闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
黒鋼光夢は、深海棲艦に誘拐されかけた。
激しい耳鳴りが響く。暫くするとだんだん耳鳴りが止み、誰かの声が聞こえてくる。
「オト・・・レバイ・・・ノヲ。」
はっきりとは聞こえなかったが、知らない声であることは何となく分かった。
「ソウダ・・・聞イテヤ・・ツハ何者ダ?」
ぼんやりと声を聞きながら、ゆっくりと目を開こうとする。さっきまで真っ暗だった気がするが、今度はすごく眩しい。
「そんなの・・・聞いて、どうする?」
今度ははっきり聞こえた。聞こえてすぐ声の主も分かった。そして、その声がとても苦しそうなことも。
「・・・時間ノ無駄ダッタカ。」
少なくとも良いことがあるとは思えなかった。その声を聞いて焦りを感じ、すぐに起き上がる。まだまともに前も見えず、体がふらつくが、そこにいる誰かに声をかける。
「何、してんだ?」
「ン?起キ上ガッタカ。不思議ナヤツダナ。」
相手が言い切ると同時に腹部に大きな衝撃が走る。そしてそのまま膝をつく。
「眠ッタママノ方ガ楽ダカラナ、許セ。」
少し視界が晴れてきたものの、まだぼんやりする中に延びてくる手があった。そしてその手を俺は掴んで止めた。ぼんやりとした視界に朝潮が首を掴まれているのが見えたからだ。
「強メニ打ッタンダガナ。」
その時、朝潮の腕が力尽きて垂れ下がるのがはっきりと見えた。
頭が真っ白になった。今まで誰がどうなっても、どうでもいいと思っていた。それなのに今は違う。
目の前の敵に向かって力一杯殴りかかる。今までに聞いたことがないような、大きく鈍い音が鳴り、その衝撃で朝潮が地面に落ちる。落ちた衝撃でなのか、それとも僅かに間に合ったのか、朝潮が咳き込むのが聞こえた。だがそれと同時に、言葉にならないような激痛が走る。
「素手デココマデ威力ガ出セルトハナ。」
その台詞を聞き、自分の腕を見る。相手の腹部に当たってはいるものの、相手にとくにダメージは無いようだった。その代わり、自分の左腕は紫色に変色し、あらゆるところの皮膚が破れ血が流れ出していた。
「コノチカラハ深海棲艦カ、艦娘カ?ドチラニシロ、人間ノ身体ニハ耐エラレテイナイヨウダナ。」
痛みに耐えているうちに首を掴まれていた。そのまま身体は浮き上がり、首が絞まる。首を掴む腕を引き剥がそうとするが、気付けば左腕の感覚は無くなり、全く動かなかった。
「オ前ニハ興味ガ湧イテキタ。他ニハ何カナイノカ?」
だんだんと絞まる力が強くなり、意識が薄れてきた。そして、過去の事が色々と浮かんできた。これが走馬灯と言うものなのだろうか。長い間簡単に死ねなかったが、死ぬときはあっさりなんだな。
「死なれたら困る。」
突然誰かからそう言われた。
「コノアト朝潮モ、殺サレルンジャナイカ?」
また知らない声が聞こえた。だがそれを聞いて、まだ朝潮は抵抗もできない状態であることを思い出した。そして時雨に言われたことも。
「死ンダカ?」
その声で意識が戻る。まだ生きている右腕でもう一度相手の腕を掴む。だがやはり微動だにしない。また意識が薄れ始め、焦り出す。それでも何もできず意識を失いかけたその時だった。
「ナンダソレハ?」
敵は唖然としていた。薄れ行く意識の中敵の視線の先を見ると、俺の右に長門の物とは比較にならないほど大きな主砲が構えられていた。
「五航戦瑞鶴、支援に到着!これより戦闘を・・・」
そしてその後は覚えていない。あの主砲が発射され意識を失ったのか、それとも呼吸ができずに死んだのか。そしてあの声は、どこから聞こえたのかもわからず。
「・・・でした。・・・時ニュー・・・ってまいりました。」
テレビのような声が聞こえる。だが目の前は真っ暗で何も見えなかった。
「先程、・・・で深海棲艦に、ナイフの刺さった痕があるものが・・・。」
「発見したのは救急隊員で、ナイフに刺された子供が倒れていると言う通報でしたが、現場に来たときには7人の倒れている男性と、この深海棲艦が・・・。」
そう言えばそんなことも言っていたっけ。あの少年が深海棲艦で、なら何故俺を助けたのか。
「『救急車の中で深海棲艦を調べ・・・、本来ナイフは刺さらないはず・・・。』との・・・。」
「通報した人は見つかっておらず、・・・深海棲艦によるスパイ活動・・・調べを進めて・・・。」
目が覚める。再び左腕が激痛に襲われる。どうやらまだ死んでいないらしい。周りは暗く、あれだけ激しかった爆音も今は静まり返っていた。暗い中に、棚やソファのようなものがあるのを見る限り、執務室だろう。だが天井に大穴が空いており、星が見える。
「提督は生きているの?」
女性の声が聞こえる。恐らく艦娘だろう。どうやら戦いは終えたようだ。
「あれを生かしておくの?」
その声が聞こえ、思考が一瞬止まる。これだけ死にかけて、まだ殺されるのだろうか。とにかく声をかけようと思い、動こうとした時、自分が椅子に縛られていることに気付く。執務室の椅子ではなく、恐らく食堂のものを持ってきたのではないだろうか。
その時、さっきの声の主だろうか、聞こえていた声よりも多い人数が扉を開けて入ってきた。
「提督、お目覚めでしたか。」
赤城は優しい表情で、けれども化け物を見るような目で話しかけてきた。
「どうして俺は縛られているんだ?」
左腕の激痛に耐えながら震える声で話す。
「先程の記憶が無いと言うのかしら?」
加賀が今度は返してくる。
「どこまでが現実で、どこからが夢かわからないんだよ。」
「そう。」
それだけ答えると、誰も何も言わなかった。
「そういや、朝潮はどうなったんだ?」
「貴方の隣で倒れていたわ。何をしたのかしら?」
「そうだな。記憶が正しければ、深海棲艦らしき人に殺されかけていたな。俺が止めようとしても何もできなかったよ。」
「それはどうだろうか。少なくとも私は、提督が何かをして爆発させていたように見えたが?」
そう長門が答えた。ということは、あの主砲のようなものは実際にあったのかもしれない。
「そういやその時、右から誰かが主砲みたいなのを構えていたのが見えたけどな。」
「それは誰かしら?」
「さあな、主砲塔だけが見えたからな。」
「あの時、あそこには誰も近づいていなかったはずだが。」
戦闘中に長門がこちらを見ていたと言うのにも驚くが、あの主砲が艦娘のものでは無いと言うのにも驚く。だとしたら、いったい誰のものだったのだろうか。
だがそこでなんとなく察しがつく。自分が縛られている理由にも。
「やっとお気付きになられたデースカ?」
この状況に満面の笑みで聞いてくる。
「俺が主砲の所持者だってか?それで、君は誰だ?」
「そんなことはどうでもいいんデース。単刀直入に聞きマース。貴方は何者デス?」
満面の笑みだった表情が真顔になる。答えによっては殺される、そんな表情だった。
「艦娘と人間のハーフだっ!?」
言い切る前に左腕を刺激される。あまりの激痛に言葉が詰まった。
「あんな禍々しいものを、私達は持ってまセーン。」
「君も長門も、戦闘中によくこちらを見れたな。」
「深海棲艦が上陸したんだ。気にするに決まっているだろう。」
長門が答える。この話は正直、俺には勝てそうにはない。そう判断した。
「話をそらさないでくだサーイ。」
「俺にもわからねぇ。」
そう言うと、回りにいた艦娘はお互いに話し合い始めた。その内容は大体ここで殺すかどうか。その時、扉が勢いよく開いた。
「その話、待って・・・ください。」
「ちょっと!?無理しちゃダメよ!」
朝潮が壁にもたれ掛かりながら入ってきた。そして、それに付き添う見覚えのある艦娘も。
投稿が遅くなっていっているのは自覚してます・・・。