いちおう、生きていました。(投稿=生存報告)
「教えてくれないかしら……」
儚く、どことなく悲しみを含む声。瞳にも同じ感情を乗せて私を見つめる。
「そうね、どこから話せば良いのやら……」
かくいう私は少し困り気味でいました。実の所を言うと、カマを掛けていただけなんです。
確信を得ているかと言われたのならば、それは微塵もありません。ですが、ある程度話を聞いたら1つの仮説が浮かび上がってきたのです。
それはとても単純なものです。人の目に触れない瞬間を突いて咲夜は変装し、もう一人の自分を置いたのです。そう、分身です。
彼女には並の人間を超越した能力がありました。ただでさえハイスペックが過ぎますが、何よりも彼女を彼女たらしめる証があるのです。それが時間を操る能力です。この能力が意味する所は言うまでもありません。任意のタイミングで時間を停止させたり、加速させたりする代物です。
「一瞬だけれど、咲夜には誰にも見られていない時間を作る事ができた。騒動から今に至る経緯を話してくれた際に、その箇所が1つだけ存在していたわね。フランとこの子の視界を遮れば、咲夜だけになる。その一瞬、時間にして数秒程度かしら……貴女にはこの一瞬の隙ができれば、後は時間を停止させて犯行に及んだって所ね。能力の応用次第で分身も作れる事から、咲夜以外に犯人は居ないのよ。でも、その犯人が自ら溶けて消えてしまい状況を更に混乱させる。まるで、犯人は別にいる……そんな展開にまで持っていこうとしたのは、ちょっぴり感服ね」
自分が主犯と分かってしまうような、そんな稚拙なやり方をこの瀟洒極まるメイド長がやる訳がない。ひと手間、ふた手間掛けて架空の犯人像を作り上げるくらいはやってのける。完全犯罪もお手の物である。やるならば徹底的に完璧に。それが十六夜咲夜だ。だからこそ、腑に落ちない。
「概ねその通りです。さすがパチュリー様と言った所。この程度であれば推理する必要もないですよね。朝飯前と言った所でしょう」
「だからこそなのよ、咲夜。なんで貴女はこんな事をしたのか、まったく腑に落ちないわ。話せる事は話したわ。だから今度は私の番、教えてくれないかしら? 動機を知りたいの」
「動機、ですか……。割と単純ですよ。新しいエンターテインメントをお送りしたい、そう思っただけです」
「なるほどね。確かに単純な動機だわ。でも、それにしては小細工が拙かったわよね。時間に常に余裕のある咲夜にしては、らしくないったらありゃしないわよね。よほど、何かに追い詰められるような事でもあったのかしら?」
「いえ、これもまた単純な事でして。材料調達が間に合わなかったのです」
「……は?」
腑に落ちそうだが、腑に落ちなかった私でした。
動機はなんとなく理解できた。でも、調達が間に合わなかったとはこれ如何に? 咲夜なら時を止めてでも調達を間に合わせられるように帳尻合わせはお手の物な筈である。
「恐らく疑問に思っているでしょう」
「いちいち言わなくても思ってたわよ。……んで、納得のいく理由があるんでしょ?」
「ええ、ございます。それを調達する……というよりは、流れ着いた物から探し出さないといけませんでした」
「と、言うと?」
「無縁塚をご存知でしょうか?」
無縁塚。そこは幻想郷と外界、更に法界や冥界、天界等の数多の世界が折り重なった場所、特異点とも呼んでいる。忘れられた存在達が最後に辿り着く場所であり、謂わば墓場でもある。
「確か外界から存在を忘れられた物達が流れ着く場所よね。まぁ、あんな場所だから物探しには一苦労するでしょうね」
「一応、付近に住み着いてる鼠娘にも協力を仰いだのですが、見つからずじまいだったのです。」
「でも、それとこれとは何も関係がなくないかしら?」
「いえいえ、少しでも時間稼ぎに……と思って、最後の悪あがきをしていたって所ですかね」
「咲夜らしくない采配ね。そこまでさせる程、よほど必要不可欠なものだったのね」
「そう……ですね」
いつもの澄ました顔ではない、曇らせた顔の咲夜がそこにあった。
ここまで話を聞いて、私は益々腑に落ちないでいた。でも、それと同時に咲夜をそこまで杜撰な振る舞いにしてしまう物の正体が、気になってしょうがない。まだ色々と聞きたい事はあるけれど、時間は有意義。いつまでもだらだらとしていると、咲夜が骨になるまで引き伸ばしかねない。……魔女たる私には関係ないが、咲夜が仕える我儘お嬢様な友に申し分がないの。
「ところで咲夜、貴女をそこまでさせる物ってのが気になって仕方がないの。この際、はっきり言ってもらえないかしら? 気になって眠れそうにないわ」
「すみませんパチュリー様、流石に申し上げにくいと言いますが……」
「何をもったいぶる事ないでしょうに。というよりも、この騒動の主犯は貴女なの。洗いざらい吐き出してもらわないと納得がいかないのよ。騒動の原因がわからないまま、あやふやにして片づけるのは研究者たる私としては嫌。レミィだって納得しなわよ?」
「お嬢様が……納得しない?」
「そうよ」
私と咲夜以外の声が割って入る。
「割と手短に済ませてくれると思っていたんだけどねぇ……。長いわよバーチェ」
「どこぞの時空で極太レーザー砲をまき散らしてそうでいて、私の事を罵倒しようとしたけど寝起きで呂律回ってないのか、開口早々寝ぼけた事を言わないでもらえないレミィ?」
大あくびをかきながら寝ぼけた事を抜かしたレミリアがいた。
「うむ、眠気覚まし代わりの長ツッコミご苦労様。口が妙に冴えているじゃないの」
「腑に落ちない状況に、余計な事をしてくれる大変ありがた迷惑な存在が来たからね。虫の居所がかなり悪いわ」
「あら大変。そんな悪い虫は私がやっつけちゃうんだから」
「アンタの事よ!」
てへっ。と、舌を出して自分の拳で頭を小突くレミリア。あざとい、実にあざとい。あざとさが極まって、私の怒りのボルテージが限界突破しようとしてる。でも、ここは耐え時。咲夜から納得のいく説明を、
「痛たたたっ!?」
レミリアが突然、右腕を振り回しながら悲鳴を上げた。よく見ると、その腕には何かに噛まれた跡がついている。……人の歯型であった。だが人の歯型にしては犬歯の部分が深めに刺さったのか、2つの点の傷口となっている。まるで吸血鬼にでも噛まれたかのようだ。
レミリアの様子を観察していたから気づけなかったが、当人の背後に同じ背丈の少女が1人立っていた。どことなく虚ろ気な緋色の瞳、背中には歪ではあるもの美しい七色の結晶体。それが対となって存在する羽。
「止しなさいフラン! 痛いでしょ!?」
「んー……いちご大福が喚いてる……」
フランであった。
睡眠魔法の効果が薄まりつつあるからであろうか、意識がやや朦朧としている。今の彼女には、レミリアがお菓子に見えている様であった。懲りずに噛みついた箇所に再び噛みつく。そして再び上る悲鳴。この姉妹、コントをしに来たんか。
事態がややこしくなる前に二人を眠らせる。お互いに激しい攻防を繰り広げている隙をつき、睡眠魔法を唱える。すると、あっけもなく深い眠りについた。次は半年くらい起きない程の効力で、念には念を入れる。
「余計な茶番が入ってしまったわね。話を戻すわ。貴女がそこまでして探してた物って、一体何だったの?」
「……ロケットに関する資料よ」
咲夜の口から出た言葉に、嫌な記憶が蘇った。
かつて、私達紅魔館組(個々の名前は略称させて頂きます)は月に行った事がありました。冗談ではなくて、本当に。
んで、月行ってなんかよくわからん姉妹にきっちょんきっちょんにされてトラウマ植え付けられて、我が家に戻ってきました。月面旅行を甘く見ていました。
以降、この事については誰も口にしていません。
どこぞの書物によれば、私達の行いは第二次月面戦争と呼ばれ語り継がれているらしいです。
「まさか、また月に殴り込みに行く気だったの?」
「いえいえ、そういった訳ではございません」
「なら何なのよ?」
「……新しい催し物を準備していたのよ」
★
『退屈だわ……新しい刺激が欲しいのよ』、その一言が何よりも重く響いた。
春風薫るバルコニーでお嬢様は飲みかけのティーカップをテーブルに置き、静かにそう仰ったのでした。
「新しい刺激?」
「そう、新しい刺激よ。ここ最近は何の異変も起きやしなもの……霊夢の所に行っても冷たくあしらわれるし、退屈なのよ。誰も何もかも私にとってつまらないものになってきたものだわ。世も末よ」
「世も末ではないでしょう」
呆れた私はお嬢様の発言の、主に最後の部分を否定しました。世紀末をこの方は見たとでも言いたいのでしょうか。真相はお嬢様のみぞ知りますが……
「5度ほどは見ているわ。どれも辿った末路は似たようなものばかりだったわ。故に私は退屈なのよ咲夜」
「確かに、お嬢様は私の生まれる前の世紀の末をご覧になってきてましたね。とはいえですよ、5度程度で物申すのは些か軽率なのではないのでしょうか?」
「……何よ、不満?」
ふくれっ面を見せるお嬢様。
「不満ではないのですが、あの胡散臭い妖怪よりは経験という点では私達は劣るでしょう……不愉快ですけれども」
「ぐうの音もでなくなるから困るのよね、そういうの……」
お互いに肩を落とす。気まずい空気と静寂が漂い始める頃に、私は口を開いていた。
「それならば、新たな催し物を考えてみませんか?」
「何か案はあるのかしら? うまくいった試しがないような気がするのだけれど」
「そうですね……あるにはあります。ですが、まだお嬢様にお伝えできるほどの案は残念ながらご用意できていないです」
「あら、残念だわ。詳細を聞きたかったのだけれど……まぁ、いいわ。とりあえず、整理がついた頃に伝えて欲しいわ。くれぐれも、私を幻滅させる事だけはやめてよね」
「ええ、もちろんです」
だって私はお嬢様に仕える瀟洒なメイド、十六夜咲夜ですから。
★
「でかい口を叩いたものは良いもの、具体的な案は決まっていなかった。でも、レミイの前では虚勢を張ってでも成し遂げようと無茶していた途中だった訳なのね」
「仰る通りです」
で、咲夜の目論見は勘の鋭い私にバレてしまい白状しちゃったって訳。
もうどうにでもなれ、と言わんばかりの顔が表に出ているのは無視した私は一つ提案をすることにしました。
「この際、時を巻き戻すってのはどうよ? そんな時にこそ活きる能力だと思わないかしら?」
「そうですね、そうしましょう」
「お、そこは嫌ですとか言わないのね。てっきり『時間がもったいない』とかでも言うかと思ったんだけど」
「皮肉にしてはもう少しまともな表現というのはなかったのかしら…」
「なんたって魔女だからね」
「納得のいかない理由ありがとうございます。引きこもり過ぎて降り積もった埃臭がいい塩梅ですよ、パチュリー様」
「あら言ってくれるじゃない…!!」
お互いに隙あらば悪口を言い合うこの不毛な争い。果たして、誰得だというのでしょうか? きっと言うまでもありません。でも言っちゃいます。そんなのは無いに決まってるのです!
「咲夜、もう止めにしましょう。こんな茶番に付き合ってるほど私も暇ではないの」
「今更言いますか…? 今この瞬間、このやり取りこそ『時間がもったいない』です。それにきっと内心では『とにかくそれを言わせてみたかっただけ』とか思っているのでしょうね」
「勘の鋭い人は嫌いよ」
「レミリアお嬢様のお世話をしている賜物です。そのようなお方に貴女様は世話になっているのです。もう少し感謝があっても良くては?」
いつの間にやら咲夜の犯行動機の話から、悪口に変わり、感謝をするように強要されているではありませんか。あれ、なんか趣旨変わってなくない?
日頃の鬱憤が溜まっていてもおかしくない量の仕事を毎日一人で請け負っているからこそ、普段レミィ・フランの前では言えない本音をレミィの友人で居候の身分である私に吐き出している。そう考えると、私は納得した。いや、してしまったのだ。
気づいてしまったのだ。自分の置かれている立場というものにも。
私は今、嫌な汗をかいている。理由は目の前にいる十六夜咲夜である。ただ、それだけだとまるで意味が分からないと思うでしょう。ええ、当然です。勘の良いガキなら気付いて錬金術で亀甲縛りでもするでしょう。
「咲夜、一言だけ言わせもらうわ」
「感謝以外の発言を私は認めません」
「辛辣ね、でもここは貴女の発言を蹴ってまで言わせてもらうから!」
私の瞳に闘志が宿るのを感じる。この発言を喉奥に引っ込めてしまうと、真っ赤に燃え盛る拳(火の魔法が勝手に発動してた。ナニコレ怖い)が勝利を掴めないと吼えているから。
一歩、力強く踏み出す。深く息を吸う。全身に酸素と魔力が巡るのを感じたら、拳を前に突き出す。真っ赤に燃え盛る拳は咲夜の鳩尾に吸い込まれていく。
「時間がもったいないんだぁぁぁぁっ!!!!!」
その日、幻想郷に巨大な火柱が立ったという話で持ち切りになった。
ところで、パチュリー・ノーレッジは魔女である。
「どうした急に?」と、思うでしょう。私もそれは同じなのです。うん、まるで意味が分からないわね。閑話休題。
魔法について日々研究に取り掛かっているものでして、気付けば人間やめているし魔女と呼ばれるようになっていた。
だからなのでしょうか、『凄まじい知識量がある』と勝手なイメージがついてしまったのかもしれない。探偵依頼が来た時は、そりゃもうお断りしたわけなのよ。でも、依頼主がどうしてもそこを譲らない頑固者だった訳でしてね。
結果から言うと依頼を引き受けました。根負けしました。アイツ、ここぞと言わんばかりの我儘を発揮してくれたんだもの。腐れ縁でもなければやっていけないわよ…。
腐れ縁…まぁ、綺麗な言い方をすると友人という括りになるのでしょうね。
咲夜の不審な動向はずっと前から、友人に筒抜けの状態であったのです。様々な目を通してね。
久しぶりに小悪魔的な悪戯心といいますか、なんといいますか。せっかくだから、ここは楽しませてもらおうと思った訳。
私のやることは最初から一つ。咲夜にお灸を添えるだけ、という実にシンプルな事です。いい感触でしたよ、二度と味わえないものだから尚更貴重体験です。
「ふぅ……」
手に持っていた筆を机に置く。傍には、先ほど私が書き記していた日記帳がある。羅列している文字は昨日あった出来事についてのものであった。
「いやぁ~、それにしても役作りってものは大変でしたね!」
大きく背伸びをする。数時間もの間、椅子に座りっぱなしで書き物をしていた体の所々から骨の鳴る音が聞こえてくる。特に背中の骨が立て続けに鳴った後のすっきり勘が少しクセになる爽快感を与えてくれた。
「……音がうるさい」
眠たげな様子で私の少ない発散行為に異を唱える者。
「一夜漬けで書き業務だなんて聞いてなかったんですよ? これくらいでぴーぴー言われるのは理不尽です。少しくらい多めに見てくださいよ~」
「いやよ」
「そんなあっさりきっぱり言われると余計に傷つきますからぁ!!」
端的に話す彼女は機嫌の悪い表情に更に眉間に皺をよせた。あらら、端正な顔立ちがもったいない。このまま鬼にでもなっちゃうのかもしれません。
「鬼にまではならないけど、鬼並みの腕っぷしで灸を添える事はできるわ」
「あらやだ、心の声が読まれるだなんて。プライバシーってものが主様にはないんでしょうか?」
「主だからこそよ。そいうわけだから、そこに座りなさい。従える者への再教育を私自らの手で行ってあげるわ。光栄に思いなさい」
「終わる頃には破片も残っていないんでしょうね~」
「よくわかってるじゃない~。そこだけは褒めてあげるわ」
「わぁ、ありがたや~って思いたいけど、思っちゃいけないこの感じは一体何なのでしょう~?」
「主従愛っていうのよ、後世まで覚えておくように」
力任せに振るわれた拳が私の頭を捉える。
轟音が今日も木霊する紅魔館で、小悪魔な私はパチュリー様のパワハラ教育を受けるのでした。
なんとか書き切りました。
ちょっとかかったけど、達成感はあります…
後書きを書いたりするのも年単位で久しぶりです。
ひとまず、何年も音沙汰がなくても応援してくれた方に感謝です!
ストーリー構成など表現にはまだまだ課題点はあるけれど、今後も楽しくありのままになすままに活動していきます。
なんやかんやでやり切った自分に祝い酒です!!
次回作でお会いしましょう(@^^)/~~~