コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

91 / 103
投稿期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。


第24話 死地の獣

 奇襲は成功した。

 

 攻撃を終え、遠き海上へと後退していく航空隊を見送りつつ、ルルーシュはジェレミアを伴い厚い雲間を地上へと降下している。

 空からの奇襲で多くの戦力を喪失したコーネリア軍は、先ほどまでと異なり、包囲していた騎士団側からの逆襲を受け、さらにダールトンによって痛撃を受けた藤堂隊も再び進撃を開始している。

 

 

「……戦況はこちらが優位のはずだが、それでも生き残りは崩れないか」

 

『コーネリア殿下がダールトン将軍、ギルフォード卿とともに鍛え上げた軍にございます。最後の一兵となっても戦い続けるでしょうな』

 

「ブラックリベリオンでもそれは証明されていたな」

 

 

 ブラックリベリオン――ルルーシュの記憶の中に残る自身の失態の一つ。

 

 だが、それでも勝利の可能性が無かったわけでは無い。実際、日本全土で日本人と名誉ブリタニア人が蜂起し、士気や勢いに関しては騎士団側に分があったのだ。

 加えて、ルルーシュの策でダールトンは戦死し、コーネリアも重傷を負って戦闘不能。

 そして、離脱したルルーシュ達を追って切り札であったスザクとジェレミアすらも離脱してしまっていた。

 互いに指揮官とエース機が離脱した以上、戦場の雌雄を決するのは数と勢いとも言える状況。

 

 しかし、騎士団は破れた。

 

 ゼロの離脱による動揺がルルーシュが予想したモノよりはるかに大きかったとは言え、ギルフォード指揮の下、グラストンナイツは勢いに乗っていた騎士団の猛攻を耐え抜き、勢いを止められた騎士団は最終的には瓦解してしまった。

 当時、民間人として扇に匿われていたヴィレッタやミレイ等がブリタニア人と言うだけで襲われ掛けるなど、騎士団側にも軍としての規律も統率も無かったとはいえ、同じ状況下で耐えきれる軍が他にあるとすればそれはナイトオブラウンズだけだっただろう。

 

 それだけ、精強無比な軍をコーネリアは長年の戦いで作り上げてきたのだ。

 

 

「っ!? やはり、それを選んでくるか。姉上っ!!」

 

 

 そして、雲間を降下するルルーシュ達の下へと伝わる戦況。

 逆包囲下に追い込まれつつあったコーネリア軍は、それを利用して再び一つにまとまり、カレン等騎士団主力部隊へと全軍で突撃を開始してきたのだった。

 

 

「はは、カレンと同じ選択をするな。どっちもじゃじゃ馬娘だ、考えは似ているか?」

 

「カレンだけじゃ無い。ドロテアでも、卜部でもこう言う選択はする」

 

「だからこそ。と言う事か?」

 

「ああ。吉田は統率力はあるが、戦略家、戦術家というタイプじゃ無い。永田は部隊が半壊してそれどころじゃ無いしな」

 

 

 それまでカレン率いる零番隊の突撃を手堅く支えて居たのが吉田率いる中央部隊だったが、木下等の右翼と永田達の左翼が崩れた状況下からの逆転劇。

 それに伴い、バートとデヴィッドの両者が巧に部隊を下げた事で、我慢を強いられていた部隊が反撃に出るのは当然でもあるし、吉田とて好期とみて追撃させるのはおかしくも無い。

 ただ、それがコーネリア軍全体が巧みに誘い出した罠であったとしてもだ。そして、それを補佐するために付けて居た部隊があったのだが。

 

 

「言っても詮無き事だな」

 

『ゼロぉ、隠れて居たヤツ等も全員ふん縛ったぞっ!! 俺等はどうすりゃ良い?』

 

「G1ベースが待機しているところまで後退させろ。ナナリーやミレイに万一のことがあったら覚悟しておけよ?」

 

『分かった、任しとけっ!!』

 

「双葉。玉城だけに任せると心配だから、細かい指示はシュタットフェルトに仰げ」

 

『了解しました。ゼロ』

 

『おいっ!! どう言う意味だよっ!?』

 

 

 地上の状況を考察しているルルーシュ等の元に、エリュティアを制圧した玉城から通信が入る。

 

 シュタットフェルトともどもコーネリアに囚われていた彼等だったが、政庁内部に潜入した咲世子等に救出され、アッシュフォード家の手のモノを中心とした部隊と共にエリュティアに潜入。機動部隊の突入を前に最大の障害であったエリュティアを奪取させた。

 

 指揮を取っていたバトレーは慎重な男だが、根が軍人と言うよりは研究者気質な男で有り、こちらに気を取られれば玉城等が暴れても気付くのが遅れると思っていたのだが、案の定その通りとなった。

 

 

「ここまでは、シュタットフェルトの描いたとおりになったか」

 

『ルルーシュ様に勝利を献上すると。その通りになっておりますな』

 

「完全勝利までは約束していない。と言うのが、今の状況かも知れんがな」

 

 

 そして、エリュティアに玉城等と共に乗り込んでいたシュタットフェルト。

 

 ルルーシュすら知り得なかったがキョウトの隠し球である機動部隊をはじめとした海軍の生き残り達。

 

 カレン達の襲撃を前に秘密基地を脱出し、撃沈された艦艇も自分達をキュウシュウへと運んだ潜水艦以外は旧式の戦力であった。

 誇り高い船乗り達を納得させたのはキョウトに押し付けるしか無かったが。

 お互い手の内を隠していた関係。それを第三者であるシュタットフェルトが切り崩したのだから、ある意味ではバランスは取れているが。

 

 

「やれやれ、老人達に続き、扱いづらいモノが増えたな」

 

「扱いづらいヤツの代表格が何を言っている?」

 

「お前に言われたくないぞC.C.」

 

 

 それでも、国家を運営するとも成れば彼等のような老獪な人間達をも扱えなければならないが、目の前にいる不敵な笑みを浮かべて居るであろう女に比べればマシかも知れなかったが。

 

 

「ん?」

 

 

 そんなルルーシュの心情を察してなのか、タイミングを見計らったかのようにサイタマゲットーからの通信が届く。

 戦場がこちらに移ったことで、現状はブリタニアの車輌や歩兵に包囲されている状態にあるが、蜃気楼との通信に関しては可能である。

 

 

『ルルーシュ様、戦の最中に申し訳ございません』

 

「いえ、何かございましたか?」

 

 

 そして、画面に映り込むのは表情を引き締めた神楽耶と桐原の姿。

 ルルーシュとしても、二人が意味の無い通信をしてくるわけが無い事は分かっているため、彼女等に発言を許す。

 

 

 それは、この戦いの結末をある意味では決定付ける報告であった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 一頭の獣とは良く言ったモノだとリヴァルは思った。

 

 吉田と永田の中央両軍がグラストンナイツの二隊を押し切ったかと思えば、彼等はそのまま生き残ったコーネリア親衛隊を中心に突撃を開始していた。

 普通の部隊であれば、合流後に多少の指揮系統の乱れがあるものだと言うのはルルーシュやドロテアから教えられていたリヴァルだったが、こちらが対峙していたコーネリア、ギルフォードと言った指揮官機はなんの淀みも無く合流部隊を麾下に迎え入れ、即座に突撃を開始した。

 

 一瞬、その勢いに圧倒され掛かったカレンとリヴァル。

 

 その二人の様子を長年の経験から感じ取ったのか、ドロテアは後方に待機させていた麾下の近衛騎士達を前面に出して時間を稼ぐ。

 だが、結果として二人を救ったことで、それまで誰一人として脱落者を出していなかった近衛騎士達が複数機。

 当然だが、コーネリア、ギルフォード、ダールトンを中心とした親衛隊の連係攻撃によって落とされた。

 

 彼等の攻撃に情けは無い。

 

 砲撃による破壊であれば脱出のための時間はあるが、彼等の攻撃はランスによるコックピット、つまりはパイロットへの直接攻撃である。

 

 

『ドロテア様、ルルーシュ殿下、ブリタニアを……』

 

 

 最後の力を振り絞ってか、祖国の未来を信頼する上司と新たな主君へと託していった騎士達の声。

 それを共に聞いた時、画面越しのドロテアの鋭い視線がリヴァルとそしておそらくはカレンへと突き刺さる。

 覚醒した二人は即座に自身を守るべく行動を開始し、ドロテアの指揮の下に中央を割った近衛騎士達ともにコーネリア軍そのものとなった一頭の獣をやり過ごすと、躊躇うこと無くその背に向けて砲撃を開始した。

 

 

「っ!! くっそおおおっ!!」

 

『馬鹿者、落ち着けと言っているっ!!』

 

 

 先ほどのドロテアの視線から、そして状況から、撃墜された近衛騎士達はカレンとリヴァルを守るための盾となったに等しい。

 そもそも、この戦いの犠牲者はルルーシュの策のため、言わば自分達の目的のための犠牲になっている。

 だからこそ、感情的になってその仇を討つことのみに気を取られては成らなかった。

 

 

『紅月、死地に追い込まれた獣はそれを脱するために死力を尽くす。やることは分かるな?』

 

『っ!? ええ。火砲部隊、橋の封鎖を解き、全部隊後退、長距離砲撃による敵の足止めとKMF部隊の支援に徹しろ。KMF部隊は私に続きなさいっ!! 追撃戦に移行するわっ!!』

 

 

 罠に捕らわれた獣が罠を破壊する勢いで抵抗することは当然のこと。

 

 だが、勢いのままに脱出できた以上は眼前に広がる自由のみに視線が行くものである。

 これは仮に精鋭であるコーネリア軍とて同様のモノ。

 わずかな時間とは言え近衛騎士と零番隊主力と激突したコーネリア軍は、中央部隊が左右に展開したことで出来た空白に安堵するはず。

 

 だが、唯一の脱出路とも言える橋を封鎖されていれば再び手負いの獣となる。

 

 主力戦車部隊ならば相手取ることは出来るかも知れないが、今そこにいるのは支援火器を中心とした部隊。

 雪で機動力も奪われている以上、それ以上はKMFの役割でもある。

 実際、ランドスピナーによる移動が可能なため、最後尾は後方を向いたまま撤退行動を取っている。

 航空機の奇襲から生き残った精鋭達である。その操縦技能も熟練のそれであった。だからこそ、より有利な体勢で討ち取る必要があった。

 

 

「カレン、脇は任せておけよっ!!」

 

『大丈夫なの? コーネリア相手に茫然自失だったじゃ無い?』

 

「それはお互い様だろ。俺等の身代わりになった人達の分まで戦わなくちゃ」

 

 

 リヴァルはカレン以上にドロテア達と行動する機会が多く、近衛騎士とも顔を合わせる機会が多い。

 戦死した三人とも当然だが面識はあったし、彼等が誇りと忠義と責務の狭間で苦しんでいることも知っていた。

 だからというべきか、異国の地で死ぬことへの無念も分かるつもりだった。

 

 しかし、彼等の思いを背負って追撃の戦闘を掛けていたリヴァルだったが、思いも寄らぬ反撃を受ける。

 殿を担っていた部隊の一機が反転し、猛然とリヴァルの機体へと躍りかかってきたのだ。

 

 

「うおっ!? くっ、カレン、みんな、先に行けっ!!」

 

 

 とは言え、正面からの突撃である。受け止める事は簡単であり、その間の他の者達を行かせる。

 相手は死なば諸共と言うつもりなのか、距離を取ろうとするリヴァルに対して執拗に距離を詰めて来ている。

 

 元々、ランスと剣を得物とする違いがある分、距離を取った方が相手にとっては有利なはずであるのだが、よく見てみると追撃の近衛騎士や零番隊に対しても数機に対して一機が躍りかかって足止めに掛かっている。

 

 ドロテアに対しては5機が捨て身とも言える攻撃をもって彼女を止めていた。

 

 

「時間稼ぎ。なんとしても、コーネリアを逃がすつもりか?」

 

 

 もはや己の生死よりも主君の命と言うことであろうか。彼女自身は不服であろうが、後方で起こっていることを気にする余裕があるとも思えなかった。

 

 

『姉上の軍は、例え姉上が居なくなったとしても“コーネリア軍”であり続ける』

 

 

 ルルーシュが戦いを前にリヴァル達に言った事の本当の意味はこれだろう。特に新鋭達やグラストンナイツ直属はほぼ全員が最善手を選び出す。

 

 

「あいつも、戦っても居ない相手の事を良く知っているもんだ」

 

 

 正確には戦ったことが無いと言うのは誤りで、コーネリアの総督着任から第二次トウキョウ決戦までの間、日本での戦闘に置いては常に騎士団の前に立ちはだかってきたのはコーネリア軍であったのだ。

 ルルーシュとしてみれば、その手強さは骨身に染みていると言っても良いだろう。だからこそ、今回の戦いでも味方の犠牲を前提とした三重の罠を仕掛けたのだ。

 とはいえ、その罠すらも眼前の彼等は食い破ろうとしていたのだが。

 

 

「せめてカレンとドロテアさんだけでも。この野郎っ!! しぶといなっ!!」

 

『ぐうっ!? 調子に乗るな小僧っ!!』

 

 

 砲撃も斬撃も互いに通じず、膠着していたリヴァルと親衛隊機だったが、時間を稼ぎたい相手に対してリヴァルは時間を掛けたくは無い。

 無茶な攻撃をしつつも守りに入りがちな相手に対し、リヴァルは基本的には攻勢一辺倒である。

 相手はグロースターであっても、こちらはそれを正統進化させた陽炎。機体性能を持って押し切ることがこの場に置いては正解とリヴァルは判断した。

 そして、剣を振るって相手を突き飛ばしたリヴァルの耳に、上空からの滑空音が届くと、相手機はコックピットを中心に穴を穿たれ、そのまま爆発した。

 

 

『行って!! リヴァル』

 

「シャーリーっ!?」

 

『エナジーフィラーはもうすぐ尽きちゃうけど、可能な限り援護するから』

 

「了解。頼むぜっ!!」

 

 

 膠着を打ち破ったのは、空からの使者。

 

 続いて、ジェレミアも地上へと降り立ち、交戦中の騎士団KMFに加勢していく。

 不意を突かれる形になった決死隊達は次々に撃破されていくが、こちらにも被害は出ており、動きが鈍くなっている機体が多い。

 

 

『リヴァル君、我々の活動はもうすぐ不可になる、動ける君達に後は託すぞ』

 

「はいっ!!」

 

 

 そして、ジェレミアからの声に、リヴァルは再び先行したKMFを追い抜き、さらに先行しているカレン達の下へと向かう。

 

 

『来たか、リヴァル』

 

「遅くなりましたっ!!」

 

 

 橋の手前にて、五機の連携を打ち破ったドロテアと合流したリヴァルの視線の先には、ランドスピナーやスラッシュハーケンを駆使して突破を計ろうとするカレンの紅蓮とそれを阻むグロースターが激しく、いや攻勢自体はカレンが一方的であったが、必殺の輻射波動を逃れるべく懐に入り込んだり、機体を犠牲にしつつも距離を取ったりと巧みな戦いを続けて居る。

 

 

「カレン、ドロテアさんは先に」

 

『行けたら行っているわよっ!!』

 

『バートか。紅月を阻むとは、中々やるようになったじゃ無いか?』

 

『っ!? エルンスト卿……。いや、裏切り者のドロテアっ!! 貴様を地獄への道連れにしてくれるっ!!』

 

 

 カレンの怒声を横目に、ドロテアの言に答えた相手はグラストンナイツの一人である、バート・L・ダールトン。

 

 先ほどの戦闘ではコーネリア軍左翼を率いて永田の部隊を半壊させ、彼を見事に手玉に取っていたが、今回は騎士団そのものを手玉に取るべく自身をも犠牲にするつもりであろうか?

 先ほどまでのカレンを相手にしていた時と同様に、ドロテアに対しても果敢に距離を詰めてくる。

 

 

『その罵倒は受け入れよう。だが、戦い自体を受け止める暇は無い』

 

 

 そして、ランスの一撃をいなしたドロテアは、鋭い斬撃をバートに対して繰り出すが、両断されるかと思っていた機体は、KMFの性能を越えた動きを見せてそれを躱し、再びドロテア機に肉薄する。

 

 死地に立った人間の底力と言うべきか、無謀とも見てとれた相手に対し全力で応じたドロテア自身も目を見開くほどの動き。

 だが、格上相手に挑んだことで、本来の任務は横に置かれることにもなる。

 

 

「っ!? カレン、行けっ!!」

 

『っ!? 了解っ!!』

 

 

 先ほどまでの決死の行動がなき物となる形で橋が空き、リヴァルの言葉にカレンは躊躇うこと無く橋を渡っていく。

 そして、リヴァルもまたドロテアとバートの間に割って入る。

 

 

『リヴァル、なんのつもりだ?』

 

「ドロテアさんはカレンを。コーネリア総督は逃げ切れないと判断したらカレンだけを狙うはずです」

 

『それはそうだが、お前、騎士の決闘をなんだと』

 

『そうだ。貴様。私を愚弄するつもりかっ!?』

 

「お叱りは後で。ル、ゼロっ!! ドロテアさんを連れて行ってくれっ!!」

 

『なんだ、気付いていたのか?』

 

 

 現状、後方では決死隊と近衛騎士&零番隊で乱戦状態。数に回る騎士団側が勝つだろうが、単独先行するカレンが危険なことに変わりは無い。

 しかし、上空を蜃気楼が、後方をドロテアがカバーすれば如何に相手がコーネリアであろうと危険は無い。

 

 

『なっ!? ゼロ、なんのつもりだっ!?』

 

『お前にはお前の役割がある。リヴァル、死ぬなよ?』

 

「分かってるよ。一緒に花火を上げる約束だろ?」

 

『っ!? …………ああっ!!』

 

 

 そして、有無を言わさぬとばかりにドロテアの機体に蜃気楼のスラッシュハーケンがまとわりつくと、それを強引に持ち上げる。

 蜃気楼の桁違いの動力が故の業であったが、それ以上に花火にゼロが反応した事でドロテアもバートも困惑の表情を浮かべていた。

 

 

「さてと。相手になるよ。グラストンナイツさん」

 

『……貴様、舐めた真似を』

 

「別にあんたをコケにした分けじゃ無い。俺じゃあ荷が重いことは分かってるよ。でも、今はドロテアさんを足止めされるわけにはいかないんでね」

 

『…………気付いていたか』

 

「どちらか単独なら、三機連携でおそらく倒せる。歴戦の総督達はおろか、あんた達もそう考えたはず」

 

 

 正直に言えば、リヴァルとしてももしかしたら? 程度の認識であった。

 

 ただ、カレンを放置してドロテアに一騎討ちを挑んだバートは橋を突破したカレンを一瞥もしなかった。

 おそらくだが、カレンとぶつかったままであったとしたらワザと橋を空けてどちらかを抜けさせたように思える。

 

 決死隊の特攻によって騎士団とコーネリア軍の距離は開いたが、後方のG1ベースの付近には、モニカの部隊と緊急用の戦車部隊が残されている。

 

 コーネリア軍としてはそれとの戦いを避けて撤退するか、モニカ等との合流を前に追撃してくるであろうカレンとドロテアのどちらかでも打ち倒す算段を立てる可能性はあった。

 だが、カレンとドロテアが揃って追撃し、蜃気楼による上空からの攻撃をも考えれば、素直に撤退を可能性の方が大きい。

 

 ルルーシュ自身、コーネリアをこの戦いで討ち取れる等とは思って居らず、戦力を削りきった上で政治的な決着を望んでいる節はある。

 シュナイゼルのような策士やオデュッセウスのような中庸な人物ならばともかく、コーネリアのような武人が相手では、一度は相手を完膚なきにまで叩きのめさねばはじまらないのだ。

 

 

『……だが、私を前に覚悟は出来ているな? 小僧』

 

「当然。こちとら、暢気な学生やってたって良かったんだ」

 

 

 だが、それを捨てるだけの友達と目的が出来た。それだけだった。

 

 

 そして、互いにランドスピナーを走らせたリヴァルとバート。

 

 まだ若いとは言え、ダールトンに育て上げられた生粋の軍人で有り、常勝コーネリア軍の中核を担う騎士が相手。

 経験も実力もリヴァルが及ぶ相手ではない。

 だが、決死の特攻をかけてきた時点で相手の機体消耗は激しく、何より指揮官としてギリギリの戦いを指揮してきた。

 如何に精鋭と言えど、束の間の空白が強烈な疲労を呼び寄せる可能性は高い。

 鋭くランスを振るうバート機であったが、リヴァルもそれを躱しつつ、僅かではあるが機体の軋みが見えつつある。

 

 

「さすがだぜ、カレン」

 

 

 決死の覚悟で挑んできた相手の猛攻を躱しつつも確実にダメージを蓄積させる。

 彼女自身は倒せないことに苛立っていたが、意識せずに相手の鎧を一枚一枚剥がしていったその実力は味方ながら息を飲まざるを得ない。

 ランスと剣が幾度が激突し、アサルトライフルの砲撃を互いに躱し、スラッシュハーケンを用いて意表を突く。

 

 リヴァル自身も驚いていたが、相手の機体消耗と疲労によって同じ立場に立てている。

 そんな事を冷静に見ることが出来ていた分、この戦いに置いてはリヴァルに分があった。

 

 

『むっ!?』

 

「っ!?」

 

 

 そして、バート機が膝をガクリと折ったその刹那、リヴァルは躊躇うこと無く距離を詰めると、廻転刃刀―を大剣形式にした剣を振るう。

 それは正確にバート機のコックピットを切り裂き、機体諸共に彼の命を奪うことを意味していた。

 

 

『父上、申し訳ありません……』

 

 

 絶命の間際、育ての親に対し詫びるバートの声が、同じように父親との関係を抱えるリヴァルの耳に届いていた。




前回同様に簡単な解説を載せてみました。ネタバレになるので少しスクロールして頂けたら幸いです。
知りたいのはそこじゃねえ。とか、過去の話で解説して欲しい部分がありましたら加筆修正が難しい部分は後書きに追加しようと思いますので、感想、メッセージ等でご依頼ください。
続きを書くことが優先になりますが、可能な限り対応したいと思います。

もちろん、不要だという意見もありましたら、御指摘頂けると幸いです。

















【解説】

前回&今回のコーネリア軍の動きは、

コーネリアはカレンと刺し違えるべく単騎特攻を画策するもギルフォード等に止められる。

合流したダールトンの進言を採用して正面突破による脱出を画策。

バートとデヴィッドの両翼が偽装撤退で吉田と永田の指揮する中央部隊を左右に釣り上げる。

結果、薄くなった中央をコーネリア、ダールトン、ギルフォードの三人を先頭に強行突破。

状況に困惑していたカレンとリヴァルを守るために近衛騎士が強引に前に。

結果として突破をより簡単にしてしまう。


コーネリアが一端距離を取ったことで少し気が休まっていて所に、あっという間に軍を整えたその手腕にカレンとリヴァルが圧倒されてしまった事で、ドロテアの采配ミスを生み出した結果になります。
さらに、バート隊の特攻は捨て肝みたいなモノで、全滅前提の攻撃になります。
これを察したコーネリアは一つ策を思いつくわけですが、ルルーシュ達が介入してきたことで、あっさりとそれを手放し、モニカ達との交戦も避けて撤退に移りました。

リヴァルが先を読めたのはルルーシュとの何気ない会話からヒントを得ている親友ならでは。と言う要素です。
この辺はシャーリーも同様で、カレンは原作ほど仲良くないのでツーカーな感じには慣れていません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。