闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
深海棲艦との戦いは終わったようだった。
「司令官、大丈夫ですか?」
朝潮がそう訪ねてくる。そして倒れそうになる朝潮を、1人の艦娘が支える。
「あとは任せて。」
そう言って朝潮を赤城に頼み、俺の拘束を解いた。
「入渠ドックに行くわよ。」
執務室を出て暫く喋ること無く歩く。灯りはろうそくを使い、建物がかなりダメージを受けているのがゆらゆらと見えてくる。
「・・・なぁ、瑞鶴だよな?」
「そう言うあなたは、本当に黒鋼光夢なの?」
「そうだよ。瑞鶴は何処から来たんだ?」
「基地航空隊の妖精さん達と、ずっと隠れていたの。」
「基地航空隊?」
「そう、ここに来た爆撃機はそこから来たの。もちろん私も。」
爆撃機を見た覚えはあまり無いが、恐らく気絶している時だったのだろう。
「まあ隠れてたのは私だけじゃ無いけどね。皆で資源を調達して、飛行場を何年も守ってきたの。」
「何年も?」
「そうよ。だって鎮守府がまともに動かないんだもん。大本営がこの基地航空隊だけでも、機能させようと来るに決まってるじゃない。」
基地航空隊のことはあまりよく知らないが、きっと何か大きな戦力であるのだろう。
「また戻るの?」
「多分それはないわね。ここも機能し始めてるし、あの人に呼ばれたんだし・・・。」
あの人?誰のことなのだろうか。聞き返そうとした時、瑞鶴が先に話し始めた。
「光夢は
黒鋼 勝とは、俺の父さんの名前だ。
「何が?」
「あなたの事とか、艦娘と深海棲艦の関係とか。」
「俺は人間と艦娘のハーフだってことくらいかな。」
「そう。じゃあ
気付けば入渠ドックまで来ていた。鎮守府はボロボロになってはいたが、ここは無事だったようだ。
中は真っ暗だったが、入渠の機能だけは非常用電源でもあるのだろうか、稼働していた。入ってみると左腕は回復していき、たいした痛みも感じなかった。
「あ、提督!どういうことですか!?」
入渠を終えて出てくると、赤城が待っていた。何事かと思えば、赤城が物凄い形相で問いかけてきた。
「美味しくない!」
「は?」
返す言葉は浮かばなかった。いきなり何を言っているのだろうか。
「補給に出てきたご飯が美味しくないんですよ!ようやくゆっくりできると思ってたのに。」
さっきの執務室であった事は何だったのかと思うほど、内容が関係なかった。
「補給用じゃなくていいんで、何か作ってください。」
「俺が作るの?」
「支援に行ってた鎮守府は美味しくなかったんで、自炊してたんですよ。たまには
そう言いながらすごくこちらをちらちらと・・・いや、凝視してきた。
「でも赤城だけに作ったら他の娘達が可愛そうだろ?それに手の凝った物も作れないぞ。」
「じゃあカレーにしましょう。」
いや赤城が決めるのかよ。
「作れるけど、材料があるかも分からんし。」
「ならばこれでどうでしょう。」
赤城が何処からか出したのはレトルトカレーだった。
「完成してるよね。」
「すいません、これは夜食用です。」
「使えないです。」
レトルトカレーから全く目を離さず、震えながら渡してくるそれを見て、受け取ることはできなかった。拒否した時、ほっとしていたように見えたのは気のせいだろうか。
「じゃあ、明日の夜ご飯ということで。」
執務室の扉を開け中に入る。空が見え、真っ暗だった。静かな空間に突然電話の音が鳴る。これも非常用電源を使っているのか、それとも別に何かあるのか分からないが、受話器を耳にあて相手の声を待つ。
「もしもし、提督殿はおるかい?」
「それは俺だが、誰だ?」
「どうも、大本営の者だ。前回は私の部下が失礼したね。」
前回とは恐らく、弓道場を奪おうとして来た提督の事だろう。
「そんなことを言いにかけてきたのか?」
「本題は違う。そっちで襲撃があったらしいが、大丈夫かね?」
「何でそんなことをあんたが知ってるんだ?」
この鎮守府が、大本営とまともに情報を共有しているとは思えない。つまり、この鎮守府の人以外に襲撃があったことを知っているはずがない。
「うちの部下の仕事が早くてね。」
つまりどこかに監視している人がいたということだろうか。
「ところで、1人艦娘を送ってあげようか?人手も足りないだろうし、戦力も足りないだろう?」
「何が目的だ?」
「目的なんか無いさ。強いて言うなら、この艦娘は全く戦力にならない役立たずだからさ。君に譲ろうと思ってね。」
「役立たず?」
「そうさ。どうせなら特攻でもさせようかと思ったけど、君が受け取るなら生かしておくよ。」
「役に立つかどうかは、そいつをどう使うかで変わる。あんた、提督向いてないんじゃねぇか?」
「君ならどんな艦娘でも役に立てられると?」
「少なくとも、あんたよりはな。」
「ならばこの艦娘を役立てて見せよ。」
そして電話は切れた。
護衛はいるのだろうか。もし戦闘が苦手なら、単独では危険だ。そして今の電話の主がわざわざ護衛をつけるとは思えない。そこですぐに朝潮を探し、護衛を送り込むことを考えた。
「朝潮、話があるんだが。」
回復したのか、廊下を普通に歩く朝潮を見つけた。
「どう致しましたか?」
「実は明日、大本営から艦娘が送られてくるんだが、万が一もあるかもしれないし護衛を送りたいんだ。」
「わかりました。手配しておきます。」
朝潮はいつも通りだった。だがそれが逆に怖くなった。
「朝潮はあの時の俺を見て、怖くないのか?」
俺があの主砲を使ったと仮定して、なんとも思わなかったのだろうか。
「司令官は司令官です。私は例え、黒鋼光夢が深海棲艦であっても構いません。」
そう言って朝潮はそっと微笑んだ。
「少し頭を下げてもらってもよろしいですか?」
「ん?こうか?」
片膝をつくと朝潮は俺を抱き寄せ、そっと頭を撫でてくれた。
「司令官はもう、1人ではありません。そしてもう、1人にはしません。」
たったそれだけだったが、それがとても暖かかった。
朝潮と別れた後は食堂に行ってカレーを作った。間宮さんに赤城に言われたことを話すと、食料の使用、道具の使用などを渋々了承してくれた。ずっと