闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話   作:はやぶさ雷電

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前回のあらすじ

不知火を建造して、夢のようなものを見た。


第23話 悪夢からの目覚めは気分が悪い

カチッ

 

何かの音が聞こえ、目が覚める。ここは執務室のソファだろうか。天井に穴が空いていて、そこから星が見えている。まだ朝になっていないみたいだ。

 

だが少し状況を把握した直後、全身が激痛に襲われる。そして背中に違和感がある。だが俺はソファに寝転がっている。何があるのか見当もつかない。なんとか起き上がって後ろを振り返る。すると背後に大きな影が見えた。

 

それを見てすぐに走り出した。真っ暗な鎮守府内を無我夢中で走って外に出る。埠頭までやって来て呼吸を整える。落ち着いてくるとまた激痛に苦しめられる。それでももう一度、後ろの影を確認する。そこには巨大な砲塔が見えた。

 

それだけじゃない。それがなにかを確認することはできないが、他にも煙突のようなものや、兵装のようなものが見える。

 

正直見間違いであってほしかったが、背中の違和感はこれだった。そして目覚めたときの何かの音は、巨大な砲の引き金の音だったのだろう。深海棲艦が上陸してきた時、視界の端に見えた巨大な主砲もこれなのかもしれない。

 

「司令官。ここにいたのですね。強さんから、その・・・状況は聞きました。・・・司令官?」

 

段々と痛みは増していく。朝潮の声が聞こえたが、いまいち頭に入ってこない。痛みが増すごとに頭が混乱してくる。何故俺は今埠頭にいるのか。何故こんな状況でわざわざ走ってまで来たのか。朝潮はどうしてここにいる?

 

立っていることができずに膝をつく。混乱する頭にも激痛が走り始め、頭を抱える。頭が割れそうだ。そもそも自分の横にこんな舷側の様なものなんてあっただろうか。もしかして・・・とそれ以上考える余裕もなく、気がつけば意識を失っていた。

 

だが、目覚めたのはあの夢の空間だった。

 

 

 

 

 

『お、来たか。良く耐えたな。』

 

そこにはまたあの深海棲艦がいた。だがその隣に顔だけ見覚えのある人がいる。

 

『ああ、こいつか?こいつは俺の反対、艦娘だな。』

 

『どうも。先程ぶりです。』

 

喋り方が若干女性みたいだが、顔が自分と似ているのを見ると、なんとも言えない気分になる。

 

「君と会うのは初めてだと思うんだけど。」

 

『前回最後に少し声はかけましたけどね。』

 

つまり、あの光の中にいた人だろうか。

 

『とりあえず座れよ。』

 

まだ混乱している頭を整理できず、何をすれば良いかか迷っていると、丸い机を3つの椅子が囲んでいる、そのうちのひとつに座らされた。二人も残りの椅子にそれぞれ座った。

 

『とりあえず誰が誰だかわかりづらいから、名前を決めようか。人間は光夢、俺は黒鋼、艦娘は・・・俺と反対だから白鋼(しろがね)でいいや。』

 

適当な決め方だが、呼びづらいのは確かだ。

 

『はじめまして、と言えば良いかな。とりあえず、白鋼と呼んでね。私はあなたの艦娘の部分だと思ってくれれば良いですよ。よろしく。』

 

「・・・よろしく。」

 

返す言葉が見つからず、とりあえずそう返す。

 

「解らないことが多すぎるんだが。」

 

『大丈夫さ。しばらくはここで話せそうだからね。』

 

ここで前回のことを思い出す。まさか、また僕の体を乗っ取りに来たのか。

 

『ああ、そうそう。安心して良いよ。もう君の体は奪わないから。というか、そのチャンスを逃してしまったからもう奪えない、と言った方が正しいかもだけど。』

 

まるで心を読んだかのように、黒鋼がそう答える。

 

『いいよ、時間の許す限り片っ端から説明しよう。』

 

黒鋼がそう言って話を始める。

 

『まず、さっき耐えられなかったらどうなってたか。これは推測になるけど、多分君と言う人間部分は死んでただろうね。そうなれば君はここに来ることはないわけだ。』

 

さらっと黒鋼が答えるが、かなり恐ろしいことだと思う。さっきのよくわからない状況のまま、死んでいたかもしれないのか。でも何となく、人間である僕が消えればこの二人もバランスを失って消滅する気がした。だがそんなことに怯える暇もなく、次の話が始まる。

 

『次にどうして君の体を奪えないのか。これは俺、もしくは白鋼が奪うには、君の心理状態が不安定でないといけないんだ。だがもう、そうなることはないだろうなと思ってる。それと、そうしようとした目的は君を助けるためだったんだ。』

 

つまり、前回見せられた夢は僕の心を乱すためだったと言うことか。

 

「助けようとしたなら何故こうなってる?」

 

助けると言うのであれば、わざわざこんなことしなくてもいいはず。

 

『あー、まあ、これは意図してないからね。人間に深海棲艦の艤装は合わない。それだけだよ。本当は俺の艤装だから俺が行けば問題ないはずだったんだけどね。でも、君は今後この艤装を使いこなせなくてはならない。これからはできる限り俺も支援はさせて貰うよ。とりあえず最初の目的の艤装展開までは行けたし。』

 

言われてみれば、僕が無理矢理体を奪い返したんだった。それにしても、支援してくれるのはありがたいが、何が出来るのだろうか。

 

『ちなみにあなたが航空機を飛ばせたのは、私が助力したからですよ。』

 

横からいきなり白鋼が話しかけてくる。なるほど。どうりで人間である僕の力だけでは無理なはずの事ができたわけだ。であれば、艤装を使うのも楽になるのではないだろうか。

 

『でもきみの母親は艦娘で、深海棲艦は祖母になるからな。どうしても深海棲艦の血は艦娘より薄いから、力の調整が難しいんだ。』

 

となると、どれだけ助力を得られるのだろうか。あんなに苦しいのはもううんざりだが。

 

『私は楽に支援ができるけどね。』

 

『ああ。だが俺には細かくサポートすることができない。もう少し俺の血が濃ければなぁ。』

 

艦娘の血が薄かったら、航空機を飛ばすことも、妖精さんと話すことも難しかったのだろうか。

 

「そもそも、何故僕は深海棲艦の力を使えなければいけないんだ?」

 

なぜそこまでして使えるようにならなければいけないのか。

 

『さて、それが本題だ。そして、君を助けるためにこの手段を選んだ理由でもある。・・・このままだとお前は艦娘に喰われて死ぬぞ。』

 

さっきまで軽かった空気が急に重くなる。にこやかに話していた表情も真剣な顔になり、声も少し低くなったような気がする。だが、黒鋼が言っていることが僕にはわからなかった。喰われるとはどういうことなのだろうか。

 

『前に強から艦娘と深海棲艦について聞いただろ?それには少し間違いと言うか、足りない部分があるんだ。』

 

 

 

 

 

深海棲艦には負の感情が多かった。そのせいで少し問題が起こっていたが、皮肉なことにこれは人間に近い形だったんだよ。そして深海棲艦が起こす問題を解決するために艦娘を作った。だが艦娘には1つ問題点があった。それは人間に溶け込めるように、人間のあらゆる事を吸収する能力。

 

例えば言葉。使う事が多い言葉や、逆に使われなくなった言葉。言い方とか略称だとか。言葉1つ取ってもそれが時代や場所によって使い方も何もかもが変わってくる。そういったものに対応するために用意された能力。

 

この能力について詳しくはわからないけど、これが昔を生きた艦娘と今を生きる人間が普通にやり取りできる理由だ。これがない深海棲艦は人からかけ離れた見た目だったり、そもそも言葉を話せなかったりで、人間とやり取りするのは難航したみたいだ。そして、これが子を産めない理由でもあるみたいなんだ。

 

艦娘から艦娘は男がいないから産まれない。艦娘から人間の子は産むことができるみたいだが、腹の中にできた子供の感情や心、その他にもあらゆる物を、人間に近づくために吸収してしまう。良いところを真似るだけだったら良いんだが、何故かはわからないが、腹の中の子から吸収したものはその子供から無くなってしまう。

 

それに完成している人間だから、少しでも吸収しようとした結果、手足や頭、臓器までが無くなった状態で生まれることもある。だからその子供は生きることができなくなる。

 

少し話はずれるけど、そもそも艦娘や深海棲艦よりも先に生まれた者が2人いる。そいつは軍艦達が皆で力を合わせて造り上げた、実在していない艦だ。一応建造計画はあったから、完全オリジナルなわけではないけどな。

 

艦名は特に決まってないけど、紀伊、尾張と名付けられてる。そして紀伊が俺、お前の祖母だ。一応、最初に生まれ、誰よりも丁寧に造られた。だから深海棲艦の総旗艦をしているよ。ちなみに超大和型を参考にしたから、君の見た主砲は46cm砲ですらなく、51cm三連装砲だ。

 

何故突然祖母の話をしたのか。艦娘と深海棲艦の力は正反対のものだから、相殺し合う。であれば、それだけの力を持つ祖母の血が混ざっている、君のお父さんと艦娘であれば、子を成せると思ったんだ。結果君が生まれた。まあそれでも血は薄くて、バランスを保つのが難しい。実際、そのお陰で情緒が少しおかしいしね。

 

 

 

 

 

『だから俺が協力して深海棲艦の力を使えるようになれば、深海棲艦としての力が強くなって、バランスが取れるようになるはず。』

 

そこで話は止まり、机にいつからあったのか、カップに入ったなにかを黒鋼は飲んだ。

 

僕の祖母の名前、今まで聞いたことがなかった。初めて聞いた。だがこの話は本当なのだろうか。聞いたこともない情報ばかりだ。

 

それに、なぜ僕なのだろう。深海棲艦の力なら父さんが、艦娘の力なら強が、それぞれ従えている。それなのにわざわざこんな面倒な事をしてまで産んで、僕に大仕事を任せようとするのは何故?

 

それと、もし本当に総旗艦がいるのなら、何故戦おうとする者と、反対派に別れているのだろうか。そこも少し引っ掛かる。

 

『で、俺がこの話をする前に言ったこと。喰われて死ぬって話。俺が侵食を抑えてはいるけど、正直あとどれくらい持つかわからない。記憶の部分もほとんど消えてる。それでも過去の事を思い出せるのは、白鋼のおかげだな。』

 

『私もあなたを喰らいたい(こんなことをしたい)わけではないのですが。止められない以上、できる限り貴方の記憶を保存しています。』

 

もしこれが本当なら、何らかの理由で艦娘の部分を失えば、同時に記憶も失ってしまう可能性があるかもしれない。

 

『艦娘は正の感情が多い。だから白鋼はそういった記憶も吸収していく、お前にとっては大切な記憶が消えていく。何度も悪夢を見るのは、お前の記憶にはもうほぼそういうのしか残っていないからだ。』

 

今までのフラッシュバックと呼んでいたものの原因はこれなのだろうか。だがここで一度思考を止める。何故なら、ここでの話が事実だという確証がない。ずっと話をそのまま鵜呑みにしようとしていたが。なんと言うか、都合が良すぎではないだろうか。

 

「こんな話を信じろっていうのか?」

 

『信じなくてもいい。俺は祖母の血で、深海棲艦だからな。難しいだろう。でも白鋼はお前の母の血だ。白鋼を信じないのであれば、母親を信じないってことになるぞ。』

 

その言い方はずるいと思う。だがそれなら仕方ない。ここは一度信じておくことにする。

 

『ここで話したことは総旗艦をしている2人しか知らないこととかで、知っている人はほぼいないだろう。ここだけの秘密だとは言わないが、話す相手は選んだ方が良いと思う。』

 

気付けばまた黒鋼はにこやかな表情に戻っていた。

 

「何故それを僕に言ったんだ?」

 

『まあ、俺はお前でもあるからだ。自分が知っててもおかしくないだろ?』

 

とりあえず、話は一旦これで終わりのようだ。

 

「最後に1つ聞きたい。沈んだ艦娘の記憶を引き継ぐ事って可能なのか?」

 

『出来ないことはないよ。艦娘も深海棲艦も海で沈めば、記憶を海に残すことができる。どちらも同じ海に記憶を残すから、お互いにお互いの生きていた時の記憶を持っていることもある。でも大量にある記憶の中から、特定のものを運良く拾えるかはまた別の話だな。』

 

総旗艦の知識でも確実に引き継ぐ方法はわからないか。

 

「結局、なぜ僕を助けるんだ?」

 

だがそれに対しての返答は無かった。いや、あったにはあったが、

 

そのうち分かる。

 

ただそれだけだった。

 

『そろそろ行ってこい。ああ、それと。大切な人は自分の側においておいた方がいいぞ。』

 

それを聞いた直後、全身がふわっと浮いたような感覚になり、体を動かすことも喋ることもできなくなった。そして視界が真っ白になっていき、気が付いた時にはまた現実に戻っているのだった。




大分遅くなりました。
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