闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
敵の大規模侵攻作戦が開始されたようだった。
水飛沫の音が自分を覆うように聞こえてくる。その中にエンジン音や風の音も混ざる。
「赤城さん。」
不意に声をかけられ、声の主に顔を向ける。
「どうしました?加賀さん。」
「・・・いえ、なんだか雲行きが怪しいわ。」
「言われてみれば、雨が降りだしそうですね。」
空を見上げる。雲が厚くなり、広がってきていた。暫く眺めていると、無線が入ってきた。
「偵察機より入電、味方機らしき偵察機が接近中とのことです。私は着艦準備をするので、加賀さんは周囲の警戒を。」
「了解。」
そう言うと皆緩んでいた気を引き締め、周囲を警戒し始める。着艦中は無防備になるため、注意が必要だ。そして1機視界にとらえる。
「あれは・・・彩雲?」
初代提督がいた頃、一度だけ見たことがあった。唯一開発に成功した高性能機だったものの、量産が難しく、私には配備されなかったものだった。そして噂では2代目提督殺害の時に、跡形もなく消し飛ばされたとも。
そして彩雲が着艦を終えると中から妖精さんが現れた。
「終焉鎮守府に敵大規模艦隊が侵攻開始ー!救援求むー!」
「了解です、すぐに救援に向かいます。」
私達がいないときに来るだなんて、タイミングが悪い。
「向かうとこがあるからー!発艦頼むー!」
妖精さんがまた叫ぶ。それを聞いて私は頷き、彩雲とそれにまたがる妖精さんを打ち上げた。
「落ち着いて!」
司令官が上の階に残された人がいないかを、確認しに行ってからも周りはパニックのままだった。戦闘に出るのとは違い、今爆撃などを食らえば艤装もつけていない私たちはまともな死に方はできないだろう。皆はそれに対して恐怖を感じていた。
「おい、朝潮!」
声の主を探す。だが、人が多くて見つからない。暫く周りを探していると腕を掴まれた。
「朝潮!いい隠れ場所があった、爆撃の数発なんてどうってこと無いほどのな!だが、俺には皆を誘導するのは無理だ。だから朝潮だけが頼りだ。」
彼は確か司令官が連れてきた憲兵だった。そして皆の信頼を得ていない彼が、誘導しようとすればパニックはさらに加速する。それをわかっていて私に頼みに来たのだろう。
「わかりました。何処に誘導すれば?」
「地下倉庫だ。大切な装備や資材などがしまわれている。資料によればここは妖精さんの技術で固い装甲に守られているらしい。」
忘れていた。地下倉庫は襲撃を受けた際に引火しないよう爆発物などをしまっていた。そして装甲を施している箱のようなものが、地下に埋まっているだけの構造だった。初代提督はこれをわざと大きく作り、多少の人が逃げ込めるシェルターとしても機能させていたのだった。
艦娘にはあまり関係が無かったため、そんな大切なことを忘れていただなんて、最悪だった。
そして彼に頷き、誘導を開始した。地下倉庫には開発などをしていなかったため、装備などがあまりおかれておらず、予想以上に人が入るスペースがあった。
皆を地下倉庫に誘導した後、まだ戻ってきていない司令官を思い出す。流石に遅すぎる。何かあったのだろうか。するとその時、大きな爆発音が鳴り地面が揺れた。あまりに大きい揺れにバランスを崩してしまう。
工廠に駆けつけ、艤装をつけてから外に出て様子を確認する。すると、今ある航空戦力をすべて出しているにも関わらず、空は深海棲艦機で埋まっていた。そして爆発の原因であろう敵戦艦達が真っ直ぐと向かってきていた。
その光景を見たとき、私は死を覚悟した。遅かれ早かれ次の砲撃が来る。だがこの敵を討つ手段を持っていない。
すると何処かから彩雲と思われる航空機と大きな航空機が数十機飛んできた。あの彩雲は恐らく、司令官が連れていた妖精さんが自慢していたものだった。
機体の半分ほどが砕けていたけど、ここまで修理をして毎日整備をしているんだと。
それに気付いた敵戦闘機は撃ち落としにいく。一機、また一機と落ちていくにも関わらず、この大型機たちは真っ直ぐ戦艦達の上に向かって飛ぶ。そして半数ほどまで減ったところで爆撃を始めた。
そのおかげで敵戦艦達に混乱が生じる。さらに、敵戦闘機が突然落とされ始めた。
「一航戦赤城、救援に到着いたしました。制空と敵空母はお任せください。」
その声と同時に、長門とそれに続く艦隊が敵戦艦に戦闘を仕掛け始めていた。だが、すでに空母と戦っていたであろう長門たちはボロボロになっていた。そこに赤城達が連れていたであろう金剛と比叡が合流する。
救援に一安心し、目的を思い出す。まさかと思い周りを見渡すと、司令官が倒れていた。すぐに駆けつける。どうやら気絶しているだけのようだった。
何とか担いで運び、室内を目指す。しかしすぐに目の前に爆発が起こり、吹っ飛ばされる。損傷状態は小破程だろうか。だが今度の砲撃はあの敵戦艦たちではない。
「ナンナンダコイツハ?」
耳鳴りが響く中に聞こえたその声は、砲撃をした本人だった。ぼんやりとしていた視界が晴れてきて相手の姿を見る。こいつは資料で見たことがある。名前は戦艦棲姫、いまだに撃破報告はない。そんな相手が来ていただなんて最悪だ。
「コイツハモラッテクゾ。」
そう言って司令官を担ぐと、戻ろうとした。
「待て!」
ふらつく体を起こし、主砲を構える。
「妖精モイナイノニドウ戦ウンダ?」
「そんなのは関係ない、司令官を置いていけ。」
「見逃シテヤルカラ寝テロ。」
また歩み出そうとした時、戦艦棲姫の背中に爆発が起こる。それは深海棲艦機が落とした爆弾によるものだった。だがその機はすぐに他の深海棲艦機に落とされていった。
「面倒クサイナ。」
ため息を1つ吐くと、司令官を下ろしてこちらに近づいてきた。身の危険を感じ主砲を撃つ。だが相手にダメージは無いようで、何もなかったかのように私の首を掴んで持ち上げた。
「大人シクシテイレバイイモノヲ。」
掴まれた腕を掴んで何とか気道を確保しようとする。
「ソウダナ、1ツ聞イテヤル。コイツハ何者ダ?」
「そんなの・・・知って、どうする?」
「・・・時間ノ無駄ダッタカ。」
首を掴む力が強くなる。だんだんと腕に力も入らなくなり、意識が薄れていった。