闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
白露、村雨と知り合った。
「いいか?光夢。信頼を築くと言うのは積み重ねなんだ。小さくても少しずつ、確実に積み上げてようやく信頼を得る。だがな?どれだけ高く積み上げても、崩れるときは一瞬なんだ。だから気を付けろよ?」
父さんに言われたんだったか、そんなことを思い出す。そして気付けば矢を放っている。何本目かわからない次の矢を持とうと手を伸ばしたとき、頭に小さいとは言えない大きさの衝撃が走る。
「いてっ・・・」
簡単な話、龍驤にチョップされた。少し力が籠っていた。今日は鳳翔さんが近海の警戒に行くため、龍驤が代わりに来ている。そして龍驤も鳳翔と同じく俺を知っている。だが、彼女が弓を使っているところを正直見たことがない。
「今余計なこと考えとったろ。そんなんじゃ当たるもんも当たらんよ?」
「す、すまん・・・」
一言謝罪しもう一度矢を放つ。するとさっきよりは幾分か中心に近づいた気がした。
「矢を見ていれば、大体何を考えているのかわかるで。」
そんなことを言われ少し焦りを感じる。心が読まれているのかと。
「もしかして、今何考えてたかもわかってたりした?」
「キミ、何いっとるん?」
変なものを見る目で言われる。流石に考えすぎだ。そんなことを考えまた矢に手を伸ばす。
「キミのことを知っている艦娘は、皆キミを信頼していると思っとる?」
ふとそんなことを言われる。
「まあ完全ではないかもだけど、俺を知らない艦娘よりはしてると思う。」
そう答え放った矢は、今までの集弾していた矢とは離れたところで孤立した。
「せやな、間違ってはない。やけど、それは全員じゃないで。少なくとも、ウチは信頼してない。」
「じゃあ何でここに?」
少なくともここにいると言うことは何か目的があったはずだ。
「何でやろなぁ。」
だが返答はそれだけだった。そしてまた次の矢を放った。
今日も何百本、いや、何千本放っただろうか。そこまで龍驤には教わり続け、自分で言うのもなんだが上達してきた。そして今日は時間的にも体力的にも、あと数本でやめるという時だった。
「どないして皆、キミについていくかわかってる?」
「ついていく?」
急に言われた内容がわからず、矢は狙ったところとは少し離れた場所に刺さった。
「誰もついてこようとはしていなかったと思うんだけど。」
「そうやなくてな、キミは信頼をいくつか手に入れているやろ?小さくとも。」
それは長門や白露達のことだろうか。
「そうかもしれないな。」
「その子達はたった一度、会話しただけで信頼をし始めてる。不思議だとは思わん?」
「まあ、確かに。」
大本営や、大本営から送られてくる人間が嫌いだったここの艦娘が、俺を簡単に信頼し始めているのは考えてみればおかしいことだった。
「じゃあその答えの前に1つ、人間は時間をかけて信頼を得るやろ?」
「そうだな。」
人間だけだとは言わないが、かなり長い時間をかけて信頼を得る。その点は同意する。
「じゃあ艦娘は、艦娘同士では時間をかける余裕はなかったはずや、なのに信頼をしあってる。なんでやと思う?」
「・・・」
そこで詰まってしまう。言われてみれば彼女達は出会った時から背中を預け会い、出撃している。時間など全くかけていない。
「答えは
「過去?」
彼女達は
「艦だった頃の記憶、昔に背中を預け会って共に戦ったんや。信頼していないはずないやろ。」
確かにそうだ。言われてみれば、彼女達は過去に信頼を戦いの中で積み上げていった。今も信頼しているのはおかしいことではない。だが、それと俺には何の関係があるのだろうか。
「キミは艦娘のハーフなんやろ?」
「確かにハーフだが、そんな昔に生きてはいなかったぞ?」
彼女達の記憶に俺はいないはずだ。この話とは関係がない。
「記憶にはない、けど、不思議と知っているような気がするんや。何となくやけど、信頼してもいい気がしてくる。これは艦娘の血が入っているから、と言ってもええと思うで。」
正しいかと言われればわからないが、間違ってはいないと思うような、なんともあやふやな答えだった。
「せやからな、ほんま頼むで?何がなんでも、キミがここを守るんや。それはたぶん今の人間には無理や。艦娘の血が混じったキミにしかできひんことや。もう仲間が傷つくのは、辛いねん。」
龍驤は矛盾していることを言っていた。だが彼女は真剣だった。それにそのお願いは自分がやろうとしていることだった。
「これを頼むのがウチの目的や。」
「わかった。期待に応えられるよう努力するよ。」
そう言うと龍驤は弓道場を出ていった。そのとき一瞬、ほんの一瞬だけ柔らかい表情が見えた気がした。
「なるほど、それが答えか。それと、やっぱり読まれてたな・・・」
誰もいない空間でそう呟き、片付けを始めた。
寝る用意を済ませ、布団に潜り込む。そして布団の魔力には負け、眠りにつく・・・はずだったのだが、眠る寸前のところで誰かがこちらに向かって来る気配がした。
また白露か村雨か?
そう思い待ってみると扉から覗いたのは違う見た目の艦娘だった。
「えっと・・・はじめましてっぽい。」
礼儀正しく来る娘は初めてだなと思いつつも、来た理由がわからない。
「何か用かな?」
相手を刺激しないように細心の注意を払いつつ、そっと話しかける。
「その、村雨にお話ししてこいって言われて・・・」
「何かあったのか?」
そう聞くと怯えながらも話してくれた。
「そ、その、実は・・・相談したいことがありまして・・・」
「わかった、執務室で少し待っててくれ。」
そう言うと小さく頷き涙目になりながら向かっていった。
執務室に行くと電気もつけず静かに立ち続けていた。
「どうぞ、座って。次からは自由に座ったりしてくれて構わないから。」
しばらく椅子と俺を交互に見てそっと座る。そこまでして相談したいこととはどういったことなのだろうか。とりあえず白露と村雨同様、ココアを進める。すると白露達とは違い、特に警戒することなくココアを飲み始めた。
「ごめんね、名前から聞いてもいいかな?」
「夕立です。」
ココアを慎重に飲んでから答える。白露達に注意されているのだろうか。
「ありがとう。それで、相談って?」
「えっと・・・時雨、艦娘の時雨って、知ってるっぽい?じゃなくて、ですか?」
「いや、すまんが記憶にないな。」
そう言うと一枚の写真を手渡された。
「これが時雨っぽい、です。その、相談はその子についってぽい、です。」
「そのぽいって言うのは、不明という意味か?」
語尾に付くこの言葉が気になり聞いてみる。口癖なのか何なのかがわからず、話がいまいち入ってこない。
「す、すいません、気を付けます・・・。」
「あ、いや、別に口癖とかなら無理しなくていいよ。確認しただけだから。」
そう言って写真をよく見る。夕立と同じ制服で、黒髪を三つ編みにしていることまでは把握できる。
「この娘に何かあったのか?」
行方不明か、それとも様子がおかしいのか。状況によっては対処が難しいかもしれない。
「最近、その、誰とも顔を会わせようとしないっぽい。出撃とかは一緒にいるけど、すぐ1人になるっぽい。姉妹艦にもあんまり会わなくて・・・。」
「心配なんだな?」
続きが出て来なくなったところで確認をする。すると彼女は大きく頷いた。
「でも俺でいいのか?」
「大丈夫だと思うっぽい!」
今までで一番元気な返事を聞き、少し安心する。彼女がココアを飲み終えたときには、表情も喋り方も柔らかくなっていた。