闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
食事の提供を開始した。
それにしてもあの違和感は何だったのだろうか。
食堂を出た後、建造の進行具合を見に工廠へ向かうことにした。その道中で食堂でのことを考える。
違和感があったのは、金剛という名前を聞いた時だった。俺は彼女を知っている。だが、名前を聞くまでわからなかった。昔のことでうまく思い出せなかっただけだろうか。
他の艦娘に関してもそうだ。それとも、偶然会っていない?いや、流石に会わないはずはないだろう。
そもそも、良く考えてみれば今回だけじゃない。もっと前からおかしくなかっただろうか。久しぶりに帰ってきたというのに、再会を喜びあったのは朝潮だけだ。
・・・考えすぎだろうか。仮にそうだとしてもなにか問題があるわけでもないだろう。
そんなことを考えていると、気付けば工廠の前まで来ていた。一度ため息をついて思考を止める。続きはまた今度考えるとでもしよう。そして扉を開けようとすると、勝手に開いた。すると目の前にいるのはじいちゃんだった。
「あれ?もう来たのか。まあいい、ちょうど呼ぼうと思っていたところなんだ。」
そのまま、また中に戻っていくじいちゃんの後ろを追いかける。恐らく、建造が終了したのだろう。そして建造用の設備の前に来ると同時に1人の艦娘が現れた。
「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです。」
そう言って敬礼する彼女を見て、俺は少しの間固まってしまった。
「・・・これも光夢の力か?まさかもう来るなんて。」
そんな声が微かに隣から聞こえた。その声でふと我に返る。不知火は何も言わずに見続けている俺たちに、不安そうな顔をしていた。
「えーっと・・・俺は、黒鋼光夢だ。」
言葉が続かない。正直怖いが素直に聞くことにする。
「俺のこと、覚えてたり・・・しないかな?」
その言葉に不知火は戸惑っているようだった。それを見て俺はすぐに
「ごめん、聞かなかったことにしてくれ。」
と言った。返答を待つのが辛かった。正直、返答を聞きたくなかったのもあったかもしれない。
「とりあえず、ようこそと言うべきかな?早速で悪いけど、念のため検査をさせてもらえるかな?妖精さん、一応問題ないか検査をよろしく。」
しかし、妖精さんは俺の耳元に来て小声で既に確認済みであり、問題はなかったと説明してくる。それに対し俺は時間を稼いで欲しいだけだと言って、じいちゃんを無理矢理引っ張って工廠を出た。
「どういうことだ?」
扉を閉めて、すぐにじいちゃんに問いかける。
「いやぁ、まさか一発で成功するなんてなぁ。」
そういうじいちゃんはへらへらしていた。
「とぼけるな。不知火は父さんが提督だったときからいるだろうが。」
俺は不知火の名前を聞いたとき、昔良く遊んでいたのを思い出した。表情が固く、怖いイメージだったが、一生懸命楽しませようとしてくれていたのを覚えている。だが、ここで建造が成功したということは、僕の記憶にいた彼女は
「何か知っているんじゃないのか?」
「ん~、知らねぇなぁ。」
今度は真面目な顔で答える。だがそれが、俺には嘘に見えた。それに対し少し苛つき、胸ぐらをつかんで壁に押し付ける。
「嘘つけ。」
工廠の防音は完璧とはいえ、声が漏れないように小さめの声で発した。
「それを知ってたとしてどうするんだ?」
それを言われて頭が真っ白になってしまった。もう俺が今さら何をしたって、あの時の不知火は帰ってこない。少しして、何処にもぶつけることができない怒りをため息で落ち着かせる。もうこれ以上話すことはないと思い、工廠に戻ろうとする。
「本当に感が鋭いな。」
小さな声で聞こえたが、無視して扉を開けようとした時だった。
「俺が殺した。これで満足か?」
扉にかけた手が止まり、振り返る。真剣な顔でまっすぐ見返してくる強が、嘘をついているようには見えなかった。それを見て色々な考えが浮かび、すぐには言葉が出てこなかった。
自分が思っているよりも衝撃的だったのだろうか。なんだか周りの音が遠くなり、視界が暗くなっていくような気がした。それでもなんとか言葉を絞り出そうと、口を開けたときだった。
「検査は無事終わりました。」
工廠から不知火が出てきてそう言った。
「あ、あぁそうかよかった。じゃあ一旦鎮守府を案内するよ。」
これ以上は誤魔化せないと思って、不知火を連れて工廠を離れた。その後は言った通り不知火に鎮守府を案内したのだが、あまり覚えていない。それよりも強のこと、不知火のことを考えていた。今考えてみればあの時、不知火の名前を聞いたときのこと。あのときにも違和感が・・・。
そこまで考えたが、すぐに続きを考えるのはやめる。そんなことはないと信じて。
その後も何をしていたか覚えていないが、最終的に眠りについたのは覚えている。だが、ここで見ているのは現実なのか夢なのか。それがわからないのは初めてだった。
「光夢、もうすぐご飯の支度ができるわ。そろそろ準備してね。」
おかあさんのこえがきこえる。きょうのごはんはなんだったかな。そういえばさっきまでぼくはなにをしてたんだっけ?まあいいや。
「はーい。」
へんじをして、てをあらって、おさらをならべる。するとなんだかおいしそうなにおいがする。そうだ、きょうはカレーだった。
せきにつくと、おとうさんもおかあさんもいっしょにすわった。
「いただきまーす!」
みんなでてをあわせてたべはじめた。とてもおいしかった。しあわせだ。このしあわせがずっとつづいたらいいな。
「ごちそうさまでした!おいしかったよ!」
そういうとふたりはにこにこしてた。そのあとすぐだった。
ガラガラガラ
へんなおとがした。そしたらおかあさんとおとうさんがとびついてきた。それでひかったとおもったらねてた。なにがおこったのかもわからないし、ねたおぼえはなかったんだけど。
めのまえにふたりもねてた。起こそうとしたんだけど、おきなかった。なんども揺らしておこそうとした。それでも起きなかった。よく見たらなんだか赤いどろどろしたのがでてきてた。それはちだった。それを見たらすごく怖くなった。
「おとうさん!おかあさん!」
目一杯の力で叫ぶ。でもあまり声が出ない。二人とも起きない。嘘だ。こんなの嘘だ。でもなぜだろう。僕はこの光景をよく知ってる。・・・そうだ、思い出した。これは僕の記憶だ。
だがこれは夢なのだろうか。いつもの悪夢であれば映画でも見ている感覚なのだが、今回は追体験という感じがする。最悪の気分だ。
「殺害対象は無事死亡。」
そうだ。この台詞の後すぐに意識がなくなるんだった。だがこれが夢ならせめて、何かできないだろうか。
なんとか喋っている人影を見る。だが、ぼんやりとしていてはっきりとは見えなかった。
『どうだった?親が死んでいくのは何年ぶりかな?』
人影がこちらを見て話してきた。こんなことは今までなかったのに。
『これは君の記憶に残っている、親の死ぬ瞬間だよ。』
突然のことに驚いていると、人影は親の死体をじっくりと見始めた。
「お前は誰だ。」
試しに会話ができるかやってみた。
『それは後でわかる。そんなことより、君はちゃんと親が死んだのを確認したのかな?』
会話はできるようだが、訳のわからないことを言い始めた。
「そんなの、確かめられなかった。すぐに気を失ったんだから。」
『それはどうかな?確かめたくなかったんじゃないか?』
確かにそれもあっただろうが、小さな時の僕にそんなことを求めるのか。
「だったらなんだよ。」
『君は深海棲艦の血が混ざっているのだろう?』
その疑問に何の意味があるのだろうか。
『じゃあもしも、この記憶が間違いで、自分で殺したのだとしたら?』
突拍子もないことを言い出した。
「僕がそんなことをするわけないだろ。」
人影を睨み付ける。だが、人影はなんだか笑っているような感じがした。
『深海棲艦の力を使えば、艦娘も殺すことはできる。可能性は十分にある。君がやっていないという証拠はあるかな?』
人影がそう言うと、視界が暗くなった。
『では俺の記憶で補足しよう。』
そう聞こえたと思ったら、再び食卓に座っていた。
ガラガラガラ
またあの音が聞こえる。確かこの音は砲撃音だった気がする。
そして先程と同じように、両親が飛び付いてきて、爆発が起こる。そしてまた僕は倒れていた。だが、周りを見てみると両親は生きていた。僕はそれを見て、涙が出そうになった。
「殺害対象は無事死亡。これより、敵艦隊の殲滅に向かいます。」
そう言って先程は人影だった人が携帯をきる。その人がこちらに向いた時、顔が見えた。見覚えがある。確かあの人は、僕が提督になるための試験を受けに大本営に行く際、車で迎えに来た人だった。
「
心良?父さんは確かにそう呼んでいた。つまり、この人は守の父親なのか?
「やっぱり行くのか?子供をおいて。」
「ちょっと思ったよりダメージがでかくてな、生き延びるのは厳しい。生き延びれたらとも思ったが、そうもいかねぇな。陸上で死んだら、俺達の記憶は消滅する。だから海で死ぬしかない。それに、記憶が消滅したらここまでした意味がなくなるだろ。」
にやりと笑って見せようとしていたが、歯を食い縛っていて苦しそうだった。そして気がつけば両親の足元には、赤い水溜まりができていた。それに母さんの方が重症のようで、ぐったりとしていた。
「それにしても、予定より時間も早いし、撃ってくる場所も違う。もう少し長く過ごせると思ってたのになぁ。・・・ごめん、光夢。こんな親で。」
父さんはそう言いながら母さんを立たせて、肩を組んで海へ向かった。
父さん!待って!母さん!
叫んでみたが、声には出ていない。その後も後ろ姿が見えなくなるまで叫んだり、動こうとしたが、僕は結局声を出すことも、動くこともできなかった。
「さて・・・えを連れてい・・・ねぇと。」
突然声が途切れ始める。ここで話は終わりなのか。
「・・・ないが、かく・・・俺がそうしたんだ。」
『どうだった?まあ短時間だけ俺の目が覚めただけだから、その前もその後もわからないし、最後も途切れてしまっていたけど。』
最後の声が聞こえた直後、またあの声が聞こえてくる。気が付けば真っ暗な空間にいた。そして目の前にぼんやりと浮かんでくる。そしてはっきりと見えたその顔は、僕と同じだった。
『驚いたかい?俺と君が同じ顔なのは。』
確かに驚いたが、よく見てみれば同じなのは顔だけだ。だがその姿はまるで、
『深海棲艦みたい、だろ?』
考えていたことを言われる。
『俺は君の、深海棲艦の部分だと思ってくれればいいかな。』
僕の中に混ざっている深海棲艦の血、それがこいつとして存在を認識できるようになったのだとしたら、艦娘の血はどうなっているのだろうか。そしてもう一つ、わからないことがある。
「結局、何が目的なんだ。」
僕をこの夢の世界に連れ出して、何をしようと企んでいるのか。
『もう既に目的は達成しているよ。君の体の主導権を手に入れることだ。そしたらこんな目に遭わせた人間共と、ついでにお前の大事な奴らもまとめて殺してやるか。』
こいつが暴れるだけなら僕が戦うなりすればいいが、問題は僕の体を使うこと。そんなことをされれば、皆が僕と勘違いして簡単に殺されてしまう。それに今、ここでこいつを逃せば止める方法はなくなってしまうような気がした。
「ふざけんな!」
駆け寄り、胸ぐらを掴んでみる。なんとか掴むことはできたものの、何をすれば止められるのかもわからない。
『もう今さら俺を止めることはできない。負の感情に飲まれたのがお前の敗因だ。少し休め。』
そんなことを言われてもいまいち頭に入ってこなかった。頭の中は朝潮達を助けることで一杯になっていた。だから相手の話に耳を貸す余裕もなかった。どうすれば止められるのか。考えてもわからない。
「もう僕は大切な人を失いたくない!僕が命を懸けてでも守るんだ!」
正直、これは少しでも時間稼ぎをするつもりで放った言葉だった。だが冷静に考えると、本気だったのかもしれない。
突然、真っ暗だった空間が眩しくなる。目を開けていられないほどだったが、なんとか相手の顔を確認する。すると、僕の後ろを見ながら眩しそうにしているのが見えた。
『行ってきなさい。』
そう聞こえた気がしたが、その声を確かめることも、後ろに何があるのかを見ることもできなかった。聞こえた直後にどんどん眩しさは増して、目を開けることができなくなったからだ。
『何!?艦娘の力を呼び起こしたのか?くそっ!今はまずい!戻れ!』
だんだん小さくなっていくその声が聞こえたのを最後に、俺は目が覚めるのだった。
ちょっとボリューム多めになった。