闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

夕立と出会い、時雨の存在を知った。


第13話 大切な人

今日もまた矢を放つ。矢は狙ったところへと飛んでいく。

 

「本当に素人なのよね・・・?」

 

それを見て、今日近海の警備をしている鳳翔と龍驤に変わって来ている瑞鳳が言った。

 

「3日くらい練習してこの程度だよ。」

 

瑞鳳は昔俺とあったことはあるが、あの時の瑞鳳は来たばかりで忙しく、俺もすぐに鎮守府を出ていくときだった。だから鳳翔達とは違って全く関わっていなかった。

 

「ふーん、あっそ。」

 

冷たい態度しかとらないが、それでも鳳翔達に言われているのかきちんと教えてはくれる。

 

「何でこんなところに来ようと思ったの?新人提督ならもっと他の鎮守府で、基本を覚えてくるものだと思うけど?」

 

「まあ、色々あってね。」

 

「その色々を知りたいのよ。」

 

それだけ言われ疑問を浮かべる。何故俺なんかの事を知りたいのだろうか。そんな気持ちが表情に出ていたのか、それともまた飛ぶ矢を見て読み取ったのか、この疑問の答えが出た。

 

「もちろん、これはあなたがこの鎮守府で何する気か確かめるためよ。」

 

そう言って瑞鳳は腕を組んで睨み付けてくる。

 

「まあ、大本営に無理矢理来させられたって感じかな。」

 

「大きな戦果あげて昇進する(偉くなる)ためとかじゃないの?」

 

さっきよりも細い目で睨んでくる。おそらく疑われているのだろう。

 

「そもそも俺は軍人になるつもりは無かったんだ。」

 

「え?じゃあ何で?」

 

そう言うと細かった目が今度は大きく開いている。

 

「吹雪に頼まれてなったんだ。だけどあの招待状に書いてあった手書きの文字は、吹雪の字ではなかったと思うんだよな。」

 

「頼まれただけで軍に入ったの!?」

 

言われてみればそんな程度で来てしまった。

 

「まあ、そうだな。」

 

「艦娘の悩みなのに?」

 

「艦娘の悩みだからかもしれないな。」

 

人間をかなり嫌っていたあの時、人間に何を頼まれてもおそらく助けなかった。それを考えるとやっぱり艦娘の頼みだったからだと思う。

 

「じゃあ私のお願いも聞いてくれます?」

 

何のお願いだろうか、正直ここの艦娘のことをあまり知らない俺には、見当もつかない。

 

「良いよ、すぐにできるかはわからないけど。」

 

「え?」

 

そう言うと瑞鳳は固まってしまった。だがすぐに我に返ると苦笑いをしながら話し出した。

 

「新しい艦載機が欲しいんです。ずっと初期装備だから、皆いざというときに火力とかが足りなくて。」

 

「なるほど、確かに装備の一新は大切かもね。」

 

「やっぱり無理ですよね。」

 

答えを言う前にそう言ってくる。まだ否定したわけでもない。

 

「いや、それは遅くなろうと必ずやることだから、装備の一新がしたいなら用意するよ。」

 

「え、でもいいんですか?」

 

「すごいの用意しとくから待ってて。」

 

そう笑顔で答える。

 

「すごいのって何ですか?」

 

小さく笑って聞いてくる彼女の顔には、今日初めて見る笑顔があった。

 

 

 

 

 

いつも通り寝る支度が済み、布団に潜りたいところだが、昨日夕立に頼まれたことをするため部屋を出る。時雨が良くいるのは埠頭だと夕立に教えられた。

 

埠頭に来てみたが、明かりが全くないここはものすごく暗い。その分星は良く見える。この暗さで人探しはかなり近付かないと見つからないと思う。地面も見辛く、うっかり海に落ちてもおかしくはない。

 

とりあえずのんびり歩いてみる。海からの風が心地よい。ここに来ることはなかなかないから案外気持ちが高ぶる。しばらく歩いて1番端まで来たとき、人影のようなものが見えた。近づきながら良く見ると何となく時雨のように見える。何かしている様子もなく、ただ立っているだけのようだった。

 

「君、時雨?」

 

唐突になってしまったが声をかける。だが驚く様子もなく返事が返ってくる。

 

「そうだけど、君とは初対面じゃないかい?」

 

彼女は海に向けた視線を動かさずに話続ける。

 

「まあ、そうだな。君の事は夕立に教えてもらったんだ。」

 

「やっぱりね、夕立が何かしたんだと思った。」

 

これだけ話していても、まだ海から視線を離さない。

 

「俺が来たことに何か警戒したりしないのか?」

 

今まで皆警戒しているのが当たり前だったが、特に何も反応しないのは珍しい。

 

「夕立は信頼できる人にしか、僕の事なんて話さないからね。」

 

つまり、夕立が大丈夫なら時雨も気にしないと言うことか。そしていい加減に海に向き続けている視線に触れる。

 

「なあ、さっきから何を見ているんだ?」

 

「海だよ。」

 

「それはわかってるけど、ずっと見てるじゃないか。」

 

「見ていて悪いかい?」

 

「そんなことはないよ。」

 

これは何かはぐらかされているのだろうか。結局、何を見ているのかはわからない。

 

「ねぇ、提督。提督は、どうして海で争いが起きているんだと思う?」

 

突然そんなことを聞かれる。気付けば海に向いていた視線が、こっちを向いていた。

 

「海はこんなにもきれいで、僕たちの生命の源とも言われているんだよ。それなのに、なんでそんなところで争うんだい?」

 

そう言われて気付く。そんなこと考えたこともなかった。なぜわざわざ海で争うのか。

 

「こんなきれいな海を守りたかったんじゃないか。」

 

「守る?」

 

「ああ、海を汚す人間を許せなかった。」

 

根拠もなく、そう思ってたわけでもないが、どこからかそうだと教えられているような感覚がした。

 

「提督は許せなかったのかい?」

 

「え?あ、いや、そうなんじゃないかなって。」

 

「まるで深海棲艦の司令官みたいなことを言うんだね。」

 

それはそう見えるってだけだよな。実際にいると言われたことはない。それよりもそろそろ本題に入らなくてはならない。

 

「それより、最近姉妹や他の娘と顔を会わせないって聞いたけど、どうなんだ?」

 

夕立に頼まれていたことをようやく話す。

 

「間違っていないよ。」

 

そう一言だけ返ってきた。

 

「何でなんだ?」

 

「僕は寂しがりやだから。」

 

いまいち理由がピンと来ない。

 

「寂しがりやなら、尚更皆といればいいじゃないか。」

 

「これは戦争だよ?いつ別れてもおかしくない。仲良くなってすぐにお別れして辛い思いをするくらいなら、最初から独りでいいよ。」

 

すると彼女の目には過去のすべてが写っている気がした。おそらく、俺よりもたくさんの大切な()を失った過去が。

 

「なるほど、だが君は独りじゃない。もうすでに皆と関わってきた。今更独りでいいなんて言ってこうやっていると、もし本当に別れが来たとき後悔するぞ。」

 

もうすでに皆知らない人じゃない。もっと接しておけばよかったと後悔することになる。

 

「まあ安心しろって、俺がここにいる間、誰一人轟沈させない。沈ませないさ。沈みたがっても俺が引っ張りあげてやる。」

 

虚勢を張る。いつもやってきたことだ。こんなことができると言う自信はほとんどない。でも時雨には自信がないところを見せてはいけない。見せてしまえば不安が襲いかかる。彼女は不安に負けているんだ。

 

「そんなことができるのかい?」

 

彼女はまっすぐに俺の目を見て聞いてきた。

 

「俺の命に変えても守ってやるよ。」

 

「それは、困るな。」

 

彼女の表情が柔らかくなる。

 

「僕の別れたくない人は大切な人となんだ。提督も、もう僕の大切な人のうちの1人なんだ。別れるのは嫌だよ?」

 

「え?俺が?」

 

「大切な人を守ってくれる大切な人さ。」

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