「安い、実際安い」 「タダオーン!今なら実際大サービス、サポートも安心な」
大音量の広告音声が、重金属酸性雨の雨音を吹き飛ばすが如く鳴り響く。その下にはたくさんの人影。全員が、トレンチコートなどの雨避けとサイバーサングラスをつけている。
「アイエエ…雨ナンデ」
「段ボールがないナンデ!」
路地裏に目を向ければ、哀れにも職を失ったサラリマン崩れのホームレスや浮浪者が段ボール・フートンで雨をしのいでいる。フートンすら無い者は、恐らく明日死んでいるだろう。
ここはネオサイタマ。
鎖国体制を敷く日本の首都だ。
もはやこの町に希望はなく、あるのは権謀術数と虐げられる弱者のみ。あるいはIRCネットの束の間の安息か。
「金目のモンある?」
「なかったら殺そうぜ!」
「「エヒヒーッ!」」
「アイエエエエエ!!」
路地裏の浮浪者たちを理不尽に痛め付ける人影がある。ナムアミダブツ!彼らは暴虐なアンタイブディズム・パンクスだ!その上、違法麻薬ZBRを服用しハイになっている。浮浪者が戦っても勝ち目はまずないだろう。それは浮浪者も知っている。
「マネー、マネーあるからヤメテ…」
「ザッケンナコラー!」
「アイエエエエエエ!アイエエエエ!」
コワイ!パンクスの一人がヤクザスラングを発した。これは免疫のない市民に絶大な恐怖を起こさせる!
「アイエエエエ…」
浮浪者は恐怖のあまり失禁!
「金目のモンくれコラー!アーッ!?」
パンクスが手持ちのフランベルジュで浮浪者に切りかかる!
「アイエエアバーッ!」
ナムアミダブツ!フランベルジュにより浮浪者の左腕がケジメされた!意に介さずパンクスは持ち物漁りを始めた!
「アバーッ!アバーッ!」
「オッZBR!アタリがイイ!」
「マネー素子大量ヤッター!」
「アバーッ!アバーッ!」
傷口を酸性雨に晒されのたうちまわる浮浪者!やはりパンクスは無視!ブッダ!彼らに情は無いのか!?
「イヒヒーッ浮浪者アリガト…アレ?」
「ア…ア…」
浮浪者は出血多量で絶命していた。
「もう一人位殺そうぜ!今日アタリいいし」
「あの娘にしようぜ!ファック&サヨナラだ!」
人が死んだ程度でZBRトリップは醒めない。彼らを止めることは出来ないのだ。
次にパンクスが狙いを定めたのは、無防備にも路地裏ですやすやと眠っている子供だった。だがパンクスの予想と違い、少年である。ブロンドヘアのガイジンで、体躯は細くさながらジョルリのようだった。
「ヒヒヒ…アレ?男?」
「男でも穴はあるだろ、ファックしようぜ…アレ?ツノ生えてる?オカシイナンデ」
少年の額には赤い角がそそり立っていた。やや上に反っている長い角は、薬物でラリっているパンクスでも流石に不思議に思えた。
「…で、でも実際穴があるだろ!ファックだ!」
パンクスは角をZBRの幻覚だと信じ、少年の服を脱がし始めた。細く美しい脚とマイコめいて扇情的な肌があらわになる…その時、少年のまぶたが開いた。ヒスイのような目が回りをゆっくり見回す。
「…ん」
「アッ起きた!」
脱がしていたパンクスが叫んだ!もう一人がフランベルジュを少年に突き付ける。
「テメッコラー!暴れたら殺すぞッコラー!」
「…はあ」
フランベルジュを突きつけられているにもかかわらず、困惑した様子で恐怖を見せない少年に、パンクスは不思議に思った。が、服を脱がす事はやめない。
「あっやめてください、服はこれしか」
「ウルッセーゾコラーッ!アーッ!?」
「アッヤメロー!」
言われるより前に、フランベルジュが少年の首に振り下ろされる!ナムアミダブツ、この少年は間もなく、先ほどの浮浪者とおなじ運命を辿ることだろう。フランベルジュがイナズマめいて振り下ろされた。
だが、そこには…おお…ブッダ!
少年の姿は無い!
そして、パンクスの2m先には…新たな人影が!しかしその体躯は人間の姿ではない。
「「アアーッ!?」」
パンクスは同時に困惑し、同時に膝をつき、同時にフランベルジュを取り落とした。まるで双子だ!
その目の前にいた者は、足でフランベルジュを一つ踏み砕いた。ハヤイ!まるでニンジャだ!
「アアーッ!!」
やけになったパンクスが隠し持っていたクナイ・ダガーを手に飛び掛かる!危険なヤバレカバレだ!このような攻撃が当たるはずもない!瞬く間に背後に回り、組付かれ…
「アバーッ!」
ゴウランガ!首の骨が折られた!そのままパンクスは倒れる。もう一人のパンクスは、幸い壊されなかったフランベルジュを拾うこともできず、ただその場で失禁していた。
そのパンクスに向き直り、少年であろう者が近づいてくる。それに恐怖し、失禁しながら、パンクスはニューロンを高速で動かしていた。
(((こんなことってあるか?アイツ何なんだ?あんな急に変身して、首を…アイツはまさかニンジャ!?)))
「アイエエエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
「……ニンジャ?」
いつしか異形は少年の姿になっていた。ニンジャ?ニンジャとは何か?疑問が彼の防衛本能を打ち消したのだ。
「…その、教えていただけますか」
「…アッ、ア」
「あ?」
「アイエエアバッ!アバッ!アバババーッ!」
パンクスが吐血!小刻みに痙攣し、急性ZBR中毒で心臓破裂を起こし死亡!インガオホー!
「ええ…」
少し引いて見ていた少年は、この状態で見つかったらまずいことになる、と思った。そして、すぐに服を着直すと、走り出した。
ーーーーーーー
なんで?何でこんなことに?待ってくれ、どうしてぼくはここにいるんだ。そもそも、ここはどこだ?……整理しよう。ぼくはあの…月のコンピュータを壊して、そのあと投げ出されて…最後に、地球が見えた。ぼくらの故郷が。…爆発したはずの?でもそこまでは覚えている。
それで、どういうわけかぼくはここにいる。
なぜ?どうしてここに…
「「「ザッケンナコラー!」」」
「!!」
考える時間は、ぼくにないらしい―少年はフランベルジュを拾い上げ、噂を知った迎撃クローン・ヤクザに相対した。そう、その通り。少年に考えなど必要とされない。
少なくとも、今この時には。
《ネイザー・ニンジャ、ノーア・ヒューマン》終
小説を書くのは初めてなので至らぬところもありますが、ニンジャアトモスフィアのせっしゅができたら幸いです。
《登場人物》
少年
金髪翠眼の少年。だが角が生えている。なにやらニンジャめいた人ならざるパワとアトモスフィアを漂わせているが、ニンジャではないと言う。ネオサイタマにいる理由は本人にもわからないらしい。
パンクス
ネオサイタマでは珍しくない、過激派アンタイ(註:アンタイ=Anti,アンチ)ブディストたち。テンプル襲撃前夜祭の主催を行っており、夜な夜な浮浪者狩りで資金を稼いでいた。
註:フランベルジュ…ニンジャの発明品である、蛇のようなくねくねとした刀身を持つ剣。通常の剣に対し、傷口が深く抉れる形になるため、中世の剣士に恐れられた。刀身が波打つ炎の様に見えるため、フランス語のflam(炎)に由来して名付けられた。彼らに限らず、アンタイブディストは何故か骨董品のような武器を好んで使う。