ、彼等は巻き込まれた。
そして、その出会いはすでに始まってしまっているのだ。
「ルルーシュ様、貴方がその道を選ばれるのならば、私は全力を持ってそれをお守りいたしましょう。ですが、それが必ずしも彼等の幸せに繋がることにはなりませぬぞ?」
「分かっている。スザクにも言われたよ。俺の存在が間違っているのだとな。俺が居たからアイツらは巻き込まれた。だったら、俺は俺の存在に掛けてその罪を背負うべきなんだと思う。ゼロレクイエムよりも遙かに重いモノをな」
「…………承知いたしました。私もまた、その罪をともに背負いましょう。今度こそ、我が身命が尽きるその時まで、必ずや忠義を尽くします」
そして、両者との間で交わされた儀。
それを持って、ルルーシュとジェレミアは正真正銘の主君と騎士となったのである。
運命の夜が終わり、日はまた上り始める。そして、彼等をその場に誘った存在もまた、笑顔と光とともに天へと帰って行く。
それは静かな声として、誰にも届かない小さなモノであるが、新たな道を歩み始めた者への小さな祝福だった。
「頑張ってね……ルル」
それは、その優しい声には似合わぬ、新たな戦いの火ぶたが切られる合図でもあったのだった。
これにて序章は終了になります。
ルルシャリと言っておきながら、シャーリーではなくジェレミアとの絡みが中心になってしまいましたが、何とかまとめることが出来ました。
一応、今回のラスト近辺で書いた事。日常の象徴だった仲間達を自発的に巻き込むというのはルルーシュらしくないかなと言う思いはあります。
この辺りは、ルルーシュとともに戦うシャーリーが見たいからと言う理由であるので、ファンの方は不快になるかも知れませんが、頑張って書き切れたらと思います。
それと、拙作は感想とは書きづらいでしょうか?
他のコードギアス二次創作は多くの感想をいただいて居るようでしたが、自分の作品は中々稚拙な部分が多いのか、感想などを書きづらくしてしまっているのかと思い、その辺りも反省しないとと思っております。
その辺りに関しても、感想なり御指摘なりをいただけるとありがたいかなと思っておりますので、何卒よろしくお願いします。
また、明日からは一日一話を目指して投稿予定です。今後も「生まれ変わっても君と」をよろしくお願いいたします。