ヴァールハイト・プリキュア   作:32期

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ごきげんよう、32期です。今回からスイートプリキュア編……とは行かず、今回はキュアザートこと”麻琴 旭”の過去を書いていきたいと思います。何故、彼女がAqライトを使えるのか?駆、そしてベガこと”オリヒメ”との出会いとは……そんな感じで書いていきます。注意として、こちらは第二十九話の後を描いておりますので読む前にしっかりそちらをお読みになってからお願いします!では、お楽しみください!

9月17日はキュアダイアモンドこと”菱川 六花”ちゃんの誕生日でしたね。私の推しキュアことキュアハートとペアであることが多い彼女……漫画版読んでると、まこぴー登場時のジェラシーや、アニメ本編未登場の私服とか……すっごいかわいいんですよ!間違いなくドキドキでは一番人気なんじゃないですかね……。と、いう訳で……お誕生日おめでとう、六花ちゃん!まあ、その次の日に”同じ声”をした元スターライトクイーンの誕生日も祝ったし……もういっそ”寿さん”の方を祝ってしまおうかな。


アカシック・プリキュア編
プロローグsideザート:出会う三ッ星。アルタイル、暗闇に散る……


旭(ここは……どこ?)

 

 暗い闇の中で漂う私……”麻琴 旭”は現在の状況を確認するために、自分に起きた事を思い出す。

 

旭(そうだ……駆君のAqライトがバッドエンドシードに暴走させられたのを私が一時的にAqライトを取り込むことで抑えて……その後の記憶がない。多分だけど、駆君の膨大なAqライトを取り込んだせいで気を失ってしまったんだ……それじゃあ、ここは夢の中……って事なのかな?)

 

 思い出してきた……私はスマイルプリキュアの時代で戦っていた駆君が、そのコピーであるバッドエンドシードによってバッドエナジーを植え付けられ、Aqライトを暴走させられたのを止めるために、駆君のAqライトを一時的に取り込んだ。……しかし、まさかそれで気を失うなんて思わなかった……だって私が取り込めたのは、駆君のAqライトの”二割”程度……それだけで私が耐えられないなんて思ってなかったからだ。

 

旭(それにしても……夢か。もう……ずっと見てなかったかも知れない……ん?あれは……?)

 

 夢の中の暗闇を漂い続けていると、奥の方で光るものが見える……近くまで寄っていくと……そこには、”あの日”の光景がそのままの形で残っていた。

 

旭(これって”私の記憶”?この景色は……転校してきた日だ!それに、これだけじゃない……もっとあるみたい)

 

 空間に広がる私の記憶……それは”私がいた世界”での思い出。私の人生を変えた……変えようのない思い出たちだ。

 

旭(……久しぶりに、思い出してみようかな……忘れた事なんて無いけど……ね)

 

 私は、そう言って……暗闇に広がる思い出を……一つ一つ、振り返ることにした。

 

 

2019年4月1日 多田織市 麻琴家

 

旭『制服……よし!カバン……よし!筆記用具……よし!新しい髪型は……ちょっと物足りないかな?そうだ……新しいひまわりの髪留めで……うん、良いかも!』

 

 懐かしい……引っ越してきた私は、家にいる時に持っていくものの確認をしていた。新しい髪型……今まで子供っぽかった三つ編みを止めて、セミロングまで切ったけど……何か物足りないと思って、転校した時に前のクラスのお友達からもらった”ひまわりの髪留め”を付けたんだ。茶髪で明るい私の髪に似合うと言って送られたもの……ちゃんと覚えている。

 

真昼『旭、何してるの?そろそろ行かないと遅刻しちゃうんじゃないの?』

 

旭『えっ?わぁ~!?もうこんな時間!?い、行ってきます!!』

 

 そう……焦って走り出して、学校まで行って……そこで出会ったんだよね……”二人”に……。

 

 

多田織市立 満星学園

 

旭『はぁ……はぁ……良かった~……間に合った~。も、もうちょっと……職員室まで……ッ!?あ、あぶない!?」

 

長い黒髪の少女『えっ?……きゃあ!?』

 

旭『うわ~~~!?』

 

 学校に間に合った……そこで落ち着いていればよかったのに、何故か職員室にも急いで行こうとしちゃったから……走り出そうとした時に、目も前に女の子がいるのに気が付かなかった……でも、今はそれがよかったって思ってる。だって……それで、”オリヒメちゃん”に出会えたのだから……。

 

オリヒメ『ちょっと……どこ見て歩いて……じゃなかった、走ってるの!もしかして……私が”白鳥 オリヒメ《しらとり おりひめ》”と知って、わざとぶつかったの!?』

 

旭『え、え~!?わ、わざとじゃないよ!それに、”白鳥 オリヒメ”なんて……し、知らないよぉ!?』

 

オリヒメ『えっ?……本当に……知らないの?』

 

 あの時の私は……本当に知らなかった。彼女が、今を時めく人気アイドル……”白鳥 オリヒメ”ちゃんだったなんて……本当に、分からなかったんだ。

 

旭『えっ?……う、うん……えっと、有名なの?私、テレビとかあんまり見ないし……流行とかも疎いし……お友達に”ホントに今どきのJCなの?”って……よく言われちゃうんだ』

 

オリヒメ『ふ~ん……ねえ、あんた……名前は?』

 

旭『えっ?……わ、私は旭……”麻琴 旭”……です』

 

オリヒメ『アサヒ……ねぇ……うん!気に入った!それじゃあ、私が職員室まで行くのについてこさせてあげる!よ~し……いくよ~!!!』

 

旭『ええっ!?あ、あの~~~!?待ってよ、白鳥さん!?』

 

 そう……それで職員室に着いて、お互い転校生だって分かって……転校早々に、お互い友達になったんだよね。……そして、教室で自己紹介をした後……私たちは、”彼”に運命的な出会いをしたんだ。

 

 

多田織市立 満星学園 2年A組 下校時間

 

男子生徒1『ねえ、白鳥さん!よかったら……サッカー部のマネージャーにならない?』

 

男子生徒2『ふざけんな、須藤!し、白鳥さん!ぜ、是非、野球部のマネージャーに!』

 

女子生徒1『うわ~!!!本物の”ベガたん”だよ~!!!あ、あの!握手して!それからサイン頂戴!!!』

 

女子生徒2『あーーー!ずる~い!!ベガたん、私にも頂戴?ねえ、いいでしょ!?』

 

オリヒメ『……うっざ』

 

 あの時、オリヒメちゃんは……アイドル”白鳥 オリヒメ”……愛称〈ベガたん〉として関わって欲しくなかったんだよね。オリヒメちゃんは……ただ、普通の女の子として学校生活を楽しみたかったから……だから、アイドルとして接しない私を……友達にしてくれたんだ。

 

オリヒメ『……あっ!アサヒ、丁度良かった!一緒に帰ろ!よし行こーーーーー!!!』

 

旭『ふぇ~~~~~~~~!!!!!白鳥さん、引っ張らないで~~~~~~~~!!!!!』

 

男子生徒1『あっ!?待って、白鳥さん!!』

 

女子生徒1『待って!ベガたん!!!』

 

待って~~~!!! 追いかけろ!! アイドルの”白鳥 オリヒメ”だってよ! 嘘、ベガたんが!?

 

 あの恐怖を……絶対に忘れない……。

 

ドドドドドドドドドドドドド!!!!!

 

旭『な……何、この音……?……ッ!?』

 

『『『『『白鳥さ~ん(ベガたん)!!!待って~~~~~!!!!!』』』』』

 

旭『ふわぁ~~~~~~~~~!?!?!?!?』

 

 あの……人生最悪の鬼ごっこの事を……。

 

オリヒメ『んも~!!!しつこい!!!……あっ!ここに隠れよう!』バンッ!

 

 廊下の曲がり角……そのすぐの所にあった教室。そこが……私たちが”彼”に出会った場所……”天体観測同好会の部室”だったんだ。

 

 

多田織市立 満星学園 天体観測同好会 部室

 

オリヒメ『ここに隠れよう!』バンッ!

 

黒髪の少年『……誰?入部希望者?』

 

 そう……この時出会ったのが……”駆君”だったんだ。

 

オリヒメ『げっ!?人いたんだ……万事休すかも……』

 

旭『ひっ!?も、もうそこまで来てるよ……』ぶるぶる

 

駆『……追われてるの?……奥にある教卓の下、そこなら……二人位なら隠れるよ』

 

 私たちは、駆君に言われるまま教卓の下に隠れたんだ。そして、駆君は教室の中に入って来た他の生徒達に嘘の情報を話し、私たちを救ってくれた。

 

駆『……もう出て来ていいよ。……はぁ……今日は人が馬鹿みたいにいっぱい来るな……』

 

旭『あ、ありがとう……えっと、何君?』

 

駆『……時生、”時生 駆”……二年』

 

オリヒメ『まあ、お礼位は言ってあげる……言っておくけど、サインはあげないから』

 

駆『はっ?いらないよ……知りもしないヤツのサインなんか……』

 

 この一言……オリヒメちゃんが駆君を気に入った理由なんだよね。……アイドルとしてじゃなく、”普通の人”として接してくれたから。でも、まだこの時は……”好き”ではなかったんだよね、オリヒメちゃん……。

 

旭『あ、ありがとう、時生君!白鳥さん、もう行こう……また人が来るかも……』

 

駆『えっ?何帰ろうとしてるの?』

 

旭『へっ?』

 

駆『助けたんだからさ……僕のお願いを一つ聞いてくれないかな?』

 

旭『お、お願い……?』(えっ!?も、もしかして……いやらしい事されちゃう!?)

 

 そう言って、私たちの前に出したのが……入部届だったんだよね。あの時は、まだ駆君の事分かってなかったから……怖かったのもあるけど、あんな事考えてたのが恥ずかしい。

 

駆『助けた代わりと言っては何だけど……この”天体観測同好会”の部員になって欲しいんだ。あ、入部したからと言って……この部室に来る必要はない。同好会の存続には部員”3名”の署名があればいいだけだから……名前だけ貸してくれれば、幽霊部員でもいい……もし断るなら、ここで”白鳥 オリヒメ”がいるって叫ぶけど……』

 

旭『そ、それ……”脅迫”じゃない!?』

 

駆『さあね……でも、断る気はなくなったでしょ?もう一回、さっきの大群と鬼ごっこする?』

 

旭『ひ、卑怯だよ!?白鳥さん、こんな人(入る!!)……へっ?』

 

オリヒメ『私……入部する!!それでいいんでしょ……カケル?』

 

 そのあまりにも突然、かつ勢いだけの即決は、私も……そして入部せざる負えない状況まで作った駆君さえも、一瞬困惑していた程だ。

 

駆『そ、そう……分かった。という訳で……ここに名前を書いて』

 

オリヒメ『うん!サラサラサラ~……はい!ほら、アサヒも書く!』

 

旭『ええっ!?……分かったよ、白鳥さんを危険なめに合わせられないし……これで良いの?』

 

駆『契約成立……それじゃあ、出て行って……』

 

ドンッ!!!!!

 

旭『きゃあっ!?な、何……地震?』

 

駆『いや……揺れが近すぎる』

 

オリヒメ『校庭の方から……行こう、カケル!アサヒ!きっと何かあったんだよ!』

 

駆『お、おい!?引っ張るな!』

 

旭『わわわ~!?待ってよ、白鳥さ~ん!?』

 

 校庭の方から伝わった衝撃……この揺れこそ、私たちが”ネツゾーン”との戦いに巻き込まれる事を告げるものだった。

 

 

満星学園 校庭

 

謎の男『ふ~む……この世界には、やはり”アカシック王国の使者”はいない……か』

 

オリヒメ『あっ!見て!あそこに変なやつが居る!』

 

旭『はぁ、はぁ……ほ、ホントだ……なんか……怖い感じがする』

 

駆『いや・・・・・それよりも変だ。生徒がいない、教師もいない……この状況は”異常”過ぎる』

 

謎の男『ん……?私の空間で動ける人間……ほう!こいつは運がいい!!お前たちは”特異点”か!!……しかし、何故”3人”いる?……世界に特異点は”2人”のはずだが……まあいい!!カイザーン様への手土産にしてくれる』

 

 私たちの前に現れた男……私たちが戦い始めた”ネツゾーン”の構成員……今でも忘れない。

 

駆『手土産にする前に……名乗ってもらえる?知りもしない奴に連れてかれるのも癪なんでね』

 

サギ―ド『ふっ!良いだろう……我が名は”サギ―ド”!誇り高き”ネツゾーン”の構成員にして、カイザーン様の忠実なる僕だ!』

 

旭『ネツゾーン?……何…それ?』

 

サギ―ド『知りたいか?なら教えよう……我らネツゾーンは世界を!時代を!思うままに書き換え、この世の全てを手に入れる事を目的にしている!その目的を可能とするのは、我らが君主……万物の改竄者”カイザーン”様を持って他になし!!!』

 

駆『カイザーン……世界や時代の書き換え……現実味がなさすぎるな……』

 

 駆君の言葉を聞いたサギ―ドは、なおも笑って話し続ける。

 

サギ―ド『はっはっは!そうだろうさ・・・・・お前たちには理解できんだろうな。そして奴ら……”アカシック王国”もそうだ……我らの邪魔をせんと動き出し、”こんなもの”まで生み出すとは……しかし、これが私の手に来たことは好都合だ!アカシック王国の使者”を追っているだけだったが……これを手柄に私も幹部になれる!あっはっはっはっは!!!!!』

 

駆『こんなもの?……あの手に持ってるものか?……よし!』(小声)

 

オリヒメ『……?カケル、何してるの?』

 

駆『ちょっと……良い事を思いついた』

 

 駆君はそう言うと、校庭に落ちていた大型の石を掴むと……笑っているサギ―ドに向かって投げる。

 

サギ―ド『あっはっはっは!!!あーーーーっはっはっは!!!!!』

 

駆『おい!こっち向け!!』

 

サギ―ド『あ~?ぐえっ!?』

 

駆『おっとっとっと!!これがその”アカシック王国”とかいう所が作った物?……スマートフォンか?』

 

 駆君が投げた石は、笑っていて油断したサギ―ドの顔面に当たり、手に持っていたスマートフォン……ううん、アカシック王国が作ったアイテム”Qaフォーン”を離してしまい……空中に投げ出されたQaフォーンは見事に駆君の手に収まったのだ。

 

サギ―ド『き、貴様!?か、かくなる上は……キエェェェェェ!!!!!』

 

駆『ッ!?ぐっ!!……なっ!?こ、壊された!?』

 

 校庭の地面に砂のようになって、原型もなくなってしまったQaフォーン……どうしようもないと思っていたその時、奇跡は起こったんだ。

 

駆『チッ!……これで何とかなると思ったのに……くそ!!!』

 

ピカ―――――ン!!!

 

サギ―ド『な、なんだ!?アイテムの残骸から……光!?あのアイテムは破壊したはずだ!?それに……この”黒い光”はなんだ!?』

 

旭『黒い……光?』

 

オリヒメ『綺麗……!』

 

駆『……さっきのスマートフォンが……”2台”になった!』

 

 今思うと……あの光は駆君の”Aqライト”だったんだ。その力で”Qaフォーン”を再構築し、その上”2台”にした……たとえ世界が違っても、駆君の絶望は大きすぎる……本当に……悲しいな……。

 

駆『……うん。二人共、これ使って!!』

 

旭『えっ!?うわっ!!……で、でもどうやって使うの!?』

 

オリヒメ『よっと!……ふ~ん、オッケー!使い方……分かった!!』

 

旭『えっ!?ど、どうして分かるの、白鳥さん?』

 

オリヒメ『ん~~~……分からないけど、分かるの!さあ、アサヒ……変身だよ!!!』

 

 そう……この瞬間こそ、私たちが……”ふたりのプリキュア”になった時。

 

旭・オリヒメ『『プリキュアプリケーション!インストール!!!』』〈タップ〉

 

ベーガ『未来へ輝く、星の姫!キュアベーガ!』

 

ザート『未来へ芽吹く、奇跡の苗!キュアザート!』

 

ベーガ・ザート『『アカシック・プリキュア!!!』』

 

ザート『……って、何言ってるの、私///!?それにこの格好……恥ずかしいよ///!?』

 

 私たちはこの日、”プリキュア”になった。そして、サギ―ドの出したガンサークを倒して……駆君、オリヒメちゃん、そして……私、三人の関係が始まったんだ。

 

 

旭の夢の中

 

旭(……この記憶はここまでか。……次は、これかな?)

 

 次に覗いた記憶の光景は……天体観測同好会の部室。この光景は……そうだ!駆君の……痛みと絶望に触れた日だ。

 

 

2019年5月1日 満星学園 2年A組

 

旭『オリヒメちゃん、今日はお仕事って言ってたな……。それにしても、時生君は……どこのクラスなのかな?』

 

 この学校に転校してきて一か月……オリヒメちゃんと共にサギ―ドの出すガンサークと戦い、少しずつ仲良くなって……私も名前で呼び合う様になった頃の事だ。オリヒメちゃんが部室まで勝手に引っ張って、駆君と合うだけだった私は……なぜかその時、この一か月間、”部室以外”で駆君に会ってない事に気が付いた。それで……クラスメイトの和澄ちゃんに、駆君について聞いたんだよね。

 

旭『ね、ねえ、水部さん……質問してもいい?』

 

和澄『ん?どうしたの、旭ちゃん?って言うか、和澄でいいよ~♪クラスメイトなんだから~!』

 

旭『う、うん……和澄ちゃん、”時生 駆”君って……どこのクラスか分かる?』

 

和澄『あ~……一応、このクラスなんだけどね……あいつ、殆どクラスに来ないんだ。なんでも議員の息子でそこらへん優遇されてるとか……その上、授業でなくても”学年一位”……全国模試も一位だから学校側も特別待遇とかった噂があるよ……それに、本人も”人と関わりたくない”って言って……一年の時から孤立してたし、それに成績が良すぎてさ……私たちも関わりづらかったからね。確か、一日中”天体観測同好会”の部室で何かしてるらしい……たまに、中で騒ぐ声が聞こえるって……なんでも”タネ”?がなんだとかって騒ぐんだって……。とにかく、旭ちゃんも関わらない方が良いよ……碌な事にならないから……あ、先生が来ちゃう!それじゃあね!』

 

旭『時生君、クラスメイトだったんだ……知らなかった……』

 

 和澄ちゃんから聞いた駆君の事……少しだけ変に感じた。一か月だけしか関わっていないけど……プリキュアとしての戦い方にアドバイスをくれたりしていた……確かに、部室に行くたびに嫌そうな顔をするし、私たちを脅したこともあったけど……私はそこまで”悪い人”には感じなかったからだ。

 

旭『部室……行ってみようかな?』

 

 オリヒメちゃんに関係なく、私の意志で部室へと向かう……何故か、駆君の事が気になって仕方なかった。そして、知ってしまったんだ……駆君を苦しめる”彼女”の影を……。

 

 

満星学園 天体観測同好会 部室

 

旭『し、失礼します……あれ?』

 

駆『すぅー……すぅー……』

 

旭『寝てるの?……んっしょ……こうやって寝てると、意外と可愛い顔してるんだな……』

 

駆『……ん?あれ……寝てたのか?』

 

 部室に入ると、駆君は室内にある机に倒れ込むように眠っていた。彼の隣のイスに座り、彼の顔を観察する……女の子みたいな顔立ち、サラサラの短い黒髪、綺麗な白い肌……男の子という事を疑う程に綺麗で……あの時は私も、女の子として自信を無くしそうだったな……あははっ。

 

旭『あ、時生君……起きた?もう放課後だよ』

 

駆『そう……て言うか、何でいるの?来なくていいって言ってるだろ……あれ?あの”うるさいヤツ”は……いないの?』

 

旭『オリヒメちゃん、今日はアイドルのお仕事でお休みだよ。それと私が来たのは……ここに来たかったから……です』

 

駆『物好きだな……言っておくけど、ここに来たって何もない……それから僕は人に関わりたくないんだ。僕が協力するのは”プリキュア”の事だけ……それ以外は何もしない』

 

旭『あ、あの……時生君は、どうしてみんなと仲良くしないの?一緒にお勉強とか、お弁当食べたりとか……楽しいよ?』

 

 私が話す楽しい学校生活の話、それを聞いた駆君は……まるで人を馬鹿にしたように大笑いした。

 

駆『くっ!ふふっ!!あっはっはっはっは!!!何それ!そんな”下らないもの”が楽しいの?』

 

旭『く、下らなくないよ!』

 

駆『下らないよ!そうやってのうのうと生きていれるのは……何も失うものがないからだ!何も失ったことがないから……そんな能天気な事が言えるんだよ!!』

 

旭『ッ!?……どうしてそんなこと言うの!?時生君だって……何かを失った事なんてないじゃない!!』

 

駆『お前……!!……ッ!?あ、ああ……あああああ!?!?!?』

 

 そう言って私に掴み掛かろうとした駆君は、私の後ろの方を見たと思ったら……まるで怯える様に声をあげる。私も何度後ろを確認してみても……何もない……なのに、駆君の視界はずっとそこを見たまま動かなくなっていた。……きっとこの時、見ていたんだよね……”彼女”を……。

 

旭『と、時生……君?』

 

駆『た……種!?ち、違う!!僕は……誰とも関わってない!!!こ、こいつだって……他人だ!!!友達なんかじゃないんだ!!!!!……えっ?……ち、違う!!近づこうとしたのは、こいつが!!!僕らの事を知りもしないで……分かってる!!!僕の大切な人は種だけだ……ッ!?止めろ!?分かってる……分かってるから……悪いのは僕だもんね……ごめんなさい……ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!ゴメンナサイ!!!!ゴメンナサイ!!!!!』

 

旭『な、なに……これ?と、時生君!だいじょう(寄るな!!!!!)ひっ!?』

 

 頭を抱えて、謝罪の言葉を繰り返す駆君……私が声を掛けて近寄ろうとした事で一瞬だが意識がはっきりしたのか……彼は机の上に置かれたカバンをあさりだし、そこからケースに小分けされた”錠剤”を取り出し……口の中に勢いよく入れ、持ってきていた水筒の飲み物で流し込んでいく。それから少しずつ落ち着いていき……駆君は壁にもたれ掛かりながら、床へと座り込む。

 

旭『と、時生君……今飲んだの……何?』

 

駆『はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……知らない方が……良い』

 

旭『で、でも……私、時生君の事……心配だよ……』

 

駆『……はぁ……今飲んだのは、即効型の”精神安定剤”。即効型は依存性が強いから、症状が出た時に飲むだけなんだけど……久しぶりにやばかったよ……ははっ』

 

旭『……どうして、そんなもの飲むの?』

 

 私の言葉を聞いて、ゆっくりと考え出す駆君……そして、悩んだ末にその答えを教えてくれた。

 

駆『僕は昔、ある事件に巻き込まれたことがあるんだ……その時、僕を庇ってある少女が死んだ……名前は”時生 種”、僕の双子の妹で……僕のかけがえのない存在だった』

 

旭『妹……さん?それって……でも、もういないのにどうして……』

 

駆『一種のPTSDみたいなものだよ……精神的ストレスによって、僕は”種”の幻覚を見るようになった……この薬はその幻覚に対しての薬なんだ。人に関わったり、触れようとする度に……種が目の前に現れて、”お兄ちゃんは私の命を奪ったのに……人と関わるの?”、”お兄ちゃんは人殺しなのに……そんな手で人に触れるの?”、”私を忘れるの?私を……見殺しにしたのに?”……ってさ、ずっと……ずっと!ずっと!!ずっと!!!頭の中で騒ぎ続けるんだ。……だから人と関わるなんてできない……僕が教室に行ったって、みんなを困らせるだけだ。だから……僕はここにいるんだよ』

 

旭『……ッ!!』

 

駆『えっ?麻琴、何を……?』

 

 私は、駆君の事を抱きしめていた……今にも壊れてしまいそうな彼を見ていられなかったから……。

 

旭『時生君……ごめんねっ!……私、何も知らなかったからぁ……酷いこと言って……ごめんねぇ……!』

 

駆『なんで……麻琴が泣くのさ?お前が泣く必要ないよ……て言うか……離れてよ』

 

旭『それでも……ごめんなさい!……ごめんなさい!!』

 

 私は泣いた……彼の行動全てが”誰かのため”なのに……誰よりも他人を思う優しい人なのに……私はそれを理解しないで責めてしまった……だから、少しでも謝罪したくて謝り続けた。そして……この時、私は決めたんだ!彼が……駆君が一緒に笑えるようになるために!

 

 

旭の夢の中

 

旭(……あの時から、もっといろいろなことがあった。駆君が教室に来るようになって……オリヒメちゃんのライブに行って、オリヒメちゃんが駆君と……付き合ってるとか公言したり……本当にいっぱいあったな……)

 

 旭は夢の中に広がる光景を見ながら、多くの思い出を振り返る。そして……記憶も残り二つまで来た。

 

旭(ここは、学校の屋上……駆君との……最後の思い出の場所……)

 

 

2019年8月1日 満星学園 屋上

 

旭『あっ……駆君、お待たせ……”星”……よく見える?』

 

駆『ん?……ああ、今日は星がよく見える……天体望遠鏡もバッチリだよ。……オリヒメは遅れるんだよね?』

 

旭『うん、歌番組の収録だって……でも、間に合うって言ってたし大丈夫だよ』

 

駆『そうか……まあ、ゆっくり待とう。夜は長い……それだけ星も姿を変える……その分も楽しめるさ』

 

 夏休みを利用した学校での天体観測……天体観測同好会の活動という事で学校から許可を貰い、実施することになった……初めての活動。お仕事で遅れるオリヒメちゃんを待ちながら、私たちは夏の夜空を眺める。

 

旭『綺麗……これは何座?』

 

駆『あれは、さそり座……有名なオリオン座が冬の星座なのに対し、さそり座は夏の星座なんだ』

 

旭『へぇ~……駆君、本当に星に詳しかったんだね』

 

駆『伊達に”病室”で……眺めていた訳じゃないさ』

 

旭『ッ!?……ごめん』

 

 あの一件から駆君の事をたくさん知った……生まれた時から病気だった事も、大好きなものが”星”だって事も……。それでも私は駆君を理解できていない……この思い出を超えてきた……”今の私”でさえも……だ。

 

駆『謝らないでよ……もういいって……。頼むからそんな悲しい顔しないで……僕を救ってくれる麻琴らしくないよ……』

 

旭『私……確かに駆君を救うって思ってる。でも、いつも助けられるのは私ばかり……本当に情けないよ』

 

駆『僕は……そんな風には思ってないよ』

 

旭『でも……!』

 

駆『”でも”、じゃないよ……仕方ないな、良いもの聴かせてあげるから……良く聴いててよ?……すぅ~……ラーラーーーララーーーララーーーララ……ラーーーララーーーララ……ラララララーーーラララララーーー……ラーラーーーララーーーラーラーーーラ……』

 

 落ち込む私に向けて送られた……駆君の歌。彼の澄んだ優しい声によって紡がれる歌は……まるで”星”を思わせるものだった。今だって……彼の声は、歌は……私の心に強く刻まれている。

 

旭『その歌は……?』

 

駆『……”星の歌”……僕にとって大事な歌で……他人に歌うのは、麻琴が初めてだよ』

 

旭『えっ///?』

 

駆『僕を救い、変えてくれたのは……君だ。本当はもっと……麻琴にお返しがしたいんだ……だから、何か”願い事”があったら言ってみてくれないかな?……何でもいいよ!遠慮しないで言ってみて!』

 

 駆君が私に何でもしてくれる……そんな魅力的な申し出が出された時、私の中にはただ一つの願いしかなかった。それが……オリヒメちゃんを”裏切るモノ”だって……分かってたのに……。

 

旭『……して///』

 

駆『……えっ?』

 

旭『今だけ……駆くんの”恋人”にして///!』

 

 私はオリヒメちゃんが……駆君の事が好きだって”知ってた”。私も……そんなオリヒメちゃんを応援するって言ってた……なのに……私も駆君の事がどんどん好きになって……もう我慢できなかった。

 

駆『ッ///!?……”今”だけでいいの、”旭”?』

 

旭『えっ///!?そ、それは……”ずっと”の方が良いけど///……あれ?い、今……”旭”って///!?』

 

駆『恋人なら……名前で呼ぶのは……”普通”でしょ?』

 

旭『わ……分かんない///……ど、どう……なのかな///?』

 

駆『し、知らないよ///』

 

 私と駆君は……”恋人”みたいに話したり、お互いを名前で読んだり、そうする度に……心臓がドキドキして、心がポカポカして……すごく幸せだった……あの瞬間までは……。

 

旭『か、駆君!手……繋いでいい///?』

 

駆『ッ!?……ああ……どうぞ///』

 

旭『ど、どうも///ふわぁ……駆君の手……温かいね///私……駆君の手……好きだな///』

 

駆『ッ!!』

 

旭『ひゃっ///!?か……駆君///』

 

 駆君に押し倒されてしまう私……握り合った私の右手と彼の左手は恋人繋ぎのまま、空いた彼の右手は私の顔の横に……少しずつ彼の顔が、私の顔に近付いてくる……その時……。

 

オリヒメ『ごめん!!遅くなっちゃって……え?』

 

駆『オリヒメっ!?』

 

旭『えっ!?お、オリヒメちゃん!こ、これは……!?』

 

オリヒメ『……ッ!!』ばっ!

 

旭『ま、待って!オリヒメちゃん!!』

 

 私と駆君がキスしようとする瞬間を見てしまったオリヒメちゃんは、涙目になりながら出口から屋上を後にする。それを見た私も駆君の手を振りほどいて……オリヒメちゃんを追いかけ階段を下っていく途中、階段の踊り場でオリヒメちゃんが足を止めているのを見つけ……私はゆっくりと近づいた。

 

オリヒメ『……ッ!……ぐすっ!』

 

旭『……オリヒメちゃん』

 

オリヒメ『・・・・・・嘘つき』ボソッ

 

旭『えっ?』

 

オリヒメ『アサヒの嘘つき!私の事……応援してくれるって言ったのに!!私がカケルの事好きなの……知ってたのに!!!……酷いよぉ……そうやって私の事を騙してたんだ!!!私の事騙して……笑ってたんでしょ!?』

 

 私に向けられたオリヒメちゃんの怒りの言葉……その言葉に私は、どう返していいか分からなかった。だって……オリヒメちゃんの言っていることは”事実”だったから……オリヒメちゃんが駆君の事を好きなのも、応援すると言った事も……間違いではなかったから。

 

旭『わ……私は……!』

 

オリヒメ『アサヒは……カケルの事、何とも思ってないくせに……私からカケルを捕ろうとしたんだ!身体まで使って……誘惑して!……いやらしい女!!恥を知りなさい!!!』

 

旭『違う!私だって……駆君が好きなんだよ!!それに、駆君は私を……私を選んでくれたんだから!!!』

 

オリヒメ『……えっ?』

 

駆『はぁ……はぁ……お、オリヒメ……』

 

 駆君も追い付いてきて、三人が揃う……私の言葉を聞いたオリヒメちゃんは、駆君を見て……問いかける。

 

オリヒメ『カケル……カケルは私じゃなくて、アサヒを選ぶの?”あの日”……一緒に見た天の川は?一緒に行った花畑は?……”わたくし”を助けてくれたのも……全部、嘘だったの?……答えて、”アルタイル”……わたくしの……”彦星様”……!』

 

駆『・・・・・・ッ!』

 

 駆君は、オリヒメちゃんの言葉に目を逸らす。それを見たオリヒメちゃんは……より一層、大粒の涙を零す。

 

オリヒメ『嘘つき……二人共、私を騙してたんだ……酷いよぉ……くっ!!!』

 

駆『オリヒメっ!!』

 

旭『オリヒメちゃん!!!』

 

 走り去るオリヒメちゃんの背中を、私たちは眺める事しかできなかった……これが、3人でちゃんと話し合えた最後の会話になるなんて……この時は思いもしなかった。さあ……最後の思い出、私たちの……”別れの時”だ……。

 

 

2019年8月2日 満星学園

 

カイザーン『ここまでだ……はあ!!!』

 

ベーガ『ッ!?ザート!!!』

 

ザート『ぐっ!?……はぁ……はぁ……あっ!ベーガ!?』

 

ベーガ『あ、ああああああ!!!』

 

カイザーン『ほう……良い力だ。気に入った……お前を改竄してやろう!私の……”駒”としてな!!』

 

 あの一件から次の日、突如として世界は闇の覆われた。世界に残されたのは……私たち3人……そして、私たちの前に現れたサギ―ドと……ネツゾーンのボス”カイザーン”……その力の前に私たち”アカシック・プリキュア”は成す術もなく敗北し、ベーガ……オリヒメちゃんもカイザーンに捉えられてしまう。

 

ベーガ『あ、ああああああ!!た、助けて……カケル!……カケル!!!』

 

カイザーン『無駄だ……ん?ほう……”トキオ カケル”か!……しかし、”オリジナル”ではないか……そしてキュアザート、お前は弱い……不要だな……”消して”やろう!さらばだ、プリキュア!!!』』

 

 私に向かって放たれるビーム……その威力は凄まじく、一撃で世界すら滅ぼす程だっただろう……私はその攻撃とカイザーンに恐怖してしまい、跪いて動くことすらできない……そんな時、”彼”は私の前に出て来た。

 

駆『旭を……消させるかああああああああああ!!!!!』

 

ザート『ッ!?駆君!!ダメ……そんなことしちゃダメ!!!ダメえええええええええ!!!!!』

 

駆『うおおおおおおおおおお!!!!!』

 

ドーーーーーン!!!!!

 

 私たちの前で起こる爆発……計り知れない威力のはずなのに、私に傷はなかった。なぜなら……私の事を包む黒い光……”Aqライト”が守ってくれていたから。しかし、それは駆君のもの……守られていたのは……”私”だけ……。

 

駆『がっ!……はぁ……はぁ……な、なんだ……結構……出来るじゃないか……』

 

ザート『か、駆君!駆君、しっかりして!!……な、なにこれ!?身体が……”消えてる”!?』

 

 身体中ボロボロになって、地面に倒れる駆君……そこに近付いて状態を確認していると、徐々に身体が黒い粒子となって……空間に消え始めていた。

 

駆『……ここまでか……これでお終いか……”良かった”……これで……やっと楽に……なれる』

 

ザート『駆君!そんなこと言わないで!!いなくならないで!!!いなくなっちゃ嫌だよぉ……駆君!!!!!』

 

駆『あっ……”種”……迎えに来てくれたの?でも、耳を塞ぐなって……何にも……聞こえない……よ……』

 

ザート『駆君!!お願い……消えないで!!!』

 

駆『はっ……目隠しまで……するなよ。何にも……見えないよ……』

 

 あの時、駆君が……”良かった”って言ったのは、自分が消えることをずっと……”望んでいた”からだったんだね……。あの時は理解できなかった……でも、私の傍に……いて欲しかったよ。

 

ザート『ッ!!……お願い、種さん!お願いだから……駆君を連れて行かないで!!!私の……私の邪魔をしないでよ!!!』

 

駆『仕方ないか……皆、いないもんね……でも……もし会えるなら……』

 

ザート『駆君っ!!!!!』

 

駆『”サヨナラ”を……言わないと……なぁ……種……』

 

・・・・・・シュンッ

 

ザート『……あ、ああ!!嫌ぁ……!嫌ああああああああああ!!!!!』

 

カイザーン『愚かな……もう良い。サギ―ド、後はお前の好きにしろ……任せたぞ』

 

サギ―ド『御意!』

 

 カイザーンはオリヒメちゃんを連れていき、開いた次元の裂け目へと消える。

 

ザート『ぐっ!返して……返せ!!オリヒメちゃんを……駆君を返せ!!!返せえええええ!!!!!』

 

サギ―ド『うるさい女だ……お前とは長い縁だな。だからよく知っているよ……ベーガの後ろに隠れ、援護しかできないお前の事もな!!ベーガなき今、お前を守る者はいない!!!ここで消してやる!!!キエェェェェェ!!!!!』

 

 膝を付く私に向かって攻撃を仕掛けてくるサギ―ド……しかし、その攻撃は当たらない。何故なら……あの”力”が……私を守ったからだ。

 

ザート『これって……駆君の?……ううん、私のだ……これは、私の力だ!お前たちを”消す”……私の力だ!!!』

 

 私から漏れ始める黒い光……”Aqライト”。何故か名前が分かったんだよね……そして使い方も……初めてプリキュアになった時、オリヒメちゃんが言っていたことが、この時は分かった気がする。

 

サギ―ド『な、何だこの力は!?また……あの時の黒い光か!何度も何度も……不愉快なんだよ!!!』

 

ザート『あなたに用はない……私の敵は、カイザーンだけなんだから!!!』

 

 握ったQaフォーンを私のAqライトが書き換えていき……漆黒のアイテム”Aqフォーン”が完成する。分かる……全部わかる……この力がどんなものかも……相手を倒す方法も……何もかも……そう、私はあの時……全てを理解したんだ。信じられない程に……私はAqライトと同調している……だから、理解できたんだろう。

 

ザート『プリキュアプリ!インストール!!!』〈タップ〉

 

サギ―ド『消えろよ!プリキュアあああああ!!!』

 

ザート『プリキュア!アーク・レイ・ザーーーーート!!!』

 

サギ―ド『そんな!?この私が……消される!?か、カイザーン様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

ザート『私の前から消えろ!!ネツゾ―ン!!!!!』

 

 私は……この力でサギ―ドを消滅させた。でも……この世界は闇に覆われたまま……クラスのみんなも、お父さんとお母さんも……駆君もいなくなってしまった……でも……!

 

ザート『オリヒメちゃんは……まだ生きてる!あのカイザーンを消せば……きっと!』

 

 これが……本当の始まり。私がネツゾーンを……カイザーンを倒し、オリヒメちゃんを助けるための戦いが始まった日。それから私は世界を渡り始めた……いろいろな世界にあるカイザーンとネツゾーンの手掛かりを求めて……そんな時に、ある気配を感じたんだ……私と同じ”絶望”の気配……そして、もういないはずの……”彼”の気配を……。

 

 

プリキュアカーシャ 旭の部屋

 

旭「……ふわぁ……ここは……駆君たち船の中?」

 

 全ての思い出を振り返り終え……私は目を覚まし、現実の世界へと引き戻された。ベッドで寝かされていた私は着ていた服を脱がされており、今は下着だけを身に着けている状態……部屋の中は無機質な白の壁紙に、机と椅子があるのみ……そんな中で椅子に座っている人影があり……その人影の主は、他ならぬ”駆君”だった。

 

旭「ッ!?……か、駆君///!?……あれ?寝てる……の?」

 

 どうやら……彼は眠っているようだった。暗闇で良く見えないが、机には水が入った洗面器が置かれており……彼の手には濡れたタオルが握られていた。

 

旭「看病してくれてたんだ……ふふっ……ありがとう、駆君」

 

起きた?お兄ちゃんが遅くまで看病してたかいがあった……”旭ちゃん”

 

 今まで椅子に座って寝息を立てていた駆君が、突如として言葉を発する。しかし、”お兄ちゃん”と言った事、私を”旭ちゃん”などと不愉快に呼ぶのは……”彼女”だけだ。

 

旭「妹さん……ね。駆君は……寝てるの?」

 

種「うん……ざっと数えて8時間くらい看病してた。戦闘とAqライトの暴走の反動だってあるのに……”旭ちゃんの安全を優先する”だって……」

 

旭「そう……妹さん、あなたに頼むのは癪だけど……駆君に”ありがとう”って伝えて欲しいの。私は……もう行かないと……」

 

種「待って!お礼は自分で言って!それから……お願いもあるの!」

 

旭「……”お願い”?」

 

 妹さんから駆君が長い時間看病してくれたことを聞いた私は、これ以上の迷惑を掛けられないと思いアカーシャから出ていこうとするが、それを妹さんに止められてしまう。それにしても……彼女の言う”お願い”とはなんだろうか?

 

種「お兄ちゃんと……一緒に戦って欲しいの!」

 

旭「……そのお願いは前にも断ったはずよ。私は……あなたと一緒にいたくないって」

 

種「私は良いの……それに言ったよ”お兄ちゃんと一緒に戦って”って……」

 

旭「自分の事は放っておいて良いって事?」

 

種「うん。旭ちゃんは……Aqライトを使えるんでしょ?だから……この前の戦いみたいにお兄ちゃんがAqライトを暴走させられちゃうかもしれない時に……旭ちゃんがいてくれれば、お兄ちゃんが助かるし……旭ちゃんの”お兄ちゃんを助けたい”って事もできるでしょ?」

 

 つまり私に……”駆君を助ける役目として近くにいて欲しい”と言うことか……確かに、今回の様な暴走はAqライトをコントロールできる私がいる事で回避できるだろう。しかし、駆君のAqライトの出力は”未知数”だ……仮に私の方が”耐性”、”制御”が優れていたとしても、純粋なAqライトの”質量”で負けてしまい……止められないかもしれない。

 

種「私がもし”Aqライト”を使うことができるなら……少しでも止めたりできるかもしれないけど……私には出来ないんだもん!あの力が発動したら私の声だって届かなくなっちゃう!!お兄ちゃんを助けられるのは……もう旭ちゃんしかいないんだよ」

 

旭「……いいわ、その話……乗ってあげる」

 

種「本当!?」

 

旭「ただし……”条件”がある」

 

種「条件……?」

 

 私は彼女の目をしっかりと見て……条件を提示する。

 

旭「妹さん……あなたは、この戦いが終わったら……駆君の中から消えなさい」

 

種「ッ!?……どうしても?」

 

旭「彼の事を本当に思うなら……そうするべき。それに……彼の”未来”にまであなたは必要ないよ」

 

種「・・・・・・」

 

旭「種さん……私はあなたが嫌い。彼を死んだ後まで独占しようとして、私が彼に掛けた最後の言葉を遮った事も、彼が薬にまで頼らなければならない程に追い込んだ事も……あなたを好きになる要因はない。でも……あなたが、あの”星の歌”を作ったって聞いて考えたよ。あんなに優しい歌を考えられるあなたと、私が知ってるあなたは違うのかもしれないって……もしあなたが、駆君を本当に思える優しい人なら……駆君を解放しなさい……あなたの存在は彼の”重荷”になるだけよ」

 

 私の言葉を聞いてうつむく種さん。そして、考えがまとまったのか……彼女はゆっくりと顔をあげる……その表情は……”笑顔”だった。

 

種「……分かった。本当はね……お兄ちゃんが”死んじゃう時”までずっと一緒にいたいんだけど……仕方ないよね……しかたない……よねっ……」

 

 彼女の作った”笑顔”……しかし、その表情は言葉を紡ぐたびに……”泣き顔”へと変わっていく。

 

種「だって……お兄ちゃんは……生きてる……がら!……わだしは……しんじゃってるがら!」

 

旭「うん……」

 

種「だっで……ずっと……いっじょにいたいんだもん!!誰がに……わだしたくないんだもん!!」

 

旭「そう……それが……あなたの”本音”……なのね」

 

 漸く聞けた彼女の言葉……それこそが彼女の本音……彼女の本心なのだろう。

 

種「でも……でも!お兄ちゃんが……大事だがら!!まもりだいがら……しかた……ないんだよね……わだしが消えたら……良いんだよね?」

 

旭「ええ……そうよ」

 

種「ぐすっ!……分かった……お兄ちゃんを……お願いします……!」

 

旭「ええ……分かった。……ありがとう、分かってくれて……”種ちゃん”」

 

 私は……まだ泣き顔の彼女を抱きしめた。まだ彼女の全てを許せはしないけど……彼を大事に思う気持ちは、きっと一緒だから……。

 

旭「泣かないで……あなたは笑顔で……駆君と最後まで戦っていきなさい。その方が……きっと彼も支えられるはずだから」

 

種「……うん!」

 

旭「良い笑顔ね……それじゃあ、これからもよろしくね、種ちゃん。それから……オリヒメちゃんを一緒に助けようって言ってくれた時……少し嬉しかった、ありがとうね」

 

種「ッ!?……うん!お兄ちゃんとオリヒメちゃん……それからプリキュアさん……一緒に助けよう、旭ちゃん!」

 

旭「ええ!」

 

 笑顔で握られた互いの手。互いに救うべき者を思い……私たちは、同じ気持ちと共に戦うことを決めた。

 

 

プロローグ:ザート Side out……




いかがだったでしょうか?まあ、今回読んだ分だけだとオリヒメが言った事が分からないと思うので……次回は”オリヒメ”の話にします。スイートはその次かな……乞うご期待ください!

今回登場した”キュアベーガ”と”Aqフォーン”はキャラ設定の方に追加・更新しますのでチェックしてくださいね!

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