闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
とりあえず、自己紹介をしよう。
俺の名前は
名字はまだしも名前は読みづらいと思う。親に名前を覚えてもらえないと言ったとき、英語にして最初と最後をとれば良いと言われた。その時英語はまだよく知らなかったので、サイトで翻訳したらライトとドリームと書いてあった。まあそういうことだ。
まあこのときは親もいて充実していたのかもしれないし、まだ幼稚園児で、親も見ているからか、あまりいじめと言うのは起こらなかった。
ドォーン・・・
という地響きのような音が聞こえてきた。いくつもいくつも・・・
音はずっと鳴り止まなかった。最初はぼんやりと微かに、だが次第に音がはっきりと聞こえてくる。そして目を閉じていることに気づき、ようやく目を開いて回りを見てみると、見慣れない景色があった。
「・・・?」
小さな彼には何が起こっているのか理解するのに時間が掛かった。だが、音をはっきりと聞き取れるようになってから
誰か!助けて!
にげろ!
軍は何してんだ!
という声が色々なところから上がっていることに気づいた。そこでようやく彼は理解した。ただ事ではないことに。
すぐに彼は起き上がろうとした。だが、体中から激痛が走る。すごく辛かったが、とりあえず回りの状況を把握しようとすると、まず彼が寝ていたのは寝室ではなかった。
そこで小さな彼はさっきまでの記憶を思い出す事にした。
彼はまず、いつも通り両親と3人で夕御飯を食べていた。そして食べ終わってすぐの頃、
ガラガラガラ
という音が聞こえた。
その時、突然母の顔が青ざめたのがわかったが、そこで記憶は途切れてしまった。
結局訳がわからず、回りを見渡してみると、家は吹き飛び、クレーターのようなものができているのがわかった。
そこで彼は気がついた。
「深海棲艦!?」
小さい声で彼は叫んだ。幼い彼でも、その知識はしっかりと教えられてきたから理解できた。そしてすぐに両親を探した。しかし、そこには重なって倒れている2人だけだった。
その時足音が聞こえてきた。
軍の人だ、助けてくれる!
そう思った彼だったが、再び意識がもうろうとしてきている中、倒れている両親を見て、確かに聞こえた声があった。
「
ここで彼の意識は途切れた。
「くそっ、なんでこんなことを思い出さなきゃ・・・」
彼はそう呟いた。ここは一人で暮らしている古いマンション、非常に家賃が安いため、20歳になったばかりの彼でも住むことができる格安だった。
そしてさっきまでのは夢、それも過去の事、両親が亡くなった理由だった。あのとき以降、彼はまともな生活ができなくなった。
彼の両親は元々提督と艦娘で、2人で暮らすために、それぞれの仕事をやめた。深海棲艦との戦争中だったとはいえ、比較的近海は安全になった為に、大本営はそれを許した。
そして、黒鋼光夢が生まれた。この時代、どれだけ研究しても人間と艦娘の間に子は生まれないと言われていた。しかし、彼は生まれた。両親はもちろん、被験体にならないよう色々ごまかした。あのときは大本営の一番のお偉いさんがそのくらいと、何とかしてくれた。
そして・・・両親は死んだ。
その後、義務教育の小、中学校がさんざんで、毎日殴られ、全身にアザを作ったり、骨折もした。2階から落とされることもあったが、なんとか生き残った。だが、彼にとってはもういっそ死んだ方がましと言える状況だった。
時には金属バットで殴られることもあった。それでも生き残った。
不思議なくらい、
だが、ある程度の怪我は彼には見える妖精が何とかしてくれた。
「いつもありがとう、妖精さん」
そう言うと妖精は、にぱー!と微笑むだけだった。そして少し心配そうな顔になって
「本当に大丈夫ー?」
と聞いてきた。そこで彼はなにも答えられなかった。
そんなこんなで彼は生き続け、20歳になった。
もう彼は疲れきっていた。中学までは何とかしてきたものの、その後は無理だと決め、バイトをした。だが、バイト先でも同じようなことが起こりだし、めんどくさくなる前に転職した。それを続けてきたが、勿論こんなことでは続かない。彼にとっては辛くて辛くて、堪らなかった。
だから彼は
ピンポーン!
軽快な音が聞こえてきた。
「はーい」
と彼は答え、扉を開けると
「お迎えに上がりました。」
「あ、すいません!少し待っててください!」
「了解しました。」
刀を腰にかけた男がたっていた。車もあるらしく、来た理由はわかっていた。
一通の手紙、そこには大本営からの招待状と
提督になるように。
の一文だけだった。宛名もわからなかったが、とりあえず、大本営からの招待状が届くということは必ず、迎えが来るというのは親から聞いたことがあった。時間を知らないので朝から用意しようと思っていたらこれだ。
彼は早急に着替えて車に乗り、大本営へと向かった。
あの時は、雨が降っている日だった。
激しく雨が降る中、彼はなにも持たず歩いていた。その時、狭い路地の向こう、気配と共に助けを求める誰かがいる気がした。
そもそも気配などが感じ取れるというのはいまだによくわかっていない。何故だか知らないが、女性や少女が対象となるのがすべてだった。
そこで勿論彼は去ろうとしたが、ここで割って入れば死ぬかな?と考えた彼は一瞬覗こうとしてしまった。
するとやはり女性、いやかなり小さい少女が相手だった。すると運悪く、たまたまこちらに誰かが来るかもしれないという警戒の目線を送っていたときに、覗いてしまった為に即バレた。
「おい貴様、なに見てんだ?」
低く、大きくはないが響いてくる声で呼んできた。そして逃げられる前にと、逃げる暇も与えずに腕を捕まれ、少女の左隣に引っ張り出された。少女は座り込み、後ろに回した腕に手錠をかけられ、俯いていた。そして制服を着ていた。
そして回りにいる男は5人、1人は白い制服を着て腰に刀をかけた人、恐らく提督だろう。残りはがたいが良く、刀を腰にかけ腕に憲兵と書かれていた。
「なに黙ってんだ?」
静かに状況を整理していた黒鋼が気にくわないのか、そんなことを言ってきた。
「シカトか?てめぇ、殺してやろうか!?」
と怒鳴ってきた。そこで黒鋼の口は何故か勝手に動いてしまった。
「俺を
「は?なんだ気持ちわりぃ、ちょっとそいつで楽しむ前にこいつで遊ぶわ」
そういって回りに声をかけた。すると1人の憲兵は
「参戦しよう」
と言って怒鳴ってきた憲兵の隣に立った。そして残りの憲兵は少女の方へ、提督は少女を正面から押し倒して服を脱ぎ始めた。
そこで強い衝撃が腹に来た。
「なによそ見してんだ?」
と言って殴ってきた。隣に立っていた憲兵はこちらを見るだけだったが。そこから頭と腹に強い衝撃が何度も来た。
俺が倒れ伏したときには
「案外こいつはタフだったな」
と言って笑っていた。
ふと隣を見ると少女は涙を流して目を閉じていた。そこで提督が何をしようとしているのか、準備が終わったらしいところで理解した。それと同時に何かが吹っ切れる音がした。
そこから勢い良く起き上がり、目の前で黒鋼を殴っていた憲兵に対し、体制を整え
かなり余裕でいたのだろう、突然の事に対応できず腹を
そして腕を思い切り引いた。すると、目の前にいた憲兵は、糸が切れた人形のように倒れた。そこで隣で見ていた憲兵は驚いていた。他の奴等も突然の血飛沫に驚いていた。
黒鋼はそこで一度右腕を降り下ろし、血を払った。すると、激痛と共に半袖シャツでギリギリ見えないが、二の腕から血が伝って来るのがわかった。
そしていち速く状況を整理した、倒れた憲兵の隣で見ていた憲兵が
「て、てめぇ!」
と声を荒げて殴りかかってきた。その腕を黒鋼はすぐに左手で横からつかみ、勢いをそのままに右の二人の憲兵に向けてその憲兵を
2メートル程飛び、2人の憲兵を直撃した。
そしてすぐに少女を助けるため、左腕で提督の首の後ろの襟をつかみ、提督の真後ろに向けて思い切り投げた。すると壁に激突、頭から血を流し、次第に動かなくなっていった。
そして、投げられた憲兵をどけた二人が殴りかかってきた。そのうちまず1人を左足で思い切り蹴り倒した。その場で後ろに倒れた憲兵を見た後、2人目の憲兵の首を正面からつかんで少し持ち上げた後、地面に叩きつけた。
そして、隣で蹴飛ばされた憲兵の顔面に一撃を加え、そこにいた5人の男は動かなくなっていた。
そしてここから少しでも早く逃げるために、急いで鍵を探し、少女の手錠をとり、腕を引っ張って走って逃げた。
10分ほど走っていただろうか、大分景色が代わり、人通りの少ない場所に来た。
「君、何処に住んでるの?届けるよ。」
と、黒鋼は軽く息を切らしながら聞いた。すると少女は
「・・・あなた、誰?」
「あ、そうか、そうだよな、誰だかも知らないやつにつれてかれるのは怖いよな」
と苦笑いを浮かべて、少女ができる限り安心できるよう心がけた。
「俺の名は黒鋼光夢、君は?」
「・・・」
長い沈黙のようだった。何やら考えているような顔をしていた。
「あぁ、答えたくなかったら「吹雪です。」
「え?」
「特型駆逐艦、吹雪型一番艦、吹雪です。」
そう彼女は答えた。そしてすぐに
「お願いします、提督になってくれませんか?」
と頭を下げてきた。突然の事に頭が追い付かず、とりあえず頭をあげるよう言った。
「えっと・・・何で?」
そう聞かずにはいられなかった。さっきあんな色々されそうだったのに、全く知らない人にそんなことを頼んでよいのだろうか。
「さっきの人達、覚えてますか?最近大本営の人達はあんな感じで、誰かに引き取ってもらえないともう、辛いんです。」
大本営には新しく来る新人に最初の戦力として1人、艦娘を用意する
という話だ。その事だと思ったが、黒鋼はふと思ったことを言った。
「今はたくさんの提督志願者がいるはずだろ?俺に頼まなくてもすぐに来るんじゃないのか?」
「選んでもらえないんです。」
彼女は即答だった。選んでもらえないなんてあるのだろうか?だが、彼女が嘘をつくとは思えない、だがもし彼女が俺を必要とするのなら、最後に頑張ってみるか・・・。
人間を信じられなくなったが、艦娘ならどうだろうと考えた黒鋼は、そこで了承することにし、道中で色々話を聞いた後、彼女を送り届けて帰った。
途中、心配になり吹雪とその他の子達は何かされていないかと聞くと、まだ汚れていないと言っていた。
「っ!また
そう小さく呟き、ため息をこぼした。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ。」
「・・・そうですか。」
心配になったのか聞いてきたが、ごまかした。今日はよく
黒鋼が病気と言っているのは、自分にも良くわからないことだ。それは2つあり、1つは過去の嫌なことがはっきりと頭の中によみがえる症状だ。とりあえず原因はわからないため、フラッシュバックと呼ぶことにしている。
もう1つは、さっきの話にもあったが、ストレスで吹っ切れると人間とは比べ物にならないほどの力を発揮する症状だ。こちらは特に呼び方は考えていない。
「まもなく到着いたします。」
「うん、ありがとうね。」
「仕事ですので。」
そう運転していた人は答え、車の窓からは大本営らしき建物が見えてきた。