わたしはかつて、Vtuberだった。 作:雁ヶ峰
自治と杞憂は、コンテンツの成長において切っても切れないワードである。
視聴者が増えてくれば増えてくる程、そういうヤツが現れる……という認識をされがちであるが、そういうヤツはそもそもそういうヤツ、という方が正しい。これについてはほとんど運だ。そういうヤツに序盤に目を付けられてしまったら、新規視聴者の獲得が難しくなる。配信者が窘められれば多少は改善もしようが、新人である内は自治も杞憂も大事な視聴者と誤認しがちで、中々注意喚起が出来ない事も多いだろう。
彼らは自身らの認識──感覚が他と違う事に気付いていない。
"推し本人のために推している"という感覚があるのだ。だから、嫌な意見に噛みついて推しを守ろうとしたり、推しが燃えないようにコントロールしようとしたりする。視聴が自分のためでなく、配信者のためになっている典型例。これもまた、踏み込み過ぎ。
今、MINA学園projectの配信ではまさにそんな……彼女らのためを思って視聴をしている誰かさん達による、大論争が繰り広げられていた。
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「……」
「……」
HANABiさんの仕事部屋で、今日も作品制作に精を出す。
といってもわたしは片耳イヤホン、HANABiさんも片耳ワイヤレスホンと、半分くらいは視聴に体を向けているから、集中力はそこまででもないのだけど。あぁ、HANABiさんに関しては、動画を見ながら音楽を聴きながらゲームをやりながら絵を描きながら文章を考えながら動画編集をしながらTVを見ながらお菓子を食べていたりする事がよくあるので、あれでも集中は出来ているのかもしれないけれど。
視聴しているのは、MINA学園projectの配信……の、アーカイブ。
とてもじゃないが。
とてもじゃないが、今のMINA学園projectの生配信を見る気にはなれなかった。彼女らに非は一切ない。見る気になれないのは、チャットのせい。
「荒れてますねえ」
「上位チャットしか見てない」
「名前を出すのをやめろとか、ちゃんと清算してからイベントやってくださいとか、単純に面白くないからやめろとか、初期の頃の方が好きだったとか……」
あーあー、とHANABiさんはマウスホイールをぐりぐりやりながら、呆れたような声を出す。
アーカイブ化して上位チャット*1を見ていないと、オタク精神上色々とキツい。別にこの視聴アカウントは可憐でもHIBANaでもない、何の関係もないアカウントなので誰をブロックしようと特に影響はでないのだが、単純に目にいれたくないという話である。
単純な荒らしや否定であれば、特に何も感じない。何も覚えないのだが、こういうファン同士の争いは……見た事のある名前が沢山いるから尚更に、冷たい感情が湧き上がってきてしまって純粋に配信を楽しめなくなってしまう。可哀想だという感情が出てきてしまう。
だから、生配信ではなくアーカイブで、見えない状態での視聴をしているのだが。
「しかし、いつになっても遥香ちゃんと雪ちゃんは恐れを知りませんねぇ」
「遥香さんは楽しんでるだろうけど、雪ちゃんは多分辛く思っていると思うので一緒にしないで欲しい」
「厄介オタク!」
やはり遥香さんからの連絡は来ていない。アミちゃんからのメッセージも止んだし、千幸ちゃんと雪ちゃん、梨寿ちゃんは動きなし。演者としては、もう終わりかな、なんて思っている。先ほどあったコメントに倣うのなら、清算はしたかな、という。
コメント欄は凄惨たる有様だけど。
「メンバーもやっちゃってますから、流れ的にもうどうしようもないんですかねぇ」
「メンバーは"自分たちは大丈夫だ"っていう謎の自信を持ちがちだからね。特別感は省みる事を忘れさせるドラッグだよ」
「お金払ってるから許される、みたいな認識の」
「それが無意識でね」
お金って怖いね。
「明日、NYMUちゃんとの収録日ですけど、モチベ大丈夫です?」
「そりはだいじぶ」
「そりはよかたです」
ソーリーソーリー。
目に見えて不満顔だったかな、気を付けよう。
そういえば、荒れまくっているMINA学園projectの配信とは打って変わって、HIBANaに関する投稿は静かなものである。自治と杞憂をする"見た事のあるアカウント"を先ほど槍玉に挙げはしたが、ちゃんと、といえばいいのか。
"元気にしてるなら、それでいいや"という、HIBANaの名前も出さなければ、ファボやRTによる空リプですらない、このアカウントがかつて可憐推しをしていた、という事を知らなければ何に対しての投稿なのかわからないそれを見て、ありがとう、と思ったり。
HIBANaのデビュー前まで可憐のファンアートを描いてくれていた絵師が、当たり前のようにHIBANaのファンアートを描いていてくれたり。
それは素直に、嬉しいと思う。
「いいですね」
「うん?」
「なんか。みんな、感情で動いてるんだなぁって。私も感情で動きがちですけど、客観視すると……たくさんの人が、自分を律せずに言葉を吐き出して、誰かを傷つける事を厭わない」
「野性的だね」
「はい。人間らしくてとても興味深いです」
コンテンツだ。あるいは、研究対象か。
オタクとしてではなくクリエイターとして。あるいは勉強家として。人間は理性の生き物だ、という言葉を真っ向から否定する様相が、面白いという感情。概念。
倫理観や価値観を切り離して思考ができると、そういう側面も見えてくる。なんとも、まぁ。
「第三者が一番悪辣って話だよね」
「火事を対岸で眺めているだけの人間なんて、ロクな性格じゃあないことは確かですよ」
それはそう。部分的にそう。
「あの頃の純粋なHANABiさんはどこへ行ってしまったんだろうね」
「私、杏さんより年上なんですけどね」
あの頃っていつだよ、という話。
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反対に、というと少々語弊があるけれど、コンテンツには擁護……もう一歩踏み込んで、信者という言葉も付き物である。並んで、配信者を教祖、とも。
とりわけ日本人は宗教に対するイメージがマイナスになりがちなので、これら二つは揶揄に使われがちではあるのだが、実際、配信と宗教の類似点は大いにあると思う。
宗教……特に教会というのは、普通であることが求められる。
特別ではいけない。特別だと、手を差し伸べてもらえる存在ではないと思われてしまう。手の届かない存在だと認識されて、敬遠されてしまう。
劣っていてはいけない。粗があれば同等だと思われてしまう。自分たちと同等だと、頼る必要のないものと認識されて、見向きもされなくなる。
故に、なんでもない必要がある。普通である必要があるのだ。誰もが異端を持ち、誰もが辛苦を持っている。だからこそ、なんでもないものを見ると、心が惹かれる。拠り所として機能する。上でも下でもないから、心が安らぐ。
配信者。とりわけ生配信を行うライバーは、これに似ている。
特別感はあろう。特別なことができる者の集団ではあるのだろう。だが、欠点や欠落も多く、とても人間らしい。中身が演者なので当然だが、それは"創作物のキャラクター"や"特別な面だけを見せる動画投稿者"には中々見られないものだ。
完璧に釣り合っているわけではない。完全に均衡がとれているわけではない。
だが、それが。そのプラスマイナスが、なんでもなさに通ずると……そう思う。
普通なのだ。彼らは。特技があって、苦手があって、会話が出来る。
その点においては、ライバーは他の何よりも効率的な存在であると言えるだろう。
「好き、ってことをね。言うようにしてるんだ」
言う。発する。発言する。NYMUちゃんは、恥ずかしそうに、ではなく。嬉しそうに。
少しだけ、誇るように。
「前も言ったみたいに、あんまり他の子に対しては好きって言えないから、その分。音楽とか、アニメとか、ゲームとか、服とか、天気とか、色とか……好きだと思うものを、ちゃんと、配信で好きって。そう言うようにしてる」
隠さない事を自慢しているわけではなく、好きだと言うことを喜んでいる。凄い、と思ったし。憧れる、と思ったけれど……それ以上に。
恐ろしいと思った。無理だと。この子の世界観に、わたしは立ち向かえない。
「怖くない? 自分を晒す事」
「怖くないよ? 私さ、知ってもらう事が好きなんだと思う。自分の好きなもの。自分の思ってること。やりたい事とか、行きたい場所とか」
「金髪ちゃんは……NYMUちゃんなんだね」
「知らなかったの?」
……わたしとは、全く別の星で生きてきたのだろう。いや、どちらかというとわたしの方が異星人か。
少しくらいのキャラ作りはしている。配信ではもっとはしゃいでいるし、もっと声を伸ばすし。だけど、素の部分。パーソナルな部分をさらけ出す事に、躊躇がない。──容赦がない。
これは勇気のあるなしとか、臆病とか、そういう話じゃあない。
演じる必要がないほど──この子自身が。この子の人格そのものが、コンテンツになるという価値を。
「お姉さんは、好きな色ってある?」
「……好きな色」
皆凪可憐の衣装は、白いのが多かった。白とオレンジ、アクセントに深緑。でもそれはわたしの趣味じゃなくて、モデラーの趣味。HANABiさんではなく、MINA学園projectのクリエイターが作り上げたモデル。
HIBANaは真っ黒だ。影法師が良いと言ったのはわたし。だけど、影法師が良かったのであって真っ黒が好きというわけじゃあない。
好きな色。
「……無いかなぁ。色に対して、好きという概念が働かないというか」
「好きな食べ物とか」
「それも、特にないなぁ。強いて言えば美味しいものが好き」
「好きな天気は?」
「天気予報通りの天気」
自分の事をつまらない人間だ、とは思わない。単純に興味のある物以外に対して、好悪の感情がないだけだから。その分音楽に関しては強いこだわりがあるし、バーチャルについては長時間語れる、と思う。
それを、可哀想と思うだろうか。わたしを、助けてあげたいと思うだろうか。彼女は。
彼女は。
「じゃあ、お姉さん。私の事、好きですか」
「好きだよ。金髪ちゃんも、NYMUちゃんもね」
「やっぱり」
──ああ。そうか。だから。
「私ね、お姉さん。Vtuber始める前は、普通の子だったのです。配信もしないし、歌も録らないし、面白い事もやらないし。当たり前なんだけど、当たり前だった……普通だった」
わたしがNYMUちゃんに憧れた理由。
心が惹かれた理由。
この子が、界隈最大のファンを擁している理由。
「やっぱりすごいよ、金髪ちゃん。金髪ちゃんは、今でも普通を続けていられるんだね」
「うん。今の私にとって、今の私が普通なんだって、知ってるんだ」
凄くて、怖い。
あまりにも──眩しい。余りにも、尊い。特別なのだ。わたしは。わたしが演じているものは。わたしは、可憐も、HIBANaも、特別として演じていた。優劣じゃない。善悪じゃない。ただ、だから、という理由。
わたしもまた、普通に惹かれる人間だった。
「普通と特別の中間って何だと思う?」
「うーん……最高、かな」
「いいね。じゃあ、それで行こう」
最高のものを作ろう。それが、わたしとNYMUちゃんの中間であるのなら。
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──"異種族系Vtuberって9割が設定らしいな"という投稿を見て、思わずいいねを押した。
Vtuber、加えてバーチャルシンガーにも、人間じゃない人がチラホラいる。まぁ、設定。キャラクターとしての設定だ。バーチャルの良い所として、やっぱりモデルの多様さは外せない。人間ではありえない身長になったり、泡みたいになったり、分身したり、耳や尻尾が生えたり。
それらはすべてロールプレイという形で行われ、例えば尻尾の感覚。例えば変身の苦労。人間社会への不満など、「この種族だったらそういう事に不満があるだろうな」ということを、あらかじめ設定しておく。中にはリアルタイムで……喋りながら設定を考えて、それを矛盾なく整えられる天才もいるけれど、基礎の基礎のような下地は作っておくのが何かと便利だ。
HIBANaは影法師で、ファンアートから涙を流す髑髏の設定が加えられた。逆輸入というやつだ。これは使える、とHANABiさんが思ったらしく、設定画に髑髏時の姿が描き加えられていた。
「ボイスメモで使ったワタシっていうちょっと変な発音の一人称、どういうイメージで選びました?」
「んー……いにしえのドラキュラ伯爵、みたいな」
「なるほど」
HIBANaは配信活動をしない。だから、そこまで細かに作る必要はない……と思うだろう。思う人もいるだろう。
しかし、わたしもHANABiさんも──オタクだ。オタクは凝り性。
「折角だから動画のストーリー感とか出したいですよね。個人的にはあの動画はデビュー曲にして最終局面ってイメージです」
「じゃあタワーに辿り着くまでの道筋が次回作だね。それで、なんでタワーに行くかっていうのはまだ明かさない感じで」
「時に杏さん、確かスクリームできましたよね」
「出来るけど」
「次の、めちゃくちゃ悲しい感じにして、入れましょう」
「り」
こんな風に、設定を決めながら次回作の構想も立てていく。既に曲は出来上がっているらしいが、そこはHANABiさん。フレキシブルに要素を増減できる。その分ある程度練習した後の変更だとわたしへの負担がものすごいのだが、そこはそれ。より良い物を作るのに、苦労はいくらしたって良い。
「家族関係はどうします? あの何もない空間にいたの、誰にするとか」
「あれ、ぬいぐるみじゃないの?」
「ぬいぐるみでももちろん良いです。……ぬいぐるみにするのが一番丸いですかね」
「家族は、もう覚えていない、がいいかなぁ。その方が喪失の悲しみが大きそう」
「了解です」
イラストを一つ描くたびに三面図まで描いて、小物であればモデルに手を出す。効率がいいのか悪いのか、少なくともHANABiさんの中では楽らしい手法で小物の3Dデータが作られていく。
指輪の装飾までしっかりやる。綿密に。綺麗に。
金属加工の技術を持たなくても金属光沢のある指輪が作れる。材料もいらなければ設備もいらない。モデリングというのは、バーチャルというのは、本当に凄くて──冒涜的だ。
「時代劇の映画で、武士の刀っていう小道具を用意するとき、わざわざ刀匠に一本一本打ってもらうと思います?」
「まさか」
「つまりはそういう事です。材質は金属光沢のあるものならなんでも。音は後からの付けたし。形は適当。流石に八百万の神々も、3Dモデルには宿りませんよ。まぁ凄まじく上手く出来た作品をして神が宿る、なんて言う事はありますけども」
「替えが利くから貴重じゃない?」
「替えが利くってことは、需要があるってことです。世界に一本しかない伝説の剣を戦いで使えますか? 耐久値の概念アリで。無理ですよね。勿体ないと思ってしまう。勿体ないと思った時点で、物の価値は無になります。そんなものは売ってしまった方がいいですね。誰かほしい人がいるでしょうから」
ただの球体だった灰色が、段々と形を持っていく。これは、ブローチだろうか。灰色のブローチ。一目でわかるレプリカ。いや、元の物がないのだから、偽物ですらない。
それは膨らませられたり削られたりを繰り返し、だんだんはっきりとした形になる。ディティールがしっかりする。
「職人が必要とされるのは、その人じゃないと作れないからです。職人の信念とか、歴史とか、伝統とか、そういうのは別に必要ありません。それを芸術と捉えるなら話は別ですよ? そういう人はそういう価値観があるので放っておいて問題ありません。とにかく、職人の技術を何かで代用できるのなら、職人に頼る必要がないんです」
縁の部分が黄色に塗られた。チープな黄色。しかしそれは、オレンジや白、メッシュなどが付け足されて……黄色から、金に近づいていく。ツヤ。光沢。影。そして、傷。
材質だけでなく、歴史まで作られる。仮想とはそういうものだと。
「ものづくりの技術って、大体の部分が耐久力とか、鋭敏さとか、まぁ硬さがメインになりがちなんですよ。硬度です。硬いだけじゃなくて、柔らかいも含む、硬度。ところがバーチャルには硬さの概念が必要ありません。モデルとして強固かどうか、って概念はありますけど、現実の硬度とは全くの別概念です」
今度は宝石の部分。緑色をベースに、透明感と奥行き、グラデーション。研磨された宝石の艶やかさも、縁付近の削れ具合も、周囲の映り込みも。さらに仄かなグロウ……光を発する仕様を加え、それ自体に何かが宿るように見せる。
「ですから、人類が培ってきたものづくりの技術は、ほぼ全て、バーチャルで簡単に再現可能です。昨今のVtuberのステージは読み込みなんかの関係上ベタ塗り……アニメチックになりがちですけど、楽をせずにリアリティを追求すれば、ほとんど現実と変わらない物体を作れますよ。その分時間はかかりますけど」
縁の金属に何やら文字を刻むHANABiさん。
作り上げられたそれは、大きさの微調整ののち、ぬいぐるみの首へと付けられた。エメラルドだろうか、大粒の宝石がついたブローチだ。
「限られた材料で再現を努力する小道具さん達も凄いとは思いますけどね。ただ、その努力をスキップできるのがバーチャルというだけで。どっちがいいかは知りませんけど、こっちの方が楽ですから。苦労しないで作られたものに価値はない、なんて言う人には時代遅れのレッテルを貼ってあげますよ。バーチャルは見た目の世界ですからね。結果がすべてです」
「苦労して結果が得られたらそれでいいし、苦労しないで結果が得られても別にいいって話であってる?」
「苦労しないで結果が得られる技術をVR界隈は評価する、が一番近いですかねぇ」
スパゲッティが煙たがられる、みたいなもんですよと、HANABiさんは笑う。
作られたブローチが再度出現する。それはコピーされ、増やされていく。他のエフェクトをかけたり、色相を変えてみたり、明るい場所や暗い場所で見てみたり。
本来は倍々の工程が必要なソレを。
「本来できない事が出来るのがバーチャルだって事ですよ。異種族の誕生も技術の短縮も同じことです」
「なるほど」
「これと似たものをHIBANaにもつけようと思うんですけど、杏さんって何色が好きなんですか?」
唐突に来た。
NYMUちゃんにも聞かれた。同じことを言う。
「……そこ、穴にしよう。金属部分は残して、空洞。そのままHIBANaの体も空洞で」
「ふむ。なるほど、それは……いいですね」
やめた。好きな色は無い、と答えるより、こっちのほうが良いと思った。
だって、折角バーチャルなんだし。無色の宝石はあると思うけど、胸骨に大穴が開いている人は中々いなそうだ。耳や口にピアス穴を開けている人くらいはいるだろうけど。
そこには無が嵌っているのだろうか。
「そもそも人間にします?」
「……デュラハンとか良いなって思ってる」
「ほう。影法師で、デュラハーン。影が晴れたら髑髏で、その髑髏もぽろりと落ちて……あ、じゃあ胸骨の穴から声が出ている風にします?」
「どっちも動くようにしよう。ただ、胸骨の穴の方は縦横変えて、少ししか動かないようにして」
どんどん設定が増えていく。もはや文化祭の前準備だ。ノリはしたけど、胸元の穴から声が出るってちょっとキモち悪くないか、とか思ってない。まったく。これっぽちも。欠片も。メイビー。
可憐の時に使っていたASMR用マイクで音を収録したら面白そうだな、とか思ったり。普通のスピーカーだと音の再現が出来なそうだなぁ、とか思ったり。
「ストーリーの方はこちらで書いてしまっても問題ありませんか?」
「うん。お任せする」
「了解です」
わたしはあんまり、ストーリー性というものにこだわりがない。わたしの歌を聞いて、聞いた人が勝手に何かを受け取って、勝手に背景とかを想像してくれればいい。HANABiさんの事だから伏線だの示唆だのをいっぱい仕込むつもりなんだろうけど、まぁそういうのは頭の良い人にお任せする。
出来る人が出来る事をやればいいと思う。
「NYMUちゃんとのコラボ、チェック終了して提出済みなんで、多分明日か明後日には投稿できると思います」
「ん」
「MINA学園projectの二周年記念もあと少しで開催ですね。リアタイするんですか?」
「んー……まだかんがえちう」
「もしリアタイするんだったら、ウチで見てってください。例の巨大液晶がようやく使えそうで割とウキウキしています」
「行けたら行く」
「来ない奴じゃないですか」
なんだろう、胸騒ぎがする、というか。
どうにも──わたしとMINA学園projectの縁が切れていなそう、というか。
遥香さんが、あんまりにも素直すぎて怪しい、というか。
もやもやした第六感のようなものを抱えて、あと眠いので、二月最後の日は静かに更けていくのだった。
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