コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第29話 未来への出立①

 昨日の嵐が嘘のように、日の光が冬の澄んだ空気を鮮やかに照らしはじめていた。

 日本側に思わぬ決断の刻が迫りつつある中、そんな事を知るよしも無いコーネリア軍は、アカバネゲットーでの野営と敗残兵の収容を終えた後、アッシュフォード家の手はずで身なりを整えていく。

 そして、出撃時よりも数こそ多く減らしながらも、堂々とトウキョウ租界へと凱旋していった。

 出迎えた市民に混乱は見られない。

 ただ、戦勝を告げる素振りも見せないコーネリア軍の姿にどこか顔を見合わせつつも、ルーベンや咲世子が流した『本国の情勢が見えない中で浮かれることはない』と言う流言に納得して彼等を迎え入れていたのだった。

 そして、政庁へと戻ったコーネリアは、敗戦の報を知る官僚や留守を守っていた将兵達の引きつった表情を横目に執務室へと戻った。

 

 

「シュタットフェルトを連れてこい。すべてはヤツの手のひらだ」

 

 

 そして、ある意味では戦いの引き金を引いた男の名を口にする。

 思えば、日本海軍の残党を発見し、愛娘のカレン・シュタットフェルトを差し出すことでこれを討伐させた。

 その時からこの戦いは想起され、騎士団の切り札となった機動部隊は見事に覆い隠された。おそらく、海軍の残党達はまだ太平洋の海原に隠れて居るはず。

 騎士団の陸上戦力は漸減したものの、トウキョウ租界は海上からも攻撃が可能なのである。その所在を引き出さねばならなかった。

 

 

「そ、総督。それが……」

 

「なんだ?」

 

「騎士団の手の者に潜入され、捕らえていた玉城ともども……」

 

「…………逃げられたと言うのか?」

 

 

 顔を青くしたまま答えに詰まる官僚と留守居役の参謀達。

 コーネリアも声が低くなることを自覚したが、それ以上に自身の視線に大の大人達が震え上がっている様を見れば、答えは明白であった。

 

 

「ダールトン、帰還した兵達には休息を取らせろ。残留部隊には防衛体制の準備を」

 

「はっ。戒厳令の発令は如何いたしますか?」

 

「騎士団の動きを掴んでからで良い。今の状況でも民は不安に思っている。それを煽るわけにはいかぬ」

 

「はっ。しかし、総督。いつまでも、秘匿は出来ませんぞ?」

 

「うむ……、ダールトン、住民慰撫はアッシュフォードに担わせろ」

 

「…………よろしいのですな?」

 

「ゼロに通じているのならば……、そしてゼロならば、住民達が犠牲になる事を望むまい」

 

 

 カワグチゲットーでの出迎えとトウキョウ租界の平穏なる帰還。

 それらを演出したルーベン・アッシュフォードはかつてマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの後援者として、貴族社会で暗闘を繰り広げた梟雄たる一面を垣間見せていた。

 この極東に逼塞し、この地で散ったとされる皇子と皇女の御霊を案じ、時として奢侈とも言えた浪費を過ごす日々。

 勢力を失った貴族の末路の象徴として嘲笑われてきた男がかつての鋭さを表に出しているという事実。

 

 そして、自分を打ち破ったゼロ。

 

 サイタマゲットーをはじめとする各地でイレブン達を守護するように戦っていたが、実のところはブリタニア人への被害も可能な限り抑え込もうとしている。

 まるで、ブリタニア人のみを案じ、ナンバーズ達を害する自身への当てつけとも取れるその行動であったが、それ故に、彼のモノと通じて居るであろうアッシュフォードが住民慰撫を怠るはずも無かった。

 

 

「ゼロはそう考えたとて、かの亡霊達はそうは思わぬでしょう」

 

「分かっている。ギルフォード、ヨコスカ、タケヤマ、キサラヅの各基地周辺住民の避難を指揮せよ」

 

「はっ。…………姫様、やはり海軍を?」

 

「ヤツ等の残党達の戦力が読めんが、海軍の腰抜けどもに御せる相手ではあるまい。また、ヤツ等も力を誇示する機会を待っているはずだ」

 

 

 川越にてコーネリア軍を壊滅させた日本海軍機動部隊を初めとする残存勢力。

 

 さすがに単独でトウキョウ租界に戦いを挑んでくることは無いだろうが、横須賀を初めとする沿岸部の基地には海上へ向けられた砲台が設置されており、それらは8年前に日本海軍を『処刑』した兵器の一つである。

 独断で動くとは考えがたいが、こちら側が大きく戦力を失った以上、復讐戦を挑んでくる可能性は大きいだろう。

 

 

 そして、そこまでのコーネリアの読みは大筋では当たっていた。

 

 すでに、公方院の直卒する海軍残存艦隊は、彼等に取っての因縁の三浦半島沖にまでゆっくりと進出していたのである。

 

 

 ただし、コーネリアの予測を大きく上回る手土産をもって。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 コーネリア軍はトウキョウへと去った。

 

 これを以て、サイタマゲットーにて建国を宣言された『合衆国日本』は明確な勝利を得たことになる。

 それでも、一夜明けた彼等に歓喜は無い。

 

 サイタマゲットーの住民や合衆国日本へと集まって来た民間人に対しては情報統制が続いているため、彼等は戦闘終了という安堵とともに眠りについたのであるが、黒の騎士団将兵にとっては長い沈黙の夜となった。

 黒の騎士団と旧日本解放戦線の決裂は決定的となり、駆け付けてきたレジスタンスや民間人が結成した義勇軍への通達は夜通しで行われている。

 この辺りはカレン等騎士団幹部と藤堂、卜部などの解放戦線側で一致した結論で、ゼロの正体及びその目的と幹部達の選択を隠すこと無く伝えている。

 一部、情報を洗いざらいばらまくことに難色を示した者も居たが、レジスタンスや義勇軍の指揮官達も話し合いの場に居た以上、誤魔化すことは難しかった。

 幸い、広大なアリーナや地下のメイン区画は民間人が収容されていたが、いくつかの小型区画は無数に作られていたため、レジスタンスや義勇軍は民間人とは隔離される形で身を休めていたのである。

 

 トウキョウ租界の眼前にある巨大ゲットーであり、ルルーシュにとっては苦杯を舐めた地。

 ジェレミアが総督を代行した際の宥和政策の一環として、この区画拡張はトウキョウ租界を攻略の前線基地を見越しての事でもある。

 

 

 そして、結論は出た。

 

 ルルーシュと神楽耶は無言のまま入室してきた者達の顔触れを一瞥すると、ゆっくりと瞑目し頷く。

 カレンを初めとして、永田、吉田と言った黒の騎士団本隊として行動を共にしてきた者達は全員。

 だが、各地のゲットーにて騎士団との協力体制を作らせていた幹部達は井上を初めとする幾人かは残っていたが、やはりと言うべきか、見えない顔もある。

 そして、日本解放戦を初めとするレジスタンスや義勇軍。

 これらの中で、この場に足を運んでいるのは卜部と堀内少佐、大場大尉と彼等の指揮下にあった部隊長。他は義勇軍のリーダー達が大半である。

 旧日本解放戦線所属者のみならず、各ゲットーレジスタンスの大半は、黒の騎士団との合流を選ばなかったのだ。

 

 

「再び、厳島の奇跡に縋る事を選びましたか。進歩がありませんね」

 

 

 瞑目したままのルルーシュと神楽耶に代わり、口を開いたモニカの言に騎士団側の人間達は同様に頷く。

 とはいえ、モニカほどの嫌悪感を見せたわけでは無く、あくまでも彼等の頑迷さに肩をすくめるしか無いと言った様子。

 

 モニカが珍しく感情を表に出したのは、自身が謀略の駒として使い、最終的には身を滅ぼした男と同様の盲目さを感じ取ったからであろうか。

 だが、結果として日本人の勢力は黒の騎士団=合衆国日本と旧日本国に二分してしまうことになる。

 それでも、ルルーシュの正体に嫌悪し、作戦内容にすら反抗する人間達を抱えておく危険性は戦力減よりも大きかった。

 カレンの暴走が呼び込んだとは言え、藤堂自身もルルーシュに正体を暴露するよう促したのは短慮であったし、分裂に対する相応の責は背負うべきであろう。

 

 

「それで? 貴様はなぜこちらに居るのだ?」

 

「なぜと言われてもな。俺も部下達も初めから騎士団とともに戦うつもりだったから。としか言えねえな」

 

「片瀬少将謀殺の話を出して騒ぎを起こしたのに?」

 

 

 そして、それまで決別の方向を何とか諫めようとしていた藤堂が、決別を選んだ決定打を呼び寄せた男に注目が集まる。

 調練などを通じて親しいドロテアの問いに、男―卜部は肩を竦めながらそれに答える。

 しかし、ドロテアで無くとも、特に当事者としてその場に居たカレン達は余計な騒ぎを起こした卜部に対しては現時点では良い印象は抱けていない。

 結果として、カレンや永田をはじめとする名誉ブリタニア人達に対する差別意識も暴露されたのだから、彼女等の後ろめたさなども解消されていたが。

 

 

「隠そうとしたっていつかはバレることさ。まさか、刑部閣下が桐原公とルルーシュ皇子にすべてをおっ被せるとは思わなかったが」

 

「は? どういうこと?」

 

「片瀬粛清の真相は刑部が命じ、そこに居る大場大尉が手を下したのだ」

 

「じいさん、さも自分でやったみたいに言っていたじゃ無い」

 

「同意したことは事実じゃからな。刑部自身、謀殺の真相を知れば藤堂等がどう判断するかぐらいは分かっておった。藤堂等が軍人としての分を弁えられればワシもヤツも墓場まで持っていくつもりだったがの」

 

 

 尚も肩をすくめる卜部の言にカレン達が目を丸くするが、卜部に代わり、桐原が不敵に笑みを浮かべながらそう口を開く。

 もっとも、遠回しに片瀬粛清を促したのはルルーシュであるし、モニカの謀略に乗せられて、澤崎共々中華に内通した事実がある以上、当然の結果とも言える。

 藤堂等を引き受ける代わりとして、刑部等の責は桐原が肩代わりし、藤堂達の恨みを一身に受け止める事になったのであったが、騎士団のメンバーにまでそれを黙っておく必要は無い。

 桐原自身、裏切り者対する粛清を厭わないと言う態度をルルーシュを初めとするブリタニア人達にも示さねばならなかった事もあり、すでに慣れきった悪役を演じきっていた。

 そして、これらのことはすべてルルーシュと神楽耶には通達済みであった。

 桐原と卜部は騎士団側として。刑部や補佐役とブレーキ役を買って出てあちらに残った仙波も含めても談合済みである。

 国粋的な、もしくは盲目的な日本人達を藤堂に押し付けて野放しにしては草壁一派や過去における騎士団のような暴走を生み出しかねない。

 貧乏クジを引く形となった刑部は、弔鐘の森で文字通り全滅した陸軍首脳で唯一生存する。

 そして、敗戦とその後の混乱によって棚上げになっていた旧日本陸軍の葬送を担わねばならなかった。

 仙波も同様に旧軍を知る数少ない軍人としての経験値から、藤堂の補佐を続ける事を選んでいた。

 

 

「となると、あの人達って最初から最後までルルーシュやモニカさんの手のひらで踊っていたと言う事?」

 

「そういうつもりは無い。藤堂には借りがある以上、出来る限りの優遇はしたさ」

 

「神楽耶様が居る以上、彼が殿下と並び立つことは無い。当人は理解していても、部下の教育が出来なかった以上、来るべくしてきた結末です」

 

 

 そんな上層部の思惑を知るよしも無いカレンの問いに、ルルーシュもモニカもどこか突き放すように答えるしかない。

 

 

「それでも、中華との内通を教えたらアイツらでも納得したんじゃ無いのか?」

 

「無理だよ。仙波大尉以外は藤堂中佐をトップに仰ぎたい連中ばかりだからな。俺としても中佐個人は尊敬しているが、かといって共倒れに付き合う気にはなれねえよ」

 

 

 信頼と崇拝は異なる。

 

 藤堂は軍人として、上官として信頼するべき人物であるが、指導者として崇拝するべき立場には無い。

 

 歴史上でも、野心無きまま、他者の崇拝を買ったが故に身を滅ぼした軍人は多く存在した。

 藤堂もその列に並ぶかどうかはこの後の彼次第であるだろう。

 

 永田の問い掛けに答えた卜部の様子に、現状ではその未来は極めて難しくも思えたが、刑部と仙波が居る以上、彼が悲惨な末路を迎えることは無いであろう事を祈るしか無かった。

 

 

「予想された結果ではございましたが、私自身は彼等が合衆国日本の一員として生きることを望むのならば受け入れますし、ルルーシュ様と通じた私を否定なさるのならば、相応の未来を与えます」

 

「それでよろしいでしょう。日本の未来を考えるのならば、選択の余地は無いはずですからね」

 

 

 そして、神楽耶はまた、君主として、国是を否定することは無く、彼等が望むのならば、自身の臣民として受け入れる事を騎士団側に宣言する。

 当然のことだが、ルルーシュをはじめとする騎士団側の人間に反対は無い。

 

 

「南や杉山達なんかはどうすれば良いの?」

 

 

 藤堂等、軍人、レジスタンス達の処遇はある程度定まった。

 しかし、一部、ゼロ――ルルーシュとともに戦うことは出来ないが、合衆国日本を否定するつもりも無いことを表明している人間も居る。

 これはカレンや永田達の方針もそうだが、ほぼ一緒に行動してきた井上の説得も大きかった。

 

 

「俺の指揮下で前線で戦う事を嫌うならば、今まで通り後方支援を担ってもらうしか無い。カレンや神楽耶様に対しては信頼や忠誠を向けられるのならば、日本にとっては問題無い」

 

「それじゃあ、引き続きゲットーの産業開発を頑張ってもらえば良いわけね。ま、アイツらは単にルルーシュが気に入らないだけみたいだし」

 

「井上、はっきり言いすぎだ」

 

「良い。嫌われることには慣れているからな。井上、引き続き仲介役を頼めるか? 今後は桐原公も表だって内政に関わられる」

 

 

 実際のところ、コーネリア軍からエリュティアを奪取し、斑鳩の完成も間近な状況で南と杉山が居ないのは過去を考えればマイナス要因ではある。

 とは言え、ルルーシュへの反発は騎士団幹部への行きすぎた思い入れば前線では命取りになりかねない面もある。

 藤堂達のような固有の武力を持っていない今だからこそ、その才能を生かす方向で起用を続ける以外には無い。

 

「アイツらはアイツらで頑固だけど、まあ何とかするわ。そのうち、扇も戻ってくるんでしょ?」

 

「ああ。九州に留まらせておくつもりは無い」

 

 

 扇に関しては組織の緩衝役としてはこれ以上の存在は無い。

 

 現にヴィレッタの補佐の下、九州を中華につけ込ませない程度にまとめ上げており、流されやすい面をカバーすればその存在は貴重なモノだろう。

 とはいえ、その弱点を今後見逃してもらえるとは思えない以上、ヴィレッタ共々中枢に呼び寄せておく方が無難でもある。

 

 

「して、貴公は如何とするのだ?」

 

「私ですか?」

 

「うむ。ゼロとして戦い続けるのか、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして、旗を揚げるのか、他の道を探るのか。紅月と神楽耶を矢面に立たせるお主ではあるまいがな」

 

「ゼロとは記号……。ですが、殿下が表舞台に立たせるとなれば、その仮面の下は殿下である必要はございませんね」

 

 

 決別を選んだ者達の処遇は定まった。

 

 しかし、その決別を生み出した元凶とも言える存在の去就に関して、明確な回答は得られていない。

 

 当然だが、彼に“後退”の二文字は存在しないことは全員が理解していたが。

 

 

「モニカの言うとおり、ゼロとは記号だ。俺が仮面を脱いだ以上、その仮面を被る必要も無い。だが……」

 

 

 ゼロが記号である以上、民族や国籍という産まれながらにして人を縛る属性。

 

 それが存在しない唯一の存在こそが“ゼロ”である。

 

 ルルーシュが仮面を脱げば、そこにあるのはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアもしくはルルーシュ・ランペルージという個人で有り、それはブリタニア皇族であるかブリタニアの学生である。

 

 仮に、ブリタニア人の代表としてルルーシュが、日本人の代表として神楽耶が、日本人とブリタニア人、両者の血を受け継ぐ名誉ブリタニア人の代表としてカレンが、三者が同格となって手を取り合ったとする。

 

 傍目では大いなる和解の一歩と映るであろう。

 

 しかし、その和解を誰が保証するのであろうか?

 

 反ブリタニアという目的の下に手を取り合った者達同士が今し方決別しあったばかりでは無いか。

 ルルーシュ、神楽耶、カレンの関係を知っている者達ならばいざ知らず、事情を知らぬ日本人やブリタニア人がわだかまり無く手を取り合えるか?

 

 答えは“否”ではないだろうか?

 

 ルルーシュが如何に日本のために戦おうとしても、彼にはナナリーやシャーリーという他に代えられぬ存在がある。

 神楽耶やカレンがそれを咎めることは無いとしても、日本人には不信を抱く人間は居るだろう。

 逆に、神楽耶やカレンがルルーシュに全幅信頼を置いた姿を見た日本人はどう考えるか? 

 逆もしかりで、神楽耶やカレンを同士として扱うルルーシュを見たブリタニア人がどう考えるか?

 

 玉城のように単純な考えの人間も居れば、千葉や朝比奈のような者達も居るし、ブリタニア側としてもジェレミアのような端から見れば盲目とも言える忠誠を向ける人間も居るのだ。

 どうしても軋轢は出てきてしまう。

 だが、そこに双方どちらにも属さない仲介者の存在があればどうなるか?

 だからこそ、カレンの存在にルルーシュは重きを置き、ゼロとある種同格の立場を作り出した。

 

 完全なる中立の立場であるゼロと両陣営の代表者たるカレンが手を取りある。

 

 これをルルーシュと神楽耶が支持することで、互いの利害を超越した存在がそこにある事で、両陣営も手を取り合うことが出来る。

 理想論かも知れなかったが、今となっては黒の騎士団は日本人だけの組織では無い。

 過去において、騎士団が最終的に機能したのはあくまでも悪逆皇帝ルルーシュという宿敵がいたからで有り、ルルーシュがあのまま世界から去っていれば、残念ながら騎士団内部で日本と中華への優遇に反発する動きを抑えられたとは今更ながら思えなかった。

(過去の騎士団は、超合衆国成立後も主要ポストを日本と中華が牛耳っている歪な状態だった)

 

 

「つまり、仮面は被り続けるし、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしての顔も表に出すと言うこと?」

 

 

 ルルーシュの考えに、カレンは分かったような分からないような表情を浮かべてそう問い掛ける。

 

 率直に口を開いたカレンに対し、神楽耶や桐原、モニカやドロテア等は瞑目したり、眉をひそめたりしている。

 

 

「ああ。俺とゼロが同じ場に居なければならないときは、C.C.なりリヴァルにでも被ってもらえば良い」

 

「えっ!? 俺かよっ!?!?」

 

「背格好は似ているし、仮面越しの声なら中身は分からんからな」

 

「いや、殿下。騎士団のエース格が公の場から姿を消すのはまずいでしょう」

 

「何より、殿下が表舞台に立つ事自体、私としては時期尚早のように思われますが」

 

 

 話の内容が大きくなってきて困惑している中、突然話を振られたリヴァルは分かりやすく取り乱すが、ルルーシュとしては毎回C.C.にやらせるのも彼女の負担が大きくなると考え、背格好や自身を身近で見てきた友人を頼る。

 しかし、公の場に出るならば、リヴァルも顔を出す機会が増えると考えるドロテアは苦笑しながらその考えを否定し、モニカはさらにルルーシュがヴィ・ブリタニアとして表舞台に立つことにも反対してきた。

 

 

「なぜそう思う?」

 

「殿下は好まれぬかも知れませぬが、殿下の存在がゼロの風下に置かれること自体が私には受け入れがたいのです」

 

「ゼロとは記号だと告げた。お前自身も、そう口にしたはずだが?」

 

「しかし、人々の希望で有り、英雄でもあります殿下」

 

「モニカ、お前は騎士である以上、主君の名誉を望むのかも知れないが、生憎と俺にはそれを得る権利は無い」

 

「殿下がそうお思いでも、私たちとしては殿下にはその権利がございます。現に、数多の日本人を救い、シャルル・ジ・ブリタニアの支配下にあった私やドロテアを救い、部下達も受け入れてくださっております」

 

「だが、俺がゼロとしての仮面を被り続けたところで同じだろう?」

 

「その素顔を全世界へと晒さねばならぬ時は必ず来ると私は思っておりますし、そうさせるつもりです」

 

 

 神楽耶や桐原の瞑目は、ルルーシュ等ブリタニア人達との最終的な和解へと繋がる道の困難さを思い浮かべてのことであり、ドロテアはルルーシュの考えを理解しつつも、どこかわだかまりを感じている様子であったことはルルーシュにも見当は付く。

 ただ、この中で唯一、モニカの心情のみはルルーシュにも推し量りきれない面があった。

 ルルーシュとしては過去に結果を以て皆を納得させてきた末に辿り着いた結末を踏まえ、ゼロという仮面を明確な記号とし、自分はブリタニア側の責任者としての立場に明確にするべき時が来たと結論づけていた。

 それが同様の立場になるカレンに対する義理立てでもあるし、神楽耶の政治的な立場を考えても最善と考えていた。

 

 しかし、モニカの言を考えると、それは危険な未来を示すとも言える。

 

 英雄ゼロとして仮面を被り続け、シャルルブリタニアを討ち果たした未来において、自分が仮面を被り続けるのならばそれで良い。

 だが、万が一仮面の中身が曝け出されたとすれば、待っているのは茶番劇であろう。

 単純なブリタニア内部のお家騒動に世界が巻き込まれただけ。日本をはじめとするエリアを開放したところで、結果以上の事実が民衆の目を覆い隠す。

 

 そんな未来はルルーシュとしては避けたかった。

 

 

「ゼロとしての仮面を被り、世界を導いた来た殿下が、仮面を脱いだ後にも世界を導く。そんな未来を私は見たいのです殿下」

 

「…………モニカ、その言は聞かなかった事にするとしよう。日本とブリタニアが真に手を取り合える未来のために、俺個人が英雄になるわけには行かないんだ」

 

「なれば、殿下の役目を担える御方がこの場に現れるとなれば如何いたしますか?」

 

「なに?」

 

「公方院公、今は公方院元帥ですか。あの方より、昨夜、私の元にこのようなメッセージが届いております」

 

 

 そう言ってモニカがルルーシュに差し出したのは、カワゴエでの戦闘に決着を付けた日本艦隊機動部隊――、それを率いる公方院よりモニカの元へと届けられた符牒。

 

 モニカとは、敗戦以降水面下で誼を通じていた公方院との間で決められた彼女等だけが解読可能なそれには、とある人物の存在を示すメッセージが記されていたのだ。

 

 

 

「…………そうか。無事だったか」

 

 

 

 そして、そのメッセージを受け取ったルルーシュは、先ほどまでの剣呑な雰囲気を一変させ、大切な者の生存に安堵する一人の少年の顔を浮かべて居たのだった。




連載が2ヶ月以上空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

構想自体はまとまっているのですが、仕事やコロナの傍ら、文字に起こすことに苦戦しておりました。
また、時間が空いてしまって人物の描き方に矛盾が生じてしまったりしている場面もあるかも知れませんが、今しばらくお付き合いいただけると幸いです。

次話は何とか誓いうちに投稿できたらと思っております。

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