第六十二話:なんでもできる!なんでもなれる!フレフレわたし!【前編】
■■■■■■■■......dddddddddd......d……Continued!
プリキュアカーシャ 医務室
side:コルーリ
コルーリ「ふぅ〜……これがカケルの現状ですか」
——プチッ!
コルーリ「やはり、レクスとの戦闘で見せたエクストリームの更なる強化……アレの影響ですね。カケルの話とも合致します」
——プチッ!
コルーリ「一先ず、無理はしない事と……」
——プチッ!
コルーリ「そ、それから……」
——プチッ!
コルーリ「タネ!気が散るからやめて下さい!」
種「ふぇ?あ〜!ごめんね、コルーリ。探し出すと切りなくてさ……お兄ちゃんの白髪」
医務室でカケルのメディカルチェックをし、その現状を私はふたりに説明していたのだが、それを遮る"プチッ!"っと言う音が響く。その元凶は——タネだ。なんとタネは右腕のみプリキュアに変身し、カケルの黒髪に混ざった白髪を抜いていた。ここまでの音の原因はそれだ。
種「黒髪には戻ってきたけど、チラホラ残っちゃったんだよ。だから抜いてあげてるの!」
駆「だからって、部分的変身なんて器用な真似してまでやらなくて良いから。それにコルーリも……結果は分かってるから、手短で良いよ」
コルーリ「それ……寿命を減らした人が言って良い言葉じゃないですよ」
駆「そうしなければ超えられなかった……ごめん」
コルーリ「……それを分かってる私にその言い方は……卑怯チュン」
結論から言うとカケルはレクスに——未来の自分に勝つ為に、自分の"寿命"を使ったのだ。最後に見せたエクストリームの"タイム:バースト"は、プリキュアの力で強化する能力を自分の寿命で代用した強化だった。カケルの肉体は見た目なら13から14歳くらいだが——メディカルチェックで出た肉体年齢は約73歳。60年分の寿命を使ったと聞いたが、本当にこの様な結果が出て、私は逆に冷静になったくらいだ。
コルーリ「チチュン!……繰り返しますがカケル、あなたは移動時間に関しては休養に専念して下さい。能力使用の反動が消えていくのは、あなたの髪を見れば分かります。もしかしたら、寿命も〈ないよ〉……えっ?」
駆「人間にそんな都合が良い事はないよ。使った自分が一番よく分かってる。それも覚悟で使ったんだ……後悔はない」
コルーリ「ですが……タネは良いんですか!?カケルの命に関わるんですよ!?」
種「お兄ちゃんが、それが一番だと思ったんでしょ?タネの全部はお兄ちゃんの物だもん。私があげた命でも、お兄ちゃんがそうしたかったなら……それでおーけー!」
コルーリ「あなた達は……はぁ〜!全くもう」
私だって2人と一緒にいたから——2人がそう答える事はなんとなく分かっていた。しかし、カケルの命の火は燃え尽きる瞬間を早めた。これ以上、彼に負担を背負わせる訳にはいかない。
コル―リ「分かりました。しかし、この状態を維持する様には努めます。カケルもそれでいいですね?」
駆「勿論。これ以上は命を無駄に出来ないからね。それじゃあ、僕は部屋に戻って休むよ。到着まで時間があるからね」
種「またね、コルーリ!着いたら知らせてね!」
コル―リ「カケル!」
駆「……何?」
会話も一区切りした事で医務室を立ち去ろうとするカケルとタネ。その時、彼の背中に何とも言えない”何か”を感じた私は、咄嗟に彼を呼び止める。彼からあのような感じを受ける時は——【何かを隠している時】だ。
コル―リ「何か……私に話していない事が無いですか?」
彼と一緒に旅をしてきた中で見つけた事。しかし、この時にどんな事を聞いても——。
駆「えっ?……別にないよ」
コル―リ「そ、そうですか。呼び止めてごめんなさい」
駆「うん。お休み、コルーリ」
種「おやすみ~!」
——シュン!
あなたは——私にその隠し事を話してはくれない。
コル―リ「……チチュン。私、信用されてないんでしょうか?」
一人になった医務室の中で私は呟く。信用されていない?いいや、そんな事はない——それも分かっている。カケルもタネも私を信頼してくれている。
コル―リ「ううん、だったら……きっと……」
【信頼しているからこそ話せない事】——それが、2人にはあるのかもしれない。
プリキュアカーシャ 駆と種の部屋
side:種
種「ふぅ〜……で、話って何?わざわざコルーリ抜きにして話そうなんて」
部屋に戻って開口一番、私はお兄ちゃんにある事を尋ねる。レクスとの戦いが終わってから直ぐ、お兄ちゃんは私に——。
駆『コルーリ抜きで大事な話があるんだ』
——って、言ってきたのだ。恐らくレクスと話していた事に関係する事、しかも今の私達の関係でコルーリに内緒となれば——かなり重要な話だ。
駆「……種、今から話す事はこれから起こるであろう出来事の予想についてだ。そして、その対処法について。これは僕達、ひいてはプリキュアさん達にも関わる事になる」
種「それだけ重要って事だね。……おっけー!話して良いよ、お兄ちゃん」
お兄ちゃんは——これから起こるであろう事とその対処法について話していく。"どうしてそうなるのか?"、"何故その対処法が必要なのか?"——それを事細かく私に話した。私の勘だけど——恐らくお兄ちゃんの言う通りになるだろう。間違いなくなる。必ずなる——こういう時の勘は結構当たるのだ。
種「……なるほど。確かにその対処法はコルーリには話せないね」
駆「うん。だから種、これは……最期まで僕らの秘密だ」
種「きっと泣くよ……コルーリ」
駆「……そうだね。ごめんな種……悪いけど最期まで手伝ってくれ」
——カチャ
私の前に差し出された懐中時計。レクスに預けていた物だ。これは共犯の証——これを受け取れば、最期までコルーリを騙さなくてはならない。その罪の片棒を背負う事の誓いだ。
種「……罪な男だね、お兄ちゃん。私が断らないの分かってるくせに」
駆「……ありがとう、種」
種「別に……良いよ〜!」
——カチャ!
私はお兄ちゃんの手から懐中時計を取る。私の全てはお兄ちゃんの物。お兄ちゃんの望む事は私の望み。勿論、お兄ちゃんの罪も——私の物だ。
——2019年 はぐくみ市〈海岸〉
side:駆
駆「……時間が止まってる。あの時と一緒だ」
もう一度HUGっと!プリキュアさん達を取り戻すために——2019年に僕達は戻って来た。クライアス社の社長”ジョージ・クライ”が世界の時間を止めた瞬間に辿り着いた僕達は、世界の有り様を確認する。色を失った空、静止する人、静止した物、静まったままの町、そして目の前には——波風も波音もない海が広がっている海岸がある。僕達がコルーリと出会い、プリキュアになったあの日——彼女たちが消えた日に僕らが見たあの時と全く同じ光景だ。
種「うん。だけど……それ以外は何もされて無いね」
コルーリ「ジョージ・クライがいる筈の"クライアス社 あざばぶ支社"のビルも見当たりません。到着したこの場所に出現していた筈なのですが……」
種「う〜ん……お兄ちゃん、気配で何か分からない?」
駆「……やってみるよ」
僕は周囲の気配を感じる為に意識を集中する。周囲から感じる特殊な気配があり、僕はそれを感じたままに口にしていく。
駆「のびのびタワーに動く気配が5つ、それ以外に街中を動く気配が……8つ。そして。一番嫌な気配が……目の前にある。これは"トゲパワワ"だ、間違いない」
種「目の前って……海しかないよ?」
コルーリ「違う空間に隠しているのかもしれません。それなら見つからないのも合点が行きます」
種「なるほどね!だったら、こっちから攻め込む?どうせ向こうからは出てこないだろうし」
駆「Aqライトで無理矢理この空間に出現させる事も出来るけど?」
種「本当!?……ねぇ、お兄ちゃん、もしかして私達……クライアス社より強い?」
種の疑問は分からないでもない。しかし、僕的には——"相性"が良い敵と言ったところだと思う。
駆「きっと相性が良いだけだよ、種」
コルーリ「時間に関しては、カケルとタネは"特異点"ですからね。時間停止に縛られず、時間の改変にも影響を受けない。まさに天敵ですから」
駆「だからって油断して良い訳じゃないからね。やるからには全力だ。良いね、種?」
種「りょうかーい!……で、結局どうするの?」
駆「……それじゃあ!」グッ!
僕はトゲパワワの気配を感じる場所に左手を伸ばして、ゆっくりと開いた手を握る。
——パキーーーンッ!!!!!
すると、色褪せた空が大きな音を立てて砕け落ち、その奥にある高層ビルの姿が露わになる。あれが気配の原因——クライアス社のビルか!
駆「手っ取り早く……真正面から行こう」
種「さんせ〜い!」
コルーリ「社内にはジョージ・クライの他に数名の社員がいる筈です。ジョージ・クライと接触する前にも戦闘は避けられないでしょう」
駆「それから、はなさん達"プリキュア"がどうなっているかも確認しておきたいね。そうなると……種、エクシードで行くよ」
種「おっけー!」
”S”TRING・コネクター:〈CHAIN〉
Qaフォーン”001”……リンケージ!
Qaフォーン”002”……エンゲージ!〈プリキュアップデート!〉
種『プリキュアプリケーション!』
駆『アップデート!!』
スーパーQaライト:アクティベーション……〈Ready?〉
駆・種『インストーーーーールッ!!!』〈エクシード〉
QaウォッチにSコネクター、Qaフォーン2台をスキャンし、変化した変身プリキュアプリをふたりでタップする。赤、青、黄の光が僕らを包み込んで黒い球体になると、直ぐに黒から黄色になった球体が割れ——その中から紫の光を纏った僕(私)達が姿を現す。
種『輝く種から花開け!』
駆『重なる思いで未来を駆ける!』
エクシード「超越せよ、無限の未来!キュアエクシード!」
コルーリ「エクシードはこのままクライアス社に突入ですよね?でしたら私はHUGっと!プリキュアの皆さんを探します!」
エクシード「あっ!ちょっと待ってコルーリ!」
変身を完了した僕(私)達を見て役割分担をすぐに決めてプリキュアさん達を探そうとするコルーリを止める。
コルーリ「ど、どうしましたか?」
エクシード「人数は多い方が良いでしょ?今出すからちょっと待って!」
コルーリ「出すって何を……チュン!?」
シード「小さな種は、輝く未来!キュアシード!じゃじゃ〜ん!」
エクス「重なる思いで、駆けろ未来!キュアエクス!お待たせ、コルーリ」
両手首にあるリボンを伸ばして切り離すと、それは人の形になり——それがなんとキュアシード、キュアエクスになる。
コルーリ「えっ!?どういう事チュン!?げ、原理は!?どうなってるチュン!?」
エクシード「コルーリ、エクシードに不可能な事はあんまりないんだよ?出来る事を探すより、出来ない事を探す方が簡単なんだから!」ニカッ!
シード「そういう事!まあ分身しても良かったんだけど、それをやると戦闘力を等分しちゃうみたいなんだよね〜。ねえ、お兄ちゃん?」
エクス「うん。エクシードを分身するより、エクシードの分身一体分で二体出せるこっちの方が人手を確保できるからね。相手は敵の親玉だし、戦闘力をあまり下げたくないからさ」
コルーリ「エクシードは本当に無茶苦茶ですね」
エクシードの出鱈目さに呆れるコルーリ。それを尻目に僕(私)達は直ぐに役割を決め始める。
エクシード「はいはい!それはひとまず置いといて!エクシードはクライアス社に突撃!僕と私とコルーリは、HUGっと!プリキュアさん達を探して!それじゃあ……作戦開始!」シュバッ!
エクス「僕はのびのびタワーの方を調べる。シードはビューティーハリーがあった方を頼む。コルーリはアカーシャを使って空から町全体を探してみて欲しい。Qaフォーン、Qaウォッチがなくて連絡も取れないから、何かあればシードは光弾、僕はサークルを空中へ撃ち出す。シードはリンクで随時連絡する様にね」
シード「りょうかい!それじゃあ、いっくよーーー!!!」
エクス「僕も行くよ。コルーリも気を付けて」
コルーリ「分かりました」
それぞれの目的地へと向かい始めるエクシード達。HUGっと!プリキュアの時代を再び救う為の戦いが幕を開ける。
クライアス社 社内
side:キュアエクシード
エクシード「ふぅ〜!さて……大きな気配はこの上かな」
クライアス社に潜入したエクシードは気配がある場所をしらみ潰しに回っている。その中で人に化けたハムスター——恐らくハリーさんと同じ感じの奴2人と交戦し一撃で撃破、残る大きな気配に向かっている所だ。
エクシード「エレベーターはあるけど……いいや!壁抜けしながら突っ切っちゃお!罠があっても平気だけど時間の無駄だし!」てへっ!
——ブンッ!シュン!シュン!
エクシード「僕と私の状況も確認しとこう。感覚をリンク……視界を拝借っと」
天井を潜り抜けながら上階へ向かう時間を利用して、エクシードは分身のエクスとシードの状況を確認する。自分が生み出した存在なだけあって2人とは"リンク"が繋がる。それを利用して2人の視界や聞いている事を知る事が出来るのだ。先ずは私から見てみよう!
シード『おばさんみたいな人知ってるよ!"バブル"って時代にいた感じの人だ!』
肩パッドをして扇子を持つ女性『失礼ね!』
エクシード「……プリキュアじゃない人か。僕の方はっと……」
エクス『薬師寺さあやさんですね?ここは危険です。一先ず安全な所へ避難を』
さあや『わ、私以外にも動ける人がいるなんて……!?あ、あの!タワーにはまだクラスメイトがいるんです!助けて頂けませんか?!』
エクシード「ビンゴ!さあやちゃんを見つけたね!のびのびタワーにはまだプリキュアがいるかもだ!」
エクシードは"僕"と"私"の状況を確認し、そこから僕側がHUGっと!プリキュアのさあやちゃんに接触した事を知る。
エクシード(そうと分かれば向こうに人を集めた方が良いかも!リンクを接続……あ!私?僕の方がさあやちゃんに会った!他のメンバーもいるだろうから、のびのびタワーへ向かって!)
シード(うわっ!?急にリンクが繋がった!?エクシード?まあ、これならQaフォーンなしでも連絡は取れるか。えっと……お兄ちゃんからも連絡あったから既に向かってる!そっちはどう?)
エクシード(今はジョージ・クライと思わしき気配に向かってる所。あ、もう直ぐ着くから切るよ)
シード(りょうかい!なる早でお願いね!)
エクシードは"私"に"僕"がいる場所へ向かう様に指示を出すが、どうやら"僕"の方が既に連絡してたみたい。さすが"僕"!さてと——気配が近付いてきたし、エクシードも頑張りますか!
クライアス社 ???
エクシード「よっと……殺風景な所だな〜」
気配を追ってついに辿り着いた場所は、物がほとんどない殺風景な広い部屋。そこに設けられた大きな窓ガラスの向こうにある"時間の止まったはぐくみ市"を眺めている男性が1人いた。
???「おや?アポイントはなかった筈だけどな」
エクシード「ごめんなさい、アポ無しなの。ねえ、あなたが社長のジョージ・クライ?」
クライ「如何にも。ボクがクライアス社の社長……ジョージ・クライだ」
間違いない。目の前にいる人の気配はここまで追ってきた物だ。この男がHUGっと!プリキュアさん達の戦ったクライアス社の社長"ジョージ・クライ"だ!——だけど、何だろう?彼に——敵意を感じない。
クライ「ボクに用事があるようだけど……そう言う君は何者かな?」
エクシード「えっ!?あ、ああ……すみません、いま名乗ります」
この人のペース、なんか調子狂うな——まあいいや!さっさと名乗ろう!あっ!でも彼はHUGっと!プリキュアさん達が倒したって歴史にしないといけないんだよね?なら——!
エクシード「超越せよ、無限の未来!キュアエクシード!」
エクシード「HUGっと!プリキュア!」
クライ「プリ……キュア?」
エクシードは【クライアス社をHUGっと!プリキュアが倒した】と言う歴史を変えない為、自分達のチームを"HUGっと!プリキュア"と名乗る。こうしなければ歴史に齟齬が出来ちゃうもんね!まあエクシード達は"存在の固定化"をした時に、各時代のプリキュアのメンバーになってるから名乗ったって間違いじゃないし!
クライ「プリキュア……聞いたことがないね。どこかの組織か何かかな?」
エクシード「う~ん……”正義の味方”って感じかな。まあその事は置いといて!エクシードが来た理由だけど……ジョージ・クライ、今すぐこの時間停止を解除してほしいの」
エクシードは単刀直入に自分の来た理由をクライに話す。それを聞いたクライは表情を変えもせず目線だけをエクシードに向けると再び外に視線を戻し、今度は彼からの質問が帰って来る。
クライ「それは難しい願いだね。では、ボクからも聞いても良いかな?もしもボクがその願いを聞かなかった場合、君はボクをどうするのかな?」
エクシード「もしも戦うって言うなら……エクシードは容赦しない。でも、ジョージ・クライ……あなたから戦意や敵意を感じない。何よりエクシードに……ううん、あなたが見ている”世界”に対しても興味を向けていない。あなたの目は……”世界”を見ていない。もっと遠くの”別の何か”を見ているようにすら感じる。あなたが時間を止めた理由がいまいち分からない。話を聞いて……それであなたが納得できるようにした方が良いような気がするから、エクシードはあなたと話がしたい。それに話し合いで解決するならそれが一番……だからね」
クライ「……そうか。君は……素敵な子だね」
クライはやっとどこかに向けていた視線をエクシードに向けると、次の瞬間——殺風景だった部屋が花々が咲く草原の様な空間に変わる。その中央に出されたテーブルと椅子が二つ——その一方にクライが座る。
エクシード「……座っても?」
クライ「どうぞ」
空いている椅子に腰かけて対面する形になったエクシードとクライ。エクシードのプリキュアを救う為の大切な戦いは拳ではなく、言葉を振るう事から——始まった。
エクシード「まずは……あなたが世界の時間を止めた理由は何?」
最初の口火を切ったのはエクシード。ジョージ・クライが何故世界の時間を止めようとするのかを問う。それを問われたクライは一冊の本を取り出すと、その本を開いて視線をその本のページへと下ろしながら答え始める。
クライ「……君はこの世界をどう思うかな?」
エクシード「質問に質問を返さないでほしいけど……。そうだね……幸福も不幸もある……優しさと痛みがあって……希望と絶望がある。綺麗な物だけじゃなくて醜い物もたくさんあるけど……エクシードは悪くはないと思う」
クライ「そうだね……世界は決して素晴らしい物だけがある訳じゃない。君が言ったように”幸福”も”不幸”もある。君が知らない未来は……人々が明日を見ることを諦めてしまったんだ。だが、過去の人々はまだ明日をみようとする。未来にあるかもしれない”幸福”を目指している。未来に……そんな幸福はない。ならば今と言う”幸福”があるまま時間を止めてしまえば、人々は永遠の幸福の中にいることが出来る。もう不幸になる事はないんだよ」
エクシード「時間を止めて幸福なこの時を……永遠の刹那にしようって訳ですか」
クライ「そうだとも。ボクは……人々をこれ以上不幸にしたくないんだ。勿論、目の前の君もね」
クライの言っている事は恐らく本当だ。しかし、そこに彼の意志がイマイチ感じられない。彼が何故このような事をするのか——このような行動をするに至った理由の更にその奥に何かがある。目の前の自分にも、世界にも興味を向けていない彼がずっと見ている”誰か”にこそ答えがある。エクシードの勘がそう告げている。
エクシード「でもさ……そう言うあなたは世界にも、この時代の人々にも、それ程の関心を向けてないよね?ねえ?あなたはさっきから……"誰"を見てるの?」
クライ「……」ギロッ
ジョージ・クライの今までで1番の視線がエクシードに向けられる。先程の何となく興味が湧いた程度の物じゃない。確信をつかれた事による明確な意思を込めた視線——それを向けたジョージ・クライは"悲しそうな笑み"でエクシードに告げる。
クライ「……分からないんだ」
"分からない"——と。
エクシード「分からない?」
クライ「ボクの中には……いつも微笑んでくれている"彼女"の記憶がある。しかし、ボクにはそれが誰なのか分からない。ボクが時間を止めたいと思った理由もきっと彼女にある筈なのに……ボクはそれを思い出せない」
ジョージ・クライの悲しそうな表情は、どこか未来の僕——レクスを連想させる。大切な人を失った悲しみを孕んでいるみたいだ。しかし、クライはその人を思い出せないと言う。何となくだけど理由は分かる。恐らく——カイザーンのせいだ。カイザーンがした"プリキュアの存在の忘却"——恐らくクライの大切な人はプリキュアだったのだろう。それが"忘却"の影響によって存在に関する記憶が消された為に、記憶に不可解な箇所が出来たのだ。
クライ「正直、君の言葉通りに……この時間停止を解いても構わないとも考えている。ボクにはこの時間停止を継続する理由も……あまり無いからね」
エクシード「だったら……!」
クライ「……でも」
戦わなくて済むと思った瞬間、クライはエクシードを真っ直ぐに見つめる。
クライ「それは出来ない」
今まで見せてこなかった——"敵意"を込めた視線で。
エクシード「……どうして?」
クライ「ボクにも分からない。だけどね……ボクの"心"は君の提案を拒んでいるんだ」
クライの"心"——忘却を受けて理由を無くしても尚、彼は自分の行いを止めようとはしない。それが分かってしまうから、エクシードも覚悟を決める。
エクシード「……そっか。交渉決裂だね」
——ガタッ——ガタッ
クライ「……そう言う事だよ」
——パサッ
エクシード「……いくよ、ジョージ・クライ」
——ギュ!
座っていた椅子からエクシード達は立ち上がると、椅子とテーブルが消える。そして、手に持っていた本を開いたクライを見つめて、エクシードは拳を握る。望んでいなかった戦い——その火蓋が切って落とされる。
side:ジョージ・クライ
クライ「ふっ!」
——ダダダダダッ!!!
エクシード「よっ!……と」
ゼロ距離に近いボクの攻撃を身軽に交わす"プリキュア"と名乗る少女【キュアエクシード】。
エクシード「……」
出会ってからずっとボクを見つめ続ける彼女の瞳は——未だボクを離すことはない。まるでボクの全てを見透かす様なその真っ直ぐな瞳が——。
◼️◼️『ジョージ!」ニコッ!
何処か——名前も思い出せない君の瞳に似ている様に感じてしまう。そんな君に似ている彼女がボクを止めようと目の前に立っているのは——なんとも皮肉だろうか。
クライ「次は当てるよ」
エクシード「……まだエクシードに違う人の姿を見てるんだね」
またもボクの考えを言い当てるキュアエクシード——やはり彼女はボクの全てを見透かしている。そして余裕を思わせる何処か悲しげな表情は——言いようの無い不気味さを感じさせる。
クライ「……ッ!はぁっ!!!」
エクシード「……」
——ダダダダダダンッ!!!
ボクが放った無数の光弾をエクシードは避けなかった。放たれた全ての光弾を正面から受けたエクシードの周りには衝撃で砂埃が舞い上がり、彼女の姿を見えなくする。
——ザッ……ザッ……ザッ
クライ「ッ!?」
エクシード「……ふ〜」
その時だ。砂埃の中から足音が聞こえてくると、その中からエクシードは——無傷で出てきたのだ。少女と思い加減をしたが、行動不能にする程度の威力は出した。それを彼女は受けきったと言うのか?
エクシード「……次はこっちの番ね」ニコッ
クライ「えっ?」
——ブワッ!!!!!
不意に見せた彼女の笑顔に気を取られたほんの一瞬——周囲に咲いた花々が一斉に花弁を舞い上がらせる。そんな光景を作り出したのは——キュアエクシード。彼女は一瞬でボクの間合いに入り、ボクの鼻先に伸ばしきった拳を寸前で止めていた。移動時の勢いと攻撃の衝撃が周囲の花を吹き飛ばした事で、目の前の光景が生み出されたのだ。
エクシード「……終わりだよ、ジョージ・クライ。貴方はエクシードに勝てない」
圧倒的な力と存在感を持って目の前に立つ少女。一撃——たったの一撃で、しかもボクに攻撃を当てる事すらしなかったそれだけで——ボクは"勝てない"と理解した。これが彼女の言う"プリキュア"と言う存在の力なのか?
クライ「……それでも」
——パサパサパサ……パサッ!
エクシード「ん?本が……ッ!?」
圧倒的な力量差がある。勝てない事が決まっている。しかし、ボクがこうして世界の時間を止めて世界にこれ以上の不幸が来ないようにした行為は——名前を思い出せない彼女へのこの思いは——間違ってなどいない。目の前に立ちはだかる者が圧倒的な恐怖であるとしても——ボクは!
クライ「納得など出来ない!!!」
——ブワァァァァン!!!!!
ボクは避ける事の出来ない超近距離でエクシードに最大の攻撃を放つ。不意を突き、加減もない——この攻撃ならば彼女でも無事では済まない!
エクシード「……止まれ」
——パチンッ!
その時、エクシードは小さく"止まれ"と呟きながら指を鳴らす。
——……ガチッ!
クライ「……なっ!?」
ボク達がいる空間の中に歯車が止まった様な音が響く。すると、ボクの攻撃が彼女に当たる事なく空中で静止する。舞い上がり地面に落ちようとしている花弁も、そして——ボク自身も動く事が出来ない。
クライ「ま……さか!?」
エクシード「そう……時間停止。貴方の時間停止に上書きする形で、貴方も止まる様に……止めた」
今の状態から自分に起こった事を理解し、何とか動かせた口でボクは彼女がした行為を問おうとすると、彼女はそれも見透かした様に答える。彼女は——"神"か何かなのか?
エクシード「"神"なんて大層な存在じゃない。貴方とおんなじ……"人間"だよ」
人間?ボクは時間停止を成し得るのに多くの物を利用した。それをただ”指を鳴らす”だけで可能にする君が——人間な訳がない。
エクシード「化け物を見る様な目で見ないでよ。確かに……時間を止めるなんて難しいけど貴方だって出来てるんだし不可能じゃない……でしょ?あ〜……この光線ジャマ!てぇい!!!」
——キンッ!!!!!
エクシード「これでOK!さてと、貴方も動いていいよ」パチンッ!
殴られた光線がその箇所から角度が変わり横に逸れるとまた静止する。その様子を見て微笑む彼女はボクに視線を戻し、指を再び鳴らしてボクの時間を動かすと、また語りかけてくる。
エクシード「思い出を……過ぎ去った"過去"を忘れないでいる事は素敵な事。それを出来るのが……"人間"の良いところで、悪いところでもある。貴方は後者かな?未来に希望を見ず、過去の幸福を抱きしめ続けている。でも、どれだけ縋っていても……生きている"僕達"は未来に進み続けるしかない」
クライ「しかし、未来の人間達は皆……明日に希望を見なくなった。それは君にも話したよね?」
エクシード「そうだね。でも、貴方はこうも言った。【この時代の人々はまだ明日をみようとする。未来にあるかもしれない”幸福”を目指している】って。人は幸福を望むもの。過去の幸福に縋ったり、まだ見ぬ幸福を夢見る。過去をやり直したいって思う時もあるよ。でも、"過去"を変えるのは……簡単には出来ない。だけど"未来"なら……この瞬間から創っていけるんだよ!諦めたって……また進もうって気持ちがあれば変われるんだ!それが全ての人間に与えられた"未来を切り開く力"だよ!それはジョージ・クライ……貴方の中にもあるっ!!!」
ボクの胸に真っ直ぐ向けられた指先を自然に目で追い、ボクは自分の胸に視線を落とす。気持ちとは——"心"。一般的な人ならば"心"は胸にあると考える物だろう。ボクの心がある箇所を指差し——彼女はボクに伝えているのだ。【ボクの気持ち次第で未来に進める】——と。
エクシード「未来の人間達も一緒だよ。人は変わる事が出来る限り……進み続ける事が出来る。だって……"僕達"は未来を切り開いた!未来にまた希望を持って進む事で変わった人を知ってる!ねえ?!ジョージ・クライ!貴方は明日をどうしたい?!明日は……どんな自分になりたい?!」
クライ「……ボクは」
——……ブワァァァァン!ガガンッ!!!
彼女が止めていたボクの光線が突然として動き出し空間に大穴を開ける。それにより部屋は元の殺風景な状態に戻り、大穴の空いた壁の向こうに——少しずつ人々の時間が動き始めるはぐくみ市の姿があった。
クライ「まさか……時間が動き出しているのか!?何故っ!?」
エクシード「みんなが未来に進もうとしてるんだよ。そしてジョージ・クライ、貴方も"未来"に目を向き始めたから動き出した」
クライ「ボクが!?……あり得ない!」
エクシード「でも、時間は動き出してる。エクシードの時間停止は解除済み……それにエクシードがその気で解除したら一瞬で解除されるから、こんなゆっくり動き出したりしないよ」
——キラーーーーーン!!!!!
エクシード「これって……ミライクリスタルの輝き!……うん!行って!ミライクリスタルッ!!!」
——シュンッ!!!!!
彼女の身に付けていたポーチから溢れるアスパワワの輝き。エクシードの持つ端末から発せられていたその光の原因は——そこから出てきた小さな宝石だった。ボクはそれを知っていた。大量のアスパワワが結晶化した宝石——"ミライクリスタル"。理論上では存在を示されていたが現れなかったそれを彼女が持っていたのだ。光を放つミライクリスタルをエクシードは壁の穴から外へと飛ばすと、はぐくみ市の時間は更に動き出す。
クライ「あり得ない!」
こんな事あり得ない!ボクの時間が動き始める訳がない!
クライ「だって……ボクの時間は」
エクシード「ジョージ・クライ?」
クライ「もう……動く事は無い」
エクシードに重なる様に映る"彼女"を見つめるボク。それを見たボクは——思い出していた。覚えていない筈なのに——ボクの中から"彼女"を裏切った人間達への怒りが湧き上がる。その怒りをトゲパワワに変え——。
エクシード「ッ!?ダメッ!!!!!」
クライ「全て消え去れっ!!!愚かな人間達っ!!!!!」
ボクは——その全てを解放する。
side:エクシード
クライ「全て消え去れっ!!!愚かな人間達っ!!!!!」
——ブワァァァァァンッ!!!!!
エクシード「ぐっ!?うわっ!?」
目の前で爆発したかの様に噴き出すトゲパワワ。その勢いは凄まじく、エクシードはその勢いにより壁に空いた穴から外へと吹き飛ばされる。なんとか砂浜に着地してさっきまで自分が居たであろうクライアス社のビルに目線を向けるが——そこにはビルは無かった。その代わりにそこにいるのは——。
クライ『ウオォォォォォォォォォォッ!!!!!』
——巨大な身体をした黒い巨人だった。
エクシード「悪魔……いいや。あれは……1人の男……かな」
クライ『明日など要らぬっ!!!未来など要らぬっ!!!!!』
海水が舞い上がる程の巨大な歩を進める変わり果てたジョージ・クライ。明日を、未来を嘆く巨人の手が街へと伸ばされる。
エクシード「あと少しなんだ。だから……絶対に止める!」
エクシードは巨人が伸ばす手の先へと飛び立つ。空へと飛び出したミライクリスタル——それが向かった場所にある"未来の希望"を守る為に。
To Be Continued……
如何だったでしょうか?ジョージ・クライの心情とかうまく表現で来ていましたかね?あと、戦闘がやや控えめでごめんなさい。エクシードが私の中でバランスブレイカーな物で変に本気を出させると話がすぐ終わってしまいますので。え~……次回は、決着へと向かう後編!ミライクリスタルが向かった先にいたのはHUGっと!プリキュアのキュアエールこと”野乃 はな”とキュアエクス。再び出会い言葉を交わす二人。ジョージ・クライが閉ざした時間をエクシード達は解き放つことが出来るのか!?乞うご期待ください!