画面に映し出されたコーネリアの表情は、目を開いたまま凍り付いていた。
『無事であったのか……』
「……はい」
世界的にも知られた仲の良い姉妹の再会である。
それにしては、喜びを分かち合う様子が一切見られないのは、状況が状況であるからであろうか。
方や、極東の地に取り残された形になるブリタニアの拠点を守る責務を負った総督。方やブリタニア本国において領地を賜った新興領主。
本来であれば、会話を交わす機会すら確保するのは困難であるはずだった。ブリタニア本国は、突如発生した謀叛によって音信不通となり、帝都をはじめとする主要都市はすでに敵の手に落ちているという状況である。
生存の可能性に一縷の望みを賭けていると言う状況であったコーネリアにとって、万感の思いを抱くべき状況でもあったのだ。
だが、今ユーフェミアが居るのは黒の騎士団に拿捕されたエリュティアの艦橋。
彼女の周囲には、合衆国日本の代表として立った皇神楽耶とそれを補弼する桐原泰三が並んで立ち、永田をはじめとする騎士団員達が詰めている。
仮面を付けたままではあったが、ナナリーやミレイもその場に居り、コーネリアの目には意図的にユーフェミアが置かれた状況を見せつけられる。
たしかに、エリュティアの艦橋にあっては、日本人とブリタニア人がともに詰め、ともに戦うべく参陣している。
当初、コーネリアに対して再会を喜ぶ笑みを向けたユーフェミアの表情からは、すでに再会を喜ぶ余裕は消え失せている。
「お姉様、いえ、コーネリア総督。お聞きください……。本国で、ブリタニアにおいて何があったのかを」
『それを聞いてどうなるというのだ? お前は、皇族として……、地方領主として、イレブンどもに組みすることが許されると思うのかっ!?』
「許されていただきます。父が、いえ、シャルル・ジ・ブリタニアが君主としての責務を放棄した以上っ!! 私には皇族として、ブリタニアの民を守る義務がございますっ!!」
毅然として、そう口を開いたユーフェミアに対し、コーネリアを本来の覇気を取りもどし、一ブリタニア皇族の謀叛とも取れる宣言に対して糾弾する。
だが、声を荒げたコーネリアのみならず、2人の問答に耳を傾けていたすべて者達が目を見開くほどに強い口調でユーフェミアは反論したのであった。
(事情を鑑みれば、こうなることも予想は出来たな)
永田と同じく、エリュティアにて待機している卜部は、ユーフェミアの言に対して、そう思うと先頃のやり取りを思い返す。
◆◇◆◇◆
決戦から3日。
旧日本解放戦線と袂を分かった黒の騎士団であったが、勝利を得た以上はその歩みを止める事は許されなかった。
サイタマゲットーでの一連の戦いによって消耗した戦力を回復するため、鹵獲兵器やKMFの補修、完熟は急ピッチで進んでいる。
そこに加え、各地から合流してくるレジスタンスや義勇兵達を迎え入れ、さらには組織に組み込む作業が求められていたのだ。
そして、三陸沖にて日本海軍に保護されていた人物が、ブリタニア側の索敵網をくぐり抜けてようやくサイタマの地に到着しようとしていた。
地方に散った騎士団員達にはレジスタンスとともにレーダー基地の占領を命じており、決戦を前にした頃と比べれば自由度は上がっていたが、今回の人物は絶対にブリタニア側に露見してはならない人物であるというだけに慎重に帰している。
袂を分かったばかりの旧日本解放戦線に対してルルーシュが土下座をして山岳鉄道を利用しようとするほどであっただけに、情報を知らされていない卜部にも予測は付いた。
「それじゃあ、リヴァル君も知らねえのか」
「そうなんですよ。ドロテアさんは知っているみたいですけど、教えてくれないですし……」
「お前さんにも秘密ってなったら、逆に特定しやすいんだけどな」
「まあ、俺もなんとなく予想はできますからね」
出迎えに際して、幹部クラスに召集が掛かっている事からも大半の人物が予想は出来ているだろう。
ゼロの正体を知り、彼が何のために戦っているのかも多くが知った。
だからこそ、彼が隠し立てをしてまで迎え入れようとするブリタニア側の人物など一人しか居ない。
それこそ、幹部クラスで気付いていないのは玉城ぐらいであろう。当の玉城は出迎えよりも貴賓室の清掃を命じられてなぜか張り切っていたが。
「玉城が雑用好きとは思わなかったな」
「ああ見えて料理とかも上手いんですよ。酒とかワインとかを闇とかから調達して来たりでドロテアさんとか、それこそ藤堂さん達も評価していました」
「口では文句を言っているが、案外主計官僚とかが適所なのかもな」
当人は官僚志望という話を聞いたときは耳を疑ったが、仕事ぶりを見ると扇グループも案外人材が揃っていた事に卜部は素直に驚かされる。
紅月ナオトの存在によって成り立っているグループという印象しかなったが、彼等がゼロと出会ったことは必然だったのかも知れない。
そんな事を話しつつ、地下道を出て旧さいたま新都心公園へと向かうとすでにルルーシュはナナリーやミレイとともにやって来ていた。
エリュティアが不時着する場として、瓦礫まみれの周囲にあって唯一整備されている。
ゲットーに住む者達も子ども達が遊べる場所だけは失いたくなかったのであろうか。その後、ジェレミアの宥和政策によって芝生も取り戻されたという。
「こちら卜部、周囲の警戒を怠るなよ」
『了解。解放戦線の誇りに賭けて』
今回、卜部ともに騎士団に残留した旧解放戦線の兵士達は今回の警備を買って出ていた。戦力の回復途上にある騎士団に対し、戦力を維持できた卜部の指揮下にあった者達はちょうど手空きであったのだ。
当然だが、彼等の見えぬところには篠崎咲世子に率いられた篠崎流の手の者達がそれこそ蟻の入り込む隙も見せぬよう警戒に当たっているのだが、当主に関しては当然のようにメイド姿でルルーシュ等の背後に控えている。
「来たようだな」
そして、他の幹部達が集結したのを待って居たかのように上空に現れたエリュティアがゆっくりと地上に向かって降りてくる。
周囲には、決戦に際してエリュティアと攻防を繰り広げた三機のKMFが警戒に当たっている。
本来であればルルーシュの傍らに居るべきであり、彼が最も信用し、最も大切にしているであろう四名のうち、三名を送り込んだことが件の人物に対する思い入れを表しているだろう。
卜部としては、一瞬目に映ったナナリーとミレイの表情は見なかったことにしようと心に誓ったのだが。
そして、ゆっくりと地上に降り立ったエリュティアが起こした砂埃を受けつつも、手早くタラップを設置すると卜部は陸の責任者で遭ったと言う事で急遽呼び戻された刑部の傍らに立ち、それに続くように永田、吉田、堀内少佐、大場大尉といった日本人幹部が並び、対面するようにブリタニア側は、タラップの傍らに乗機から駆け下りてきたジェレミア、ドロテア、モニカが並び、その後に近衛騎士達が並んで行く。
所謂栄誉礼というものであり、本来であれば儀仗隊が担う役割を幹部達が代行する形で礼を尽くす。
日本とブリタニアの軍事の責任者達を左右に配し、正面からルルーシュ、神楽耶、カレンの三人が出迎える形を取る。
桐原やナナリーと言った内政側を担う人物達は三人の背後に控える形だった。
そして、開かれる搭乗口。
ジェレミア、ドロテア、モニカ三人が慣れた動作で片膝をつき、左胸に手を添える形で最敬礼を取る。
それにブリタニア騎士達が流れるように続いていき、ミレイとソフィーの動作に並んでいたシャーリーとリヴァルも慌ててそれに倣った。
「捧げっ、銃っ!!」
刑部の鋭い声が轟き、そこから「敬礼っ!!」の声に全員が倣う。
日本とブリタニア、双方の形式が整ったところでタラップに迎えられた人物が姿を見せた。
かつては、腰の辺りまで伸ばした鮮やかな長い髪と左右のシニヨンが特徴的であったが、今は髪を下ろし、それも肩口で切り揃えられている。
表情も、かつての朗らかな平和を愛する少女と言った風貌に陰りが見え、疲労の蓄えられたそれに見える。
そして、ゆっくりとタラップを降りてくる彼女。
その背後に間隔を空けるように搭乗口で待つ三人の男女。普段であれば、それは当然の光景のように思える。
ただし、今日ばかりは様相が異なっている。普段、彼女に付き従う3名の男女。男2人と女1人という組み合わせが、男1人と女2人という構図に変わっているのであった。
そして、女―少女と呼ぶべき年齢である彼女は明らかに重傷を負っている。
「此度の私どもの受け入れ、感謝いたします。皇神楽耶様、紅月カレン様、そして……ゼロ。日本、そしてブリタニアの皆様」
タラップを降り立ち、一礼した彼女―ユーフェミアは弱々しくも凜とした声でそう告げる。仮面を付けたルルーシュに対しては一呼吸置いてゼロと呼ぶことも忘れなかった。
日本側の三名がそれを受けて頭を垂れると、刑部に伴われてユーフェミアは3人の元へと向かう。
そして、ようやく搭乗口に居た3名も彼女に続き、中に居たブリタニア兵達も姿を見せる。
少女―アーニャ・アールストレイムの重傷が目立ったが、傍らに居たロイド・アスプルントとセシル・クルーミー。後に続くブリタニア兵達も一様に傷を負っている。
卜部はジェレミアを視線を交わし、流れるようにゼロ等に視線を送ると、彼も当然というように頷く。
「ユーフェミア皇女、出迎えに際し、少々騒がしくなることをお許し頂きたい」
「はい。お手数を掛けします」
「聞いたとおりだ、皇女の出迎えは我々が担う。諸君は皇女の臣下達を救え」
「承知っ!! 負傷者の収容を急げっ!! くれぐれも、皇女殿下に失礼が無いようなっ!!」
卜部の言を受け、居並ぶ将兵達が駆け出すと、用意されていた担架や医療用具が運ばれてくる。
後方に控えて居た医療関係者や心得のある者達も即座に駆け付けてくる。
形式に拘っている場合では無かったが、それでも建前は必要であった。こうした状況を作り、ブリタニア側に礼儀を尽くした上で救助にも全力を尽くす。
都合の良い場面を取り出して編集した影像を流すのは咲世子指揮下の情報部隊、とりわけ、ディートハルト・リートにとってはお家芸である。
「待って、私もルルーシュ様に……」
「馬鹿を言うな。お前の忠義は殿下は見ておられる」
担架に乗せられようとしても、ルルーシュに拝謁しようとするアーニャをジェレミアがやんわりと宥めている。
旧知であるとは聞いていたが、どこかそれ以上の関係もあるように卜部には感じられる。もちろん、男女と言うよりは家族や兄妹のそれであるが。
「ジェレミアも妹が居るって言っていたな」
「どうした?」
「いや、年下の扱いに慣れているなと思ってな」
負傷者の手当てや収容を手早く行い、一息ついた卜部の呟きに側に吉田が首を傾げると、ジェレミアとアーニャ、ルルーシュとナナリーへと視線を向ける。
「べったりな主従だとは思っていたけど、そう言う共通点か。南とは話が合いそうなんだがなあ」
「は?」
「いや、こっちの話だ。それより、俺は玉城への引き継ぎがあるから行くが、どう説明しておけば良い?」
「粛清され掛かった主義者達だといっておけば良いんじゃないか? ジェレミア達の前例があるしな」
「……やはりそうだな。しかし、不思議なものだな」
「なにがだ?」
「玉城だけじゃ無く、それまでブリキと罵っていた俺や他の連中が、少なくともブリタニア人と言うだけで敵対心を持たなくなった事がさ……。はじめは、いけ好かないガキだと思ったし、玉城が信用したとか言い出したからどんなペテン師だと思ったけど」
「ペテン師なのは変わらないだろうよ。おかげさまで、俺の上司は冷や飯食いだ」
「たしかにな。ただ、こう言うペテンなら悪くない」
それまで話したこともなく、口数が少ない印象だった吉田だったが、素人にしては部隊の統率力などはたしかであり、案外饒舌にしゃべることを初めて知ったと同時に、どこかで自分達プロの軍人と比べて見下す面があったことを卜部は自覚せねばならなかったな。
「…………やはり、ケジメは付けなきゃならんな」
「なんだ?」
「いや。お姫様達のお守りだからな。色々と大変だと思ってな」
「そこら辺はプロに任せるしか無いな。玉城だけじゃ無く、俺だって場違いだ」
そう言って笑い合うと、吉田と別れて卜部は首脳達が戻っていった地下区画へと足を運んで行く。
「遅くなりました。負傷者の収容、及び身元確認はすべて完了いたしました」
「ご苦労。ユーフェミア殿下は湯浴み中だ。貴公も楽にしていろ」
「卜部、迅速な手配に感謝する」
神楽耶が私室として利用している応接室に隣接する作戦室である。隣にはルルーシュ等の私室が有り、幹部クラスが勢揃いするのはこちらになっている。
刑部も袂を分かつ形にはなっているが、それはあくまでも名目上のことであり、危急の自体にはこうして合衆国日本の一員として足を運ぶ。
迎え入れられたユーフェミアは、女性と言う事もあり、相応の用意が必要になるのであろう。
現状、進めねばならない問題は山積していたが、幸いなことに今は最高首脳と一部の学生達が部屋に居る状況でもある。
「その前に一つ、申し上げておかねばならないことがあります。閣下、ゼロ……」
その言に、それまで簡易の執務を続けていた刑部の手が止まり、顔を上げる。
そして、今後の打ち合わせも含めて室内には、刑部と卜部の他、ルルーシュ、神楽耶、カレン、桐原、ドロテア、モニカ、ジェレミア、咲世子と言った現状の最高幹部達とカレンの補佐として永田、ルルーシュの側近という立場のナナリー、シャーリー、ミレイ、リヴァル、ソフィー。
そして、シュタットフェルトの姿がある。
吉田も含めて、日本人の上級幹部やブリタニアの騎士達がいない今しか時は無かった。
「君がコーネリアと通じていたことについてか? 卜部」
そして、卜部が口を開くことを待たず、モニカに視線を向けたルルーシュが口を開く。
一瞬の静寂。
それが何を意味するのか、皆、即座に理解したのだが、理解することを拒む。
「それも含めて、中々の活躍だったな。卜部」
「皮肉か? ゼロ」
そんな室内の者達と異なり、不敵に微笑むルルーシュに対し、卜部は瞑目したまま答えると、腰に下げていた軍刀をドロテアに対して投げ渡す。
沈黙のまま受け取った彼女に対し、視線で介錯を頼んだつもりだった。
それを受けてか、ドロテアはさも迷惑そうに瞑目したまま首を振る。
「コーネリアがこちらの動きを完璧に読み取っていた事ぐらいは想定済みだ。おかげでこちらもカレンの将器を表に出すことが出来た」
「は? どういうことよ?」
「そうだな……、俺の働きなんかなくても読んでいたさ。わざとだったんだろ?」
「ちょっと、質問に答えなさいよっ!!」
「落ち着けって。要するに、俺達はルルーシュと卜部さんのペテンの中で戦っていた。そう言う事だろ?」
ルルーシュと卜部の不敵なやり取りに、なぜか槍玉に上げられたカレンは硬直から脱して、目を丸くするも彼女を無視して会話を続ける双方に対して声を荒げる。
だが、ルルーシュが言わんとしていたことはカレンを宥めつつ核心を突いたリヴァルに言われてしまっていた。
「見返りはなんだったんだ?」
「単純な話だよ。家族の保護と妹の命を助ける。それだけの事さ」
「それでわざわざ藤堂を勝たせたのか? ずいぶん、回りくどい事をしたモノだな」
「それに関しては、そこに居るモニカさんに聞いてくれよ」
「これは異な事を。貴方が提案したのではなくて?」
「さあな」
家族、そして妹と言った卜部の言に、一瞬ルルーシュが表情を硬くしたが、卜部が関与した謀略が数年に渡っていたことに肩をすくめている。
今回、ルルーシュがコーネリアを出し抜くために積み上げた謀略も相当な手間であったのだが、それでも準備期間は数ヶ月ほど。
年単位で、しかも攻略したエリアに希望を与えておくほどの謀略にどれだけの価値があったのか。
ルルーシュだけでなく、桐原や刑部もある程度の読みは出来ていたが、それを口にしてしまえば彼等の面子はズタズタであろう。
実際、苦い表情を浮かべる桐原と刑部の様子がすべてを物語っている。
卜部に責任を押し付けられたモニカも苦笑いしている様子から、彼女も多少は関与しているのであろうが、口にすればただの挑発にしかならない事は彼女も分かっているのだ。
しかし、表情のしたで繰り広げられる暗闘に瞑目しつつも、表にさらけ出すべきだと考える者も居る。
「ご老体、屈辱は分かりますが、今こうして私どもはブリタニアに勝利したのです。ルルーシュ様やエルンスト卿等のお力添えがあったとは言え、屈辱を晴らしたこともまた事実。卜部さん、詳細はすべてお話しなさい。それが、恩赦の条件ですわ」
敗戦以来の八年間、最も屈辱に満ちた人生を歩んできたであろう皇神楽耶にとっては、これまでの抵抗そのものが、“ブリタニアにとっては皇位継承争いの贄”でしか無かったと言う事実等、屈辱に多少の上乗せがある事に過ぎなかった。
そして、瞑目しつつも有無を言わせぬオーラを纏った神楽耶の言に、卜部は居住まいを正すしかない。
モニカも瞑目して額に手を当て、自身の軽率さを恥じて居るようにも見える。
ただし、“恩赦”と言う言葉が神楽耶の口から出たことで、ルルーシュを初めとする室内の者達が安堵したことも事実であった。
とは言え、卜部自身がそれに縋る資格は無いことも自覚していた。
「申し訳ありません。神楽耶様。私が家族の安全と引き替えに行った行為は、藤堂中佐を英雄に仕立て上げること、そして、コーネリア・リ・ブリタニアが総督としてエリア11に着任するまでの間、その名声を保ち続けることにあります」
「抵抗の象徴。いえ、最後の切り札的存在として日本人の抵抗心を煽る。たしかに、私どもも藤堂中佐に対しては重きを背負わせてしまいましたね」
「ええ。着任したのがクロヴィス総督であった事が幸いしてか、勝利こそ無くとも長き時を抵抗を続けさせることは可能でした」
「それだけではなかろう? 藤堂がここ一番で攻めきれぬ事が幾度かあったが、それも貴様が阻んでいたと言うのか?」
卜部と神楽耶の会話は固く結ばれ、絡んでしまったひもを解くように丁寧なモノであったが、陸の戦いを統括していた刑部の言にはやはり棘が目立つ。
キョウトとの関係も深かった卜部が片瀬や藤堂を巧みに操っていたと言う事実が明るみに出たとなれば、勝利の機会をいくつも逃してきたと言う事でもあるのだ。
「初めのうちはそうです。でも、敗北の大半は本当に敗北ですよ。藤堂さんは軍人と言うより武人です。個人の武勇で戦果を上げられても、軍団としての勝利を得るのは簡単じゃない。それは片瀬閣下達の仕事ですしね」
「むう…………」
卜部自身もただの内通者で居るつもりはない。情報を流しつつも、巧にブリタニアから情報を得ても居た。
当然、役に立たない情報が大半で有り、軍としての体裁が整っていなかった解放戦線が最終的に勝利を得ることなど不可能な話。
モニカが関わった謀略によって優秀な将帥や参謀達が軒並み排除されてしまった以上、武人である藤堂には限界があるし、卜部や仙波とて一介の軍人でしかなく、彼が実力を発揮できるように補佐をするのが限界だった。
卜部としては、大半の敗戦に関しては自分一人の責任ではないと言う思いもあった。
最終的な勝利を妨害することが家族の安全と引き替えに交わした密約であり、藤堂を英雄で有り続けさせることの方が困難であった事は事実でもある。
クロヴィスを補佐するバトレーは堅実な軍政家。政治経済に不敗が蔓延っていても、純血派を中心とした軍自体は精強であり、片瀬や草壁と言った日本軍人達は頼りにならない。
そんな背景も含め、藤堂自身が“奇跡”と言う名に潰れかかっていたのである。
「幸い、ゼロがクロヴィス総督を討ち取ったことでコーネリア総督の着任が現実になった。俺の役割はほとんど終わったはずなんだけどな」
藤堂達を死なせることはなくとも、最終的な敗北となればコーネリアはエリア11の反乱を鎮圧したことになり、エリア18等を初めとして彼女の功績がまた一つ積み上げられることになる。
卜部に対して密約を持ちかけた者達からすれば、安い代償だったのだろうし、卜部からしてみても勝利は本当に“奇跡”が起きなければ望むべくも無い状況である。
藤堂自身がどう思うとしても、敗れた相手がコーネリアであれば彼の名声も傷は付かない。
「それで、絵を描いたのは誰だ? 窓口はおそらくダールトンだろうが、ヤツとてそこまで回りくどい謀略は描けないだろう」
ルルーシュの問い掛けに意図は分かる。
あくまでも将軍として、武人としてあろうとするコーネリア、彼女の騎士である事以上に自身の存在価値を持つ気は無いギルフォードに対して、ダールトンは謀略面も担う異才である。
とはいえ、本質的にはコーネリアと同タイプの将軍で有り、武人である男。ここまでの謀略を描くぐらいであれば戦場での勝利を積み上げることを選ぶ。
彼であっても、コーネリア陣営の大物として上がるのはこの3人だけであるのだ。それだけ、彼女の人生もまた後継者争いという別の戦場にあっては惰弱であった。
「誰というのは無いよ。俺に話を持ちかけてきたのもどこの貴族かも分からないブリタニア人だったしな。単純に、コーネリアに継承レースを優位に運んでもらいたい勢力の安い謀略だったんだろ」
「上位継承者達にとっては、我らの命運はしょせん継承争いの贄でしかない。ふん、情けない話よ」
卜部の言に、苦渋と不敵さをいり混ぜた笑みを浮かべる桐原であったが、これがブリタニアと日本の現実でもある。
厳島で藤堂に一敗血に塗れた事で、西方から攻め寄せたシュナイゼル軍の名声は大きく傷付いている。
さらに、最有力だったオデュッセウスも太平洋方面で日本海軍に苦戦したことで利を得たのは残りの皇子皇女達である。
年長の三人に対してスタートが遅れたコーネリア派からしてみれば、勝利を前提にして上で兄達の失策を導き出したかったとも言えるだろう。
「なによ、それじゃあお兄ちゃん達が必死に戦っていた間も、アイツらにとっては遊びみたいなモノだったって言うのっ!?」
「クロヴィス殿下が台頭しない為の道具であった事は事実であろうな。元々、クロヴィス殿下は皇位継承には興味が無く、ルルーシュ様達の仇討ちが目的であったが、それでも競争相手は警戒する者だ」
そこまで聞いていて激昂しかけたカレンだったが、隣にいたシュタットフェルトが宥めるように肩を掴むと、身体を震わせつつも怒りを静める。
変に卜部達が取り繕えば拳が飛ぶ事態になったかも知れなかったが、身内の隠すことのない発言になればそれ以上の激発が殺がれる。
とはいえ、カレンだけではなく、冷静な永田もまた、突き付けられた現実に表情を歪ませている。
彼の家族は、そんな皇族達の継承争いの犠牲になったとも言えるのだ。
「であれば、俺達にそれだけの時間を与えた報いを受けるときが来たと言うことだ」
そんな空気を察してか、ルルーシュは不敵に笑いつつも声高にそう告げる。
「幸い、卜部の内通もこちらに致命傷を与えるモノでは無かった。むしろ、俺としてはお前が上手く立ち回ってくれたおかげで原野にコーネリアを引き出せたんだしな」
「こっちは死ぬ思いだったんだけど?」
「人が死なない作戦を立てるのはいくら俺でも無理だ。腹は立つかも知れないが、必要な事だったと受け止めて欲しい」
「それは分かっているつもりだけど……、私はともかく、シャーリーやリヴァルまで危険な目に遭わせてあんたは良いの?」
「ふえっ!? 私??」
「俺も??」
「カレン。今さらだが、二人だってお前と同様に命を掛けて戦っている。特別扱いは失礼だぞ?」
「……そうかもね。でも、単純に割り切れと言っても無理よ。私だけじゃない、生き残った連中だって勝利を喜んでいるけど、それでも」
8年間の苦悩が継承権争いの道具であった事が事実であったとしても、それだけの時間があったからこそルルーシュの登場と反逆の嚆矢が撃たれることになった事は紛れもない事実。
それだけの積み重ねがあった上での勝利が有り、生き残った将兵の意気は大いに上がっている。
だが、事実を突き付けられた幹部クラスは受け止めなければ成らない事実も存在している。
特にカレンはルルーシュに半ば強引に祭り上げられている立場。それだけ納得出来ない要素が多いだろう。
とは言え、指導者になることへの啖呵を切った以上は背負わねばならないことも増える。
「そうだろうな。神楽耶様は恩赦を口にされたが、俺としてはみんなを騙してきた責任もある。温情には感謝いたしますが、相応の罰は受ける覚悟です」
「何を申すかと思えば。責任を取りたければ、戦ってお死になさい」
カレンの言や先ほどまでの吉田達の事を考えれば、自分のやった事は許されることでも無いだろう。と卜部は思う。
家族を大事にブリタニア側に組みしたことは事実であるし、これからのブリタニアの戦いに関しても、協力してくれるブリタニア人達との間に不和を産みかねなくなる。
そう考えたのだが、名実共に合衆国日本の指導者となった神楽耶の口から、卜部に対する処分は出て来なかった。
「我々はブリタニアに勝利したのです。歴史に残るのはこの事実のみですわ。そこにどんな謀略があったにせよ、勝利の事実は揺るぎませぬ。そして、戦いはまだ終わっていません」
そう言われたところで項垂れるしかない立場でもある。
実際、カレン達は納得いかない気持ちも強いのが手に取るように分かる。しかし、神楽耶の言の通り、そのような事実は残らない。
いや、残らないかどうかは今後の行動次第だろう。少なくとも、情報漏洩以外に日本にとってのマイナスはほとんど無い。
戦場において、情報以上に重要な要素があるかと言われれば否であるが、その罪も背負い受け止めるべきと言うのであろうか。
「ルルーシュ様、皆様もよろしいですわね? 卜部少尉の情報漏洩は重大なる軍規違反でありますが、彼はコーネリアとの決戦に際してもともに戦場に有り、奮戦し、勝利の一躍を担った。それを以て、これまでの罪を皇神楽耶の名において恩赦致します。よろしいですわね?」
そして、一息つき、口を開いた神楽耶の言にルルーシュはゆっくりと頷き、それを見た神楽耶は卜部に対する恩赦を告げると、改めて幹部達へと問い掛ける。
「よろしいですわね?」
そして、無言で顔を見合わせる幹部達に対し、有無を言わさぬ声色で再度問い掛ける。
そんな神楽耶の言に、当事者であった卜部を含め、皆が皆、背筋を伸ばして頷くしかなかった。
新生日本の当主は、すでにその地位に甘んじ無いだけの君主へと成長しはじめていたのである。
「見事でございますね。私も神楽耶様の如き差配を身につけたいものです」
そして、一つのケジメが付いたその場に、静かに透き通った声が響き渡る。
ゆっくりと開かれた扉から、しっかりとした足取りとで入室してきたのは、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
この場においては、付き従ってきたロイド、セシルとともに、ブリタニア本国で起こった変事を知る数少ない人物であった。
少し時間がずれていまい申し訳ありません。
話の冗長になってしまっており、中々先に進まず申し訳ありません。
「ルルーシュの代わり」としてのユーフェミアというのは予想が付いた方も多くいらっしゃると思いますが、原作での行動や本作での行動なども含めると、彼女はルルーシュと道を同じ来ることが正解だと思った結果になります。
また、唐突感はあると思いますが、卜部に関しての設定は一度没にしたのですが、長期間投稿が空いた分を読み返した見たところ、今回の話で語った設定を蒔いてしまっていた事に気付いたため、再度話に組み込ませて頂きました。
ユーフェミアが何を語るかを先にするべきだったとは思うのですが、今作ではこれだけ切れる彼が、原作の設定では「使えない情報ばかり集めてくる」事と「ルルーシュに後事を託して散った」理由を勝手にアレンジしてみました。
「日本を救ってくれる」と言う単純な理由だけじゃ無いという勝手な思いからでもあります。
次回の投稿も出来るだけ間隔を空けずに投稿できたらと思っておりますので、簡潔に向けて今後もお付き合い頂けたらと思いますのでよろしくお願いいたします。