「ハル、今日は冷えるし、お夕飯お鍋でいい?」
鍋なら買い物に行かなくても何とかなる、という理由もあるけれど。この町もなかなかにゴーストタウン(物理)になってるから、夕方の買い物は避けたい。
「大丈夫」
「そっか。何がいいとかある?」
「えっと…1週間くらい前にやったやつ」
はて、1週間前というと…
「キレーションランドのやつかな?」
「あ、たぶんそれ」
よし、それだったら冷蔵庫の中身で作れる。
キレーションランド。それは、マギアレコードでは、ウワサによってできた遊園地だった。この時空では、かつて存在したが不祥事によって閉演した遊園地、となっているらしい。
そしてそこの名物、それこそがノンビリの象徴。すなわち鍋。マギアレコードだと、ウワサに取り憑かれて管理人にされた魔法少女が(理由は本人にさえ不明だが)考案したものだったのだが…こっちのキレーションランドの商品開発部は、何を思って鍋を名物にしようと思ったのか。いや、おいしいんだけど。
イラストで見るだけでもおいしそうで、最初の人生では冬になるたび作っていた。現在も、もやし祭りと並ぶ我が家の食卓の定番である。
具材も、お肉、シイタケ、しめじ、ネギ、水菜、白菜と、割と色々使えるから冷蔵庫に常備してあるのがほとんどだ。具が足りなくなったらもやしでも入れればかさ増しできるし。
惜しむらくは、つゆが何味なのかがイラストだと判別しづらく、いろいろ試すせいで作るたびに味が変わること。目下のところ醤油が一番おいしい。というか醤油は万能だ。次点で白だし。今日はいっそのこと水炊きにでもしてしまおうか。まだやってなかった気がするし、おじやにすれば冷凍庫を圧迫している大量の余りご飯を整理できる。
「…いや、待てよ」
小十郎さん(金吾さん経由で仲がいい)のお料理教室、次回は米消費メニューだとか言ってなかったか。そう何度もおじやではハルも飽きるかもしれない。
ならば前回同様、醤油で行くか。
市販の醤油味の鍋つゆ出して、具材を確認して…とやっていると、電話が鳴った。
「ごめん、ハル、出てもらえる?」
「うん」
パタパタかけていって、少ししてから受話器を持って戻って来た。
「伊達さんからお電話だよ。お姉ちゃんに用事があるって」
「ああ、そうなの。ありがとう」
この場合の「伊達さん」とは、政宗公を指す。警察学校組の伊達さんとは接点も何も無いもん。
「はい、お電話変わりました」
『花ノ木だな?』
「ええ」
『うちの畑に人面野菜のウワサが出た』
「お夕飯を野菜オンリーにすれば消えます。それじゃ」
まだ何か言っていたが、そのまま叩き切った。
「人面野菜のウワサ」は野菜を嫌がる人がいる家限定で現れるウワサだ。たぶん、野菜嫌いな子供を持つお母さんか何かが流行らせたウワサだろう。
その名の通り野菜に憑りつく形で現れるウワサで、これを食べた人は最長1か月は野菜だけしか食べようとしなくなる。これと言って実害はないが、面倒臭いと言えば面倒臭い。その家の人が野菜をたくさん食べれば消えるから、お手軽ではある。
そういえば小十郎さん、野菜が豊作すぎるからもらってくれとか言ってたような。政宗公から「この頃野菜尽くしだから助けてくれ」とかいう内容のメッセージも来たような。だからか。
「…ん?」
受話器を戻して、何気なく視線を下にやると、スカートのフリルの間から何かのぞいている。
「シール?」
ぺりっとはがして目の前に持ってきた瞬間、気づいた。
これ盗聴器やん。
ノータイムで折りたたんで押しつぶして近所のばあちゃんが野焼きしてるところへ放り込んだ私は悪くないと思う。
意外と顔が広いオリ主
容赦?知らんな。
深夜廻少女
あやめに餌付けされている。
名前だけ出た戦国オカンその1
定期的に料理教室を開いている。
野菜ばっかり食わされてる独眼竜王
ウワサを消すために犠牲となった。
しばらく野菜は見たくない。
盗聴してた名探偵
盗聴中に壊されたせいでしばらく耳がやばかった。