闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

施設の確認を終え、新たな問題が増えた。


第9話 血に濡れた再会

「もう間もなく艦隊、帰投する。」

 

無線から長門さんの声が聞こえてくる。長門さん旗艦の艦隊が出撃中だった。

 

「了解、最後まで気を抜かないように。」

 

私、朝潮はこの鎮守府の司令官代理としていつも通り運営していました。私は初代司令官がいたときからこの鎮守府に所属しています。優志司令官とも共に海域を攻略していました。その後司令官が代わり続けるため安定させるためにも代理として任務をこなしてきました。

 

「お疲れ様です。補給後、損傷の小さな方達から順に入渠お願いします。」

 

母港に行き皆を迎え、指示を出す。入渠ドックは1台しか生きていない。だから少しでも早く終わる娘から出撃できる人数を増やす。

 

「私は皆を入渠させたら執務室に顔をだそう。」

 

そう言って長門さんは皆を連れていった。私もそれを見送って執務室に戻る。執務室の扉を開くとそこには誰かが立ち上がったのが見えた。

 

「誰!?」

 

思わず反射で言ってしまった。最近新しい司令官が来ることが減っていたので、つい驚いてしまった。

 

「まてまて、ここの提督になった黒鋼だ。怪しいものじゃない。」

 

「黒・・・鋼?」

 

黒鋼、最初に聞いたときは勘違いかと思ったが、確かに言っていた。だが、この人は優志司令官でもなければあの人(・・・)でもない。となると、1人心当たりがある。

 

「もしかして、朝潮か?」

 

優志司令官に息子ができたとき、私は興味があってよく相手をしていた。赤ちゃんなんて特に見れることなんてなかったから。もちろん、興味があったのは私だけではなかったけれど。

 

「ほら、俺の父さん、黒鋼 優志の息子だよ。」

 

だが、優志司令官の家に深海棲艦の攻撃が直撃したと聞いてから、情報は得られていなかった。私達はあくまで軍だと。そんなものを気にするより海域の奪還を早くするようにと。

 

「まさか、うそ・・・」

 

私の心から出た言葉だった。せめて光夢君の安否だけでもと大本営に怒鳴り続けて得られた答えは、

 

あの傷じゃあな、厳しいだろうな。

 

だった。皆ショックを受けた。もう死んだと思い込んでいた。だから来たときも彼のことを知っている娘達は気付けなかった。

 

「久しぶり、まったく変わらないね。」

 

これは容姿について言っているのか、それともどこか別の部分なのか、わからなかったけれど、生きていたことへの安堵などが考えることを止めた。

 

「こんなに大きくなったんですね。」

 

彼を最後に見たのはおそらく15年ほど前だと思う。あんなに幼かった、私よりも低かった身長も今ではまったく変わっていた。

 

「朝潮!どうした!?」

 

気付けば執務室に来ると言っていた長門さんが来た。だが振り向いてすぐ、彼女は表情を変えた。

 

「泣いているじゃないか、まさか!」

 

彼女が私の肩を押さえ執務室を覗く。この時私は長門さんを止めることができないことを察してしまった。

 

「貴様!!」

 

彼女は優志司令官の次の司令官と一緒にやって来た。戦力強化で大本営から譲り受けたとのことだった。長門さんは前世でなにもできなかったから、今度こそは皆を守ると言っていた。だが、この司令官から始まった処罰などを止めることはできなかった。

 

司令官が不機嫌になれば適当な理由で殴られる。兵器が人間のように楽しめば蹴飛ばされる。目の前で散々処罰を下されても長門さんは止めることができなかった。それが嫌になって、気付けば処罰を下そうとする司令官を自分の危険を省みずに止めていた。

 

「な、長門さん待って!違うの!」

 

声をかけるもやはり止めることはできない。なんとか止める方法を考える。だがそう時間もかからないうちに轟音と光、風によって全ての思考が止まった。

 

轟音と振動で鎮守府中の艦娘が集まる。長門さんは手を離し、ここから出ていってしまった。だが、止めようとはしなかった。気付けば爆風で吹き飛ばされたのか机が端でひっくり返っていた。妖精さんの技術か粉々にはならなかった。

 

少ししてすぐに彼の母といたであろう妖精さんが集まってきた。彼を見るとすぐに近寄り色々と調べ始めた。

 

 

 

長門さんは何をしたのか。今まででこんなことはなかった。処罰を下そうとするのを殴り飛ばすなどで意地でも止める程度だったが、彼女は光夢君に向けて砲撃した(・・・・)。壁には大きな穴が開き、窓ガラスは割れた。

 

「すぐに運ぶよー!」「入渠ドックへー!」

 

気付けば目の前に妖精さんが来て私に向けて叫んでいた。ものすごい勢いで急かしてくるのでなにも考えられないまま集まっていた中から、彼と共に着任した数人を見つけ手伝ってもらって運び出す。

 

「いったい何があったのですか?」

 

彼と着任した5人はどういう状況か説明を求めてきたけれど、妖精さんはそれどころじゃないと運ばせた。

 

 

 

入渠ドックへ着く。司令官達が使う浴場は勿論此処ではない。

 

「入れるよー!」「いそげー!」

 

妖精さんはまたそんなことをいってくる。だがさすがに私達は固まってしまった。人間が入渠ドックに入るなんて殺すのと同義だと。だが妖精さんはまた急かしてくる。

 

私達から見てもこのままでは死んでしまう。いや、もう死んでいるかもしれない。撃たれたのは41㎝連装砲だ。直撃ではないが、もうすでに両足はほぼ吹き飛び左手も肘から上は見当たらない。他はかなり黒くなったりしている。おそらく熱で焼けたのだろう。

 

もう助からないかもしれないが妖精さんの言うことを聞いてみよう。妖精さんは嘘をつかない。何か方法を知っているかもしれない。

 

そう思い私は黙って妖精さんの指示に従う。

 

「ちょっと!何考えてるの!?」

 

そんなことを叫ばれる。だが私の行動を止めることはできなかった。私の視界はもう歪んでいて彼をまともに見ることもできない。

 

そっと修復剤の入った浴槽にいれる。この浴槽は皆も使っている唯一稼働しているものだ。

 

「     !!」

 

光夢君を肩まで浸からせる。入れた瞬間声と言うよりは音のようなものが聞こえる。何を言っているのかはわからなかったがものすごい声で叫んでいるのはわかった。そして叫んでいるのは光夢君だった。

 

そこでひとつ忘れていたことを思い出した。

 

「光夢君は人間と艦娘のハーフなんだよ。」

 

優志司令官から言われたことだった。だが光夢君は苦しんでいる。艦娘は修復剤に入ると体力も疲労もある程度回復する。苦しむことなんてそうないのだ。つまり苦しんでいるのは彼の人間の部分だ。人間であれば死に至るような苦しみなどを受けつつ艦娘として修復される。

 

彼からすれば死ぬよりも苦しいかもしれないことだった。だが次第に黒く焼けていた肌は戻り始め、吹き飛んでいた腕や足も元に戻ってきた。気付けば叫び声も止んでいた。それを見届け長門さんに詳しい説明をしに行く。

 

「どこに行くのかしら?」

 

出ていこうとする私を叢雲は止めてきた。

 

「こんな状態にしてしまったのは長門さんです。勘違いをしていたとはいえ司令官代理である私の制止命令を聞きませんでした。処罰は司令官が意識を取り戻してから決めますが彼についてなどは話しておこうと思っています。」

 

自分でも驚くほど淡々と言葉が出る。そして私はここから出ていく。もう一度止めようとする人はいなかった。


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