ニンジャスレイヤー・ウィズ・ワンダラーズ   作:安戸玲浅

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早いものでもう最終回です。打ち切りかな?


フラッシュバック、セブン・フォース(最終回)

「フラッシュバック、セブン・フォース」

 

「…」

「…」

いったい何が、彼を導くのか?彼をここまで不幸な道へと!鳥人に姿を変えたフォウと、楓の乗るセブンフォースが、静かに見合う。…彼はこの光景に、強いデッジャブを憶えた。遠く、さらに遠くに置いてきた思い出の中に…

 

ーーーーー

「フォウ、あなたはたたかわなくていいのよ」

 

やさしく、百合のように美しい声がフォウの耳をくすぐる。楓は慈愛の女神のように、フォウの髪を撫でた。

 

「…なんで?」

「それはね」

 

子供をあやすように、楓はもったいぶって話した。そして、女性らしい繊細な右手で細く華奢なフォウの腕をとる。

 

()()()()()()()()()()()()

 

守る。その言葉は嘘ではなかった。彼女は有事の際に彼を、いや、人類を護る兵器となるのだから

 

ーーーーー

 

そして本来「救世兵器」たりえるハズだった超硬セラミックの塊(セブンフォース)は、今ひとりの少年を殺すためだけに使われている。

HYUUUM!

フォウがゼロ移動!後ろに回りこみ、右手から赤いレーザーを―セブンフォースの隙間から電子音声!

「フォース・コード識別。ランサーです

ワッザ!?すると、瞬く間にセブンフォースの左手が後ろエルボー!よけきれずフォウがモロに食らった!

CRAASSSH!

 

「ぐ はッ!」

受身こそ取ったが、ダメージは免れない。それよりも、この攻撃が意味するところは―

(((攻撃が、対応されている…!)))

こちらも二度目なら、彼女もまた二度目である。かつて受けた攻撃など、彼女のUNIX並みの判断力の敵ではないのだ!

SYUH!SYUH!SYUH!

さらにそこへブーメラン投擲!すかさずフォウは伏せて回避!だが、戻ってきたブーメランは回転しながら地面をかすめ飛ぶ!アブナイ!

HYUUUM!

 

この程度の回避など、フォウにとっては正にベイビー・サブミッションである!ブーメランが当たったように見えても、フォウの時空操作ゼロ移動はブーメランを透過し突破したのだ!

そして再び、二人は見合った。互いに有効打なし、ゴジュッポ・ヒャッポ。仕切りなおしのようにまた元の場所に戻っていた。

 

ーーーーー

 

「やめなさい!」

「っ…なんだよ、くそ」

 

楓に怒鳴られた少年はそう吐き捨て、面倒臭そうにその場を離れた。フォウを残して。

 

「フォウっ、だいじょうぶ!?」

「…ぁ」

 

全く無抵抗で殴られ、蹴られていたフォウは、傷口を押さえようともせず横たわっていた。…彼は、何にも反応を示さなかった。少年の暴行にも、楓の治療にも。

 

「…彼―彼女とすべきでしょうか―には、()()()()()()()()。全く持って、無益な存在でしょう

 

フォウを連れてきた青年は、にべもなくそう告げた。その男がどうして来たのか、楓は覚えていない。…ただ、それから彼女のもとにフォウが「贈られて」きたのは鮮明に覚えている。

 

「これは、キミのものだ。()()()()()()()()()()

 

それから、フォウは彼女の「所有物」となった。食事、洗浄にいたるまで、フォウは彼女の管理下に。

 

ーーーーー

HYUUUM!

ゼロ移動、

HYUUUM!

さらにゼロ移動!追いすがるセブンフォース!ポン・パンチめいて地面に勢い良く足を突け、虚空を殴る動作!

BYOOOOM!

なんたる非現実的動作か!ロケットパンチ!フォウはゼロ移動で辛くも回避!…しかし、帰ってきた前肢を受け取るセブンフォースに、わずかなスキが生まれた!

ZZZZAP!

右手から赤いレーザー(ランサー)を照射!セブンフォースの胴体に命中!有効打!セブンフォースは地を蹴って前進し、足を振り上げハイキック!フォウはワン・インチ距離でバック転回避!

 

ようやく、有効打を与えることに成功した。だが、まだ足りない。セブンフォースには、あと数発は当てないと倒せないだろう。…それならば、フォウにも秘策がある。数インチ先のセブンフォースが、悠々とフォウに距離を詰めていく…

JYUUUM!

そこにフォウがゼロ移動で颯爽と突撃!…だが、先ほどのそれとは全く違うものだ!フェニックスめいた緋色の焔を纏っている!フォウに機動性で劣るセブンフォースは回避できず命中!

CABOOOM!

勢いよく超硬セラミックが四散し、辺りをしめやかに彩った。

…これがフォウの奥の手、ゼロ移動爆装である!このワザを受けたものは焔と光速突撃により、ほとんどの場合即死するのだ!

 

「…くッ!」

…だが、ふつう万全の状態でなければ放てないゼロ爆装を手負いで放つことは、文字通り「命を削って」放つ事でもあった。傷は更に深く刻まれる。

 

痛みは増大し、余計なダメージさえ受けてしまったが、実際キンボシ・オオキイだ―だが、フォウは警戒を崩さなかった。何故か?次に起こるコトを彼は良く知っている。それは!

MEDUSA FORCE

第二形態である!紫色に変質した超硬セラミックが、鈍角ウニめいた球体を再構成!…そして、球体(メドウーサフォース)はゆっくりと…回転し…前進するというのか!?

KYURURURURURURUR!

道路をなぎ倒し、ぞんざいに置かれたホロ街路樹をひき潰し、フォウに迫る!

 

ーーーーー

 

鉄筋コンクリートの壁と、シリコン建材の床。そこには、流動食の容器が置かれている。

 

「フォウ、おいしかった?」

 

答えない。目は虚空を向いたまま、だらしなく口を開けている。…返事の代わりか、フォウの太ももを一筋の水がさらりと濡らした。

 

「あっ」

 

フォウの漏らした小便を掃除し、さらに()()()()()()()()には二十分ほどを要した。その間洗面台を行き来していると、自分より下の子が、ある噂話をしていたのを聞いた。

 

キレーだよな、あの新入り

あの、キイロの髪の?

そそ!ホントに男かよ、あいつ!

でもさ、あの子―

 

そこまでは聞き流していたが、直後に言った言葉は理解できなかった。

 

()()らしいぜ、その…あそこが―あ、カエデだ」

 

楓は駆け出した。まるで親の仇に再会したとでも言うように、子供部屋をぬけ、廊下を走りフォウのいるところまで走り通した。

言葉の意味がわからなくても、楓がここまで過剰に警戒するのは無理からぬことでもない。事実、フォウは彼らの「おもちゃ」であったし、彼らは総じて無知だった。むろん、楓を含めて。

 

(((わたしが、フォウを守らなきゃ。こんなやつらから、守ってあげるんだ)))

 

フォウが楓に所有されてから、セブンフォースは日を追うごとに強くなっていった。戦況が目に見えて悪化していくなかでも、その戦力比をたやすく覆せる存在。誰もが、「救世兵器」の勝利と人類の復活を信じてはばからないほど、実力は凄まじいものだった。

 

「それで、そのセブンフォースはどうなった」

「はあ、あれはまだ調整中でして、」

 

武官の硬く握られた拳が、机を勢い良く叩いた。白衣の男のめがねがずり落ち、恐怖の声が唇から漏れる。

 

「私が何度その言葉を聴いたと思っているんだ!その調整が一度でも終わった事があったか!?」

「セブンフォースは、操作デバイス(七瀬 楓)の状態によって実力が大きく左右されます。ですから…」

思動兵器(それ)の開発が暗礁に乗り上げてるのは、よくわかっている」

 

今までの兵器と全く違う、()()()()()()()()()()()()()()()()兵器は、「七瀬 楓」の覚悟…つまり救世兵器(セブンフォース)としての自覚」なしに完成するものではなかった。だが、彼女はまだ十二歳の少女である。その少女が、簡単に自覚できるものだろうか?自分が完全な兵器だという自覚を?…結局のところ、彼らの救世兵器に対する見通しは甘く、暗礁に乗り上げるなどはもはや必然とすら言うべきだった。

 

ーーーーー

 

なぎ倒される街路樹!フォウは俊敏に、「おなしやす」のネオン看板を足伝いに飛び、シベリア横断バッファロー殺戮鉄道めいた凄まじさで走るメドウーサフォースを飛び越えた!

POM!POM!POM!

メドウーサフォースの側面から機雷発射!こぶし程もある機雷が、フォウの乗る安普請ビルめがけ恐ろしい速度で飛ぶ!フォウは右手でランサーを発射!

ZZZZAP!

だが、メドウーサフォースはランサーを上回るほどの速度に加速し回避!そして…

「!!」

安普請ビル壁を回転しながら上り始めた!

HYUUUM!

すぐにゼロ移動でフォウは横とびに脱出!そのまま道路へ着地し、ウキヨエ・トレーラーを破壊しながらハリキリ・ハイウェイへと続く環状線へ疾走!

KYURURRURURR!!

「アイエエエエ!?」

それを追うメドウーサフォース!ネオン看板やテリヤキ・ラーメン屋台をもすべてひき潰し、フォウ以外を気にも留めず走る走る!時は深夜帯にさしかかり、マグロ・ツェッペリンが投げかける広告音声の下、古事記にも予言の形跡がないマッポー的イクサは第二段階へと突入した…!

 

フォウはどうしたのか?傷を一刻も早く癒すべく、彼は足場に家紋タクシーやダットサンを踏み抜きながら食事処を捜していた。食い逃げは犯罪だが、この状況ではそう言っておられない。元の世界ではもう少し便宜を図れたが、このマッポーではそれも不可能だ。

(((どこかに…食事場でなくても…!)))

 

スシ屋は比較的近くにあった。ドンブリ・ポン社のチェーン店!それは悪魔の魚めいて有毒ばい煙をひっきりなしに煙突から噴出し、ネオサイタマの環境破壊に一役買っていた。その店の頭上はるか4m上から、フォウは拳を突き出し落下!

CRAAAASH!!

「アイエエエエ!?」

「ワットファックニンジャ!?」

「ニンジャ!?ナンデ!?」

 

不幸な客の悲鳴を尻目に、傷だらけの鳥人はテーブルに置かれていたバイオ笹タッパーを手に取り、フタを破りとって中のケバブ・スシを口に放り込んだ。美味くは無いが、栄養はあったらしく傷がみるみる内に回復していく。フォウは知らなかったが、スシはエネルギ回復に実際有用な優れた食事である!…と、そこへ!

CRA-TOOOOOM!!

「アイエエエ!?」

「アバーッ!」

突如現れた球体は、粉末成形スシ・ジェネレータと店員をひき潰すと、フォウを視認してさらに速度を速めた!メドウーサフォース再来!

「くそッ!」

HYUUUM!

フォウは穴の開いた壁にゼロ移動すると、パルクールめいた機動で路地住宅の壁をよじ登りながら逃走!逃走しながら振り返り、右手からランサーを照射!

ZZZZAP!

命中したが、その防御力は先ほどの形態(ヴァルキリーフォース)と何ら遜色ない!後数発!

POMPOMPOM!

ナムサン!メドウーサフォースの側面下部からまたも機雷を発射!それらは自動で爆発し、爆炎で路地の退路を塞いでゆく!あっという間に、フォウの右手からは炎しか見えなくなった。さらに、炎の壁は厚い。ゼロ移動できないよう、対策されているのだ。

「…よし」

だが、フォウにとってこれはチャンスでもあった。近距離からランサーで掃射し、短期にカタをつければ良いのだ。それに、逃げ場が無いというのは相手()もまた同じ事である!

そしてこの状況ならば、やる事は一つであろう―すなわち、待つことだ!

 

行き止まりに行き、そこに突撃してくるのを待つ。フォウのやる事は、ただ落ち着いてランサーを撃ち、さもなくばゼロ爆装すればよい。先ほどと違い、体力は万全である。だが、その戦術は同じ穴のフェレットとタヌキ。いつカワイイなフェレットがタヌキになるか、フォウにもまだわからない。

(((そんな心配はするだけ無駄だ、後悔は死んでからすればいい!)))

セバタの家に置かれていたビジネスブックに書かれていた文言である。その通りだ、と読んでいて妙に納得したものだった。

KYURURURURUR!

 

そこに、容赦なく迫るメドウーサフォース!フォウは狙い澄まして右手からランサーを照射!

ZZZZAP!

照射!あと4メートル!

KYURURURURUR!

ZZZZAP!

照射!あと2メートル!

KYURURURR!

ZZZZAP!

照射!あと1メートル!

HYUUUM!

 

フォウは迎撃を不可能と判断し、ゼロ移動を以って回避した。そのまま地面を蹴って飛び上がる!彼の脚力は実に常人の三倍以上!「マイコ・レンタ」のネオン看板を蹴り、電飾オカメの鼻を蹴り割り果てしなく上昇!ゴウランガ!まるで平安時代のニンジャだ!

DAT!DAT!DAT!

そしてさらに、重金属酸性雨で錆び付いたビル壁をよじ登る!パルクール・ヒキャクめいた跳躍で、フォウはアッという間にビルの屋上にたどりついた。

KYURURURURR!

 

そこへ、あくまでフォウを追い上るメドウーサフォース!だが、この状況においては高所をとったフォウに圧倒的な分がある!強い敵は落とし穴に落とせ。哲学剣士ミヤモト・マサシの格言である。

ZZZZAP!

ZZZZAP!

一方的にランサーを照射!しかし、メドウーサフォースに打つ手なし!状況はまさにオーテ・ツミである!…だが!

FLAAAAASH!

SYLPEED FORCE

 

やはりミヤモト・マサシの言葉で、「二度ある事は三度四度と続く」というものがある。何たる偶然か、セブンフォースもそれは同じであった。若草色に輝く、半人半風の空気の精(シルフィード)。ビル近辺を反重力めいて奇怪に飛ぶそれは、フォウを厳かに睨んだ。慣性処理装置のものものしい重低音が響く。その体躯はヴァルキリーフォースにも似ているが、その姿はドラゴンやフェアリーを想起させた。

HYUUUM!

 

フォウは態勢を整えるべく、ビルからゼロ移動した。なんたるアサッテ!その方向にビルは無い!落下するぞ!すると、背部の独立ノズルが発光!まもなく、しめやかにオレンジ色の噴煙を上げた!カッター翼が高揚力フラップめいて跳ね上がり、暗黒な空に飛び立つ!

GWOOOOM!

これも、フォウのニンポめいた特殊能力の一端である。短時間ながら、この状態であれば空中機動が可能になるのだ!…だが、それを黙って見るシルフィードフォースではない!反重力スペースクラフトめいたフシギな軌道を描き、空へ飛翔した!

 

ネオサイタマの暗黒の空に、二人の非ニンジャ存在が激闘を始めようとしていた。その空域に、新しくエントリーする影があった。ネオサイタマ空軍、トンビF-34の二機編隊である。単発単座の軽量戦闘機は、ユーフォめいて猛追するシルフィードフォースのサイドエリアに張り付いた。

「ヒアエー、ヒアエー。エート、そこのオバケに告ぐ。貴方はニッポンの領空を侵害している。指示に従い、着陸せよ。なお空港は実際3km先にある」

 

欺瞞!物腰柔らかそうに告げているが、実際は最寄の空港から70km離れている。強制着陸させるフリをして、さっさと撃墜するつもりなのだ。だが、そもそも無線は届いていない。

「リピートする。貴方は―アイエエエエ!?」

カブーム!

一瞬にして、F-34の機体後部は無残にもネギトロじみた様相に姿を変えた。ナムサン、背後にはシルフィードフォース!ネギトログラインダー棍棒めいた若草色の巨大アームが、カーボンナノタタミ製の戦闘機を叩き割ったのだ!…しかし、それを実現するには卓越したワザマエが必要になる。何たるハヤワザ!その事を差し引いても、もはや人間業とはとても思えないタツジンぶりである!

 

「アイエエ!アイーエエエエエエ!!」

「イ、イヤーッ!」

パニックになりながら墜落する僚機を無視し、まだ撃破されていなかったもう一機がミサイルを発射!ミサイルは空中を華麗に飛び回り、ハイウェイの夜空に蒼い衝撃めいたスモーク航跡を作り上げた!…だが、ミサイル軌道の合間を縫うように飛びつつ、シルフィードフォースはそれらを物ともせず回避してゆく。しかし、ついに一発が空気の精(シルフィード)のしっぽを掴まんと、彼女の後ろに組み付いた。

「ヤッツケター!」

 

勝利を確信したパイロットは、無意識にそう叫んだ。だが、なんたるウカツか!標的はパイロットの思ってもみなかった行動に出たのである!

機の重心(コックピットブロック)を中心に、彼女はコマのようにぐるりと180度回転した。進行方向から逆向きに、慣性処理装置をうならせて。彼女は丁度ミサイルに相対する格好となった―その瞬間、棍棒

めいたアーム・ユニットがミサイル目掛けて振り下ろされた!

カブーム!

ミサイルは弾着0.4秒前に迎撃された。この間わずか0コンマ7秒!ゴウランガ!なんたる要撃戦術!彼女はこの行動をすべて手動で行ったのだ!

 

「アイエエエ…無理だコレ」

パイロットは古のリアル・ニンジャめいた恐怖の動きに失禁しながら、もはや操縦をも放棄した。ほどなくして、無人機めいたマニューバ軌道で機体背部をとったシルフィードフォースは、彼に僚機と同じ運命をたどらせたのである。

 

フォウはその間に、ある程度距離をとる時間があった。しかし、フォウの特殊能力は()()()()()()()()。ランサーにも距離の限界があり、遠距離から狙撃手めいた射撃は不可能だ。そのため、フォウはそこに虎視眈々とホバーリングするのみだった。

やがて、カタのついたシルフィードフォースが目にも留まらぬ速さで疾走する。

 

それはフォウをあざ笑うように夜空を跳ね回り、フォウの後ろをとろうとした。直後、フォウはノズルの出力を引き上げて急接近!悲鳴を上げながら、翼がきしんだ。シルフィードフォースが、UNIX並みの反応速度で機体を動かしてフォウから離れる。アーム・ユニットをクリーンヒットさせんとしているのだ!

 

HYUUUM!

ゼロ移動でさらに距離を詰めるフォウ!シルフィードフォースは振り払うべくアームパンチで対抗!ゼロ移動直後のノーガードを突かれパンチが炸裂!

カブーム!

「ぐはッ!」

胸元にパンチが命中!金属がひしゃげ、バチバチと火花が散る。フォウはその状況でなお、右手を振り上げランサーを照射!

ZZZZAP!

 

真っ赤なレーザーは空気の精を貫きこそすれ、さしたるダメージは与えなかったようだった。ナムアミダブツ、これではもうオシマイだ!戦闘妖精は勝ち誇るように、その体躯を沈めた。フォウのニューロン内に、鋭敏な電子音がこだました。それは過剰反応を起こす痛覚と共存し、さらに増幅させた。ああ、これがウワサに聞くソーマト・リコールか…

いや、違う。これはソーマト・リコールなどではない。これは、この音は()()()()()()()()()()()()()()()()()。すなわち、フォウはそれほどまでのワン・インチ距離に近づいたことになるのだ!フォウは素早く身を起こし、ゼロ移動の態勢となった。そして、焔が身体中を照らす!ゼロ爆装だ!

JYUUUM!

CABOOOOM!!

 

予期せぬ方向(コックピット近く)からのゼロ爆装をうけながら、彼女は高速UNIX級の防御行動をとった。しめやかに身体の3分の2を覆う大きさのアームを組み合わせ、ゼロ爆装を受け止めたのだ。しかし、それですらも受け止めきれず、ユニットは見る間見る間に砕けていく!やがて受け止めるのを不可能と判断し、楓はコックピットを急降下させた。

 

ARTEMIS FORCE

 

またも辺りはボンボリめいて照らされ、ゼロ爆装直後のフォウに眩しさを感じさせた。フォウは激痛に顔をしかめながら、ボンボリ光の中心を見据える。…そこには、細身なライオンをかたどったような四足歩行メカが鎮座していた!コワイ!

「ミャオーウウウーーッ!」

ここはネオサイタマ、タマ・リバー上流。オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードの住民たちが原始的な畏れをもって遠巻きに眺めている中、とうとう時はウシミツ・アワーに突入し、このジゴクめいたイクサも佳境に差し掛かろうとしていた…

 

それを、さらに上空で注意深く偵察する者がいる。ナムアミダブツ…ニンジャの偵察兵!

彼の名はヘルカイト。残虐なる組織ソウカイヤ上層部、シックスゲイツの一員である!ソウカイ・ネットで通報を受け、上空から偵察しに来たのだ!

 

「おかしいな、ニンジャソウル反応皆無…」

 

無理も無い。そこでイクサをする二人はニンジャではないからだ。彼のステルス凧には「ヤリで刺す」「キリステ」などの威圧的文言が並ぶ。タケヤリやバクチクで武装した、油断ならぬニンジャである!

「まあよい、ニンジャでなければ殺すのみ!」

 

なんたる恐怖!いかに彼らがニンジャでなくとも、ここまでされる謂れはないハズだ!…実際ヘルカイトは聖ラオモトに対する忠誠心が先行してしまうことも多い。そのため、かえってラオモトの不興を買うこともあるほどであった。

しかしそれ以上にヘルカイトは策士である。この状況では2対1になってしまいかねない。虻蜂取らずということも実際ありえる―だからこそ、ヘルカイトは一片の慈悲もない残酷な判断を下した!

 

(((このまま戦わせ、一人となったときトドメを刺す!)))

 

なんたる無慈悲!…否!これが「シックスゲイツ(総会六門)」!悪しき野望を抱え、ヘルカイトのステルス凧は重々しく旋回を続けていた…

 

フォウは戦闘ポジションを維持しつつ、歩み寄るライオンめいた獣(アルテミスフォース)と睨み合っていた。ヤバイ級ショーギ・メイジンの対局戦からも分かるとおり、真のイクサは睨み合いから始まっているのだ。

「ミャオオオーッ…」

「…!」

大きく伸び、飛び掛るアルテミスフォース!彼女のそのダイヤモンドチタンの如きツメを持ってすれば、いかにフォウといえど引き裂かれサシミとなることは間違いない!

 

HYUUUM!

間一髪!ゼロ移動で回避!光速移動から開放された直後フォウは振り向き、鋭いエメラルドめいた双眸で彼女を見やった。

(((前と同じ、尻尾先端が弱点か!)))

「ミャオオオオーーッ!」

しかし!アルテミスフォースの尻尾がLED電飾めいてひかる!

「させるか!」

ZZZAP!

BLAAAAAAM!

フォウのランサーが尻尾を打ち抜くのと、ボンボリじみた光弾がフォウに命中するのが同時だった。

「ぐはァーッ!」

 

フォウの絶え絶えの声帯は、やっとのことで言葉をつむぎ出した。嘴から吐血!血液はアルテミスフォースに浴びせられ、それを彼女は甘んじて受ける。オオヌギの貧民たちはもしかすると、彼女の石像めいた頭部に満足そうな笑みが浮かんでいるように思えたかもしれない。それほどに残忍で、遺伝子の中に刻まれた古のニンジャ大戦の記憶を呼び起こすような恐ろしい光景が繰り広げられていたのである…!

 

フォウはそこにカンジめいて倒れ伏していた。腹部に大きな傷。ニューロンがしめやかに赤く明滅。オタッシャ重点である。血液の流入が阻害されたか、片目がよく見えない。

(((ぼくは…死ぬのか?)))

その負傷は、もはや彼に正常な思考を困難なものとしていた。フォウは目の前に、病的に白い教会のような施設を幻視した。先ほど朝露めいて消え去ったソーマト・リコールは、再び彼をアノヨへの道にいざなっていたのだった。

(((あれは…ぼくの家。たしか場所は―)))

静岡なる場所にあった(施設)のこと。

(((Xiタイガー…彼が楓を殺したんだったなあ)))

未知の怪物が、友人を今まさに殺そうとする光景。そして、

 

(((あの時はキミがいてくれて…今、キミは何処にいる?)))

ふと目を開けると、友達(カエデ)が笑いかけてくれた時。

 

(((…ついさっきから、分かってたじゃないか。ぼくに道は、)))

フォウは地面に手を突き、ありったけの力(カジバ・フォース)を込めて、立ち上がる。血走った目で、まっすぐに、そこにいる敵(カエデ)を見つめる。

そうだ、彼の進む道は。

「ぼくに道は、一つしか無いんだ」

 

ミャオオオーッ…!

敵はたしかに、そう唸った。

再び飛び掛るアルテミスフォース!ゼロ移動で回避!フォウは彼女の背後に回る格好となった。

HYUUUM!

「ミャオオオオーーッ!」

尻尾が発光!二度とならず見た光景!フォウは手をかざす!

BLAAAAAM!

 

POW!POW!

ゴウランガ!フォウから放たれた黄色い光がシールドめいて光弾を吸収した!フォウには一切ダメージなし、それどころかエネルギーを吸って回復!全快こそ不可能だが、重篤なダメージを治療してオタッシャ重点状態を脱し、このイクサを続けるのには十分な量だ!

ZZZZAP!

ランサーを照射しけん制!尻尾に命中したが、やはり進攻を止めるには至らない!そこで、フォウはゼロ移動!またも彼は敵の背後に回りこんだ!

「ミャオオオオーーッ!」

 

本能的にアルテミスフォースは尻尾を発光させ、光弾を発射!…しかし、これは巧妙なフォウの罠であった。光弾はスデに見切られている。その光弾をわざと発射させ、それを吸収し回復する算段なのだ!オウマイブッダ!

BLAAAAAM!

POW!POW!

なすすべもなく吸収される光弾!そして…フォウは全快を成し遂げた!

 

ミャオオオーッ…!

それをUNIX並みの判断力で悟ったアルテミスフォースは後ろに飛びのき、飛び掛るように体を伸ばし始めた。フェイントをかけているのだ。しかし、確実にこのイクサの決着はつかんとしていた。もう彼女に勝つ道は残されていない。彼女がフォウを襲った時、このイクサは終わるのだ。

「ミャオオーウウーッ!」

ヤバレカバレか、それとも限りなく低い勝算に賭けたか。彼女は猛然と、目の前の鳥人に飛び掛った。

 

ーーーーー

 

フォウは空を見上げていた。時刻は11時、晴れ。燦々と照る太陽の下、フォウは空を飛ぶエアバスを見た。近くの宇宙港に着陸するらしく、かなり近辺を飛んでいる。

 

「何してるの?」

「あ、楓!」

 

フォウは顔を輝かせて、楓の元に駆け寄る。そして、ロックのかけられている窓を指差した。

 

「飛行機が飛んでるよ!あれには誰が乗ってるのかな」

「あれにはね、昨日ここを出たいいだが乗ってると思う。戦いに出かけるんだって」

 

戦い。それは、セブンフォース完成までの時間稼ぎだった。だが、彼女はついに今に至るまで「救世兵器(セブンフォース)としての自覚」を得たことはなかったのだ。今こうして、同郷のX-AGES(超能力児)たちが時間稼ぎのために死地へ送られているこの時も。

 

(((わたしは七瀬楓。フォウを守るもの。それ以外に、何があるというの?)))

 

いつかの訓練の際口にした言葉だったが、この言葉は()()()()()()()()()()を如実に表した言葉だといえた。

 

「戦いか、みんなすごいなあ。ぼくも、戦いに行けないかな?」

「あなたはいいのよ、たたかわなくても」

 

「?」フォウはきょとんとしてしばし止まり、尋ねた。「どうして?」

「決まってるでしょ」

 

楓はそう返すと、ふふっと笑った。

 

「わたしがあなたを―えっ、どうしたのフォウ!?」

 

フォウに腕をぎゅっと掴まれ、楓はたじろいだ。振り払うことはしない。

フォウは楓の右手を掴んだままひざまずいた。りりしく見えなくも無いが、慣れない事をして顔を真っ赤にしている。

 

「その…ぼくが、きみを守るから!ぼくの、友達だから…」

 

気恥ずかしくなったらしく、声はだんだんと小さくなっていった。最後にはもう赤面してしまい、言葉を終わらせることはできなかった。

 

「…それじゃ、いいこと?フォウ」

 

少し間をおいて、不意に楓が喋った。彼女は上品に笑っている。

 

「もしわたしに何かあったら、わたしを守って。そのあと必ず、フォウを助けるから!」

 

それを聞いて、フォウは満足そうにうなずいた。そして、彼は女王に忠誠を誓う騎士のように楓を見上げる。

「ぼくが、必ずきみを守る。この命にかえても!」

 

ーーーーー

楓、守存。

かならず、命にかえても。

JYUUUUM!

猛然と突撃したアルテミスフォースに、ゼロ爆装のホノオが襲った。それは()()()()と同じように超硬セラミックを砕き、ユニットに無視ならぬダメージを与える。

「―!!」

いつものように別形態に移行しようとしたが、無駄だった。ゼロ爆装のダメージは、コックピットブロックにも進行していたのだ。

(((殺った…勝ったぞ!)))

 

確かな手ごたえ。一瞬の歓喜が、フォウに訪れた。

そのとき、フォウには見えた―コックピットブロックが砕け、七瀬楓の姿。楓は慌てない。当然だ。フォウは知っている。彼女はもう楓ではない。あれは脳下垂体以外すべて機械。ロボットなのだから。しかし、回避行動をとる事はしなかった。機能停止したわけでもないのに?おかしい。機械なら、活動停止するその瞬間まで抵抗するはずだ。ではどうするか?

彼女はただ、フォウを一瞥した。怨みと憎悪の目つきで。そして、口を動かす。

 

それを見た次の瞬間、楓は周囲の残骸もろとも蒸発している。

爆発。炸裂する閃光が、ウシミツ・アワーのオオヌギ・ジャンク・クラスターヤードを昼間のように照らした。

「アイエエエエ!?アイエエ!」

「ワッザ?ニンジャ…?」

住民たちは今さらのように悲鳴を上げたが、ニンジャでないことを遺伝子的に感知し困惑している。これはニンジャでなければ説明できないにもかかわらず、ニンジャではない…?

「ニンジャじゃない…ニンジャ類似存在?」

「アイエエ…ニンジャ類似存在ナンデ」

 

我に帰ったフォウは、ただその場に立ち尽くしていた。彼がこれからどのような道へ行こうと、彼は絶対に忘れないだろう。否、忘れることはできない。彼女が言った、最後の言葉。

「うそつき」彼女は確かにそう言った。その四文字は、今まで受けたどのような創傷よりも深くフォウをえぐった。

「―ああ、楓。キミはぼくを信じてくれていたんだ」

 

残忍な敵(Xiタイガー)に自我を奪われた時も、心無き機械となっても。七瀬楓は七瀬楓だったその時まで、フォウの忠誠を信じたのだった。それを知らずに、騎士(フォウ)女王(カエデ)を裏切った。彼こそが、ただ外敵を殺す機械に他ならなかったのだ。

 

「Wasshoi!!」

その言葉が、フォウの上部を飛び、背後に移動した。近くにはセスナ機の音が聞こえる。

背後に立っていたのは、いつか見た赤黒のニンジャ装束を着けたニンジャだった。彼はあるハッカーから情報を得て、またヘルカイトの出現からそれを確信し現れたのだ。

 

おそらくヘルカイトは救援を呼ぶか、「あそこには何も無い」と撤退するかだ。彼にとってはどちらでもよい。最終的に全員殺すのだから。

「アイエエエエエエ!?」

「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

「ニンジャ!ニンジャ類似存在!?アイーエエエエ!!」

ドーモ、初めまして。ニンジャスレイヤーです。…ニンジャ殺すべし

本物のニンジャに遭遇しNRSを起こした住民を尻目に、ニンジャスレイヤーは丁寧にアイサツした。

 

(((ニンジャ…ニンジャか)))

フォウはもう、どの世界においても生きる意味が無いように思えた。そしてまた、こうも考えた。この見ず知らずの世界で卑しきニンジャとして戦い、殺されることが、自分に対する一筋の救いだろうか?

フォウの中でかろうじて維持されてきた均衡は、すでに崩れていた。そもそも、楓のいない世界に生きる意味などない。

(((…どうせ、死ぬなら)))

 

フォウは振り返った。ある動作を行うために。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。相手が自分にしたように、「ニンジャスレイヤー=サン」に一礼。

 

 

ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。フォウ・ミサキです

 

 

 

 

「フラッシュバック、セブン・フォース」終

ニンジャ・ウィズ・ワンダラーズ#終

 

#NEOSAITAMA:Schweizer1f:THANK YOU FOR READING!///

#NEOSAITAMA:Schweizer1f:AND,GOODBYE!///




人物名鑑

七瀬 楓
12歳の少女。セブンフォースを操る事ができた唯一の人間だったが、その事とフォウの友人であったことからXiタイガーの人質にとられる。その後手違いで殺害され、フォウの参戦(「エイリアンソルジャー」の冒頭)の遠因となった。しかし、後に超能力の源である脳下垂体以外を全て機械に置換され、フォウと対峙することになった。そのときも含め、今回の戦闘は二回目。
今渡の際のセリフは、彼女の本心か、それともプログラムされた感情に過ぎなかったのだろうか?




ご拝読ありがとうございました。フォウ・美咲の物語は、これでおしまいです。
もしかすると、また忍殺世界ワープものを書くかもしれません。
その時があったら、また読んでいただきたいと思います。


そして最後に、読者皆様方、
「エイリアンソルジャー」を制作した、セガ並びに開発会社トレジャーの皆様と、
「ニンジャスレイヤー」を執筆したブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ両氏、並びに翻訳を行っているほんやくチームの方々に最大限の敬意と感謝をもって、この作品を結びたいと思います。ありがとうございました!


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