闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
大破が出たとの情報があった。無事だといいのだが・・・。
「司令官、出撃していた艦隊が帰投しました。」
扉が開くと共に、朝潮が敬礼をしながらそう言う。
「状況はどうだった?」
「それはご自分でお確かめください。」
「いや、俺が行ったら皆休めないんじゃ・・・。」
俺の言葉を聞き終える前に、朝潮は俺の腕を引っ張って行く。突然のことに抵抗もできずに連れ出された。そして到着したのは入渠ドックだった。そこには血だらけの娘や、服がボロボロの娘がいた。
「何のようですか。」
やはり俺が見えた瞬間、敵意を向けられる。疲れているはずなのに、こちらを警戒して睨み付けてくる。
「えっと、情報が欲しいんだ、説明してもらってもいいかな?」
名前を聞くこともできていないが、とりあえず話を進める。
「貴方なんかに話して、どうするんです?」
「弥生さん、事態は一刻を争います。報告書はこちらで作成しますので、今すぐ執務室で報告をしてください。」
朝潮がそういうと、弥生と呼ばれた娘はそれ以上反論してこなかった。
「えっと、執務室には一人来てくれればいいから、一番損傷が少ない娘だけ来てくれ。それ以外の娘は入渠して休んでくれ。」
そう言うと弥生以外は入渠ドックに入っていった。俺と朝潮が執務室に向かうと、弥生も何も言わずについてきた。
執務室で報告を受けた。被害は大きく、大破2人、中破3人、小破1人とのこと。こちらの編成は軽巡洋艦1、駆逐艦5、これに対し敵は戦艦2、重巡洋艦1、駆逐艦2、軽空母1だった。奇襲で大破が出て、そのまま反撃に出ることもできずやられたとのことだった。
前回の報告後、追撃を受け被害は更に大きくなったものの、なんとか救援に向かった艦隊と合流して逃げることに成功した。
ノックする音が聞こえ、すぐに扉が開く。入ってきたのは長門だった。
「相当な被害を受けたと聞いたが、まさか、提督の仕業では無いだろうな?」
そう言うと、力強い眼光が俺に向く。前回謝罪をしに来た時、微かに殺意が残っていたのを思い出す。だがすぐにそれに気づいた朝潮は、長門を睨み付け、長門が一瞬震えるのが見えた。
「それはないな。それより、長門にもこの話は参加してほしいんだが?」
そう聞くと、長門は二つ返事で了承した。
「まずひとつ気になることがあるんだ。近海にわざわざ大型艦が来ること等も気にはなるが、こちらの警備に出ていた艦隊の娘達の練度は低くない。奇襲も仕掛けられ、不利だったとはいえ、そこまで無抵抗でやられるものなのか?」
言い切った後、長門を見る。長門はそれに気づいたのか答える。
「そんな柔な鍛え方はしていない。それどころか、この艦隊のメンバーは昨日も同じような艦隊と遭遇戦になり、相手に大きな損害を与えている。」
「なるほどな、昨日の戦闘を学習して来たのかもな。」
そう言うと、皆腕を組み悩み始めた。今まで深海棲艦は戦術を練ることはほとんどなく、目の前のものを全て破壊するような戦い方が多かった。だが今回は僅か1日で学習して、戦術を練ってきた。そしてひとつ可能性を考えた。
「もしかしたら、相手にも指揮官のような奴がいるかもしれないな。」
戦術を練らない相手は、一人一人がどれだけ強くても簡単に崩せてしまう。にも関わらず海を奪還できないのは、深海棲艦の極一部に
「もし俺が深海棲艦の立場なら・・・。」
そう呟くと皆は俺を見る。次の発言を待っていた。
「そろそろここの艦娘ほぼ全員と戦ったし、大きな損害を与えたから侵攻をし始めても良いだろうな。」
そう言うと、皆一瞬硬直した。そしてその直後、空襲警報が鎮守府中に鳴り響いた。
妖精さん達が急いで外に向かう。そして外に設置されている機銃を空に向けて放つ。装備を付けていない艦娘は鎮守府内へ、戦闘準備が整った艦娘は対空装備で戦闘に向かう。この鎮守府は最前線にあることから、空襲に備えてかなり頑丈に作られている。むやみやたらに外で逃げ回るよりは安全だ。
「おい、タイミング最悪だな。」
小さく独り言を呟き、下の階へ向かって走る。いくら頑丈でも上の階から吹き飛んでいくだろう。他の艦娘も下の階へ向かう。
「司令官なら、そうしたんでしょう?」
弥生も走りながら、俺の独り言に反応する。
「なるほど、やられる側はこういう状況なんだな。」
階段を降りきった直後、激しい爆発音と同時に大きく床が揺れる。
「これは長く持たなそうだな。」
「提督、この長門も対空戦闘に参加しよう。」
長門が工廠に装備を取りに行こうとする。
「いや、来るのは航空機だけじゃない。それにあれを落とし続けるより、飛ばしてる本体を落とした方が早い。空襲が終わったら頃合いを見て水上戦闘だ。」
「・・・確かに、数百機を相手にするより数十隻を相手にした方が早いな。」
そう言って長門は工廠に向かった。だが、工廠から何人か戻ってくる艦娘が見えた。
「何で戻ってきたんだ?」
言い方は悪いかもしれないが、この状況で戻ってくる理由は無いはずだ。
「恐らく、妖精さんが足りないのではないでしょうか。」
朝潮に言われ、納得する。その直後、鎮守府の上の方から大きな爆発音と、なにかが崩れる音がした。
「爆弾が直撃したのではないでしょうか。」
朝潮は冷静だが、周りはパニックになりつつある。
「俺が誰か残ってないか見てくる。朝潮は皆を何とかしていてくれ。」
そう言って朝潮の返事を待たず、また走り始める。執務室の前につくと、天井に大きな穴があった。
「誰か残ってないか!」
そう叫びながらすべての部屋を調べ、誰もいないことを確認してから階段を降りようとした。すると後ろから何かを引きずる音がした。
「妖精さん?」
振り返るとそこには、母さんの弓と1本の矢を引きずっている妖精さんがいた。
「危ないよ?何してるの?」
近づくと弓を引っ張るのをやめて、今度は俺の腕を引っ張ってきた。
「これ飛ばせー!」
「え?な、何で?」
「このままじゃ負けるー、応援呼ぶー!」
いまいち良くわからないが、妖精さんの言うことだ。何か考えがある・・・と思いたい。
「わかったよ、どこに飛ばせばいい?」
「外で!上にー!」
「外!?」
「今すぐー!」
妖精さんが今度は肩に乗って前方に指を指す。もう行くしかない。弓と矢を持って階段をまた降りる。これを朝潮に説明する暇は無さそうだ。だからこのまま周りに隠れて外に出る。
外に出てみると、そこは地獄だった。空はどこを見ても敵機ばかりが飛んでいた。妖精さん達が使っていたであろう対空機銃も、潰れて煙を吐いていた。
「あそこでー!」
妖精さんが指を指す場所に向かう。そして弓を構える。すると妖精さんが矢に跨がった。
「もっと上の方ー!」
もっと、もっとと言われ大体45度くらいの角度でストップを聞く。
「まだー!」
今度は待ったが何度も。そろそろ危険な気もするのだが。
「今だー!」
妖精さんが叫ぶと同時に矢を放つ。しばらく飛ぶと、それは火を纏い、航空機に変わった。そしてそのまま何処かへ飛んでいった。
「俺にもこんなことできるのか。」
暫く見送ったあと、すぐに我に帰り鎮守府に戻ろうとした。だが、いつの間にか近づいていた敵戦艦達の対地攻撃に飲み込まれ、爆発音と共に意識を失った。