闇を抱えた提督がブラック鎮守府に着任するお話 作:はやぶさ雷電
一度目覚めた後、再び眠ってしまった。
光夢が不知火に鎮守府を案内していた頃
「朝潮、建造は成功して不知火ができた。」
強元提督が私にそう声をかける。
「あまりにも予定が前倒しですね。」
しばらくは失敗が続くことを想定していた。それが最初から成功するとは。
「俺からは何も言わないから、どう伝えるかは任せる。」
そう言って立ち去っていく。不知火が建造された以上、ここの艦娘が全員生き延びたわけではないことは大体予想つくだろう。彼には今後のためにも、現状を把握してもらうためにも、遅くともばれたら事実を伝えると言う話で進めていた。
そしてばれたのならもうこれ以上隠さない。隠せばこの鎮守府を何も信じてもらえない。正しい戦力も把握できない。明かしたからと言って信頼を得られるとは思えないが、少なくとも私は彼にこれ以上嘘をつき続けたくない。
でも早すぎる。私はもっと光夢がこの鎮守府で落ち着けるようになってから明かすつもりでいた。
とにかく、ばれたのなら明かすのは早い内が良い。
そう考え、工廠の方へ進み出したが、途中で不知火を見つけた。光夢の居場所を聞こうと思い彼女の方を見ると、ちょうどあちらも用があったのか目が合った。
「朝潮さんですよね。初めまして、不知火です。」
そう言って彼女は敬礼する。その名前と敬礼姿に昔を少し思い出すが、溢れそうになる感情を抑える。
「初めまして、朝潮です。」
この不知火とは初めて会う。だから初めましてと言う。何もおかしいことはない。
「司令から、長年提督代理を務めていたと聞きました。困ったことがあれば、どちらかに頼るようにと。」
今後のために挨拶だけしに来たのだろうか。
「なんだか先程、司令の様子が少し変でした。心ここにあらずと言いますか。勿論、初対面ですから気のせいだったかもしれませんが、何かあったのではないかと心配になったので、報告だけしておこうかと。」
それを聞いて、私は思考が止まってしまった。不知火はそれだけ言うと、
「それではこれから、ご指導ご鞭撻、よろしくです。」
とだけ言ってもう一度敬礼し、立ち去ってしまった。だがそれより光夢の様子が気になる。やっぱりショックを受けているのだろうか。
尚更、早く話をしなければならない。そんな気がした。
不知火がもうここにいると言うことは・・・。
一度頭を振り、思考を再開させる。こういう状況では、やはり一人になりたくなるものだろう。そうなると、ここで彼が一人になれるのはあそこしかない。
早歩きで光夢の部屋へ向かう。気が付けばもう、日は暮れて真っ暗になっていた。ろうそくを持ってきてあげるべきだった。
月の光すら入らない屋内では、艦娘の夜目でもなかなか良く見えない。よく目を凝らして廊下を進む。幸い、散らばっていた瓦礫等は先に片付けられていたため、褄付く心配はあまりなかった。
そして目的地に着く。ノックをして声をかけるも返答はない。寝ているのかと思って少し隙間を覗く。割れた窓から月の光が入り、中がよく見えるが、人の姿はない。
予想が外れたかと思ったが、隣の執務室から物凄い勢いで誰かが走っていくのが聞こえた。すぐに音の方を見るが、暗くてよく見えなかった。この暗さでよく走れるものだと思う。だが今は走っていった誰かよりも光夢だ。
そのまま部屋の奥の割れた窓から外を眺める。さすがに飛び降りるようなことはしていなさそうだ。
しばらく眺めていると、埠頭に向かう光夢が見えた。何か背負っているようだが、そんなことはどうでも良い。私はそれを見てすぐに追いかける。
埠頭に来てみると一人の人影があった。光夢だ。だがここに来て、どういう顔で話しかければ良いか分からなくなった。とりあえず声をかければ自然と表情を作れると思い、地面を見ながら話しかけた。
「司令官。ここにいたのですね。強さんから、その・・・状況は聞きました。」
考えてみれば、何て声をかけるのかも考えていなかった。こういう時の表情もわからない。次の言葉と表情を考えるので頭がいっぱいで、周りの聞こえるはずの音も聞こえない。
結局言葉は出ず、返ってくることもない。そうして短いようで永遠と続くかと思うほど、長い間沈黙が続く。そして海からの風で頭が冷えてきた頃、光夢の様子がおかしいことに気づく。
「司令官?」
ゆっくりと顔を上げて彼の方を見る。彼の背からゆっくりとだが、艤装が徐々に展開されている。そしてそのまま頭を抱えて膝を付いた。すごく苦しそうに唸っていた。
艤装の展開は聞いていた計画では最終段階の予定だった。深海棲艦の力に呑まれないように、艦娘の力をもっと使いこなせるようになって、この鎮守府の艦娘達と争うことがないように、お互いを信頼できるようになって、他にも・・・。
そんなことを考えていると、後ろから探照灯が照らされる。振り返ると、私の艤装を持った明石と強が立っていた。
「これはどういう・・・。」
私の艤装を持つためか、強元提督に指示されてか、艤装を装備した明石は光夢の姿を見て言葉を失う。そんな明石を横目に、強が一発の砲弾を渡そうとしてくる。
「どういうつもりですか。」
私はすぐに明石から艤装を奪うようにして装着し、砲口を強に向ける。
「俺も予想外すぎてな。話に時間がかかりそうだから、先に光夢を眠らせる。」
そう言って一瞬光夢の方へ視線を向けた後、再び私に視線を向ける。
「これは光夢が深海棲艦の力を使って、暴走した時を想定して作られた試作品だ。中は爆薬ではなく衝撃波を起こす特殊な装置が埋め込まれてる。この衝撃波で彼の意識を刈り取る。効果範囲は起爆地点から直径約1メートル。つまり彼の頭の近くで起爆しなければならない。これ以上効果範囲を広げようと威力を上げれば彼は死ぬ。下げれば深海棲艦の力で無力化する。」
突然早口で説明され、無理矢理手に握らされる。
「それより良いものが作れないから、開発は中止された。大本営の奴らが悪用しようとしていたから、設計図も何もかも破棄してしまって、その試作品すら二度と作れない。正真正銘、最後の一発だ。」
喋る暇もなく話が進む。結局私は声を出せなかった。一瞬光夢を見る。気が付けば彼も声を発していなかった。だが艤装は動いていて、いつからか主砲がこちらを向いて、何度も引き金を引く音がしていた。
「何故私が・・・。」
色々言ってやりたいことはあった。でも光夢を見るたびに思考が止まってしまう。
「一発しかないんだ。確実に決められるのは、この鎮守府で君一人だろう?」
その後の事はあまりはっきりと覚えていなかった。手に持っていた砲弾を妖精さんに渡して再装填。その間に強は自分の身の安全のためにと、この場を離れた。そのまま砲口を今度は光夢へ。だがなかなか照準が定まらない。だんだん呼吸が荒くなり、心臓の音がうるさくなる。
大丈夫。落ち着け。彼を助けるために撃たなければならない。だから、撃つ?彼を?撃つのはいつだって相手を倒すためだった。違う。今回は違う。落ち着こう。助けるためだから。大丈夫だから。でもこの砲弾が殺さない保証はないでも私にはこれしか方法がわからないもう何が正しいのかわからないそれでも私がやる他の人には任せられない失敗したら死んでしまうかもしれないだから私がやるわたしのれんどはさいこうだからこのちんじゅふでゆいいつのいきのこりだからかくじつにせいこうさせるからしなないですむかもしれないから。大丈夫、落ち着け。大丈夫だから。大丈夫。大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫落ち着け大丈夫大丈夫大丈ブ大丈夫ダイ丈夫私なラデキる大丈夫大ジョウ夫大丈夫ダイジョウ夫ダイ丈ブ大丈夫ダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブ。
一度心ヲ落ち着カセる。いヤ、これは落ち着いタノダろうか。なんダか心が何かに染まっテイクヨうな感じがスる。まアそんナコトどウデモ良いか。もう一度、
そして放った砲弾は彼の艤装を跳弾し、
キイイイイイイイイイイイイイイイイ…
頭が割れそうな程うるさい耳鳴りに思わず頭を抱える。この威力なら少なくとも、駆逐艦程度にはダメージが出るだろう。いや、効果があるのは私が放ったからだろうか。
中々鳴り止まない耳鳴りが私の思考を鈍らせる。周りを見ると、倒れた光夢と、蹲っている明石が視界に入る。明石の様子を見て、自分の耳に触れてみる。耳から吹き出したのか、僅かに血が付く。
光夢に近づこうとするが、なんだか自分がふらふらしている。そして立っていられずに座り込んでしまった。なんだか頭がくらくらする。衝撃波のダメージが大きいのだろうか。損傷を確認するため、自分の手足を見る。気が付かなかったが、手足が震えている。
どうしてなのかわからないが、なんだかすごく恐怖を感じた。砲撃の直前を思い出そうとするも、いまいちはっきりと思い出せない。何か思い出そうとしていると、ふと言葉が浮かんだ。
約束・・・そうだ、私には大切な約束がある。朝潮が艦娘ではなく、軍艦だったときにした約束だ。朝潮が朝潮であると唯一証明できるもの。艦娘となってからも新しく約束は増えたのだが・・・これが何と関係があるのだろう?
考えれば考えるほど頭の中は混乱してくる。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなところで、外部から刺激される。
「朝潮、大丈夫?」
何かに掴まれ、ゆらゆら揺れる。そこでようやく我に返る。
「こんな威力だなんて聞いてないんだけど・・・。」
そう私に声をかけてくれているのは明石だった。何か答えようとするも、声がうまくでない。恐怖から来ているのか、ダメージでなのかわからない。明石に伝えるのは諦めて、光夢の元へ寄ろうとする。それを察したのか、明石もそれ以上は何も言わずに肩を貸してくれた。
光夢の隣まで来ると、明石から離れて隣に座り込む。そっと手を当てると、心臓はまだ動いている。呼吸もある。試作品はきちんと作動したようだ。
ほっとすると体の震えは止まっていた。だが今度は涙が止まらなかった。自分の今の感情がわからない。だが悩んでいる暇はなかった。鎮守府からいくつも探照灯の光が伸びだす。奇襲攻撃を疑ったのだろう。
「一先ず、工廠へ。」
なんとか声を絞りだし、すぐに彼を引っ張ろうとするも、艤装が展開されているせいでとにかく重い。すぐに明石も手伝ってくれるが、それでも引きずるのがやっとだ。
艤装は展開されると一気に重くなる。海上では実際の艦だった時の重さに、陸上では何故かそこまでではないものの、かなりの重さを有する。艦娘であれば艤装を外せるのだが、彼のは外せそうにない。
彼の艤装を見るに、戦艦のようなもの。大和型と同等、もしくはそれ以上。まだここが陸上だからなんとかなるが、海上だったらおそらくびくともしないだろう。
工廠まで運び、埠頭の様子を伺う。
「元帥?今凄い音が聞こえたが?」
強が知らないうちに戻っているようだ。そしてこの声は長門だ。相変わらず反応が早い。このお陰で助けられたことは多い。
「ちょっと実験しててな。暴発しちまった。」
強にここは任せて問題ないだろう。とりあえず、光夢をもう少し工廠の奥へ移動させる。奥には整備用の機材がいくつもある。それでなんとかできれば良いけど。
とりあえず、光夢の艤装を剥がせないか見るためにも、機材に艤装を固定して持ち上げる。大和型まではギリギリ持ち上がるが、それ以上だった場合はわからない。とりあえず艤装が床から少しだけ浮く程度で止めておくことにする。
それにしてもいざよく見てみると、艤装のほとんどが欠損している。主砲は一基しかなく、他の部分もほとんど構築されていない。艤装の展開は止まっているようだが・・・。
「深海棲艦にはならずに済んだようだな。」
知らないうちに強が入ってきていた。
「どういう事?」
その言葉が誰に向けたものなのか、それによって話は変わってくる。だが彼は答えなかった。
「おそらく、前回放った砲撃が最後の弾薬だったんだろうね。燃料も埠頭についたところで空になったようだし。鋼材も足りてないから艤装が中途半端だ。起きたら少し食べさせると良い。たぶん今飢餓状態だから。」
毎回一方的な話で困る。少しは私の話を聞いて欲しい。
「深海棲艦にならずに済んだって何?」
明石がもう一度聞いてくれる。
「・・・艦娘と深海棲艦は紙一重。負の感情を相当積もらせる、もしくは艦娘の行動理念に反すると、深海棲艦になることもある・・・かもしれないね。」
私も明石も思わず呆然としてしまう。彼が何の話をしているのか分からなかったからだ。
「俺はもう行くよ。やることがあるからね。」
「逃げるのね。」
ため息と共にこぼした一言に、強が一瞬止まる。
「・・・ごめん。俺の息子・・・いや、孫の事は朝潮に託す。」
色々言いたそうな表情でそれだけ言うと、そのまま出ていってしまった。