わたしはかつて、Vtuberだった。   作:雁ヶ峰

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嫌いになれるほど、愛していなかった。



零すまでは。

 人間は感情を維持し続ける事を得意としていない。

 怒り続けるにも、喜び続けるにも膨大なエネルギーを必要とする。常に感情を発露するというのは非常に難しく、非常に疲労するのである。

 同時に、怒りも喜びもしないというのは、()()がなくなる。怒鳴れ、という事ではない。怒る。価値観の相違やどうしても受け入れられない矜持の侵害に、怒る。無理矢理喜べ、という話ではない。細やかな幸せに、日常のちょっとしたことに、喜ぶ。喜ぶ体勢を持つ。

 

 適度に怒る。適度に喜ぶ。且つ、続けない。

 

 そのコントラストを総称して、健全な精神と呼ぶ。

 

「まぁ、その。恥ずかしい話ですけどね。小さい頃の私は随分と……その、自意識高めだったといいますか」

 

 まぁ、その。変な話、なんでも出来たんですよね。出来ちゃったんです。ある程度じゃなく、一番まで。一等賞が取れちゃったんです。それで、みんな最初は凄いね、とか。上手いね、とか。言ってくれるんですけど、段々"褒める事"に飽きちゃったのか、当たり前のようになってしまって。

 私は私で、飽きてました。面白くなかったんですよ。世界に彩りがない、と言えばいいんですかね。嫌な事が、出来ない事が何もないから、出来ても嬉しくない。一日の始まりと一日の終わりの感情が同じなんです。つまらない。何をしても同じ。波風の立たない心。

 ……今思い返して喋ってるだけで大分恥ずかしいんですが、まぁ、そんな感じでした。子供の頃は。

 楽しいと思う事が無いと、感情に起伏が生まれません。ずっと平行なんです。感情って、プラスにもマイナスにも振れ幅があるから、それらに分けられた記憶が引っかかって想起されるんですよ。でも私にはそれが無かった。ぜーんぶ、同じ思い出。コンクールで最優秀賞を取った事と朝ごはんを食べた記憶が等価なんです。

 

 唯一、姉だけが。

 姉だけが、私を()()()()()()()。いえ、他の子も嫌っていたのかもしれませんけど、表には出さなかった。姉だけが正直に、"私、アンタの事嫌いなのよね"って。"成功を喜ばない人間のどこを好きになれっていうの?"って。

 だから、姉と話すことが。姉と一緒にいる時間が大好きでした。

 あの人と話していれば、私は嫌な思いが出来るんです。嫌な思いが出来ると、驚くことに成功が嬉しくなるんです。考えなければいけない事が発生して、努力が出来るんです。

 姉の服飾デザイナーになる、という夢を聞いた時、じゃあ私もクリエイター……デザインとか、イラストとかの道に進もうと決めました。二割、とか。半ば、とかじゃなく、十割嫌がらせです。姉と違う道に進んで、姉の"嫌い"が受け取れなくなるのが、世界がまた平坦に戻るのが怖くて、私は姉と同じ道に進むことにしたんですから。

 

 けれど、どうしても埋められないものがありました。

 年齢です。

 姉は私より先に家を出て行ってしまって、一人暮らしを始めてしまった。

 極度に姉に依存していた私は焦りました。どうしよう、と思いました。その頃には、さらに幅広いジャンル……創作関連はほとんど出来るようになっていて、学生でしたけど商業依頼も頻繁に来るくらい、成功していたんです。

 成功って楽しいんですよ。嫌な思い出があると、心から楽しめるんです。

 でもこれが。今楽しめている忙しいすべてが、無味に。無色に戻ったら、と思うと……恐ろしくて。

 怖くなって、私はたくさんの扉を開きました。どこかに嫌な思いが出来るものがないか、って。無意識に創作関係、デザイン関係ばかりを調べていましたね。私の中の姉の存在はとても大きかった。

 

 そうして見つけたのが、Vtuberというものでした。

 Vtuberは、凄いんですよ。だって創り上げられたものが、"作品"ではなく"人間"なんです。キャラクターではなく、生きた人間を創る事が出来る。創って、磨き上げる事が出来る。人間の、魂の創作なんてやったことが無かったし、今までの知識が一切役に立たない完全に新しい創作だと思いました。

 ……実際は、それよりももう少し薄味でした。

 2Dモデルや3Dモデルの制作を依頼された時も、楽曲の依頼をされた時も、今までとおんなじだな、って思いました。思っちゃいました。若い世界だから競争相手もほとんどいなくて、嫌な思いをすることがほとんどない。正直、あんまり楽しくなかったですね。期待値が大きかった分、失望も大きかった。

 

 そんな時ですよ。貴女から依頼があったのは。

 最初はまたか、なんて思ってました。MINA学の事も皆凪可憐の事も知りませんでしたからね。いえ、目には入っていましたけど、凡百のそれと同じだろうって思ってました。どうせ、私が手を出せるのはそこまでなんだ、って。

 

 杏さん。貴女が最初、私に何て言ったか覚えてますか?

 

 "ああ、うん。なんか絶望的に価値観が合わないっぽいので、長話はしないようにしましょう。それがお互いのためです"って言ったんですよ。

 私は、嬉しかった。ああ、いた! って思いました。私が貴女を相棒にしたいと思ったのは、そんな邪な思いが始まりなんです。姉の代替品。姉と同じくらい、私と合わない人。

 あの日からずっと。私は毎日が楽しいんです。ああ、嫌な思いをしている、というわけではないですよ。ただ新鮮なだけ。沢山の価値観を理解して、様々な世界観を取り入れている私の前で、全く異質の、一切理解できない……何が面白いのかわからない価値観を吐き出し続ける貴女が、とても興味深い。

 思想だけじゃない。歌もそう。意味が分からないくらい、感情が伝わってくる。私の世界に無いものが、私一人では生み出せないものが、歌声の一つですべて覆い尽くしてくれる。私の人生は、今まで生きてきた轍はなんだったんだと思うくらい、貴女の行動に感動しているんです。

 

 随分と屈折していると、私も思います。

 そんな価値観を持っている貴女はVtuberとして活動していて、自分に出来ない事が出来る人、を欲していました。私は、貴女を逃したくなかった。姉は多分、私と一緒にはいてくれないでしょう。でも貴女は。貴女は、私を傍に置いてくれると思いました。貴女の傍でなら、私はもっと成功できると直感しました。

 そして、その成功を喜べると。貴女と共になら、向上心を持てると。もっと、もっと、もっとその先を見たいと、()()()と。

 

 ……だから、申し訳ありません。謝ります。

 私は、究極的には、Vtuberというものに。バーチャルというものに、拘りがない。貴女と作品を作り続けたいという意思は強くあれど、それがあれば何でもいいとすら思っている。

 

 こんな話を聞いてもまだ、私と一緒に活動を続けてくれますか。

 

「……」

 

 昨日、999Pさんと話していた時に話題に出た、HANABiさんがめちゃくちゃ重くなった理由。考えてもわかるはずがなかったので、直接HANABiさんに聞いてみたら、なんだろう、物凄く重いものが返ってきた。

 999Pさん、"私が出て行って戻ってきたときにはああだった"って言ってたけど、999Pさんが出て行ったことが原因だとは……。ああいや、原因自体はもっと別の所にあるのか。出て行ったのは、爆発した切っ掛けかな。

 

 さて、沈痛な面持ちでいるHANABiさんに、なんと声をかけたものか、と思う。

 

 わたしはむしろ、ほとんど何も出来ない子だった。習い事を色々させられそうになって、悉くがお試し期間で"無理だな"と感じる壊滅さ加減で。唯一出来た歌のレッスンにだけ通わせてもらって、今がある。小さい頃は自分に自信なんて無かったし、合唱コンクールはあっても一人が優勝! なんて扱いをされる大会は無かったから、明確な成功体験は無い。

 歌が好きで、歌えるのが好きで、歌を褒められるのが好きで、歌うのが好きで。

 それだけだった。それでよかった。

 

 年齢が上がっても同じ。むしろそれを誇るようになった。喜ぶようにした。だって喜ぶと、もっと褒めてくれるのだ。思春期の自己顕示欲はほとんどそれで解消していたように思う。素直に喜ぶと、周りも楽しくなって、もっと褒めてくれる。しめしめ、と思っていた。

 さらに年齢が上がると、"褒めてくれるみんな"と"褒められている自分"を完全に舞台の上、ステージ上のものとして眺められるようになった。劇を見ている気分。わたしはずっと、拍手をしている。

 Vtuberになって批判というものに触れるようになってからも、同じ。"批判するみんな"と"批判されるわたし"の劇。むしろ演目が増えて嬉しかったし、面白いと感じるようになった。それが今の趣味の原点。

 

「まぁ、いいんじゃない? わたしは変わらずバーチャルの、現実のその先を目指すし。HANABiさんは目的地が見えてないって事でしょ? 目的地がどこでもいい、って感じか。その考えはわたしにはわからないし、正直今まで語ってた"その先"って言葉に厚みは無かったんだね、とか思ったりしなくもないけど、どうせ言葉でしかないわけで」

 

 支障がない。関係がない。

 わたしの目指す"その先"に行くための足掛かりをくれて、自動操縦のロケットを作ってくれて、わたしと共に在りたいと思ってくれるのなら、それだけでいい。何も問題がない。

 みんながみんな同じ場所を見ている船なんて、すぐに沈むだろう。船そのものを第一に考えられる人がいないと、船長は前を目指せない。

 

「あぁ……はぁ、安心しました。こんな黒歴史、人に話すものじゃないですし、何より杏さんに話すのだけは避けたかった」

「そういえば気になったんだけどさ、というか最近のHANABiさんの行動見てても思うんだけどさ」

「はい?」

「アガリ症って、もしかして嘘?」

 

 引きこもりなのは本当だろう。

 でも、どうにも。今HANABiさんの語ったエピソードに、アガリ症になるようなイベントが無かった。仕事でDIVA Li VIVAに来ている時も、特に焦らずに話す事が出来ていた。億劫には感じているのだろうけど、無理、というほどでもない。そう感じる。

 

「まぁ、半分、嘘です。というか、嘘は……結構吐いてます。杏さんを引き留めるために、私が杏さんを必要としている、ということをアピールするために、吐いている嘘がいくつかあります」

「あぁ、そうなんだ。別にいいけど。もう半分は?」

「……以前、他人の考えている事が分かる、みたいな話をしましたよね」

「まさか本当に」

「超能力的なソレで読めるわけじゃないんですよ。でも、この人は今までこういう事を話していたし、話しがちだから、次に来るとしたらこの話題で、こういう結論だろうな、っていうのが会話をしている最中に導き出せるんです。だから、その……非常に面白くない。随時ネタバレしてくるんですよ、私の脳」

 

 探偵にでもなった方がいいのではないか。

 

「だからMINA学見るときも、沢山作業しながら見ます。その、申し訳ないとは思うんですけど、MINA学の皆さんが次に何を言うか、どんな発表をするのか、どんなリアクションをするのか、っていうのは眺めているだけだとわかってしまって楽しくないので、推理を行ってしまうタスクを作業で埋めながらでないと楽しめないんですね」

「難儀だね」

「杏さんはその推理が上手く行かなくて、楽しいんです。キャラを作って話しているから、だけじゃなく、思考と言動が別々の人、みたいな印象を受けます。杏さんの普段の行動を省みれば言うはずの事を言わなかったり、明らかに思っていない事をポロっと口から零したり」

「ニホニウム」

「別に全く関係ないことを言えとは言ってないんです」

 

 あんまり、自覚がない。

 そんなに複雑な人間だろうか。まぁ、強いて言えば。キャラクターを被ったときに、本体も変わった……というべきだろう、可憐の思考や価値観、HIBANaの思考や世界観がわたしに混じっているな、と感じる事はある。

 些細なことだ。成長と同じ。

 

「他にもいっぱいいると思うけどね。キャラ作ってる人なんて」

「はい。でも、出会えませんでしたから。私の世界において、初めて姉以外で私の前に現れたのが杏さんだった、というだけです。知らないものは存在しません。出会えなかった誰かのことなんて、私は知りませんから」

「タマゴから出てきた雛が一番初めに見たものを親鳥と思い込む的なソレ?」

「……遺憾ですけど、まぁそういうことです」

 

 遺憾のかんだね。

 それは随分と、楽しそうだと思う。初めに見つけたものを愛して、それがなくなったら次のものに愛を注ぐ。なんて一途なんだろう、と思う。

 

「ちなみにわたし、最近毎夜毎夜999Pさんと通話してるんだけど」

「……」

「目に見えて不機嫌になったね。それが嫌な思い?」

「……確かにそうですけど、そうですか。はい。そうですか。わかりました。はい。ちょっと、どころでなく、はい、イラっと来ましたね」

 

 意地悪が過ぎたかな、と思った。

 HANABiさんに対しても、999Pさんに対しても。

 

「じゃあ、今日は帰らないでください」

「明日仕事なんだけど」

「帰ったら姉と通話するんでしょう?」

 

 藪からスティック。藪スネイク。

 余計な事をした。……いやまぁ、最近HANABiさんのマンションに泊まる事が少なかったから、良いか。別に。なんたって、HANABiさんのクローゼットの中にわたしの着替えが用意してあるくらいには、頻繁に寝泊まりをしている。困りはしない。起きる時間に気を付ける必要があるくらいか。

 

「それじゃ、ゆっくりさせてもらうよ」

「はい。お風呂沸かしてきますね」

「はーい」

 

 HANABiさんが浴室の方へ行ったのを見て、ササっと携帯端末のSNSアプリを起動。999Pさんに"今日は通話ナシ"の旨を送信。

 それをしまって、ソファに背を預ける。

 

 なんだか。

 まぁ、なんだろうね。

 

 言い当てられて、悪い気はしない、という感じ。

 

 

 ●

 

 

「ねぇ、お姉さん」

「なんだいニムソン君」

「にむそん?」

「なんでもないので忘れてください」

 

 DIVA Li VIVAの収録スタジオ。PV撮影の件+社長対談の件で呼ばれたわたしは、同じく撮影の準備待ちをしていたNYMUちゃんの隣に座っていた。と言っても雑談をメインにしているわけではなく、どちらも携帯端末を触っていて、言葉数は少ない。

 

「なんでみんな謝るんだろうね」

「謝罪のない世界をご所望?」

「ああ、えと、そうじゃなくてね。"見に行ってあげられなくてごめんね"とか"その日は仕事があるからアーカイブを見ます、すみません"とか……謝る必要ないのにな、って思う」

 

 ああ。

 まぁ、それは簡単な話というか。彼らは"見に行ってあげている"という感覚を無意識に持ってしまっているから、そういう事を宣う。のだが、それを正直に、こんないたいけな少女にぶつけていいものか。自分の性格がコレである事は自覚しているので、出来るだけ言葉は選びたい所。

 

「あー、ほら。授業参観」

「授業参観?」

「そう。あと、運動会とか。よくあるじゃん、共働きの両親とかが、子供に向かって"見に行ってあげられなくてごめんね"って言うやつ」

「なるほど?」

「みんな見に来てね、みたいな社交辞……宣伝を真に受け……素直な人が、リクエストに応えられなくてごめんね、っていう感じかな。ほら、授業参観に自分の両親がいないと拗ねちゃう子、いるでしょ? 金髪ちゃんはそう見られてるんだよ」

「子供っぽいってことですか!」

「子供じゃん」

 

 柔らかく言うと、こんな感じだと思う。

 後方親面というか、後方親族面というか。推しの"見に来て欲しい"に応えられない事が謝罪に繋がる、というのは、なんともまぁ、責任の重心がどこを向いているんだとツッコミたくもなるが。

 

「じゃあ深夜配信やってる時に、"先に寝ますごめんなさい!"って言う人は?」

「大体同じだよ。キャンプとかで、家族でカードゲームをしているとしよう。トランプなんかをね。でもお母さんが眠くなっちゃって、"ごめんね、私は先に寝かせてもらうわ"って言って先に寝る。子供は口を尖らせるだろうね」

「それが私か!」

「寝ます、なんて水を差さないで、勝手に寝てくれればいいのに、とは思うけどね」

 

 配信者としては、無理をしないでくれ、と思う。無理に見られたって特に嬉しかないやい、と。

 視聴者としてそういうコメントを見ると、知らんがな、と思う。勝手に寝なさいよ、と。

 

「……そんなに子供っぽいかなぁ」

「うん」

「がーん」

 

 子供っぽさは、子供である内は魅力だ。大人になっても魅力として確立させている人たちもいるけど、あれは才能。子供っぽいことを自然体で表現できるのは子供のうちだけなのだから、それを前面に押し出せばいい。

 なんて話は、わたしではなくNYMUちゃんのマネさんが散々しているはずである。だからああいう動画スタイルなんだろうし。

 

「じゃ、じゃあ、私がクイズとか間違えた時に流れる"ごめんね"っていうのも!」

「NYMUさん、お願いしますー」

 

 あ、という顔のNYMUちゃんにヒラヒラと手を振る。

 彼女ははーい、と元気な返事を返して、スタジオの中央の方へ早足で向かっていった。

 

 NYMUちゃん、その"ごめんね"の意味はまぁ、君が感じている通りだよ。

 

 

 ●

 

 

 既にHANABiさんから詳しい話は聞いてあるので、今回は対談コンセプトとか、他に誰がいるのかとか、わたしが聞いておいた方が良い部分の話になる。

 麻比奈さんと一対一、ではなく、DIVA Li VIVAに入る時に高尚な話をしていた上司の女性も同伴で、企画説明が行われている。大体は知っている事、だったけど、一点。

 

「生歌って本気で言ってます?」

「無理ですか?」

「無理じゃないですけど、どうしてもカラオケ大会みたいになりますよ。いや、もう少し広い部屋なら声も張れますけど、こんな狭い部屋じゃ音の跳ね返り酷いし、何よりうるさいですよ」

「ふむ」

 

 世に出される歌、というのはしっかりした場所で、しっかりした機材で録っているものだ。部屋の広さで音質は激変するし、マイクとの距離やマイクの種類、周囲に人間大の生物がいるというだけでも響きが違ってくる。

 歌には自信がある、と何度も言うけれど、劣悪な環境で歌ったものが最高の環境で歌ったものに勝るとは思っていない。況してやそれが配信に乗るなど、考えたくもない。

 

「じゃあレコーディングスタジオで対談しますか?」

「レコ室近くの会議室で対談して、歌だけ移動、また戻ってくるのが最善だと思います。レコ室での対談だと、今度は音が抜けて音量バランスが難しいです」

「そこは音声さんに頑張ってもらう、というのは……」

「生配信で社長にかかわるコンテンツでなんでそんな博打をしようとするんですか。音声さんの心労がすごい」

「社長はぶっつけ本番、行き当たりばったり、当たって砕けろが好きな方なのでね」

「マジカー」

 

 もしやDIVA Li VIVAって泥船か?

 

「まぁ、タレントがそこまで嫌がるなら、そういう方向で話を進めるか。ちなみにライブスタジオならどうだ?」

「……まぁそれなら行けなくもないですけど、わざわざ一時間の対談のためにライブの準備するの面倒じゃないですか?」

「面倒を自社だから、という理由で簡潔にできるのが大手の良い所だ。覚えておくと良い」

「苦労するのは末端ってわけですね」

「中々言うじゃないか。まぁ、苦労するのが我々の仕事さ。タレントに最良の状態でコンテンツを作ってもらうためなら、我々は尽力を怠らない。今回に関してはすまないと思っているんだ、これでも。あの破天荒な社長は我々……というか、私も手を焼いている」

「それぐらいの行動力が無いと社長になんてなれないんですかね」

「まぁ、それはあるだろうな。行動力の塊だ。見習う所は多い。呆れるところも多いが」

 

 ふぅ、とため息を吐く上司の人。

 第一印象、嫌い。第二印象、苦労人。

 ああいうスピーチは言葉が強くなるものだ。もしかしたら、やる気を引き出すために思ってもいない事を言っていた可能性はあるな、と思った。引き出すどころか削がれたわけだけれど。

 

「原坂さん*1は、ここ長いんですか?」

「長くも短くもない、といった感じだ。五年を長いと感じるか短いと感じるかは人に依るだろう。私は、普通だと思っている」

「どうしてバーチャルクリエイト事業部に?」

「企画したのが私だからさ。打診した、というべきか。こういうコンテンツは踏切が大事だ。できるだけ早く展開しておいた方が、必ず益になる。芸能事務所、あるいは芸能人というのは、そうでない者達と離れすぎていると昨今は感じていてね。無論、そうあるべきだ、という者もいるだろうが、もう少しファンと……視聴者との距離を縮めても良いと思うのさ。君は、どう思う?」

「共感出来かねますね。距離を詰めたってメリットはありませんよ。どっちもが損をするだけかと?」

「手厳しいな。元Vtuberの君がそう言うということは、デメリットが多かったのか?」

「原坂さんがお笑い番組を見ている時に、"うーん詰まらないな、チャンネルを変えよう"と思ったとして、それがテレビの中の芸人に透けて、"は? 面白くないとか、なんだとお前"って詰め寄ってきたり、"面白くないかぁ……そうかぁ"、って目に見えて落ち込んだりしたら、嫌じゃないですか?」

 

 今のVtuberは、大体そういう事をしている。視聴者との距離が近すぎて、批判ではない感想までも拾って落ち込んだり怒ったりを繰り返す。エゴサ、というのはどこまでも悪い文化だ。少なくとも精神衛生上は。健全な心を持つ者が飲んでいい薬ではない。

 そうでなくとも、配信という行為は視聴者との距離が近い。配信の距離に慣れた視聴者だけではないのが今なのだ。"今"。テレビ感覚で配信を見て、テレビ感覚で言葉を吐いて、それが配信者を傷つける。悪気が無いのだ。だって、今まではテレビに言葉を発しても届かなかったから。ただの所感に過ぎなかったのだから。

 

 テレビ放送と配信は全く別物である、ということに気付けない人が多すぎる。何故気付けないか、って。それはもちろん、配信者側も放送のような感覚でやっているからだ。ゲーム実況なんかが最たる例だろう。指示をされたくない、というのは放送でありたい欲求だ。指示をする、所謂指示厨は、テレビの向こうのスポーツ中継に対して"今だ!"とか"そこだ!"とか"あぁ、なんで!"とか、そういう感想を言っているに過ぎない。

 配信である以上。自ら視聴者との距離を詰めた以上、配信というスタイルに合った距離を考えなければ、すれ違いが起きるのは当然である。

 

「なるほど、テレビと配信の違いか」

「所属タレントの全員が全員、何の躊躇もオブラートもない否定を見て何も思わないのであれば問題は無いと思いますけどね」

「そんな冷血集団は人気が出ないだろうな……」

 

 ぐさ。

 

「……それでも、私は視聴者との距離を縮めたいと思う。高級感を失くしたいんだ。同じ目線に立って見られる芸術、というものを作りたい」

「そういうのももちろんアリだと思いますよ。ただ、全員に求めないで欲しいというだけで」

「ああ、わかっている……と、言いたいところだが、今回の対談が、ソレか」

「はい」

 

 高級感を失くしたい。大いに結構だ。巻き込まないで欲しいとも思う。

 折角ミステリアスなキャラクターを作ったのだ。何故味方に心臓を狙撃されなければならないのか。

 ……高級感とやらを失くしたその先に、何が待っているかは知らない。みんなで仲良く共倒れ、以外の道を選べるよう、幸運を祈る。グッドラックだ。楽しみにしていよう。

 

「うむ、君と話せて良かったよ。いや、実を言うと、入社歓迎会の時の冷たい目がどうにも忘れられなくてね、少しだけ、苦手に思っていた」

「そんな目してましたか」

「ああ、酷くつまらないと目が語っていたよ」

「もう少し隠すように精進します」

 

 わたしの気が抜けていたか、この人の目が聡いかのどっちかだろう。後者である気がしないでもない。随分と苦労をしてきたようだし、わたしなんかより人生経験は積んでいるのだろう。

 オタク文化に疎い、というだけ。

 

「苦労をかけるが、なんとか相手をしてやって欲しい。社長はあれでいて、皆から慕われている」

「はい。善処します」

 

 まぁ、嫌いではなくなったかな。

 話してみるのは大事だと、再認した。

 

 好きになるのも、嫌いになるのも。

 

 

 〇

 

 

< A・K
.

 2018年4月15日(日) 

      
既読

21:25

今日はありがとうございました。またお願いします。

21:25
      

      
既読

21:25

それと、今度は私の家に来てください

21:25
      

                  Aa

*1
上司の女性の名前




愛おしいと思えるほど、楽しくは無かった。
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