闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
大本営から1人艦娘が送られる。
太陽の光で目が覚める。ソファで横になり少し眠っていたが、天井に開いた穴から差し込む光で嫌でも目が覚めた。
体を起こし、しばらく空を眺めていると扉が勢いよく開いた。
「司令官!大変です!」
吹雪の声が聞こえてきた。何事かと思ったが、吹雪の顔を見るとなんだか嬉しそうだった。
「何かあったのか?」
「妖精さんが、たくさんいるんですよ!」
吹雪に腕を引っ張られ、そのまま執務室を出ていく。廊下を歩くと沢山の妖精さんと艦娘が話していた。
「驚いた?」
いったいどこからと吹雪に聞こうとした時、瑞鶴が声をかけてきた。
「この妖精さんたちは、この鎮守府から抜け出して飛行場に隠れてたの。」
聞く前に疑問に思っていたことを答えてくれる。瑞鶴達がこの鎮守府から出ていく時に、一緒について行ったらしい。
「もちろん嬉しいけど、なんで今なんだ?」
「
強元提督とは誰だろうか。それを聞こうとしたが、その前に朝潮に呼ばれた。
「先ほど
そんなすごい人が何をしに来たのだろうか。
「わかった。すぐに行くよ。」
「執務室でお待ちです。」
「おぉ、久しぶりだなぁ。」
執務室に来てみると、ソファに座る知らない爺さんとその隣に立つ心良がいた。そしてここまで連れてきてくれた朝潮は、入り口の隣に立ち止まる。
「えっと・・・?」
困惑しているとその爺さんが自己紹介をしてくれた。
「私は初代元帥だよ。」
しばらく顔を見て思い出した。この人は提督になる前に、試験の面接で合格にしてくれた人だ。あれは初代元帥だったのか。
「どうもはじめまして、この鎮守府を運営しています。黒鋼光夢です。」
自己紹介をするが、初代元帥は不思議そうな顔をしていた。
「やっぱり
さっき瑞鶴が言っていたのはこの人だったのか。だが、この人が誰なのかわからず、しばらく考え込む。
「流石に覚えていないか。」
呆れられたと思い、すぐに頭を下げる。
「申し訳ございません。」
「いやいや、いいんだ。君と会ったのは一回だけだからね。」
そう言いながら爺さんは、正面のソファに座るよう促してきた。
「どこでお会いしましたっけ?」
そう聞きながらソファに腰掛ける。
「君が生まれてすぐくらいに。」
それを聞いて不思議に思っていると、爺さんは自己紹介をし直した。
「私は
それを聞いて頭が真っ白になる。二度と会えないと思っていた人との再会ができるとわかっても、言葉がでなかった。
「正確には父親は生きている。だが母親は方法があるだけだ。確実ではない。」
「どうすればいいんですか。」
「そもそも艦娘は建造するとき、海から魂をかき集めて肉体に入れることでできる。そのとき撃沈された過去の艦娘の記憶を引き継ぐことがある。運が良ければ母親の記憶を引き継ぐかもしれない。」
「建造?」
そういえば鎮守府に来たらまずやるようなことを、まだやっていなかった。
「引き継ぐ可能性は低くないが、目当ての記憶を引き継ぐのは難しいだろうな。過去に沈んだ艦娘は少なくないからな。」
あまり話は入ってこない。今は建造のことで頭が一杯だった。だが次の話を聞いて、思考は止まる。
「それと、これは君の話だ。これ以上、負の感情は持たない方がいい。」
いきなり話が見えなくなった。
「これについてはまず、艦娘と深海棲艦について話さないといけない・・・」
艦娘と深海棲艦は、実は同じところで生まれた。どちらも過去に沈んだ軍艦から生まれ、その軍艦の記憶を持って生まれる。だが先に生まれたのは深海棲艦で、生まれる予定もなかったのが艦娘だった。
沈んだ軍艦達は戦争が終結しても争いが起き続け、海が荒れて行くのを見て、人間の争いを止めるために人間に近づくことを考えた。そして人間に近づきやすいのは人間だと考え、人間の形を作った。だが魂が必要だった。そこで自分の魂を分け与えることで、完全なものを作ろうとした。
だが魂だけでは足りず、さらに人間に必要なのは感情だと考え、感情を作り出すことにした。人間には、喜びや信頼などの正の感情と、怒りや嫌悪などの負の感情があり、それらを過去の記憶を頼りに再現した。
しかし、実際に分け与えられた魂には負の感情が多く含まれていた。その結果、今の深海棲艦として活動を始めた。そもそも生物を作ろうとしたのだから色々問題はあるだろうし、作る過程は全くわかってはいないがね。
そして深海棲艦を止めるために再び作られたのが、正の感情を多く持った艦娘だ。だが、そこで目的は達成してしまった。人間との接触に成功し、深海棲艦が暴れた結果、人間同士の争いはほとんど無くなった。そして軍艦達は、何が正しいのかわからなくなってしまった。
深海棲艦はその軍艦や、当時乗っていた人間によって感情の作りは変わってくる。だから深海棲艦の中に戦争反対派はいる。人間の中には戦争継続派まで出てきている。もうどっちが悪かわからんな。
だが少なくとも私は、人間だろうが、艦娘や深海棲艦だろうが、これ以上の犠牲は出したくない。だから戦争を止めたい。
そんな中生まれたのは優志、それに続く
おそらく戦争を止めるには、深海棲艦と手を組む必要がある。その時に深海棲艦にも、司令官は必要になるだろう。その司令官役の優志と光夢。この2人でなら、力を合わせることができると考えたからだ。
それから艤装については、海から陸に向かうためのものだったが、深海棲艦はなぜ武装を手にしたのかはわかっていない。だが艦娘は、正の感情を持つことで武器を使用することができる。そして光夢が使用した武装は深海棲艦のものだ。何の事かは想像つくだろう。
だが、出てくるはずのない深海棲艦の武装が出てきてしまったとなると、大分問題がある。恐らく深海棲艦の血が濃くなってきている。艦娘が光夢に攻撃的なのも、そこに問題があるからだろう。
「このままだと深海棲艦に飲まれるぞ。」
ここでようやく話は止まる。いきなり出てきた大量の情報に混乱してくる。もしこの話が本当なら、俺は艦娘と人間だけでなく深海棲艦の血も混ざっているのか?そうだとしたら、俺はいったい何だ?
「なぜ光夢を提督として推薦したのかだが、終戦を迎えるには人間と深海棲艦両方と戦わなければならない。そうなると、艦娘を指揮できる人がいい。」
「他の人じゃダメなのか?」
「深海棲艦とも力を合わせなければならない。深海棲艦も指揮でき、深海棲艦と接触できるのは光夢だけだと思ったんだ。」
「この話が本当なら、ね。」
流石にいきなり敵のことを信じろと言うのは難しい。
「ちょっと、ついてきたまえ。」
そう言って爺さんは部屋を出ようとする。それに慌てて後を追う。さらに心良と朝潮もついてくる。ついていくと鎮守府の門まで来た。そこには父さんと、深海棲艦が2人で立っていた。
「よう、久しぶりだな。」
もう会えないと思っていた人との再会は、不思議な形だった。
「あの時、どうやって生き延びたんだ?」
「応急修理要員の妖精さんが助けてくれたのさ。」
「どうだ?この話を信じるか?」
爺さんにここで話を絶たれる。もっと話をしたかったが、続くことは無かった。
「ヲ。」
深海棲艦が父さんに声をかける。
「すまん、時間だ。俺はもう行くよ。」
そう言って2人は海の向こうへと進んでいった。
「とりあえず今後についてだが、艦娘と信頼関係を築きつつ、戦力の増強もしてほしい。私もできる限りは力になろう。」
それに頷きもう一度海を見るが、もうそこに父さんの姿は無かった。