とある満月の夜、魔法の水晶・キャシーが校長に不穏な予言を告げる。「かつて訪れたとされる災厄、終わりなき混沌。それに仕えし者がまた一人、復活を遂げる……」果たして、この予言がどのように運命を変えるのか。それはまだ誰にもわからない。
__不気味な雲以外何も存在しない、広大な無の空間。長き眠りより目覚めた
「どうしたであるか。オルーバ。」
そう尋ねるのはオルーバと同じく12の眷属の一人、シャーキンス。彼の問いに、オルーバはこう答えた。
「僕らデウスマストの眷属。その一人が目覚める気配を感じるよ。」
「マジ?いよいよ本格的にデウスマストの復活の日が近いってワケ?」
この場にいるもう一人の眷属、ベニーギョもオルーバが告げた事実に驚きを隠せない様子だ。一方、シャーキンスはそれに一切動揺する様子もなく、自信満々に宣言する。
「ふん、新たなる眷属の復活を待つまでも無い。プリキュアは我が叩き潰す」
シャーキンスは指をパチンと鳴らした。すると彼の姿は蜃気楼の様に消える。
彼は自身の能力を使い、プリキュア達のいる地上の世界へと向かったのだ。
__数日後。みらいとリコ、それにはーちゃんこと花海ことはは、魔法界のとある森へピクニックにやって来ていた。
「わ〜!不思議なお花がいっぱい!わくわくもんだぁー!」
魔法界特有の不思議で奇妙な植物に胸を躍らせ、いつもの口癖を言うみらい。
「はー!面白いお花がいっぱいだー!」
「綺麗モフー!」
みらいのテンションにつられてことはと、ぬいぐるみのモフルンもはしゃぎ出す。
「もう、二人ともはしゃぎすぎよ!」
「リコもおいでよ!」
みらいはリコの手を掴むと、彼女の手を引き、駆け出した。
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」
いつもは落ち着いているリコも、みらいのテンションに振り回されているようだった。
しばらく森を進むと、とてつもなく巨大な花を発見した。
「はー!今度はおっきなお花だー!」
「でも、ここからじゃよく見えないね……」
しかし、その花はあまりにも大きすぎるため、地上からではその全貌がよく見えない。そこでみらいは、二人に提案した。
「そうだ!箒で空を飛んで、上から見ようよ!きっと、もっとよく見えると思うよ。」
「それはいい考えね。」
「うん、そうしよう!」
みらいの提案に、二人も賛成したようだ。みらい、リコ、ことははそれぞれ自分の箒を出現させると、一斉に魔法の言葉を唱えた。
「「「キュアップ・ラパパ‼︎」」」
すると、その声に呼応するかのように箒は空高く舞い上がる。そして、ちょうど花の高さまで浮上すると、そこでピタリと静止した。
「やっぱり、思った通りだ!ここからならよく見える!」
「上から見ると、本当にキレイね……。」
三人がその花の美しさに見とれていると、不意に前方から、鳥の群れがことはめがけてやってきた。ことはは、それに驚き、その拍子によろけて箒から落ちそうになる。
「はーちゃん危ない!」
みらいはとっさにことはのてを掴む。そのおかげで体勢を立て直す事ができ、なんとか落ちずに済んだ。
「はーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……私が持ってるリンクルストーンもほら!……って、あれ?」
ことはは、スカートのポケットに手を突っ込み、自分が持つリンクルストーンを探している。リンクルストーンとはエメラルドをはじめとする計12個の不思議な力を持った宝石のことである。普段はみらいとリコが管理しているのだが、今日はたまたまことはが持っていたようだ。
「無い、無い、無い……リンクルストーンがなーーーい!」
「「えーーーーっ‼︎」」
みらいとリコは同時に驚き、声をあげてしまった。どうやら、先ほどよろけた拍子にことはのスカートのポケットからこぼれ落ちてしまったようだ。
「……もう、あと一個、どこにあるのよ!」
それ以来、みらい達は森中を探し回っている。もうほとんど見つかったのだが、最後の一個、リンクルストーン・アクアマリンがどうしても見つからない。
「みんな、ごめんね……」
「だ、大丈夫だよ。気にすることないよ、はーちゃん。」
責任を感じて落ち込むことはを、みらいが励ます。とはいえ、アクアマリンは一向に見つかる気配はない。みらい達が途方に暮れていると、突然モフルンが声を上げた。
「女の子モフ!」
よく見ると、森の奥から一人の少女がこちらにやってくる。青く、美しいロングヘアに、髪と同じ青い瞳を持つ美少女だ。
「綺麗な子……」
そのあまりの美しさに、リコは思わず口に出してしまった。
「ねえ、そこの君!この辺で青い宝石を見なかった?」
みらいはその少女に尋ねた。すると少女はみらいに手を差し出し、ゆっくりと拳を開いた。その掌にあったのは、なんと今まさにみらい達が探していたリンクルストーン・アクアマリンだったのだ。
「あ!これだ!どうしてあなたが持ってるの?」
「……さっき、道端で拾った。」
みらいは事情を話し、この宝石が自分たちにとって大切な物である事を話すと、返してもらえるようお願いした。すると少女は、快く返してくれた。
「ありがとう!……えっと、名前なんだっけ?」
「……私は、ルリアナ。」
少女はルリアナと名乗った。みらい達もそれぞれ自分の名前を告げると、改めてお礼を言った。
「そうだ。ルリアナ、私からも一ついい?」
「……何?」
みらいに続いてリコもルリアナに質問する。
「ここ、どこ?」
そう、みらい達はリンクルストーンを探すのに夢中で気付かなかったようだが、森の中をあちこち探し回っているうちに三人は道に迷ってしまったのだ。
「もしかして私達、道に迷っちゃったー⁉︎」
「はー!絶対絶命ー!」
みらいとことはもその事に気づき、焦り出す。その様子を見ていたルリアナは口を開いた。
「私が、森の入り口まで連れて行ってあげようか?」
するとルリアナは、パチンと指を鳴らした。するとみらい達は光に包まれる。次の瞬間、なんとみらい達は森の入り口まで移動していた。
「す、凄いわ……。一瞬で森の入り口まで移動するなんて、上級者でも難しいはずなのに……」
ルリアナに対して、リコは驚きを隠せない。物体を瞬時に移動させる事は、魔法界でもかなり難しい魔法らしい。
ぐ〜〜……
その時、みらいのお腹が鳴った。みらいはお腹に手を当て、照れくさそうに笑う。気づけばお昼の時間はとっくに過ぎていた。それに森の中を必死に駆け回っていたため、リコ達もお腹がペコペコだった。
「そろそろ、お昼にしましょう。」
リコがそう言うと、みらいやことは、モフルンもそれに賛成する。早速みらいはリュックからお弁当を取り出そうとする。そこでみらいは気づく。確かに今朝みんなで作ったはずのお弁当が入っていないのだ。どうやらみらいは、お弁当を入れ忘れてしまったらしい。
「どうしよう……私、お弁当持ってくるの忘れちゃったよ……」
お弁当が無いと分かると、余計にお腹が空いてくる。仕方がないのでリコとことはがお弁当を分けてくれる事になった。
その時だった。ルリアナが再び指を鳴らした。すると、なんと三人の前にリンゴやブドウ、パインといった果物から、おにぎりやサンドイッチといった食べ物。さらにはドーナツやケーキといったスイーツまで、様々な食べ物が山のように出現した。
「す、凄い……こんな魔法、見たことない。凄すぎるわ‼︎」
それを見たリコは、先ほどよりもさらに驚く。そもそも魔法とは万能の力ではない。何もない所から何かを生み出すといった所業は、例え魔法の力を以ってしても不可能なのだ。
「ルリアナ、これ、どうやったの?というか、あなた何者?」
「わ、わからない。私、記憶が無いの。覚えている事は自分の名前と、不思議な力を使えるという事だけ……」
ルリアナの口から告げられたのは衝撃的な事実だった。どうやら彼女は記憶喪失という事らしい。
「そうなの……ごめんなさい。悪いこと聞いちゃったわね。」
「ううん、気にしないで。私も全然気にしてないから。」
とはいえ、記憶が無いとすれば彼女が何者であるか、確かめる術がない。
「そうだ!」
その時、みらいが何かを思いついたように声を上げた。
「校長先生と水晶さんなら、何かわかるかもしれない。聞いてみようよ!」
「そうね。ひとまず魔法学校へ行ってみましょう。」
「みらい……リコ……私に気を使わなくていいよ……?」
ルリアナは遠慮がちにそう言った。そんな彼女に対し、きっぱりと言い切った。
「気なんか使ってないよ。私達、ルリアナに色々助けてもらったから、今度は私達があなたの力になりたいの!」
「モフルンもモフー!」
「だから、遠慮なんてしなくていいのよ。」
「みんな……ありがとう。」
その時だった。突然上空に黒雲が立ち込め、辺りが暗くなったかと思うと、上の方から声が聞こえた。
「見つけたぞ、プリキュア。貴様らは今度こそこの我、シャーキンスが徹底的に叩き潰す。」
現れたのはデウスマストの眷属の一人、シャーキンスだ。
「出るのだ!」
シャーキンスがそう言いながら指を鳴らすと、空に亀裂が走り、そこから漆黒の巨人が顔を覗かせる。その巨人はドーナツと森に咲いていたひまわりを取り込むと、周囲に花びらが付いているドーナツの中心に顔のついた、異形の怪物へと変化を遂げる。
「ドンヨクバール‼︎」
「まずい……ルリアナ!茂みに隠れてて‼︎」
みらいはルリアナに、安全な所に隠れるように促す。ルリアナはみらいに従い、近くの茂みに身を潜め、そこから様子を伺う事にした。
「いくよ!リコ、はーちゃん!」
みらいがそう言うと、三人はプリキュアに変身するための魔法を唱える。
「キュアップ・ラパパ!サファイア!プリキュア・ミラクル・マジカルジュエリーレ!」
「キュアップ・ラパパ!エメラルド!フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」
すると、三人の髪や衣装が次々と変わっていく。
「二人の奇跡!キュアミラクル!」
「二人の魔法!キュアマジカル!」
「遍く命に祝福を。キュアフェリーチェ!」
「「「魔法つかいプリキュア‼︎」」」
みらい達がプリキュアに変身するや否や、いきなりドンヨクバールが花びらをミサイルのように飛ばしてくる。しかし、この程度でダメージを受けるミラクルとマジカルではない。二人は空を飛び、攻撃をかわす。そう、これこそがリンクルストーン・サファイアがプリキュア達にもたらす加護である。サファイアは人魚の力を宿したリンクルストーン。かつて人魚は海ではなく空を飛んでいたという。つまり人魚の力とは、空を飛ぶ力なのだ。
「ふん、こざかしい。撃ち落とせ、ドンヨクバールよ‼︎」
「ガッテン!ドンヨクバール!」
シャーキンスの指示を受けたドンヨクバールは、空を飛ぶミラクルとマジカルに向けて、無数の攻撃を放つ。あまりの数に圧倒され、二人は避けきれず、攻撃を食らって地に落ちてしまった。
「ミラクル!マジカル!……許しませんよ!」
すると今度はフェリーチェがドンヨクバールに向かって飛んでいく。フェリーチェにも花びらのミサイルを放つドンヨクバールだが、フェリーチェはそれを避けながら接近していき、ドンヨクバールに一撃をくらわせた。フェリーチェの強烈な一撃をくらい、ドンヨクバールの動きが止まった。
「くらえ!」
しかし、次の瞬間。シャーキンスがフェリーチェに向けて葉うちわで風を起こした。油断していたフェリーチェはその攻撃を受けてしまい、ミラクル達がと同様に地面に叩きつけられてしまう。
「プリキュア……?それに、あの怪物……」
ルリアナは茂みに身を潜めながら、その一部始終を見ていた。どうやらシャーキンスとドンヨクバールを見て何かを思い出しそうになったようだ。
「とどめだ。ドンヨクバール‼︎」
「ガッテン!」
ダメージを受けて動けないミラクル達に向けて、ドンヨクバールは攻撃の構えをとる。そして先程のように無数の弾幕を放った。ミラクルたちはその攻撃を避けるすべもなく喰らってしまう……
……はずだった。ドンヨクバールの攻撃は、突如プリキュア達の前に現れたバリアによって防がれた。バリアを発生させたのは、ルリアナだった。
「むっ!そなたは!」
シャーキンスは彼女の事を知っているようだった。
「この人達を傷つけないで。」
するとルリアナはドンヨクバールに向けて、黒い光線を放った。それは見事ドンヨクバールに命中し、大きな隙が生まれた。
「みんな、今だよ!」
何が起こったのか、いまいち状況を飲み込めないでいるプリキュア達だったが、とりあえずルリアナが作ってくれた隙を逃すまいと、必殺技を発動する。
「「「キュアップ・ラパパ!アレキサンドライト!」」」
ミラクル達の前に、13個目のリンクルストーンが出現した。その力を受け、プリキュア達は更なる形態へと変身する。
「「「魔法つかいプリキュア!オーバー・ザ・レインボー!」」」
するとプリキュア達の前に巨大な魔法陣が出現する。
「フル……フル……フルフルリンクル‼︎」
プリキュア達がそう叫ぶと、魔法陣から放たれた強い光を放つ虹色の光線がドンヨクバールを包み込み、遙か彼方へと吹き飛ばす。
「「「プリキュア・エクストリーム・レインボー‼︎」」」
その強大な魔法の力によってドンヨクバールは浄化され、元の物質へと戻った。
「プリキュア。次こそは……‼︎」
ドンヨクバールが倒されると、シャーキンスは捨て台詞を残して撤退する。束の間ではあるが、プリキュア達に再び平穏が戻ったのだ。
「みらい、リコ、はーちゃん!」
「プリキュア」に変身しているみらい達に対し、ルリアナは変身前の名前で彼女達を呼んだ。ルリアナは一連の出来事を茂みに隠れながらずっと見ていたため、彼女達がプリキュアであることも知ってしまったようだ。
「その姿……プリキュアっていうの?凄く強いんだね!」
「ルリアナ……全部見てたんだ。私達がプリキュアって事は秘密だよ!」
「うん。わかった!」
そう言うとルリアナはミラクル達を見て微笑んだ。
__プリキュアとの戦いに敗れたシャーキンスは、再び無の空間へと帰還していた。
「あんた、またプリキュアに負けて帰ってきたってワケ?」
ベニーギョはシャーキンスに対し、やや罵るようにそう言った。
「……だが、思わぬ収穫もあった。あの少女……間違いない。少し様子がおかしかったが、奴は我らデウスマストの眷属の一人。ルリアナだ。」
シャーキンスはベニーギョとオルーバにそう告げた。彼は気づいていたのだ。不思議な少女・ルリアナの正体が、デウスマストの眷属の一人であるということに。
勢いで書いた小説です。原作のプリキュアの雰囲気を目指して書きました。不定期ですが、多分続きを書きます。
余談ですが、ルリアナの名前の由来は「瑠璃」です。デウスマストの眷属の名前は、全員「宝石が由来」説があるので。
・ラブー→ラブラドライト
・シャーキンス→砂金石
・ベニーギョ→紅玉随
・オルーバ→オパール