秦こころの感情取得講座   作:ユウマ@

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なんと続いたねぇ


怒りの感情 前編

怒りの表情とはどんなものだろうか。

その時に身につけるのは般若の面。けれど般若によく似た鬼達の顔は、怒っていなくてもアレと大差ない顔だ。しかし私にとって怒りを表す手段はあれのみ、故に私の面の1つなのだが。

 

 

「……」

 

 

般若の面を思い浮かべる。細部まで完璧に思い出せるそれと同じ表情なぞ、出来ている手応えはまるでない。そう簡単に表情を作れるならば、面に頼ってはいないのだ。

 

 

ともかく。

 

 

 

 

「お前が面を返せば全部済むことだと思うんだが」

「そうはいかない!それだと私があれこれ考えたのが無駄になってしまうじゃないか」

 

 

私と元凶…通称耳女は、幻想郷の空を飛び回りながら絶賛鬼ごっこ中であった。鬼と呼べる立場の私が鬼の面を取るために追いかけるのはなんとも言いがたい面倒くささがある。というか疲れた。

 

 

 

「……」

「どうしたこころ?元気無いぞー」

「アイデンティティ喪失の危機で元気が出ない。そもそも手本の表情が無いと私は顔の変えようがない」

「ふむ、確かに…。じゃあこうしよう」

 

 

肩を落とす私に対し、耳女は私のすぐ近くまで寄ると、おもむろに私の面を突き出した。すかさず手を伸ばすが、それよりも先に手を引っ込められてしまった。

 

 

「なんだ返してくれないのか。理由は今言ったろほら」

「そう言われてあっさり返すのも納得いかなくてなぁ…それに君はお面を回収したらそのまま逃げ帰ってしまいかねない」

「う」

「そんな事をされては困るんだよ。せっかく私が作った希望の面も泣いているぞ」

「それはない。というかお前の形なんだからお前がこのアホ面被るべき。そして私は元の面をつける」

「それは遠慮しておくよ。それよりどうだい、表情の参考にはなったかい?」

 

 

言われて面と向き直る。激しく寄せられた眉に眉間のシワ、人を食い殺せそうな鋭い牙。むむう、どれも明確に分かるのに、自分の顔に表すとなるとまるで手応えがない。

 

「まだダメか…やはり実際に顔を動かさないと無理そうだな。よし、ならついてきなさい」

「えー、まだ返さないのか私の面…」

 

 

私の言葉には耳も貸さずに飛び去っていく。私としてはついていくほかないので渋々後を追う。このアホ面を換金して面と交換できないだろうか。折角高く売れそうな見た目をしているというのに。

 

 

とりとめのない事を考えるうちに、耳女がぴたりと止まった。合わせて私も立ち止まる。眼前に広がるのは、視界を埋め尽くすほどに広がる黄金色。太陽光を反射する鏡の如く、一面だ。

 

 

「ここは?」

「太陽の花畑、というらしい。私も知ったのは最近だから詳しいわけじゃあないが」

「へー。で、ここに何があるの?」

「まぁ焦るな。この花畑に、君の面を」

 

 

 

 

言いながら、腕を振りかぶる。背中にぞくりと、悪寒めいたものが走る。その正体が何かを、悟る間もなく。

 

 

 

 

 

 

「───投げる!」

 

 

 

 

 

放たれた面は、まるで真紅の流星の如く。眼下に広がる金色に尾を引きながら突き進み、飲み込まれて消えた。

 

 

 

 

「……は」

「…これで良し。後は落ちた面を探せば、君も少しは感情豊かになっている事だろう。本当はこんな事をするのは心苦しいんだが…これも君のためだ。では、健闘を祈る!」

 

 

 

一方的に言われて、耳女は姿をくらました。またしても呆けていた私は、徐に高度を落としていく。ともかく、面を回収しなくては。

 

 

 

「面の扱いはひどいものだが…あの女の手を離れたのはラッキーだったかもなー。えーと、確かこの辺に落ちたはず」

 

 

 

花畑を開拓しながら面を探す。予想よりかなり大きな花…これは向日葵か。茎をかき分けかき分け、面を探す。思ったよりもすぐに、花の間からのぞく特徴的な赤を発見できた。

 

 

 

「お、あったあった。あーあ、耳女にとやかく言われないように、一緒に表情でも落ちていないかなー」

 

 

ぼやいて、面を拾う、

 

 

 

 

 

 

寸前に。目の前から伸びた腕が、ひょいと面を取り上げていった。耳女め、懲りずに邪魔しに戻ってくるとはいよいよ本格的に性悪だ。

 

 

 

 

「おい耳女、探せと言ったから探しただけだぞ。大体お前がこんな所に投げ込むから───」

 

 

「───あら、コレをお探し?」

 

 

 

聞こえる声は、あの女とは違う声。見上げれば、晴れだというのに大きな傘をさす女の姿。影が出来ているせいで、どんな顔かは窺えない。

 

 

 

「私の目の前で土足で花畑を踏み荒らすなんて…よっぽど大事なものなのね」

「大事なものだな、うん。私にとって必需品みたいなものだからな。さ、返してくれ」

「無理ね」

 

 

またか。ここの住人は私の邪魔をしたがる傾向でもあるのか?

 

 

 

「返しても良いけれど…まずは、貴女にお灸を据えてからね!」

 

 

 

本能的に、半歩後ずさる。女のさす傘の下で、面に負けぬ真紅が1度、瞬いた。

 


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