ニンジャスレイヤー・ウィズ・ワンダラーズ
「ビヨンド・ドリーム」
「・・・ええ、はい、何ですって?」
セバタは玄関で思わず聞き返した。折角の休日に訪問者が来たと、嫌々ながらインターホンで話した。だが、その訪問者はカルト宗教であったのだ。
「我々は実際仲間を求めています。共にペケロッパ神を信仰するものを」
「スミマセン、そういうのは」
セバタは予期せぬ来訪に困惑したが、追い返そうとした。しかし。
「わたしはブッダでじゅうぶん―」
「セバタ・タカムネ。19歳。男。オナタカミ社のプログラマーとして働くが、その実違法メガデモを制作、販売する脱法ハッカーであり」
「ヤ、ヤメロ!」
セバタは思わず叫んだ。自分の何一つ違わぬ経歴を淡々と話されては、誰もがこうするであろう。しかもセバタの場合、肉親にも秘密にしていた経歴だったのである。なんとなく、逃げ場がない事を悟った。
「…それで、オレに何をしろって言うんです」
「我々はあなたを求めているのです。そのハッカー、メガデモ製作者、プログラマとしての実力は実際テンサイ級に達します。この三つを会得するものは珍しい」
「…」
「その点からみて、スカウトしようと」
「…入信の手続きは、どこでとれますか」
あまりにもすんなり承諾されたため、ペケロッパはやや面食らったようだが、すぐに説明がされた。それを聞きながら、セバタは自分の人生の行き当たりばったりなところを恥じた。
バイオモミジが家屋を包み込み、冷たさの増した重金属酸性雨が雨戸を打っていた。
「・・・我が手には/血塗れのマサカリと/蘇我稲目の首/我が軍勢とともに/高野山へと進め/空海を殺せ!・・・」
「オイ、アツミ」
セバタは凄まじいブラックメタル騒音の中、弟に話しかけた。年が離れた、自分とは間逆の道に進んだ弟。いまや未成年でありながらバリキナイトにも参加するようになった。乱暴にプレーヤーのスイッチを切り、ぎろりと兄を見つめる。
「なんだよ、兄ちゃん」
「兄ちゃん予定ができたからな、明日家空ける」
「そうかよ」
「お前もたまには勉強しろよ」
その言葉を聞いた途端、アツミの手が金属バットを握り締めた!兄を容赦なく殴打!
「わかったようなクチきいてんじゃねえコラーッ!」
「グワーッ!」
セバタはすぐにフスマを閉めた。慣れっこだ。フスマには「アンタイセイ」「ブッダをファックする」「最澄と薬物前後」といったひどく冒涜的な文言が殴り書きされていた。
実のところ、セバタは内心この家庭にうんざりだった。プログラマ職もいまひとつ退屈で、刺激がほしくて違法行為に手を染めたのだった。人生を単なるプログラマで終える気は毛頭なかった。自分をもっとアッピールしたかったのかもしれない。ペケロッパなる、狂気カルトに入信するよう考えたのもそれだろう。セバタは自分が滑稽に思えた。
(((イディオットかよ…だけど)))
しかし、三つの経歴を知り、それを前向きに評価してくれたのはペケロッパくらいであった。眠りにつくセバタのニューロンに、疑問が渦巻いては消えてゆく。
(((ここであれば、オレを受け入れてくれるのか?オナタカミのプログラマでもなく、メガデモ作者でもなく、オレ自身を?)))
ーーーーー
やや早起きな弟のブラックメタル大騒音で、セバタは朝を迎えた。ベジタブル・スシを食い、弟の分をフスマのもとに置いた。こうすれば、アツミも文句は言わない。セバタはスーツに着替え、ネクタイを締めた。長髪をゴムで後ろにまとめ、顔を洗う。プログラマではあるが、外見には実際気を使っていた。フォーマルなスーツに身を包んだ姿は、一見女性のようにも思える。セバタはハンドヘルドIRC端末でUNIXを起動し、集合時間を確認してから、家を出た。
「あなたが、セバタ=サンですね」
ペケロッパの家紋タクシーがセバタの前に止まり、ノイズ交じりの合成音声で運転手が話した。
「ハイ」
セバタは家紋タクシーでペケロッパの説明を聞いていた。なんだかよくわからない話だ。
「・・・して、いずれは全世界を1bit化することが、我々の重点目標です。肉体とは、ローカルコトダマ空間を入れた箱にしか過ぎません。その肉体をいくら汚そうが、精神に影響はない。…おっと、スミマセン」
唐突に運転手がタクシーを停め、車載UNIXにLAN端子をジャックインした。サイバネ義眼がアサッテの方向を向き、手がだらんと伸びる。
「///gate,gate,para some gate...」
謎のチャントをうわごとのように唱え始めた。セバタに渡されたパンフレットにあった、「礼拝」であろう。しかし、やはりセバタは困惑を隠せなかった。今さらながら、この宗教に関わったことを後悔した。恐らく入信しても、実際これは慣れないだろうな、と思う。やがて、運転手が我に帰る。
「礼拝は欠かせないものですから」
「アッハイ」
そして、家紋タクシーは郊外のビルに止まった。案内のまま、セバタは入り口へと向かった。
「ここが、我々ペケロッパの唯一の物理サイトです」
そこは壁を埋め尽くすほどのプリント基板が増設された、巨大UNIXが鎮座する場所であった。そして、モニタとキーボード、LAN直結端子が備えられている。ザゼンドリンクのパックも置かれている。人はセバタと運転手以外誰もいない。
「ここで、入信の儀式を執り行います」
運転手がLAN端子を指差した。ジャックインせよ、と言うことだろう。自分の首筋にあるLAN端子を探り当て、コードをタイピング鍛錬で鍛えられた指でつまんだ。
「・・・俊敏な茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す…!」
古に伝わるハッカー・チャントを唱え、LAN端子をジャックインした。彼の目は虚ろとなり、がくんと頭が下がった。彼の意識が肉体を抜け、IRCネットワークへ入ったことの証拠である。セバタの前に七つのトリイ・ゲートウェイ。超音速で通過。通過?こんなことは初めてだ。頭上に、黄金の立方体が見える。幻覚か?すぐに視界が暗転し、論理肉1体0が10謎の空1間01を舞1う011010101・・・
ーーーーー
ーーーーー
…0100101110101001/プツン!
「オツカレサマドスエ」
「アイエッ!アイエエ…」
セバタの意識が現実世界に戻った。しかし、重篤な頭痛がセバタのニューロンを襲う。頭を抱え、さらに流れ出る鼻血を拭く。2分ほどして、収まったセバタは黙って見ていた運転手に話しかけた。
「…これが、儀式、ですか」
息も絶え絶えにセバタが問いかける。
「ハイ。…何か?」
「…黄金立方体が、トリイ・ゲートウェイを・・・」
「何ですって?コトダマ空間!?」
血相を変えたように、運転手はセバタを掴んで叫んでいた。ペケロッパ・カルトの教義において、死者に会えると伝えられるコトダマ空間に触れたと気づいたのは、説明を受けた入信後の事であった。
ーーーーー
「アツミ、オハヨ!」
セバタは笑って、フスマの奥の弟に言った。答えてはくれないが、これは続けることにしている。ペケロッパに参加してから、セバタは憑き物がとれたように明るくなった。世間には新興カルト教団と認知され、あまり良く思われていないペケロッパであるが、セバタにとって実際それはどうでもよかった。
そして、彼は再びペケロッパにあしを踏み入れている。自分を見つめなおさせてくれた、ペケロッパに。・・・といって、実際に足を踏み入れているわけではない。目を閉じ、LAN端子をジャックインして、IRCネットワークでメンバーとチャット会話するのだ。
#PEKEROPPA:SnEa:現実でもチャット重点。物理会話よりもチャットが実際便利な(1.2)///
#PEKEROPPA:Agrws:実際チャットの方がわかりやすいですからネー(0.9)///
カッコの中に示されているのはタイプ速度である。このタイプ速度は、基本的には早ければ早いほどよい、とされている。多少の小細工あれど、ハッカーのワザマエはタイプ速度に依存するのだ。セバタがIRCチャット内にログインした。この会話が何よりの支えである。
#PEKEROPPA:SBTA:ドーモ(0.09)///
#PEKEROPPA:SnEa:ドーモ、SBTA=サン 仕事は終わったんですか?(0.8)///
#PEKEROPPA:SBTA:ハイ、終わりました 実際大変ですがやりがいある洗練された仕事です(0.4)///
セバタは違法ハッカーではあるが、実際ワザマエはテンサイ級である。この中ではタイプ速度は群を抜いて早い。チャットから、相手の息を呑む音が聞こえる気がした。
#PEKEROPPA:Agrws:ところで SBTA=サン(0.2)///
#PEKEROPPA:SBTA:なんでしょうか ワタシで良かったらお答えしますよ(0.3)///
#PEKEROPPA:Agrws:コトダマ空間に入ったというのは実際本当ですか?(0.7)///
セバタの生体入力が一瞬止まった。思ったよりもはるかに認知がハヤイ。ごまかそうとも思ったが、Agrwsの質問からして、隠し通すことはできないだろう。
#PEKEROPPA:SBTA:ハイ、本当です ですが実際今に至るまで一度しか入れたことがありません 今後もムリでしょう(0.4)///
この考えは嘘ではなく、セバタの本心であった。なぜコトダマ空間に入れたかはわからないが、意識が01の波に飲まれたあたりで、自分の力量不足がわかった。これから十年、二十年後はともかく、今はムリだろう。
―だが、ナムアミダブツ、慈悲か悪意か、セバタの理解を超える解決策を、ペケロッパ・メンバが提示したのだ!
#PEKEROPPA:SnEa:ザゼンドリンクをキメるのはどうですか?実際、ヒサツ・ワザとして活用されています(1.0)///
ザゼンドリンク!ニューロンに電流走ったセバタは、LAN端子を首筋から抜き、急いで重金属酸性雨防護コートを羽織った。最低限の素子マネーを持った。
「オイ兄ちゃん、カナガワのフロッピーどこに」
「悪い!アツミ、兄ちゃんちょっとコケシマート行くから、留守番しといてくれ!」
いつになく気さくな弟がフスマから出てきたが、少しかまっていられない!すさまじい速度でドアを開け、近所のコケシマートに直行すべく駆けるセバタ!カンオケ・ホテルを横切り、「あッサボテンシティ?」のネオン看板も無視!そのままザゼンドリンクを一ダース購入し、落ち着いてコケシマートを出た。見ると、雷が鳴る激しい酸性雨が降っている。すごいな、と他人事のように思って、なんとなく歩いていた。
「……ン?」
セバタがふと横のバイオモミジの木に目をやると…そこには、少年がいた。ネオサイタマの子供にしては色素の薄い感じの肌で、金髪、無垢そうな緑に光る目が可愛らしいが、その眼は超能力を持っていそうなほど輝き、超自然アトモスフィアを感じさせる。そして、額には…角?
「あの…ぼくの顔に、なんかついてますか?」
見つめすぎたか、怪訝そうにセバタを見る。そりゃ立派なモノがついてるよ、と言いそうになったが、自制して非礼を詫びた。
「スミマセン。ネオサイタマだと、コーカソイドは珍しいので」
「こーかそいど、って何ですか?」
「…エッ、知らない?」
セバタはしばらくその少年にコーカソイドの説明をしていたが、我に帰って、すぐ帰らなければならないと思った。自宅にはカワイイな弟がさみしく待っているかもしれない!
そう思うといても立ってもいられなくなったセバタは、少年に別れを告げた。
「スミマセン、少し用事がありました。あなたも何処かでフートンを探した方がいいですよ。それでは、オタッシャデー!」
「あっ、ちょっと」
急ぎ足で別れのアイサツを済ますと、コートを振り落としそうな勢いでまた走った。弟もそうだが、ザゼンドリンクを試してみたい気持ちも強い。
できる事なら、もう一度コトダマ空間に入ってみたい。セバタのニューロンを、そんな考えがよぎった。アツミはこんな兄を呪うだろうか、自分よりもUNIXを尊ぶ兄を?だがそれも、あとで考えればよい。やって見よう。やってみればわかる。
「ただいま、アツミ・・・アツミ?」
自宅マンションの扉を開いて、アツミ部屋のフスマが開いていることに気づいた。UNIX室にもいない、トコノマにもいない―家にいないぞ!
「ピ、ガ、ガ、ガガガガガガガガ!ピガ!」
「アイエッ!」
監視UNIXカメラが黒煙を噴いて故障!アブナイ!UNIXはオーバーフローするとばくはつをおこす!
「ピガガガ!」KABOOOM!
UNIXカメラがばくはつした直後、セバタはトコノマを良く見回した。すると…読者の皆さんにもしプログラマめいた緻密観察眼の持ち主がいれば、見えることであろう・・・わずかながら、壁に焦げた痕跡!スタン・ジュッテである!何者かが襲撃し、弟を連れ去ったのだ!
「ハーッ、ハーッ…!」
セバタの背中に嫌な汗が降り、開けっ放しの扉から酸性雨が流れ込む。緊張し、無意識に手がホームポジションに移行した。
-やることは一つしかない。タンスから護身用の銃器を取り出した。試製MP-IIIK、オナタカミのよしみでもらったものだ。弾丸を込め、自作の有線LAN接続機をマウントし、生体端子にジャックイン。ホルスターに差込み、カツ、カツと靴音を立てながら、ドアをくぐり、閉めた。
ーーーーー
「ザッケンナコラーッ!アーッ!?」
「スッダロゲッカコラーッ!」
「アイエエエエ!アイエエエエ!」
・・・おお、ナムアミダブツ!陰湿かつ、狂喜の集団リンチである!だがこれも、ネオサイタマではチャメシ・インシデントである!リアルヤクザ崩れの中年モヒカン率いる、無秩序無軌道テクノヤンクたち!彼らはもとアツミを立ててやっていたが、トツゼン手のひらを返してリンチしていたのである。理不尽!なんたるマッポー的心理暴力!これもまた古事記に記されしマッポーカリプスの一側面か!…そこに新たな人影が!セバタのエントリーだ!
「アツミ!アツミ!?」
ぐり、ぐりと音を立て、焦点のあわない濁った目がセバタを見つめる。ウカツ、わざわざ叫んだのは失敗であった!
「…ア?テメッコラー!スッゾスッゾスッゾコラーーー!!!」
だいぶ興奮している!ZBR中毒症状か!?
「なんだよアンタァ!このガキの連れか?チンチン=カモカモかっコラーッ!」
「「「「チンチン=カモカモかッコラーッ!!」」」」
「アッへ!オイ、アツミ=サァン、テメエの便器マイコが来てくれたぞオ!?」
「ケツ・ノ・アナ!ケツ・ノ・アナ!」
彼らは五年ほど前、あるいは去年くらいまではマジメで、ソンケイを持つ物であったかもしれない。だが、今はこの通りただのジャンキーである。
全身傷だらけの、しかしまだ反抗心のある目でアツミが恨めしげにテクノヤンクを見つめる。だがすぐに、釘バットで背中を打たれた。血の混じった咳!
「アンタら、そいつはな」
セバタが平静を努めて言った。だが、その目は見開かれてオーガの如く、声は震えている。そして、MP-IIIKを構え、脳内の論理トリガに意識を集中した。
「そいつはな、オレの、弟だ!Wasshoi!」
BLAM!BLAM!BLLLAAMM!
「アバーッ!?」
「アイエエエ!?アバーッ!」
セバタが己を奮い立たせる日本人的シャウトを叫んだかと思うと、瞬く間に二人のテクノヤンクが脳漿をザクロめいてぶちまけ即死!連続殺でポイント倍点!
「「アイエエエエ!!」」
残る二人は奥ゆかしさの欠片もなく失禁し、逃げようとする!しかし、セバタがMP-IIIKの狙いをテクノヤンクから逸らす!なんたるアサッテ!だが…
「イヤーッ!」
BLAM!
CRASHHHHHH!
「「アバーッ!」」
ゴウランガ!弾丸の命中した赤いドラム缶が爆発し、その破片がテクノヤンクを貫通殺!アブハチトラズだ!
「ア…アイエエ!アイエエエ!」
哀れ中年モヒカンは失禁し、銃口に著しく恐怖!
「アイエエ、ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」
ドゲザ!セバタの怒りと狂気は、薬物で恐れを忘れた、落ちぶれリアルヤクザをも震撼せしめたのだ!ゆっくりと歩み寄るセバタ!彼の精神に渦巻いていた怒りは消え去り、今やゼンめいたシンプルな思考があった。
あと一発でアウト・オブ・アモー。たくさん撃てば実際当たりやすい、太古のレベリオン・ハイクである。だが、リロードをする手間を考えれば、この方法は実際ウカツであった。
「ヤメテ!デンチュウニゴザル!アイエエエエ!!」
涙しながら許しを乞うモヒカン!哀れ!善良な市民であれば、同情を禁じえないだろう。だがセバタは、
「…右の頬を打ち、」
「…エ?」
「そのまま左の頬を殴れ!イヤーッ!」
BLAM!
「アバッ!」
無慈悲!情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームに流される。セバタには、もとより生かしておく気などなかった。モヒカンどもにブッダの慈悲は降りなかったのだ。アツミはもはや放心していた。
「さ、家に帰るぞ!アツミ」
セバタはとびきりの笑顔でそう言った。アツミはそれに従ったが、
ーーーーー
「まったく、一体何をしでかしたんだ?兄ちゃんに相談くらいしてくれよ」
道を戻りながら、セバタは上機嫌に言った。実際本当に上機嫌ではなかったが、こうでもしないと頭がおかしくなってしまいそうだ。
「…なあ、アツミ、オレは寂しかったんだぜ。少しでもいいから話し―」
「アーッ!アーッ!火の用心!」
奇声をあげながらチギリキを連打する防火説法モンクがすれ違った。気まずい空気!何とも話しにくい空気となってしまった。
「・・・兄ちゃん」
静寂を破ったのはアツミであった。不器用そうに話し出す。
「兄ちゃんはさ、おれの事ちゃんと考えてるのかよ」
「何だ急に…当たり前だ。兄として当然だろ」
アツミは、ばつが悪そうにくすりと笑って、それから言った。
「それじゃあ、今度あんな奴ら来ても、兄ちゃんが守ってくれよ!兄の務めだろ!」
セバタは肩透かしを食らったように思い、それから不意に嬉しくなった。小さいことではあるが、自分を頼られるというのはこれまで一度とあっただろうか?
「…わかったよ。オレがアツミを守ってやる。あっでも、バリキドリンク飲むの控えろよ!」
「エー、ナンデ!?」
セバタは子供をあやすように、人指し指を立てて言った。
「バリキドリンクはな、あんまり飲んでると髪の毛真っ白になっちゃうんだぞ!」
「ハハハ、カトゥーンかよ!騙そうったってムダだぜ!」
酸性雨吹きすさぶ中、ネオサイタマに似つかわしくない談笑が聞こえる。まるでアビ・インフェルノ・ジゴクに生えるサクラのように輝いて、夢と希望を持っていた。セバタには、またこのマッポーを生き抜く小さな希望を持ったのである。
ビヨンド・ドリーム#終
<><><>NINJA SLAYER WITH WONDERERS<><><>
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EPLOGUE
重金属酸性雨の応酬のなか、死んだように眠る少年がいる。読者の皆さんならおわかりであろう、トットリーヴィルにいたフォウ・ミサキである。彼はなんとかネオサイタマで物乞いをしたり空き缶拾いをしたりして、久しぶりの平和を謳歌していたのだった。そのフォウに、長髪の人間が歩み寄った。
「オイ、少年!」
「ん…あなたは…どっかで会いませんでしたか?」
セバタである。セバタは以前にも増して元気そうだ。活力がある。照れくさそうに、フォウに話しかけた。
「キミ、実際ここだと死ぬぞ。オレの家で匿ってやろうか?…いや、ホラ、困っている奴を助けないのは腰抜け、って言うから」
フォウは少し考え込んだ。が、下手に路上でのたれ死ぬよりも、屋根くらいはあったほうが良い。
「じゃあ、お願いします。案内していただけますか」
「ハイ、ヨロコンデ!」
威勢よくセバタが答え、二人はセバタの家に進路を変更した。
「ただいま!」
「お邪魔します」
フォウはセバタの家に入った。キレイ!どんよりとした外装とは裏腹に、光る囲炉裏と、よく手入れされた漆黒トーフめいたUNIXが目に映った。整然と並ぶザゼンドリンクの空き瓶も、キレイさを強調していた。
「キレイだろ?良く使ってるからな」
そう言って笑うセバタの目は、片目が淡く光っていた。サイバネ義眼である。ペケロッパは、自分の身体をサイバネ置換することで信仰心を高めるのだ。
「じゃあ、オレは礼拝してくるから、ゆっくりしていってくれ」
礼拝室へ行くセバタを見送ったのち、フォウは仰向けに寝転び、天井に目をやった。呪ってさえいた運命が自分をここに呼んだと思うと、なんだか恨めしい。フォウのいた世界はネオサイタマを越すマッポーぶりだったが、住み心地は良かったのだ。どちらの世界で、といわれたら当然そちらを選ぶに決まっている。
「楓…」
意図せず、名前が口から出た。…七瀬 楓。フォウの想い人である。彼女が自分の存在意義であり、生きる理由だった。…そう思っていたのに。
多くの人はもし親友に再会したら、多いに喜び、幸運を祝うことであろう。フォウも、そうだった。彼女が総力をもってフォウを殺しにきた事を除けば、だが。
「・・・ふんっ!」
・・・辛気臭い話はよそう、ここで生き残ることを考えろ。フォウは己を奮い立たせ、意味もなく立ち上がって倒立をした。大丈夫、ぼくは元気だ!
「beeep...beep.縺翫↓縺�■繧�s縺溘☆縺代※繧�k縺励※縺�◆縺�>縺溘>縺�◆縺�」
…ワッツ?フスマから聞こえる、訳のわからぬ声!フシギ!
「縺�繧後°縺溘☆縺代※」
その声は連続して鳴り響き、止む気配を見せない。オバケか!?
「…」
そおっとフスマに忍び寄り…耳を澄まして…それから、右手でぐいと開けた。そこには…おお、ナムアミダブツ…!なんたる冒涜的光景か!
「縺溘☆縺代※繧�k縺励※縺溘☆縺代※縺ェ繧薙〒縺ェ繧薙〒」
ウドンめいて無数かつ乱雑に繋がれたコード。そのコードが繋がる先は人である。右腕は裂かれたように分裂してUNIXに繋がれ、左腕はない。かつて左腕があった場所には、サイバネ単繊維ケーブルが束ねられている。繋がれているのはアツミである。脳髄も、背中も、何かに繋がれていない場所はない。・・・ブッダデーモンも、かように残酷なことはしないであろう。コワイ!奥のワータヌキの置物も、この無残な光景に目を剥いていた。
「・・・!・・・」
フォウはこの筆舌に尽くしがたい状況にあって、しかし平静を保っていた。何とか。・・・だが。
(((これをやったのは、まさかセバタさんなのか?)))
そっちの方が、フォウには驚きであった。彼は狂気を発するような人ではなかったし、ましてやフォウのセイシンテキが狂気を感じ取ったわけでもなかった。だが、これを他の誰かがやったとでもいうのか?・・・困惑し固まっていたフォウは、ニューロンを最大限に動かし事態の把握に努めていた。
そのニューロンを、背後の物音が刺激した。物音。礼拝を終えたセバタの足音である!フォウはフスマを右腕で音もなく閉めた。そして座った。まもなく、セバタがショウジ戸を開けて出てくる。
「あっセバタさん、水ってどこで飲め」
「おういアツミ、ダイジョブか?」
セバタはまるでフォウがいないように振る舞い、フスマを開けた。またも、筆舌に尽くしがたき光景。だが全く動じず、フスマの中に入る。
「どうかしたのか?そんなにしゃべって」
「縺溘☆縺代※縺溘☆縺代※縺ェ繧薙〒」
「そうか、まったく、いつもこうやって素直に話してくれればなあ!」
セバタは元気そうにハハハと笑った。フスマの奥で、じょぼじょぼと液体が落ちる音がする。アツミが失禁したのだろう。今はもう、アツミと呼ぶべきではないかもしれないが・・・
「もう、また粗相しちゃったのか。世話のかかる弟だよ」
そう言って、広がる汚物を拭き取るセバタ。セバタの目には一片の狂気も見えず澄んでいた。あるのは喜びである。
「繧�k縺励※縺溘☆縺代※縺翫↓縺�■繧�s縺ュ縺医%繧阪@縺ヲ」
「ふふ、そんなに褒められるとお兄ちゃん照れちゃうぞ!」
頬を薄く染めて笑うセバタに、フォウは一種のアワレミさえ感じた。彼は、狂気を狂気と認識していないのだろう。やがて、セバタは酔ったように目を潤ませて、アツミだと思われるものに顔を近づけた。何かを熱心にささやいている。フォウは目をそむけ、考えるのをやめることにした。
「アッ、そういや名前を聞いてなかったな。キミ、名前はなんと言うんだ」
不意に話されてやや面食らったが、落ち着きを取り戻してフォウは名乗った。
「ぼくはフォウ・ミサキといいます」
「そうか、フォウ=サン。水はあそこの水道から飲んでくれ、ところで」
そこでセバタは、唐突に話を打ち切った。そして、こともなげに、
「さっきフォウ=サン、フスマの中見たか?」
「いえ、何も」
フォウはさらりと返した。例の発狂マニアックのおかげで、狂気には慣れている。するとセバタは笑顔を作り、フォウに言った。
「あそこに、オレの弟が住んでんだ。今度でいいから、アイサツしてくれ」
その話を聞きつつ、フォウは複雑な気持ちを整理していた。
(((ようやく定住できたと思ったけど…人生そんな楽じゃないか。
そう考えて、自嘲ぎみに笑った。
(((…どっちも、大して変わんないかな。ハハ・・・)))
やはり、
ビヨンド・ドリーム「エピローグ」終
人物名鑑
セバタ
本名、セバタ・タカムネ。テンサイ級のハッカーであり、エンジニアとしてオナタカミ社で働いている。機械を愛すあまり、マイコや卑猥なヤブサメ・ビデオに興味がなくなってしまい、反動的に弟に倒錯的愛情を抱いていた。自分でも異常性を自覚しており、それゆえ表立った行動はしていなかったが、ペケロッパの教義やテクノヤンクの騒動で人知れずタガが外れてしまったようだ。現在は自分が狂っていると考えておらず、弟と幸せな日常を送っていると錯覚している。ちなみに薬物耐性が実際高い。
アツミ
セバタの弟。14歳。年が離れた兄がいわゆる「できる奴」だったことにコンプレックスを抱いており、ブラックメタルやアンタイセイ運動に傾倒していた。終盤で和解こそできたが、セバタの倒錯には最後まで気づけなかった。彼は、今もなおコトダマ空間に苦しんでいるのかもしれない。