仮面が取り外されて目を見開いて固まる少年と毅然とした表情で車椅子に腰掛けている少女。
髪の色は異なるが、日本人離れした美貌を持つ両者の雰囲気は似ており、他人が見れば兄弟である事は容易に予想が付く。
正体を知っていた卜部としては、その行動を取った妹ナナリー・ヴィ・ブリタニアに対し、思い切った行動を取った事と今の毅然とした態度を賞賛せずには居られなかった。
「改めまして、私はナナリー・ヴィ・ブリタニア。ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアとマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの第二子になります」
傍らにて石化している兄を横目に日本人達を凜とした表情で見つめて口を開くナナリー。
声の感じから、G1ベースにてCPOを担当していた人物だろうというのは戦場に居た者達は察することが出来たが、あの柔らかな感じの声が自身の立場を表明するとなると途端に重みを感じさせるというのは生まれが成せるわざであろうか?
いずれにしろ、それまでルルーシュに対して関心が向いていた日本人達は、突然登場したブリタニア皇女の存在に圧倒されているというのが正解でもあった。
「皆、黙っていて申し訳ありませんでした。お二人の口から事情を話す前に、事の真相を簡単にお話しましょう」
冷温停止中のルルーシュが戻ってくるまでと言う形で口を開いたのは、桐原と藤堂を一瞥した神楽耶である。
桐原の命で藤堂に連れられ、ルーベンやジェレミア達に引き渡された事までを神楽耶はかいつまんで説明した。
その間、ブリタニアの侵略に関して兄妹は無実である事(当時8歳と6歳の子どもなのだから当然だが)や枢木家及び周辺住民からは虐待に近い扱いをされていたことなども含めて神楽耶は口にしていた。
この辺りは、二人を味方として認めている神楽耶なりに、「私達日本人に二人を責める資格などないですよ?」と言わしめている。
「その辺りまでは事実です。その後、私とお兄様はそこに居るミレイさんの実家アッシュフォード家にて、日本人の皆様の苦しみなどは知らぬまま、平和に過ごしておりました」
「神楽耶様、発言の許可を」
そして、一通りの神楽耶からの説明とナナリーの肯定を聞き終えた卜部は、今にも口を開きそうな朝比奈達の様子に先んじて口を開く。
少々軽口が過ぎる面がある若手軍人達であるが、神楽耶とナナリーのみが発言をしている場で出過ぎたことはマズい。
自由討論という空気は作っておかねばならないと思い、桐原と刑部も頷いていた。
「この場に置いては遠慮などなさらず。ルルーシュ様、ナナリー様。よろしいですわね?」
「かまいません。罵声を浴びる覚悟など等に出来ております」
「ナナリー、何を言っている。お前に対する罵声なんて俺が許さんぞっ!!」
「あ、戻ってきた」
と、そんな卜部の配慮も石化を脱した男によって腰を折られる。
カレンの言葉通り、硬直から脱したルルーシュの発言に思いも寄らぬ空気が漂いかけるが、この場を支配していたのは英雄ゼロではなく、その妹の方であった。
「お兄様、落ち着いてください。この場にあっては私たちはどのような蔑みをも受け止めるべきです」
「ナ、ナナリー??」
「卜部さん、何か私どもに聞きたいことがございますか?」
「いや、俺はそこそこ詳しく事情を聞いていますので。ただ、どうにも言いたいことがあるヤツ等が居るみたいで」
そして、場を再び元に戻したナナリーに感謝しつつ、卜部は厳しい表情を浮かべている千葉や朝比奈達に視線を向ける。
その冷めた視線を受けた彼等は、はっとして表情を正すもすでに後の祭りである。
部屋中が、“言いたいことがあるならさっさと言え”と言う空気になった事を察し、千葉がおずおずと口を開く。
「そ、それじゃあ。結局の所、2人はなんのために戦って居るんだ? ブリタニア皇族だったら、クロヴィスなりコーネリアに保護を求めても良かったんじゃ無いのか?」
「千葉、皇族には礼儀を尽くせ」
「構わない。君達もブリタニア皇族なんかに礼を尽くすのは嫌だろうしな。それで戦う理由だが、単純なことだ。俺もナナリーも戦う以外に居場所が無いからだ」
言葉上は無礼とも取れる物言いの千葉だが、藤堂の窘めを片手を上げて制したルルーシュは、かつてカレンに対して告げたことをそのままに告げる。
「居場所が無いと言うのは先ほど神楽耶様が言われた事か?」
「ああ。俺もナナリーも死んだことになっている人間だ。仮に名乗り出たところで、使い潰されるか殺されるだけだ」
「居場所が無いから日本人に手を貸して居場所を作ろうって事? 要するに、俺達を体よく利用しようって事なんかな?」
「厳密にはそうなるな。結局、俺達にはブリタニアを、具体的にはシャルル率いるブリタニアを倒す以外に未来は無い」
「その辺りは我々と変わらんな。もっとも、我々としては日本からブリタニアを追い出した後の事までは知ったことで無いが」
朝比奈の棘のある言にもルルーシュは否定すること無く告げる。
それに対し、仙波が朝比奈や千葉の心情を代弁するかのように告げると、他の日本人達も顔を合わせはじめる。
それを肯定するような表情の者、それで良いのかと困惑する者、明らかに嫌悪感を表に出す者など様々。
実際のところ、日本の解放が成った先のことまで見据えている者はそれほど多くは無い。
ルルーシュ達ブリタニア人は反逆を決めた以上、シャルルブリタニアを打ち倒す以外に未来は無いが、日本人達からすればブリタニアそのものを倒す事までは考えたことも無いのだろう。
神楽耶達のような国家指導者層としては、弱肉強食を国是とするブリタニアを倒さねば、終わりなき侵略の恐怖に怯え続けねばならない事は熟知しているのであろうが。
「君達はそれで構わん。ブリタニアの事はブリタニアが責任を持つべきだからな。とは言え、俺達だけでは限界もある。だからこその騎士団だ」
「んで、騎士団を使ってブリタニアの皇帝にでもなる気かい?」
「そうだな。必要であるならば、そうするべきだろうな」
「それじゃあ、結局は日本人を利用する事になるんじゃ無いの? 居場所が無いって言うけど、要するに皇帝になる権利があったのにそれを理不尽に奪われた。だから日本を利用してのし上がろうとしているように見えるけど?」
「否定はしない。俺とて神じゃ無い。戦力が無ければ戦えないし、シャルルブリタニアを打ち倒す以上、ブリタニアを復興させる責任もある。ならば、皇帝になる必要だってある」
「そのためには使えるモノはすべて使うつもりです。だからこそ、お兄様を信用されていないあなた方には自由に動ける戦場を用意いたしましたし、代わりに手を携えるべき省庁を用意しようともしました」
目的のためには手段を選ばず。
ルルーシュとしてもナナリーとしても、きれい事を言ったとしてもそれはあくまでも建前である。
元々、悪を成して巨悪を討つと言う方針はある。それでも、きれい事を実現するために手は打ち続けてきたつもりでもある。
それでも不可能なモノは不可能。事、戦争に関しては数が最終的にはモノを言う。騎士団を作ったのも、過去に置いてはルルーシュがコーネリアに手痛い敗北を喫してからである。
今回、ようやくコーネリアに対してはリベンジできたのだ。
「カルデモンドやフェネットが命を掛ける相手が自分の野心のために戦うと言うのか? それでもお前達は良いのか?」
「いや、俺もブリタニア人ですし、良い悪いも無いですよ? そりゃ、皇帝になっちゃったらもう一緒に悪さしたり出来ないのは寂しいですけど……」
「ゼロが、いえ、えーと、ルルーシュ殿下とナナリー殿下が」
「シャーリー、そこは今まで通りで良い。逆に傷付く」
「え? そ、そう?」
「いや、もう良い。聞かずとも分かる」
なおも疑いの目を向ける千葉であったが、先ほどのリヴァルとシャーリーの返答を思い返し、自身の野心や目的を隠そうとしないルルーシュの事をあえて二人に問い返す。
しかし、二人は日本人に対して好意的であっても歴としたブリタニア人であり、ルルーシュの友人ある。
ルルーシュが皇帝になると言うなら応援するし、道を違えるなら必死に止める決意はもっている。
そんな事を口に出さずとも、軽口を叩くことで二人の関係を証明したリヴァルや慣れない敬称を使おうとして混乱するシャーリーと、それを窘めるルルーシュの様子に返答を聞かずとも千葉は納得するしか無かった。
もっとも、シャーリーの場合は彼女とルルーシュの関係を察するのが容易であったため、若干の嫉妬めいたモノもあったが。
いずれにしろ、ルルーシュの野心や目的を咎める空気を作りたかった朝比奈達からすると、リヴァルとシャーリーの姿にあっさりと腰を折られてしまったのだった。
「それで、二人とも、このぐらいで良いのか?」
そして、話が途切れた事で改めて藤堂が二人に対して問い掛ける。
実際のところは千葉と朝比奈以外のメンバーも納得していなかったが、二人がその代弁者であるのだ。
「良くは無いですよ。それでも……」
「無理して従おうとしたって迷惑だと思うぞ?」
そう問い掛けられれば納得は出来ない朝比奈に対し、卜部は素っ気なく答える。
今さらだが、コーネリアとの決戦に際して藤堂の下にまとめられたという事実を考えれば、ルルーシュとしても自分の味方という認識はしていない。
卜部はやんわりとその事を指摘したのだが、日本のためと言うよりは藤堂に心酔している彼等にはそんな事は当然という意識があった。
「まあ、唐突にブリタニアの皇子が目の前に現れた状況だ。正直、斬りかかられないだけ感謝している」
「俺達をなんだと思っているんだよ?」
「冗談だ。藤堂中佐、全員の意見をまとめろと言われても困ると思うが、騎士団の中にもブリタニアを倒すことよりも日本を優先したい人間は今でも居るはずだ。カレンや永田達、それに神楽耶様達も含めて日本人としての結論を出してくれ」
「はあ? なんで私達まで??」
突然槍玉に上げられたことでカレンや永田が目を見開く。
この反応だけで彼女達の真意は知れたが、彼女達のからの意見も藤堂達にはぶつけるべきだとルルーシュは考えたのだろう。
卜部や仙波としても、若手軍人達を説得するにせよなんにせよ、騎士団側の意見はあった方が良かった。
「私は参加いたしませんわ。合衆国日本は人種や思想を問わぬ国。どのような結論を出したとしても、受け入れます」
「神楽耶様らしい。では、それでお願いいたします」
「ええ。ですが、桐原、刑部は参加なさい。あなた方の不始末がルルーシュ様や私に降り掛かっているのですからね」
「ふ、なんとも手厳しい。まあ、よろしいでしょう」
そして、この場においての最高権力者は自身が中立であることを証明する。
神楽耶の本心としてはルルーシュに協力させたいのであろうが、強制させたことに意味は無いと言う事を理解しているのだろう。
勝利が決定付けられたわけでも無いが、コーネリアに対する勝利の道筋が見えたことで、その先にある未来も見据えなければならない。
ルルーシュ同様に、彼女もまた君主としての覚悟が定まりつつあった。
「今日の勝利でコーネリアの動きは掣肘できた。加えて、ブリタニア本国もしばらくはうごけない。せっかくだから、自分達の行く末を考えて見てくれ」
「その結果が私たちと道を違えるとしても、私たちは受け入れます。むしろ、コーネリアお姉様に勝利することが出来たことは感謝してもしきれません」
「君達はそれで良いのか?」
「日本人の分断を煽ったようなモノだ。これ以上俺が介入するのは筋が通らないだろう。決めるべき事は自分達で決めてくれ」
そう言うと、ルルーシュはナナリーによって外されたゼロの仮面を手に取る。
「しばらくの間、俺はゼロでもルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでもなく、ルルーシュ・ランペルージで居させてもらう。ゼロとしての仮面を被り続けるか、ヴィ・ブリタニアとして戦えというのか、その辺りも君達が意見を出せ。こちらに関しては、ブリタニア人としての意見も出す」
そう言うと、ルルーシュはゼロの外套と上着を脱ぎ、どこからともなく現れた篠崎咲世子が手にしていた騎士団服を羽織る。
そして、仮面と上着を手渡された咲世子は、神楽耶が座す台座へとそれを置いた。
これでゼロは消え、一人のブリタニア人が居るだけになる。そう言う事を証明したとも言える。
「と言うわけだ。ブリタニア人は先に休ませてもらうぞ」
「あ、ルル、待っ……っきゃっ!?」
「ん? ほわあっ!?!?」
一連の儀式めいた事を終えたルルーシュはそのままブリタニア人達を率いて退室しようとしたが、大半の人間はどんどん進む話の流れに着いて行けて居らず、出口に向かったルルーシュを慌てて追い掛けたシャーリーが足をもつれさせて思い切りルルーシュに抱きついてしまった。
普通の状況であれば、ルルーシュがシャーリーを抱き留める場面であったが、今やKMF乗りとしても軍人としても身体を鍛えているシャーリーに対し、ルルーシュは相変わらずであり、激務も相まって腕力はそのままである。
当然、受け止めきれるはずも無く、シャーリーともども床に転倒する羽目になる。
「いった~、ルル~、大丈夫?」
「だ、大丈夫だ?」
当然の流れと言うべきか、後頭部を派手に床にぶつけたルルーシュは目を回しかけ、シャーリーも思い切り床に身体をたたきつけたため双方ともにダメージを受けている。
しかし、無意識の二人を見る周りの目には、シャーリーがルルーシュを押し倒した格好が見事に出来上がってしまっていた。
「シャーリー、動けるか?」
「なんとか。ごめん、なんか疲れちゃったみたい……」
「大役を任せていたからな。色々と済まなかった」
「そんな事は無いよ。でも、ルルの役に立てて良かった」
そして、痛みから回復した二人はなぜか二人のだけの世界が出来上がってしまっている。
当然とも言うべきか、そんな微笑ましい空間には、静かな破壊音が二つほど轟く。
ルルーシュとシャーリーが何事かと視線を向けると、良い笑顔で手にしていた扇子と万年筆をへし折った神楽耶とナナリーの姿が二人の目に映る。
さらに、ミレイもまた同様の良い笑顔を二人に向けていた。
さらに二人が周りを見ると、旧解放戦線の面々と近衛騎士達は目を丸くし、C.C.を初めとする騎士団の大半のメンバーは口を抑えて笑いを堪え、ドロテアとモニカは額を抑えて首を振っている。
「なんだ?? どうしたお前達?」
「あ、え、ええっと……」
そして、状況を掴めて居ないルルーシュと、状況を察して茹で蛸に様になるシャーリー。
今さらだが、過去を踏まえて、シャーリーが側に居るのは当然という認識のルルーシュと片思いから先へと進んでいないシャーリーの違いでもある。
この辺りを見ると、ルルーシュだけではなくシャーリーも十分に鈍いのだが、このような反応をしてる時点で似た者どうしであった。
「ルルーシュ様もお疲れの様子ですな。さあ、お立ちください」
「あー、ほら、ルルーシュ、シャーリー立った立った」
そんな周囲の様子に、忠臣と親友は慌てて二人に掛けよって二人を助け起こすと、さっさと逃げるようにその場から二人を連れ去る。
「咲世子君、ナナリー様を頼むぞ」
「会長~、後で話は聞きますからー」
「いや、別に良いわよ~?」
そんなジェレミアとリヴァルの声と、リヴァルに対して素っ気なくそう答えたミレイを残して。
「ふふ……、さあ貴方達? 何をぼさっとしているのです? 自らの進む道ですよ? さっさと結論を出しなさい」
「そうですね。お兄様がせっかくの譲歩をしてくれたのです。その事を決してお忘れにならぬように」
「まあ、ナナリー様は中々手厳しいですわね」
「いえいえ、神楽耶様には負けますよ」
そして、笑顔を崩さぬままその場の者達に対し冷徹に言い放った神楽耶とナナリー。
その笑みに対し、その場に居る者達は引きつった笑みを返す以外には無かった。
「まあ、その、なんだ……、頑張ってくれ」
「俺にどうしろと……?」
「貴方なら大丈夫です。多分」
そして、ブリタニアが誇る武と智の女傑もまた、日本側随一の苦労人にその場を押し付―任せると、部下達を引き連れてそそくさと退室していった。
日本人の答えは日本人が出すべきである。
しかし、そのための議論開始は、絶対零度の笑みを浮かべた二人の皇女が侍女とメイドに連れられて退室していくまで待たねばならなかった。
シリアスからのコメディという感じになりました。
ルルーシュとシャーリーの所で何人が「爆発しろ」って思ったかは不明です。